【文献】
Protein Engineering,1991年,Vol. 4, No. 7,pp.801-804
【文献】
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2005年,Vol. 69, No. 2,pp.364-373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、161番目リジン及び/又は184番目リジンが他のアミノ酸に置換され、かつ、アルカリホスファターゼ活性を有する、改変型アルカリホスファターゼ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、免疫測定に際し、修飾を行った以降も修飾前と同等の活性を有しうるアルカリホスファターゼを提供することである。より具体的には、免疫測定に際し、アルカリホスファターゼコンジュゲートの作製に用いられる各種マレイミド化試薬によりマレイミド基を導入後も活性の低下を生じないアルカリホスファターゼを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、AP活性中心近傍に位置するリジン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、酵素標識のためのマレイミド化処理後も活性が低下しないアルカリホスファターゼを作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)
アルカリホスファターゼの活性中心近傍に位置するリジン残基を、他のアミノ酸残基に置換してなる改変型アルカリホスファターゼ。
(2)
アルカリホスファターゼが細菌由来である、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(3)
細菌がシェワネラ(Shewanella)属である、(2)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(4)
アルカリホスファターゼが哺乳類由来である、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(5)
アルカリホスファターゼがウシ小腸由来である、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ
(6)
配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、161番目リジン及び/又は184番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(7)
配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、161番目リジン及び/又は184番目リジンに相当するアミノ酸が、セリンもしくはアルギニンに置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(8)
配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、161番目リジン及び/又は184番目リジンに相当するアミノ酸が、セリンに置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(9)
配列番号11に示すアミノ酸配列のうち、100番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(10)
配列番号12に示すアミノ酸配列のうち、81番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(11)
配列番号13に示すアミノ酸配列のうち、100番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(12)
配列番号14に示すアミノ酸配列のうち、100番目リジン及び/又は127番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(13)
配列番号16に示すアミノ酸配列のうち、157番目リジン及び/又は180番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(14)
配列番号18に示すアミノ酸配列のうち、157番目リジン及び/又は180番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(15)
配列番号10に示すアミノ酸配列のうち、81番目リジン及び/又は87番目リジンに相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されてなる、(1)に記載の改変型アルカリホスファターゼ。
(16)
(1)〜(15)のいずれかに記載のアルカリホスファターゼを標識してなるコンジュゲート。
(17)
(16)に記載のコンジュゲートを用いる免疫測定方法。
(18)
(16)に記載のコンジュゲートを含む免疫測定試薬。
(19)
以下、(A)〜(D)の工程を含む、改変型アルカリホスファターゼの作製方法。
(A)アルカリホスファターゼの活性中心近傍に位置するリジン残基を特定または推定する工程。
(B)(A)で特定または推定されたリジン残基をコードするアルカリホスファターゼ遺伝子上のコドンを、別のアミノ酸をコードするコドンに置換する工程。
(C)(B)で作製した遺伝子を宿主細胞に形質転換し、該形質転換体を培養して遺伝子を発現させる工程。
(D)(C)における発現産物である改変型アルカリホスファターゼを精製する工程。
(20)
以下、(A)〜(D)の工程を含む、(19)の改変型アルカリホスファターゼの作製方法。
(A)改変しようとするアルカリホスファターゼのアミノ酸配列と配列番号2に示すアミノ酸配列とのアライメントにより、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち161番目リジン及び/又は184番目リジンに相当するアミノ酸残基を推定する工程。
(B)(A)で推定されたリジン残基をコードするアルカリホスファターゼ遺伝子上のコドンを、別のアミノ酸をコードするコドンに置換する工程。
(C)(B)で作製した遺伝子を宿主細胞に形質転換し、該形質転換体を培養して遺伝子を発現させる工程。
(D)(C)における発現産物である改変型アルカリホスファターゼを精製する工程。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、免疫測定の標識酵素として有用なアルカリホスファターゼ、並びに対象物質を高感度に検出可能なアルカリホスファターゼ標識抗体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1)
本発明は、活性中心近傍に位置するリジン残基を他のアミノ酸に置換してなるアルカリホスファターゼである。
【0014】
(1−1)アルカリホスファターゼ
変異を行おうとするアルカリホスファターゼとしては、免疫測定に利用可能な限りにおいては特に限定されない。例えば哺乳類由来、細菌由来のものが挙げられる。
哺乳類由来のものとして、好適な例としてはウシ由来アルカリホスファターゼ、ホッコクアカエビ由来アルカリホスファターゼなどが例示される。ウシ由来の中でも仔牛小腸より単離されるアルカリホスファターゼが好適な例として挙げられる。
細菌由来のものとして、バチルス属細菌由来アルカリホスファターゼ、シェワネラ属細菌由来アルカリホスファターゼなどが例示される。中でもシェワネラ属細菌由来アルカリホスファターゼもより好適な例として挙げられる。シェワネラ属細菌としては、シェワネラ・フォディナエ(例えばNBRC105216株)、シェワネラ・チリケンシス(例えばNBRC105217株)、シェワネラ・バルティカ(例えばOS185株)、シェワネラ・エスピーT3−3株、シェワネラ・エスピーW3−18−1株などが例示できる。これらのうち、NBRC番号が付与されているものについては、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター生物資源課に保管された菌株であり、所定の手続を経ることによってその分譲を受けることができる。
【0015】
変異を行おうとするAPが由来する他の生物としては、例えば、土壌や河川・湖沼などの水系又は海洋に存在する微生物や各種動植物の表面または内部に常在する微生物等を挙げることができる。低温環境、火山などの高温環境、深海などの無酸素・高圧・無光環境、油田など特殊な環境に生育する微生物を単離源としてもよい。
【0016】
変異を行おうとするAPには、微生物から直接単離されるAPだけでなく、単離されたAPを蛋白質工学的な方法によりアミノ酸配列等を改変したものや、遺伝子工学的手法により改変したものも含まれる。例えば、前述の、シェワネラ属細菌等から取得した酵素に改変を加えたものに、さらに本発明の変異を加えた酵素であってもよい。
【0017】
本発明が、アルカリホスファターゼの由来生物を限定しない理由としては以下のとおりである。マレイミド化試薬であるEMCSやGMBSは、酵素表面のリジン残基とこれら試薬の活性エステルとがカップリングすることにより酵素表面に導入される。上述の活性低下の原因として、発明者らは活性中心近傍のリジン残基とマレイミド化試薬がカップリングすることにより、導入された側鎖が基質の活性中心への接触を妨げることにより起こるのではと推定した。後述の実施例のとおり、野生型APと比して活性中心近傍のリジン残基を置換した変異型APのほうがマレイミド化後の活性維持率が高いことが示され、これはすなわち発明者らの上記推定が正しいことを強く示唆する結果である。このようなマレイミド化後の活性低下は、活性中心近傍にリジン残基が存在すれば理論上どのAPにも起こりうることであり、このリジン残基を他のアミノ酸残基に置換することによるこうした活性低下の回避も同様にあらゆるAPに対して有効であると考えられる。こうした修飾・標識後のアルカリホスファターゼの活性低下を回避する方策については、これまでその可能性にすら触れられたことがなかった。
【0018】
(1−2)アルカリホスファターゼの活性中心近傍に位置するリジン残基の特定
アルカリホスファターゼの活性中心近傍に位置するリジン残基の特定は、本書では原則として、3次元立体構造および活性中心が既知のAPの立体構造情報を利用して行う。このようなAPとして、シェワネラ・エスピー・AP1株(Shewanella sp. AP−1)由来AP(ProteinDataBank登録番号:3A52)が例示できる。
【0019】
この場合、まず3次元立体構造が既知のAPについて活性中心近傍のアミノ酸残基を特定し、次に3次元立体構造が既知のAPと変異を導入しようとするAPとでアミノ酸配列のアライメントを行うことで、変異を導入しようとするAPの活性中心近傍に位置するアミノ酸残基を推定することができる。これら残基の中でリジンが存在すれば、すなわちそれが活性中心近傍のリジン残基と推定できる。
【0020】
一次配列のアライメントは、アミノ酸の同一性を計算するために用いられる各種アルゴリズムが利用可能であり、例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、アライメントを行う。
【0021】
3次元立体構造から活性中心近傍に位置するアミノ酸を特定する方法は、該APを構成する全原子ならびに基質アナログとしての無機リン酸の座標情報を含むPDBファイルから原子間の距離を計算可能な各種ソフトを利用可能であり、本書では、ファイアラックス社製のMolFeatを用いることとする。活性中心近傍であることの判断は、基質アナログとしての無機リン酸のリン酸基を構成するリン原子から15オングストローム以内にアミノ酸残基の少なくとも一部が位置することを基準になされる。配列番号2に示す、シェワネラ・エスピーT3−3株由来APの184番目リジンがちょうど基質から15オングストロームの距離にあると推定され、実施例に示すように、この残基を置換することで修飾後の活性残存率が向上している。このことから、少なくとも15オングストローム以内の距離にあるリジン残基であれば、他のアミノ酸への置換によりマレイミド化による活性低下を回避する効果が期待できることが理解される。
【0022】
上記の方法で活性中心近傍に位置するリジン残基が特定できない場合は、変異を行おうとするAPの3次元立体構造情報より特定することが出来る。変異を行おうとするAPの高純度精製品に無機リン酸もしくは基質アナログを加えたものを常法に従って結晶化し、X線結晶構造解析を行うことで3次元立体構造情報が得られ、基質のリン酸基もしくはリン酸基に相当する官能基の座標およびAPを構成する原子の座標から、活性中心近傍のリジン残基を特定できる。また、変異を行おうとするAPのアミノ酸配列から3次元立体構造を各種構造予測ソフトを用いて構造を予測し、この情報から同様に活性中心近傍に位置するリジン残基を推定することが可能である。利用可能な立体構造予測ソフトとしては、例えばDiscovery Studio (accelrys製)、MOE(Chemical Computingu Group製)、Desert Scientific Software(Infocom製)、あるいはSwiss Institute of Bioinfomaticsがオンラインで無償公開しているSWISS−MODELなどが例示される。
【0023】
上記のいずれかの方法で、あるAPの活性中心近傍に位置するリジン残基が特定できた場合、今度はそのAPを基準に、さらに他のAPの活性中心近傍に位置するリジン残基を特定することが出来る。
【0024】
アルカリホスファターゼの配列上に位置する、活性中心近傍に位置すると特定されるリジン残基を以下具体的に例示する。
上述のPCT/JP2012/053924に記載されている、シェワネラ・エスピー・T3−3株由来AP(配列番号2)の場合、161番目および184番目リジンが該当する。これは、後述の実施例5に示すように、3次元立体構造および活性中心が既知のシェワネラ・エスピー・AP1株由来のAPとの構造比較によって特定された。
【0025】
他のシェワネラ属由来もしくはシェワネラ属と近縁の属由来APなどT3−3株と高い同一性を有する配列にあっては、T3−3株由来AP配列との一次配列アライメントの結果、これら161番目および184番目のリジンに相当するリジン残基がこれに該当する。例えば、配列番号16に示すシェワネラ・フォディナエ NBRC105216株由来のAPにあっては157番目および180番目リジンが、また配列番号18に示すシェワネラ・チリケンシス NBRC105217株由来のAPも同様に157番目および180番目リジンが、活性中心近傍に位置すると推定される。
また例えば、配列番号11〜14に示す、ウシ小腸由来アルカリホスファターゼの場合、配列番号11のCIAP Iにあっては100番目リジンが、配列番号12に示すCIAP IIにあっては81番目リジンが、配列番号13のCIAP IIIにあっては100番目リジンが、配列番号14のCIAP IVにあっては100番目および127番目リジンが、活性中心近傍に位置すると特定される。
さらに配列番号10に示すヒト由来アルカリホスファターゼにあっては、81番目および87番目リジンが、活性中心近傍に位置すると特定される。
ヒトやウシ小腸由来APのアミノ酸配列と高い同一性を有するAPにあっては、上記ヒトもしくはウシ小腸由来AP配列との一次配列アライメントの結果、上記リジンに相当するリジン残基がこれに該当する。
【0026】
(1−3)置換アミノ酸
活性中心近傍のリジン残基を置換する他のアミノ酸とは、リジン以外であってアルカリホスファターゼ活性を維持しうるものであれば特に限定しないが、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの脂肪族アミノ酸、グリシン、セリン、スレオニン、メチオニン、プロリンなどの親水性アミノ酸、グルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性アミノ酸、アルギニン、ヒスチジンなどリジン以外の塩基性アミノ酸などが例示される。これらの中で、疎水性が低くかつ側鎖の小さいグリシン、アラニン、セリン、もしくはリジン残基と同じ塩基性アミノ酸であり、特性に大きな影響を及ぼさないと推定されるアルギニンが好適な例として挙げられる。これらの中で、セリンおよびアルギニンがさらに好適な例として挙げられ、この中でセリンが最も好適な例として挙げられる。
【0027】
(2)改変型アルカリホスファターゼの作製方法
また本発明の別の態様は、改変型アルカリホスファターゼの作製方法である。その方法は、(A)アルカリホスファターゼの活性中心近傍に位置するリジン残基を特定する工程、
(B)(A)で特定または推定されたリジン残基をコードするアルカリホスファターゼ遺伝子上のコドンを、別のアミノ酸をコードするコドンに置換する工程、
(C)(B)で作製した遺伝子を宿主細胞に形質転換し、該形質転換体を培養して遺伝子を発現させる工程、
(D)(C)における発現産物である改変型アルカリホスファターゼを精製する工程、
を含むものである。
【0028】
(2−1)
アルカリホスファターゼの活性中心近傍に位置するリジン残基を特定する工程は、既に(1−1)で述べた方法で実施することができる。
【0029】
(2−2)
特定されたリジン残基をコードするアルカリホスファターゼ遺伝子上のコドンの、別のアミノ酸をコードするコドンへの置換は、アルカリホスファターゼ遺伝子配列上における上述のリジン残基をコードするコドンを別のコドンに置き換えた遺伝子を作製し、これを宿主細胞に形質転換し、該形質転換体を培養して遺伝子を発現させ、発現産物である改変型アルカリホスファターゼを精製することにより実施することが出来る。このような変異型アルカリホスファターゼ遺伝子の作製は、設計した改変型AP遺伝子配列全長を化学合成により行うことも可能であり、また、野生型アルカリホスファターゼ遺伝子を鋳型にミスマッチプライマーを使用してDNAを複製することによっても可能である。
【0030】
(2−3)
本発明のAPは、好ましくは、該蛋白質をコードする遺伝子を担持する発現ベクターを含んでなるか、もしくは該遺伝子をゲノムDNA中に挿入してなる形質転換体の培養物から単離精製することにより製造することができる。
【0031】
本発明のAPをコードするDNAを導入する宿主細胞は、後述するように組換え発現系が確立しているものであれば、特に制限されないが、好ましくは大腸菌、枯草菌などのバクテリア、放線菌、麹菌、酵母といった微生物宿主並びに昆虫細胞、動物細胞、高等植物等が挙げられる。
【0032】
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pBluescript SK(-)、pBluescript KS(+)など、酵母由来プラスミドとして、例えばpSH19、pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして、例えばpUB110、pTP5、pC194などが挙げられる。また、ウイルスとして、λファージなどのバクテリオファージや、SV40、ウシパピローマウイルス(BPV)等のパポバウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)等のレトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニヤウイルス、バキュロウイルスなどの動物および昆虫のウイルスが例示される。
【0033】
特に、目的の宿主細胞内で機能的なプロモーターの制御下にAPをコードするDNAが配置されたAP発現ベクターを使用することが好ましく、使用されるベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で機能して、その下流に配置された遺伝子の転写を制御し得るプロモーター領域(例えば宿主が大腸菌の場合、trpプロモーター、lacプロモーター、lecAプロモーター等、宿主が枯草菌の場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等、宿主が酵母の場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、宿主が哺乳動物細胞の場合、SV40由来初期プロモーター、MoMuLV由来ロングターミナルリピート、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター)と、該遺伝子の転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有し、該プロモーター領域と該ターミネーター領域とが、少なくとも1つの制限酵素認識部位、好ましくは該ベクターをその箇所のみで切断するユニークな制限部位を含む配列を介して連結されたものであれば特に制限はないが、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有していることが好ましい。さらに、挿入されるAPをコードするDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。
宿主細胞として細菌を用いる場合、一般に発現ベクターは上記のプロモーター領域およびターミネーター領域に加えて、宿主細胞内で自律複製し得る複製可能単位を含む必要がある。また、プロモーター領域は、プロモーターの近傍にオペレーターおよびShine−Dalgarno(SD)配列を包含する。
宿主として酵母,動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、発現ベクターは、エンハンサー配列、AP mRNAの5’側および3’側の非翻訳領域、ポリアデニレーション部位等をさらに含むことが好ましい。
【0034】
作成した組換えベクターを導入する宿主生物としては、組換え発現系が確立している大腸菌、枯草菌などのバクテリア、放線菌、麹菌、酵母といった微生物宿主並びに昆虫細胞、動物細胞、高等植物等を挙げることができるが、中でもタンパク質発現能力に優れている大腸菌を用いるのが好ましい。組換えプラスミドを導入する方法としてはエレクトロポレーションによる導入のほか、塩化カルシウム等薬品処理によりコンピテント化した宿主であればヒートショックによる導入も可能である。宿主ベクターへの目的組換えプラスミドの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの各種薬剤耐性遺伝子に代表されるマーカーとAP活性とを同時に発現する微生物を検索すればよく、例えば薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつAPを発現する微生物を選択すればよい。
【0035】
本発明のAPは、上記のようにして調製されるAP発現ベクターを含む形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物からAPを回収することによって製造することができる。
【0036】
使用される培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース,デキストラン,可溶性デンプン,ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素〔例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム),ビタミン類,抗生物質(例えばテトラサイクリン,ネオマイシン,アンピシリン,カナマイシン等)など〕を含んでいてもよい。
【0037】
培養は当分野において知られている方法により行われる。下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されるものではない。
宿主が細菌,放線菌,酵母,糸状菌等である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜9である培地である。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地[Miller. J., Exp. Mol. Genet, p.431, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1972)]等が例示される。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常14〜43℃で約3〜72時間行うことができる。宿主が枯草菌の場合、必要により通気・攪拌をしながら、通常30〜40℃で約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母の場合、培地として、例えばBurkholder最少培地 [Bostian. K.L. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980)]が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が動物細胞の場合、培地として、例えば約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)[Virology, 8, 396 (1959)]、RPMI1640培地[J. Am. Med. Assoc., 199, 519 (1967)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)] 等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が昆虫細胞の場合、培地として、例えばウシ胎仔血清を含むGrace’s培地[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 8404 (1985)]等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
【0038】
これら培地には、APを安定化させるための金属塩を添加してもよく、そのような金属塩としては、好ましくはマグネシウム塩および/又は亜鉛塩が用いられる。これら金属塩は、培養する細胞に毒性を示さない範囲において設定すればよく、マグネシウム塩であれば終濃度0.001mM〜10mM、亜鉛塩であれば0.001mM〜1mMが好ましい添加量の範囲として例示されるが、この範囲に限定されない。
【0039】
(2−4)
APの精製は、AP活性の存在する画分に応じて、通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。
培養物の培地中に存在するAPは、培養物を遠心または濾過して培養上清(濾液)を得、該培養上清から、例えば、塩析、溶媒沈澱、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性PAGE、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことにより得ることができる。
【0040】
一方、細胞質に存在するAPは、培養物を遠心または濾過して細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解、浸透圧ショック、および/またはトライトン−X100等の界面活性剤処理などにより、細胞およびオルガネラ膜を破砕(溶解)した後、遠心分離や濾過などによりデブリスを除去して可溶性画分を得、該可溶性画分を、上記と同様の方法で処理することにより単離精製することができる。
【0041】
組換えAPを迅速且つ簡便に取得する手段として、APのコード配列のある部分(好ましくはNまたはC末端)に、金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列(例えば、ヒスチジン、アルギニン、リシン等の塩基性アミノ酸からなる配列、好ましくはヒスチジンからなる配列)をコードするDNA配列を、遺伝子操作により付加して宿主細胞で発現させ、該細胞の培養物のAP活性画分から、該金属イオンキレートを固定化した担体とのアフィニティーによりAPを分離回収する方法が好ましく例示される。金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列をコードするDNA配列は、例えば、APをコードするDNAをクローニングする過程で、APのC末端アミノ酸配列をコードする塩基配列に該DNA配列を連結したハイブリッドプライマーを用いてPCR増幅を行ったり、あるいは該DNA配列を終止コドンの前に含む発現ベクターにAPをコードするDNAをインフレームで挿入することにより、APコード配列に導入することができる。また、精製に使用される金属イオンキレート吸着体は、遷移金属、例えばコバルト、銅、ニッケル、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等、好ましくはコバルトまたはニッケルの二価イオン含有溶液を、リガンド、例えばイミノジ酢酸(IDA)基、ニトリロトリ酢酸(NTA)基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)基等を付着したマトリックスと接触させて該リガンドに結合させることにより調製される。キレート吸着体のマトリックス部は通常の不溶性担体であれば特に限定されない。
あるいは、タグとしてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、HA、FLAGペプチドなどを用いてアフィニティー精製することもできる。
【0042】
上記精製工程において、必要に応じて膜濃縮、減圧濃縮、活性化剤および安定化剤添加等の処理を行うこともできる。これら工程に用いる溶媒としては特に限定されないが、pH6〜9程度の範囲において緩衝能を有するK−リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、GOODの緩衝液等に代表される各種緩衝液が好ましい。また、APの安定性を担保するために、これら緩衝液中に金属塩を添加してもよく、そのような金属塩としては、好ましくはマグネシウム塩および/又は亜鉛塩が用いられる。これら金属塩は、APの安定化に奏効する範囲において設定すればよく、マグネシウム塩であれば終濃度0.001mM〜10mM、亜鉛塩であれば0.001mM〜1mMが好ましい添加量の範囲として例示されるが、この範囲に限定されない。
【0043】
かくして得られるAPが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該タンパク質が塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
【0044】
精製酵素は液状で産業利用に供することも可能であるが、粉末化し、あるいはさらに造粒することもできる。液状酵素の粉末化は定法により凍結乾燥することでなされる。また、液状で提供する場合、緩衝剤、金属塩、防腐剤を含むのが好ましく、また必要に応じて凍結防止剤、界面活性剤等を含むのが好ましい。緩衝剤としてはリン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩、トリエタノールアミン塩酸塩、GOODの緩衝剤などが好適に選択されるがこれらに限定されない。緩衝剤の濃度は、溶液のpHを一定に保持しうる濃度であればよく特に限定されないが、好ましくは1mM〜500mMの範囲であり、より好ましくは2mM〜200mMの範囲である。また、溶液のpHは、APの活性を安定に維持しうる範囲であることが好ましく、好ましくはpH6〜9の範囲である。また、金属塩としては好ましくはマグネシウム塩および/又は亜鉛塩が用いられ、濃度はAPの安定化に奏効する範囲において設定すればよく、マグネシウム塩であれば終濃度0.001mM〜10mM、亜鉛塩であれば0.001mM〜1mMが好ましい添加量の範囲として例示されるが、この範囲に限定されない。防腐剤としては、アジ化物や抗生物質、プロクリン150、プロクリン300等が挙げられるが、これらに限定されない。また、凍結防止剤としてはグリセリンやジメチルスルフオキシドなど非タンパク質のものが好ましい。さらに界面活性剤を加える場合にあっては、TritonX−100, Tween20, Tween80, エマルゲンA60, エマルゲン430, Brij35等が好ましく選択される。
【0045】
(3)改変型アルカリホスファターゼを標識してなるコンジュゲート、および、該コンジュゲートを用いる免疫測定方法、該コンジュゲートを含む免疫測定試薬
また、本発明の別の態様は、上述のアルカリホスファターゼによって標識されてなるコンジュゲートであり、標識の対象となる物質はたとえば核酸プローブ、ビオチンなどの生体物質、ポリペプチド・アビジン・抗体などのタンパク質などが好適に選択される。標識の方法は、マレイミド法が好ましく選択される。ELISAや免疫診断試薬において使用されるAP標識抗体・AP標識抗原の作製方法並びにそれらを用いた免疫測定の方法については「超高感度酵素免疫測定法」(石川榮治著、学会出版センター刊)などに詳しい。
【0046】
典型的な免疫測定方法の一例は、まず測定対象となる物質の一次抗体を含む溶液を添加・インキュベートすることにより固相に吸着させる。この固相は反応層として用いる容器であってもよく、また反応層とは別に用意した磁性ビーズ等であってもよい。一次抗体を吸着させた後、溶液を除いて洗浄バッファーで数回リンスして非吸着物質を除く。洗浄バッファーは抗体が安定に存在しうる中性付近のpH領域で緩衝能を有するものを利用可能であり、また洗浄能を高めるために界面活性剤を含んでいてもよい。洗浄後の固相は、さらにウシ血清アルブミンや不活性化型AP等のタンパク質を含んだ液に浸漬され、インキュベートすることによりブロッキングを行う。ブロッキング後の固相は前出の洗浄バッファーで洗浄の後、測定対象となるサンプルに接触させ、一定時間インキュベートすることで、測定対象物を一次抗体に吸着させる。サンプル溶液を完全に除き、前出の洗浄バッファーで洗浄ののち、AP標識二次抗体を含む溶液を添加し一定時間インキュベートすることにより、固相上の一次抗体に捕捉された測定対象物にAP標識二次抗体を吸着させる。溶液を完全に除き、前出の洗浄バッファーで洗浄ののち、APの基質を添加して活性を検出する。APの基質としては、活性の検出方法が比色法であればp−ニトロフェニルリン酸や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸が、蛍光法であれば4−メチルウンベリフェリルリン酸が、発光法であれば1,2−ジオキセタン系もしくはアクリダン系発光基質からなる各種発光基質を利用可能である。これらの中で、本発明のAPは特に発光基質に対する反応性に優れており、これを用いる方法がより好適に選択される。発光基質としては、たとえばAMPPD、CSPD、CDP−star、Lumigen PPD、Lumi−Phos530、APS−5などが挙げられるが、これらに限定されない。あらかじめ測定対象物質の標準液を用いて作成した検量線より、測定対象物質を定量する。
【0047】
典型的な免疫測定試薬の構成の一例は、反応層、一次抗体が固定化され、かつウシ血清アルブミンや不活性化型AP等のタンパク質でブロッキングされた固相、測定対象である抗原の標準液、APが標識された二次抗体、反応層中でサンプルや二次抗体を反応させた後に洗浄するための洗浄液、APの基質溶液、使用マニュアルを含む。APの基質としては、活性の検出方法が比色法であればp−ニトロフェニルリン酸や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸が、蛍光法であれば4−メチルウンベリフェリルリン酸が、発光法であれば1,2−ジオキセタン系もしくはアクリダン系発光基質からなる各種発光基質を利用可能である。これらの中で、本発明のAPは特に発光基質に対する反応性に優れており、これを用いる方法がより好適に選択される。発光基質としては、たとえばAMPPD、CSPD、CDP−star、Lumigen PPD、Lumi−Phos530、APS−5などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
活性測定例
本発明に述べるAP活性は、特に断りがない限り以下の方法で測定されたものである。
まず、下記の溶液A・Bを調製する。
A:1Mジエタノールアミン緩衝液 (pH9.8)
B:0.67M p−ニトロフェニルリン酸 (溶液Aに溶解する)
溶液A2.9mlと溶液B0.1mlとをキュベット(光路長=1.0cm)に調製し、37℃で5分間予備加温する。AP溶液0.1mlを添加してゆるやかに混和し、水を対照に37℃に制御された分光光度計で405nmの吸光度変化を3〜5分間記録し、その直線部分から1分間あたりの吸光度変化を求める(ΔOD
TEST)。盲検は酵素の代わりに酵素を溶解しているバッファーを0.1ml加え、同様に1分間あたりの吸光度変化を求める(ΔOD
BLANK)。これらの値を用いて、下記の式よりAP活性を求める。
AP活性(U/ml)={(ΔOD
TEST−ΔOD
BLANK)×3.1}/{18.2×1.0×0.1}
3.1:AP溶液添加後の反応液量(ml)
18.2:上記測定条件における、p−ニトロフェノールのミリモル分子吸光係数(cm
2/μmol)
1.0:光路長(cm)
0.1:酵素溶液の添加量(ml)
【0049】
タンパク質の定量および比活性の算出例
本発明に述べるタンパク質量は280nmの吸光度を測定することにより測定したものである。すなわち、280nmにおける吸光度が0.1〜1.0の範囲となるように酵素溶液を蒸留水で希釈し、蒸留水を用いてゼロ点補正を行った吸光度計を用いて280nmの吸光度(Abs)を測定する。本発明に述べるタンパク質濃度は、1Abs≒1mg/mlと近似し、吸光度の測定と測定した溶液の希釈倍率とを乗じた値で示したものである。また、本発明に述べる比活性とは、本測定方法によるタンパク質量として1mgあたりのAPの活性(U/mg)であり、この際のAP活性は、上記活性測定例に従って測定することにより得られる値である。
【0050】
マレイミド基定量方法例
本発明におけるマレイミド基の定量方法は、以下に示すものである。
まず、マレイミド化AP 50μlを400μlの0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)と混合し、さらに50μlの0.5mM 2−MEAを加えて30℃20分インキュベートする。盲検として、450μl の0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に50μlの0.5mM 2−MEAを加えて30℃20分インキュベートする。さらに5mM 4−PDSを20μl添加し、30℃10分インキュベートの後、324nmにおける吸光度を測定する(A324
sample)。盲検は、450μl の0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に50μlの0.5mM 2−MEAを加えて同様の操作を行い、324nmにおける吸光度を測定する(A324
blank)。これらの値を用いて、下記の式によりマレイミド基濃度を求める。
マレイミド基濃度(mM)= (A324
blank−A324
sample)×520/(19.8×50)
520:液全量のボリューム(μl)
19.8:ミリモル分子吸光係数
50:サンプルのボリューム(μl)
なお、AP1分子あたりのマレイミド基数は、測定に使用したAP溶液について上述の方法でタンパク質濃度を測定し、APの分子量100000からAPのミリモル濃度を算出し、マレイミド基濃度をAPのミリモル濃度で割ることにより決定できる。
【0051】
以下、本発明を具体的に実施例として示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0052】
[AP産生菌株の取得]
福井県敦賀市の敦賀湾沿岸より採取した海中土砂サンプルを、50μg/ml 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)を含むLB寒天培地(pH7.5)に塗布し、25℃で培養した。培地上に形成されたコロニーのうち、BCIPのリン酸エステルが加水分解されたことによる青色を呈しているコロニーを純化した。この菌株を、日本薬局方「遺伝子解析による微生物の迅速同定法」に記載される10F/800Rの各プライマーを用いてコロニーダイレクトPCRにより16SrRNAの配列を構成するDNA領域の一部を増幅した。この配列をNCBI−BLASTで検索したところ、シェワネラ属に属する細菌と推定されたため、この菌株をShewanella sp. T3−3株と名づけた。
【実施例2】
【0053】
[野生型AP遺伝子のクローニング]
Shewanella sp. T3−3株を試験管中の5mlLB培地に植菌し、30℃で24時間振とう培養した。培養液を1.5ml容エッペンドルフチューブに入れ、冷却遠心機で12000rpm5分遠心し、上清を吸引除去することにより、菌体を得た。この菌体より、ゲノムDNA抽出キット(TOYOBO製、NPK−1)を用いて、該キットに添付のマニュアルに従ってゲノムDNAを取得した。このゲノムDNAを制限酵素BamHIもしくはBglIIで消化させ、DNA精製キット(TOYOBO製、NPK−6)を用いて精製し、制限酵素を除いた。このDNA断片を、BamHIで消化し精製したpBR322と混合し、混合液と等量のライゲーション液(TOYOBO製、LigationHigh)を加えて16℃で一晩インキュベートした。このライゲーション溶液を大腸菌JM109株コンピテントセル(TOYOBO製、コンピテントハイJM109)に添加し、ヒートショックによりプラスミドを形質転換することで、T3−3株のゲノムDNAライブラリーを作製した。50μg/mlのBCIPおよび100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地にこのライブラリーを植菌して30℃で培養し、形質転換コロニーを形成させた。形成されたコロニーをうち青色を呈したものを爪楊枝でつき、試験管中の5mlLB培地(100μg/mlのアンピシリンを含む)に植菌し、30℃で16時間振とう培養した。この培養液より、プラスミド抽出キット(TOYOBO製、NPK−3)を用いてT3−3株由来AP遺伝子を含むプラスミド(pBRT3−3LPP)を抽出、精製した。得られたプラスミドは、約6kbのインサートを有しており、この配列をシーケンス解析することにより、AP遺伝子全長およびその隣接領域の配列を決定した。決定されたAP遺伝子の塩基配列を配列番号1に、またこの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【実施例3】
【0054】
[大腸菌宿主での野生型APの発現]
AP遺伝子全長並びにT3−3株AP遺伝子のプロモーター領域を含む配列をカバーし、かつそれぞれの5‘末端部にBamHIサイトを有するようにプライマーを作製し(配列番号3、4)、このプライマーを用いてプラスミド(pBRT3−3LPP)を鋳型にPCRを行った。増幅されたDNA断片は、1%アガロースを含むTAEゲルにアプライし電気泳動を行い、UVを照射しながら増幅断片のバンドを切り出し、DNA精製キット(NPK−6)を用いてゲルからのDNAの抽出・精製を行った。このゲノムDNA断片を制限酵素BamHIで消化し、同制限酵素処理したpBluescprSK(−)にライゲーションすることで発現プラスミド(pBST3−3LPP)を作製した。ライゲーション後のプラスミドを大腸菌C600株にエレクトロポレーションにより導入し、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布、30℃で一晩培養することにより、形質転換コロニーを形成させた。この形質転換コロニーを500ml容坂口フラスコ中の60mlLB培地(100μg/mlのアンピシリンを含む)に一白金耳植菌し、30℃180rpmで一晩振とう培養した。この培養液全量を10L容ジャーファーメンター中の6L生産培地(1.2%ペプトン、2.4%酵母エキス、0.1%NaCl、0.1mM硫酸亜鉛、100μg/mlのアンピシリン、pH7.0)に全量投入し、通気量2L/分、攪拌380rpm、温度30℃で48時間攪拌通気培養した。これにより、800U/mlのAPを産生させた。
【実施例4】
【0055】
[大腸菌組換え野生型APの精製]
実施例3で得られた培養液を500ml容遠心管に分注し、高速冷却遠心装置で8000rpm30分遠心し、上清をデカントで除去することにより菌体を得た。菌体を1.5Lの20mMトリス塩酸バッファー(pH7.5)に懸濁し、フレンチプレス破砕機により圧力80MPaで破砕した。破砕液に5%(w/v)ポリエチレンイミンを対液3%添加し、生成した固形分を高速冷却遠心装置で8000rpm30分遠心により沈降させ除いた。この液に0.15飽和の硫酸アンモニウムを溶解させ、生じた固形分を高速冷却遠心装置で8000rpm30分遠心することにより除いた。さらに、終濃度0.55飽和となるように硫酸アンモニウムを追加して溶解させ、高速冷却遠心装置で8000rpm30分遠心し、デカントにより上清を除いてAPを含む沈殿を得た。この沈殿を90mlの20mMトリス塩酸バッファー(pH7.5、かつ1mMの塩化マグネシウムを含む)を加えて溶解させた。この溶液を20mMトリス塩酸バッファー(pH7.5、かつ1mMの塩化マグネシウムを含む)で緩衝化したG−25セファロースゲル(GEヘルスケア製)を用いて脱塩した。この液を、20mMトリス塩酸バッファー(pH7.5、かつ1mMの塩化マグネシウムを含む)で緩衝化したDEAEセファロースゲル(GEヘルスケア製)に吸着させ、同バッファーでNaCl濃度を0.5Mまで上昇させることによりグラジエント溶出を行った。AP活性を有する画分を集め、0.05飽和となるよう硫酸アンモニウムを溶解した。この溶液を20mMトリス塩酸バッファー(pH7.5、かつ0.05飽和の硫酸アンモニウムおよび1mMの塩化マグネシウムを含む)で緩衝化したOctylセファロースゲル(GEヘルスケア製)にアプライ、同バッファーを通液しつづけて非吸着画分を回収した。この溶液に終濃度0.2飽和となるように硫酸アンモニウムを追加溶解させ、20mMトリス塩酸バッファー(pH7.5、かつ0.2飽和の硫酸アンモニウムおよび1mMの塩化マグネシウムを含む)で緩衝化したPhenylセファロースゲル(GEヘルスケア製)にアプライし、同バッファーで硫酸アンモニウム濃度を0まで下げることによりグラジエント溶出した。APを含む画分をあつめ、20mMトリエタノールアミン(pH7.5、かつ1mMの塩化マグネシウムおよび0.1mMの硫酸亜鉛を含む)で緩衝化したG−25セファロースゲルで脱塩し、精製T3−3株由来組換えAPとした。このAP溶液について比活性を測定したところ、6090U/mgであった。
【実施例5】
【0056】
[T3−3株由来APの活性中心近傍に位置するリジン残基の推定]
シェワネラ・エスピー・AP1株 (Shewanella sp. AP−1)由来APの立体構造情報(ProteinDataBank登録番号:3A52)の活性中心に位置する硫酸(基質であるリン酸エステルのアナログとして使用)から15オングストローム以内に存在するアミノ酸残基を、MolFeat v.3.6(フィアラックス社製)を用いて検索した。続いて、T3−3株由来APの配列である配列番号2に示すアミノ酸配列について、配列番号9に示すシェワネラ・エスピー・AP1株 (Shewanella sp. AP−1)由来APアミノ酸配列との一次配列アライメントにより、AP1株由来APの活性中心近傍に位置するアミノ酸残基に相当するT3−3株由来AP配列上の残基を決めた。これら挙げられた推定残基のうち、リジン残基が置換によりAPの改変に効果がある残基である。すなわち、配列番号2の中では161番目および184番目リジンが、活性中心近傍に位置するリジン残基と推定された。
【実施例6】
【0057】
[活性中心近傍に位置すると推定されるリジン残基を置換した改変型アルカリホスファターゼの作製]
まず、184番目リジンをセリンに置換するために、pBST3−3LPPを鋳型に配列番号5、6に示すミスマッチプライマーおよびPCRキット(東洋紡製KOD plus)を用いて複製反応を行った。反応液組成および反応条件はキットに添付されているマニュアルに記載の通常のPCRの推奨条件に従った。複製産物を含む反応液50μLに制限酵素DpnIを2μL加えて37℃2時間処理することにより、鋳型のpBST3−3LPPを消化し、消化産物を大腸菌JM109株(TOYOBO製コンピテントハイJM109)にヒートショックにより形質転換を行い、SOC培地を加えて37℃1時間振とうした後100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布、30℃で一晩培養することにより、形質転換コロニーを形成させた。形質転換コロニーを爪楊枝でついて100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地に植菌、30℃一晩振とう培養した。この培養液より、プラスミド抽出キット(TOYOBO製、NPK−3)を用いてプラスミドを抽出、精製した。プラスミド中のAP遺伝子のシーケンスを解析した結果、184番目リジンをコードするコドンAAGがセリンをコードするTCGに変換(すなわち、配列番号1に示す塩基配列のうち550番目のAがTに、551番目のAがCにそれぞれ変換)されていることを確認し、このプラスミドをpBST3−3LPP184Sと名づけた。さらに161番目のリジンをセリンに置換するために、pBSpBST3−3LPP184Sを鋳型に配列番号7,8に示すミスマッチプライマーおよびPCRキット(東洋紡製KOD plus)を用いて複製反応を行った。反応液組成および反応条件はキットに添付されているマニュアルに記載の通常のPCRの推奨条件に従った。複製産物を含む反応液50μLに制限酵素DpnIを2μL加えて37℃2時間処理することにより、鋳型のpBST3−3LPPを消化し、消化産物を大腸菌JM109株(TOYOBO製コンピテントハイJM109)にヒートショックにより形質転換を行い、SOC培地を加えて37℃1時間振とうした後100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布、30℃で一晩培養することにより、形質転換コロニーを形成させた。形質転換コロニーを爪楊枝でついて100μg/mlのアンピシリンを含む5mlのLB培地に植菌、30℃一晩振とう培養した。この培養液より、プラスミド抽出キット(TOYOBO製、NPK−3)を用いてプラスミドを抽出、精製した。プラスミド中のAP遺伝子のシーケンスを解析した結果、161番目リジンをコードするコドンAAAがセリンをコードするTCGに変換(すなわち、配列番号1に示す塩基配列のうち481番目のAがTに、482番目のAがCに、483番目のAがGにそれぞれ変換)されていることを確認し、このプラスミドをpBST3−3LPP161S184Sと名づけた。これらプラスミドを用いて、実施例3および4に記載された方法に従って形質転換株の作製・培養およびAPの精製を行って改変APであるK184S単変異およびK161S+K184S二重変異酵素を作製した。
【実施例7】
【0058】
[野生型および改変型APのマレイミド化後の残存活性比較]
実施例4および実施例6で作製した野生型および変異型APについて、それぞれ以下の要領でマレイミド化を行った。まず、各AP2mgを含む500μLの溶液をセロファンチューブに入れ、透析バッファー(50mMホウ酸ナトリウム、1mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、pH=7.6)を含むジョッキに入れ、バッファーを数回置換しながら一晩透析した。透析液に10μLのEMCS溶液を加え、30℃で30分インキュベートした。なお、この際、AP分子のマレイミド基導入効率を変化させるためににEMCS濃度を0.2〜1.0mMの範囲で変化させた。この溶液を脱塩用スピンカラムを用いてバッファーを0.1Mトリス塩酸塩、1mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、pH=7.6に置換してマレイミド化AP溶液とした。このマレイミド化APについて比活性およびマレイミド基導入数を測定した。結果を
図1に示す。野生型APではマレイミド化によって比活性が低下し、K184S単変異酵素ではマレイミド化後のAPの比活性残存率が野生型よりも高く、さらにK161S+K184S二重変異酵素ではマレイミド化後もほぼ完全に元の比活性を保っていることが示された。すなわち、活性中心近傍のリジン残基を置換することにより、マレイミド基導入後の活性低下が抑制されることが示された。
【実施例8】
【0059】
[改変型APと市販のウシ小腸由来APとのマレイミド化後の反応性比較]
実施例6で作製したK161S+K184S二重変異酵素およびウシ小腸由来AP(Native酵素、比活性6000U/mg)について、それぞれ実施例7の要領に従ってマレイミド化を行った。但し、マレイミド化反応中のEMCS濃度を0.25〜1mMの範囲で変化させた。マレイミド化前およびマレイミド化後のAPについてそれぞれ濃度10μg/mlとなるよう希釈バッファー(30mMトリエタノールアミン塩酸塩、1mM塩化マグネシウム、0.1mM塩化亜鉛、pH=7.6)を用いて希釈し、あらかじめBSAでコーティングした96ウエルELISAプレート(nunc製96F MAXISORP BLACK MICROWELL SH)に10μLずつを注入し、37℃で予備加温した発光基質溶液(Lumigen製Lumi−phos530)50μLを添加して発光量をルミノメーター(PerkinElmer製Wallac 1420 ARVO MX)を用いて測定した。各APのマレイミド基導入数と相対発光強度(ウシ小腸由来APの非マレイミド化酵素を用いた際の発光強度を100とした相対値)のプロットを
図2に示す。現在標識用酵素として広く用いられているウシ小腸由来APではマレイミド基の導入数上昇に従って単位タンパク質あたりの発光量が減少しているのに対し、K161S+K184S二重変異酵素ではマレイミド基の導入数にかかわらず一定の発光量を示した。
【実施例9】
【0060】
[哺乳類由来APにおける活性中心近傍のリジン残基の特定または推定]
立体構造が決定しているヒト由来APの立体構造情報(ProteinDataBkank登録番号:3A52)の活性中心に位置するリン酸基(基質であるリン酸エステルのアナログとして使用)から15オングストローム以内に存在するアミノ酸残基を、MolFeat v.3.6(フィアラックス社製)を用いて検索した。配列番号10に示すヒト由来APにおける活性中心近傍に位置するリジン残基は、81番目リジンおよび87番目リジンである。また、ヒト由来APのアミノ酸残基のうち活性中心から15オングストローム以内に位置するアミノ酸残基を特定し、該アミノ酸配列と各種ウシ小腸由来APアミノ酸配列(配列番号11〜14)とのアライメントを行うことにより、活性中心近傍に位置するアミノ酸残基を推定し、さらにこの中でリジン残基をピックアップした。このように推定されたウシ小腸由来APにおける活性中心近傍のリジン残基は、配列番号11、13にあっては100番目リジンが、配列番号12にあっては81番目リジンが、配列番号14にあっては100番目リジンおよび127番目リジンがこれに該当する。これらリジン残基を他のアミノ酸に置換することにより、リジン残基を介したマレイミド化等の修飾を行った後も修飾前の活性を維持しうるAPに改変することが可能である。
【実施例10】
【0061】
[他のシェワネラ属細菌由来アルカリホスファターゼ遺伝子の取得と活性中心近傍のリジン残基の推定]
独立行政法人製品評価技術基盤機構より、シェワネラ・フォディナエ NBRC105216株およびシェワネラ・チリケンシス NBRC105217株を購入し、それぞれ実施例2の要領に従って菌体からゲノムDNAを抽出し、ライブラリを作製、AP遺伝子を含むプラスミドを取得し、AP遺伝子配列を決定した。決定されたシェワネラ・フォディナエ NBRC105216株由来AP遺伝子の塩基配列を配列番号15に、概AP遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号16に示す。また、決定されたシェワネラ・チリケンシス NBRC105217株由来AP遺伝子の塩基配列を配列番号17に、概AP遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号18に示す。これらの配列について、実施例5の要領に従って活性中心近傍に位置するリジン残基の推定を行った。このように推定された残基は、配列番号16に示すシェワネラ・フォディナエ NBRC105216株由来APにあっては157番目および180番目リジンが、また配列番号18に示すシェワネラ・チリケンシス NBRC105217株由来APにあっても同様に157番目および180番目リジンがこれに該当する。T3−3株同様、これらアミノ酸残基を置換することで、リジン残基を介したマレイミド化等の修飾を行った後も修飾前の活性を維持しうるAPに改変することが可能である。