(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041092
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】積層板、および積層板に用いられるプリプレグ
(51)【国際特許分類】
B29C 70/06 20060101AFI20161128BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20161128BHJP
B32B 17/04 20060101ALI20161128BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
B29C67/14 G
C08J5/24CFC
B32B17/04 A
H05K1/03 610R
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-132645(P2012-132645)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-256039(P2013-256039A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】591045703
【氏名又は名称】利昌工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】西畑武
(72)【発明者】
【氏名】奥村裕紀
【審査官】
深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−324307(JP,A)
【文献】
特開2003−152296(JP,A)
【文献】
特開2008−001880(JP,A)
【文献】
特開2011−094004(JP,A)
【文献】
特開2010−155980(JP,A)
【文献】
実開昭60−133658(JP,U)
【文献】
特開平06−090071(JP,A)
【文献】
特開平07−133359(JP,A)
【文献】
特開2011−001411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/00−43/58,70/42−70/46
B29B 11/16,15/08−15/14
C08J 5/24
B32B 17/04
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚または複数枚のプリプレグからなる積層板であって、
前記プリプレグは、繊維状補強基材、および、前記繊維状補強基材に含浸された熱硬化性樹脂組成物からなり、
前記熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂100重量部に対し無機充填材を200〜400重量部含有し、
前記無機充填剤には、二酸化チタンおよび水酸化アルミニウムが1対1の割合で含まれており、二酸化チタンおよび水酸化アルミニウムはそれぞれ、熱硬化性樹脂100重量部に対し少なくとも100重量部で含有されており、
前記繊維状補強基材としてガラス織布が用いられていることを特徴とする積層板。
【請求項2】
少なくとも一表面に金属箔からなる層を有することを特徴とする請求項1に記載の積層板。
【請求項3】
一方の表面に金属箔からなる層を有し、他方の表面に放熱用金属ベース板からなる層を有し、前記1枚または複数枚のプリプレグからなる部分が絶縁層となることを特徴とする請求項1に記載の積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層板、および積層板に用いられるプリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電力省力化の取り組みに伴い、LED照明に代表される発光ダイオードを用いた電子機器が普及している。このような発光ダイオードとしては電子機器の小型化・薄型化の観点から基板表面に素子を直接実装したチップLEDが増加してきている。LED素子を実装する基板としては、従来から熱硬化性樹脂を含浸した繊維状補強基材の層を1枚または複数枚積層し加熱加圧成形した積層板が使用されている。特に青色・白色のチップLEDでは可視光短波長領域の反射が重要であり、例えば特許文献1に開示されているように熱硬化性樹脂に着色顔料として二酸化チタン等を含有させた白色基板が使用されている。
【0003】
一方でチップLED等の発熱を伴う電子部品を実装する基板については、従来の基板では放熱性に問題があった。このような放熱性に関する問題を解決するために、例えば特許文献1,2で開示されているように、不織繊維基材に無機充填材を含有する熱硬化性樹脂組成物を含浸した芯材層の両表面に、織繊維基材に樹脂組成物を含浸した表材層を積層一体化したコンポジット積層板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−152295号公報
【特許文献2】特開2010−254807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の白色基板では、顔料として二酸化チタンおよび酸化アルミニウム等を用いているためLED素子の発光を可視光領域において効率的に反射する点においてはメリットがあった。しかしながら、熱伝導率が低いために発熱を伴う電子部品の熱を放熱するのに十分な放熱性が得られないと言う問題点がある。また、従来の白色基板には難燃性が付与されていないため、安全面から求められるUL−94でV−0を達成することは困難であるという問題があった。
【0006】
一方、従来のコンポジット積層板では、コンポジット構成により熱伝導性、耐熱性、ドリル加工性および難燃性に優れるというメリットがあった。しかしながら、可視光領域での反射率が低く、かつ熱による反射率の低下が大きいためにチップLEDを実装する場合、白色レジストを塗布しなければならないと言う問題点がある。また表材層と芯材層からなるコンポジット構成であるために、薄葉化することが困難であると言う問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は前記の点を鑑み、熱伝導性、可視光領域反射率、耐変色性、絶縁性、難燃性、およびドリル加工性の全てにおいて優れており、かつ薄葉化を可能にする積層板、および積層板に用いられるプリプレグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層板は、プリプレグを1枚または複数枚積層したものが加熱加圧成型された積層板であって、前記プリプレグは、繊維状補強基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて半硬化させたものであり、前記熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂100重量部に対し無機充填材を100〜400重量部含有し、前記繊維状補強基材としてガラス織布を用いたことを特徴とし、前記無機充填材として少なくとも二酸化チタンを含有する、または、少なくとも二酸化チタンおよび水酸化アルミニウムを含有したものを用いる。
【0009】
前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものの少なくとも一表面に金属箔を配し、その後、加熱加圧成型された積層板、あるいは、前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものの一方の表面に金属箔を配し、他方の表面に放熱用金属ベース板を配して、その後、加熱加圧成型され、前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものが絶縁層となる積層板も可能である。
【0010】
本発明のプリプレグは、繊維状補強基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて半硬化させたプリプレグであって、前記熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂100重量部に対し無機充填材を100〜400重量部含有し、前記繊維状補強基材としてガラス織布を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層板は、プリプレグを1枚または複数枚積層したものが加熱加圧成型された積層板であって、前記プリプレグは、繊維状補強基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて半硬化させたものであり、前記熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂100重量部に対し無機充填材を100〜400重量部含有し、前記繊維状補強基材としてガラス織布を用いたことにより、熱伝導性、可視光領域反射率、耐変色性、絶縁性、難燃性、およびドリル加工性の全てにおいて優れた積層板を実現することが可能となる。
【0012】
前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものの少なくとも一表面に金属箔を配し、その後、加熱加圧成型されたことにより、放熱性金属箔貼り積層板が実現され、そして、前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものの一方の表面に金属箔を配し、他方の表面に放熱用金属ベース板を配して、その後、加熱加圧成型され、前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものが絶縁層となることにより、従来よりも薄葉化が可能な金属ベース金属箔貼り積層板も実現される。
【0013】
本発明のプリプレグは、繊維状補強基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて半硬化させたプリプレグであって、前記熱硬化性樹脂組成物は熱硬化性樹脂100重量部に対し無機充填材を100〜400重量部含有し、前記繊維状補強基材としてガラス織布を用いたことにより、積層板に用いた場合に薄葉化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の積層板を金属箔貼り積層板とした場合の概略断面図である。
【
図2】本発明の積層板を金属ベース金属箔貼り積層板とした場合の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層板および積層板に用いるプリプレグについて説明する。まず初めに、本発明の積層板に用いるプリプレグについて説明する。
【0016】
本発明のプリプレグは、繊維状補強基材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させて、乾燥等の手段によって半硬化させたものである。前記繊維状補強基材としては、ガラス繊維織布を用いる。そして、前記熱硬化性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂等を含有した熱硬化性樹脂100重量部に対し、無機充填材を100〜400重量部含有したものを用いる。前記熱硬化性樹脂には必要に応じて、硬化剤等を含有させる。
【0017】
前記無機充填材としては、少なくとも二酸化チタンを含有したもの、あるいは、少なくとも二酸化チタンおよび水酸化アルミニウムを含有したものを用いることが好ましい。また、前記無機充填材は、二酸化チタン、水酸化アルミニウムだけではなく、さらに別の無機物質、例えば、酸化アルミニウム等を含むものとすることも可能である。
【0018】
前記プリプレグは、ガラス繊維織布に前記熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、前記ガラス繊維織布に含浸させた前記熱硬化性樹脂組成物を加熱乾燥することにより、熱硬化性樹脂が半硬化状態となることにより得られる。
【0019】
本発明の積層板は、前記プリプレグを1枚または複数枚積層したものを、加熱および加圧手段である金属板によって挟み込んで所定の温度、および所定の圧力により、加熱加圧成型することにより得られる。
【0020】
次に、本発明の積層板の1つの形態である、金属箔貼り積層板1について説明する。金属箔貼り積層板1は、プリプレグ2を1枚または複数枚積層したものの少なくとも一表面に金属箔3を配し、その後、加熱加圧成型することにより得られるものである。
【0021】
前記金属箔貼り積層板1の一例として、
図1に示すものは、2枚のプリプレグ2を積層し、両面に金属箔3を配したものである。前記金属箔貼り積層板1は、まず初めに、ガラス繊維織布に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、前記ガラス繊維織布に含浸させた前記熱硬化性樹脂組成物を加熱乾燥することにより、熱硬化性樹脂が半硬化状態としてプリプレグ2用意する。
【0022】
その後、前記プリプレグ2を2枚積層し、2枚積層した状態のプリプレグ2の両面に2枚の金属箔3を重ねる。その後、加熱および加圧手段である金属板によって挟み込んで所定の温度、圧力で加熱加圧成型すると、
図1に示すような断面構造の金属箔貼り積層板1が完成する。
【0023】
さらに、本発明の積層板の別の形態である、金属ベース金属箔貼り積層板10について説明する。金属ベース金属箔貼り積層板10は、プリプレグ2を1枚または複数枚積層したものの一方の表面に金属箔3を配し、他方の表面に放熱用金属ベース板4を配して、その後、加熱加圧成型することにより得られるものであり、
図2に示す金属ベース金属箔貼り積層板10は、プリプレグ2を2枚積層したものの一方の表面に金属箔3を配し、他方の表面に放熱用金属ベース板4を配して、加熱加圧成型たものである。
【0024】
前記金属ベース金属箔貼り積層板10では、前記プリプレグ2を2枚積層したものが絶縁層となる。このように、前記プリプレグ2を絶縁層として用いることにより、従来よりも薄葉化が可能で、かつ、放熱性に優れた金属ベース金属箔貼り積層板10が可能となる。
【0025】
実施例を用いて、本発明の積層板、特に、金属箔貼り積層板について説明する。以下に、実施例1,2と比較例1〜3について順に説明する。
【実施例1】
【0026】
ビスフェノ−ルA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、およびイミダゾール系硬化剤を含有する熱硬化性樹脂ワニスの樹脂固形分比100重量部に対し、無機系充填材として二酸化チタン100重量部および水酸化アルミニウム100重量部を配合したエポキシ樹脂ワニスを準備する。
【0027】
前記エポキシ樹脂ワニスを、質量203g/m2のガラス繊維織布に、成形後の厚さが0.2mmとなる様に含浸および半硬化させてプリプレグを得る。前記プリプレグを5枚積層し、両外層に厚さ0.035mmの銅箔を配し、その後、加熱加圧成形(温度:180℃、圧力:3MPa)することで厚さ1.0mmの金属箔貼り積層板を得る。
【実施例2】
【0028】
実施例1と同様の方法で、前記無機系充填材として二酸化チタン100重量部、水酸化アルミニウム100重量部、および酸化アルミニウム5重量部を用いたものを実施例2とする。
【実施例3】
【0029】
実施例1と同様の方法で、前記無機系充填材として二酸化チタン200重量部を用いたものを比較例2とする。
【0030】
実施例1と同様の方法で、前記無機系充填材として水酸化アルミニウム200重量部を用いたものを比較例1とする。
【0031】
実施例1と同様の方法で、前記無機系充填材として酸化アルミニウム200重量部を用いたものを比較例3とする
【0032】
実施例1〜3および比較例1,2によって得られた金属箔貼り積層板を以下の方法で評価し、その結果を表1に示す。
【0033】
・熱伝導率
得られた金属箔貼り積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、水中置換法により密度を測定し、DSC(示差走査熱量測定)法により比熱容量を測定し、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定し、次式により熱伝導率を算出した。
熱伝導率(W/m・K)=密度(kg/m3)×比熱容量(J/g・K)×熱拡散率(m2/s)×1000
【0034】
・反射率
得られた金属箔貼り積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、積層板表面の可視光反射率をJIS−Z8722に準拠しY(D65)値を測定した。
【0035】
・熱劣化後の反射率(耐熱変色性)
得られた金属箔貼り積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、150℃で24時間処理し前記と同様の方法でY(D65)値を測定した。
【0036】
・はんだ耐熱性
得られた金属箔貼り積層板をJIS−C6481に準拠して作製した試料を、260℃のはんだ槽に180秒間浸漬し、金属箔および積層板に膨れ、または剥がれが生じない最大時間を測定した。
【0037】
・難燃性
得られた金属箔貼り積層板の銅箔をエッチングにより除去した後、UL−94の燃焼試験法に準じて燃焼試験を行い、判定した。
【0038】
・ドリル刃残存率
得られた金属箔貼り積層板を2枚重ね、0.3mm径のドリルを用い、回転数120000rpm、送り速度0.03mm/revの条件にて3000個の穴を設けた後のドリル刃残存率を、加工前のドリル刃面積に対する加工後のドリル刃面積の割合により算出した。
【0040】
表1を見るとわかるように、比較例1,2は項目によっては実施例1,2と同等の優れた結果を残してはいるが、全ての項目において優れたものではない。これに対し、実施例1,2は全ての項目において優れた結果となっており、本発明が全ての項目において優れた効果を奏する結果となっている。
【0041】
また、実施例3は、難燃性を除いたその他の全ての項目において優れた効果を奏する結果となっており、難燃性についても、1枚の金属箔の代わりに放熱用金属板ベース板を用いた金属ベース金属箔貼り積層板とすることにより、難燃性についても優れた効果を奏するものとなる。
【0042】
本発明の積層板は、プリプレグの熱硬化性樹脂組成物の無機充填材として、水酸化アルミニウム、二酸化チタンを用いることにより、熱伝導性に優れた効果を奏する。また、前記無機充填材として二酸化チタンを用いることにより可視光領域反射率において優れた効果を奏し、さらに、無機充填材を従来よりも高い割合とする(熱硬化性樹脂100重量部に対し、無機充填材を100〜400重量部含有させる)ことによる有機成分の低減によって、耐変色性に優れた効果を奏する。
【0043】
さらに、本発明の積層板は、前記充填材として絶縁性充填材の使用、そして、プリプレグを絶縁層として使用する(金属ベース金属箔貼り積層板)ことにより、絶縁性に優れた効果を奏する。そして、前記無機充填材として水酸化アルミニウムを用い、さらに、無機充填材を従来よりも高い割合とする(熱硬化性樹脂100重量部に対し、無機充填材を100〜400重量部含有させる)ことによる有機成分の低減によって、難燃性に優れた効果を奏する。また、前記充填材として、水酸化アルミニウム、二酸化チタン等の低硬度の充填材を用いることによって、ドリル加工性に優れた効果を奏する。
【0044】
以上の様に、本発明は、熱伝導性、可視光領域反射率、耐変色性、絶縁性、難燃性、およびドリル加工性において優れており、かつ薄葉化を可能にする積層板が実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 金属箔貼り積層板
2 プリプレグ
3 金属箔
4 金属板ベース
10 金属ベース金属箔貼り積層板