特許第6041006号(P6041006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6041006-土木材料用還元材 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041006
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】土木材料用還元材
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20161128BHJP
   C04B 18/16 20060101ALI20161128BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B09B3/00 304J
   C04B18/16ZAB
   C09K17/02 P
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-32136(P2015-32136)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-178097(P2015-178097A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2015年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-37919(P2014-37919)
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克則
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭児
(72)【発明者】
【氏名】桑山 道弘
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−093946(JP,A)
【文献】 特開2005−036159(JP,A)
【文献】 特開2005−152781(JP,A)
【文献】 特開平09−105105(JP,A)
【文献】 特開2002−59141(JP,A)
【文献】 特開平8−259946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
C04B 18/16
C09K 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeO量が8質量%以上、T-Fe量が10質量%以上、Al量とFe量の合計が20質量%未満、CaO/SiO(質量比)が1.0以上2.0未満の製鋼スラグ(A)と、未エージングの高炉徐冷スラグ(B)とからなり、
製鋼スラグ(A)は、80℃温水に10日間浸漬した際の膨張率が1.5%以下であり、
製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)の質量比が20:80〜80:20であることを特徴とする土木材料用還元材。
【請求項2】
高炉徐冷スラグ(B)は、水:スラグ=10:1の質量部割合で水と混合し、200rpmで6時間振とう後、ろ過したときのチオ硫酸イオンの浸出量が30mg/L以上となるスラグであることを特徴とする請求項1に記載の土木材料用還元材。
【請求項3】
製鋼スラグ(A)は、SiO量とAl量の合計が40質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の土木材料用還元材。
【請求項4】
製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)は、粒径が10mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の土木材料用還元材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の土木材料用還元材を、一部または全部がコンクリート廃材からなる土木材料に混合することを特徴とする土木材料の改質方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の土木材料用還元材による土木材料の改質方法であって、土木材料用還元材を構成すべき製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)を、一部または全部がコンクリート廃材からなる土木材料にそれぞれ添加したのち、混合することを特徴とする土木材料の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価クロム等が微量溶出する可能性がある土木材料の環境特性を改善するための材料(還元材)に関するものであり、特に、コンクリート廃材を主体とする土木材料に好適な還元材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設廃材等として発生するコンクリート廃材を、路盤材、再生砂、土工材(例えば、埋め戻し材)等のような土木材料として利用することが広く行われている。ところで、高度成長期などに生産されたセメントには、その製造工程で混入するクロムに由来する6価クロムが微量に含まれることがあることが知られている。セメントが一旦コンクリートとして固化してしまえば、セメントからの6価クロム溶出のおそれは殆どない。ただし、中性化(劣化)が進んだコンクリートを細かく砕いた場合には、土壌環境基準を超える6価クロムの溶出の可能性が指摘されている。
【0003】
また、一般の土壌においても、おかれた環境や周辺の排水、あるいは自然由来によって、有害物質に汚染される場合があり、環境基準値を超える場合も発生しており、たとえば、6価クロムや砒素といった重金属類やトリクロロエチレン、ダイオキシン等の有機化合物が土壌環境基準等で上限値を定められている。
6価クロムは、還元して3価にすることによって、溶解度を大幅に低減し、安全性を確保できることから、還元材を混合することで溶出抑制する方法が良く知られており、還元材として、硫酸第一鉄を用いる方法(例えば、特許文献1など)、硫黄系還元材を用いる方法(例えば、特許文献2など)、鉄粉を用いる方法(例えば、特許文献3など)などが知られている。
【0004】
しかし、硫酸第一鉄は、速効性はあるものの、効果がすぐに失われてしまう欠点がある。また、硫黄系還元材は、比較的長期の還元性能が維持されるが、速効性を確保するためには、材料の粒度や特性を特定範囲に決めることが望ましいことが指摘されている。また、鉄粉は、同じ鉄系の還元材である硫酸第一鉄に比べて長期的な還元効果が期待できるものの、実際には、スラリー状にして混合することによる地盤の軟弱化などが指摘されている。これは、鉄粉と対象材料の混合条件に十分留意しないと、均質混合が難しいためである。
【0005】
このような問題に対応する技術として、特許文献4〜6には、粒度や混合等の条件を限定した高炉徐冷スラグをコンクリート廃材に混合することで、微量のクロム溶出を抑制する技術が示されており、この技術によって6価クロムの溶出特性が大幅に低下することが確認されている。しかし、さらに詳細な調査を行った結果、コンクリート廃材を処理する際に、周辺の土などが一緒に搬入されてコンクリート廃材と一緒に処理されたり、現地土木資材が併用されたりすることで、コンクリート廃材に様々な材料(土壌など)が混合される場合があり、このような場合に、条件によっては還元性能が低下することがあることが判った。
【0006】
一方、特許文献7〜9には、製鋼スラグを土壌改良に使用する技術が示されている。これらのうち、特許文献7の方法では脱硫スラグを用いており、硫黄による還元能力を期待したものであるが、酸化鉄や鉄粉の効果は不明瞭である。また、特許文献8には、製鋼スラグとアルカノールアミンからなる捕集材による有害物質の処理方法が示されており、同文献では、製鋼スラグのみを用いた場合には、種々の妨害性のアニオン濃度が高い環境下では効果が期待できないとしている。また、特許文献9には、重金属を含む廃棄物を転炉スラグ等の製鋼スラグを用いて安定化処理する方法が示されている。ただし、この方法では、温水環境下で共存させるなど、特殊な処理場と温度場が要求されており、土木資材との混合のような簡便な方法での溶出抑制の可能性は明確ではない。
【0007】
また、特許文献10には、高炉徐冷スラグと製鋼スラグとからなる有害物質低減材が示されており、この技術は、高炉徐冷スラグにより還元効果を発揮させ、製鋼スラグのFeとAlで有害物質を不溶化するというものである。この技術では、重金属類の還元と不溶化が実現できると考えられるが、同文献で製鋼スラグであるとしている、FeとAlの濃度が高い酸化性のスラグは、一般的な鉄鋼製造プロセス(高炉一貫製鉄)で発生する製鋼スラグの組成と大きく異なっている。参考として、鉄鋼スラグ協会HPに示されている代表的な転炉系スラグの組成(T-Fe中のFeO:Feは1:1〜2:1)と電気炉系スラグの組成を表1に示す。特許文献10でも、使用する製鋼スラグは、カルシウムフェライト又はカルシウムアルミノフェライトを20%以上含有すること、カルシウムフェライトとはCaO源を含む原料と、Fe源を含む原料とを混合して、キルンや電気炉で熱処理して得られる物質の総称であること(段落0016)が記載されており、特許文献10で使用する製鋼スラグとは、電気炉系酸化スラグか、一般的な鉄鋼製造プロセス(高炉一貫製鉄)で発生する製鋼スラグを原料として成分調整・熱処理したものであると考えられる。また、特許文献10の技術は、上記の物質による反応機構から明らかなように、製鋼スラグが有する金属FeやFeOの反応を有効に活用するものではない。
【0008】
【表1】
【0009】
一方、特許文献11には、製鋼スラグの金属FeやFeOの還元機能に着目した、特定組成を有する製鋼スラグからなる土壌改良材が提案されている。この土壌改良材は、T-Fe量が15質量%以上、FeO量が10質量%以上、CaO/SiOが2以上5未満の製鋼スラグからなるもので、土壌に対して還元効果が発揮される。また、同文献には、土壌の特性が変動する場合には、製鋼スラグに未エージングの高炉徐冷スラグを混合することが有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−85224号公報
【特許文献2】特許第3299174号公報
【特許文献3】特開2001−198567号公報
【特許文献4】特許第4692064号公報
【特許文献5】特許第4972242号公報
【特許文献6】特許第4972243号公報
【特許文献7】特開2003−206172号公報
【特許文献8】特開2005−74280号公報
【特許文献9】特開2000−37676号公報
【特許文献10】特許第4264523号公報
【特許文献11】特開2011−93946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コンクリート廃材は、路盤材や埋め戻し材に適用されることが多く、この場合、一般の土壌に較べて体積安定性が同時に必要となる。これは、路盤材や埋め戻し材は、締め固めなどをして対荷重や平坦性を確保した状態で維持される必要があるためである。したがって、コンクリート廃材を主体とする土木材料には、体積安定性を確保しつつ、還元特性を有する還元材を適用する必要があるが、特許文献11に示される土壌改良材では、適切な体積安定性を確保できないことが判った。
【0012】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、コンクリート廃材などの土木材料に微量に含まれる6価クロム等を還元できる優れた還元性能を有し、土木材料からの6価クロム等の溶出を効果的に抑制できるとともに、土木材料の適切な体積安定性を確保することができる土木材料用還元材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決できる最適な還元材を見出すべく検討を重ねた結果、(i)コンクリート廃材を主体とする土木材料を対象とする場合には、CaO/SiOが比較的低い製鋼スラグでも所望の還元性能を発揮できること、(ii)一方において、土木材料の体積安定性の観点からは、還元材としてCaO/SiOが比較的低く且つ低膨張性の製鋼スラグを用いる必要があること、(iii)製鋼スラグに未エージングの高炉徐冷スラグを混合し、複数の還元ルートを与えることで、対象材料が変化することによる溶出抑制効果の変動を抑えられること、などの事実を見出した。
【0014】
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]FeO量が8質量%以上、T-Fe量が10質量%以上、Al量とFe量の合計が20質量%未満、CaO/SiO(質量比)が1.0以上2.0未満の製鋼スラグ(A)と、未エージングの高炉徐冷スラグ(B)とからなり、製鋼スラグ(A)は、80℃温水に10日間浸漬した際の膨張率が1.5%以下であり、製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)の質量比が20:80〜80:20であることを特徴とする土木材料用還元材。
【0015】
[2]上記[1]の土木材料用還元材において、高炉徐冷スラグ(B)は、水:スラグ=10:1の質量部割合で水と混合し、200rpmで6時間振とう後、ろ過したときのチオ硫酸イオンの浸出量が30mg/L以上となる高炉徐冷スラグであることを特徴とする土木材料用還元材。
[3]上記[1]または[2]土木材料用還元材において、製鋼スラグ(A)は、SiO量とAl量の合計が40質量%以下であることを特徴とする土木材料用還元材。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの土木材料用還元材において、製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)は、粒径が10mm以下であることを特徴とする土木材料用還元材。
【0016】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの土木材料用還元材を、一部または全部がコンクリート廃材からなる土木材料に混合することを特徴とする土木材料の改質方法。
[6]上記[1]〜[4]のいずれかの土木材料用還元材による土木材料の改質方法であって、土木材料用還元材を構成すべき製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)を、一部または全部がコンクリート廃材からなる土木材料にそれぞれ添加したのち、混合することを特徴とする土木材料の改質方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の土木材料用還元材は、コンクリート廃材などの土木材料に微量に含まれる6価クロム等を還元できる優れた還元性能を有し、土木材料からの6価クロム等の溶出を効果的に抑制できるとともに、土木材料の適切な体積安定性を確保することができる。このため、コンクリート廃材を路盤材などに用いる場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】還元材の製鋼スラグと高炉徐冷スラグの配合比率(質量比)と、還元材を添加した土木材料(コンクリート廃材+土壌等)の6価クロム溶出値比との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の土木材料用還元材は、製鋼スラグ(A)と未エージングの高炉徐冷スラグ(B)とからなり、製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)の質量比は20:80〜80:20である。また、製鋼スラグ(A)は、FeO量が8質量%以上、T-Fe量が10質量%以上、Al量とFe量の合計が20質量%未満、CaO/SiO(質量比)が1.0以上2.0未満である組成を有するとともに、80℃温水に10日間浸漬した際の膨張率が1.5%以下である。
【0020】
製鋼スラグ(A)は、これに含まれるFeOや金属Feにより6価クロム等の還元作用が得られる。製鋼スラグ(A)としては、転炉脱炭スラグ、溶銑予備処理スラグ(例えば、脱燐スラグ、脱珪スラグ)、電気炉スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。製鋼スラグのなかでも溶銑予備処理スラグが好ましく、そのなかでも特に、Fe分の存在比率や体積安定性の観点から脱燐過程で発生するスラグ(一般には脱燐スラグ)が好ましい。
【0021】
製鋼スラグ(A)は、FeO量が8質量%以上、好ましくは10質量%以上、T-Fe量(トータル鉄元素量)が10質量%以上、好ましくは15質量%以上とする。FeO量が8質量%未満、T-Fe量が10質量%未満では、十分な還元性能が得られない。製鋼スラグ中の鉄分は、FeO以外に金属鉄や水酸化鉄、3価の鉄酸化物などで存在することが考えられるが、還元作用の観点から金属鉄が1質量%以上含まれることが望ましく、2質量%以上含まれることがより好ましい。
【0022】
製鋼スラグ(A)のCaO/SiO(質量比)は、1.0以上2.0未満、好ましくは1.2〜1.9、より好ましくは1.2〜1.7とする。
特許文献11の発明では、土壌用の還元材としてCaO/SiO(質量比)が比較的高い製鋼スラグを用いている。これに対して本発明では、土木材料用の還元材、特にコンクリート廃材を主体とする土木材料用の還元材について検討した結果、CaO/SiO(質量比)が比較的低い製鋼スラグを用いた場合でも、有効な還元作用が得られることを見出した。この理由は必ずしも明らかではないが、適用材料であるコンクリート廃材からCaが供給され、これが製鋼スラグからの溶出Caの不足を補い、その結果、有効な還元作用が得られるものと考えられる。一方、土木材料の体積安定性の観点からは、製鋼スラグのCaO/SiO(質量比)は低いことが非常に望ましい。CaO/SiO(質量比)が2.0以上では、2CaO・SiOという鉱物相に対してCaOが余剰となり、遊離CaOが発現しやすくなる。遊離CaOは、水分と容易に反応し、Ca(OH)となって体積膨張が起こる。特に路盤材や再生砂などの土木材料は、締め固めして利用される場合が多く、通常の土壌に比べて膨張の影響が出やすくなる。還元材に使用する製鋼スラグ(A)のCaO/SiO(質量比)が2.0以上では、蒸気エージングなどの追加的な処理を施さない場合には、体積膨張により路盤面の変形や盛り上がりなどの問題を生じやすい。
一方、CaO/SiO(質量比)が1.0未満では製鋼スラグの冷却時に非晶質化しやすくなり、Fe2+の供給速度が低下しやすくなることがあるので、好ましくない。
【0023】
製鋼スラグ(A)は、Al量とFe量の合計を20質量%未満とする。Al量の比率が高すぎると、AlがFeO等と化合物を形成することで、実効的なFe2+の供給速度が減少する。また、Feは、本発明の還元材の還元性能に対しては寄与していないと考えられ、むしろ通常の製鋼スラグでFeが増えることはFeOが減少することともなるため、少ない方が好ましい。このためAl量とFe量の合計は20質量%未満とする。
【0024】
また、SiO量が高すぎる場合にも、SiOがFeO等と化合物をつくることで、Fe2+の供給速度が減少する。このためSiO量とAl量の合計は40質量%以下が好ましい。
製鋼スラグ(A)は、80℃温水に10日間浸漬した際の膨張率を1.5%以下、好ましくは0.7%以下とする。製鋼スラグ(A)の膨張率が1.5%を超えると、土木材料の体積安定性が低下する。なお、ここでの膨張率は、JIS−A−5015「道路用鉄鋼スラグ」の附属書に記載される水浸膨張試験方法によるものである。
【0025】
未エージングの高炉徐冷スラグ(B)は、これから供給される多硫化物やチオ硫酸などが6価クロム等の還元作用を有する。
高炉徐冷スラグのエージングとは、JIS−A−5015「鉄鋼スラグ路盤材」に規定されるものであり、未エージングの高炉徐冷スラグとは、破砕後のエージング期間が6ヶ月に満たないものである。
このように高炉徐冷スラグとして未エージングのものを用いるのは、未エージングの高炉徐冷スラグからは多硫化物やチオ硫酸イオンが浸出するのに対し、大気中でエージングを進めた高炉徐冷スラグでは表面から硫化物の酸化が進み、硫酸塩(SO2−)に変わり、還元能力が大きく低下してしまうためである。
【0026】
未エージングの高炉徐冷スラグは、特に、コンクリート廃材に対して有効な還元性材料である。また、未エージングの高炉徐冷スラグなかでも、還元能力が高いものがより望ましく、特に、水:スラグ=10:1の質量部割合で水と混合し、200rpmで6時間振とう後、ろ過したときのチオ硫酸イオンの浸出量が30mg/L以上、好ましくは50mg/L以上となる高炉徐冷スラグを用いることが好ましい。チオ硫酸イオンは、還元剤として知られるイオンであるが、高炉徐冷スラグに含まれる硫黄成分が一部酸化された状態で溶出してくる。チオ硫酸イオンの浸出量が30mg/L未満の高炉徐冷スラグでも効果は期待できるが、妨害性のアニオンなどの影響に対して安定した還元効果を得るためには、チオ硫酸イオンの浸出量が30mg/L以上、好ましくは50mg/L以上のものが望ましい。
【0027】
製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)の粒径に特別な制限はないが、表面積が大きいほど還元性物質が土木材料に供給されやすくなるので、粒径は10mm以下が好ましい。同様の理由から、粒径5mm以下の比率が90質量%以上の粒度を有することがより好ましく、さらに、粒径2mm以下の比率が90質量%以上の粒度を有することが特に好ましい。スラグの粒径は、当該篩い目を有する篩いを用いて規定される粒径を意味する。篩いの寸法は、JIS1−Z−8801等に代表されるものが使用できる。
【0028】
製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)の配合比率は、質量比で20:80〜80:20とする。この範囲を外れると、両スラグの還元作用を複合化することによる効果が十分に得られない。
製鋼スラグ(T-Fe量:16.7質量%、FeO量:10質量%、金属Fe量:4質量%、Al量:5.5質量%、Fe量:7質量%、SiO量:25質量%、CaO/SiO2:1.2、膨張率:0.2%)と未エージングの高炉徐冷スラグ(チオ硫酸浸出量70mg/L)を混合した本発明条件を満足する還元材(製鋼スラグと高炉徐冷スラグの質量比が20:80、50:50、80:20の3水準の還元材)、上記製鋼スラグ単味からなる還元材、上記未エージングの高炉徐冷スラグ単味からなる還元材をそれぞれ用い、これら還元材をコンクリート廃材に土壌等を混合した土木材料(コンクリート廃材:96質量%)に対して5質量%添加して、環境庁告示46号法による溶出試験方法に基づく溶出試験を行い、6価クロムの溶出量を測定した。コンクリート廃材とこれに混合した土壌等には、いくつかの場所で採取した建設発生土を使用し、これにより異なる種類の土木材料を対象とした試験を行った。
【0029】
この試験での6価クロム溶出抑制効果について、6価クロム溶出量比(還元材の添加なしの場合の6価クロム溶出量を“1”とし、それに対する6価クロム溶出量比)の平均値とバラツキの程度を図1に示す。これによると、製鋼スラグ単体からなる還元材は、6価クロムの溶出抑制効果は認められるものの、その程度はそれほど高くない。一方、未エージングの高炉徐冷スラグ単体からなる還元材は、6価クロムの高い溶出抑制効果は認められ、平均値は低いが、ケースによって6価クロムの溶出抑制効果が小さくなることがあり、抑制効果のバラツキが大きくなっている。これに対して、製鋼スラグと未エージングの高炉徐冷スラグを混合した還元材(製鋼スラグと高炉徐冷スラグの質量比が20:80、50:50、80:20の3水準の還元材)は、未エージングの高炉徐冷スラグ単体からなる還元材に較べて、平均値はさほど変化せずに、バラツキが小さくなっている。このように製鋼スラグと未エージングの高炉徐冷スラグを混合した本発明条件を満足する還元材は、2つの還元作用が複合化することによって、6価クロムの溶出抑制効果が幅広い条件(対象材料)に対して有効に得られることが判る。
【0030】
本発明で規定する製鋼スラグの組成条件は、例えば、CaO/SiO(質量比)、
Al量、SiO量については、精錬中の副原料(石灰、珪石等)の調整などにより、また、T-Fe量、FeO量、Fe量および金属Fe量については、製鉄操業時の酸化鉄の添加条件や酸素吹きの条件の調整、磁選条件の調整、冷却条件の調整などにより、それぞれ実現することができる。また、スラグの膨張率は、CaO成分の投入原料の選定、投入量や投入タイミングの調整などにより実現することができる。
【0031】
本発明の還元材が適用される土木材料とは、例えば、路盤材、再生砂、土工材(例えば、埋め戻し材、炉床材、路盤材以外の敷設材など)などである。特に、上述したような理由から、一部または全部がコンクリート廃材からなる土木材料が好適であり、とりわけ、コンクリート廃材を主体とする土木材料、一般には50質量%超、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上がコンクリート廃材からなる土木材料(ただし、コンクリート廃材のみからなる土木材料を含む。)が好適である。コンクリート廃材が50質量%を超える土木材料であれば、本発明の効果が十分に期待できるが、土の鉱物相によっては反応などに影響が現れたり、品質の変動が大きくなる可能性があるため、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上がコンクリート廃材からなる土木材料が好適である。
コンクリート廃材としては、建設廃材が最も代表的なものであるが、これに限定されるものではない。また、廃材という性質上、不可避的にコンクリート以外の廃材が混入することを妨げない。
【0032】
したがって、以上述べたような本発明の土木材料用還元材を用いて土木材料を改質する場合の好ましい実施形態では、土木材料用還元材を、一部または全部がコンクリート廃材からなる土木材料に混合する。より好ましくは、土木材料用還元材を、コンクリート廃材を主体とする土木材料(一般に50質量%超、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上がコンクリート廃材からなる土木材料)に混合する。
【0033】
本発明の土木材料用還元材を土木材料に混合する方法としては、製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)を混合した状態の土木材料用還元材を土木材料に加えて混合してもよいし、土木材料用還元材を構成すべき製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)を、土木材料にそれぞれ(別々に)添加したのち、混合するようにしてもよい。後者の場合、例えば、1つの混合ラインで、製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)をそれぞれ計量して土木材料に別々に添加した後、全体を混合するようにしてもよい。また、製鋼スラグ(A)または高炉徐冷スラグ(B)を土木材料に添加して混合したのち、残りの高炉徐冷スラグ(B)または製鋼スラグ(A)を添加して混合するようにしてもよい。
土木材料用還元材を土木材料に混合する方法(製鋼スラグ(A)と高炉徐冷スラグ(B)を、土木材料にそれぞれ添加したのち、混合する場合を含む)に特別な制限はなく、例えば、ミキサー、シューター、ショベル等を用いてバッチ式に混合してもよいし、ホッパー等に投入することで連続的に混合してもよい。
【実施例】
【0034】
還元材用の製鋼スラグとしては、鉄鋼製造プロセスの脱燐過程で発生した溶銑予備処理スラグ(粒度0−5mm)を用いた。同じく未エージングの高炉徐冷スラグとしては、銑鉄を製造する際に高炉から発生するスラグを放流・徐冷した後、破砕し、放流から1ヶ月以内にロッドミルで再破砕したスラグ(粒度0−5mm)を用いた。なお、各スラグは、冷却後にクラッシャーで破砕し、条件にあわせて粒度を整えて使用した。製鋼スラグの組成のうち、金属Fe量は磁選の条件を選択することで調整し、FeO量、Fe量は製鉄操業時の酸化鉄の添加条件や酸素吹きの条件を選択することで調整し、T-Fe量は磁選条件(磁場の強さ、距離など)を選択することで調整し、それぞれ分析値をもとに適用した。T-Fe量は、金属Fe、FeOおよびFeのFe分の合計量である。また、CaO/SiO(質量比)、Al量、SiO量は、副原料添加量を管理し、得られたスラグを選択することで調整し、分析値をもとに適用した。また、製鋼スラグの膨張率は、CaOの投入量を調整し、さらに得られたスラグを膨張試験して確認したものを用いた。
土木材料はコンクリート廃材と土壌の混合物とし、この土木材料に対する還元材の添加量は5質量%とした。なお、篩い分けから、混合物(対象土木材料)中のコンクリート含有率は、発明例1〜8および比較例1〜8では90質量%以上、発明例9では70質量%であった。
【0035】
還元材を添加した土木材料の膨張試験は、JIS−A−5015「鉄鋼スラグ路盤材」の附属書2で規定される方法で測定した。ただし、養生条件を規格の「10日間の加熱−放冷」から「10日間連続80℃加熱」に変更した。その際の最終膨張量が0.5%以下の場合を“○”、0.5%超1.0%以下の場合を“△”、1.0%超の場合を“×”と評価した。
また、溶出試験は、環境庁告示46号法による溶出試験方法で行った。サンプルは、各条件で作成したサンプルを山積みし、それの異なる場所5ヶ所から採取し、平均と幅を確認した。表2中の数値は、還元材の添加なしの場合の6価クロム溶出量を“1”とし、それに対する6価クロム溶出量比である。
それらの試験結果を、還元材の構成(組成など)とともに表2に示す。これによれば、本発明の還元材では、土木材料からの6価クロムの溶出量が小さいバラツキで基準値(0.05mg/L)以下に抑えられ、しかも、土木材料の膨張が小さく、体積安定性も維持できることが判る。
【0036】
【表2】
図1