特許第6041115号(P6041115)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6041115-クリーニングブレード 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041115
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】クリーニングブレード
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   G03G21/00 318
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-553531(P2015-553531)
(86)(22)【出願日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2014083154
(87)【国際公開番号】WO2015093441
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-259647(P2013-259647)
(32)【優先日】2013年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313015030
【氏名又は名称】シンジーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 美幸
(72)【発明者】
【氏名】東良 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】阿部 克己
【審査官】 齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−178262(JP,U)
【文献】 特開平08−248851(JP,A)
【文献】 特開2011−186141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム基材の成形体である弾性体を有し、前記弾性体の被接触体と当接する部位に少なくとも表面処理層を有するクリーニングブレードであって、
前記表面処理層は、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤とを含有する表面処理液、又は前記2官能イソシアネート化合物と前記3官能ポリオールとの反応生成物であるイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物と有機溶剤とを含有する表面処理液を、前記弾性体に含浸し硬化して形成されたものであり、
前記2官能イソシアネート化合物に含有されるイソシアネート基と、前記3官能ポリオールに含有される水酸基との比率(NCO基/OH基)は、1.0以上1.5以下であり、
前記表面処理層の厚さは、10μm以上100μm以下であることを特徴とするクリーニングブレード。
【請求項2】
請求項1に記載のクリーニングブレードにおいて、
前記2官能イソシアネート化合物は、分子量が200以上300以下であり、
前記3官能ポリオールは、分子量が150以下であることを特徴とするクリーニングブレード。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクリーニングブレードにおいて、
前記弾性体はポリウレタンであることを特徴とするクリーニングブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式複写機及びプリンタ、又はトナージェット式複写機及びプリンタ等の画像形成装置に用いられるクリーニングブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に電子写真プロセスでは、電子写真感光体に対して、少なくともクリーニング、帯電、露光、現像及び転写の各プロセスが実行される。各プロセスでは、感光ドラム表面に残存するトナーを除去清掃するクリーニングブレードや、感光体に一様な帯電を付与する導電性ロールや、トナー像を転写する転写ベルト等が用いられている。そして、クリーニングブレードは、塑性変形や耐摩耗性の観点から、主に熱硬化性ポリウレタン樹脂により製造される。
【0003】
しかしながら、例えば、ポリウレタン樹脂からなるクリーニングブレードを用いた場合、ブレード部材と感光ドラムとの摩擦係数が大きくなり、ブレードのめくれや異音が発生したり、感光ドラムの駆動トルクを大きくしなければならない場合があった。また、クリーニングブレードの先端が感光ドラム等に巻き込まれ、引き延ばされて切断され、クリーニングブレードの先端が摩耗破損する場合もあった。これらの問題は、クリーニングブレードの硬度が低い場合に特に顕著となり、その結果、クリーニングブレードの耐久性が不足する場合もあった。
【0004】
このような問題を解決するため、従来からポリウレタン製ブレードの当接部を高硬度、且つ低摩擦にする試みが行われてきた。例えば、ポリウレタン製ブレードにイソシアネート化合物を含浸させ、ポリウレタン樹脂とイソシアネート化合物とを反応させることにより、ポリウレタン樹脂ブレードの表面及び表面近傍のみを高硬度化させ、且つ表面の低摩擦化を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に開示されている方法でブレードに必要な特性を得るためには、ポリウレタン樹脂に高濃度のイソシアネート化合物を有する表面処理液を含浸させる必要があり、これに伴い表面処理層を深くまで形成する必要が出てくる。表面処理液を高濃度とし且つ表面処理層を深くまで形成しようとすると、ブレード表面に余剰量のイソシアネートが残存し易くなるため、このイソシアネートを除去する工程が必要となる。他方、表面処理層を薄くすると、耐摩耗性が不十分になり、クリーニング性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−052062号公報
【特許文献2】特開2009−025451号公報
【特許文献3】特開2004−280086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、表面処理層の厚さが薄くても高硬度で低摩擦であり、且つ耐摩耗性に優れ、長期にわたり良好なクリーニング性を維持することができるクリーニングブレードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、ゴム基材の成形体である弾性体を有し、前記弾性体の被接触体と当接する部位に少なくとも表面処理層を有するクリーニングブレードであって、前記表面処理層は、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤とを含有する表面処理液、又は前記2官能イソシアネート化合物と前記3官能ポリオールとの反応生成物であるイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物と有機溶剤とを含有する表面処理液を、前記弾性体に含浸し硬化して形成されたものであり、前記2官能イソシアネート化合物に含有されるイソシアネート基と、前記3官能ポリオールに含有される水酸基との比率(NCO基/OH基)は、1.0以上1.5以下であり、前記表面処理層の厚さは、10μm以上100μm以下であることを特徴とするクリーニングブレードにある。
【0009】
かかる発明によれば、表面処理層の厚さが薄くても高硬度で低摩擦であり、且つ耐摩耗性に優れ、長期にわたり良好なクリーニング性を維持することができるクリーニングブレードが実現される。また、表面処理層の厚さが10μm以上100μm以下と薄いため、表面への表面処理液の残留及び乾燥後の析出が少なくなり、表面に余剰量のイソシアネート化合物が塗布されることを防止することができる。
【0010】
ここで、前記2官能イソシアネート化合物は、分子量が200以上300以下であり、前記3官能ポリオールは、分子量が150以下であることが好ましい。
【0011】
これによれば、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとの反応が良好に進行し、表面処理層を効率よく形成することができる。
【0012】
ここで、前記弾性体はポリウレタンであることが好ましい。
【0013】
これによれば、ポリウレタンと表面処理液に含まれる2官能イソシアネート化合物との親和性が高いため、表面処理層をより高硬度で低摩擦とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面処理層の厚さが薄くても高硬度で低摩擦であり、且つ耐摩耗性に優れ、長期にわたり良好なクリーニング性を維持することができるクリーニングブレードを実現することができる。また、表面処理層の厚さが10μm以上100μm以下と薄いため、表面に余剰量のイソシアネート化合物が塗布されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るクリーニングブレードの一例の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係るクリーニングブレードを画像形成装置に適用した場合について詳細に説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1に示すように、クリーニングブレード1は、ブレード本体10と支持部材20とを備えており、ブレード本体(これ自体をクリーニングブレードともいう)10と支持部材20とは図示されない接着剤を介して接合されている。ブレード本体10は、ゴム基材の成形体である弾性体11で構成される。弾性体11は、その表層部に表面処理層12が形成されている。表面処理層12は、弾性体11の表層部に表面処理液を含浸させ硬化することにより形成したものである。表面処理層12は、弾性体11のクリーニング対象と当接する部分に少なくとも形成すればよいが、本実施形態では、弾性体11の表面全体の表層部に表面処理層12を形成してある。
【0018】
このような表面処理層12を形成するために用いられる表面処理液は、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤との混合溶液、又は2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを反応させることにより得られるイソシアネート基を末端に有するイソシアネート基含有化合物であるプレポリマーと有機溶剤との混合溶液である。これらの表面処理液は、弾性体11への濡れ性、浸漬程度や表面処理液の有効期間を考慮して適宜調製される。
【0019】
表面処理剤中2官能イソシアネート化合物に含有されるイソシアネート基と、3官能ポリオールに含有される水酸基との比率(NCO基/OH基)は、1.0以上1.5以下である。イソシアネート基と、水酸基との比率(NCO基/OH基)が、1.0よりも小さいと、未反応のポリオールが残留し白化、軟化を引き起こす。また、1.5よりも大きいと未反応のイソシアネートが残留し、褐色変化を引き起こす。よって、イソシアネート基と、水酸基との比率(NCO基/OH基)が、1.0よりも小さい、又は1.5よりも大きいと、高硬度で低摩擦の表面処理層が得られず、良好なクリーニング性や耐摩耗性が得られなくなる。
【0020】
また、表面処理層12は、弾性体11の表層部に、厚さ10μm以上100μm以下、好ましくは10μm以上50μm以下で形成される。この厚さは、従来の表面処理層12の厚さの約1/10と極めて薄いものであるが、高硬度で低摩擦であり、且つ耐摩耗性に優れたものとなる。これは、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤とを含有する表面処理液、又はこれらを反応させて得られるプレポリマーを用いることで、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとの反応や、プレポリマーと弾性体11との反応が効率よく進行し、弾性体11の表層部に高架橋密度の表面処理層12が形成されるからである。このような表面処理層12は、高濃度の表面処理液を用いなくても、弾性体11の表層部に形成することができるため、弾性体の表面に余剰量のイソシアネート化合物が塗布されることがなく、従来のような余剰量のイソシアネート化合物を除去する除去工程が不要となる。
【0021】
さらに、表面処理層12の弾性率(ここでは押し込み弾性率(ヤング率)をいう。以下同様。)は40MPa以下であることが好ましい。表面処理層12の弾性率を40MPaより大きくすると、弾性体11の変形に対して表面処理層12が追従できなくなり、表面処理層12のカケが生じてしまうからである。
【0022】
また、弾性体11の弾性率は5MPa以上20MPa以下であることが好ましい。弾性体11の弾性率を5MPaより小さくすると、被接触体、即ち、本実施形態では感光体ドラムのトルクが上昇し、フィルミングの抑制効果が低下してしまう。ここで、フィルミングとは、トナーが感光体ドラムに付着する現象をいう。一方、弾性体11の弾性率を20MPaより大きくすると、感光体ドラムとクリーニングブレードとの十分な密着性が得られなくなる。さらに、表面処理層12の弾性率と弾性体11の弾性率との差は、3MPa以上であることが好ましい。表面処理層12の弾性率と弾性体11の弾性率との差を3MPaより小さくすると、フィルミングの抑制効果が十分得られなくなるからである。
【0023】
ここで、まず、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤との混合溶液からなる表面処理液について説明する。
【0024】
表面処理液に用いられる2官能イソシアネート化合物としては、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H−MDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、カルボジイミド変性MDI、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、リジンジイソシアネートメチルエステル(LDI)、ジメチルジイソシアネート及びこれらの多量体および変性体等が挙げられる。2官能イソシアネート化合物の中でも、分子量が200以上300以下のものを用いることが好ましい。上記の中では、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、3,3−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(TODI)が挙げられる。分子量が200以上300以下の2官能イソシアネート化合物を用いることにより、3官能ポリオールとの反応が安定して進行し、弾性体11の表層部に短時間で表面処理液が含浸し、表面処理層12が薄くても高硬度で低摩擦となる。
【0025】
特に弾性体11としてポリウレタンを用いた場合、2官能イソシアネート化合物とポリウレタンとの親和性が高く、表面処理層12と弾性体11との結合による一体化をより高めることができ、表面処理層12をより高硬度で低摩擦とすることができる。一方、3官能イソシアネート化合物を用いた場合、立体障害が大きく、一定以上の架橋反応が進まなくなる。このため、イソシアネート化合物としては、安定的に3官能ポリオールと反応することができる2官能イソシアネート化合物を用いる必要がある。
【0026】
3官能ポリオールとしては、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン(TME)、トリメチロールプロパン(TMP)、1,2,6−ヘキサントリオール等の3官能脂肪族ポリオール、3官能脂肪族ポリオールにエチレンオキシド、ブチレンオキシド等を付加したポリエーテルトリオール、3官能脂肪族ポリオールにラクトン等を付加したポリエステルトリオール等が挙げられる。3官能ポリオールの中でも、分子量が150以下のものを用いることが好ましい。上記の中では、トリメチロールプロパン(TMP)が挙げられる。分子量が150以下の3官能ポリオールを用いることにより、2官能イソシアネートとの反応が速く、高硬度の表面処理層を得ることができる。
【0027】
3官能ポリオールを表面処理液に含有すると、3官能の水酸基がイソシアネート基と反応し、3次元構造を持つ高架橋密度の表面処理層12を得ることができる。これにより、低濃度の表面処理液を用いて厚さが薄い表面処理層12を形成しても、高硬度で低摩擦とすることができる。さらに、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを含有する表面処理液は、後述する実施例に示すように、有効期間が長く、保管性に優れたものとなる。
【0028】
有機溶剤は、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールを溶解するものであれば特に限定されないが、イソシアネート化合物と反応し得る活性水素を持たないものが好適に用いられる。例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン等が挙げられる。有機溶剤は、低沸点である程、溶解性が高く、含浸後の乾燥を速くすることができ、均一に処理することができる。なお、これらの有機溶剤は、弾性体11の膨潤程度により適宜選択され、好ましくはメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、酢酸エチルが用いられる。
【0029】
2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤との混合溶液からなる表面処理液を用いた場合、弾性体11の表層部へ表面処理液を含浸させ、硬化処理を行うと、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールが反応してプレポリマー化すると共に硬化し、末端に残ったイソシアネート基が弾性体11と反応することで表面処理層12が形成される。
【0030】
一方、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとの反応生成物であるイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物を含有する表面処理液は、上述した2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを予め反応させて、末端にイソシアネート基を有するイソシアネート基含有化合物であるプレポリマーを合成し、これと有機溶剤とを混合して表面処理液とする。この場合、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを反応させる際の2官能イソシアネート化合物に含有されるイソシアネート基と、3官能ポリオールに含有される水酸基との比率(NCO基/OH基)は、上述した場合と同様に、1.0以上1.5以下とする。
【0031】
このような2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとのプレポリマー化は、表面処理液を弾性体11の表層部に含浸させる間に起こるように設定してもよいが、どの程度の反応を行わせるかは、反応温度、反応時間、放置環境を調節することによって制御することができる。プレポリマー化の条件は、一般的には、表面処理液の温度5℃〜35℃、湿度20%〜70%下で行われる。
【0032】
なお、何れの場合においても、表面処理液には、必要に応じて架橋剤、触媒、硬化剤等が添加される。また、有効成分である2官能イソシアネート化合物及び3官能ポリオールの濃度、又は2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを反応させる際の2官能イソシアネート化合物の濃度は、有機溶剤への溶解性や表層部への含浸性を考慮して適宜選定すればよいが、3質量%以上30質量%以下、好ましくは、5質量%以上20質量%以下とするのがよい。
【0033】
また、弾性体11は活性水素を有するマトリックスからなる。ここで、活性水素を有するマトリックスとしては、ポリウレタン、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、スチレンゴム(SBR)、クロロプレンゴム、EPDM等をゴム基材としたマトリックスを挙げることができる。これらの中でも、2官能イソシアネート化合物との反応のしやすさに鑑みるとポリウレタンが好ましい。ポリウレタンからなるゴム基材としては、脂肪族ポリエーテル、ポリエステル及びポリカーボネートから選択される少なくとも一種を主体とするものを挙げることができる。具体的には、これら脂肪族ポリエーテル、ポリエステル及びポリカーボネートから選択される少なくとも一種を含むポリオールを主体とし、これをウレタン結合により結合したものを挙げることができ、好適には、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン等を挙げることができる。また、ウレタン結合の代わりにポリアミド結合あるいはエステル結合等により結合して弾性体としたものも用いることができる。さらに、ポリエーテルアミドやポリエーテルエステルなどの熱可塑性エラストマーを用いることもできる。また、ゴム基材として活性水素を有するものと併せて、又はその代わりに、充填材、可塑剤として活性水素を有するものを用いてもよい。
【0034】
このような弾性体11の表層部に表面処理液を含浸させ硬化することにより、弾性体11の表層部に表面処理層12が形成される。ここで、弾性体11の表層部に表面処理液を含浸させ硬化する方法は特に限定されない。例えば、弾性体11を表面処理液に浸漬し、次いで加熱する方法、又は表面処理液をスプレー塗布等により弾性体11表面に塗布して含浸させ、次いで加熱する方法が挙げられる。また、加熱する方法は限定されず、例えば加熱処理、強制乾燥及び自然乾燥等が挙げられる。
【0035】
具体的に、表面処理液として、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤との混合溶液を用いる場合、表面処理層12の形成は、弾性体11の表層部への表面処理液の含浸中に、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールが反応してプレポリマー化すると共に硬化し、且つイソシアネート基が弾性体11と反応することで進行する。
【0036】
表面処理液として、プレポリマーを用いる場合、表面処理層12の形成は、弾性体11の表層部に表面処理液を含浸し、その後硬化すると共にイソシアネート基が弾性体11と反応することで進行する。
【0037】
弾性体11の表面処理層の形成部位は、少なくとも被接触体と当接する部位を含めばよい。例えば、弾性体11の先端部のみに形成してもよいし、弾性体11の全体に形成してもよい。また、弾性体11に支持部材20を接着してクリーニングブレードとした状態で、先端部のみ、又は弾性体全体の表層部に形成してもよい。また、弾性体11をブレード形状に切断する前のゴム成形体の一面、両面又は全面に表面処理層を形成した後、切断するようにしてもよい。
【0038】
本発明によれば、イソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が1.0以上1.5以下である2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールと有機溶剤とを含有する表面処理液、又はこれらを反応させて得られるプレポリマーを、弾性体11の表層部に含浸させ硬化することにより、弾性体11の表層部に厚さが10μm〜100μm、好ましくは10μm〜50μmと極めて薄いが高硬度で低摩擦の表面処理層を形成することができる。このような表面処理層を有するクリーニングブレードは耐摩耗性に優れ、長期にわたり良好なクリーニング性やフィルミング抑制性等を維持することができる。また、表面処理層の厚さが薄いため、弾性体の表面に余剰量のイソシアネート化合物が塗布されることを防止することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例1)
(ゴム弾性体の作製)
カプロラクトン系ポリオール(分子量2000)100質量部と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)38質量部とを115℃×20分間反応させた後、架橋剤として1,4−ブタンジオール6.1質量部およびトリメチロールプロパン2.6質量部を混合し、140℃に保った金型で40分間加熱硬化させた。成形後、幅12.3mm、厚さ2.0mm、長さ324mmに切断加工したゴム弾性体とした。得られたゴム弾性体は、弾性率が10.0MPaであった。
【0041】
(表面処理液の調製)
2官能イソシアネート化合物としてMDI(日本ポリウレタン工業(株)製、分子量250.25)と、3官能ポリオールとしてTMP(三菱ガス化学(株)製、分子量134.17)と、有機溶剤としてMEKとを、イソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が1.0となるように混合し、濃度5質量%の表面処理液を調製した。ここで、表面処理液の濃度(質量%)は、表面処理液の全体の質量に対するイソシアネート化合物及びポリオールの質量の割合とする。
【0042】
(ゴム弾性体の表面処理)
表面処理液を23℃に保ったまま、ゴム弾性体を表面処理液に0.5分間浸漬後、50℃に保持されたオーブンで1時間加熱した。これにより、表層部に厚さ10μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0043】
なお、表面処理層の厚さは、島津製作所製ダイナミック超微小硬度計を用いて、JIS Z2255、ISO14577に準じて以下の手順で測定した。まず、ゴム弾性体の表面硬度を測定し、次いで表面処理したゴム弾性体の断面を切り出し、断面の表層からゴム弾性体の内部に向けての硬度変化を測定し、表面からの距離10μmの硬度との変化量が30%以下の距離を計測し、表面からその距離までを表面処理層の厚さとした。
【0044】
(実施例2)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、イソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が1.2となるように混合した濃度10質量%の表面処理液にゴム弾性体を1分間浸漬した以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0045】
(実施例3)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、表面処理液にゴム弾性体を5分間浸漬した以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ80μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0046】
(実施例4)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、表面処理液にゴム弾性体を10分間浸漬した以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ100μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0047】
(実施例5)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、イソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が1.5となるように混合した濃度20質量%の表面処理液にゴム弾性体を1分間浸漬した以外は実施例1と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ50μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0048】
(実施例6)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、TMPの代わりにTME(三菱ガス化学(株)製、分子量120.15)を含有する表面処理液を用いた以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0049】
(実施例7)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、TMPの代わりにグリセリン(関東化学(株)製、分子量92.09)を含有する表面処理液を用いた以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、濃度20質量%の表面処理液にゴム弾性体を30分間浸漬した以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ120μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0051】
(比較例2)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、濃度30質量%の表面処理液にゴム弾性体を20分間浸漬した以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ150μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0052】
(比較例3)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、濃度3質量%の表面処理液にゴム弾性体を0.1分間浸漬した以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ5μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0053】
(比較例4)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、イソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が0.9となるように混合した表面処理液を用いた以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0054】
(比較例5)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、イソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が1.7となるように混合した表面処理液を用いた以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0055】
(比較例6)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、TMPの代わりに、1,3−プロパンジオール(PDO)(関東化学(株)製、分子量76.09)を含有する表面処理液を用いた以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0056】
(比較例7)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、ポリオールを含まず、ポリイソシアネート(品名:ミリネートMR−400、日本ポリウレタン工業(株)製)を含有し、ポリイソシアネート濃度が10質量%の表面処理液を用いた以外は実施例2と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ30μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0057】
(比較例8)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、ポリイソシアネート濃度が30質量%の表面処理液を用いた以外は比較例7と同様の手順でゴム弾性体の表面処理を行った。これにより、表層部に厚さ200μmの表面処理層を有するゴム弾性体を得た。その後、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0058】
(比較例9)
実施例1と同様の手順でゴム弾性体を得た。そして、ゴム弾性体に表面処理を施さず、ゴム弾性体を支持部材に接着してクリーニングブレードとした。
【0059】
実施例1〜7及び比較例1〜9で得られたゴム弾性体又はクリーニングブレードについて、以下の手法で、動摩擦係数、表面処理層の押し込み弾性率、表面硬度及び表面粗さを測定し、クリーニング性、フィルミング抑制性、耐摩耗性、外観及び表面処理液の有効期間を評価した。
【0060】
(試験例1)
<動摩擦係数の測定>
新東科学製表面性試験機を用いて、JIS K7125、P8147、ISO8295に準じ、相手材として直径10mmのSUS304鋼球を用い、移動速度50mm/分、荷重0.49N、振幅50mmの条件下で動摩擦係数を測定した。
【0061】
(試験例2)
<押し込み弾性率の測定>
島津製作所製ダイナミック超微小硬度計を用いて、ISO14577に準じ、負荷−除荷試験により保持時間5s、最大試験荷重0.98N、負荷速度0.14N/sの条件下で表面処理層の押し込み弾性率を測定した。
【0062】
(試験例3)
<表面硬度の測定>
島津製作所製ダイナミック超微小硬度計を用いて、JIS Z2255、ISO14577に準じ、圧し押し込み試験により負荷速度1.4mN/s、測定深さ10μmの条件下で表面硬度を測定した。
【0063】
(試験例4)
<表面粗さの測定>
東洋精密サーフコム1400Aを用いて、JIS B0601−1994に準じ、移動速度0.15mm/s、カットオフ波長:0.8mm、負荷速度1.4mN/s、測定深さ10μmの条件下でゴム弾性体表面の十点平均粗さRを測定した。
【0064】
(試験例5)
<クリーニング性の評価>
京セラ製TASKalfa5550ciを用いて、カートリッジにブレードを組み込み100万枚印刷した後、トナーのすり抜けがなかった場合を○、トナーの多少のすり抜けはあったが許容範囲であった場合を△、トナーのすり抜けがあった場合を×としてクリーニング性を評価した。
【0065】
(試験例6)
<フィルミング抑制性の評価>
京セラ製TASKalfa5550ciを用いて、カートリッジにブレードを組み込み100万枚印刷した後、トナーの固着がなかった場合を○、トナーの固着が多少あったが、許容範囲であった場合を△、トナーの固着があった場合を×としてフィルミング抑制性を評価した。
【0066】
(試験例7)
<耐摩耗性の評価>
京セラ製TASKalfa5550ciを用いて、カートリッジにブレードを組み込み100万枚印刷した後、カケや摩耗がなかった場合を○、極微小なカケがあったが、許容範囲であった場合を△、カケや摩耗があった場合を×として耐摩耗性を評価した。
【0067】
(試験例8)
<外観の評価>
京セラ製TASKalfa5550ciを用いて、カートリッジにブレードを組み込み100万枚印刷した後、処理ムラがなかった場合を○、処理ムラが多少見られたが、許容範囲であった場合を△、処理ムラがあった場合を×として外観を評価した。
【0068】
(試験例9)
<表面処理液の有効期間の評価>
500ml容器に表面処理液400gを調合し密封して保管温度40℃で保管し、外観上に異常が発生するまでの日数を測定し、2日以上外観上に異常が発生しなかった場合を○、2日未満で多少の異常が見られたが、許容範囲であった場合を△、2日未満で外観上に異常が発生した場合を×として表面処理液の有効期間を評価した。
【0069】
<試験結果>
試験例1〜9の結果を表1に示す。表1に示すように、表面処理液が2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを含有し、表面処理液中のイソシアネート基と水酸基との比率(NCO基/OH基)が1.0以上1.5以下であり、且つ表面処理層の厚さが10μm以上100μm以下である実施例1〜7は、クリーニング性、フィルミング抑制性、耐摩耗性、外観及び表面処理液の有効期間の評価がいずれも○となった。また、動摩擦係数、押し込み弾性率、表面硬度及び表面粗さについては十分実用に耐え得る数値が得られた。
【0070】
表面処理液が2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを含有し、且つイソシアネート基と水酸基との比率が所定範囲であっても、表面処理層の厚さが100μmより厚い比較例1,2は、表面硬度や押し込み弾性率が高く、クリーニング性及び外観の評価が×となり、耐摩耗性の評価が△となった。また、表面処理層の厚さが5μmと薄い比較例3は、動摩擦係数がやや高く、フィルミング抑制性及び耐摩耗性の評価が×となった。
【0071】
また、表面処理液が2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを含有し、且つ表面処理層の厚さが所定範囲であっても、イソシアネート基と水酸基との比率が1.0未満である比較例4は、動摩擦係数がやや高く、クリーニング性、フィルミング抑制性、耐摩耗性及び外観の評価が×となり、かかる比率が1.5より大きい比較例5は、クリーニング性、耐摩耗性及び外観の評価が×となった。
【0072】
一方、ポリオールとして2官能ポリオールを含有する表面処理液を用いた比較例6は、クリーニング性、耐摩耗性及び表面処理液の有効期間の評価が△となった。また、ポリイソシアネートのみを含有する表面処理液を用いた比較例7,8及び表面処理を施さなかった比較例9は、クリーニング性、フィルミング抑制性、耐摩耗性、外観及び表面処理液の有効期間の評価の内、少なくとも2以上が×又は△となった。
【0073】
以上の結果から、2官能イソシアネート化合物と3官能ポリオールとを含有する表面処理液を用い、表面処理液中のイソシアネート基と水酸基との比率及び表面処理層の厚さを所定範囲とすることにより、クリーニング性、フィルミング抑制性、耐摩耗性、外観及び表面処理液の有効期間を確実に向上できることがわかった。このようなゴム弾性体を具備するクリーニングブレードは、表面処理層の厚さが薄くても高硬度で低摩擦であり、且つ耐摩耗性に優れ、長期にわたり良好なクリーニング性を維持することができる信頼性の高いものとなる。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係るクリーニングブレードは、電子写真式複写機及びプリンタ、又はトナージェット式複写機及びプリンタ等の画像形成装置に用いられるクリーニングブレード、導電性ロール及び転写ベルト等に用いて好適であるが、その他の用途で用いることもできる。その他の用途としては、例えば、シール部品、工業用ゴムホース、工業用ゴムベルト、ワイパー、自動車用ウエザーストリップ、ガラスラン等のゴム部品が挙げられる。
【符号の説明】
【0076】
1 クリーニングブレード
10 ブレード本体
11 弾性体
12 表面処理層
20 支持部材
図1