特許第6041098号(P6041098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 創造技術株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000002
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000003
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000004
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000005
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000006
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000007
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000008
  • 特許6041098-橋梁の伸縮装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041098
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】橋梁の伸縮装置
(51)【国際特許分類】
   E01C 11/02 20060101AFI20161128BHJP
   E01D 19/06 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   E01C11/02 A
   E01D19/06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-236746(P2012-236746)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84690(P2014-84690A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】512233363
【氏名又は名称】創造技術株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭一
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−080105(JP,U)
【文献】 実開昭54−035781(JP,U)
【文献】 特開2004−003277(JP,A)
【文献】 特開2007−332968(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0263312(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 1/00−17/00
E01D 1/00−24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の第1橋桁と該第1橋桁に対向する第2橋桁との接合部、または、橋梁の第1橋桁と該第1橋桁に対向する橋台との接合部に設けられる伸縮装置において、
前記接合部に路面として配され、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維集成板で構成されるフェイスプレートと、
前記フェイスプレートを支持し、前記橋梁の橋軸方向に伸縮可能な伸縮手段と、を有し、
前記伸縮手段は、
前記第1橋桁の前記橋軸方向の端部に設けられ、前記橋軸方向外側に突出した第1突部が前記橋軸方向に交差する伸縮継手方向に複数並設された第1スライド部材と、
前記第2橋桁又は前記橋台の前記第1スライド部材に対向する端部に設けられ、前記第1スライド部材の第1突部間に形成される隙間部に挿入される第2突部が、前記伸縮継手方向に複数並設された第2スライド部材と、を備え、
前記フェイスプレートは、一方のスライド部材に取り付けられ、前記第1スライド部材と第2スライド部材との間の溝部を覆うことを特徴とする橋梁の伸縮装置。
【請求項2】
前記フェイスプレートは、前記炭素繊維の束の繊維方向が、前記伸縮継手方向に平行である第1炭素繊維を含むことを特徴とする請求項1に係る橋梁の伸縮装置。
【請求項3】
前記フェイスプレートは、前記炭素繊維の束の繊維方向が、前記橋軸方向に平行である第2炭素繊維をさらに含むことを特徴とする請求項2に係る橋梁の伸縮装置。
【請求項4】
前記第1突部及び前記第2突部の形状は、前記橋軸方向を長辺方向とする略矩形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に係る橋梁の伸縮装置。
【請求項5】
前記第1突部間に形成される第1隙間部及び前記第2突部間に形成される第2隙間部の前記橋軸に直交する方向の長さは一定であることを特徴とする請求項4に係る橋梁の伸縮装置。
【請求項6】
前記フェイスプレートは、前記橋梁上を走行する車両が走行してくる側のスライド部材にのみ接着されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に係る橋梁の伸縮装置。
【請求項7】
前記フェイスプレートの裏面には、炭素繊維と金属との電解腐食を防止する電解腐食防止層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に係る橋梁の伸縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の伸縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の橋桁と橋台との間、又は、橋桁と橋桁との間の対抗する部分に、橋桁の伸縮を許容する伸縮装置が設けられている。このような伸縮装置は、例えば、フィンガー部が形成された鋼製のプレートで相互に嵌合させる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−96502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の伸縮装置は、フィンガー部で噛み合わせることによって、橋梁の橋軸方向に移動自在であり、橋桁の伸縮に追従することができる。しかしながら、フィンガー部が露出されることによって、フィンガー部間の溝部に土砂やごみが詰まり、伸縮装置の伸縮機能を低下させることがある。また、フィンガー部がゴム製や鋼製等のプレートで構成されているため、該伸縮装置のフィンガー部間の溝部が露出することとなり、車両や人間に対する安全性が低下する。さらには、車両が溝部の上を通過する際に、車内に振動が発生し、快適性が低下すると共に、騒音が発生し、近隣への環境が悪化する。また、車両がフィンガー部間の溝部を走行する際に、橋梁に衝撃を与え、衝撃により橋梁の寿命が短縮されると共に、そのメンテナンス費用が膨大となる。
【0005】
このような、溝部が原因で様々な不具合が生じ得るが、この不具合は溝部のない伸縮装置とすることで解消することができる。溝部のない伸縮装置とするために、例えば、フィンガー部の上に溝部を覆うように鋼製プレートを取り付けることができる。この場合、鋼製プレートは溝部を跨いでフェインガー部に支持されるため、鋼製プレートの厚さは、走行車両に起因する荷重に耐えうるものでなければいけないことから、相当の厚さとなる。この結果、鋼製プレートとフィンガー部との間に大きな段差が生じるので、車両等が鋼製プレート上を走行する際に橋梁に衝撃を与えたり騒音を発生させる。さらに鋼製プレートの靭性は低いため、鋼製プレートとフィンガー部との間に隙間が生じている場合、車両の走行時に衝撃や騒音が発生することとなる。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題を解決することを課題の一例とするものであり、これらの課題を解決することができる橋梁の伸縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る橋梁の伸縮装置は、橋梁の第1橋桁と該第1橋桁に対向する第2橋桁との接合部、または、橋梁の第1橋桁と該第1橋桁に対向する橋台との接合部に設けられる伸縮装置において、前記接合部に路面として配され、所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維集成板で構成されるフェイスプレートと、前記フェイスプレートを支持し、前記橋梁の橋軸方向に伸縮可能な伸縮手段と、を有し、前記伸縮手段は、前記第1橋桁の前記橋軸方向の端部に設けられ、前記橋軸方向外側に突出した第1突部が前記橋軸方向に交差する伸縮継手方向に複数並設された第1スライド部材と、前記第2橋桁又は前記橋台の前記第1スライド部材に対向する端部に設けられ、前記第1スライド部材の第1突部間に形成される隙間部に挿入される第2突部が、前記伸縮継手方向に複数並設された第2スライド部材と、を備え、前記フェイスプレートは、一方のスライド部材に取り付けられ、前記第1スライド部材と第2スライド部材との間の溝部を覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
所定方向に並んだ炭素繊維の束が配列された炭素繊維集成板で構成されるフェイスプレートが第1スライド部材と第2スライド部材との溝部を覆うように取り付けられているので、隙間がなくなり、土砂やごみ等の隙間への詰まりを防止すると共に、走行車両に対する走行性及び快適性の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は伸縮装置が橋梁に設置されている様子を示す斜視図、(b)は図1(a)のA−A断面図である。
図2】(a)は基準位置における伸縮装置の部分平面図、(b)は図2(a)のB−B断面図である。
図3】(a)は橋桁が伸長した場合、即ち伸縮装置が縮小した場合の部分平面図、(b)は図3(a)のC−C断面図である。
図4】(a)は橋桁が収縮した場合、即ち伸縮装置が拡張した場合の部分平面図、(b)は図4(a)のD−D断面図である。
図5】(a)はフェイスプレートの平面図、(b)は図5(a)のフェイスプレートの側面図、(c)は図5(b)の部分拡大図である。
図6】(a)は第1プリプレグの平面図、(b)は第2プリプレグの平面図、(c)は第3プリプレグの平面図である。
図7】(a)は突部及び隙間部の形状が台形状(ジョイント部が歯型状)である場合の第1スライドプレート及び第2スライドプレートの平面図、(b)は突部及び隙間部の形状が三角形状(ジョイント部が山型状)である場合の第1スライドプレート及び第2スライドプレートの平面図、(c)は突部及び隙間部の形状が半円形状(ジョイント部が波型状)である場合の第1スライドプレート及び第2スライドプレートの平面図、(d)は突部を備えない筋溝型状のジョイント部である場合の第1スライドプレート及び第2スライドプレートの平面図である。
図8】(a)は既存の伸縮装置が橋梁に設置されている様子を示す斜視図、(b)は既存の伸縮装置がフェイスプレートにより改良された様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1に示すように、本発明に係る橋梁の伸縮装置Xは、橋梁Bの路面R、Rの端部の継目部、換言すれば、橋梁Bの橋桁B1の端部と、橋桁B1を支承B3を介して支持する橋台B2との間に設けられ、温度変化による橋桁B1の伸縮やたわみ及び地震による橋桁B1の変形などを許容する。
【0011】
伸縮装置Xは、橋桁B1と橋台B2との継目部(接合部)における路面として配されたフェイスプレート3、橋桁B1の橋軸方向端部に設けられた第1スライドプレート1、橋桁B1の橋軸方向に沿って第1スライドプレート1と所定間隔をおいて対向して橋台B2に設けられた第2スライドプレート2、第1スライドプレート1を支持する第1受け桁4、及び、第2スライドプレート2を支持する第2受け桁5を具備する。フェイスプレート3は、第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2に支持されており、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との間に形成される溝部を覆っている。
【0012】
第1受け桁4及び第2受け桁5は断面コ字状の鋼材で構成されている。第1受け桁4は、橋桁B1を構成する断面I型の主桁B11に支持され、所定のボルト61で固定されている。また、第1受け桁4は、第1スライドプレート1に座ぐりボルト等の所定のボルト62で固定されている。そして、主桁B11の上面側、及び、第1スライドプレート1及び第1受け桁4の背面側に橋桁B1を構成する床板B12が形成されている。
【0013】
一方、第2受け桁5は、橋台B2の受台部B21に支持され、受台部B21に埋設されたアンカーボルト64に固定されている。また、第2受け桁5は、第2スライドプレート2に座ぐりボルト等の所定のボルト63で固定されている。そして、第2スライドプレート2の背面側、及び、第2受け桁5の背面側に橋台B2を構成する床板B22が形成されている。
【0014】
なお、第1受け桁4及び第2受け桁5の背面側には、床板B12、B22との定着性を向上させるべく所定の鉄筋71、72が設けられている。伸縮装置Xの橋梁Bへの設置方法はこれに限られず、適宜に変更できる。
【0015】
次に、図2を用いて、第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2について説明する。第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2はそれぞれ鋼製の面板で構成されており、矩形状の基部1A、2Aと、基部1A、2Aの一方の縁部(長辺部)から橋軸方向の外側に向かって突出して形成されているジョイント部1B、2Bとで構成されている。
【0016】
各ジョイント部1B、2Bは、基部1A、2Aの長辺方向、換言すれば、橋軸に交差する(本実施の形態では、直交する)所定の伸縮継手方向において所定間隔をおいて並設された複数の短冊状(矩形状)の突部11、21と、各突部11、21と突部11、21との間に形成される矩形状の隙間部12、22とで構成されている。伸縮装置Xが橋梁Bに設置された状態において、一方のスライドプレート1(2)の隙間部12(22)に他方のスライドプレート2(1)の突部21(11)が入り込んでいる。そして、突部11、21及び隙間部12、22の中心軸は、橋桁B1の橋軸と平行になっている。
【0017】
各スライドプレート1、2の突部11、21及び隙間部12、22はそれぞれ同一の形状に成型されている。すなわち、第1突部11の橋軸方向の長さL1及び伸縮継手方向の長さW1と、第2突部21の橋軸方向の長さL2及び伸縮継手方向の長さW2とが同一である。また、第1隙間部12の伸縮継手方向の長さB1と、第2隙間部22の伸縮継手方向の長さB2とも同一である。ここで、隙間部12、22の伸縮継手方向の長さB1、B2は、突部11、21の伸縮継手方向の長さW1、W2より若干(例えば、数mm程度)長い。これは、上述の通り、設置状態においては隙間部12、22に他方の突部21、11が挿入されるので、伸縮継手方向に隣接する突部11と突部21との間に多少の隙間を設け、第1突部11と第2突部21との接触を防止するためである。
【0018】
このように、第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2が全体で櫛型形状を呈しており、若干余裕を持って噛み合った状態となっているため、橋桁B1は橋軸方向に円滑に移動することができる。
【0019】
ところで、上述したように、橋桁B1は温度変化等によって伸縮するため、伸縮に伴って、第1スライドプレート1は、第2スライドプレート2に接近し(図3参照)、又は、第2スライドプレート2から離隔する(図4参照)。
【0020】
次に、図5を用いて、フェイスプレート3について説明する。最初に、フェイスプレート3の構造について説明する。フェイスプレート3は、橋軸方向長さが300mm、伸縮継手方向の長さが3500mmの平面視矩形状に成型されている。すなわち、図5(a)に示すフェイスプレート3が、橋桁B1と橋台B2との継目部において、伸縮継手方向に沿って間隔を空けずに複数並設されている。
【0021】
橋桁B1の伸縮継手方向を基準角度0°として、90°方向において、両端から15mm離れた位置から中央に向かった50mmの範囲においてテーパー部31、31が形成されている。テーパー部31、31は、90°方向の中央に向かって上昇しており、テーパー部31、31に挟まれた170mmの範囲からなる中央部32の厚さが最大となっている。このように、フェイスプレート3のテーパー部31、31は、車両の走行方向に沿って傾斜している。なお、中央部32の厚さは3.0mmであり、両端からテーパー部31、31の下端までの範囲で形成される端部33の厚さは1.5mmとなっている。
【0022】
フェイスプレート3は、炭素繊維の束にエポキシ樹脂を含浸させ、半硬化状態に反応させたプリプレグを積層して加圧真空・加熱した炭素繊維集成板(炭素繊維成型板)で構成されている。フェイスプレート3を構成する炭素繊維のプリプレグの種類は3種類であり、炭素繊維の方向が、0°方向(伸縮継手方向)であるプリプレグ(図6(a)参照、以下「第1プリプレグ」という)、90°方向(橋軸方向)であるプリプレグ(図6(b)参照、以下「第2プリプレグ」という)、及び、±45°方向に編み込まれた炭素繊維のプリプレグ(図6(c)参照、以下「第3プリプレグ」という)である。
【0023】
フェイスプレート3は、上記の3種類のプリプレグが組み合わされ、第1層3a〜第12層3lの12層のプリプレグで構成されている。具体的には、図5(c)に示すように、第2層3b、第4層3d、第6層3f、第7層3g、第9層3i及び第11層3kが第1プリプレグで構成され、第3層3c、第5層3e、第8層3h及び第10層3jが第2プリプレグで構成され、第1層3a及び第12層3lが第3プリプレグで構成されている。以下、必要に応じて、フェイスプレート3の垂直方向における中央の6層(第4層3d〜第9層3i)を全体で「中層3B」と称し、中層3Bの上側の3層(第1層3a〜第3層3c)を全体で「上層3A」と称し、中層3Bの下側の3層(第10層3j〜第12層3l)を全体で「下層3C」と称する。
【0024】
中層3Bを構成する第4層3d〜第9層3iは上側から下側に向かって階段状にずれて積層されている。換言すれば、第4層3d〜第9層3iの90°方向の長さが上側から下側に向かって段階的に長くなっている。
【0025】
一方、下層3Cの90°方向の両端は揃えられて成型されている。すなわち、下層3Cを構成する第10層3j〜第12層3lの90°方向長さは同一である。そして、この第10層3j〜第12層3lの90°方向長さは、中層3Bの中で最も長い第9層3iの90°方向長さより長い。
【0026】
上層3Aは、90°方向において中層3Bを完全に被覆し、下層3Cと両端が一致するように成型されている。このように、90°方向、すなわち、車両が走行する方向に対して炭素繊維の断面の露出を防ぐことで、炭素繊維の剥離・損傷・摩耗等を防ぐことができる。さらに、上層3Aは、中層3Bの範囲においてはその段差に沿って傾斜状に成型されている。これにより、フェイスプレート3の90°方向における略両端部に斜面が形成されるので、フェイスプレート3と周囲の路面との段差が軽減され、車両などの走行性及び快適性の低下を防ぐことができる。
【0027】
なお、第1層3a〜第12層3lの0°方向長さは同一であり、両端が揃えられて成型されている。
【0028】
フェイスプレート3は、本実施の形態のように上下線の区別がある場合には、車両が走行してくる側のスライドプレートにのみ接着されることが望ましい。例えば、図1(a)に示すように、第1車両走行方向に係る範囲においては第2スライドプレート2にのみ接着され、第2車両走行方向に係る範囲においては第1スライドプレート1にのみ接着されている。よって、橋桁B1が伸縮した場合でも、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2とが、相対的に橋軸方向に移動でき、伸縮装置Xの伸縮機能が保持される。
【0029】
次に、フェイスプレート3の断面構造と強度との関係について説明する。図2図4に示すように、フェイスプレート3は、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との間の溝部の全周にわたって第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2に支持されて、各溝部を覆っている。よって、フェイスプレート3は、各溝部の上を走行する車両等の荷重に抵抗できるように強度を設計する必要がある。具体的には、フェイスプレート3の強度は、フェイスプレート3の上を走行する車両等の荷重に基づく曲げモーメントに基づいて決定される。
【0030】
第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との間の溝部は、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2とで囲まれた空間で構成される。よって、この溝部の大きさは、図2に示すように、橋桁B1が伸縮していないときの状態を基準とすると、橋桁B1が収縮すると大きくなり(図3参照)、橋桁B1が伸長すると小さくなる(図4参照)。
【0031】
ここで、隙間部12、22が矩形状であり、その長辺方向に沿って突部11、21が移動するため、橋桁B1が伸縮すると、溝部の橋軸方向長さA1、A2が変化するが、溝部の伸縮継手方向長さとなる隙間部12、22の伸縮継手方向長さB1、B2は一定である。よって、溝部の橋軸方向長さA1、A2は、橋桁B1が伸縮する過程において、ある地点で、溝部の橋軸方向長さA1、A2が伸縮継手方向長さB1、B2より長くなる。
【0032】
ここで、フェイスプレート3の曲げモーメントに対する強度に係る支持点間長において、支配的な荷重方向は短辺方向であるので、短辺方向を主方向として炭素繊維量及び配置に基づいて曲げモーメントに対する強度が計算される。ここでは、橋桁B1が基準位置から伸長した場合、即ち、伸縮装置Xが縮小した場合、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との間の溝部における短辺方向の長さは、溝部の橋軸方向長さA1、A2となり得ることもある。しかし、橋桁B1が収縮した場合、すなわち、伸縮装置Xが拡張した場合、上記の溝部における短辺方向の長さは、隙間部12、22の伸縮継手方向長さB1、B2となる。さらに、隙間部12、22の伸縮継手方向長さB1、B2は一定であるので、この隙間部12、22の伸縮継手方向長さB1、B2を支配的な短辺方向として設計することで、大小様々な伸縮量の橋桁B1であっても、フェイスプレート3の厚さを一定にすることができる。
【0033】
この結果、フェイスプレート3を構成する炭素繊維の方向は、伸縮継手方向においてフェイスプレート3に作用する力に抵抗する方向と平行であることが望ましい。そして、フェイスプレート3の曲げモーメントに対する強度は、この伸縮継手方向の炭素繊維のプリプレグ、すなわち、第1プリプレグの厚さによって決定される。換言すれば、第1プリプレグの厚さは、溝部の伸縮継手方向中心でフェイスプレート3に作用する最大荷重に基づく曲げモーメントに抵抗できる範囲に設定されている。このように、橋桁B1の橋軸方向の設計伸縮量が大きくなる場合でも、スライドプレート1、2の平面形状として突部11、21の橋軸方向長さL1、L2を長くすることで、溝部の伸縮継手方向長さを一定とすることにより、フェイスプレート3の曲げモーメントに対する強度、すなわち、フェイスプレート3の厚さは、橋桁B1の幅等の橋梁Bの規模に関わらず、一定に設定(統一)することができる。
【0034】
本実施の形態では、フェイスプレート3を構成するプリプレグの種類の中では、第1プリプレグが最も多く、しかも、積層方向における中心の2層(第5層3e及び第6層f)が第1プリプレグで構成されている。フェイスプレート3の第1プリプレグはこの2層からなるものの他にも4つ配されている。この第1プリプレグの層数、換言すれば、厚さは、伸縮継手方向においてフェイスプレート3に作用する最大曲げモーメントに応じて適宜に設定される。
【0035】
また、フェイスプレート3が第2プリプレグを含んでいるため、フェイスプレート3全体が車両の走行方向(橋軸方向)に対して靱性効果が得られる。これによって、フェイスプレート3の裏面と第1スライドプレート1又は/及び第2スライドプレート2の表面との隙間がある場合に、フェイスプレート3の上を車両等が走行したときに橋梁Bに与える衝撃を軽減することができる。さらに、フェイスプレート3が第2プリプレグを含んでいるため、第1プリプレグが炭素繊維に直交する方向にばらけることを防止することができる。
【0036】
さらに、フェイスプレート3には、上記の第1プリプレグ及び第2プリプレグの他に±45°方向に編み込まれた炭素繊維からならなる第3プリプレグを含むことで、炭素繊維の方向が0°、90°、±45°と、米印の如くマルチ方向となるため、フェイスプレート3の面外圧縮力に対抗する力が増大する。さらには、車両等が走行し、フェイスプレート3に偏心荷重が作用したときに発生するねじれを防止することができる。
【0037】
また、第3プリプレグがフェイスプレート3の最も上側及び下側に配されているため、車両等との接触による炭素繊維の破損を防止することができる。さらに、フェイスプレート3に第3プリプレグが含まれ、フェイスプレート3の全体の靱性が向上するため、フェイスプレート3と第1スライドプレート1又は/及び第2スライドプレート2の表面との隙間がある場合に、フェイスプレート3の上を車両等が走行したときに橋梁Bに与える衝撃を軽減することができる。
【0038】
さらに、フェイスプレート3を構成する炭素繊維の積層構造は上下対称であるので、フェイスプレート3全体に対する捻れや歪みの発生を防止することができる。また、この上下対称構造によりフェイスプレート3の成型時の反りや歪みを防ぐことができる。
【0039】
また、本実施の形態における伸縮装置Xにおいては、橋桁B1の伸縮に伴って隙間部12、22の中を突部11、21が移動し、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との間の溝部(空間)の橋軸方向長さA1、A2が変化する。しかし、その橋軸方向長さに対して小さい溝部の伸縮継手方向長さとなる隙間部12、22の伸縮継手方向長さB1、B2が一定であるため、フェイスプレート3に係る設計曲げモーメントも、橋桁B1の伸縮に関わらず一定となる。よって、フェイスプレート3の厚さ・断面構造を統一させることができ、製造コストを低くすることができる。
【0040】
また、フェイスプレート3は、橋軸方向の略両端部にテーパー部31が形成されているが、中央部32は、厚さが最大であり、車両の荷重に対して垂直に配されているため、橋桁B1の伸縮する範囲において、溝部を完全に覆う。テーパー部31で輪荷重を支持すると安全性が低下するからである。すなわち、橋桁B1が伸縮する範囲において、中央部32以外のテーパー部31及び端部33(図2図4において「α」で示す範囲)が第1スライドプレート1の基部1A及び第2スライドプレート2の基部2Aに支持される。
【0041】
フェイスプレート3がエポキシ樹脂によりジョイント部2Bの突部21と基部2Aの一部(図2(a)、図3(a)、図4(a)における斜線部)に接着されており、第1スライドプレート1又は第2スライドプレート2とフェイスプレート3とが一体化されている。このように、フェイスプレート3が、車両が走行される側のスライドプレートにのみ接着されることで、橋桁B1の伸縮の拘束を回避し、橋梁Bや接合構造の破損・破壊等を防ぐことができる。さらに、フェイスプレート3が、車両が向かってくる側のフェイスプレートに固定されているため、第1スライドプレート1の表面から浮いた状態での車両等のフェイスプレート3への走行によるフェイスプレート3の破損を防止することができる。なお、フェイスプレート3とスライドプレート2との接着性を高めるために、フェイスプレート3の裏面がピールプライ製法により、定着効果のあるHi−Grip処理の粗面化されている。また、道路表面となるフェイスプレート3の表面も滑り防止措置としてHi−Grip処理されることがある。さらに、これらのHi−Grip処理にはガラス繊維プリプレグを伴うことがある。特に、フェイスプレート3に含まれる炭素繊維と鋼製の第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2との電解腐食を防止するために、フェイスプレート3の裏面に、ガラス繊維プリプレグ若しくは樹脂のみのプリプレグをさらに積層させることで、電解腐食防止層3mが形成される(図5参照)。
【0042】
なお、フェイスプレート3とスライドプレート1、2のいずれかとの接着は、エポキシ樹脂による塗布に限られず、例えば、フェイスプレート3の裏面には電解腐食防止層としてのガラス繊維プリプレグ若しくは樹脂のみからなるプリプレグを介在させる。また、所定の釜等において一体的に加圧真空・加熱して行うことも可能である。
【0043】
以上のように、フェイスプレート3が、橋梁Bの継目部である第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2に支持され、橋軸方向に移動可能な第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との該移動範囲で発生する溝部を確実に覆うため、すなわち、伸縮装置Xが溝部を有しないまさに「フィンガーレスジョイント」となるため、土砂やゴミ等の溝部への侵入を阻止し、橋桁B1の伸縮等の拘束を防止すると共に、第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2を走行する車両等に対する安全性及び快適性の低下を軽減し、騒音の発生を抑えることができる。さらに、フェイスプレート3が複数の炭素繊維プリプレグからなる炭素繊維集成板で構成されているため、フェイスプレート3の厚さのスリム化を図ることにより、路面との段差を軽減することができる。この結果、車両やバイクに対する安全性及び快適性の低下を軽減し、騒音の発生を抑えることができる。さらに、フェイスプレート3が複数の炭素繊維プリプレグからなる炭素繊維集成板で構成されているため、その靱性により車両の走行等により橋梁Bへの衝撃を抑えることができる。さらには、接着剤による一体化の手法により、フェイスプレート3の第1スライドプレート1若しくは第2スライドプレート2への取り付け作業を容易にすることができる。
【0044】
さらに、第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2の全体の形状を櫛型とし、隙間部12、22の形状を矩形状とすることによって、フェイスプレート3の曲げモーメントに対する強度、すなわち、フェイスプレート3の厚さを一定に設定すると共に、厚さを薄くし、路面の段差を軽減し、走行車両の安全性及び快適性を向上させることができる。
【0045】
また、上記の例では、本発明の伸縮装置が橋桁B1と橋台B2との間の継目部に適用されているが、橋桁B1とそれに対向する橋桁との間の継目部に適用することができる。また、橋軸方向が曲線となっている橋梁の継目部において本発明の伸縮装置を適用することも可能である。さらには、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2の伸縮継手方向は橋軸に直交する角度以外の所定の角度で交差する方向でも良い。また、本発明の伸縮装置は、橋梁の車道部分以外の歩道や自転車レーンについても適用することができる。また、フェイスプレート3の形状・断面構造も上記の例に限られず適宜に設計することができる。
【0046】
また、本発明の伸縮装置は工場で生産される製品に適用するのみではなく、既設のスライドプレートが路面の一部として配されている伸縮装置を現場で改良することも可能である。この場合の既設のスライドプレートとしては、例えば、図7に示すように、歯型形状のスライドスプレート1、2(図7(a)参照)、山型形状のスライドスプレート1、2(図7(b)参照)、波型形状のスライドスプレート1、2(図7(c)参照)、更には櫛型形状のスライドスプレート1、2がある。この場合、想定されるスライドプレート1、2間の溝部の幅(支持点間距離)に基づいて、フェイスプレート3の断面構造や炭素繊維の方向を適宜に設定する必要がある。
【0047】
また、スパンの短い橋梁において設計伸縮量が例えば50mm以下であれば、敢えてスライドプレート1、2を櫛型形状にする必要はなく、図7(d)に示す様な筋溝型形状(I型形状)として本発明の伸縮装置を適用することができる。この場合、スライドプレート1、2の間の距離が最大となるのは、第1スライドプレート1と第2スライドプレート2との橋軸方向距離であるので、第2プリプレグをもってフェイスプレート3の厚さを設計する必要がある。なお、既存の筋溝型形状も現場で改良することができる。
【0048】
本発明の伸縮装置を現場での改良品に適用する場合、図8(a)に示すように、第1スライドプレート1及び第2スライドプレート2が表面側に配されており、伸縮装置X‘が橋梁Bに設置されている状況において、図8(b)に示すように、フェイスプレート3を第1スライドプレート1又は第2スライドプレート2に接着して、既存の伸縮装置X’を改良し、現地で伸縮装置Xを製造することも可能である。
【0049】
この場合、上述の通り、フェイスプレート3の第1プリプレグに係る炭素繊維の繊維方向を伸縮継手方向に一致させ、車両が走行してくる側のスライドプレートにのみ接着させることに留意する。
【符号の説明】
【0050】
1 第1スライドプレート(第1スライド部材)
2 第2スライドプレート(第2スライド部材)
3 フェイスプレート
11 第1突部
12 第1隙間部
21 第2突部
22 第2隙間部
31 テーパー部
32 中央部
33 端部
3A 上層
3B 中層
3C 下層
X 伸縮装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8