【実施例】
【0024】
以下の表に示す組成で実施例と比較例のフラックスを調合して、フラックスの増粘率と、ガラス転移点(Tg)について検証した、なお、各表におけるアミノ酸、アミン、有機酸の数値は、樹脂を100重量部とした場合のアミノ酸、アミン、有機酸の重量部である。なお、硬化剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾールを、樹脂に対して3質量%で添加した。本発明は、以下の具体例に限定されるものではない。
【0025】
(1)フラックスの増粘率の検証について
(a)評価方法
室温下(25℃)に実施例、比較例のフラックスを保管し、加速試験を行った。初期、5時間後、18時間後の粘度を測定して、初期値を100%とした場合の増粘率を算出した。
(b)判断基準
○:樹脂と硬化剤のみを添加した参照例の増粘率を閾値として、5時間後の増粘率については138%以下、18時間後の増粘率については378%以下であった。
×:樹脂と硬化剤のみを添加した参照例の増粘率を閾値として、5時間後の増粘率については138%超、18時間後の増粘率については378%超であった。
(2)フラックスのガラス転移点の検証について
(a)評価方法
DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)にて、実施例及び比較例のフラックスのガラス転移点を、N
2雰囲気において25℃から300℃への昇温を、昇温速度を20℃/minとして行って測定した。
(b)判断基準
○:樹脂と硬化剤のみを添加した参照例のガラス転移点を閾値として、ガラス転移点が140.3℃以上であった。
×:樹脂と硬化剤のみを添加した参照例のガラス転移点を閾値として、ガラス転移点が140.3℃未満であった。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1に示すように、樹脂を100重量部とした場合、α−アミノ酸としてグリシンを1重量部以上30重量部以下で添加した実施例1〜実施例4では、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等あるいはそれ以下であった。また、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等あるいはそれ以上であった。
【0029】
また、α−アミノ酸としてL−アスバラギン酸を10重量部添加した実施例5についても、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回った。
【0030】
更に、β−アミノ酸としてβ−アラニンを1重量部以上30重量部以下で添加した実施例6〜実施例9は、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等あるいはそれ以下、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等あるいはそれ以上であった。
【0031】
これに対し、表2に示すように、α−アミノ酸としてグリシンを50重量部添加した比較例1では、5時間後の増粘率については、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等であったが、18時間後の増粘率については、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回った。また、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を下回った。
【0032】
β−アミノ酸としてβ−アラニンを50重量部添加した比較例2では、5時間後の増粘率については、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等であった。また、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値と同等であった。しかし、18時間後の増粘率については、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回った。
【0033】
γ−アミノ酸として4−アミノブタン酸を10重量部添加した比較例3では、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回り、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を下回った。また、ε−アミノ酸として6−アミノヘキサン酸を10重量部添加した比較例4は、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回り、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を下回った。更に、ε−アミノ酸誘導体としてε−カプロラクタムを10重量部添加した比較例5は、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回り、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を下回った。
【0034】
アミノ酸に代えて、アミンとして、エチレンジアミンを10重量部添加した比較例6は、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回り、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を下回った。また、有機酸としてマロン酸を10重量部添加した比較例7は、増粘率は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を上回り、ガラス転移点は、樹脂と硬化剤のみを添加した場合の値を下回った。
【0035】
以上のことから、カルボキシル基とアミノ基との間の炭素数が2以下のα−アミノ酸またはβ−アミノ酸を、硬化性樹脂100重量部に対して1重量部以上30重量部以下で添加した実施例1〜実施例9のフラックスでは、樹脂と硬化剤のみの硬化性樹脂に対して、室温下での樹脂の硬化が遅延させることができることが判った。これにより、保存時の粘度上昇を抑制することができた。
【0036】
また、α−アミノ酸とβ−アミノ酸のうち少なくとも1種を添加しても、樹脂のガラス転移点の低下が抑制され、熱による樹脂の硬化は阻害されないことが判った。これにより、例えば、はんだボールを使用してはんだ付けを行うことで、フラックス残渣中の樹脂が硬化し、接合箇所のはんだによる接合に加えて、接合対象物と被接合対象物を樹脂で固着することができた。なお、α−アミノ酸とβ−アミノ酸の合計を、硬化性樹脂100重量部に対して1重量部以上30重量部以下で添加したフラックスでも、同様の効果が得られた。
【0037】
但し、アミノ酸は脱炭酸反応を起こすため、300℃以上の高温域では、目的とする補強の強度が弱くなる。そのため、はんだ付け時の温度の上限は300℃未満、例えば260〜270℃程度が好ましい。
【0038】
また、α−アミノ酸とβ−アミノ酸は何れも、金属酸化物を除去する活性剤として機能し、かつ、樹脂との反応が抑制される。これにより、接合箇所に対するはんだ合金の濡れ性が確保され、はんだ付け性が阻害されないことが判った。
【0039】
これに対し、α−アミノ酸またはβ−アミノ酸を、硬化性樹脂100重量部に対して30重量部超で添加した比較例1及び比較例2のフラックスでは、保管時間が長くなると、樹脂と硬化剤のみの硬化性樹脂に対して、室温下での樹脂の硬化が進行することが判った。このため、比較例1または比較例2のフラックスでは、室温下で樹脂の硬化が進行することで、保存時の粘度上昇を抑制することができなかった。
【0040】
また、α−アミノ酸を30重量部超で添加した比較例1のフラックスでは、樹脂のガラス転移点の低下が抑制できないことが判った。このため、比較例1のフラックスを使用してはんだ付けを行った場合、フラックス残渣中の樹脂が柔軟性を持った状態となり、接合対象物と被接合対象物を樹脂で固着することができなかった。
【0041】
更に、アミノ酸であっても、カルボキシル基とアミノ基との間の炭素数が3以上のアミノ酸を所定量添加した比較例3〜比較例4のフラックスでは、樹脂と硬化剤のみの硬化性樹脂に対して、室温下での樹脂の硬化が進行することが判り、また、樹脂のガラス転移点の低下が抑制できないことが判った。ε−アミノ酸誘導体としてε−カプロラクタムを所定量添加した比較例5のフラックスでも、樹脂と硬化剤のみの硬化性樹脂に対して、室温下での樹脂の硬化が進行することが判り、また、樹脂のガラス転移点の低下が抑制できないことが判った。
【0042】
また、活性剤として通常使用されるアミンを所定量添加した比較例6のフラックス、有機酸を所定量添加した比較例7のフラックスでも、樹脂と硬化剤のみの硬化性樹脂に対して、室温下での樹脂の硬化が進行することが判り、また、樹脂のガラス転移点の低下が抑制できないことが判った。
【0043】
このため、比較例3〜比較例7のフラックスでは、室温下で樹脂の硬化が進行することで、保存時の粘度上昇を抑制することができなかった。また、比較例3〜比較例7のフラックスを使用してはんだ付けを行った場合、フラックス残渣中の樹脂が柔軟性を持った状態となり、接合対象物と被接合対象物を樹脂で固着することができなかった。
【0044】
樹脂の硬化反応速度は温度に依存するため、室温下で保管を行う加速試験の結果から、冷蔵保管や冷凍保管時における粘度上昇も抑制可能であることが判る。