(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プランジャは、軸方向の前記加圧室側に前記シリンダの内壁に沿って摺動する大径部(411)を有し、軸方向の前記加圧室と反対側に小径部(413)を有しており、
前記副燃料室は、前記プランジャの往復移動によって容積が変化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の高圧ポンプの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。実施形態同士で実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
ここで、第2又は第3実施形態の特徴を含む実施形態が特許請求の範囲に記載の発明を実施するための形態に相当する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態の高圧ポンプについて、
図1〜
図6を参照して説明する。
まず、本実施形態による高圧ポンプ1の全体構成について、主に
図1〜
図3を参照して説明する。高圧ポンプ1は、車両に搭載されて用いられ、燃料タンクから低圧ポンプによって供給された燃料を加圧し、インジェクタが接続される燃料レールへ吐出する。高圧ポンプ1の燃料入口55(
図2参照)の上流側には低圧ポンプからの配管が接続される。
【0014】
以下の説明では便宜上、
図1、
図3の上側を「上」、下側を「下」として説明する。
図1〜
図3に示すように、高圧ポンプ1は、ポンプボディ10、シリンダ20、プランジャ部40、吸入弁部60、電磁駆動部70、吐出弁部80等を備えている。以下、各部の構成について順に説明する。
【0015】
[ポンプボディ10及びシリンダ20]
ポンプボディ10は、高圧ポンプ1の外郭を構成する。また、ポンプボディ10の下部であるプランジャ部40は、図示しないエンジンの取付穴に挿入される。カムシャフトの動力がタペットを介してプランジャ41に伝達されることで高圧ポンプ1は駆動される。
以下、ポンプボディ10のプランジャ部40側の端面を駆動側端面101という。
【0016】
ポンプボディ10は、中心軸O(
図2参照)に沿って貫通するシリンダ挿入穴11、並びに、シリンダ挿入穴11に直交する吸入弁ホルダ取付穴16及び吐出弁ホルダ取付穴18が形成されている。シリンダ挿入穴11にはシリンダ20が挿入される。吸入弁ホルダ取付穴16及び吐出弁ホルダ取付穴18には、それぞれ、後述する吸入弁ホルダ61及び吐出弁ホルダ81が取り付けられる。
図2に示すように、吸入弁ホルダ取付穴16及び吐出弁ホルダ取付穴18は、中心軸Oに対してほぼ反対側に配置されている。
【0017】
本実施形態では、吐出弁ホルダ取付穴18に対して上下方向に交差するように連絡通路14が形成されている。連絡通路14は、ポンプボディ10を軸方向に縦断し、上部で主燃料室12の底に開口し、下部で駆動側端面101に開口している。
また、
図2に示すように、吸入弁ホルダ取付穴16及び吐出弁ホルダ取付穴18とは別の方向に、インレットプラグ穴17、排出通路15及び排出プラグ穴19が形成されている。インレットプラグ穴17には、インレットプラグ53がユニオン54を固定しつつ螺合する。これにより、燃料入口55からユニオン54及びインレットプラグ53内を通りインレットプラグ穴17に連通する燃料供給経路が形成される。
【0018】
排出通路15は、排出プラグ穴19に連通し径方向(
図3の左右方向)に延びる通路と、駆動側端面101に開口し軸方向に延びる通路とがL字状に交差している。排出プラグ穴19には、排出プラグ56がユニオン57を固定しつつ螺合する。これにより、排出通路15から排出プラグ56及びユニオン57内を通り排出口58に連通する燃料排出経路が形成される。排出口58から排出された高温燃料は、例えば外部の燃料クーラで冷却された後、燃料タンク等に戻される。
【0019】
ポンプボディ10の上部に形成される筒壁104には、有底筒状のカバー51が締結固定され、筒壁104とカバー51との内側に主燃料室12が形成される。筒壁104の上端面とカバー51との間には、燃料をシールするOリング52が設けられている。主燃料室12は、インレットプラグ穴17に連通しており、後述する加圧室22より燃料の流れの上流において燃料入口55から燃料が供給される。
【0020】
主燃料室12には、2枚のダイアフラムの外縁が接合されたパルセーションダンパ50が設けられている。パルセーションダンパ50は、内側の密閉空間に所定圧の気体が密封されており、燃圧の変化に応じて、2枚のダイアフラムが板厚方向に弾性変形することで、主燃料室12の燃圧脈動を低減する。
【0021】
シリンダ20は、例えば熱処理されたマルテンサイト系のステンレス等で筒状に形成され、ポンプボディ10のシリンダ挿入穴11に圧入や焼き嵌めによって挿入され、固定されている。シリンダ20の主燃料室12側の端部は、内壁に形成された雌ねじにプラグ29が螺合することにより液密に閉塞されている。シリンダ20の下端部26は、駆動側端面101よりも下側、すなわち主燃料室12と反対側に突出している。
【0022】
シリンダ20にはプランジャ41が摺動可能に収容される。そして、プラグ29の下端面291とプランジャ41の加圧端412との間に、燃料が加圧される加圧室22が形成される。また、シリンダ20は、ポンプボディ10の吸入弁ホルダ取付穴16及び吐出弁ホルダ取付穴18に対応する位置に、それぞれ加圧室22に連通する吸入連通孔23及び吐出連通孔24を有している。
【0023】
[プランジャ部40]
プランジャ部40は、プランジャ41、燃料シール部材44、アッパーシート45、オイルシール46、ロアシート47、プランジャスプリング48等から構成されている。
本実施形態のプランジャ41は、軸方向の加圧室22側に、シリンダ20の内壁に沿って摺動する大径部411を有し、加圧室22と反対側に小径部413を有する「段付き形状」を呈している。大径部411及び小径部413は同軸に形成されている。大径部411の端部である加圧端412は、加圧室22に面する。小径部413の端部である駆動端414にはロアシート47が結合されている。
【0024】
燃料シール部材44は、小径部413の周囲を囲んで装着されている。燃料シール部材44は、小径部413の外周面に摺動可能に接触する内周側のテフロン(登録商標)リングと外周側のOリングとからなり、小径部413の周囲の燃料油膜の厚さを規制し、プランジャ41の摺動によるエンジンへの燃料のリークを抑制する。この燃料シール部材44を良好に機能させるため、周囲の燃料温度を所定温度以下に冷却することが望ましい。
【0025】
アッパーシート45の上部の構成について、
図4、
図5を参照する。アッパーシート45は、上部に、ポンプボディ10の駆動側端面101と対向する鍔部451、及び、鍔部451の外縁から軸方向上側に延びる外筒部453を有しており、外筒部453がポンプボディ10の外壁102に例えば溶接されることでポンプボディ10に固定されている。ポンプボディ10の駆動側端面101と鍔部451の底面452との間には、後述する逆止弁部材301が狭持されている。
また、
図1、
図3に示すように、アッパーシート45の鍔部451の下面は、プランジャスプリング48の上端を支持している。なお、
図4、
図5、及び以下の相当する図において、プランジャスプリング48の図示を省略する。
【0026】
アッパーシート45の中部には、鍔部451の内縁から軸方向下側に延びる中筒部454が設けられている。中筒部454の内壁とシリンダ20の下端部26との間の空間は、副燃料室13を形成する。つまり、アッパーシート45は、副燃料室13のシリンダ20と反対側の境界を区画する。副燃料室13は、加圧室22からシリンダ20とプランジャ41との摺動隙間を経由してリークした燃料が溜まる。
また、本実施形態の副燃料室13は、プランジャ41の往復移動に伴い、大径部411と小径部413との断面積差にプランジャ41の移動距離を乗じた容積が変化する。
【0027】
また、アッパーシート45の中筒部454の下部には、小径部413の周囲に燃料シール部材44が収容されている。さらに、アッパーシート45の下端部には、小径部413の周囲を囲んでオイルシール46が装着されている。オイルシール46は、小径部413の外周面に摺動可能に接触しており、小径部413の周囲のオイル油膜の厚さを規制し、プランジャ41の摺動によるオイルのリークを抑制する。
【0028】
このように、本実施形態のアッパーシート45は、逆止弁部材301を狭持する機能、プランジャスプリング48の上端を支持する機能、副燃料室13の境界を区画する機能、燃料シール部材44及びオイルシール46を保持する機能等を兼ね備えた多機能部材である。その中で、逆止弁部材301を狭持する機能の点から、本実施形態のアッパーシート45は、特許請求の範囲に記載の「底カバー部材」に相当する。
【0029】
続いて、プランジャ41の駆動端414に結合されたロアシート47は、プランジャスプリング48の下端を支持する。アッパーシート45とロアシート47とに両端部を係止されたプランジャスプリング48は、プランジャ41の戻しバネとして機能し、プランジャ41を図示しないタペットに付勢する。
【0030】
プランジャ41は、プランジャスプリング48の戻しバネ機能によりタペットを介してカムシャフトのカムに当接することで、カムシャフトのプロファイルに沿ってシリンダ20内を軸方向に往復移動する。このプランジャ41の往復移動により、加圧室22の容積が変化し、燃料が吸入され加圧される。
【0031】
[吸入弁部60]
吸入弁部60は、吸入弁ホルダ61、弁座部材62、及び吸入弁63等を有する。
吸入弁ホルダ61は、筒状に形成され、ポンプボディ10の吸入弁ホルダ取付穴16に固定されている。
吸入弁ホルダ61の加圧室22側に弁座部材62が設けられている。弁座部材62は、主燃料室12から燃料通路121を通って供給された燃料を加圧室22に流す吸入通路64と、吸入通路64の加圧室22側の開口部に形成される弁座65を有する。また、弁座部材62は、吸入弁63の軸部632を往復移動可能に収容する孔を有する。弁座部材62と吸入弁ホルダ取付穴16の底内壁との間には、シール部材66が設けられている。
【0032】
吸入弁63は、傘部631と軸部632とフランジ部633を有している。傘部631は、弁座部材62の弁座65に着座可能である。軸部632は、弁座部材62の孔に往復移動可能に収容されている。フランジ部633は、軸部632に対し傘部631と反対側に設けられる。吸入弁スプリング67は、フランジ部633と弁座部材62との間に設けられ、吸入弁63を弁座65側へ付勢する。
【0033】
[電磁駆動部70]
電磁駆動部70は、フランジ71、固定コア72、可動コア73、ロッド74、コイル75及びロッドスプリング76等を有する。
フランジ71は、吸入弁ホルダ61の外壁に固定される。可動コア73は、吸入弁ホルダ61の内側に往復移動可能に設けられる。可動コア73に固定されたロッド74は、吸入弁63を加圧室22側に押圧可能である。ロッドスプリング76は、可動コア73及びロッド74を加圧室22側に付勢する。ガイド部材77は、吸入弁ホルダ61の内側に固定され、ロッド74を軸方向に往復移動可能に支持する。
【0034】
固定コア72は、可動コア73の加圧室22と反対側でコイル75の径方向内側に設けられる。コネクタ78の端子781を通じてコイル75に通電されると、可動コア73、固定コア72、ヨーク79、フランジ71等によって構成された磁気回路に磁束が流れ、可動コア73及びロッド74は、ロッドスプリング76の付勢力に抗して固定コア72側に磁気吸引される。
一方、コイル75への通電が停止すると、上述した磁気回路に流れる磁束が消滅し、可動コア73及びロッド74は、ロッドスプリング76の付勢力によって加圧室22側に付勢される。
【0035】
[吐出弁部80]
吐出弁部80は、吐出弁ホルダ81、吐出弁82、弁座83、吐出弁スプリング84等を有する。
吐出弁ホルダ81は、内部に吐出通路85を有し、吐出弁ホルダ取付穴18に固定されている。吐出弁ホルダ81と吐出弁ホルダ取付穴18の底内壁との間にはシール部材87が設けられている。吐出弁ホルダ81の内側にスプリング受部材86が設けられる。
吐出弁82は、ボール弁であり、シリンダ20の吐出連通孔24の内壁にテーパ状に形成された弁座83に着座可能である。吐出弁スプリング84は、吐出弁82側からスプリング受部材86側に向かって拡径するテーパ状に形成され、吐出弁82を弁座83に向けて付勢する。
【0036】
次に、本発明の特徴的構成である逆止弁部材301の構成について、
図4〜
図6を参照して説明する。
図4、
図5に示すように、逆止弁部材301は、ポンプボディ10の駆動側端面101とアッパーシート45の鍔部451の底面452との間に挟持されている。
【0037】
図6に示すように、逆止弁部材301は、例えば鋼板をプレス成形して製作された第1板311及び第2板321が重ね合わされて構成されている。第1板311及び第2板321は、いずれも、シリンダ20の下端部26が挿通する中央穴34を有する環状を呈している。また、第1板311は板厚が相対的に薄く、第2板321は板厚が相対的に厚く形成されている。
【0038】
第1板311は、径内側を根元部、径外側を先端部とし、板厚方向に作動可能なリード弁部35が形成されている。
第2板321は、中央穴34から径方向に切り欠かれた連通路37、382を有している。第2板321が第1板311に重ね合わされたとき、連通路37の内側にリード弁部35の全体が含まれる。すなわち、連通路37は、リード弁部35の作動に干渉しないように、リード弁部35よりも一回り大きく形成されている。
【0039】
第1板311及び第2板321は、ポンプボディ10の駆動側端面101とアッパーシート45の底面452との間に挟持され、回転方向の位置が規制される。このとき、本実施形態では、第1板311がアッパーシート45側(
図4、
図5の下側)に配置され、第2板321がポンプボディ10側(同図上側)に配置される。また、第1板311のリード弁部35は、連絡通路14の開口141に対向し、駆動側端面101側に作動したとき開口141を閉塞可能な位置に配置される。これに応じて、第2板321の連通路37は、連絡通路14の方向に配置される。
【0040】
ところで、逆止弁部材301が設置される箇所はエンジン取付穴の内側であるため、この部分に溜まる燃料の量が多いと、エンジン側から伝わる熱によって燃料温度が上昇し、ベーパを発生する可能性が高くなる。そこで、燃料が溜まる部分の容積をなるべく小さくするよう、連通路37、382の大きさを必要最小限に設定することが好ましい。
【0041】
図4に示すように、副燃料室13の圧力から連絡通路14の圧力を差し引いた圧力差が所定圧以上のとき、リード弁部35は、駆動側端面101側に押し付けられ、連絡通路14の開口141を閉塞した閉弁状態となっている。これにより、副燃料室13の高温燃料が連絡通路14を経由して主燃料室12に流入することが規制される。よって、主燃料室12でのベーパロックの発生を防止することができる。
【0042】
一方、
図5に示すように、副燃料室13の圧力から連絡通路14の圧力を差し引いた圧力差が所定圧を下回ったとき、リード弁部35はアッパーシート45側に撓み開弁状態となる。このときのリード弁部35の最大リフト量Lは、第2板321の板厚に相当する。すなわち、第2板321は、その板厚に応じてリード弁部35の最大リフト量Lを規定する。
リード弁部35が開弁すると、連絡通路14の燃料Fは、破線矢印で示すように連通路37に流れ込み、連通路37を経由して副燃料室13に流入する。低温の燃料が流入することで、副燃料室13の燃料が冷却される。
【0043】
また本実施形態では、連絡通路14と排出通路15とは中心軸Oを中心としてV字方向に配置されている(
図2参照)ことに対応し、第2板321の連通路382は、排出通路15の方向に配置される。したがって、副燃料室13内の燃料は、連通路382を経由して排出通路15に排出される。
【0044】
次に、高圧ポンプ1の作動について説明する。高圧ポンプ1は、プランジャ41の往復移動に伴って、以下のとおり吸入行程、調量行程、吐出行程を繰り返し、エンジンに必要な量の燃料を加圧して吐出する。この過程で、加圧室22からシリンダ20とプランジャ41との摺動隙間を経由してリークした燃料は、滅圧による発熱によって高温となり副燃料室13に溜まる。また、副燃料室13の燃料は、エンジンから伝わる熱によって温度が上昇する。
【0045】
本実施形態は、このような副燃料室13の高温燃料が連絡通路14を経由して主燃料室12に流入し、ベーパロックを発生させることを防止する点を特徴としている。そこで、以下では、高圧ポンプ1の基本的作動とともに、特に各行程での副燃料室13の高温燃料の挙動に注目して説明する。本実施形態は、上述のとおり、プランジャ41が大径部411及び小径部413からなる段付き形状の構成であることを前提とする。
【0046】
(1)吸入行程
カムシャフトの回転により、プランジャ41が上死点から下死点に向かって下降すると加圧室22の容積が増加し、加圧室22内の燃料が減圧される。吐出弁82は弁座83に着座し、吐出通路85を閉塞する。吸入弁部60では、加圧室22と吸入通路64との差圧及びロッドスプリング76の付勢力により、吸入弁63が吸入弁スプリング67の付勢力に抗して加圧室22側へ移動し、開弁状態となる。吸入弁63の開弁により、主燃料室12の燃料は、吸入通路64を経由して加圧室22に流入する。
【0047】
吸入行程では、プランジャ41の下降により副燃料室13の容積が減少し、圧力が増加する。一方、主燃料室12は、燃料通路121及び吸入通路64を経由して燃料が加圧室22に吸入されるため減圧される。したがって、副燃料室13の圧力から連絡通路14の圧力を差し引いた圧力差が大きくなり、逆止弁部材301のリード弁部35が閉弁する。
そのため、副燃料室13の高温燃料は、連絡通路14に流入せず、逆止弁部材301の連通路382を経由して排出通路15から外部へ排出される。
【0048】
(2)調量行程
カムシャフトの回転により、プランジャ41が下死点から上死点に向かって上昇すると加圧室22の容積が減少する。このとき、所定の時期まではコイル75への通電が停止されているので、ロッド74はロッドスプリング76の付勢力により吸入弁63を加圧室22側へ押圧する。そのため、吸入弁63は開弁状態を維持する。このため、加圧室22に一度吸入された低圧燃料が主燃料室12へ戻される。したがって、加圧室22の圧力は上昇しない。
【0049】
調量行程では、プランジャ41の上昇により副燃料室13の容積が増大し、圧力が減少する。一方、主燃料室12は、加圧室22の燃料が戻されるため圧力が増加する。したがって、副燃料室13の圧力から連絡通路14の圧力を差し引いた圧力差が小さくなり、逆止弁部材301のリード弁部35が開弁する。そのため、主燃料室12の低温燃料が連通路37を経由して副燃料室13に流入し、副燃料室13の燃料温度を低下させる。
【0050】
(3)吐出行程
プランジャ41が下死点から上死点に向かって上昇する途中の所定の時刻にコイル75へ通電されると、コイル75に発生する磁界により、固定コア72と可動コア73との間に磁気吸引力が発生する。この磁気吸引力が吸入弁スプリング67の付勢力とロッドスプリング76の付勢力との差よりも大きくなると、可動コア73は固定コア側へ移動する。これにより、吸入弁63に対するロッド74の押圧力が解除される。
すると、吸入弁63は、吸入弁スプリング67の付勢力、及び加圧室22から吸入通路側へ排出される低圧燃料の動圧により、ロッド74の動作に追従して閉弁方向へ移動し、弁座65に着座する。これにより、加圧室22と吸入通路64とが遮断される。
【0051】
吸入弁63が閉弁した後、加圧室22の燃料圧力は、プランジャ41の上昇と共に高くなり、吐出弁82が開弁する。これにより、加圧室22で加圧された高圧燃料は燃料出口88から吐出する。なお、吐出行程の途中でコイル75への通電が停止される。加圧室22の燃料圧力が吸入弁63に作用する力はロッドスプリング76の付勢力よりも大きいので、吸入弁63は閉弁状態を維持する。
また、プランジャ41の上昇中、逆止弁部材301のリード弁部35は開弁状態を維持する。
【0052】
以上のように、プランジャ41の上昇及び下降サイクルと同期して、副燃料室13の圧力が連絡通路14の圧力に対して相対的に変化し、逆止弁部材301のリード弁部35が開閉作動する。リード弁部35の開弁時には、主燃料室12の燃料が連絡通路14を経由して副燃料室13に流入し、リード弁部35の閉弁時には、副燃料室13の燃料が排出通路15へ排出される。その結果、一方向の燃料の流れが形成される。つまり、高圧ポンプ1において、加圧室22での主たるポンプ作用とは別の、副燃料室13における副次的なポンプ作用が発生する。
【0053】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、リーク燃料の減圧による発熱やエンジン側から伝わる熱によって温度上昇した副燃料室13の高温燃料を、逆止弁部材301の作用によって、主燃料室12に流入させることなく排出通路15から高圧ポンプ1の外部へ排出する。したがって、主燃料室12でベーパロックが発生することを防止することができる。
【0054】
(2)本実施形態では、プランジャ41が段付き形状の構成であるため、プランジャ41の往復移動により、燃料を主燃料室12から副燃料室13を経由して排出通路15へ送出するポンプ作用が行われる。したがって、主燃料室12の低温燃料を積極的に副燃料室13に流入させ、副燃料室13の燃料を冷却することができる。これにより、燃料シール部材24等を良好に機能させることができる。
【0055】
(3)本実施形態の逆止弁は、逆止弁部材301のリード弁部35によって構成されているため、高さ方向のスペースを最小とすることができる。また、ポンプボディ10の駆動側端面101とアッパーシート45の底面452との間に狭持されるため、逆止弁部材を取り付けるための専用部材が不要である。
【0056】
(4)本実施形態の逆止弁部材301は、プレス成形で製作された2枚の板、すなわちリード弁部35が形成された第1板311、及び、リード弁部35に対応する位置が切り欠かれた第2板321を重ね合わせて構成されている。そのため、リード弁部35の最大リフト量を第2板321の板厚によって簡単に調整することができる。また、プレス成形により、部品の製造コストを低減することができる。
【0057】
以下、逆止弁部材の形態に関する本発明の他の実施形態について、順に説明する。第2〜第7実施形態の逆止弁部材は、いずれもプレス成形で製作されることを想定している。また、基本的に第1実施形態の逆止弁部材301と同様の作用効果を有するものである。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態の高圧ポンプ2、及び逆止弁部材302を
図7、
図8に示す。
図8に示すように、逆止弁部材302は、第1実施形態の逆止弁部材301に対し、第1板312の構成が異なり、第2板321は実質的に同一である。第1板312には、リード弁部35に対してV字方向に切欠部381が形成されている。切欠部381の内側には、板を略直角に折り曲げることにより、板面から突出する位置決め突起361が形成されている。
【0058】
図7に示すように、位置決め突起361は、排出通路15の開口151に挿入される。円形の開口151に対して位置決め突起361の周囲に隙間が残るため、この隙間によって、排出通路15に排出される燃料の流路が確保される。すなわち、本実施形態では、排出通路15の開口151が特許請求の範囲に記載の「受容凹部」に相当する。
これにより、ポンプボディ10に対する第1板312の回転方向の位置が位置決めされる。したがって、リード弁部35が連絡通路14の開口141からずれることを防止することができる。
【0059】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態の高圧ポンプ3、及び逆止弁部材303を
図9、
図10に示す。
図10に示すように、逆止弁部材303は、第2実施形態の逆止弁部材302に対し、第1板312は実質的に同一であり、第2板323の構成が異なる。第2板323には、連通路382の内側に、第1板312と同様、板を略直角に折れ曲げることにより、板面から突出する位置決め突起362が形成されている。位置決め突起362は、位置決め突起361に近接した位置に設けられる。
図9に示すように、2つの位置決め突起361、362は、いずれも排出通路15の開口151に燃料の流路を確保しつつ挿入されている。
【0060】
これにより、逆止弁部材303では、ポンプボディ10に対する第1板312及び第2板323の回転方向の位置が位置決めされる。したがって、リード弁部35が連絡通路14の開口141からずれることを防止することができ、さらに、リード弁部35と連通路37とがずれることを防止することができる。
【0061】
(第4、第5実施形態)
図11に示す第4実施形態の逆止弁部材304は、上記第1〜第3実施形態の逆止弁部材301、302、303とは逆に、リード弁部354を有する第1板314がポンプボディ10側に配置され、第2板324がアッパーシート45側に配置されている。
リード弁部354は、第1板314の本体と同一面上にあるとき、開口141を閉塞する。また、リード弁部354は、副燃料室13と連絡通路14との圧力差によってアッパーシート45側に撓んだとき、
図11に示す開弁状態となる。このときのリード弁部354の最大リフト量Lは、第2板324の板厚に相当する。
【0062】
図12に示す第5実施形態の逆止弁部材305は、第4実施形態と同様、第1板315がポンプボディ10に配置され、第4実施形態と実質的に同一の第2板324がアッパーシート45側に配置されている。第1板315に形成されたリード弁部355は、第4実施形態のリード弁部354に比べ根元側から先端側までほぼ真っ直ぐに突っ張った形状のまま開弁する。このように、開弁時のリード弁部の撓み具合は、材質や表面処理によって適宜調整してよい。
【0063】
(第6実施形態)
図13に閉弁状態、
図14に開弁状態を示すように、第6実施形態の逆止弁部材306は、ポンプボディ10側に設けられる第1板316、アッパーシート45側に設けられる第2板326、及び、第1板316と第2板326との間に設けられるサポート板336の3枚から構成されている。サポート板336は、第1板316より板厚が厚く、リード弁部35に対応する位置に規制部39が形成されている。規制部39は、リード弁部35の開弁時の限界位置を規制する。
これにより、リード弁部35の変形を防止し、開弁時の流路面積を安定して確保することができる。
【0064】
(第7実施形態)
図15に示すように、第7実施形態の逆止弁部材307は、第1実施形態の逆止弁部材301(
図6参照)に対し、リード弁部4が周方向に延びるように形成されている。連絡通路逃がし溝部377は、中央穴34から径方向(
図15の上方向)に延びてから、周方向に向きを変え、リード弁部357に沿って形成されている。
これにより、リード弁部357の長さを長くすることができるため、開弁時のリフト量を確保するのに有利となる。
【0065】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態では、逆止弁部材302、303の位置決め突起361、362が挿入される受容凹部を排出通路15の開口151が兼ねている。他の実施形態では、ポンプボディ10の駆動側端面101に開口する受容凹部を、排出通路15とは別に形成してもよい。
(イ)逆止弁部材は、上記実施形態のようにプレス成形に限らず、切削加工等の方法によって製作されてもよい。また、位置決め突起は、板を折り曲げる方法に限らず、ピン、パイプ等の部材を板に圧入や溶接することによって形成してもよい。
【0066】
(ウ)ポンプボディ10の駆動側端面101との間に逆止弁部材を狭持する「底カバー部材」は、上記実施形態のようにアッパーシート45の鍔部451が構成する形態に限らず、他の専用部材によって構成してもよい。
(エ)プランジャは、
図1、
図3等に図示するように、大径部411及び小径部413を有する段付き形状に限らず、外径一定の「段の無い」形状としてもよい。
【0067】
(オ)上記実施形態の高圧ポンプ1等では、連絡通路14と排出通路15とは中心軸Oを中心としてV字方向に配置されている。これに対し、他の実施形態では、連絡通路14と排出通路15との配置は適宜設定してよい。また、連絡通路14は吐出弁ホルダ取付穴18と交差せず、独立して形成されてもよい。この連絡通路14と排出通路15との配置に対応し、逆止弁部材のリード弁部35と排出通路15側の連通路382との配置を適宜設定してよい。
【0068】
(カ)プランジャが往復可能に収容されるシリンダは、別体のシリンダ20をポンプボディ10に挿入する形態に限らず、ポンプボディに直接形成されてもよい。
(キ)逆止弁部材に関する構成以外の高圧ポンプ各部の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、主燃料室12にパルセーションダンパ50が設けられなくてもよい。吸入弁63は、上記実施形態のようにノーマリーオープン式でなくノーマリークローズ式であってもよい。
【0069】
以上、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施することができる。