(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電材に占める前記導電性炭素付着リチウムリン酸化合物の割合は、前記導電材全体を100質量%としたときに、20質量%〜70質量%である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下、リチウムイオン二次電池である場合を典型例としてより詳しく説明する場合があるが、本発明の適用対象をかかる電池に限定する意図ではない。
【0017】
ここで開示される非水電解質二次電池は、正極と負極を有する電極体と、非水電解質と、が所定の電池ケース内に収容された構成である。このような電池は、例えば、正極と負極を有する電極体を電池ケースに収容した後、電池ケース内に所定量の非水電解質を注入し、かかる電池ケースの開口部を溶接等により封止することによって構築し得る。以下、ここで開示される電池の構成要素について順に説明する。
【0018】
≪正極≫
ここで開示される正極は、正極集電体と、該正極集電体上に形成された少なくとも正極活物質と導電材とを含む正極活物質層と、を備えている。このような正極は、正極活物質と導電材と必要に応じて用いられるバインダ等の材料とを適当な溶媒に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(正極活物質スラリー)をシート状の正極集電体に付与し、該スラリーを乾燥させることにより好ましく作製することができる。上記溶媒としては、水系溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。
【0019】
正極集電体としては、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性部材が好ましく用いられる。集電体の形状は構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されないが、例えば棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。なお、捲回電極体を備えた電池では、主に箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度のものを用いることができる。
【0020】
<正極活物質>
正極活物質としては、少なくともリチウム遷移金属複合酸化物を含んでいる。リチウム遷移金属複合酸化物は、構成金属元素としてリチウムと少なくとも一種の遷移金属元素(好ましくはニッケル、コバルトおよびマンガンのうちの少なくとも1種)とを含む、層状構造やスピネル構造の酸化物である。このような酸化物としては、従来から非水電解質二次電池に用いられる一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。具体例としては、リチウムニッケル系酸化物(典型的にはLiNiO
2)、リチウムコバルト系酸化物(典型的にはLiCoO
2)、リチウムマンガン系酸化物(典型的にはLiMn
2O
4)、リチウム鉄系酸化物(典型的にはLiFeO
2)等が挙げられる。これらのリチウム遷移金属複合酸化物は理論容量が高いため、より高い電池特性(例えば高エネルギー密度)を実現し得る。
【0021】
好ましい一態様として、リチウム元素、ニッケル元素、コバルト元素およびマンガン元素を構成元素として含む、層状構造(典型的には、六方晶系に属する層状岩塩型構造)のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)が挙げられる。かかる酸化物は、高い理論容量を有し、さらに熱安定性にも優れる。また、該リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いた場合、一般に低SOC領域において内部抵抗が増加し出力密度が低下する傾向にあるが、ここで開示された技術によればかかる抵抗の増大を好適に抑制することができる。すなわち、本発明の適用効果がより顕著に発揮され得る。
【0022】
好ましい一態様では、上記リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、下式(I)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li
1+xNi
yCo
(1−y−z)Mn
zM
γO
2 (I)
上記式(I)において、xは、−0.1≦x≦0.3を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.9(好ましくは0.2≦y≦0.6)を満たす実数であり得る。zは、0.2≦y≦0.6を満たす実数であり得る。γは、0≦γ≦0.05(例えば0.0005≦γ≦0.03)であり得る。0<γの場合、Mは、Li,Ni,CoおよびMn以外の遷移金属元素、典型金属元素およびホウ素(B)から選択される一種または二種以上であり得る。より具体的には、Mは、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pb)、白金(Pt)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)のうちの一種または二種以上の元素であり得る。なお、上記式(I)では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0023】
また、例えば、一般式:xLi[Li
1/3Mn
2/3]O
2・(1−x)LiMeO
2で表されるような、いわゆる固溶型のリチウム過剰遷移金属酸化物を用いることもできる。上記一般式において、Meは1種または2種以上の遷移金属であり、xは0<x≦1を満たす実数である。
【0024】
このような酸化物は、従来公知の方法で調製することができる。より具体的には、例えば、先ず目的の正極活物質の組成に応じて選択される原料化合物(例えばリチウム源と遷移金属元素源と)を所定の割合で混合し、この混合物を適切な手段によって焼成する。そして、得られた焼成物を適宜粉砕、造粒、分級することによって、調製することができる。かかる化合物の性状は特に限定されないが、例えば、粒径は20μm以下(典型的には0.1μm〜20μm、例えば1μm〜15μm、好ましくは3μm〜10μm)の粒子状(粉末状)とすることができる。また、比表面積は0.1m
2/g以上(典型的には0.5m
2/g以上、例えば1m
2/g以上)であって、30m
2/g以下(典型的には20m
2/g以下、例えば10m
2/g以下)とすることができる。さらに、嵩密度は1〜4g/cm
3(典型的には1.5〜3g/cm
3、好ましくは1.8〜2.4g/cm
3)とすることができる。上述した性状(粒径、比表面積、嵩密度)のうち一または二以上を満たす化合物を用いることにより、緻密で導電性の高い正極活物質層を形成し得る。またかかる化合物を用いて形成した正極活物質層内には適度な空隙が保持され、該正極活物質層内の抵抗をより低く抑えることができる。
【0025】
なお、本明細書において「粒径」とは、特記しない限り、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布において、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D
50粒径、メジアン径ともいう。)をいう。また、本明細書において「比表面積」とは、窒素ガスを用いたBET法(例えば、BET一点法)によって測定された比表面積(BET比表面積)をいう。また、本明細書において「嵩密度」とは、JIS K1469(2003)に規定された方法により測定された値をいう。
【0026】
<導電材>
ここで開示される導電材は、少なくとも一部の表面に導電性炭素が付着したリチウムリン酸化合物(炭素付着リチウムリン酸化合物)を含んでいる。上記リチウムリン酸化合物はリチウム遷移金属複合酸化物の低SOC領域(例えば3.5V(vs.Li/Li
+)付近)に高い理論容量を有する反面、イオン伝導性や電子伝導性が低く、高抵抗となりがちである。そこで、ここで開示される構成では、該化合物の表面に導電性炭素を付着させることによって低抵抗なものとし、導電材として用いる。導電材としてかかる化合物を用いた電池では、より高い電池性能(例えば高エネルギー密度やより広いSOC範囲における充放電)を実現し得る。
【0027】
<リチウムリン酸化合物>
リチウムリン酸化合物は、一般式:LiMPO
4で表記される、構成金属元素としてリチウム元素と少なくとも一種の遷移金属元素とを含むポリアニオン型(例えばオリビン構造)のリン酸塩である。上記一般式において、Mは、少なくとも一種の遷移金属元素であり、例えばMn、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、Cr、Ti、及びVから選択される少なくとも一種以上の元素であり得る。このようなリン酸塩としては、従来から非水電解質二次電池に用いられる一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。具体例としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO
4)等が挙げられ、なかでもリン酸鉄リチウムを含むことが好ましい。リン酸鉄リチウムは、リン元素と酸素元素との結合が強固なため結晶構造が崩壊し難く、安全性に優れる。また、他の化合物に比べて比較的安価なため、好ましい。
【0028】
このようなリチウムリン酸化合物としては、従来公知の方法で調製されるリチウムリン酸化合物粒子(粉末)をそのまま使用することができる。該粒子の性状は特に限定されないが、例えば一次粒子の粒径は10nm〜500nm(好ましくは50nm〜200nm)の範囲にあることが好ましい。一次粒子径を500nm以下とすることで、正極活物質と(該リチウムリン酸化合物を含む)炭素付着リチウムリン酸化合物との接触面積を広く確保し得、正極活物質層内に良好な導電パスを形成し得る。また、一次粒子径を10nm以上とすることで、正極活物質相互間に太い導電パスを形成し得る。さらに、該化合物の表面に導電性炭素を好適に付着させることができ、すなわち炭素付着リチウムリン酸化合物をより導電性に優れたものとし得る。なお、本明細書において「一次粒子の粒径(一次粒子径)」とは、電子顕微鏡(走査型または透過型のいずれも使用可能である。好ましくは透過型電子顕微鏡)写真により少なくとも30個以上(例えば30〜100個)の一次粒子を観察し、得られた粒径の算術平均値をいう。また、エネルギー密度の観点からは、該粒子の嵩密度が3〜4g/cm
3(典型的には3.4〜3.8g/cm
3)の範囲にあることが好ましい。
【0029】
<導電性炭素>
上記リチウムリン酸化合物の表面に付着させる導電性炭素としては、例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック等)、コークス、活性炭、黒鉛(天然黒鉛およびその改質体、人造黒鉛)、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維)、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェン等の導電性炭素から選択される、一種または二種以上を特に制限なく用いることができる。なかでも導電性の高いカーボンブラック(典型的には、アセチレンブラック)を好ましく用いることができる。
【0030】
このような導電性炭素の性状は特に限定されないが、被付着物としての上記リチウムリン酸化合物よりも粒径が小さいことが好ましい。加えて、一次粒子の粒径が小さいものほど比表面積が広くリチウムリン酸化合物との接触面積を増加し得るため、該化合物のイオン伝導性や電子伝導性を向上させるのに有利である。その一方で、比表面積の広い導電材は嵩高くなる傾向があるため、エネルギー密度を低下させる虞がある。これらの理由から、導電性炭素を構成する一次粒子の粒径は凡そ1nm〜200nm(典型的には凡そ10nm〜100nm、例えば凡そ30nm〜50nm)の範囲にあることが好ましい。また、比表面積は25m
2/g〜1000m
2/g(典型的には50m
2/g〜500m
2/g、例えば50m
2/g〜200m
2/g、好ましくは50m
2/g〜100m
2/g)の範囲にあることが好ましい。さらに、嵩密度は0.01〜0.5g/cm
3(典型的には0.05〜0.3g/cm
3、例えば0.05〜0.2g/cm
3)の範囲にあることが好ましい。上記範囲とすることで、リチウムリン酸化合物の導電性を好適に向上し得、且つ高エネルギー密度を実現し得る。
【0031】
導電性の観点から、導電性炭素は一次粒子がある程度連なり連鎖状または房状等の構造を有していることが好ましい。一次粒子の連なりは、ストラクチャーとも言われ、かかる発達の程度は、例えば、電子顕微鏡(走査型または透過型のいずれも使用可能である。好ましくは透過型電子顕微鏡)観察により把握することができる。一次粒子が連なった構造の導電性炭素は、リチウムリン酸化合物の電気抵抗を抑制しつつ正極活物質粒子間に導電パスを形成できるので、より少ない使用量で優れた導電性を付与することができる。その一方、かかる構造は、からまったり丸まったりしやすく、ムラなく分散させることが困難である。上記の理由から、導電性炭素微粒子の一次ストラクチャー径(アグリゲート径ともいう)は、凡そ100nm〜1000nmの範囲にあることが好ましく、200nm〜800nmの範囲にあることがより好ましい。
【0032】
また、バインダや非水溶媒等との親和性の観点から、導電性炭素はDBP(ジブチルフタレート)吸油量が50(mL/100g)〜500(mL/100g)(好ましくは100(mL/100g)〜200(mL/100g))であることが好ましい。かかる範囲とすることで、バインダとの結着性に優れ、正極活物質層内に強固な導電パスを形成し得る。また、非水溶媒との親和性に優れるため、正極活物質層内の抵抗をより一層低減し得る。なお、本明細書において「DBP吸油量」とは、JIS K−6217−4のA法またはB法に規定される測定法による測定量をいう。
【0033】
上述した好ましい性質(一次粒子の粒径、比表面積、嵩密度、ストラクチャーの発達程度、DEP吸油量)のうち一または二以上を満たす導電性炭素を好ましく用いることができる。このような導電性炭素としては、例えば種々のカーボンブラック(例えばアセチレンブラック)が挙げられる。なお、上記物性値には相関関係がみられ、例えば、ストラクチャーの発達の程度は、DBP吸油量や嵩密度によっても概ね把握することができる。
【0034】
<炭素付着リチウムリン酸化合物の作製>
炭素付着リチウムリン酸化合物の作製方法、すなわちリチウムリン酸化合物の少なくとも一部の表面に導電性炭素を付着させる手法は特に限定されず、従来公知の手法を適宜使用し得る。好適な一態様として、メカノケミカル処理が挙げられる。メカノケミカル処理とは、粉末状の材料(微粒子)に圧縮力、剪断力、摩擦力等の機械的エネルギーを加えることによって、材料同士を物理的(機械的)に結合させる処理をいう。具体的には、所定の比率で量りとったリチウムリン酸化合物と導電性炭素とを適当な混合機に投入し、所定の処理条件でメカノケミカル処理を行うことによって、炭素付着リチウムリン酸化合物を作製することができる。かかる処理には、従来用いられる粉砕・混合装置(例えばジェットミル、プラネタリーミキサー、ホモジナイザー、ディスパー、ボールミル、ビーズミル等)のうち一種または二種以上を特に限定なく用いることができる。その際、処理条件(例えば、処理装置の出力強度や処理時間)を適宜調節することで、所望の形態(粒径、形状)の炭素付着リチウムリン酸化合物を得ることができる。具体的には、例えばホソカワミクロン株式会社製の「NOB−MINI」を用いて、出力:0.1kW〜5kW(例えば1kW〜3kW)で1分間〜30分間(例えば5分間〜15分間)のメカノケミカル処理を行うことができる。これにより、装置の機械的エネルギーでリチウムリン酸化合物の結晶構造が破壊されることを抑制し、且つリチウムリン酸化合物の表面に導電性炭素を好適に付着させることができる。
【0035】
炭素付着リチウムリン酸化合物の作製はまた、例えば被付着物としてのリチウムリン酸化合物の表面に導電性炭素の原料を付与し炭化させることによっても行い得る。より具体的には、不活性ガス雰囲気下において、被付着物としてのリチウムリン酸化合物の表面に気相のコート原料を蒸着させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相法;被付着物としてのリチウムリン酸化合物と導電性炭素の原料とを適当な溶媒中で混合した後、不活性ガス雰囲気下において、該導電性炭素原料を焼成して炭化させる液相法;等の、従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0036】
上記導電性炭素の原料は、炭化によって導電性炭素を生じ得る各種の材料であってよい。CVD法の導電性炭素原料としては、例えば、エチレン、アセチレン、プロピレン等の不飽和脂肪族炭化水素;メタン、エタン、プロパン等の飽和脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、ナフタレン等の芳香族炭化水素;等の各種炭化水素化合物(ガス)を用いることができる。これら化合物は、一種のみを用いてもよく、二種以上の混合ガスとして用いてもよい。CVD処理を施す温度、圧力、時間等は、使用する原料の種類等に応じて適宜選択すればよい。また、液相法の導電性炭素原料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素、コールタールピッチ、石油ピッチ、木タールピッチ等のピッチ類を用いることができる。これらは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。炭化(焼成)の温度および時間は、使用する原料の種類等に応じて適宜選択すればよい。典型的には、凡そ800〜1600℃の範囲で、2〜3時間程度焼成すればよい。
【0037】
なお、リチウムリン酸化合物の表面に導電性炭素が付着しているか否かは、例えば一般的な走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)−エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により、少なくとも5個以上(例えば10〜20個、典型的には10個)の粒子を観察することで判断し得る。より具体的には、リチウムリン酸化合物または該リチウムリン酸化合物を含む材料をSEM観察し、得られたSEM観察画像をEDXで解析(例えばリチウムリン酸化合物のみに含まれる遷移金属元素でマッピング)することで、導電性炭素の付着度合いを把握し得る。
【0038】
ここで開示される好ましい一態様では、上記導電性炭素の付着量が、上記リチウムリン酸化合物を100質量部としたときに40質量部〜80質量部(好ましくは50質量部〜70質量部)である。付着量を40質量部以上とすることで、リチウムリン酸化合物に高い導電性を付与することができ、導電材として好適に使用し得る。また、上述の通り導電性炭素はリチウムリン酸化合物に比べ嵩密度が低いため、付着量を80質量部以下とすることで、炭素付着リチウムリン酸化合物の嵩密度が低下しすぎることを抑制し得、正極活物質層の高密度化を実現し得る。
【0039】
炭素付着リチウムリン酸化合物の粒径は、上述した正極活物質よりも小さいことが好ましい。より具体的には、レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定による体積基準の平均粒径(D
50)が10μm以下(典型的には0.01μm〜5μm、例えば0.05μm〜1μm、好ましくは0.05μm〜0.5μm)の範囲にあることが好ましい。粒径を、導電材≦正極活物質(好ましくは導電材<正極活物質)とすることで、正極活物質粒子間に好適な導電パスを形成し得る。このため、正極活物質層の抵抗を低減することができ、より高い電池性能を実現し得る。
【0040】
好ましい一態様では、上記導電材に占める上記炭素付着リチウムリン酸化合物の割合は、上記導電材全体を100質量%としたときに、20質量%〜70質量%(好ましくは50質量%〜70質量%、より好ましくは60質量%〜70質量%)である。すなわち、正極活物質層には、導電材として上記炭素付着リチウムリン酸化合物と異なる種類の物質をも含み得る。かかる物質としては、従来から非水電解液二次電池の導電材として用いられているもの(典型的には炭素材料)のうち、一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。より具体的には、例えばリチウムリン酸化合物の表面に付着させる導電性炭素として上述したものを用いることができ、なかでもカーボンブラック(典型的には、アセチレンブラック)を好ましく採用し得る。2種以上の導電材を併用する場合、炭素付着リチウムリン酸化合物と他の導電材(例えばカーボンブラック)との相乗効果によって、正極活物質層内により一層優れた導電パスを形成し得る。例えば、粒径の異なる2種類以上の導電材(例えば、炭素付着リチウムリン酸化合物とカーボンブラック)を用いることによって、正極活物質粒子間の隙間に好適に導電材を充填する(例えば、大きな空隙をより粒径の大きな導電材が埋めた後、細かな隙間により微小な導電材が入り込む等)ことができる。したがって、正極活物質層内に一層強固な導電パスを形成し得、高い電池性能(例えば高入出力密度)を実現し得る。
【0041】
<バインダ>
ここで開示される正極活物質層は、上記正極活物質および導電材以外の任意の成分を必要に応じて含み得る。かかる任意の成分としては、バインダ等が挙げられる。バインダとしては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極合剤組成物においては、カルボキシメチルセルロース(CMC;典型的にはナトリウム塩)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類;を好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合剤組成物においては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等を好ましく採用することができる。
【0042】
正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は、凡そ70質量%以上(典型的には70質量%〜95質量%)とすることが適当であり、通常は凡そ80質量%以上(典型的には80質量%〜95質量%、例えば85質量%〜95質量%)であることが好ましい。また、正極活物質層全体に占める導電材の割合は、10質量%以下(典型的には1質量%〜10質量%)であり、通常は凡そ7%以下(典型的には2質量%〜7質量%)とすることが適当である。上記範囲とすることで、高いエネルギー密度を実現し得る。例えば、正極活物質層全体に占める導電材としての炭素付着リチウムリン酸化合物の割合は、凡そ7質量%以下(典型的には1質量%〜7質量%)とすることができ、通常は凡そ5質量%以下(典型的には1質量%〜3.5質量%、例えば2.5質量%〜3.5質量%)であることが好ましい。また、例えば、正極活物質層全体に占める導電材としてのカーボンブラック(典型的にはアセチレンブラック)の割合は、凡そ7質量%以下(典型的には1質量%〜7質量%)とすることができ、通常は凡そ5質量%以下(典型的には1質量%〜5質量%、例えば2質量%〜5質量%)であることが好ましい。上記範囲とすることで、エネルギー密度と入出力密度とを高いレベルで両立し得る。さらに、バインダを使用する場合は、正極活物質層全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ0.5質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0043】
正極集電体の単位面積当たりに設けられる正極活物質層の質量(正極集電体の両面に正極活物質層を有する構成では両面の合計質量。)は、例えば5mg/cm
2〜40mg/cm
2(典型的には10mg/cm
2〜20mg/cm
2)程度とすることが適当である。正極集電体の各々の面に設けられる正極活物質層の質量は、通常、概ね同程度とすることが好ましい。また、正極活物質スラリーの乾燥後、適当なプレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極活物質層の厚みや密度、空隙率を調整することができる。正極活物質層の密度は、例えば1.5g/cm
3〜4g/cm
3(典型的には1.8g/cm
3〜3g/cm
3)程度とすることができる。上記範囲とすることで、所望の容量を維持しつつ、リチウムイオンの拡散抵抗を低く抑えることができる。このため、エネルギー密度と入出力密度とを高いレベルで両立することができる。
【0044】
なお、ここで調製される組成物には、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、各種添加剤(例えば、過充電時にガスを発生させ得る無機化合物や、分散剤として機能し得る材料)等を必要に応じて添加し得る。過充電時にガスを発生させ得る化合物としては、炭酸塩(例えば、炭酸リチウム)等が挙げられる。上記分散剤としては、疎水性鎖と親水性基をもつ高分子化合物(例えばアルカリ塩、典型的にはナトリウム塩);硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩等を有するアニオン性化合物;アミン等のカチオン性化合物;等が挙げられる。
【0045】
≪負極≫
ここで開示される負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された少なくとも負極活物質を含む負極活物質層と、を備えている。このような負極は、負極活物質と必要に応じて用いられるバインダ(結着剤)等とを適当な溶媒に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(負極活物質スラリー)を長尺状の金属箔からなる負極集電体に付与し、該スラリーを乾燥させて負極活物質層を形成することにより好ましく作製することができる。負極集電体には、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性材料が好適に使用され得る。上記溶媒としては、水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えば水を用いることができる。
【0046】
<負極活物質>
負極活物質としては、従来から非水電解質二次電池に用いられる物質の一種または二種以上の材料を特に限定することなく使用することができる。特に限定されるものではないが、例えば、天然黒鉛(石墨)、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化炭素)、ソフトカーボン(易黒鉛化炭素)、カーボンナノチューブ等の炭素材料;酸化ケイ素、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ニオブ、酸化錫、リチウムケイ素複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物(Lithium Titanium Composite Oxide:LTO、例えばLi
4Ti
5O
12、LiTi
2O
4、Li
2Ti
3O
7)、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム錫複合酸化物等の金属酸化物材料;窒化リチウム、リチウムコバルト複合窒化物、リチウムニッケル複合窒化物等の金属窒化物材料;スズ、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、リチウム等の金属もしくはこれらの金属元素を主体とする金属合金からなる金属材料;等を用いることができる。なかでも特に、高いエネルギー密度を実現し得る黒鉛系の炭素材料(典型的にはグラファイト)を好ましく採用し得る。
【0047】
バインダとしては、上記正極活物質層用のバインダとして例示したポリマー材料から適当なものを選択することができる。具体的には、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が例示される。その他、分散剤や導電材等の各種添加剤を適宜使用することもできる。
【0048】
負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は、凡そ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは90質量%〜99質量%(例えば95質量%〜99質量%)である。バインダを使用する場合には、負極活物質層全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが適当である。
【0049】
負極集電体の単位面積当たりに設けられる負極活物質層の質量(負極集電体の両面に負極活物質層を有する構成では両面の合計質量)は、例えば5mg/cm
2〜20mg/cm
2(典型的には5mg/cm
2〜10mg/cm
2)程度とすることが適当である。負極集電体の各々の面に設けられる負極活物質層24の質量は、通常、概ね同程度とすることが好ましい。また、負極活物質スラリーの乾燥後、適当なプレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、負極活物質層の厚みや密度、空隙率を調整することができる。負極活物質層の密度は、例えば0.5g/cm
3〜2g/cm
3(典型的には1g/cm
3〜1.5g/cm
3)程度とすることができる。負極活物質層の密度を上記範囲とすることで、非水電解質との界面を好適に保ち、耐久性(サイクル特性)と入出力密度とを高いレベルで両立させることができる。
【0050】
≪電極体≫
電極体は、上記正極と負極とが積層された構成を有する。ここで開示される非水電解質二次電池の典型的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。セパレータとしては、一般的な非水電解質二次電池のセパレータと同様の各種多孔質シート等を用いることができる。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。多孔性樹脂シートの厚さは、例えば10μm〜40μm程度であることが好ましい。気孔率(空隙率)は20体積%〜90体積%(典型的には30体積%〜80体積%、例えば35体積%〜70体積%)程度のものを好ましく採用し得る。なお、本明細書において「気孔率」とは、上記測定によって得られる気孔容積(cm
3)を見かけの体積(cm
3)で除して、100を掛けることにより算出した値をいう。
【0051】
特に限定するものではないが、上記正極活物質の単位質量当たりの理論容量(mAh/g)と該正極活物質の質量(g)との積で算出される正極容量(C
c(mAh))と、上記負極活物質の単位質量当たりの理論容量(mAh/g)と該負極活物質の質量(g)との積で算出される負極容量(C
a(mAh))と、の比(C
a/C
c)は、通常、例えば1.0〜2.0とすることが適当であり、1.2〜1.9(例えば1.7〜1.9)とすることが好ましい。対向する正極容量と負極容量の割合は、電池容量(または不可逆容量)やエネルギー密度に直接的に影響し、電池の使用条件等(例えば急速充電)によってはリチウムの析出を招き易くなる。対向する正負極の容量比を上記範囲とすることで、電池容量やエネルギー密度等の電池性能を良好に維持しつつ、リチウムの析出を好適に抑制することができる。
【0052】
≪非水電解質≫
非水電解質としては、典型的には、非水溶媒中に支持塩(リチウムイオン二次電池ではリチウム塩。)を溶解または分散させたものを用いる。上記支持塩としては、一般的な非水電解質二次電池と同様のものを、適宜選択して使用することができる。例えば、リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、Li(CF
3SO
2)
2N、LiCF
3SO
3等が例示される。このような支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい支持塩としてLiPF
6が挙げられる。また、非水電解質は上記支持塩の濃度が0.7mol/L〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
【0053】
上記非水溶媒としては、一般的な非水電解質二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が例示される。なお、上記カーボネート類とは、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートを包含する意味であり、上記エーテル類とは、環状エーテルおよび鎖状エーテルを包含する意味である。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0054】
好ましい一態様として、カーボネート類を主体とする非水溶媒が挙げられる。電解液としてかかる非水溶媒を含む場合、充電時(典型的には初回充電時)において負極活物質表面に良質な被膜を形成し得るため、好ましい。なかでも比誘電率の高いECや、酸化電位が高い(電位窓の広い)DMCやEMC等を好適に用いることができる。例えば、非水溶媒として一種または二種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水溶媒を好ましく用いることができる。
【0055】
電池構築後に、コンディショニング(初期充放電)、ガス抜き、品質検査等の操作を必要に応じて適宜行うことができる。
【0056】
≪電池ケース≫
電池ケースとしては、従来から非水電解液二次電池に用いられる材料や形状を用いることができる。材質としては、例えば、アルミニウム、スチール等の金属材料;ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂材料;が挙げられる。なかでも、放熱性向上やエネルギー密度を高める目的から、比較的軽量な金属(例えば、アルミニウムやアルミニウム合金)を好ましく採用し得る。また、該ケースの形状(容器の外形)は、例えば、円形(円筒形、コイン形、ボタン形)、六面体形(直方体形、立方体形)、袋体形、およびそれらを加工し変形させた形状等であり得る。電池ケースの封止等には、従来の非水電解液二次電池と同様の手法を適宜採用することができる。なお、電池ケースには電流遮断機構(電池の過充電時に、内圧の上昇に応じて電流を遮断し得る機構)等の安全機構を設けることもできる。
【0057】
構築された電池には、典型的には所定の条件で充電処理(コンディショニング処理)が施される。好ましい一態様では、上記充電処理を行った後、電池性能の安定化等を目的として、所定の条件下で電池を保持(放置)するエージング処理が施される。また、必要に応じてさらにガス抜きや品質検査等を行うこともできる。
【0058】
特に限定することを意図したものではないが、本発明の一実施形態に係る非水電解質二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解質とを扁平な直方体形状(箱型)の容器に収容した形態の非水電解質二次電池を例として
図1〜3にその概略構成を示す。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0059】
図1に示すように、非水電解質二次電池100の電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体状の電池ケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。蓋体54には、正極と電気的に接続する正極端子70と、負極と電気的に接続する負極端子72と、が設けられている。また、電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、電池ケース内部で発生したガスをケースの外部に排出するための安全弁55が備えられている。
図2に示すように、電池ケース50の内部には、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20とが長尺状のセパレータシート40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解質とともに、収容されている。
【0060】
図3は、捲回電極体80を組み立てる前段階における長尺状のシート構造(電極シート)を模式的に示す図である。捲回電極体80は、長尺状の正極集電体12の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って正極活物質層14が形成された正極シート10と、長尺状の負極集電体22の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って負極活物質層24が形成された負極シート20とを重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を捲回軸WLに対して垂直な方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状に成形されている。そして、正極活物質層14と負極活物質層24との間は、両者の直接接触を防ぐ絶縁層が配置されている。ここに示す例では、捲回電極体80を作製するに際して、上記絶縁層として長尺シート状のセパレータ40を使用している。
【0061】
正極シート10は、その長手方向に沿う一方の端部において正極活物質層14が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体12が露出するよう形成されている。同様に、負極シート20は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極活物質層24が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体22が露出するように形成されている。そして、正極集電体12の該露出端部に正極集電板が、負極集電体22の該露出端部には負極集電板がそれぞれ付設され、上記正極端子70(
図2)および上記負極端子72(
図2)とそれぞれ電気的に接続されている。
【0062】
また、本発明によると、ここで開示される非水電解質二次電池(単電池)を複数組み合わせた組電池が提供される。単電池を複数個相互に(典型的には直列に)接続してなる組電池では、構成する単電池のなかで最も低い性能のものに全体の性能が左右され得る。ここで開示される非水電解質二次電池は、従来の電池に比べて電池の利用率が高く、エネルギー密度や入出力密度に優れるため、組電池として一層高い電池性能を発揮し得る。
【0063】
ここで開示される非水電解質二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)は各種用途に利用可能であるが、従来に比べ電池性能(例えば、初期容量や入出力密度)が優れていることを特徴とする。よって、このような性質を利用して、例えば車両に搭載される駆動用電源として好適に用いることができる。車両は、典型的には自動車であり、例えば、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車、電動車いす、電動アシスト自転車等であり得る。したがって、ここで開示されるいずれかの非水電解質二次電池を(好ましくは動力源として)備えた車両が提供される。なお、かかる車両は、複数個の非水電解質二次電池を、典型的にはそれらが並列接続された組電池の形態で備えるものであり得る。
【0064】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0065】
まず、リチウムリン酸化合物としてのLiFePO
4(オリビン構造、一次粒子の粒径:50nm〜200nm、BET比表面積:10m
2/g、嵩密度:3.6g/cm
3)と、アセチレンブラック(一次粒子の粒径:30nm〜50nm)とを、質量比が100:40となるように秤量し、メカノフュージョン法によって導電性炭素(アセチレンブラック)が表面に付着したリチウムリン酸化合物(炭素付着リチウムリン酸化合物)を作製した。この炭素付着リチウムリン酸化合物のレーザー回折・光散乱法に基づく体積基準の平均粒径は、凡そ0.8μmだった。
次に、正極活物質としてのLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2(層状構造、二次粒径:5μm)と、導電材と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が90:5:5となり、且つ固形分濃度が約50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用のスラリー状組成物(正極活物質スラリー)を調製した。ここで、上記導電材としては、アセチレンブラック(AB、一次粒子の粒径:30nm〜50nm)と炭素付着リチウムリン酸化合物(以下、「CB‐LFP」と略称する場合がある。)とを、下表1に示す質量比でそれぞれ混合したものを用いた。この正極活物質スラリーを、厚み凡そ20μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に、目付量が20mg/cm
2(固形分基準)となるようにローラコート法で帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極(例1〜10)を作製した。これをロールプレス機により圧延して、厚み130μm、電極密度を2.8g/cm
3に調整した。
【0066】
次に、負極活物質としての天然黒鉛粉末(平均粒径:5μm、比表面積:3m
2/g)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となり、且つ固形分濃度が約45質量%となるようにイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用のスラリー状組成物(負極活物質スラリー)を調製した。この負極活物質スラリーを、厚み凡そ20μmの長尺状銅箔(負極集電体)の片面に、目付量が14mg/cm
2(固形分基準)となるようにローラコート法で帯状に塗布して乾燥することにより、負極集電体の片面に負極活物質層が設けられた負極を作製した。これをロールプレス機により圧延して、厚み100μm、電極密度を1.4g/cm
3に調整した。
【0067】
そして、上記作製した正極および負極を、セパレータ(ここでは、ポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層された三層構造であって、厚み20μm、気孔率48体積%のものを用いた。)を介して対面に配置し、電極体を作製した。また、電極体の端部において露出した正極集電体(正極活物質層の未塗工部)および負極集電体(負極活物質層の未塗工部)には、それぞれ正極端子および負極端子を取り付けた。この電極体をラミネートフィルム内に収容し、水分を除去するために減圧・高温下にて乾燥させた後、ラミネートフィルムの開口部から非水電解質(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とをEC:DEC=40:60の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解させ、さらにビフェニルを2重量%の割合で添加した非水電解質を用いた。)を注入し、該開口部を封止した。このようにして、本例に係る非水電解質二次電池(例1〜例10)を構築した。
【0069】
<性能評価>
(エネルギー密度)
温度25℃にて、例1〜例10に係る電池に対し、以下の充放電パターンでコンディショニング処理を行った。
(1)電池電圧が4.1Vとなるまで50mA(1C)で定電流(CC)充電した後、3時間の定電圧充電(CV充電)を行う。
(2)10分休止する。
(3)電池電圧が3.0Vとなるまで25mA(1/2C)でCC放電した後、10分休止する。
上記操作を3サイクル繰り返し、3サイクル目の放電容量(電流値と電圧値の積の総和)を電池容量とした。得られた電池容量を正極活物質の質量で除して、表1の「エネルギー密度」の欄および
図4に示す。
【0070】
表1および
図4から明らかなように、炭素付着リチウムリン酸化合物を用いなかった例1に比べ、炭素付着リチウムリン酸化合物を用いた例2〜10では、導電材中の炭素付着リチウムリン酸化合物の割合が高くなるほど、エネルギー密度が向上した。これは、リチウムリン酸化合物が3.5V(vs.Li/Li
+)付近の一定電圧において充放電反応を生じ得るためと考えられる。換言すれば、一般的な導電材(ここではアセチレンブラック)に比べ、リチウムリン酸化合物が高い理論容量を有するためと考えられる。このように、導電材として炭素付着リチウムリン酸化合物を含むことで、高エネルギー密度化を実現し得ることが示された。
【0071】
(出力密度)
温度25℃にて、例1〜例10に係る電池についてIV抵抗を測定した。具体的には、先ず50mA(1C)の定電流にて電池電圧が4.1Vとなるまで充電した後、3時間定電圧充電を行って満充電状態とした。そして、この電池を3時間休止させ、その後、500mA(10C)の定電流で放電し、10秒後の電圧降下からIV抵抗を求めた。得られた抵抗値を正極活物質の質量で除して、表1の「出力密度」の欄および
図4に示す。
【0072】
表1および
図4から明らかなように、導電材全体に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を20質量%〜70質量%とした例2〜例7では、出力密度が向上した。とりわけ、導電材に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を50質量%〜70質量%とした例5〜例7では、出力密度の向上が顕著だった。これは、2種類の導電材(炭素付着リチウムリン酸化合物とカーボンブラック)を適切な割合で混合したことにより、相乗効果を生じたためと考えられる。一方、導電材全体に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を80質量%以上とした例8〜例10では、出力密度が低下した。これは、導電性の高いアセチレンブラックの絶対量が減少したため、正極活物質層内の導電パスが保てなくなったためと考えられる。
以上の結果から、導電材全体に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を20質量%〜70質量%(換言すれば、正極活物質層に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を1質量%〜3.5質量%)とすることで、エネルギー密度と入出力密度とを高いレベルで両立し得ることが示された。さらに好ましくは、導電材全体に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を50質量%〜70質量%(換言すれば、正極活物質層に占める炭素付着リチウムリン酸化合物の割合を2.5質量%〜3.5質量%)とすることで、更に優れた入出力密度を発揮し得ることが示された。かかる結果は本発明の技術的意義を裏付けるものである。
【0073】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。