特許第6041132号(P6041132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立循環器病研究センターの特許一覧 ▶ グンゼ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6041132-材料表面修飾方法 図000007
  • 特許6041132-材料表面修飾方法 図000008
  • 特許6041132-材料表面修飾方法 図000009
  • 特許6041132-材料表面修飾方法 図000010
  • 特許6041132-材料表面修飾方法 図000011
  • 特許6041132-材料表面修飾方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041132
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】材料表面修飾方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/00 20060101AFI20161128BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20161128BHJP
   A61L 15/16 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   A61L27/00 U
   A61L17/00
   A61L15/16
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-232061(P2012-232061)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-83104(P2014-83104A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿木 佐知朗
(72)【発明者】
【氏名】山岡 哲二
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−505716(JP,A)
【文献】 特表2008−536958(JP,A)
【文献】 特表2007−527871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法であって、
ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させ、前記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物のヒドロキシル基と、前記金属、樹脂又はセラミックスからなる材料とを結合させる工程を有する
ことを特徴とする材料表面修飾方法。
【請求項2】
ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、チロシン又はチラミンと機能性化合物とを反応させてなるものであることを特徴とする請求項1記載の材料表面修飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡便で材料選択性が広く、生体安全性も高い、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を改質して様々な機能を付与する試みが広く行われている。例えば、材料の表面を親水化する方法として、プラズマ処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、オゾン処理、表面グラフト処理又は紫外線照射処理等が知られている。また、機能性ペプチド等の機能性化合物を材料の表面に結合させる表面処理方法は、特に医療インプラントや診断機器等の医療用途への応用が期待されている。
【0003】
例えば特許文献1には、基材と、基材の表面に設けられた、抗凝固能成分を含み、かつ、一部を架橋した架橋性官能基で修飾した天然高分子からなるコーティング層とからなる埋め込み部材が記載されている。特許文献1に記載された発明は、チオール基、ビニル基等の架橋性官能基を導入したヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、コラーゲン等の天然高分子誘導体に、血管内皮前駆細胞に特異的に相互作用するタンパク質を複合化し、それを基材の表面にコーティングして架橋反応することにより、基材の表面を機能化するというものである。特許文献1に記載された基材表面の修飾方法は、コーティング法によることから簡便ではある。しかしながら、その準備段階である架橋官能基を有する天然高分子誘導体の合成には多大な手間を必要とする。また、基材の表面に結合したタンパク質は早期に徐放されてしまい長期に渡って効果を発揮させることは困難である。更に、架橋された天然高分子からなるコーティング層の生体内親和性、安全性も懸念される。
【0004】
また、特許文献2には、ドーパミンやジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)を介した材料表面の修飾方法が開示されている。特許文献2に記載された発明は、ドーパミンやDOPAと機能性化合物とを反応させてジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を調製し、該ジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を材料に接触させることにより、材料の表面に機能性化合物を固定するというものである。ジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物の高い反応性を利用した特許文献2に記載された材料表面の修飾方法は、金属、樹脂、セラミックス等の広い材料に対して適用可能であり、材料選択性が広いという点で優れている。また、生体由来分子であるドーパミンやDOPAを用いていることから生体安全性も高い。しかしながら、ジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は極めて反応性が高いことから、これを化学的に合成したり、合成したジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を保存したりするのは困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−92491号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0330025号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便で材料選択性が広く、生体安全性も高い、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法であって、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させる工程を有する材料表面修飾方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、極めて反応性が高く、予め化学的に合成して保存することが困難なジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物に代えて、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を材料の表面修飾に用いることを検討した。ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、ジヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物と比べて反応性が穏やかであり、合成や取扱いも容易である。また、チロシンやチラミン等の生体由来分子を原料として用いることができることから、安全性も高い。しかしながら、このような反応性の低いヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物では、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面に結合させることは困難であった。
本発明者は、更に鋭意検討の結果、触媒及び酸化剤の存在下でヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させることにより、容易に機能性化合物を材料の表面に結合させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の材料表面修飾方法は、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させる工程を有する。
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、安定性が高く、合成が容易で、合成後に保存することも可能である。従って、材料表面修飾方法を飛躍的に容易にすることができる。
【0010】
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0011】
【化1】
【0012】
上記式(1)中、Rは、機能性化合物の残基を表す。
上記機能性化合物としては、例えば、機能性ペプチド、核酸、タンパク質、糖質等の天然の機能性化合物のほか、合成高分子等も挙げられる。
【0013】
上記機能性ペプチドとしては、例えば、血管内皮細胞が特異的に接着するペプチドであるフィブロネクチンCS5ドメイン由来ペプチド(REDV、Arg−Glu−Asp−Val)、フィブロネクチン由来細胞接着性ペプチド(RGDS、Arg−Gly−Asp−Ser)、ラミニン由来細胞接着性ペプチド(YIGSR、Tyr−Ile−Gly−Ser−Arg)、コラーゲン由来細胞接着性ペプチド(GFOGER、Gly−Phe−Hyp−Gly−Glu−Arg)、黄色ブドウ球菌膜タンパク由来補体抑制ペプチド(AHRKAQKAVNLV、Ala−His−Arg−Lys−Ala−Gln−Lys−Ala−Val−Asn−Leu−Val)等が挙げられる。
上記核酸としては、例えば、網羅解析用のDNAライブラリー等が挙げられる。
上記タンパク質としては、例えば、ヘパリン、アルブミン、アビジン、コラーゲン、酵素、抗体、リコンビナントタンパク質等が挙げられる。
上記糖質としては、例えば、ヒアルロン酸、キトサン、グルコサミノグリカン等が挙げられる。
上記合成高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0014】
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は、例えば、下記式(2)で表されるチロシンや、下記式(3)で表されるチラミン等の生体由来分子と、材料に結合させたい機能性化合物とを反応させることにより調製することができる。上記REDVとチロシンとを反応させてなるチロシン誘導体(Ac−YGREDV)の構造を下記式(4)に示した。
また、機能性化合物自体がチロシン残基を有する場合には、そのままヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物として用いることもできる。
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
本発明の材料表面修飾方法の材料としては、ステンレス、コバルト−クロム合金、金、チタン等の金属や、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂や、セラミックス等の広い材料を用いることができる。本発明の材料表面修飾方法は、極めて材料選択性が広く、広範な材料を用いることができる。
上記材料としては、DNAやタンパク質アレイ用基板、センサー用基板、繊維等が挙げられるが、特に医療インプラントや診断機器等の医療用途の材料が好適である。
【0018】
本発明の材料表面修飾方法では、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を、触媒及び酸化剤の存在下で金属、樹脂又はセラミックスからなる材料に接触させる。触媒と酸化剤とを併用することにより、比較的反応性の低いヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物であっても、高効率で材料の表面に結合させることができる。
なお、固定化反応は、ジヒドロキシフェニル基と同じくキノンを介した金属元素への配位結合や、アミノ基、水酸基、チオール基とのマイケル付加反応によるものであると考えられる。これらの結合は、安定性が高い。固定化反応の一例を示す化学式を下記式(5)に示した。
【0019】
【化4】
【0020】
上記触媒としては、例えば、塩化第二銅、塩化第一銅、硝酸第二銅、塩化第一銀、塩化第二パラジウム、硫酸第三鉄、硝酸第三鉄、ペルオキシダーゼ、チロシナーゼ等が挙げられる。
【0021】
上記酸化剤としては、例えば、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、硝酸等が挙げられる。
【0022】
上記ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を材料に接触させる条件は特に限定されず、4〜80℃程度の条件下でも充分に反応する。また、反応は数分間から数時間程度の短い時間で完了させることができることから、特にポリ乳酸等の加水分解するような材料であっても、ほとんど材料自体の性質に影響することがない。
上記反応は、窒素雰囲気中、遮光状態で行うことが好ましい。窒素雰囲気中、遮光状態で反応を行うことにより、溶媒中での機能性化合物の多量体化を防止することができる。
【0023】
本発明の材料表面修飾方法は、金属、樹脂、セラミックス等の広い材料に対して適用可能であり、材料選択性が広い。また、生体由来分子であるチロシンやチラミンを用いることにより生体安全性も確保できる。更に、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物は比較的安定であることから、化学的に合成することが容易であり、合成したヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物を保存しておくことも可能である。
【0024】
本発明によれば、内皮細胞のみならず、体細胞、体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞を含むさまざまな細胞の接着性や非接着性を有する医用高分子基材を提供することができる。また、抗炎症性、抗菌性の縫合糸や、埋入医用材料や、創傷被覆材を提供することができる。更に、組織や臓器との接着性や臓器修復を誘導できる新しいスキャホールド材料も提供できる。また、医療分野に限らず、防臭性、抗菌性などを有する繊維、フィルム等の産業資材を提供することもできる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、簡便で材料選択性が広く、生体安全性も高い、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実験例1で得られたステンレス試験片の表面の水接触角の測定結果を示すグラフ(A)及びXPSによる表面分析結果を示すグラフ(B)である。
図2】実験例2で得られたステンレス試験片の表面の水接触角の測定結果を示すグラフ(A)及びXPSによる表面分析結果を示すグラフ(B)である。
図3】実験例2で得られたステンレス試験片を用いて行ったヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)(A)及びヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMCs)(B)の接着性試験結果を示すグラフ、並びに、接着した各細胞の顕微鏡写真である。
図4】実験例3において大動脈に一週間留置後に取り出した未修飾ステント(A)及びAc−YGREDV修飾ステント(B)の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図5】実験例4で得られたポリ塩化ビニル試験片及びポリエチレン試験片のXPSによる表面分析結果を示すグラフである。
図6】実験例4で得られたポリL−乳酸試験片のXPSによる表面分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0028】
(実験例1)
触媒・酸化剤存在下におけるチロシンのステンレス(SUS316L)試験片への反応性を評価した。
1.0cm×1.0cmのステンレス試験片を、表面を洗浄する目的で紫外線−オゾン処理を行った。洗浄後のステンレス試験片をチロシン10mM水溶液中に浸漬し、触媒として塩化第二銅を0.02eq.、酸化剤として過酸化水素を4.4eq.加えた後、37℃で24時間、窒素雰囲気中、遮光状態で反応を行った。反応後、超純水を用いてステンレス試験片を充分に洗浄した。
対照実験として、触媒及び酸化剤を加えない以外は上記と同様にしてステンレス試験片を処理した。
【0029】
得られたステンレス試験片の表面について、接触角計(CA−X、協和界面科学社製)を用いた静滴法により水接触角を測定した。具体的には、JIS.R.3257:1999に準じ、室温25℃、湿度40%の環境下で水平に置いた試験片表面に水滴2μL(超純水)を静置し、1分後の接触角を測定した。結果を図1(A)に示した。
図1(A)より、触媒及び酸化剤の存在下でチロシンを反応させたステンレス試験片は、未処理のものに比べて著しく水接触角が小さくなった。これに対して、触媒及び酸化剤の非存在下でチロシンを反応させたステンレス試験片では、未処理のものと同程度の水接触角であった。
【0030】
得られたステンレス試験片の表面について、ESCA−3400(島津製作所社製)を用いたXPSによる表面分析を行った。結果を図1(B)に示した。
図1(B)より、触媒及び酸化剤の存在下でチロシンを反応させたステンレス試験片では、チロシンに由来する窒素(Nls)のピークが検出された。一方、触媒として用いた銅(Cu2p)のピークは検出されないことから、反応後の洗浄によって完全に除去されたものと思われる。これに対して、触媒及び酸化剤の非存在下でチロシンを反応させたステンレス試験片では、チロシンに由来する窒素(Nls)のピークは検出されなかった。
【0031】
(実験例2)
(1)Ac−YGREDVの調製
Fmoc固相合成法により、チロシンとフィブロネクチンCS5ドメイン由来ペプチド(REDV)よりなるヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物であるAc−YGREDVを調製した。具体的には、クロロトリチル樹脂(Code:A00251、渡辺化学工業社製)上に脱水縮合剤(4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロライド−n−ハイドレート、国産化学社製)と、ジイソプロピルエチルアミン(Code:A00030、渡辺化学工業社製)を用いた縮合反応によってFmocアミノ酸誘導体を遂次伸長させた後、N末端を無水酢酸(和光純薬工業社製)でアセチル化し、トリフルオロ酢酸(Code:A00096、渡辺化学工業社製)を用いて粗ペプチドを樹脂から遊離した。得られた粗ペプチドを逆相HPLCで精製することで、精製ペプチドを得た。
得られた精製ペプチドについて、MALDI−TOF/MS(AB SCIEX社製、4800 Plus Analyzer)により分子量を測定したところ894.4であり、得られた精製ペプチドが上記式(4)で表されるAc−YGREDVであることが確認された。
【0032】
対照実験として、生理活性を示さないネガティブ配列のREVDについてもチロシンと反応させて、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物であるAc−YGREDV(ネガティブ)を調製した。
【0033】
(2)ステンレス表面の修飾
1.0cm×1.0cmのステンレス試験片を、表面を洗浄する目的で紫外線−オゾン処理を行った。洗浄後のステンレス試験片をAc−YGREDV10mM水溶液中に浸漬し、触媒として塩化第二銅を0.02eq.、酸化剤として過酸化水素を4.4eq.加えた後、37℃で24時間、窒素雰囲気中、遮光状態で反応を行った。反応後、超純水を用いてステンレス試験片を充分に洗浄した。
Ac−YGREVD(ネガティブ)についても同様の方法によりステンレス試験片に結合させた。
【0034】
(3)評価
得られたステンレス試験片の表面について、接触角計(CA−X、協和界面科学社製)を用いた静滴法により水接触角を測定した。具体的には、JIS.R.3257:1999に準じ、室温25℃、湿度40%の環境下で水平に置いた試験片表面に水滴2μL(超純水)を静置し、1分後の接触角を測定した。結果を図2(A)に示した。図2(A)より、Ac−YGREDV、Ac−YGREVD(ネガティブ)のいずれを処理したステンレス試験片も、未処理のものに比べて著しく水接触角が小さくなった。
また、得られたステンレス試験片の表面について、ESCA−3400(島津製作所社製)を用いたXPSによる表面分析を行った。結果を図2(B)に示した。図2(B)より、Ac−YGREDV、Ac−YGREVD(ネガティブ)のいずれを処理したステンレス試験片も、ペプチドに由来する窒素(Nls)のピークが検出された。
これらの評価により、ステンレス試験片の表面にAc−YGREDV、Ac−YGREVD(ネガティブ)が結合していることが確認された。
【0035】
得られたステンレス試験片を用いて、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)及びヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMCs)の接着性試験を行った。具体的には、予め継代培養した細胞の懸濁液を、2.5×10個/試料となるようにステンレス試験片上へ播種し、3時間、COインキュベーター内で静置した。その後、リン酸緩衝溶液で洗浄することで未接着細胞を除き、接着細胞の定量はWST−1(タカラバイオ社製)で、接着細胞の形態観察はCell Tracker Geen(Molecular Probes社製)で染色後に共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス社製)を用いて行った。結果を図3(A)及び(B)に示した。
図3(A)より、Ac−YGREDVを用いて表面修飾したステンレス試験片では、HUVECsの接着数は顕著に増加した。一方、図3(B)より、AoSMCsの接着数は、Ac−YGREDVを用いて表面修飾したステンレス試験片でも他の表面と同程度であった。この結果から、Ac−YGREDVを用いた表面修飾は、HUVECsの接着性のみを特異的に向上できることが明らかとなった。
【0036】
(実験例3)
実験例2と同様の方法によりAc−YGREDVを調製した。
内径4.0mm、長さ18mmのコバルト−クロム合金製のステントを、表面を洗浄する目的で紫外線−オゾン処理を行った。洗浄後のステントをAc−YGREDV10mM水溶液中に浸漬し、触媒として塩化第二銅を0.02eq.、酸化剤として過酸化水素を4.4eq.加えた後、37℃で24時間、窒素雰囲気中、遮光状態で反応を行った。反応後、超純水を用いてステントを充分に洗浄した。
【0037】
得られたステントをバルーンカテーテル(ASAHI Douvan、3.0/20mm、DV30020、朝日インテック株式会社製)を用いて、ウサギの腹部大動脈へ挿入し、留置した。対照実験として、表面未修飾のステントも、同様にしてウサギの腹部大動脈へ挿入し、留置した。
留置一週間後にステントを摘出し、走査型電子顕微鏡(SEM)で内部を観察した。取り出したAc−YGREDV修飾ステント及び未修飾ステントのSEM像を図4に示した。
図4(A)より、未修飾ステントでは、近位を中心に血栓の形成が認められた。これに対して、図4(B)のAc−YGREDV修飾ステントでは、血栓の形成は認められず、ステントの大部分が内皮細胞で被覆されていた。
【0038】
(実験例4)
(1)Ac−YGRGDSの調製
Fmoc固相合成法により、チロシンとフィブロネクチン由来細胞接着性配列(RGDS、Arg−Gly−Asp−Ser)よりなる、ヒドロキシフェニル基を有する機能性化合物であるAc−YGRGDSを調製した。具体的には、クロロトリチル樹脂(Code:A00187、渡辺化学工業社製)上にHOBU/HOBt脱水縮合法によってFmocアミノ酸誘導体を遂次伸長させた後、N末端を無水酢酸(和光純薬工業社製)でアセチル化し、トリフルオロ酢酸(Code:A00096、渡辺化学工業社製)を用いて粗ペプチドを樹脂から遊離した。得られた粗ペプチドを逆相HPLCで精製後することで、精製ペプチドを得た。
得られた精製ペプチドについて、MALDI−TOF/MS(AB SCIEX社製、4800 Plus Analyzer)により分子量を測定したところ810.3であり、得られた精製ペプチドが下記式(6)で表されるAc−YGRGDSであることが確認された。
【0039】
【化5】
【0040】
(2)樹脂材料表面の修飾
樹脂材料として、いずれも1.0cm×1.0cmのポリ塩化ビニル試験片(Code:12−547、Fisher Scientific社製)、ポリエチレン試験片(Code:162−09311、和光純薬工業社製)、及び、ポリL−乳酸試験片(分子量16万、三井化学社製)を準備した。各試験片を、超純水を満たした超音波洗浄装置中で1分間超音波洗浄(計3回)した後、表面を洗浄する目的で紫外線−オゾン処理を行った。洗浄後の各試験片をAc−YGRGDS10mM水溶液中に浸漬し、触媒として塩化第二銅を0.05eq.、酸化剤として過酸化水素を4.4eq.加えた後、37℃で24時間、窒素雰囲気中、遮光状態で反応を行った。なお、ポリL−乳酸試験片については、2、6及び24時間反応を行った。反応後、超純水を用いて各試験片を充分に洗浄した。
【0041】
(3)評価
得られた各試験片の表面について、ESCA−3400(島津製作所社製)を用いたXPSによる表面分析を行った。ポリ塩化ビニル試験片及びポリエチレン試験片の結果を図5に、ポリL−乳酸試験片の結果を図6に示した。
図5より、Ac−YGRGDSを処理したポリ塩化ビニル試験片、ポリエチレン試験片のいずれでも、ペプチドに由来する窒素(Nls)のピークが検出された。
また、図6より、2時間処理時においてもポリL−乳酸試験片からペプチドに由来する窒素(Nls)のピークが検出された。このことより、2時間程度の短時間でも充分に反応が進んでいることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、簡便で材料選択性が広く、生体安全性も高い、金属、樹脂又はセラミックスからなる材料の表面を機能性化合物により化学修飾する材料表面修飾方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6