特許第6040941号(P6040941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040941
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】車両用自動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/66 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   F16H3/66 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-545702(P2013-545702)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(86)【国際出願番号】JP2011076956
(87)【国際公開番号】WO2013076827
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2014年5月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】大板 慎司
(72)【発明者】
【氏名】森瀬 勝
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−526975(JP,A)
【文献】 実開平5−10847(JP,U)
【文献】 特開2011−226527(JP,A)
【文献】 特開2006−207699(JP,A)
【文献】 特表平1−501725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を備え、油圧回路から供給される油圧に応じた前記複数の係合要素の係合乃至解放の組み合わせに基づいて複数の変速段を選択的に成立させる多段型の車両用自動変速機であって、
前記各変速段は、前記複数の係合要素のうち2つ以上の係合要素の係合によりそれぞれ成立させられるものであり、
前記複数の係合要素のうち、2つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に係合させられる常閉型の噛合ブレーキであり、
前記自動変速機の前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記常閉型の噛合ブレーキであり、
前記常閉型の2つの噛合ブレーキの係合によりそれぞれ非回転部材に固定される回転要素は、前記自動変速機の出力回転部材と直接乃至間接に連結され
ことを特徴とする車両用自動変速機。
【請求項2】
前記自動変速機において、後進変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記常閉型の噛合ブレーキである請求項1に記載の車両用自動変速機。
【請求項3】
前記自動変速機において、前記第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素である請求項1に記載の車両用自動変速機。
【請求項4】
前記自動変速機において、後進変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素である請求項2記載の車両用自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用自動変速機に関し、特に、装置の構成を簡単なものとするための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を備え、油圧回路から供給される油圧に応じた前記複数の係合要素の係合乃至解放の組み合わせに基づいて複数の変速段を選択的に成立させる多段型の車両用自動変速機が知られている。斯かる自動変速機において、前記係合要素としては湿式摩擦材を備えたクラッチ乃至ブレーキが広く用いられてきたが、これらの摩擦材は係合されていない場合における引き摺りの発生による損失が問題とされてきた。更に、前記油圧式係合要素を備えた自動変速機では、発進、停車、エコラン時に多くの油圧を使うことがオイルポンプの大型化を招いたり、電動オイルポンプを設けることを必要とする等、構成上の制約となっていた。そこで、湿式摩擦材の代替として、噛合式係合要素すなわち所謂ドグクラッチ(噛合クラッチ)を用いた自動変速機が提案されている。例えば、特許文献1に記載された自動変速機がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/139558号公報
【特許文献2】国際公開第2010/139556号公報
【特許文献3】特開2011−069396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来の技術では、湿式摩擦材をドグクラッチに代替することで引き摺りの発生は抑制できるものの、発進、停車、エコラン時に多くの油圧を使う不具合を解消することができず、構成上の制約は依然として残されるものであった。本発明者等は、車両用自動変速機の性能向上を図るべく鋭意研究を継続してきたが、その一成果として本発明を為すに至った。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、装置の構成を簡単なものとする車両用自動変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するために、本第1発明の要旨とするところは、油圧により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を備え、油圧回路から供給される油圧に応じた前記複数の係合要素の係合乃至解放の組み合わせに基づいて複数の変速段を選択的に成立させる多段型の車両用自動変速機であって、前記各変速段は、前記複数の係合要素のうち2つ以上の係合要素の係合によりそれぞれ成立させられるものであり、前記複数の係合要素のうち、2つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に係合させられる常閉型の噛合ブレーキであり、前記自動変速機の前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記常閉型の噛合ブレーキであり、前記常閉型の2つの噛合ブレーキの係合によりそれぞれ非回転部材に固定される回転要素は、前記自動変速機の出力回転部材と直接乃至間接に連結されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
このように、前記第1発明によれば、油圧により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を備え、油圧回路から供給される油圧に応じた前記複数の係合要素の係合乃至解放の組み合わせに基づいて複数の変速段を選択的に成立させる多段型の車両用自動変速機において、前記各変速段は、前記複数の係合要素のうち2つ以上の係合要素の係合によりそれぞれ成立させられるものであり、前記複数の係合要素のうち、2つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に係合させられる常閉型の噛合ブレーキであることから、油圧回路の構成上の制約が小さくなりオイルポンプを小型化できることに加え、前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に係合させられる常閉型の噛合ブレーキ2つ備えることで、引き摺りの発生を好適に抑制することができる。すなわち、装置の構成を簡単なものとする車両用自動変速機を提供することができる。また、前記自動変速機の前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記常閉型の噛合ブレーキであるので、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機を提供することができる。更に、内燃機関始動時のガレージショックが低減できる。また、前記常閉型の2つの噛合ブレーキの係合によりそれぞれ非回転部材に固定される回転要素は、前記自動変速機の出力回転部材と直接乃至間接に連結されたものである。このようにすれば、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機を提供することができることに加え、前記油圧回路からの油圧が供給されない状態において、出力回転部材が非回転部材に固定されるため、パーキングロックのための構成が不要になるという利点がある。
【0010】
前記第1発明に従属する第2発明の要旨とするところは、前記自動変速機において、後進変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記常閉型の噛合ブレーキである。このようにすれば、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機を提供することができる。
【0011】
前記第発明に従属する第3発明の要旨とするところは、前記自動変速機において、前記第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素である。このようにすれば、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機を提供することができる。
【0012】
前記第発明に従属する第4発明の要旨とするところは、前記自動変速機において、後進変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記油圧回路からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素である。このようにすれば、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明が好適に適用される車両用自動変速機の構成を説明する骨子図である。
図2図1の自動変速機において複数の変速段を選択的に成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表であり、各係合要素の係合・解放を左欄に、油圧供給の有無を右欄に併せて示している。
図3図1の自動変速機において、変速段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。
図4図1の自動変速機に備えられた常閉型の係合要素について説明するために、その自動変速機の一部構成を中心軸を含む平面で切断して示す部分断面図である。
図5図1の自動変速機に備えられた常閉型の係合要素の作動を概略的に説明する概略断面図であり、その係合要素が係合させられた状態を示している。
図6図1の自動変速機に備えられた常閉型の係合要素の作動を概略的に説明する概略断面図であり、その係合要素が解放させられた状態を示している。
図7】本発明が好適に適用される他の車両用自動変速機の構成を説明する骨子図である。
図8図7の自動変速機において複数の変速段を選択的に成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表であり、各係合要素の係合・解放を左欄に、油圧供給の有無を右欄に併せて示している。
図9図7の自動変速機に備えられた常閉型の係合要素について説明するために、その自動変速機の一部構成を中心軸を含む平面で切断して示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記常閉型の係合要素は、好適には、係合(相対回転阻止)乃至解放(相対回転許容)の対象となる1対の部材それぞれに対応して、相互に係合させられる爪部を有する1対の係合部材を備え、油圧回路から供給される油圧に応じてそれら1対の係合部材が相対的に移動させられることで係合状態が切り替えられる噛合式係合装置(ドグクラッチ:dog clutch)である。好適には、例えばシリンダと、そのシリンダ内を往復可能に設けられたピストンと、そのピストンを前記爪部の係合方向に付勢するスプリングとを、備え、油圧非供給時はそのスプリングの付勢力によりピストンが爪部を噛み合わせる方向に移動させられて係合させられる一方、油圧供給時にはスプリングの付勢力に抗してピストンが爪部の噛み合いを解除する方向に移動させられて解放される係合装置である。
【0016】
前記常閉型の係合要素は、好適には、係合により非回転部材に対して回転部材を固定するブレーキであり、更に好適には、噛合式のブレーキである。この常閉型の係合要素は、好適には、前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段及び後進変速段において係合させられるものである。換言すれば、前記自動変速機は、前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段及び後進変速段において、少なくとも前記常閉型の係合要素を係合させる。前記常閉型の係合要素は、摩擦係合装置であってもよく、斯かる態様においても本発明の一応の効果を奏する。
【0017】
前記自動変速機は、好適には、入力回転部材と出力回転部材との間を断接する入力クラッチ(発進クラッチ)を備え、その入力クラッチ及び前記常閉型の係合要素の係合により前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段を成立させるものである。この入力クラッチは、好適には、油圧回路からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素であり、更に好適には、多板クラッチ等の油圧式摩擦係合装置である。
【0018】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明が好適に適用される車両用自動変速機10の構成を説明する骨子図である。この図1に示すように、本実施例の自動変速機10は、FF車両等に好適に用いられる横置き型の装置であり、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体として構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。上記入力軸22は入力回転部材に相当するものであり、本実施例では車両の動力を発生させるための内燃機関であるエンジン28によって回転駆動されるトルクコンバータ30のタービン軸である。上記出力回転部材24は上記自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図示しない差動歯車装置に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン28の出力は、トルクコンバータ30、自動変速機10、差動歯車装置、及び駆動軸としての1対の車軸を介して1対の駆動輪(前輪)へ伝達されるようになっている。この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。以下の説明において同じである。
【0020】
上記エンジン28は、走行用の駆動力を発生させる駆動源(主動力源)であり、燃料の燃焼によって車両の駆動力を発生させるガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。上記トルクコンバータ30は、上記エンジン28のクランク軸に連結されたポンプ翼車30aと、上記自動変速機10の入力軸22に連結されたタービン翼車30bと、一方向クラッチを介して上記自動変速機10のハウジング(変速機ケース)26に連結されたステータ翼車30cとを備えており、上記エンジン28により発生させられた動力を上記自動変速機10へ流体を介して伝達する流体伝動装置である。上記ポンプ翼車30a及びタービン翼車30bの間には、直結クラッチであるロックアップクラッチ32が設けられており、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。このロックアップクラッチ32が完全係合状態とされることにより、上記ポンプ翼車30a及びタービン翼車30bが一体回転させられる。
【0021】
前記第1遊星歯車装置12は、サンギヤS1、複数のピニオンギヤP1、それらピニオンギヤP1を自転及び公転可能に支持するキャリヤCA1、及びピニオンギヤP1を介してサンギヤS1と噛み合うリングギヤR1を備えたシングルピニオン型の遊星歯車装置である。前記第2遊星歯車装置16及び第3遊星歯車装置18は、リングギヤR2(R3)及びキャリアCA2(CA3)が一体的に構成されたラビニヨ型に構成されたものである。前記第2遊星歯車装置16は、相互に噛み合わされた複数のピニオンギヤP2を備えると共に前記キャリアCA2によりそれらピニオンギヤP2を自転及び公転可能に支持し、それらピニオンギヤP2を介して前記リングギヤR2と噛み合うサンギヤS2を備えたダブルピニオン型の遊星歯車装置である。前記第3遊星歯車装置18は、複数のピニオンギヤP3を備えると共に前記キャリアCA3によりそれらピニオンギヤP3を自転及び公転可能に支持し、それらピニオンギヤP3を介して前記リングギヤR3と噛み合うサンギヤS3を備えたシングルピニオン型の遊星歯車装置である。前記第1遊星歯車装置12のサンギヤS1が前記入力軸22に連結されている。前記第1遊星歯車装置12のキャリアCA1と前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2とが一体的に連結されている。前記第2遊星歯車装置16のキャリアCA2(第3遊星歯車装置18のキャリアCA3)が前記出力回転部材24に連結されている。
【0022】
前記自動変速機10は、油圧により係合状態が切り替えられる複数の係合要素を備えている。すなわち、前記入力軸22と前記第3遊星歯車装置18のサンギヤS3との間に、それら入力軸22及びサンギヤS3を選択的に係合させる第1クラッチC1が設けられている。前記入力軸22と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2(第3遊星歯車装置18のリングギヤR3)との間に、それら入力軸22及びリングギヤR2(R3)を選択的に係合させる第2クラッチC2が設けられている。非回転部材である前記ハウジング26と前記第1遊星歯車装置12のキャリアCA1(第2遊星歯車装置16のサンギヤS2)との間に、そのハウジング26に対してキャリアCA1(サンギヤS2)を選択的に係合させる第1ブレーキB1が設けられている。前記ハウジング26と前記第2遊星歯車装置16のリングギヤR2(第3遊星歯車装置18のリングギヤR3)との間に、そのハウジング26に対してリングギヤR2(R3)を選択的に係合させる第2ブレーキB2が設けられている。前記ハウジング26と前記第1遊星歯車装置12のリングギヤR1との間に、そのハウジング26に対してリングギヤR1を選択的に係合させる第3ブレーキB3が設けられている。
【0023】
図2は、前記自動変速機10において複数の変速段を選択的に成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表であり、それぞれの変速段における各係合要素の係合・解放を左欄に示すと共に、各変速段における係合要素への油圧供給の有無を右欄に併せて示している。図2の左欄は、前記自動変速機10により成立させられる各変速段と第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、空欄は解放をそれぞれ表している。前記自動変速機10に備えられたクラッチC、第1ブレーキB1、及び第3ブレーキB3は、何れも多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧回路60(図5等を参照)に備えられたリニアソレノイド弁の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられると共に係合、解放時の過渡油圧などが制御されるようになっている。
【0024】
前記第2ブレーキB2は、非回転部材である前記ハウジング26及び回転部材である前記リングギヤR2(R3)に対応して、相互に係合させられる爪部を有する1対の係合部材を備え、油圧回路60から供給される油圧に応じてそれら1対の係合部材が相対的に移動させられることで係合状態が切り替えられる噛合式係合装置(ドグクラッチ:dog clutch)である。この第2ブレーキB2の作動については、図5及び図6を用いて後述する。図2に示すように、前記自動変速機10において、前記ハウジング26に対する前記リングギヤR2(R3)の一方向の回転を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が前記第2ブレーキB2と並列に設けられている。この一方向クラッチF1により前記ハウジング26に対する前記リングギヤR2(R3)の相対回転が阻止される場合には、前記第2ブレーキB2は係合されなくともよい。前記一方向クラッチF1は必ずしも設けられなくともよい。
【0025】
図2の右欄では、各係合要素に対する油圧発生(油圧回路60からの油圧の供給)の有無を示しており、油圧発生が有る場合を「○」で、油圧発生が無い場合を「×」でそれぞれ示している。この図に示すように、前記第2ブレーキB2においては、各変速段に対応して係合させられる場合に油圧発生が無く、解放させられる場合に油圧発生が有るものである。すなわち、前記第2ブレーキB2は、油圧回路60からの油圧が供給されない場合に係合させられる一方、油圧が供給される場合に解放させられる常閉型(ノーマリクローズ)の係合要素である。前記クラッチC、第1ブレーキB1、及び第3ブレーキB3においては、各変速段に対応して係合させられる場合に油圧発生が有り、解放させられる場合に油圧発生が無いものである。すなわち、前記クラッチC、第1ブレーキB1、及び第3ブレーキB3は、何れも油圧回路60からの油圧が供給されない場合に解放させられる一方、油圧が供給される場合に係合させられる常開型(ノーマリオープン)の係合要素である。
【0026】
前記自動変速機10では、前記第1変速部14及び第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられると共に、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、第1クラッチC1及び第2ブレーキB2の係合により変速比γが最大である第1変速段「1st」が成立させられる。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1の係合により変速比γが第1変速段より小さい第2変速段「2nd」が成立させられる。第1クラッチC1及び第3ブレーキB3の係合により変速比γが第2変速段より小さい第3変速段「3rd」が成立させられる。第1クラッチC1及び第2クラッチC2の係合により変速比γが第3変速段より小さい第4変速段「4th」が成立させられる。第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により変速比γが第4変速段より小さい第5変速段「5th」が成立させられる。第2クラッチC2及び第1ブレーキB1の係合により変速比γが最小である第6変速段「6th」が成立させられる。第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3の係合により後進変速段「Rev」が成立させられる。クラッチC及びブレーキBの何れもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。本実施例の自動変速機10では、第1変速段「1st」を成立させる第2ブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしも第2ブレーキB2を係合させる必要は無い。各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、及び第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
【0027】
図3は、前記自動変速機10において、変速段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、横軸方向において各遊星歯車装置12、16、18のギヤ比ρの相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転速度を示す二次元座標である。横線X1は回転速度零を示している。上側の横線X2は回転速度「1.0」すなわち前記入力軸22の回転速度NINを示している。7本の縦線Y1〜Y7は、左から順にY1が前記第1遊星歯車装置12のサンギヤS1、Y2がキャリアCA1、Y3がリングギヤR1、Y4が前記第2遊星歯車装置16のサンギヤS2、Y5がリングギヤR2(R3)、Y6がキャリアCA2(CA3)、Y7が前記第3遊星歯車装置18のサンギヤS3それぞれの相対回転速度を示している。前記縦線Y1〜Y7の間隔は、前記遊星歯車装置12、16、18の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じて定められている。すなわち、前記第1遊星歯車装置12における3つの回転要素に対応する縦線Y1〜Y3、前記第2遊星歯車装置16における3つの回転要素に対応する縦線Y4〜Y6、前記第3遊星歯車装置18における3つの回転要素に対応する縦線Y5〜Y7それぞれに関して、サンギヤSとキャリアCAとの間が1に対応するものとされ、キャリアCAとリングギヤRとの間がρに対応するものとされる。
【0028】
図3の共線図を用いて表現すれば、前記自動変速機10において、入力回転部材である前記入力軸22が前記第1クラッチC1を介して前記サンギヤS3に選択的に連結されると共に、前記第2クラッチC2を介して前記リングギヤR2(R3)に選択的に連結される。相互に連結された前記キャリアCA1及びサンギヤS2が前記第1ブレーキB1を介して非回転部材である前記ハウジング26に選択的に連結される。前記リングギヤR2(R3)が前記第2ブレーキB2を介して前記ハウジング26に選択的に連結される。前記リングギヤR1が前記第3ブレーキB3を介して前記ハウジング26に選択的に連結される。前記サンギヤS1が前記入力軸22に連結されている。前記キャリアCA2(CA3)が前記出力回転部材24に連結されている。
【0029】
図3の共線図においては、各変速段の成立時における前記クラッチC及びブレーキBの係合乃至解放の組み合わせに応じて各回転要素の回転速度の相対関係が定まる。図3においては前記第1変速段「1st」に対応する関係を直線L1で示している。前記第2変速段「2nd」に対応する関係を直線L2で示している。前記第3変速段「3rd」に対応する関係を直線L3で示している。前記第4速ギヤ段「4th」に対応する関係を直線L4で示している。前記第5速ギヤ段「5th」に対応する関係を直線L5で示している。前記第6速ギヤ段「6th」に対応する関係を直線L6で示している。前記後進ギヤ段「R」に対応する関係を直線LRで示している。図3の共線図においては、前記自動変速機10において成立し得る全ての変速段に係る各回転要素の回転速度の相対関係を1つの図面で表すために、前記直線L1〜L6、LRは前記遊星歯車装置12、16、18相互間においては必ずしも直線となっていないが、前記クラッチC、ブレーキBの係合状態に応じて各遊星歯車装置12、16、18における回転要素の回転速度が等しく表されることで、各変速段における前記自動変速機10の7つの回転要素の相対的な回転速度を余さず表している。
【0030】
図3に示すように、前記自動変速機10では、前記第1クラッチC1及び第2ブレーキB2が係合させられることにより定まる直線L1と、前記出力回転部材24に連結された前記キャリアCA2(CA3)の回転速度を示す縦線Y6との交点で第1変速段「1st」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。前記第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が係合させられることにより定まる直線L2と、縦線Y6との交点で第2変速段「2nd」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。前記第1クラッチC1及び第3ブレーキB3が係合させられることにより定まる直線L3と、縦線Y6との交点で第3変速段「3rd」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。前記第1クラッチC1及び第2クラッチC2が係合させられることにより定まる直線L4と、縦線Y6との交点で第4変速段「4th」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。前記第2クラッチC2及び第3ブレーキB3が係合させられることにより定まる直線L5と、縦線Y6との交点で第5変速段「5th」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。前記第2クラッチC2及び第1ブレーキB1が係合させられることにより定まる直線L6と、縦線Y6との交点で第6変速段「6th」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。前記第2ブレーキB2及び第3ブレーキB3が係合させられることにより定まる直線LRと、縦線Y6との交点で後進変速段「R」における前記出力回転部材24の回転速度が示される。
【0031】
図4は、前記第2ブレーキB2等の構成を説明するために、前記自動変速機10の一部構成を中心軸を含む平面で切断して示す部分断面図である。この図4に示すように、前記第2ブレーキB2は、前記ハウジング26の内周側に形成されたシリンダ部34と、そのシリンダ部34内に前記自動変速機10の中心軸CE方向の往復可能に設けられたピストン36と、そのピストン36を後述する爪部40、44の係合方向に付勢するスプリング38とを、備えている。前記ピストン36における前記リングギヤR2(R3)側の端部には爪部40が形成されている。前記リングギヤR2(R3)における前記ピストン36側には、外周側に向かって延伸する延設部42が形成されており、その外周側端部に前記ピストン36における爪部40と相互に噛み合わされる爪部44が形成されている。前記ピストン36の内周側には前記中心軸方向の溝部46が形成されており、前記シリンダ部34に形成された溝部48に嵌合されることで前記ピストン36の前記シリンダ部34に対する前記中心軸CEまわりの相対回転を阻止しつつ、その中心軸CE方向の相対移動が許容されている。前記シリンダ部34(ハウジング26)とピストン36との間には油室50が形成され、そのピストン36に設けられたオイルシール52によりその油室50が油密とされている。すなわち、前記第2ブレーキB2においては、前記リングギヤR2(R3)及びピストン36が相互に係合させられる爪部40、44を有する1対の係合部材に相当する。
【0032】
図5及び図6は、前記第2ブレーキB2の作動を概略的に説明する概略断面図であり、図5は前記第2ブレーキB2が係合させられた状態を、図6は解放させられた状態をそれぞれ示している。図5及び図6に示すように、前記シリンダ部34とピストン36との間に形成された油室50には、油路58を介して油圧回路60からの油圧が供給されるように構成されている。この油圧回路60から前記油室50へ油圧(少なくともスプリング38を押し戻す力をピストン36の軸心方向に発生させる油圧)が供給されない状態においては、図5に示すように、前記スプリング38の付勢力により前記ピストン36は前記リングギヤR2(R3)の延設部42側へ押され、それらピストン36及び延設部42にそれぞれ設けられた爪部40、44が相互に噛み合わされる。すなわち、前記第2ブレーキB2が係合させられる。前記ピストン36は、内周側の溝部46が前記シリンダ部34の溝部48に嵌合されることで前記ハウジング26に対して相対回転不能とされており、前記爪部40、44が相互に噛み合わされることで前記ピストン36及びリングギヤR2(R3)の軸心まわりの相対回転が阻止されるため、図5に示す状態においては、前記ハウジング26に対する前記リングギヤR2(R3)の相対回転が阻止される。前記油圧回路60から前記油室50へ油圧(少なくともスプリング38を押し戻す力をピストン36の軸心方向に発生させる油圧)が供給されている状態においては、図6に示すように、前記スプリング38の付勢力に抗して前記ピストン36が前記リングギヤR2(R3)の延設部42の反対側へ押され、それらピストン36及び延設部42にそれぞれ設けられた爪部40、44の噛み合い(係合)が解除される。すなわち、前記第2ブレーキB2が解放させられる。この図6に示す状態においては、前記ハウジング26に対する前記リングギヤR2(R3)の相対回転が許容される。
【0033】
続いて、本発明の他の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を用いてその説明を省略する。
【実施例2】
【0034】
図7は、本発明が好適に適用される他の車両用自動変速機70の構成を説明する骨子図である。この図7及び後述する図9に示すように、本実施例の自動変速機70は、前記自動変速機10に備えられた油圧式摩擦係合装置(摩擦ブレーキ)としての前記第1ブレーキB1の代替として、噛合式の係合要素である第1ブレーキB1を備えている。この第1ブレーキB1は、非回転部材である前記ハウジング26及び回転要素である前記キャリアCA1(サンギヤS2)に対応して、相互に係合させられる爪部を有する1対の係合部材を備え、前記油圧回路60から供給される油圧に応じてそれら1対の係合部材が相対的に移動させられることで係合状態が切り替えられる噛合式係合装置(ドグクラッチ:dog clutch)である。
【0035】
図8は、前記自動変速機70において複数の変速段を選択的に成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表であり、それぞれの変速段における各係合要素の係合・解放を左欄に示すと共に、各変速段における係合要素への油圧供給の有無を右欄に併せて示している。この図8の右欄に示すように、前記第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2においては、各変速段に対応して係合させられる場合に油圧発生が無く、解放させられる場合に油圧発生が有るものである。すなわち、前記第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は、油圧回路60からの油圧が供給されない場合に係合させられる一方、油圧が供給される場合に解放させられる常閉型(ノーマリクローズ)の係合要素である。前記クラッチC及び第3ブレーキB3においては、各変速段に対応して係合させられる場合に油圧発生が有り、解放させられる場合に油圧発生が無いものである。すなわち、前記クラッチC及び第3ブレーキB3は、何れも油圧回路60からの油圧が供給されない場合に解放させられる一方、油圧が供給される場合に係合させられる常開型(ノーマリオープン)の係合要素である。前記自動変速機70における各回転要素の連結状態に応じた相対的な回転速度は、前述した図3を用いて説明される。
【0036】
図9は、前記第1ブレーキB1等の構成を説明するために、前記自動変速機70の一部構成を中心軸を含む平面で切断して示す部分断面図である。この図9に示すように、前記第1ブレーキB1は、前記ハウジング26の内周側に形成されたシリンダ部72と、そのシリンダ部72内に前記自動変速機70の中心軸CE方向の往復可能に設けられたピストン74と、そのピストン74を後述する爪部78、82の係合方向に付勢するスプリング76とを、備えている。前記ピストン74における前記キャリアCA1側の端部には爪部78が形成されている。前記キャリアCA1における前記ピストン74側には、外周側に向かって延伸する延設部80が形成されており、その外周側端部に前記ピストン74における爪部78と相互に噛み合わされる爪部82が形成されている。前記ピストン74の内周側には前記中心軸方向の溝部84が形成されており、前記シリンダ部72に形成された溝部86に嵌合されることで前記ピストン74の前記シリンダ部72に対する前記中心軸CEまわりの相対回転を阻止しつつ、その中心軸CE方向の相対移動が許容されている。前記シリンダ部72(ハウジング26)とピストン74との間には油室88が形成され、そのピストン74に設けられたオイルシール90によりその油室88が油密とされている。すなわち、前記第1ブレーキB1においては、前記キャリアCA1(相互に連結されたサンギヤS2)及びピストン74が相互に係合させられる爪部78、82を有する1対の係合部材に相当する。
【0037】
以上のように構成された前記第1ブレーキB1は、図5及び図6を用いて前述した前記第2ブレーキB2と同様に作動させられる。すなわち、前記油圧回路60から前記油室88へ油圧(少なくともスプリング76を押し戻す力をピストン74の軸心方向に発生させる油圧)が供給されない状態においては、前記スプリング76の付勢力により前記ピストン74は前記キャリアCA1側へ押され、それらピストン74及び延設部80にそれぞれ設けられた爪部78、82が相互に噛み合わされる。すなわち、前記第1ブレーキB1が係合させられる。前記ピストン74は、内周側の溝部84が前記シリンダ部72の溝部86に嵌合されることで前記ハウジング26に対して相対回転不能とされており、前記爪部78、82が相互に噛み合わされることで前記ピストン74及びキャリアCA1(サンギヤS2)の軸心まわりの相対回転が阻止されるため、斯かる状態においては、前記ハウジング26に対する前記キャリアCA1の相対回転が阻止される。前記油圧回路60から前記油室88へ油圧(少なくともスプリング76を押し戻す力をピストン74の軸心方向に発生させる油圧)が供給されている状態においては、前記スプリング76の付勢力に抗して前記ピストン74が前記キャリアCA1の延設部80の反対側へ押され、それらピストン74及び延設部80にそれぞれ設けられた爪部78、82の噛み合い(係合)が解除される。すなわち、前記第1ブレーキB1が解放させられる。斯かる状態においては、前記ハウジング26に対する前記キャリアCA1(サンギヤS2)の相対回転が許容される。
【0038】
図7図9に示すように、前記自動変速機70は、前記油圧回路60から油圧が供給されない油圧非発生時に係合させられる常閉型の噛合ブレーキである前記第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2を備えている。これら第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2は、係合によりそれぞれ前記キャリアCA1(サンギヤS2)、リングギヤR2(R3)を非回転部材であるハウジング26に固定するものである。前記自動変速機70の回転要素である前記キャリアCA1(サンギヤS2)、リングギヤR2(R3)は、何れもラビニヨ型に構成された前記第2遊星歯車装置16及び第3遊星歯車装置18を介して前記出力回転部材24に機械的(間接)に連結されている。斯かる構成においては、前記油圧回路60から油圧が供給されない油圧非発生時に、前記第1ブレーキB1及び第2ブレーキB2が係合させられることで、前記出力回転部材24に直結された前記キャリアCA2(CA3)の回転が前記キャリアCA1(サンギヤS2)及びリングギヤR2(R3)により阻止される。すなわち、出力回転部材24に直接乃至間接に連結された前記キャリアCA1(サンギヤS2)及びリングギヤR2(R3)を前記ハウジング26に固定することで、その出力回転部材24をロックできる。
【0039】
このように、本実施例によれば、油圧により係合状態が切り替えられる複数の係合要素である第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3を備え、油圧回路60から供給される油圧に応じた前記複数の係合要素の係合乃至解放の組み合わせに基づいて複数の変速段を選択的に成立させる多段型の車両用自動変速機10、70において、前記複数の係合要素のうち、少なくとも1つは前記油圧回路60からの油圧が供給されない場合に係合させられる常閉型の係合要素であることから、油圧回路60の構成上の制約が小さくなりオイルポンプを小型化できる。すなわち、装置の構成を簡単なものとする車両用自動変速機10、70を提供することができる。
【0040】
前記常閉型の係合要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2は、噛合式の係合要素であるため、構成の簡単化に加え、前記油圧回路60からの油圧が供給されない場合に係合させられる噛合式の係合要素を少なくとも1つ備えることで、引き摺りの発生を好適に抑制することができる。
【0041】
前記自動変速機10、70において、前進変速段のうち変速比が最も大きい第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つの係合要素である前記第2ブレーキB2は前記常閉型の係合要素であるため、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機10、70を提供することができる。更に、エンジン始動時のガレージショックが低減できる。
【0042】
前記自動変速機10、70において、後進変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つの係合要素である前記第2ブレーキB2は前記常閉型の係合要素であるため、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機10、70を提供することができる。
【0043】
前記自動変速機10、70において、前記第1変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つの係合要素である前記第1クラッチC1は前記油圧回路60からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素であるため、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機10、70を提供することができる。
【0044】
前記自動変速機10、70において、後進変速段が成立する際に係合させられる複数の係合要素のうち、少なくとも1つの係合要素である前記第3ブレーキB3は前記油圧回路60からの油圧が供給されない場合に解放させられる常開型の係合要素であるため、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機10、70を提供することができる。
【0045】
前記常閉型の係合要素として2つの噛合ブレーキB1、B2を備え、それぞれの噛合ブレーキB1、B2の係合により非回転部材であるハウジング26に固定される回転部材すなわちキャリアCA1(サンギヤS2)、リングギヤR2(R3)は、前記自動変速機70の出力回転部材24と直接乃至間接に連結されたものであるため、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機70を提供することができることに加え、前記油圧回路60からの油圧が供給されない状態において、出力回転部材24がハウジング26に固定されるため、パーキングロックのための構成が不要になるという利点がある。
【0046】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
【0047】
例えば、前述の実施例において、前記自動変速機10、70は、前記複数の係合要素のいち、何れか2つの係合要素の係合により前記各変速段が成立させられるものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、前記複数の係合要素のうち、3つ以上の係合要素の係合により前記各変速段が成立させられるものであってもよい。好適には、斯かる自動変速機において、前記常閉型の係合要素として2つの噛合ブレーキ(非回転部材に対して回転部材を係合させる噛合式の係合要素)を備え、それぞれの噛合ブレーキの係合により非回転部材に固定される回転要素は、出力回転部材と直接乃至間接に連結されたものである。このようにすれば、構成が簡単であり且つ実用的な態様の自動変速機を提供することができることに加え、油圧回路からの油圧が供給されない状態において、出力軸が非回転部材に固定されるため、パーキングロックのための構成が不要になるという利点がある。
【0048】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0049】
10、70:車両用自動変速機、12:第1遊星歯車装置、14:第1変速部、16:第2遊星歯車装置、18:第3遊星歯車装置、20:第2変速部、22:入力軸、24:出力回転部材、26:ハウジング(非回転部材)、28:エンジン、30:トルクコンバータ、30a:ポンプ翼車、30b:タービン翼車、30c:ステータ翼車、32:ロックアップクラッチ、34:シリンダ部、36:ピストン、38:スプリング、40、44:爪部、42:延設部、46、48:溝部、50:油室、52:オイルシール、58:油路、60:油圧回路、72:シリンダ部、74:ピストン、76:スプリング、78、82:爪部、80:延設部、84、86:溝部、88:油室、90:オイルシール、B1:第1ブレーキ(係合要素)、B2:第2ブレーキ(係合要素)、B3:第3ブレーキ(係合要素)、C1:第1クラッチ(係合要素)、C2:第2クラッチ(係合要素)、CA1、CA2、CA3:キャリア、CE:中心軸、F1:一方向クラッチ、P1、P2、P3:ピニオンギヤ、S1、S2、S3:サンギヤ、R1、R2、R3:リングギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9