(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筒内に吸入される空気の量を変化させる第1アクチュエータと、筒内に燃料を供給する第2アクチュエータと、筒内の混合気に点火する第3アクチュエータとを有し、第1空燃比による運転と前記第1空燃比よりもリーンな第2空燃比による運転とを選択可能に構成された過給器付き内燃機関の制御装置において、
要求トルクを受信する要求トルク受信手段と、
前記要求トルクの目標空気量への変換に用いる空燃比に対応するパラメータである仮想空燃比を用いて前記要求トルクを達成するための目標空気量を前記要求トルクから逆算する目標空気量算出手段と、
前記要求トルクの基準値以下への減少に応答して前記仮想空燃比を前記第1空燃比から前記第2空燃比へ切り替える仮想空燃比変更手段と、
前記仮想空燃比が前記第1空燃比から前記第2空燃比へ変更された後、目標空燃比を前記第1空燃比から前記第2空燃比へ切り替える目標空燃比切替手段と、
前記目標空気量に基づいて前記第1アクチュエータの操作量を決定し、前記操作量に従って前記第1アクチュエータを操作する第1アクチュエータ制御手段と、
前記目標空燃比に基づいて燃料供給量を決定し、前記燃料供給量に従って前記第2アクチュエータを操作する第2アクチュエータ制御手段と、
前記第1アクチュエータの操作量と前記目標空燃比とから推定されるトルクと前記要求トルクとに基づいて前記要求トルクを達成するための点火時期を決定し、前記点火時期に従って前記第3アクチュエータを操作する第3アクチュエータ制御手段と、を備え、
前記目標空気量算出手段は、
前記仮想空燃比のうち前記要求トルクの目標第1空気量への変換に用いる仮想第1空燃比を用いて前記要求トルクを達成するための目標第1空気量を前記要求トルクから逆算する目標第1空気量算出手段と、
前記仮想空燃比のうち前記要求トルクの目標第2空気量への変換に用いる仮想第2空燃比を用いて前記要求トルクを達成するための目標第2空気量を前記要求トルクから逆算する目標第2空気量算出手段と、を含み、
前記仮想空燃比変更手段は、
前記要求トルクが第1基準値以下へ減少したことに応答して前記仮想第1空燃比を前記第1空燃比から前記第2空燃比へ切り替える仮想第1空燃比変更手段と、
前記要求トルクが前記第1基準値よりも大きい第2基準値以下へ減少したことに応答して前記仮想第2空燃比を前記第1空燃比から前記第2空燃比へ変化させ始め、前記要求トルクが前記第2基準値から前記第1基準値へ向けてさらに減少するのに合わせて、前記仮想第2空燃比を前記第2空燃比へ徐々に変化させる仮想第2空燃比変更手段と、を含み、
前記目標空燃比切替手段は、前記仮想第1空燃比が前記第2空燃比へ変更された後、目標空燃比を前記第1空燃比から前記第2空燃比へ切り替える手段を含み、
前記第1アクチュエータは、
前記過給器の下流側の吸気通路において前記筒内に吸入される空気の吸入特性を変化させる吸入特性可変アクチュエータと、
前記過給器の過給特性を変化させる過給特性可変アクチュエータと、を含み、
前記第1アクチュエータ制御手段は、
前記目標第1空気量に基づいて前記吸入特性可変アクチュエータの操作量を決定し、前記操作量に従って前記吸入特性可変アクチュエータを操作する吸入特性可変アクチュエータ制御手段と、
前記目標第2空気量から算出される目標過給圧に基づいて前記過給特性可変アクチュエータの操作量を決定し、前記操作量に従って前記過給特性可変アクチュエータを操作する過給特性可変アクチュエータ制御手段と、
を含むことを特徴とする過給器付き内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0026】
本実施の形態において制御対象とされる内燃機関(以下、エンジン)は、火花点火式の4サイクルレシプロエンジンである。また、このエンジンはターボ過給器を備えたいわゆる過給リーンバーンエンジンであり、エンジンの運転モードとして、理論空燃比による運転を行うストイキモード(第1運転モード)と、理論空燃比よりもリーンな空燃比による運転を行うリーンモード(第2運転モード)とを選択可能に構成されている。
【0027】
車両に搭載されているECU(Electrical control Unit)は、エンジンに備えられる各種のアクチュエータを操作することでエンジンの運転を制御する。ECUにより操作されるアクチュエータには、空気量を変化させる第1アクチュエータであるスロットル、可変バルブタイミング機構(以下、VVT)及びウエストゲートバルブ(以下、WGV)、筒内に燃料を供給する第2アクチュエータであるインジェクタ、そして筒内の混合気に点火する第3アクチュエータである点火装置が含まれる。スロットルは吸気通路におけるターボ過給器の下流側に設けられ、VVTは吸気バルブに対して設けられ、そしてインジェクタは吸気ポートに設けられている。スロットルとVVTは、ターボ過給器の下流側の吸気通路において筒内へ吸入される空気の吸気特性を変化させる吸気特性可変アクチュエータであり、またWGVはターボ過給器の過給特性を変化させる過給特性可変アクチュエータである。ECUはこれらのアクチュエータを操作してエンジンの運転を制御する。ECUによるエンジンの制御には、ストイキモードからリーンモードへ、或いは、リーンモードからストイキモードへの運転モードの切り替えが含まれている。
【0028】
図1には、本実施の形態に係るECUのロジックがブロック図で示されている。ECUはエンジンコントローラ100とパワートレインマネージャ200を含む。エンジンコントローラ100はエンジンを直接制御する制御装置であって、本発明に係る制御装置に相当する。パワートレインマネージャ200は、エンジンや電子制御式自動変速機、さらにはVSCやTRC等の車両制御デバイスを含む駆動系全体を統合制御する制御装置である。エンジンコントローラ100は、パワートレインマネージャ200から受け取った信号に基づいてエンジンの運転を制御するように構成されている。エンジンコントローラ100とパワートレインマネージャ200は、いずれもソフトウェアによって実現される。詳しくは、メモリに記憶されたプログラムを読み出し、それをプロセッサによって実行することによって、エンジンコントローラ100とパワートレインマネージャ200のそれぞれの機能がECUにおいて実現される。なお、ECUがマルチコアプロセッサを備える場合には、エンジンコントローラ100とパワートレインマネージャ200のそれぞれを異なるコア或いはコアグループに割り当てることができる。
【0029】
図1におけるパワートレインマネージャ200を示すブロック内には、パワートレインマネージャ200が備える種々の機能のうち、エンジンの制御に関係する機能の一部がブロックで表されている。これらブロックのそれぞれに演算ユニットが割り当てられている。ECUには各ブロックに対応するプログラムが用意され、それらがプロセッサによって実行されることで各演算ユニットの機能がECUにおいて実現される。なお、ECUがマルチコアプロセッサを備える場合には、パワートレインマネージャ200を構成する演算ユニットを複数のコアに分散させて割り当てることができる。
【0030】
演算ユニット202は要求第1トルクを計算してエンジンコントローラ100に送信する。図中では、要求第1トルクは“TQ1r”と表記されている。第1トルクは、エンジンに求められる応答性が高くなく、今直ぐでなくとも近い将来に実現されればよい種類のトルクである。要求第1トルクは、パワートレインマネージャ200がエンジンに対して要求する第1トルクの要求値であって、本発明における要求トルク、より詳しくは要求第1トルクに相当する。演算ユニット202には、図示しないアクセルポジションセンサから、アクセルペダルの開度に応答して出力される信号が入力されている。要求第1トルクはその信号に基づいて計算される。なお、要求第1トルクは軸トルクである。
【0031】
演算ユニット204は要求第3トルクを計算してエンジンコントローラ100に送信する。図中では、要求第3トルクは“TQ3r”と表記されている。第3トルクは、第1トルクよりも緊急性或いは優先度が高くエンジンに高い応答性が求められる種類のトルク、すなわち、今直ぐに実現することが求められる種類のトルクである。ここで言う応答性とはトルクを一時的に低下させるときの応答性を意味する。要求第3トルクは、パワートレインマネージャ200がエンジンに対して要求する第3トルクの要求値である。演算ユニット204で算出される要求第3トルクには、電子制御式自動変速機の変速制御のために要求されるトルク、トラクション制御のために要求されるトルク、横滑り防止制御のために要求されるトルク等、車両制御システムから要求されるトルクが含まれている。第1トルクが定常的に或いは長期間にわたってエンジンに求められるトルクであるのに対し、第3トルクはエンジンに対して突発的に或いは短期間の間に求められるトルクであるという側面を持つ。このため、演算ユニット204は、実際にそのようなトルクが必要となるイベントが発生した場合のみ、実現したいトルクの大きさに応じた有効値を出力し、そのようなイベントが発生していない間は無効値を出力する。無効値はエンジンが出力しうる最大軸トルクよりも大きい値に設定されている。
【0032】
演算ユニット206は自動変速機の変速比を算出し、図示しない変速機コントローラに変速比を指示する信号を送信する。変速機コントローラはパワートレインマネージャ200やエンジンコントローラ100と同様にECUの1つの機能として実現されている。演算ユニット206には、エンジンコントローラ100からフラグ信号が入力される。図中では、フラグ信号は“FLG”と表記されている。フラグ信号は運転モードの切り替え中であることを示す信号である。フラグ信号がオンの間、演算ユニット206は自動変速機の変速比を固定する。つまり、運転モードの切り替えを行なっている間は、エンジンの運転状態が大きく変化しないように自動変速機による変速比の変更を禁止することが行われる。
【0033】
演算ユニット208は、所定の条件が満たされたことに応答して、運転モードの切り替えの中止を指示する中止信号をエンジンコントローラ100に送信する。図中では、中止信号は“Stop”と表記されている。所定の条件とは、エンジンの運転状態を大きく変化させる要求がパワートレインマネージャ200から出されることである。例えば、自動変速機の変速比を変更する場合や、触媒の暖機のためにエンジンに対して点火時期や燃料噴射量に関する特別な要求が出される場合には、演算ユニット208から中止信号が出力される。
【0034】
演算ユニット210は要求第2トルクを計算してエンジンコントローラ100に送信する。図中では、要求第2トルクは“TQ2r”と表記されている。第2トルクは第1トルクと同じように定常的に或いは長期間にわたってエンジンに求められるトルクである。第2トルクと第1トルクとの関係は、第1トルクと第3トルクとの関係に類似する。つまり、第1トルクの側から見た場合、第1トルクは、第2トルクよりも緊急性或いは優先度が高くエンジンに高い応答性が求められる種類のトルク、すなわち、より早い時期に実現することが求められる種類のトルクである。要求第2トルクは、パワートレインマネージャ200がエンジンに対して要求する第2トルクの要求値である。パワートレインマネージャ200で計算される3種類の要求トルクを緊急性或いは優先度が高い順、つまり、エンジンに求められる応答性が高い順に並べると、要求第3トルク、要求第1トルク、要求第2トルクの順になる。演算ユニット210は、アクセルペダルの開度に応答する信号に基づいて要求第2トルクを計算する。本実施の形態では、要求第2トルクは本発明における要求トルク、より詳しくは要求第2トルクに相当する。要求第1トルクから一時的なトルクダウン方向のパルス成分を除去したものを要求第2トルクとすることもできる。なお、本実施の形態では、特に記載のない限り要求第2トルクは要求第1トルクと同値になっているものとする。
【0035】
次に、エンジンコントローラ100の構成について説明する。エンジンコントローラ100とパワートレインマネージャ200との間にはインタフェース101、102、103、104、105が設定されている。インタフェース101は本発明における要求トルク受信手段に相当し、インタフェース101では要求第1トルクの受け渡しが行われる。インタフェース102では中止信号の受け渡しが行われる。インタフェース103ではフラグ信号の受け渡しが行われる。インタフェース104では要求第3トルクの受け渡しが行われる。そして、インタフェース105はインタフェース101と同様に本発明における要求トルク受信手段に相当し、インタフェース105では要求第2トルクの受け渡しが行われる。
【0036】
図1におけるエンジンコントローラ100を示すブロック内には、エンジンコントローラ100が備える種々の機能のうち、3種のアクチュエータ、すなわち、第1アクチュエータであるスロットル2、VVT8及びWGV10、第2アクチュエータであるインジェクタ4、及び、第3アクチュエータである点火装置6の協調操作に関係する機能がブロックで表されている。これらブロックのそれぞれに演算ユニットが割り当てられている。ECUには各ブロックに対応するプログラムが用意され、それらがプロセッサによって実行されることで各演算ユニットの機能がECUにおいて実現される。なお、ECUがマルチコアプロセッサを備える場合には、エンジンコントローラ100を構成する演算ユニットを複数のコアに分散させて割り当てることができる。
【0037】
エンジンコントローラ100は、大きく分けて3つの大演算ユニット120、140、160から構成されている。大演算ユニット120はエンジンに対する種々の制御用パラメータの値を計算する。制御用パラメータにはエンジンに対する各種制御量の目標値が含まれる。さらに、目標値には、パワートレインマネージャ200から送信された要求値に基づいて計算されるものと、エンジンの運転状態に関する情報に基づいて大演算ユニット120の内部で計算されるものとが含まれる。なお、要求値はエンジンの状態を考慮することなくパワートレインマネージャ200から一方的に要求される制御量の値であるのに対し、目標値はエンジンの状態によって決まる実現可能な範囲に基づいて設定される制御量の値である。大演算ユニット120は、より具体的には、4つの演算ユニット122、124、126、128、130から構成されている。
【0038】
演算ユニット122は、エンジンに対する制御用パラメータとして、目標空燃比、仮想第1空燃比、仮想第2空燃比、切替用目標効率、及び切替用目標第3トルクを計算する。図中では、目標空燃比は“AFt”と表記され、仮想第1空燃比は“AFh1”と表記され、仮想第2空燃比は“AFh2”と表記され、切替用目標効率は“ηtc”と表記され、切替用目標第3トルクは“TQ3c”と表記されている。目標空燃比は、エンジンに実現される空燃比の目標値であって、燃料噴射量の計算に使用される。一方、仮想空燃比は、
空気量の
トルクへの変換効率を与えるパラメータであって、目標空気量の計算に使用される。切替用目標効率は、運転モードの切り替えのための点火時期効率の目標値であって、目標空気量の計算に使用される。点火時期効率とは、点火時期が最適点火時期であるときに出力しうるトルクに対する実際に出力されるトルクの割合を意味し、点火時期が最適点火時期のときに最大値である1になる。なお、最適点火時期とは、基本的にはMBT(Minimum Advance for Best Torque)を意味し、トレースノック点火時期が設定されている場合には、MBTとトレースノック点火時期のうちより遅角側にある点火時期を意味する。切替用目標第3トルクは、運転モードの切り替えのための第3トルクの目標値であって、運転モードの切り替え時において点火時期効率の計算の切り替えに用いられる。演算ユニット122で計算されるこれら制御用パラメータの値の組み合わせによって、運転モードの切り替えが実行される。演算ユニット122で行われる処理の内容と運転モードの切り替えとの関係については後で詳しく説明する。
【0039】
演算ユニット122には、パワートレインマネージャ200から与えられた要求第1トルク、要求第3トルク、中止信号の他、エンジン回転数等のエンジンの運転状態に関する様々な情報が入力されている。このうち運転モードの切り替えのタイミングの判断に用いられる情報は要求第1トルクである。要求第3トルクと中止信号は運転モードの切り替えが許可されているのか禁止されているのかを判断するための情報として用いられる。中止信号が入力されているとき、及び、有効な値の要求第3トルクが入力されているときには、演算ユニット122は運転モードの切り替えに関わる処理は実行しない。また、演算ユニット122は、運転モードの切り替え中、つまり、運転モードの切り替えのための計算処理を実行している間は、前述のフラグ信号をパワートレインマネージャ200に送信する。
【0040】
演算ユニット124は、エンジンに対する制御用パラメータとして、現在のエンジンの運転状態を維持するか或いは予定されている所定の運転状態を実現させるために必要とされるトルクのうち、第1トルクに分類されるトルクを計算する。ここでは、演算ユニット124で計算されるトルクをその他第1トルクと呼ぶ。図中では、その他第1トルクは“TQ1etc”と表記されている。その他第1トルクには、エンジンがアイドル状態にある場合において所定のアイドル回転数を維持するために必要なトルクのうち、空気量の制御のみによって達成可能な変動の範囲にあるトルクが含まれる。演算ユニット124は、実際にそのようなトルクが必要になった場合のみ有効値を出力し、そのようなトルクが必要のない間は無効値を算出する。無効値はエンジンが出力しうる最大図示トルクよりも大きい値に設定されている。
【0041】
演算ユニット126は、エンジンに対する制御用パラメータとして、現在のエンジンの運転状態を維持するか或いは予定されている所定の運転状態を実現させるために必要とされるトルクのうち、第3トルクに分類されるトルクを計算する。ここでは、演算ユニット126で計算されるトルクをその他第3トルクと呼ぶ。図中では、その他第3トルクは“TQ3etc”と表記されている。その他第3トルクには、エンジンがアイドル状態にある場合において所定のアイドル回転数を維持するために必要なトルクのうち、その達成のためには点火時期の制御が必要となるトルクが含まれる。演算ユニット126は、実際にそのようなトルクが必要になった場合のみ有効値を出力し、そのようなトルクが必要のない間は無効値を算出する。無効値はエンジンが出力しうる最大図示トルクよりも大きい値に設定されている。
【0042】
演算ユニット128は、エンジンに対する制御用パラメータとして、現在のエンジンの運転状態を維持するか或いは予定されている所定の運転状態を実現させるために必要とされる点火時期効率を計算する。ここでは、演算ユニット128で計算される点火時期効率をその他効率と呼ぶ。図中では、その他効率は“ηetc”と表記されている。その他効率には、エンジンの始動時において排気浄化用触媒を暖機するために必要な点火時期効率が含まれる。点火時期効率を低くするほど、燃料の燃焼によって発生したエネルギのうちトルクに変換されるエネルギは少なくなり、その分多くのエネルギが排気ガスとともに排気通路に排出されて排気浄化用触媒の暖機に用いられることになる。なお、そのような効率の実現が必要のない間は、演算ユニット128から出力される効率の値は最大値である1に保持される。
【0043】
演算ユニット130は、エンジンに対する制御用パラメータとして、現在のエンジンの運転状態を維持するか或いは予定されている所定の運転状態を実現させるために必要とされるトルクのうち、第2トルクに分類されるトルクを計算する。ここでは、演算ユニット130で計算されるトルクをその他第2トルクと呼ぶ。図中では、その他第2トルクは“TQ2etc”と表記されている。演算ユニット130は、実際にそのようなトルクが必要になった場合のみ有効値を出力し、そのようなトルクが必要のない間は無効値を算出する。無効値はエンジンが出力しうる最大図示トルクよりも大きい値に設定されている。
【0044】
以上のように構成される大演算ユニット120からは、要求第1トルク、その他第1トルク、目標空燃比、仮想第1空燃比、仮想第2空燃比、切替用目標効率、その他効率、要求第3トルク、切替用目標第3トルク、その他第3トルク、要求第2トルク、その他第2トルクが出力される。これらの制御用パラメータは大演算ユニット140に入力される。なお、パワートレインマネージャ200から与えられる要求第1トルク、要求第3トルク及び要求第2トルクは軸トルクであるが、大演算ユニット120ではこれらを図示トルクに補正することが行われている。要求トルクの図示トルクへの補正はフリクショントルク、補機駆動トルク及びポンプロスを要求トルクに対して加算或いは減算することによって行われる。なお、大演算ユニット120の内部で計算される切替用目標第3トルク等のトルクについては、いずれも図示トルクとして計算されている。
【0045】
次に、大演算ユニット140について説明する。上述のように、大演算ユニット120からは様々なエンジン制御用パラメータが送られてくる。このうち、要求第1トルクとその他第1トルクとは同じカテゴリに属する制御量に対する要求であり、同時には成立し得ない。同様に、要求第3トルクとその他第3トルクと切替用目標第3トルクとは同じカテゴリに属する制御量に対する要求であり、同時には成立し得ない。同様に、切替用目標効率とその他効率とは同じカテゴリに属する制御量に対する要求であり、同時には成立し得ない。同様に、要求第2トルクとその他第2トルクとは同じカテゴリに属する制御量に対する要求であり、同時には成立し得ない。このため、制御量のカテゴリ毎に調停という処理が必要となる。ここでいう調停とは、例えば最大値選択、最小値選択、平均、或いは重ね合わせ等、複数の数値から1つの数値を得るための計算処理であり、複数種類の計算処理を適宜に組み合わせたものとすることもできる。このような調停を制御量のカテゴリごとに実施するため、大演算ユニット140には4つの演算ユニット142、144、146、148が用意されている。
【0046】
演算ユニット142は第1トルクを調停するように構成されている。演算ユニット142には要求第1トルクとその他第1トルクとが入力される。演算ユニット142はそれらを調停し、調停されたトルクを最終的に決定された目標第1トルクとして出力する。図中では、最終的に決定された目標第1トルクは“TQ1t”と表記されている。演算ユニット142における調停方法としては最小値選択が用いられる。したがって、演算ユニット124から有効値が出力されていない場合は、パワートレインマネージャ200から与えられた要求第1トルクが目標第1トルクとして算出される。
【0047】
演算ユニット144は点火時期効率を調停するように構成されている。演算ユニット144には切替用目標効率とその他効率とが入力される。演算ユニット144はそれらを調停し、調停された効率を最終的に決定された目標効率として出力する。図中では、最終的に決定された目標効率は“ηt”と表記されている。演算ユニット144における調停方法としては最小値選択が用いられる。燃費性能の観点からは、点火時期効率は最大値である1になっていることが好ましい。このため、特別なイベントのない限り、演算ユニット122で計算される切替用目標効率も演算ユニット128で計算されるその他効率も最大値である1に保持されている。したがって、演算ユニット144から出される目標効率の値は基本的には1であり、何らかのイベントが発生した場合のみ1よりも小さい値が選択される。
【0048】
演算ユニット146は第3トルクを調停するように構成されている。演算ユニット146には要求第3トルクとその他第3トルクと切替用目標第3トルクとが入力される。演算ユニット146はそれらを調停し、調停されたトルクを最終的に決定された目標第3トルクとして出力する。図中では、最終的に決定された目標第3トルクは“TQ3t”と表記されている。演算ユニット146における調停方法としては最小値選択が用いられる。第3トルクは切替用目標第3トルクも含めて基本的には無効値であり、特定のイベントが発生した場合のみ実現したいトルクの大きさを示す有効値に切り替えられる。したがって、演算ユニット146から出力される目標第3トルクも基本的には無効値であり、何らかのイベントが発生した場合のみ有効値が選択される。
【0049】
演算ユニット148は第2トルクを調停するように構成されている。演算ユニット148には要求第2トルクとその他第2トルクとが入力される。演算ユニット148はそれらを調停し、調停されたトルクを最終的に決定された目標第2トルクとして出力する。図中では、最終的に決定された目標第2トルクは“TQ2t”と表記されている。演算ユニット148における調停方法としては最小値選択が用いられる。したがって、演算ユニット130から有効値が出力されてない場合は、パワートレインマネージャ200から与えられた要求第2トルクが目標第2トルクとして算出される。
【0050】
以上のように構成される大演算ユニット140からは、目標第1トルク、目標効率、仮想第1空燃比、仮想第2空燃比、目標空燃比、目標第3トルク、及び目標第2トルクが出力される。これらの制御用パラメータは大演算ユニット160に入力される。
【0051】
大演算ユニット160はエンジンの逆モデルに相当し、マップや関数で表された複数のモデルで構成されている。協調操作のための各アクチュエータ2、4、6、8、10の操作量は大演算ユニット160で算出される。大演算ユニット140から入力される制御用パラメータのうち、目標第1トルク、目標第3トルク、及び目標第2トルクは何れもエンジンに対するトルクの目標値として扱われる。ただし、目標第3トルクは目標第1トルクに優先する。大演算ユニット160では、目標第3トルクが有効値である場合には目標第3トルクを達成するように、目標第3トルクが無効値である場合には目標第1トルクを達成するように、各アクチュエータ2、4、6、8、10の操作量の計算が行われる。操作量の計算は、目標トルクと同時に目標空燃比と目標効率も達成されるように行われる。つまり、本実施の形態に係る制御装置では、エンジンの制御量としてトルク、効率及び空燃比が用いられ、これら3種類の制御量の目標値に基づいて空気量制御、点火時期制御及び燃料噴射量制御が実施される。
【0052】
大演算ユニット160は複数の演算ユニット182、184、166、186、168、170、172、174、176、178から構成される。これらの演算ユニットのうち空気量制御に関係するものは演算ユニット182、184、166、186、178であり、点火時期制御に関係するものは演算ユニット168、170、172であり、燃料噴射量制御に関係するものは演算ユニット174、176である。以下、空気量制御に関係する演算ユニットから順に、各演算ユニットの機能について説明する。
【0053】
演算ユニット182はさらに2つの演算ユニット190、192から構成されている。演算ユニット190には目標第1トルクと目標効率と仮想第1空燃比とが入力される。また、演算ユニット192には目標第2トルクと目標効率と仮想第2空燃比とが入力される。演算ユニット182は本発明における目標空気量算出手段に相当する。
【0054】
演算ユニット190は本発明における目標第1空気量算出手段に相当し、目標効率と仮想第1空燃比とを用いて、目標第1トルクを達成するための目標空気量(以下、目標第1空気量)を目標第1トルクから逆算する。この計算では、目標効率及び仮想第1空燃比は空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータとして用いられる。なお、本発明においては空気量とは筒内に吸入される空気の量であり、それを無次元化した充填効率或いは負荷率は本発明における空気量の均等の範囲内にある。
【0055】
演算ユニット190は、まず、目標第1トルクを目標効率で除算することによって空気量制御用目標トルクを算出する。目標効率が1よりも小さい場合には、空気量制御用目標トルクは目標第1トルクよりも大きくなる。これは目標第1トルクよりも大きなトルクを潜在的に出力可能にしておくことがアクチュエータ2、8、10による空気量制御に求められていることを意味する。一方、目標効率が1である場合には、目標第1トルクがそのまま空気量制御用目標トルクとして算出される。
【0056】
演算ユニット190は、次に、トルク−空気量変換マップを用いて空気量制御用目標トルクを目標空気量に変換する。トルク−空気量変換マップは、点火時期が最適点火時期であることを前提にして、トルクと空気量とがエンジン回転数及び空燃比を含む種々のエンジン状態量をキーにして関連付けられたマップである。このマップはエンジンを試験して得られたデータに基づいて作成されている。トルク−空気量変換マップの検索にはエンジン状態量の実際値や目標値が用いられる。空燃比に関しては仮想空燃比がマップ検索に用いられる。したがって、演算ユニット190では、仮想第1空燃比のもとで空気量制御用目標トルクの実現に必要な空気量が目標第1空気量として算出される。図中では、目標第1空気量は“KLt1”と表記されている。
【0057】
演算ユニット192は本発明における目標第2空気量算出手段に相当し、上述した演算ユニット190と共通の方法により、目標効率と仮想第2空燃比とを用いて、目標第2トルクを達成するための目標空気量(以下、目標第2空気量)を目標第2トルクから逆算する。図中では、目標第2空気量は“KL2t”と表記されている。目標第2空気量の計算でも、目標効率及び仮想空燃比は空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータとして用いられる。
【0058】
演算ユニット184はさらに2つの演算ユニット194、196から構成されている。演算ユニット194には目標第1空気量が入力される。また、演算ユニット196には目標第2空気量が入力される。
【0059】
演算ユニット194は目標第1空気量から吸気管圧の目標値である目標吸気管圧を逆算する。目標吸気管圧の計算では、吸気バルブを通って筒内に取り込まれる空気量と吸気管圧との関係を記述したマップが用いられる。空気量と吸気管圧との関係はバルブタイミングによって変化するため、目標吸気管圧の計算では現在のバルブタイミングから上記マップのパラメータ値が決定される。図中では、目標吸気管圧は“Pmt”と表記されている。
【0060】
演算ユニット196は、目標第2空気量から目標過給圧を逆算する。図中では、目標過給圧は“Pct”と表記されている。目標過給圧の計算では、まず、目標吸気管圧を計算する場合と共通の方法にて、目標第2空気量が吸気管圧に変換される。そして、目標第2空気量を変換して得られた吸気管圧にリザーブ圧が加算され、その合計値が目標過給圧として算出される。リザーブ圧は吸気管圧に対する過給圧の最低限のマージンである。なお、リザーブ圧は固定値でもよいが、例えば吸気管圧に連動させて変化させることもできる。
【0061】
演算ユニット166は目標吸気管圧に基づいてスロットル開度の目標値である目標スロットル開度を算出する。目標スロットル開度の計算では、エアモデルの逆モデルが用いられる。エアモデルはスロットル2の動作に対する吸気管圧の応答特性をモデル化した物理モデルであるので、その逆モデルを用いることで目標吸気管圧を達成するための目標スロットル開度を目標吸気管圧から逆算することができる。図中では、目標スロットル開度は“TA”と表記されている。演算ユニット166で計算された目標スロットル開度はスロットル2を駆動する信号に変換されてECUのインタフェース111を介してスロットル2へ送信される。演算ユニット194、166は本発明における第1アクチュエータ制御手段、より詳しくは第1アクチュエータ制御手段に含まれる吸入特性可変アクチュエータ制御手段に相当する。
【0062】
演算ユニット178は目標空気量に基づいてバルブタイミングの目標値である目標バルブタイミングを算出する。目標バルブタイミングの計算には、空気量とバルブタイミングとをエンジン回転数を引数にして関連付けられたマップが用いられる。目標バルブタイミングは、現在のエンジン回転数のもと目標空気量を達成するのに最適なVVT8の変位角であり、その具体的な値は空気量ごと及びエンジン回転数ごとの適合によって決定されている。ただし、目標空気量が速い速度で大きく増大する加速時には、実空気量を最大の速度で増大させて目標空気量に追従させるべく、マップから決定されるバルブタイミングよりも進角側に目標バルブタイミングを補正することが行われる。図中では、目標バルブタイミングは“VT”と表記されている。演算ユニット178で計算された目標バルブタイミングはVVT8を駆動する信号に変換されてECUのインタフェース112を介してVVT8へ送信される。演算ユニット178もまた本発明における第1アクチュエータ制御手段、より詳しくは第1アクチュエータ制御手段に含まれる吸入特性可変アクチュエータ制御手段に相当する。
【0063】
演算ユニット186は目標過給圧に基づいてウエストゲートバルブ開度の目標値である目標ウエストゲートバルブ開度を算出する。図中では、目標ウエストゲートバルブ開度は“WGV”と表記されている。目標ウエストゲートバルブ開度の計算では、過給圧とウエストゲートバルブ開度とを関連付けるマップ或いはモデルが用いられる。演算ユニット186で計算された目標ウエストゲートバルブ開度はWGV10を駆動する信号に変換されてECUのインタフェース115を介してWGV10へ送信される。演算ユニット186は本発明における第1アクチュエータ制御手段、より詳しくは第1アクチュエータ制御手段に含まれる過給特性可変アクチュエータ制御手段に相当する。なお、WGV10の操作量としては、ウエストゲートバルブ開度ではなく、WGV10を駆動するソレノイドのデューティ比であってもよい。
【0064】
次に、点火時期制御に関係する演算ユニットの機能について説明する。演算ユニット168は、上述の空気量制御によって実現される実際のスロットル開度及びバルブタイミングに基づいて推定トルクを算出する。本明細書における推定トルクとは、現在のスロットル開度及びバルブタイミングと目標空燃比とのもとで点火時期を最適点火時期にセットした場合に出力できるトルクを意味する。演算ユニット168は、まず、前述のエアモデルの順モデルを用いてスロットル開度の計測値とバルブタイミングの計測値とから推定空気量を算出する。推定空気量は現在のスロットル開度とバルブタイミングとによって実際に実現されている空気量の推定値である。次に、トルク−空気量変換マップを用いて推定空気量を推定トルクに変換する。トルク−空気量変換マップの検索では目標空燃比が検索キーとして用いられる。図中では、推定トルクは“TQe”と表記されている。
【0065】
演算ユニット170には目標第3トルクと推定トルクとが入力される。演算ユニット170は、目標第3トルクと推定トルクとに基づいて点火時期効率の指示値である指示点火時期効率を算出する。指示点火時期効率は、推定トルクに対する目標第3トルクの比率として表される。ただし、指示点火時期効率には上限が定められており、推定トルクに対する目標第3トルクの比率が1を超える場合には指示点火時期効率の値は1にされる。図中では、指示点火時期効率は“ηi”と表記されている。
【0066】
演算ユニット172は指示点火時期効率から点火時期を算出する。詳しくは、エンジン回転数、要求トルク、空燃比等のエンジン状態量に基づいて最適点火時期を算出するとともに、指示点火時期効率から最適点火時期に対する遅角量を算出する。指示点火時期効率が1であれば遅角量をゼロとし、指示点火時期効率が1よりも小さいほど遅角量を大きくする。そして、最適点火時期に遅角量を足しあわせたものを最終的な点火時期として算出する。最適点火時期の計算には、最適点火時期と各種のエンジン状態量とを関連付けるマップを用いることができる。遅角量の計算には、遅角量と点火時期効率及び各種のエンジン状態量とを関連付けるマップを用いることができる。それらマップの検索では目標空燃比が検索キーとして用いられる。図中では、点火時期は“SA”と表記されている。演算ユニット172で計算された点火時期は点火装置6を駆動する信号に変換されてECUのインタフェース113を介して点火装置6へ送信される。演算ユニット168、170、172は本発明における第3アクチュエータ制御手段に相当する。
【0067】
次に、燃料噴射量制御に関係する演算ユニットの機能について説明する。演算ユニット174は、前述のエアモデルの順モデルを用いてスロットル開度の計測値とバルブタイミングの計測値とから推定空気量を算出する。演算ユニット174で算出される推定空気量は、好ましくは、吸気バルブが閉じるタイミングで予測される空気量である。将来における空気量は、例えば、目標スロットル開度の計算から出力までにディレイ時間を設定することによって、目標スロットル開度から予測することができる。図中では、推定空気量は“KLe”と表記されている。
【0068】
演算ユニット174は目標空燃比と推定空気量とから目標空燃比の達成に必要な燃料噴射量、すなわち、燃料供給量を計算する。燃料噴射量の計算は各気筒において燃料噴射量の算出タイミングが到来したときに実行される。図中では、燃料噴射量は“TAU”と表記されている。演算ユニット174で計算された燃料噴射量はインジェクタ4を駆動する信号に変換されてECUのインタフェース114を介してインジェクタ4へ送信される。演算ユニット174、176は本発明における第2アクチュエータ制御手段に相当する。
【0069】
以上が本実施の形態に係るECUのロジックの概要である。次に、本実施の形態に係るECUの要部である演算ユニット122について詳細に説明する。
【0070】
図2には、演算ユニット122のロジックがブロック図で示されている。
図2における演算ユニット122を示すブロック内には、演算ユニット122が備える種々の機能のうち、運転モードの切り替えに関係する機能がブロックで表されている。これらブロックのそれぞれに演算ユニットが割り当てられている。ECUには各ブロックに対応するプログラムが用意され、それらがプロセッサによって実行されることで各演算ユニットの機能がECUにおいて実現される。なお、ECUがマルチコアプロセッサを備える場合には、演算ユニット122を構成する演算ユニット404、406、408、410、420を複数のコアに分散させて割り当てることができる。
【0071】
まず、演算ユニット420について説明する。演算ユニット420はさらに3つの演算ユニット422、424、426から構成されている。演算ユニット422はトルクに対する第1基準値を算出する。第1基準値は減速時においてリーンモードとストイキモードとの境目となるトルクであり、燃費性能や排気ガス性能さらにはドライバビリティの観点から最適な値がエンジン回転数ごとに適合されている。演算ユニット422は予め用意されたマップを参照してエンジン回転数に適した第1基準値を算出する。図中では第1基準値は“Ref1”と表記されている。
【0072】
演算ユニット424はトルクに対する第2基準値を算出する。第2基準値は第1基準値よりも大きい基準値であって、減速時においてリーンモードとストイキモードとの境目となるトルクに近い将来到達するであろうトルクの値である。演算ユニット424は、第1基準値のトルクに所定量を加算したトルクを計算し、計算で得られたトルクの値を第2基準値として決定する。なお、第2基準値の計算は、演算ユニット422において第1基準値を計算する場合と共通の方法にて、予め用意されたマップを参照してエンジン回転数に適した第2基準値を算出してもよい。図中では第2基準値は“Ref2”と表記されている。
【0073】
演算ユニット426はトルクに対する第3基準値を算出する。第3基準値は加速時においてストイキモードとリーンモードとの境目となるトルクであり、燃費性能や排気ガス性能さらにはドライバビリティの観点から最適な値がエンジン回転数ごとに適合されている。演算ユニット426は予め用意されたマップを参照してエンジン回転数に適した第3基準値を算出する。尚、第3基準値は前述した第1基準値と同値であってもよい。図中では第3基準値は“Ref3”と表記されている。
【0074】
次に、演算ユニット404について説明する。演算ユニット404には要求第1トルクが入力されている。さらに、演算ユニット420で算出された第1基準値、第3基準値が演算ユニット404に対して設定されている。演算ユニット404は、入力される要求第1トルクと第1基準値との関係に基づいて目標空気量の計算に用いられる仮想第1空燃比の値を変更する。より詳しくは、演算ユニット404は、第1空燃比から第2空燃比へ或いは第2空燃比から第1空燃比へ仮想第1空燃比を切り替える。第1空燃比は理論空燃比(例えば、14.5)である。図中では第1空燃比は“AF1”と表記されている。第2空燃比は第1空燃比よりもリーンな空燃比であり、ある一定値(例えば、22.0)に設定されている。図中では第2空燃比は“AF2”と表記されている。演算ユニット404は本発明における
仮想空燃比変更手段、より詳しくは
仮想空燃比変更手段に含まれる
仮想第1
空燃比変更手段に相当する。
【0075】
要求第1トルクが第1基準値より大きい間は、演算ユニット404は、要求第1トルクが第1基準値より大きいことに応答して仮想第1空燃比を第1空燃比に設定する。ドライバの減速要求に応じて要求第1トルクが減少し、やがて要求第1トルクが第1基準値を下回ると、演算ユニット404は、要求第1トルクの第1基準値以下への減少に応答して仮想第1空燃比を第1空燃比から第2空燃比へ切り替える。一方、要求第1トルクが第3基準値より小さい間は、演算ユニット404は、要求第1トルクが第3基準値より小さいことに応答して仮想第1空燃比を第2空燃比に設定する。ドライバの
加速要求に応じて要求第1トルクが増大し、やがて要求第1トルクが第3基準値を上回ると、演算ユニット404は、要求第1トルクの第3基準値以上への増大に応答して仮想第1空燃比を第2空燃比から第1空燃比へ切り替える。
【0076】
次に、演算ユニット410について説明する。演算ユニット410には要求第1トルクが入力されている。さらに、演算ユニット420で算出された第1基準値、第2基準値、第3基準値が演算ユニット410に対して設定されている。また、演算ユニット410には、演算ユニット404に設定されているものと同じ第1空燃比と第2空燃比の各値が設定されている。
【0077】
演算ユニット410は、入力される要求第1トルクと基準値との関係に基づいて目標空気量の計算に用いられる仮想第2空燃比の値を変更する。演算ユニット410は本発明における
仮想空燃比変更手段、より詳しくは
仮想空燃比変更手段に含まれる
仮想第2
空燃比変更手段に相当する。
【0078】
まず、ドライバの減速要求に応じて要求第1トルクが減少している状況での仮想第2空燃比の変更について説明する。要求第1トルクが第2基準値より大きい間は、演算ユニット410は、要求第1トルクが第2基準値より大きいことに応答して仮想第2空燃比を第1空燃比に設定する。やがて要求第1トルクが第2基準値を下回ると、演算ユニット410は、要求第1トルクの第2基準値以下への減少に応答して仮想第2空燃比を第1空燃比からリーン側に変化させ始める。そして、要求第1トルクが第2基準値から第1基準値まで減少するのに合わせて、仮想第2空燃比を第1空燃比から第2空燃比まで徐々に変化させていく。つまり、要求第1トルクが減少している減速時には、仮想第1空燃比が第1空燃比から第2空燃比に切り替えられるのに先行して、仮想第2空燃比は要求第1トルクが第2基準値から第1基準値まで低下するまでの間に第1空燃比から第2空燃比へ徐々に変更される。なお、仮想第2空燃比を徐々に変更する方法には限定はない。例えば、一次遅れフィルタ処理や加重平均処理を用いれば第1空燃比から第2空燃比まで徐々に変化させることができる。もちろん、一定の変化率で第1空燃比から第2空燃比まで変化させてもよい。
【0079】
ドライバの加速要求に応じて要求第1トルクが増大している状況での仮想第2空燃比の変更について説明する。要求第1トルクが第3基準値より小さい間は、演算ユニット404は、要求第1トルクが第3基準値より小さいことに応答して仮想第2空燃比を第2空燃比に設定する。やがて要求第1トルクが第3基準値を上回ると、演算ユニット404は、要求第1トルクの第3基準値以上への増大に応答して仮想第2空燃比を第2空燃比からリッチ側に変化させ始める。そして、要求第1トルクが第3基準値からさらに増大するのに合わせて、仮想第2空燃比を第2空燃比から第1空燃比まで徐々に変化させていく。つまり、要求第1トルクが増大している加速時には、仮想第1空燃比が第2空燃比から第1空燃比に切り替えられた後、仮想第2空燃比は要求第1トルクのさらなる増大に合わせて第2空燃比から第1空燃比へ徐々に変更される。
【0080】
次に、演算ユニット406について説明する。演算ユニット406は本発明における目標空燃比切替手段に相当する。演算ユニット406には、目標空燃比の既定値として、ストイキモードにおいて用いる第1空燃比とリーンモードにおいて用いる第2空燃比とが予め設定されている。演算ユニット406には演算ユニット404で決定された仮想第1空燃比と、演算ユニット190で算出された目標第1空気量の前回ステップ値と、演算ユニット174で算出された推定空気量の前回ステップ値とが入力されている。
【0081】
まず、ドライバの減速要求に応じて要求第1トルクが減少している状況での目標空燃比の切り替えについて説明する。演算ユニット406は、演算ユニット404から入力される仮想第1空燃比が第1空燃比から第2空燃比へ切り替えられたことを検知すると、目標第1空気量と推定空気量との差を計算する。そして、目標第1空気量に推定空気量が十分近づいたら、具体的には、目標第1空気量と推定空気量との差が所定の閾値以下になったら、目標空燃比を第1空燃比から第2空燃比へ切り替える。つまり、要求第1トルクが減少している減速時には、仮想空燃比の第1空燃比から第2空燃比への切り替えの後、目標空燃比の第1空燃比から第2空燃比への切り替えが行われる。目標空燃比の切り替えにより、運転モードはストイキモードからリーンモードへ切り替わる。
【0082】
ドライバの加速要求に応じて要求第1トルクが増大している状況での目標空燃比の切り替えについて説明する。演算ユニット406は、演算ユニット404から入力される仮想第1空燃比が第2空燃比から第1空燃比へ切り替えられたことを検知すると、それに応答して目標空燃比を第2空燃比から第1空燃比へ切り替える。つまり、要求第1トルクが増大している加速時には、仮想第1空燃比の第2空燃比から第1空燃比への切り替えと同時に、目標空燃比の第2空燃比から第1空燃比への切り替えが行われる。目標空燃比の切り替えにより、運転モードはリーンモードからストイキモードへ切り替わる。
【0083】
最後に、演算ユニット408について説明する。演算ユニット408は切替用目標第3トルクを計算する。前述のように、切替用目標第3トルクは要求第3トルクやその他第3トルクとともに演算ユニット146に入力され、その中の最小値が演算ユニット146で選択される。要求第3トルクやその他第3トルクは通常は無効値であり、特定のイベントが発生した場合のみ有効値に切り替えられる。切替用目標第3トルクについても同様であり、演算ユニット430は通常は切替用目標第3トルクの出力値を無効値にしている。
【0084】
演算ユニット408には要求第1トルク、目標空燃比、及び仮想第1空燃比が入力されている。演算ユニット404、406のロジックによれば、目標空燃比と仮想第1空燃比とは運転モードの切り替え前は一致し、切り替え処理の完了後も一致する。しかし、運転モードの切り替え処理の途中では、目標空燃比と仮想第1空燃比との間には乖離が生じる。演算ユニット408は、目標空燃比と仮想第1空燃比との間に乖離が生じている間に限り、有効値を持つ切替用目標第3トルクを算出する。ここで、切替用目標第3トルクの有効値として用いられるのが要求第1トルクである。つまり、目標空燃比と仮想第1空燃比との間に乖離が生じている間は、演算ユニット408からは切替用目標第3トルクとして要求第1トルクが出力される。
【0085】
以上が演算ユニット122のロジック、すなわち、本実施の形態で採用されている運転モードの切り替えのロジックの詳細である。次に、上述のロジックにしたがってエンジン制御を実行した場合の制御結果について、そのイメージを示すタイムチャートに基づいて説明する。
【0086】
まず、本実施の形態で採用されたロジックに対する比較例による制御結果から説明する。比較例による制御結果は、本実施の形態の演算ユニット192に相当する演算ユニットにおいて目標効率と仮想第1空燃比とを用いて、目標第2トルクを達成するための目標第2空気量を目標第2トルクから逆算した場合のものである。つまり比較例では、仮想第2空燃比を用いることなく仮想第1空燃比のみによって空気量制御を行った場合の制御結果を示している。本発明は比較例が有する懸念を解消したものであるから、比較例による制御結果とそこに存在する懸念について予め明らかにしておくことで、本実施の形態で採用されたロジックが有する利点はより明確になるものと思われる。
【0087】
図3は、比較例による減速時の制御結果のイメージを示すタイムチャートである。
図4は、比較例による加速時の制御結果のイメージを示すタイムチャートである。
図3及び
図4のどちらにおいても1段目のチャートは要求トルクと実トルクの時間変化を示している。2段目のチャートは目標第1空気量と実空気量の時間変化を示している。3段目のチャートは目標過給圧と実過給圧の時間変化を示している。4段目のチャートは目標ウエストゲートバルブ開度の時間変化を示している。5段目のチャートは目標スロットル開度の時間変化を示している。6段目のチャートは目標空燃比と目標空気量計算用のパラメータである仮想第1空燃比の時間変化を示している。仮想第1空燃比は空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータであり、仮想第1空燃比のもとで要求トルクを達成するのに必要な空気量が目標空気量となっている。比較例では目標空燃比と仮想空燃比はともに第1空燃比(理論空燃比)と第2空燃比(リーン空燃比)との間でステップ的に切り替えられる。また、このチャートにはこれらの空燃比とともに実空燃比の時間変化が示されている。そして、7段目のチャートは点火時期の時間変化を示している。
【0088】
図3に示す制御結果から考察する。
図3に示す比較例によれば、減速時には目標空燃比の第1空燃比から第2空燃比への切り替えに先立って仮想第1空燃比が第1空燃比から第2空燃比へ切り替えられる。この切り替えによって目標第1空気量は第2空燃比に応じた空気量までステップ的に増大する。そして、目標第1空気量の増大を受けて目標スロットル開度は開側に大きく変化し、実空気量は目標第1空気量に追従するように増大する。
【0089】
また、
図3に示す比較例によれば、仮想第1空燃比が第1空燃比から第2空燃比へ切り替えられることによって目標過給圧が第2空燃比に応じた過給圧までステップ的に増大する。そして、目標過給圧の増大を受けて目標ウエストゲートバルブ開度は閉側に大きく変化し、実過給圧は目標過給圧に追従するように増大する。
【0090】
このように、
図3に示す比較例によれば、目標空燃比の切り替えに先立って目標第1空気量を増大させることで、目標空燃比の切り替え時点までに空気量を第2空燃比に応じた量まで増大させておくことが可能となる。また、目標第1空気量を目標空燃比の切り替えに先行して増大させた分だけ点火時期が最適点火時期よりも遅角されるので、空気量の過剰によるトルクの増加が点火時期の遅角によるトルクの減少によって相殺される。
【0091】
図4に示す制御結果について考察する。
図4に示す比較例によれば、加速時には目標空燃比の第2空燃比から第1空燃比への切り替えと同じタイミングにて仮想第1空燃比が第2空燃比から第1空燃比へ切り替えられる。この切り替えによって目標第1空気量は第1空燃比に応じた空気量までステップ的に減少する。そして、目標第1空気量の減少を受けて目標スロットル開度は閉側に大きく変化し、実空気量は目標第1空気量に追従するように減少する。
【0092】
また、
図4に示す比較例によれば、仮想第1空燃比が第2空燃比から第1空燃比へ切り替えられることによって目標過給圧が第1空燃比に応じた過給圧までステップ的に減少する。そして、目標過給圧の減少を受けて目標ウエストゲートバルブ開度は開側に大きく変化し、実過給圧は目標過給圧に追従するように減少する。このとき、アクチュエータの操作に対する空気の応答遅れによって実空気量は目標空気量よりも暫くの間は過剰になるが、点火時期が最適点火時期よりも遅角されることにより、空気量の過剰によるトルクの増加は点火時期の遅角によるトルクの減少によって相殺される。
【0093】
ところが、減速時と加速時のそれぞれにおいて、比較例では目標空燃比の切り替え時にターボラグが生じ、それがトルクの変動を引き起こすことが懸念される。
図3及び
図4には懸念される実トルクの変化のイメージが描かれている。減速時においては、目標空気量及び目標過給圧がステップ的に増大したとき、それに追従するように実空気量及び実過給圧が速い速度で増大しないことが懸念される。ターボ過給器を備えたエンジンでは目標ウエストゲートバルブ開度をステップ的に閉側に変化させたとしても、いわゆるターボラグによって実過給圧が即座に増大しないからである。前述のとおり、目標空燃比の切り替えに先行して空気量を増大させた期間は、空気量の過剰によるトルクの増加を相殺するために点火時期が遅角される。
図3に示す比較例では、ターボラグによる空気量の緩慢な増大により点火時期の遅角時間が長期化し、ターボ過給器や触媒等の排気系の温度制約から設定される制限時間(例えば0.5〜1.0sec以上)を超過することが懸念される。この場合、空気量の過剰によるトルクの増加を点火時期の遅角によるトルクの減少によって相殺することができず、トルク変動が生じてしまう。また、加速時においては、目標第1空気量及び目標過給圧がステップ的に減少する前後で、ターボラグによって実空気量及び実過給圧が目標第1空気量及び目標過給圧に追従しないことが懸念される。
図4に示す比較例では、目標第1空気量及び目標過給圧がステップ的に減少する前後における目標空気量及び目標過給圧の増大時において、それぞれターボラグが発生している。この場合、実空気量が目標第1空気量に即座に追従することができずトルク変動が生じてしまう。
【0094】
図3に示す比較例における上記の懸念は、本実施の形態で採用されたロジックによれば次のように解決される。
【0095】
図5は、本実施の形態に係るECUによる減速時の制御結果のイメージを示すタイムチャートである。
図6は、本実施の形態に係るECUによる加速時の制御結果のイメージを示すタイムチャートである。
図5と
図6のどちらにおいても、1段目のチャートはトルクの時間変化を示している。前述のように“TQ1r”は要求第1トルクであり、“TQ3c”は切替用目標第3トルクであり、“TQe”は推定トルクである。なお、ここでは要求第1トルクが最終的な目標第1トルクになっており、切替用目標第3トルクが最終的な目標第3トルクになっているものとする。また、ここでは要求第2トルクを図示していないが、要求第2トルクは要求第1トルクと同値になっているものとする。さらに、これらのトルクとは別に、チャートには実トルクが点線で表されている。ただし、実トルクは実際のエンジン制御では計測されない。チャートに描かれている実トルクの線は試験結果に裏付けされたイメージ線である。
【0096】
図5及び
図6における2段目のチャートは空気量の時間変化を示している。前述のように“KLt1”は目標第1空気量であり、“KLe”は推定空気量である。チャートにはこれらの空気量とともに実空気量が点線で表されている。ただし、実空気量は実際のエンジン制御では計測されない。チャートに描かれている実空気量の線は試験結果に裏付けされたイメージ線である。
【0097】
図5及び
図6における3段目のチャートは目標過給圧の時間変化を示している。前述のように“Pct”は目標過給圧である。チャートには目標過給圧とともに実過給圧が点線で表されている。
【0098】
図5及び
図6における4段目のチャートは目標ウエストゲートバルブ開度の時間変化を示している。前述のように“WGV”は目標ウエストゲートバルブ開度である。
【0099】
図5及び
図6における5段目のチャートは目標スロットル開度の時間変化を示している。前述のように“TA”は目標スロットル開度である。
【0100】
図5及び
図6における6段目のチャートは切替用目標効率の時間変化を示している。前述のように“ηtc”は切替用目標効率である。なお、ここでは切替用目標効率が最終的な目標効率になっているものとする。
【0101】
図5及び
図6における7段目のチャートは指示点火時期効率の時間変化を示している。前述のように“ηi”は指示点火時期効率である。
【0102】
図5及び
図6における8段目のチャートは空燃比の時間変化を示している。前述のように“AFt”は目標空燃比であり、“AFh1”は仮想第1空燃比であり、“AFh2”は仮想第2空燃比である。仮想第1空燃比は空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータであり、仮想第1空燃比のもとで要求第1トルクを達成するのに必要な空気量が目標第1空気量となっている。また、仮想第2空燃比も仮想第1空燃比と同種のパラメータであり、仮想第2空燃比のもとで要求第2トルクを達成するのに必要な空気量が目標第2空気量となっている。本実施の形態では目標空燃比と仮想第1空燃比はともに第1空燃比(理論空燃比)と第2空燃比(リーン空燃比)との間でステップ的に切り替えられ、仮想第2空燃比は第1空燃比(理論空燃比)と第2空燃比(リーン空燃比)との間で徐々に切り替えられる。また、チャートにはこれらの空燃比とともに実空燃比の時間変化が点線で表されている。
【0103】
図5及び
図6における9段目のチャート及び
図5における7段目のチャートは点火時期の時間変化を示している。前述のように“SA”は点火時期である。
【0104】
まず、
図5に基づいて減速時の制御結果から説明する。減速時、要求第1トルクが“Ref2”で表記される第2基準値のレベルまで低下するまでは、目標空燃比は理論空燃比である第1空燃比に維持され、仮想第1空燃比及び仮想第2空燃比も第1空燃比に維持される。よって、要求第1トルクと仮想第1空燃比とから算出される目標第1空気量及び要求第2トルクと仮想第2空燃比とから算出される目標第2空気量は、要求第1トルクの減少に連動して減少していく。この間の切替用目標第3トルクは、目標空燃比と仮想第1空燃比とが一致していることに応答して無効値とされる。切替用目標第3トルクが無効値であるならば指示点火時期効率は1になるため、点火時期は最適点火時期に維持される。なお、チャートでは点火時期が要求第1トルクの減少に応じて変化しているが、これは最適点火時期がエンジン回転数や空気量によって変化することに対応した変化である。
【0105】
要求第1トルクが第2基準値を下回ると、目標空燃比及び仮想第1空燃比は理論空燃比に維持される一方、仮想第2空燃比は徐々にリーン側に変更されていく。要求第1トルクが減少する一方で仮想第2空燃比がリーン化することにより、要求第2トルクと仮想第2空燃比とから算出される目標第2空気量の減少は抑制される。これにともない、目標第2空気量から算出される目標過給圧の減少が抑制されるので、実過給圧は目標過給圧に追従してその減少が抑制される。
【0106】
やがて、要求第1トルクは“Ref1”で表記される第1基準値のレベルまで低下するが、この時になって仮想第2空燃比は第2空燃比に到達する。そして、この時点において仮想第1空燃比が第1空燃比から第2空燃比に切り替えられる。つまり、要求第1トルクが第1基準値を下回ると、目標空燃比は理論空燃比に維持される一方で、仮想第1空燃比はステップ的にリーン化される。リーンな空燃比である第2空燃比による運転は、理論空燃比である第1空燃比による運転で必要な空気量よりも多くの空気量を必要とする。このため、目標空気量の計算に用いる仮想第1空燃比がステップ的に第2空燃比に切り替えられることで、その切り替えの時点において目標第1空気量もステップ的に増大することになる。本実施の形態で採用されたロジックによれば、仮想第1空燃比の切り替え時点においてリーンな空燃比である第2空燃比による運転に対応した目標過給圧が既に実現されているため、実際の空気量及びその推定値である推定空気量は前述した比較例のようなターボラグの影響を受けることなく速い速度で増大していく。実空気量及び推定空気量は目標空気量に収束していき、やがて、目標空気量と推定空気量との差は閾値以下になる。この時点において目標空燃比は第1空燃比から第2空燃比に切り替えられる。
【0107】
要求第1トルクが第2基準値を下回り目標空燃比と仮想第1空燃比とが乖離してから目標空燃比と仮想第1空燃比とが再び一致するまでの間、切替用目標第3トルクは有効値である要求第1トルクと同値とされる。一方、仮想第1空燃比を前提とする推定トルクは、目標第1空気量の計算に使用される仮想第1空燃比が目標空燃比よりもリーン化されたことにともない、目標空燃比を前提とする要求第1トルクよりも大きな値になる。その結果、推定トルクに対する切替用目標第3トルクの比率である指示点火時期効率は1よりも小さい値になる。そして、指示点火時期効率が1よりも小さくなることに応答して、点火時期は最適点火時期よりも遅角される。その結果、空気量の過剰によるトルクの増加は点火時期の遅角によるトルクの減少によって相殺され、実トルクの要求第1トルクからの乖離は防がれる。
【0108】
前述した比較例で示したように、目標第2空気量の計算に用いる空燃比を、目標第1空気量に用いる仮想第1空燃比の切り替えと同時に第1空燃比から第2空燃比へステップ的に切り替えると、目標第1空気量がステップ的に増大するのと同時に目標第2空気量もステップ的に増大することになる。この場合、実空気量はターボラグの影響により早い速度で増大しないため、点火時期の遅角期間が制限を超過してしまうおそれがある。しかしながら、本実施の形態で採用されたロジックによれば、目標第1空気量に用いる仮想第1空燃比の切り替えの時点において、リーン空燃比である第2空燃比に対応した目標第2空気量が実現される。このため、前述した比較例のようなターボラグの影響を受けずに実空気量が目標第1空気量に早い速度で追従するので、点火時期の遅角期間が制限を超過してトルク変動が生じる事態を有効に抑制することができる。
【0109】
以上のように、本実施の形態で採用されたロジックによれば、ドライバの減速要求に見合ったトルクの滑らかな減少を達成しつつ空燃比を理論空燃比である第1空燃比から理論空燃比よりリーンな空燃比である第2空燃比へ応答良く切り替えることができる。
【0110】
続いて、
図6に基づき加速時の制御結果について説明する。加速時、要求第1トルクが第3基準値のレベルまで増大するまでは、目標空燃比はリーン空燃比である第2空燃比に維持され、仮想第1空燃比及び仮想第2空燃比も第2空燃比に維持される。よって、要求第1トルクと仮想第1空燃比とから算出される目標第1空気量及び要求第2トルクと仮想第2空燃比とから算出される目標第2空気量は、要求第1トルクの増大に連動して増大していく。しかし、目標第1空気量の増大に伴い目標過給圧が過給域に突入すると、実空気量及び推定空気量はターボラグの影響により目標第1空気量に遅れて減少する。この間の切替用目標第3トルクは、目標第1空気量と推定空気量とが一致していることに応答して無効値とされる。切替用目標第3トルクが無効値であるならば指示点火時期効率は1になるため、点火時期は最適点火時期に維持される。
【0111】
要求第1トルクが第3基準値を上回ると、仮想第1空燃比は第2空燃比から理論空燃比である第1空燃比に切り替えられ、それと同時に目標空燃比も第2空燃比から第1空燃比に切り替えられる。理論空燃比である第1空燃比による運転は、リーン空燃比である第2空燃比による運転に比較して必要な空気量は少ない。このため、目標第1空気量の計算に用いる仮想第1空燃比がステップ的に第1空燃比に切り替えられることで、その切り替えの時点において目標第1空気量もステップ的に減少することになる。しかし、実空気量及び推定空気量はステップ的には減少せず、目標第1空気量に遅れて減少し、やがて目標空気量に収束する。
【0112】
また、要求第1トルクが第3基準値を上回ると、目標空燃比及び仮想第1空燃比はステップ的に第1空燃比に切り替えられる一方、仮想第2空燃比は徐々にリッチ側に変更されていく。要求第1トルクが増大する一方で仮想第2空燃比が徐々にリッチ化することにより、要求第2トルクと仮想第2空燃比とから算出される目標第2空気量の減少は目標第1空気量のそれよりも抑制される。これに伴い、目標第2空気量から算出される目標過給圧の減少が抑制されるので、目標過給圧に追従する実過給圧もその減少が抑制されて過給域に維持される。
【0113】
要求第1トルクが基準値を上回ってから目標第1空気量と推定空気量とが一致するまでの間、切替用目標第3トルクは有効値である要求第1トルクと同値とされる。一方、推定空気量から計算される推定トルクは、推定空気量が目標空気量よりも過剰になっているために要求第1トルクよりも大きな値になる。その結果、推定トルクに対する切替用目標第3トルクの比率である指示点火時期効率は1よりも小さい値になる。そして、指示点火時期効率が1よりも小さくなることに応答して、点火時期は最適点火時期よりも遅角される。その結果、空気量の過剰によるトルクの増加は点火時期の遅角によるトルクの減少によって相殺され、実トルクの要求第1トルクからの乖離は防がれる。
【0114】
目標第1空気量と推定空気量とが一致した後、要求第1トルクと仮想第1空燃比とから算出される目標第1空気量及び要求第2トルクと仮想第2空燃比とから算出される目標第2空気量は、再び要求第1トルクの増大に連動して増大していく。この間の切替用目標第3トルクは、目標第1空気量と推定空気量とが一致していることに応答して無効値とされる。切替用目標第3トルクが無効値であるならば指示点火時期効率は1になるため、点火時期は最適点火時期に維持される。前述の比較例では、実過給圧が一旦自然吸気域まで低下しているため、この間の実際の空気量及びその推定値である推定空気量はターボラグの影響により目標空気量に遅れて増大していた。しかしながら、本実施の形態で採用されたロジックによれば、目標第1空気量の変化が増大方向に転じた時点において、実過給圧が過給域に維持されている。このため、前述した比較例のようなターボラグの影響を受けずに実空気量が目標第1空気量に速い速度で追従するので、トルク変動が生じる事態を有効に抑制することができる。
【0115】
以上のように、本実施の形態で採用されたロジックによれば、空燃比を理論空燃比よりリーンな空燃比である第2空燃比から理論空燃比である第1空燃比へ切り替える前後のトルク変動のうち、少なくとも空燃比切り替えの後のトルク変動を解消することができる。なお、
図7には本実施の形態における運転領域の設定が示されている。運転領域は吸気管圧とエンジン回転数とで特定される。この図によれば、低中回転・低中負荷域にリーンモードが選択されるリーンモード領域が設定されている。この図からは、加速時にはストイキモードからリーンモードへ運転モードが切り替えられ、減速時にはリーンモードからストイキモードへ運転モードが切り替えられることが分かる。また、この図からは、吸気管圧が大気圧よりも高くなる過給領域においても、リーンモードが選択される領域があることも分かる。ECUには、この図に示すような運転領域の設定がマップにされて記憶されている。ECUは、そのマップに従って運転モードの切り替えを実行している。
【0116】
[その他]
本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、以下のような変形例を採用してもよい。
【0117】
実施の形態1において目標空気量の計算に用いている空燃比(仮想空燃比)は当量比に代えることができる。当量比も、空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータであり、且つ、空燃比に対応するパラメータに該当する。同様に空気過剰率を空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータとして用いることができる。
【0118】
目標空気量の計算に用いるパラメータとして、点火時期に対応するパラメータを用いることもできる。点火時期が最適点火時期よりも遅角されるほど同一空気量で発生するトルクは低下することから、点火時期に対応するパラメータは空気量のトルクへの変換効率を与えるパラメータに該当する。例えば、目標空気量の計算に使用するトルク−空気量変換マップを点火時期毎に用意しておき、マップの検索に用いる点火時期の値を運転モードの切り替えに応答して変更すればよい。具体的には、要求第1トルクが減少している減速時には、要求第1トルクが基準値より大きい間はマップの検索に用いる点火時期は最適点火時期とし、要求トルクの基準値以下への減少に応答してマップの検索に用いる点火時期を最適点火時期よりも遅角する。この場合、マップの検索に用いる空燃比は目標空燃比とする。
【0119】
筒内に吸入される空気の量を変化させる吸入特性可変アクチュエータとしては、吸気バルブのリフト量を可変にする可変リフト量機構を用いることもできる。可変リフト量機構はスロットルやVVT等の他の第1アクチュエータと併用することができる。
【0120】
ターボ過給器の過給特性を変化させる過給特性可変アクチュエータとしては、可変ノズルを用いることもできる。また、電動モータによるアシストのあるターボ過給器ならば、その電動モータを第3アクチュエータとして用いることもできる。
【0121】
本発明の実施においては、第2アクチュエータとしてのインジェクタはポートインジェクタには限定されない。燃焼室内に直接燃料を噴射する筒内インジェクタを用いることもできるし、ポートインジェクタと筒内インジェクタの両方が併用されていてもよい。
【0122】
第1空燃比は理論空燃比には限定されない。理論空燃比よりもリーンな空燃比を第1空燃比に設定し、第1空燃比よりもさらにリーンな空燃比を第2空燃比に設定することもできる。