特許第6041186号(P6041186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041186
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/73 20060101AFI20161128BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20161128BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 11/08 20060101ALI20161128BHJP
   H01M 10/44 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   H01M4/73 A
   H01M4/68 A
   H01M4/14 Q
   C22C11/08
   !H01M10/44 Z
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-105684(P2012-105684)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-235660(P2013-235660A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年2月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】舩戸 貴之
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−151563(JP,A)
【文献】 特開2003−151617(JP,A)
【文献】 特開2011−258531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 4/73
H01M 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板と電解液とを備えている鉛蓄電池であって、
前記正極板の正極格子はBi含有量が0.08mass%以上0.19mass%以下の鉛合金から成り、
正極活物質は密度が2.9g/cm3以上3.5g/cm3以下であり、
フロート充電あるいはトリクル充電により、外部電源から充電されて、外部電源がオフした際に負荷へ放電する据置用途の鉛蓄電池。
【請求項2】
正極格子はBi含有量が0.08mass%以上0.12mass%以下で、
正極活物質は密度が3.2g/cm3以上3.5g/cm3以下である、ことを特徴とする、請求項1フロート充電あるいはトリクル充電により、外部電源から充電されて、外部電源がオフした際に負荷へ放電する据置用途の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関し、特に寿命性能が高くかつ初期容量も許容範囲内の鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の用途として据置が知られている。据置用途の鉛蓄電池は、フロート充電あるいはトリクル充電等により外部電源から充電され、停電時等に鉛蓄電池から負荷へ放電する。据置では、充電電圧が適正な場合、鉛蓄電池の寿命は正極格子の腐食等で定まることが多い。また据置の鉛蓄電池には液式と制御弁式とがある。発明者は、据置等に用いる鉛蓄電池の、初期容量を損ねずに寿命性能を向上させることを検討して、この発明に到った。
【0003】
関連する先行技術を示す。特許文献1-4は、鉛蓄電池の正極へのBiの添加を示している。特許文献1(JP2005-216741A)は、正極活物質に0.01-0.1mass%のBiを含有させることを記載し、Biは正極活物質と正極格子との結合力を高めるとしている。特許文献2(JPH09-231981A)は、正極格子に0.001-0.03mass%のBiを含有させることを記載し、Biは電解液の成層化を抑制するとしている。特許文献3(JP2010-522275A)は、格子に0.05mass%以下のBiを含有させることを記載し、Biは鋳造後の格子の硬化を促進するとしている。特許文献4(JP2003-306733A)は、正極格子に0.01-0.1mass%のBiを含有させることを記載し、Biは正極格子の強度を増すが、0.1mass%を超えると耐食性を損なうとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】JP2005-216741A
【特許文献2】JPH09-231981A
【特許文献3】JP2010-522275A
【特許文献4】JP2003-306733A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、外部電源から充電されて、外部電源がオフした際に負荷へ放電する据置用途の鉛蓄電池の初期容量を損ねずに、寿命性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のフロート充電あるいはトリクル充電により、外部電源から充電されて、外部電源がオフした際に負荷へ放電する据置用途の鉛蓄電池は、正極板と負極板と電解液とを備えている鉛蓄電池であって、前記正極板の正極格子はBi含有量が0.08mass%以上0.19mass%以下の鉛合金から成る。正極活物質の密度は既化成の密度で、水銀圧入法等で測定でき、2.9g/cm3以上3.5g/cm3以下である。好ましくは、正極格子はBi含有量が0.08mass%以上0.12mass%以下で、正極活物質は密度が3.2g/cm3以上3.5g/cm3以下である。鉛蓄電池は、フロート充電あるいはトリクル充電により、外部電源から充電されて、外部電源がオフした際に負荷へ放電する据置用途の鉛蓄電池である。鉛蓄電池は制御弁式でも液式でも良く、負極板の構成及び正極活物質への添加物、並びに正極格子へのBi以外の添加物は任意である。
【0007】
図1はBiを0.1mass%含有する鉛合金(実施例)を示し、図2はBi無添加の鉛合金(従来例)を示す。Bi0.1mass%含有の図1では粒界は少ないが、Bi無添加の図2では粒界が多数認められ、このことはBiを含有させることにより鉛合金の耐食性が向上することを示している。図3はBi含有量が0.08-0.19mass%の正極格子を用いた際と、Bi含有量が0-0.05mass%の正極格子を用いた際とのフロート寿命を示し、Bi含有量が0.08-0.19mass%では長寿命で、Bi含有量が0-0.05mass%では短寿命であることが分かる。またBi含有量が0.08-0.19mass%の範囲ではBi含有量によらず寿命はほぼ一定で、Bi含有量が0-0.05mass%の範囲でもBi含有量によらず寿命はほぼ一定である。
【0008】
図4は、正極活物質の密度が3.8g/cm3での、正極格子のBi含有量と初期容量との関係を示し、Bi含有量が0.05mass%までは初期容量はほぼ一定で、0.08mass%以上では初期容量が小さくなることが分かる。さらに図5に示すように、Bi含有量を0.08mass%以上とすることにより、フロート寿命は増加する。
【0009】
高いフロート寿命を保ちながら、初期容量を増すため、発明者は正極活物質の密度を2.9g/cm3-3.5g/cm3とすることを検討した。図6は正極活物質の密度が3.4g/cm3での初期容量を、図7は同じ密度でのフロート寿命を示す。また図8は正極活物質の密度が2.9g/cm3での初期容量を、図7は同じ密度でのフロート寿命を示す。初期容量は正極活物質の密度が3.8g/cm3でBiを含有しない場合と同程度に増加し、フロート寿命は長いままである。いずれの図でも、Bi含有量が0.05mass%と0.08mass%との間で、特性の変化が生じている。なお正極活物質の密度を低下させても寿命性能に優れているのは、据置鉛蓄電池で放電されることが少ないためである。
【0010】
正極格子でのBi含有量はフロート寿命を増加させるために0.08mass%以上とする必要があり、0.19mass%を超えると正極活物質の化成が困難になるので、0.08mass%以上0.19mass%以下とした。正極格子でのSn,Ca,As,Ba,Ag等の第3成分の有無と含有量は任意である。正極活物質の密度は低い方が初期容量が大きいが、2.9g/cm3未満ではペーストの充填が難しいため、2.9g/cm3以上3.5g/cm3以下とした。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例の正極格子用合金の光学写真(約30倍)で、Bi含有量は0.1mass%
図2】従来例の正極格子用合金の光学写真(約30倍)で、Bi無添加
図3】Biの有無とフロート寿命との関係を示す特性図で、正極活物質密度は3.8g/cm3
図4】従来例での初期容量を示し、正極活物質密度は3.8g/cm3
図5】従来例でのフロート寿命を示し、正極活物質密度は3.8g/cm3
図6】実施例での初期容量を示し、正極活物質密度は3.4g/cm3
図7】実施例でのフロート寿命を示し、正極活物質密度は3.4g/cm3
図8】実施例での初期容量を示し、正極活物質密度は2.9g/cm3
図9】実施例でのフロート寿命を示し、正極活物質密度は2.9g/cm3
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0013】
Ca 0.1mass%,Sn 1.0mass%,Al 0.01mass%の鉛合金に対し、Bi含有量を0〜0.19masss%の範囲で変えて、鋳造法により正極格子を作成した。なおBiの不純物レベルは0.005mass%以下、Asの不純物レベルは0.005mass%以下、Baの不純物レベルは0.005mass%以下であった。ボールミル法で作成した鉛粉(鉛粉100mass%に対し、0.1mass%の合成樹脂繊維を含有)を水と硫酸とで密度を変えてペースト化し、正極格子に充填し、熟成した。鉛粉の製造方法、添加物等は任意である。図1はBi0.1mass%含有の鉛合金を、図2はBiを含有しない鉛合金を示し、Biを含有させることにより、鉛合金中の粒界が減少することが分かる。
【0014】
Ca 0.1mass%,Sn 1.0mass%,Al 0.01mass%の鉛合金を用い、鋳造法により負極格子を作成した。ボールミル法で作成した鉛粉(鉛粉100mass%に対し、0.1mass%の合成樹脂繊維と、0.5mass%のBaSO4,及び0.1mass%のカーボンブラックを含有)を水と硫酸とで密度を変えてペースト化し、負極格子に充填し、熟成した。負極格子の製造方法、鉛粉の製造方法、及び鉛粉への添加物等は任意である。
【0015】
複数枚の未化成の負極板をストラップで互いに接続し、同様に複数枚の未化成の正極板をストラップで互いに接続した。正極板と未化成の負極板と正極板との間にリテイナーマットを挟み込み、圧迫を加えながら電槽に収容し、希硫酸を注入した後、電槽化成を施し、据置用途の制御弁式の鉛蓄電池とした。なお制御弁式の鉛蓄電池ではなく、液式の据置用途の鉛蓄電池としても良い。電槽化成の条件、電解液への添加物、電解液の密度、等は任意で、鉛蓄電池は据置以外の用途に用いても良い。
【0016】
正極活物質の密度は化成後の密度で表し、充電状態にある正極板から正極活物質を分離し、水洗と乾燥とを施して、水銀圧入法により空隙率を求めて、二酸化鉛の密度を空隙率により補正したものが、正極活物質の密度である。なお正極活物質の定法での密度は3.8g/cm3程度で、2.9g/cm3未満ではペーストの充填が困難だったため、3.8g/cm3〜2.9g/cm3の範囲で試験を行った。
【0017】
0.1mass%のBiを含有させることにより正極格子の耐食性が向上する可能性が得られたので、正極活物質密度を3.8g/cm3として、正極格子中のBi含有量を0-0.19mass%の範囲で変化させて鉛蓄電池を試作し、フロート寿命性能を測定した。なおBi含有量を増すと化成性が低下し、その結果初期容量が低下し、Bi含有量が0.19mass%を超えると正極活物質の化成が困難になった。そこでBi含有量が0-0.19mass%の範囲で試験を行った。正極活物質密度が3.8g/cm3の鉛蓄電池に対し、0.1CA(5.0A)での放電容量を測定し、40Ah以下で寿命とするフロート寿命試験を行った。フロート充電電圧はセル当たり2.23V、充電電流は5A以下に制限し、周囲温度を60℃として鉛蓄電池の性能低下を加速させた。結果を図3に示す。Bi含有量が0.08mass%以上のグループと、0.05mass%以下のグループとで結果が別れ、0.08mass%以上のBi含有量でフロート寿命が長くなった。またフロート寿命を定める因子は、正極の腐食であった。
【0018】
図4は正極活物質密度が3.8g/cm3での初期容量を示し、Bi含有量が0.05mass%以下では初期容量へのBiの影響は小さく、0.08mass%以上ではBi含有量を増すと共に初期容量が低下した。図5は正極活物質密度が3.8g/cm3でのフロート寿命を示し、図3での寿命をBi含有量に対してプロットしたものである。図1図5から、0.08mass%以上のBiを含有させることにより、正極格子の腐食を防止し、フロート寿命を長くできるが、初期容量が低下することが分かった。
【0019】
図6図9は、正極活物質の密度を3.4g/cm3図6図7)、及び2.9g/cm3図8図9)とした際の、初期容量とフロート寿命とを示す。Bi含有量を0.08mass%以上にすることによりフロート寿命が長くなることは、正極活物質の密度が3.4g/cm3及び2.9g/cm3でも成り立ち、これは据置型でフロート充電あるいはトリクル充電等で用いることと関係している。正極活物質の密度が3.4g/cm3でも2.9g/cm3でも、Bi含有量が0.08mass%と0.10mass%の結果はほぼ同じで、0.15mass%とすると初期容量が低下する。従ってBiの最適含有量は0.08mass%以上で0.12mass%以下と考えられ、かつこの範囲ではBi含有量が変化しても影響は小さい。初期容量は正極活物質の密度が低下するほど大きくなるが、密度が低下するとペーストの充填が難しくなり、かつ液式の場合、正極活物質が格子から脱落する可能性が生じる。従って正極活物質密度の最適値は、3.5g/cm3以下で3.2g/cm3以上と考えられる。
【0020】
実施例では、
1) 正極格子に0.08mass%以上0.19mass%以下のBiを含有させることにより、正極格子の腐食を防止し、フロート寿命を長くでき、
2) 正極活物質の密度を2.9g/cm3以上3.5g/cm3以下とすることにより、Biを含有しない定法の正極格子と定法の密度の正極活物質とを用いた鉛蓄電池と、同等の初期容量が得られた。
図4
図5
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