特許第6040962号(P6040962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6040962-蒸発燃料処理装置 図000002
  • 特許6040962-蒸発燃料処理装置 図000003
  • 特許6040962-蒸発燃料処理装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6040962
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   F02M25/08 301B
   F02M25/08 301H
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-114686(P2014-114686)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-229925(P2015-229925A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100124752
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】大岩 英俊
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−042014(JP,A)
【文献】 特開2014−084837(JP,A)
【文献】 特開平07−077118(JP,A)
【文献】 特開2014−181681(JP,A)
【文献】 特開2015−094329(JP,A)
【文献】 特開2013−015106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク(1)内で蒸発した蒸発燃料を保持するキャニスタ(2)とエンジンの吸気通路(3)とを連通するパージ通路(5)を備えた蒸発燃料処理装置において、
前記パージ通路(5)には、前記キャニスタ(2)内の空気を前記吸気通路(3)側へ圧送するパージポンプ(7)と、このパージポンプ(7)を迂回させるバイパス通路(8)と、このバイパス通路(8)を開閉する開閉弁(9)とが設けられ、
前記吸気通路(3)の吸気負圧が小さい時は、前記パージポンプ(7)を作動させるとともに、前記開閉弁(9)によって前記バイパス通路(8)を閉じ、
前記吸気通路(3)の吸気負圧が小さい時以外は、前記パージポンプ(7)を停止するとともに、前記開閉弁(9)によって前記バイパス通路(8)を開くものであり、
前記パージポンプ(7)は、電動モータとポンプを組み合わせた電動ポンプであり、
前記パージポンプ(7)は、エンジン制御を行うECUによってオン状態あるいはオフ状態に制御されるものであり、
前記ECUは、前記吸気通路(3)に設けられるスロットルバルブ(4)の下流域の吸気負圧が予め設定した判定値より小さいポンプ作動領域の時に前記パージポンプ(7)をオン状態に制御し、前記スロットルバルブ(4)の下流域の吸気負圧が予め設定した判定値より大きいポンプ停止領域の時に前記パージポンプ(7)をオフ状態に制御するものであり、
前記ポンプ作動領域と前記ポンプ停止領域の作動境界部には、前記パージポンプ(7)のハンチングを防ぐヒステリシスが設定されていることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発燃料処理装置において、
前記開閉弁(9)は、前記吸気通路(3)側と前記キャニスタ(2)側との圧力差によって開閉する逆止弁であることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の蒸発燃料処理装置において、
前記開閉弁(9)は、通電状態に応じて開閉状態が切り替わる電動バルブであることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の蒸発燃料処理装置において、
前記パージ通路(5)には、当該前記パージ通路(5)の開閉および開度調整を行うパージバルブ(6)が設けられ、
このパージバルブ(6)と前記パージポンプ(7)は、前記エンジンの運転制御を行うECUにより通電制御されることを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャニスタが保持する蒸発燃料(ベーパガス)を吸気通路へ導いてパージ処理を行う蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
蒸発燃料処理装置の従来技術を図3を参照して説明する。なお、「背景技術」にて用いる符合は、後述する実施例と同一機能物に同一符合を付したものである。
蒸発燃料処理装置は、燃料タンク1内で蒸発(気化)した蒸発燃料を保持するキャニスタ2と、このキャニスタ2が保持した蒸発燃料を吸気通路3の負圧発生範囲(スロットルバルブ4の吸気下流)へ導くパージ通路5と、このパージ通路5の開閉および開度調整を行うパージバルブ6とを備える。
【0003】
近年では、エンジンの低排気量化、低回転化(ハイギヤド化)、省エネのための過給機化等により、吸気負圧が小さくなる傾向にある。吸気負圧が小さいと、キャニスタ2から吸気通路3に導かれる蒸発燃料のパージ量が減少し、パージ処理が損なわれる。
そこで、パージ通路5に電動のパージポンプ7を設け、パージポンプ7の作動によりキャニスタ2が保持する蒸発燃料を吸気通路3へ圧送する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
(問題点)
近年では、ハイブリッド車やアイドルストップ車など、省エネやCO2低減等の目的で、エンジンの運転頻度が下がる傾向にある。そこで、エンジンの運転中はキャニスタ2に保持させた蒸発燃料を常時吸気通路3へ導くことが望まれる。すると、エンジンの運転中にパージポンプ7を常時作動させることになる。
その結果、パージポンプ7には、極めて高寿命で高耐久の性能が望まれることになり、高コスト化の要因になるとともに、常時作動することで電力消費も多くなってしまう。
【0005】
そこで、吸気負圧が小さい時以外は、パージポンプ7を停止して、吸気負圧により蒸発燃料を吸気通路3に導くことが考えられる。
しかし、パージポンプ7を停止すると、パージポンプ7が大きな通気抵抗として作用することになり、停止したパージポンプ7によって蒸発燃料のパージ処理が阻害されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4807296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、パージポンプの作動頻度を下げ、且つ停止中のパージポンプが蒸発燃料のパージ処理を阻害することのない蒸発燃料処理装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
吸気通路(3)の吸気負圧が小さい時は、パージポンプ(7)を作動させ、バイパス通路(8)を閉じることで、パージポンプ(7)の作動によりパージ処理を行う。
一方、吸気通路(3)の吸気負圧が小さい時以外は、パージポンプ(7)を停止し、バイパス通路(8)を開くことで、パージポンプ(7)を迂回したパージ処理を行う。
【0009】
このように、吸気負圧の発生具合に応じてパージポンプ(7)を作動させるため、パージポンプ(7)の作動頻度を下げることができる。このため、パージポンプ(7)に求められる耐久性能を下げることができるとともに、パージポンプ(7)が消費する電力量を少なくできる。
また、パージポンプ(7)の停止中は、パージポンプ(7)を迂回するバイパス通路(8)を介してパージ処理が行われるため、停止中のパージポンプ(7)が蒸発燃料のパージ処理を阻害しない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】蒸発燃料処理装置の概略構成図である(実施例)。
図2】吸気負圧とパージ量との関係を示すグラフである(実施例)。
図3】蒸発燃料処理装置の概略構成図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において「発明を実施するための形態」を詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
本発明の具体的な一例(実施例)を図面に基づき説明する。なお、以下の「実施例」は具体的な一例を開示するものであり、本発明が「実施例」に限定されないことは言うまでもない。
【0013】
[実施例1]
図1図2を参照して実施例1を説明する。
蒸発燃料処理装置は、エンジン車両(例えば、ハイブリッド車、アイドルストップ車、コンベ車など)に搭載されるものであり、燃料タンク1の蒸発燃料をキャニスタ2に保持させ、エンジン運転中にキャニスタ2が保持する蒸発燃料をエンジンの吸気通路3に導いてパージ処理を行うものである。
【0014】
蒸発燃料処理装置は、
(a)燃料タンク1内で蒸発した蒸発燃料を保持するキャニスタ2と、
(b)このキャニスタ2が保持した蒸発燃料を吸気通路3の負圧発生範囲(スロットルバルブ4の吸気下流)へ導くパージ通路5と、
(c)このパージ通路5の開閉および開度調整を行うパージバルブ6と、
(d)このパージバルブ6とキャニスタ2の間のパージ通路5に設けられ、キャニスタ2内の空気(即ち、蒸発燃料を含む空気)を吸気通路3へ向けて圧送するパージポンプ7と、
(e)パージ通路5の途中に設けられて、パージポンプ7を迂回させるバイパス通路8と、
(f)このバイパス通路8を開閉する開閉弁9と、
を備えて構成される。
そして、燃料処理装置に用いられる複数の電気機能部品は、エンジン制御を行う制御装置(以下、ECUと称す)により作動状態(即ち、通電状態)が制御される。
【0015】
キャニスタ2は、内部に蒸発燃料を吸着して保持する吸着物質(例えば、活性炭等)を収容する容器であり、上述したようにパージ通路5を介して吸気通路3の負圧発生範囲に接続される。
このキャニスタ2には、燃料タンク1内の蒸発燃料をキャニスタ2へ導くブリーザ通路10が接続され、燃料タンク1の上部空間と連通する。なお、ブリーザ通路10と燃料タンク1との接続部には、周知のベントバルブ、ロールオーババルブ、カットオフバルブ等が設けられる。ベントバルブは、燃料タンク1の内圧がブリーザ配管より高くなると開弁する。ロールオーババルブは、給油時や車両転倒時に閉弁してベントバルブと燃料タンク1との接続を遮断する。カットオフバルブは、ロールオーババルブと並列に設けられ、ロールオーババルブより液面が上昇した際にベントバルブと燃料タンク1との接続を遮断する。
【0016】
また、キャニスタ2は、大気導入通路11を介して大気が導入可能に設けられている。この大気導入通路11には、電磁弁構造を有するCCV(キャニスタ・コントロール・バルブの略)が設けられいる。このCCVは、ECUにより作動状態が制御されるものであり、CCVが開かれることで大気がキャニスタ2内に取り込まれる。
【0017】
パージバルブ6は、通電時に開弁するノーマリ・クローズ(N/C)タイプの電磁弁であり、周知の構造を採用する。このパージバルブ6は、ECUにより作動状態が制御されるものであり、エンジン停止中は通電が停止されて閉弁し、エンジン運転中は通電状態が制御(例えば、デューティ比制御等)されて吸気通路3へ導かれるパージ量(吸気通路3へ導かれる蒸発燃料を含む空気量)を調整する。
【0018】
パージポンプ7は、電動モータとポンプを組み合わせた電動ポンプである。パージポンプ7のポンプ形式は限定するものではなく、適宜採用可能であり、一例を開示するとベーンポンプやウエスコポンプを採用する。
パージポンプ7は、ECUにより運転状態が制御されるものであり、吸気負圧が小さい時(予め設定した判定値より小さい時)に作動する。
【0019】
パージポンプ7は、ECUにより運転状態がON/OFF制御されるものであり、吸気負圧が小さい時のみにパージポンプ7が作動するように設けられている。
ECUは、スロットルバルブ4の下流域の吸気負圧が予め設定した判定値より小さい場合に「ポンプ作動領域」と判定してパージポンプ7をONし、スロットルバルブ4の下流域の吸気負圧が予め設定した判定値より大きい場合に「ポンプ停止領域」と判定してパージポンプ7をOFFする。なお、「ポンプ作動領域」と「ポンプ停止領域」の作動境界部には、パージポンプ7のON/OFF作動のハンチングを防ぐ手段としてヒステリシスが設定されている。
ECUが判定基準として用いる吸気負圧は、ECUが有する情報(例えば、エンジン回転数とスロットル開度など)から算出(推定)しても良いし、吸気負圧を検出するセンサによって検出しても良い。
【0020】
バイパス通路8は、パージポンプ7の吸入口側とパージポンプ7の吐出口側を連通する連通路であり、パージポンプ7のハウジング等に一体的に設けられるものであっても良いし、パージポンプ7とは独立した配管等で設けられるものであっても良い。
【0021】
開閉弁9は、上述したように、バイパス通路8を開閉するバルブであり、吸気負圧が小さい時以外に開くものである。即ち、開閉弁9は、パージポンプ7が作動する時(吸気負圧が小さい時)にバイパス通路8を閉じ、パージポンプ7が停止する時(吸気負圧が小さくない時)にバイパス通路8を開くものである。
具体的に開閉弁9は、吸気通路3側とキャニスタ2側との圧力差によって開閉する逆止弁であっても良いし、通電状態に応じて開閉状態が切り替わる電動バルブであっても良い。
【0022】
開閉弁9として逆止弁を用いる場合を説明する。
逆止弁は、吸気通路3側の圧力がキャニスタ2側の圧力より小さい時に(吸気通路3側の圧力<キャニスタ2側の圧力)、その圧力差によって開くメカニカルバルブであり、例えばダイヤフラムを用いたリード弁構造や、ボール弁等を用いたチェック弁構造を採用する。
具体的な逆止弁の開閉作動を説明する。パージポンプ7が作動する際(吸気負圧が小さい時)は、パージポンプ7の吐出圧により吸気通路3側の圧力がキャニスタ2側の圧力より大きくなって逆止弁がバイパス通路8を閉じる。また、パージポンプ7が停止する際(吸気負圧が小さくない時)は、吸気通路3側の圧力がキャニスタ2側の圧力より小さくなって逆止弁がバイパス通路8を開く。
【0023】
開閉弁9として電動バルブを用いる場合を説明する。
電動バルブの具体的な一例は、電磁弁であり、通電時に開弁するノーマリ・クローズ(N/C)タイプであっても良いし、通電時に閉弁するノーマリ・オープン(N/O)タイプであっても良い。そして、電動バルブはECUにより通電制御されるものであり、パージポンプ7が作動する時(吸気負圧が小さい時)にバイパス通路8を閉じ、パージポンプ7が停止する時(吸気負圧が小さくない時)にバイパス通路8を開くものである。
【0024】
ここで、図2を説明する。図2の実線Aは、パージポンプ7をONし、開閉弁9が閉じられた際における吸気負圧とパージ量の関係を示す。また、図2の実線Bは、パージポンプ7がOFFされ、開閉弁9が開かれた際における吸気負圧とパージ量の関係を示す。
図2の実線Aに示すように、パージポンプ7のポンプ能力は、パージポンプ7をONした際に、吸気負圧が0(ゼロ)であったとしても必要パージ量(パージ処理に最低限必要とされるパージ量)を確保するように設けられる。なお、図2の実線Aに示すように、パージポンプ7がONした際のパージ量は、吸気負圧の影響により、吸気負圧が大きくなるに従って大きくなる特性を有する。
【0025】
ECUは、エンジンの運転制御(複数のインジェクタの通電制御による燃料の噴射制御等)を行うとともに、上述したように、蒸発燃料処理装置に用いられる電気機能部品の通電制御を実施する。
このECUは、エンジンの運転中にパージバルブ6の開度調整を行なって、吸気通路3へ導かれるパージ量(即ち、吸気通路3へ導かれる蒸発燃料)を調整するとともに、パージ量に基づく噴射補正値を算出する。そして、ECUは、インジェクタから噴射される燃料の噴射量を、算出した噴射補正値で補正し、空燃比をエンジンの運転状態に適した目標空燃比に保つように設けられている。なお、具体的なパージバルブ6の開度制御および蒸発燃料による噴射補正制御は周知技術を採用するものであり、説明は割愛する。
【0026】
(実施例1の効果1)
実施例1の蒸発燃料処理装置は、上述したように、吸気負圧が小さい「ポンプ作動領域」ではパージポンプ7を作動させてパージ処理を行い、吸気負圧が小さくない「ポンプ停止領域」ではパージポンプ7を停止し、バイパス通路8を開いてベーパ処理を行う。即ち、吸気負圧の発生具合に応じてパージポンプ7を作動させる。このため、パージポンプ7の作動頻度を下げることができ、パージポンプ7に求められる耐久性能を下げることができる。
これにより、パージポンプ7の耐久性能を下げても、必要十分な高寿命を達成することが可能になる。即ち、パージポンプ7のコストを抑えて高寿命の蒸発燃料処理装置を提供することができる。
【0027】
(実施例1の効果2)
実施例1の蒸発燃料処理装置は、上述したように、パージポンプ7の作動頻度を下げることができるため、パージポンプ7の電力消費量を抑えることができる。これにより、省エネ化が可能になるとともに、車両に搭載される発電システムの発電負荷およびバッテリ負荷を軽減することができる。
【0028】
(実施例1の効果3)
実施例1の蒸発燃料処理装置は、上述したように、パージポンプ7を停止する際(吸気負圧が小さくない時)は、バイパス通路8を介してパージ処理を行うため、停止中のパージポンプ7が大きな通気抵抗として作用する不具合がなく、吸気通路3に発生した吸気負圧によって必要パージ量を確保することができる。
即ち、実施例1の蒸発燃料処理装置は、吸気負圧が小さくない時にパージポンプ7を停止させるものであるが、停止したパージポンプ7がパージ処理を阻害する不具合が生じない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上記の実施例では、エンジン制御を行うECUによって蒸発燃料処理装置の作動制御を行う例を示したが、限定するものではなく、ECUから独立した制御装置によって蒸発燃料処理装置の作動制御を行うものであっても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 燃料タンク
2 キャニスタ
3 エンジンの吸気通路
5 パージ通路
7 パージポンプ
8 バイパス通路
9 開閉弁
図1
図2
図3