【実施例1】
【0019】
本願発明に係る選択還元型NOx触媒(以下、単に「NOx触媒」ともいう)の実施例について、本願明細書に添付された図に基づいて説明する。
図1は、本実施例に係るNOx触媒3が搭載される、内燃機関1の排気浄化装置を上段に示し、その下段には、NOx触媒3のモデル構造を表している。
図1に示す内燃機関1は、車両駆動用のディーゼルエンジンである。ただし、内燃機関1としては、ディーゼルエンジンに限られるものではなく、ガソリンエンジン等であってもよい。なお、
図1においては、内燃機関1の吸気系や、排気通路2を流れる排気の一部を吸気系に再循環させるEGR装置等の記載は省略されている。
【0020】
内燃機関1の排気通路2には、排気中のNOxを、アンモニアを還元剤として選択還元するNOx触媒3が配置されている。更に、NOx触媒3において還元剤として作用するアンモニアを生成するために、尿素タンク4に貯留されている、アンモニアの前駆体である尿素水が、NOx触媒3の上流側に位置する供給弁5によって排気中に供給される。供給弁5から供給された尿素水が排気の熱で加水分解されて、アンモニアが生成され、当該アンモニアが順次、NOx触媒3に流れ込んでそこに吸着し、吸着したアンモニアと排気中のNOxとの還元反応(例えば、以下の式1で示す反応)が生じ、NOxの浄化が行われる。
NO+NO
2+2NH
3→2N
2+3H
2O ・・・・(式1)
なお、本実施例では、上記の通り供給弁5から尿素水が供給されるが、それに代えて、アンモニア又はアンモニア水を直接排気に供給してもよい。更に、NOx触媒3の下流側に、そこからスリップしてくるアンモニアを酸化するための酸化触媒が設けられてもよい。
【0021】
NOx触媒3は、触媒基材3a上に触媒粒子を含むスラリーが塗布され、その後の乾燥、焼結工程を経て形成される触媒層3bを有する。なお、NOx触媒3の製造工程については、後述する。触媒層3bでは、破線矩形で抜き出されて示されているように、ゼオライト結晶の一部が、排気中のNOxに対して選択還元性を示す活性成分(後述するCu及びFe)にイオン交換されて形成された1次粒子31が、複数凝集して2次粒子32が形成されており、その2次粒子32同士がバインダ33によって結合されることで、触媒層3bとして触媒基材3a上に固定的に結合される。このように構成されるNOx触媒3に対して排気が流れ込むことで、排気中のNOxが、還元剤のアンモニアとともに触媒層3b内、すなわち、1次粒子31のゼオライト細孔内に拡散していき、1次粒子31内での
上記式1等に従うNOxの選択還元反応に供されることになる。なお、本願発明においては、1次粒子とは触媒粒子の外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子と考えられる粒子をいい、2次粒子はそれが複数凝集して形成されるものである。したがって、2次粒子の凝集形態は、触媒粒子が置かれる環境(温度や湿度等)によって変化し得るものであり、2次粒子に含まれる1次粒子の数は必ずしも一定ではない。
【0022】
ここで、
図2に基づいて、触媒層3bに含まれる触媒粒子の1次粒子31の構造について説明する。
図2は、1次粒子31の概略的構造を示している。また、選択還元型NOx触媒に利用される活性成分は、当該NOx触媒が還元浄化の対象とする動作温度環境等に基づいて適宜選択されるものであるが、一例として、ゼオライト結晶に活性成分をイオン交換した場合の、活性成分としてのCuとFeの触媒温度と還元浄化能(NOx浄化率)の相関を、
図3に示す。そこに示すように、Cuは、概ね250度〜400度の温度領域において良好な還元浄化能を発揮でき、一方で、触媒温度が400度以上である場合には、Feの方が良好な還元浄化能を発揮することができる。これは、Cuは、高温領域においては、酸素と還元剤との反応に選択性を示しやすくなるため、排気中のNOxではなく酸素によって還元剤のアンモニアを酸化してしまい、結果としてCuは、高温領域で還元浄化能が低下してしまうからである。
【0023】
このような活性成分Cu、Feのそれぞれの特性を考慮して、本願発明に係るNOx触媒3を形成する1次粒子31では、ゼオライト結晶の一部が、低温時のNOxに対する選択還元性が高いCuと、高温時のNOxに対する選択還元性が高いFeとがイオン交換される。より具体的には、1次粒子31の表面側の細孔においては、FeがCuと比べて多量にイオン交換され、その内部側の細孔においてはCuがFeと比べて多量にイオン交換されることで、1次粒子31の表面側の細孔ではFeがCuと比べて高濃度で存在し、1次粒子の内部側の細孔ではCuがFeと比べて高濃度で存在する所定の分布が、1次粒子31内に形成されている。当該所定分布は、1次粒子31において、低温時の選択還元性が高いCuの濃度に対する高温時の選択還元性が高いFeの濃度の比率である活性成分比率が、表面側の方が内部側よりも大きくなる分布である。
【0024】
この結果、排気中のNOxがアンモニアとともに1次粒子31外から粒子細孔内に拡散していく過程において、高温活性成分としてのFeがCuより高濃度で存在する高温活性領域31bを経てから、低温活性成分としてのCuがFeより高濃度で存在する低温活性領域31aに至ることになる。このように形成される1次粒子31を含む触媒層3bを有するNOx触媒3は、Cuによる低温領域での良好な選択還元能とFeによる高温領域での良好な選択還元能とを併せ持つことになる。すなわち、NOx触媒3が低温状態(例えば、250度〜400度)にある場合は、1次粒子31に含まれるFeの選択還元能は抑制された状態であるため、触媒粒子内に拡散していくNOxとアンモニアは、高温活性領域31bを通り抜けて、主に低温活性領域31aにおいて上記式1に示すNOx還元反応に供されることになる。したがって、NOx触媒3としては、触媒層3bに含まれる各1次粒子31内の低温活性領域31aによる選択還元能に支えられることで、好適なNOx浄化能を発揮することが可能となる。
【0025】
一方で、NOx触媒3が高温状態(例えば、400度以上)にある場合は、1次粒子31に含まれるFeの選択還元能が十分に発揮され得る状態である。また、1次粒子31に含まれるCuについては、酸素とアンモニアとの選択性が顕著になり、NOxに対する選択還元性が低下していく。しかし、1次粒子31においては、その表面側に高温活性領域31bが配置され、その内部側に低温活性領域31aが配置されている。そのため、NOx触媒3が高温状態にあれば、触媒粒子内に拡散していくNOxとアンモニアは、先ず高温活性領域31bにおいて、上記式1に示すNOx還元反応に供されることになり、そこを経てから低温活性領域31aに至ることになる。NOx触媒3の高温時には、還元剤の
アンモニアは高温活性領域31bにおいてNOx還元浄化のために消費されるため、低温活性領域31aに到達するアンモニア量を減らし、低温活性領域31aでのアンモニアの酸化によるNOx化を抑制することができる。この結果、NOx触媒3は、低温領域から高温領域までの広い動作領域を確保することが可能となる。
【0026】
次に、NOx触媒3の製造工程について、
図4に基づいて説明する。本願発明に係るNOx触媒3は、ゼオライト結晶の一部を、NOxに対して選択還元性を発揮する活性成分(本実施例は、Cu及びFe)でイオン交換することで生成される触媒スラリーを、触媒基材に塗布し、基材壁面に触媒層3bを形成することで製造される。その製造工程の詳細が、
図4のフローに示されている。
【0027】
ここで、1次粒子31におけるゼオライト結晶内での活性成分(Cu、Fe)の分布は、製造工程におけるゼオライト結晶内での活性成分の拡散速度と、ゼオライト結晶の酸点におけるイオン交換の反応速度との関係を制御することで調整可能である。イオン交換は化学反応であるから、イオン交換速度は環境温度の影響を大きく受けやすく、高温環境であるほどイオン交換速度が大きくなる。一方で、活性成分の拡散速度は、イオン交換速度よりかは環境温度の影響は受けにくい。したがって、主に製造工程の温度条件や反応時間等を調整することで、1次粒子31内における活性成分(Cu、Fe)の分布を制御することができる。
【0028】
具体的には、先ず、S101で、所定の高温条件で、ゼオライト結晶に対して活性成分Feのイオン交換処理を行う。所定の高温条件を設定することで、ゼオライト結晶を含む1次粒子で活性成分Feが内部に拡散するに際して、速やかにFeのイオン交換反応が発生し、Feによるイオン交換サイトが形成されることになる。なお、イオン交換反応を行う時間を長くすることで、Feが1次粒子の内部へと拡散することになるので、適宜この反応時間を調整することで、1次粒子の内部におけるFeによるイオン交換サイトの形成の程度を制御することができる。
【0029】
次に、S102では、S101でFeによるイオン交換処理を行った1次粒子に対して、活性成分Cuによるイオン交換処理を行う。このS102におけるイオン交換処理で設定される温度条件は、S101における所定の高温条件よりも低温側の所定の低温条件とされる。このように所定の低温条件を設定することで、S101でゼオライト結晶にイオン交換結合されたFeが溶出してしまうことを防止することができる。そして、1次粒子の表面側の細孔には既にFeがイオン交換されているので、ゼオライト結晶内を拡散していく活性成分Cuは、主に1次粒子の中心側の細孔においてゼオライト結晶とイオン交換反応することになる。この結果、
図2に示すようなFeとCuの所定の分布を有する1次粒子を含む触媒スラリーが生成されることになる。
【0030】
そして、S103では、S102で生成された触媒スラリーが触媒基材3aに塗布され、乾燥、焼結されることで、NOx触媒3が製造される。なお、NOx触媒3における触媒層3bの厚さは、S103における触媒スラリーの塗布条件を適宜調整すればよい。また、上述したように、本願発明に係るNOx触媒3は、その1次粒子31内に上記所定の分布が形成されており、その1次粒子31を含む1種類の触媒スラリーだけを触媒基材3aに塗布し、その後、乾燥、焼結することで、
図1に示す触媒構成が形成されることになる。すなわち、複数種類の触媒スラリーを塗り分ける等の複雑な工程を経ずに、NOx触媒3は製造されることになり、その製造負荷を軽減することができる。
【0031】
ここで、
図4に示す製造工程に沿って生成された1次粒子31の、透過電子顕微鏡に付帯されたエネルギー分散型X線分光法(EDX)を用いた分析装置による測定結果を、
図5に示す。透過電子顕微鏡に付帯されたEDXを用いた分析装置は、測定試料を透過する
電子線によって励起された原子から放出される特性X線の波長と強度から、測定試料に含まれる成分種とその量を測定することが可能である。そこで、当該EDXを用いた分析装置によれば、1次粒子31内の成分分布を把握することが可能となる。ここで、
図5では、その上段(a)に、測定対象となる1次粒子31の略中心を通る断面における活性成分Cu及びFeの含有量のレベルを示し、その下段(b)に、同断面での1次粒子31における活性成分比率のレベルを示す。具体的には、
図5(a)、(b)の各グラフの横軸は、1次粒子31内の略中心を通る軸上の粒子内の位置を表し、縦軸は、
図5(a)では、計測された特性X線に基づいて算出されたCu、Feのそれぞれの含有量を表し、
図5(b)では、当該Cu、Feの含有量から算出された、本発明に係る活性成分比率を表す。そして、
図5(a)では、Feに関する推移を実線で示し、Cuに関する推移を点線で示している。上記の通り、1次粒子31内には活性成分Fe、Cuによる所定の分布が形成されている。そのため、
図5(a)、(b)に示す結果において、CuがFeと比べて高濃度で存在する低温活性領域31aに対応する測定結果領域31a’と、FeがCuと比べて高濃度で存在する高温活性領域31bに対応する測定結果領域31b’とを見出すことができる。
【0032】
また、
図4に示すNOx触媒3の製造のためのイオン交換条件を調整することで、1次粒子31内の活性成分Fe、Cuの分布状況を変えることもできる。例えば、1次粒子31の内部側までFeが拡散するように、イオン交換のための温度条件と反応時間を調整することで、活性成分Fe、Cuの分布においてある程度のグラデーションが生まれるように、すなわち、1次粒子31の表面側から内部側に進むに従い、Fe濃度が減少するとともにCu濃度が増大するように所定の分布を調整してもよい。この場合、活性成分Fe、Cuの分布は、
図5に示すような明確に異なる領域としてではなく、それぞれの含有量や活性成分比率が緩やかに推移するような分布が形成されると考えられる。このような分布においても、1次粒子31の表面側にはCuと比べて高濃度のFeが存在することになるため、上述したように広い動作温度領域を実現することができる。なお、本願発明に係るNOx触媒3は、上記EDXを用いた分析装置以外の装置を利用することでも、1次粒子31内の活性成分Fe、Cuの分布状況を把握することは可能であり、NOx触媒3の特定に当たりその分析手法や分析装置等は限定されるべきではない。
【0033】
ここで、本願発明に係るNOx触媒3と、従来技術に係るNOx触媒であるタンデム型NOx触媒(
図6を参照)、及び二層コート型NOx触媒(
図8を参照)との比較結果について、以下に示す。
【0034】
(1)タンデム型NOx触媒との比較
タンデム型NOx触媒は、排気の流れに沿って2つのNOx触媒を配置して形成される。従来技術では、
図6に示すように一般的なタンデム型NOx触媒は、高温領域でのNOx浄化能を考慮して、活性成分Feとゼオライトとをイオン交換させたFe交換型NOx触媒41が上流側に配置され、その下流側に活性成分Cuとゼオライトとをイオン交換させたCu交換型NOx触媒42が配置されて形成される。Fe交換型NOx触媒41では、触媒基材41b上に、NOxに対する選択還元性を示す活性成分としてFeのみを有する触媒粒子からなる触媒層41aが形成されており、Cu交換型NOx触媒42では、触媒基材42b上に、NOxに対する選択還元性を示す活性成分としてCuのみを有する触媒粒子からなる触媒層42aが形成されている。
【0035】
このように構成されるタンデム型NOx触媒は、低温時には、上流側に配置されたFe交換型NOx触媒41のNOx還元浄化能は良好な状態とは言えないものの、低温領域でNOx還元浄化能を発揮可能なCu交換型NOx触媒42によって、NOx触媒全体のNOx還元浄化能が維持されるように設計されている。また、高温時では、上流側に配置されたFe交換型NOx触媒41のNOx還元浄化能により、排気中のNOxの還元浄化が
行われることになる。なお、このとき、下流側に配置されたCu交換型NOx触媒42では、排気中にアンモニアが存在すれば排気中の酸素との酸化反応によりNOx化を促進させてしまうが、上流側のFe交換型NOx触媒41によって還元剤のアンモニアが消費されるため、当該NOx化は抑制され得る。
【0036】
ここで、冷間始動時における、本願発明に係るNOx触媒3と、上記タンデム型NOx触媒の暖機特性の相違について、
図7に基づいて説明する。
図7の線L3は、冷間始動時のNOx触媒3の触媒温度の推移を表し、線L4は、冷間始動時のタンデム型NOx触媒の下流側に配置されたCu交換型NOx触媒42、すなわち、低温時にNOx還元浄化能を発揮するように設計されたNOx触媒の触媒温度の推移を表している。冷間始動時においては、NOx触媒の暖機完了を決定する要素は、低温領域でのNOxに対する選択還元性が高いCuの活性温度への到達時期である。本願発明に係るNOx触媒3では、1次粒子31内でCuとFeがそれぞれイオン交換されて存在するため、NOx触媒3の触媒温度は、Cuの到達温度と同一視できる。そこで、
図7に示すように、Cuの到達温度がその活性温度に到達した時期をT1とする。
【0037】
一方で、タンデム型NOx触媒におけるCu交換型NOx触媒42は、その上流側にFe交換型NOx触媒41が配置されている。そのため、内燃機関1から送られてくる排気は、先ずFe交換型NOx触媒41によってその一部の熱量が奪われた後にCu交換型NOx触媒42に届くことになる。その結果、内燃機関1からの排気の熱量が同じ場合には、
図7の線L4に示すように、Cu交換型NOx触媒42の温度上昇率は、線L3で示されるNOx触媒3の温度上昇率よりも小さくなる。そのため、Cu交換型NOx触媒42の触媒温度がCu活性温度に到達するには、時間T2(T2>T1)の経過を要することになる。
【0038】
以上より、本願発明に係るNOx触媒3は、従来技術に係るタンデム型NOx触媒と比べて、速やかな冷間始動性能を有することになる。また、タンデム型NOx触媒では、基本的にはFe交換型NOx触媒41とCu交換型NOx触媒42のそれぞれに、対応する動作温度領域でのNOx還元浄化能を担わせる必要があるため、各NOx触媒の容量は、概ね本願発明に係るNOx触媒3と同程度が必要となる。そのため、タンデム型NOx触媒全体としては、その容量は大きくならざるを得ない。
【0039】
(2)二層コート型NOx触媒との比較
二層コート型NOx触媒54は、
図8に示すように、触媒基材53上に、活性成分Feとゼオライトとをイオン交換させた触媒粒子を含む触媒層51と、活性成分Cuとゼオライトとをイオン交換させた触媒粒子を含む触媒層52とが、排気の流れに沿って層状になるように形成されている。より具体的には、一般的な二層コート型NOx触媒は、高温領域でのNOx浄化能を考慮して、活性成分Feを含む触媒層51が、活性成分Cuを含む触媒層52の上に位置するように、二層コート型NOx触媒54は形成される。
【0040】
このように構成される二層コート型NOx触媒は、排気通路2を流れる排気が触媒層の間を拡散することで、排気中のNOxに対する還元浄化能を発揮することになる。例えば、低温時には、上側に配置された活性成分Feを含む触媒層51におけるNOx還元浄化能は良好な状態とは言えないものの、低温領域でNOx還元浄化能を発揮可能な、下側に配置された活性成分Cuを含む触媒層52によって、NOx触媒54全体のNOx還元浄化能が維持されるように設計されている。また、高温時では、上側に配置された活性成分Feを含む触媒層51のNOx還元浄化能により、排気中のNOxの還元浄化が行われることになる。
【0041】
ここで、二層コート型NOx触媒54は、各触媒層51、52における排気の拡散のし
やすさによって、温度に対するNOx触媒54としてのNOx還元浄化能が大きく変動する性質を有する。例えば、
図9や
図10の線L5に示すように、触媒層51、52における排気の拡散のしやすさを大きく設定すると、NOx触媒54の低温におけるNOx浄化能を重視した触媒構成となる。これは、排気が触媒層51はもちろん触媒層52にまで到達しやすくなるようにNOx触媒54が構成されることにより、高温時においても触媒層52に含まれる活性成分Cuの影響、すなわちアンモニアのNOx化の影響を受け、高温領域でのNOx浄化能が低下してしまう一方で、低温時には、その活性成分Cuを含む触媒層52によるNOx還元浄化能を十分に利用することができるからである。また、
図9や
図10の線L6に示すように、触媒層51、52における排気の拡散のしやすさを小さく設定すると、排気が、特に下側に配置された活性成分Cuを含む触媒層52に到達しにくくなり、NOx触媒54の高温におけるNOx浄化能を重視した触媒構成となる。これは、排気が触媒層52に到達しにくいため、低温時において活性成分Cuを含む触媒層52によるNOx還元浄化能を十分に利用できないものの、高温時には、活性成分Feを含む触媒層51によるNOx還元浄化能を十分に利用しつつ、活性成分Cuを含む触媒層52によるアンモニアのNOx化を抑制することが可能となるからである。
【0042】
したがって、
図10に示すように、二層コート型NOx触媒54は、NOxに対する還元浄化能(NOx浄化率)を広い動作温度領域において良好に維持することは困難となり、要求される還元浄化能に応じて、触媒層51、52における排気の拡散のしやすさを適宜設計する必要がある。これに対して、本願発明に係るNOx触媒3では、1次粒子31内でCuとFeがそれぞれイオン交換されて存在するため、
図10の線L7に示すように広い動作温度領域にわたって、NOxに対する還元浄化能を好適に発揮することが可能となり、二層コート型NOx触媒54と比べて優れた温度特性を有することになる。
【0043】
また、二層コート型NOx触媒54の場合、触媒基材53に対して活性成分Feを含む触媒スラリーと活性成分Cuを含む触媒スラリーをそれぞれ塗布しなければならない。そして、各触媒層51、52の厚さや、各触媒層51、52での粒子間隔等の条件は、排気の拡散のしやすさに関連する要素であるため、所望のNOx還元浄化能を得るためには、各触媒層の形成のための製造条件を厳密に管理する必要があり、その製造負荷は少なくない。一方で、本願発明に係るNOx触媒3は、1次粒子31内でCuとFeがそれぞれイオン交換されて存在する1種類の触媒スラリーを触媒基材3aに塗布するため、管理の対象となる触媒層は一つであり、NOx触媒3の製造負荷は、二層コート型NOx触媒54の場合よりも大きく軽減されたものとなる。また、その触媒層が一つであるため該触媒層における排気の拡散のしやすさを、容易に均一に形成でき、以て、触媒層に含まれる触媒粒子を効率的にNOxの還元浄化に利用することが可能となる。