【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法であって、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させる工程を有する材料表面修飾方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、極めて反応性が高く、予め化学的に合成して保存することが困難なジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物に代えて、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を材料の表面修飾に用いることを検討した。ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、ジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物と比べて反応性が穏やかであり、合成や取扱いも容易である。また、チロシンやチラミン等の生体由来分子を原料として用いることができることから、安全性も高い。しかしながら、このような反応性の低いヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物では、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面に結合させることは困難であった。
本発明者は、更に鋭意検討の結果、触媒及び酸化剤の存在下でヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させることにより、容易に機能性化合物を材料の表面に結合させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の材料表面修飾方法は、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させる工程を有する。
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、安定性が高く、合成が容易で、合成後に保存することも可能である。従って、材料表面修飾方法を飛躍的に容易にすることができる。
【0010】
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0011】
【化1】
【0012】
上記式(1)中、Rは、機能性化合物の残基を表す。
上記機能性化合物としては、例えば、機能性ペプチド、核酸、タンパク質、糖質等の天然の機能性化合物のほか、合成高分子等も挙げられる。
【0013】
上記機能性ペプチドとしては、例えば、血管内皮細胞が特異的に接着するペプチドであるフィブロネクチンCS5ドメイン由来ペプチド(REDV、Arg−Glu−Asp−Val)、フィブロネクチン由来細胞接着性ペプチド(RGDS、Arg−Gly−Asp−Ser)、ラミニン由来細胞接着性ペプチド(YIGSR、Tyr−Ile−Gly−Ser−Arg)、コラーゲン由来細胞接着性ペプチド(GFOGER、Gly−Phe−Hyp−Gly−Glu−Arg)、黄色ブドウ球菌膜タンパク由来補体抑制ペプチド(AHRKAQKAVNLV、Ala−His−Arg−Lys−Ala−Gln−Lys−Ala−Val−Asn−Leu−Val)等が挙げられる。
上記核酸としては、例えば、網羅解析用のDNAライブラリー等が挙げられる。
上記タンパク質としては、例えば、ヘパリン、アルブミン、アビジン、コラーゲン、酵素、抗体、リコンビナントタンパク質等が挙げられる。
上記糖質としては、例えば、ヒアルロン酸、キトサン、グルコサミノグリカン等が挙げられる。
上記合成高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0014】
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、例えば、下記式(2)で表されるチロシンや、下記式(3)で表されるチラミン等の生体由来分子と、材料に結合させたい機能性化合物とを反応させることにより調製することができる。上記REDVとチロシンとを反応させてなるチロシン誘導体(Ac−YG
3REDV)の構造を下記式(4)に示した。
また、機能性化合物自体がチロシン残基を有する場合には、そのままヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物として用いることもできる。
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
本発明の材料表面修飾方法の材料としては、ステンレス、コバルト−クロム合金、金、チタン等の金属や、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂や、セラミックス等の広い材料を用いることができる。本発明の材料表面修飾方法は、極めて材料選択性が広く、広範な材料を用いることができる。
上記材料としては、DNAやタンパク質アレイ用基板、センサー用基板、繊維等が挙げられるが、特に医療インプラントや診断機器等の医療用途の材料が好適である。
【0018】
本発明の材料表面修飾方法では、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させる。触媒と酸化剤とを併用することにより、比較的反応性の低いヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物であっても、高効率で材料の表面に結合させることができる。
なお、固定化反応は、ジヒドロキシフェニル基と同じくキノンを介した金属元素への配位結合や、アミノ基、水酸基、チオール基とのマイケル付加反応によるものであると考えられる。これらの結合は、安定性が高い。固定化反応の一例を示す化学式を下記式(5)に示した。
【0019】
【化4】
【0020】
上記触媒としては、例えば、塩化第二銅、塩化第一銅、硝酸第二銅、塩化第一銀、塩化第二パラジウム、硫酸第三鉄、硝酸第三鉄、ペルオキシダーゼ、チロシナーゼ等が挙げられる。
【0021】
上記酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、硝酸等が挙げられる。
【0022】
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を材料に接触させる条件は特に限定されず、4〜80℃程度の条件下でも充分に反応する。また、反応は数分間から数時間程度の短い時間で完了させることができることから、特にポリ乳酸等の加水分解するような材料であっても、ほとんど材料自体の性質に影響することがない。
上記反応は、窒素雰囲気中、遮光状態で行うことが好ましい。窒素雰囲気中、遮光状態で反応を行うことにより、溶媒中での機能性化合物の多量体化を防止することができる。
【0023】
本発明の材料表面修飾方法は、金属、樹脂、セラミックス等の広い材料に対して適用可能であり、材料選択性が広い。また、生体由来分子であるチロシンやチラミンを用いることにより生体安全性も確保できる。更に、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は比較的安定であることから、化学的に合成することが容易であり、合成したヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を保存しておくことも可能である。
【0024】
本発明によれば、内皮細胞のみならず、体細胞、体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞を含むさまざまな細胞の接着性や非接着性を有する医用高分子基材を提供することができる。また、抗炎症性、抗菌性の縫合糸や、埋入医用材料や、創傷被覆材を提供することができる。更に、組織や臓器との接着性や臓器修復を誘導できる新しいスキャホールド材料も提供できる。また、医療分野に限らず、防臭性、抗菌性などを有する繊維、フィルム等の産業資材を提供することもできる。