【実施例】
【0013】
Ca 0.1mass%,Sn 1.0mass%,Al 0.01mass%の鉛合金に対し、Bi含有量を0〜0.19masss%の範囲で変えて、鋳造法により正極格子を作成した。なおBiの不純物レベルは0.005mass%以下、Asの不純物レベルは0.005mass%以下、Baの不純物レベルは0.005mass%以下であった。ボールミル法で作成した鉛粉(鉛粉100mass%に対し、0.1mass%の合成樹脂繊維を含有)を水と硫酸とで密度を変えてペースト化し、正極格子に充填し、熟成した。鉛粉の製造方法、添加物等は任意である。
図1はBi0.1mass%含有の鉛合金を、
図2はBiを含有しない鉛合金を示し、Biを含有させることにより、鉛合金中の粒界が減少することが分かる。
【0014】
Ca 0.1mass%,Sn 1.0mass%,Al 0.01mass%の鉛合金を用い、鋳造法により負極格子を作成した。ボールミル法で作成した鉛粉(鉛粉100mass%に対し、0.1mass%の合成樹脂繊維と、0.5mass%のBaSO
4,及び0.1mass%のカーボンブラックを含有)を水と硫酸とで密度を変えてペースト化し、負極格子に充填し、熟成した。負極格子の製造方法、鉛粉の製造方法、及び鉛粉への添加物等は任意である。
【0015】
複数枚の未化成の負極板をストラップで互いに接続し、同様に複数枚の未化成の正極板をストラップで互いに接続した。正極板と未化成の負極板と正極板との間にリテイナーマットを挟み込み、圧迫を加えながら電槽に収容し、希硫酸を注入した後、電槽化成を施し、据置用途の制御弁式の鉛蓄電池とした。なお制御弁式の鉛蓄電池ではなく、液式の据置用途の鉛蓄電池としても良い。電槽化成の条件、電解液への添加物、電解液の密度、等は任意で、鉛蓄電池は据置以外の用途に用いても良い。
【0016】
正極活物質の密度は化成後の密度で表し、充電状態にある正極板から正極活物質を分離し、水洗と乾燥とを施して、水銀圧入法により空隙率を求めて、二酸化鉛の密度を空隙率により補正したものが、正極活物質の密度である。なお正極活物質の定法での密度は3.8g/cm
3程度で、2.9g/cm
3未満ではペーストの充填が困難だったため、3.8g/cm
3〜2.9g/cm
3の範囲で試験を行った。
【0017】
0.1mass%のBiを含有させることにより正極格子の耐食性が向上する可能性が得られたので、正極活物質密度を3.8g/cm
3として、正極格子中のBi含有量を0-0.19mass%の範囲で変化させて鉛蓄電池を試作し、フロート寿命性能を測定した。なおBi含有量を増すと化成性が低下し、その結果初期容量が低下し、Bi含有量が0.19mass%を超えると正極活物質の化成が困難になった。そこでBi含有量が0-0.19mass%の範囲で試験を行った。正極活物質密度が3.8g/cm
3の鉛蓄電池に対し、0.1CA(5.0A)での放電容量を測定し、40Ah以下で寿命とするフロート寿命試験を行った。フロート充電電圧はセル当たり2.23V、充電電流は5A以下に制限し、周囲温度を60℃として鉛蓄電池の性能低下を加速させた。結果を
図3に示す。Bi含有量が0.08mass%以上のグループと、0.05mass%以下のグループとで結果が別れ、0.08mass%以上のBi含有量でフロート寿命が長くなった。またフロート寿命を定める因子は、正極の腐食であった。
【0018】
図4は正極活物質密度が3.8g/cm
3での初期容量を示し、Bi含有量が0.05mass%以下では初期容量へのBiの影響は小さく、0.08mass%以上ではBi含有量を増すと共に初期容量が低下した。
図5は正極活物質密度が3.8g/cm
3でのフロート寿命を示し、
図3での寿命をBi含有量に対してプロットしたものである。
図1〜
図5から、0.08mass%以上のBiを含有させることにより、正極格子の腐食を防止し、フロート寿命を長くできるが、初期容量が低下することが分かった。
【0019】
図6〜
図9は、正極活物質の密度を3.4g/cm
3(
図6,
図7)、及び2.9g/cm
3(
図8,
図9)とした際の、初期容量とフロート寿命とを示す。Bi含有量を0.08mass%以上にすることによりフロート寿命が長くなることは、正極活物質の密度が3.4g/cm
3及び2.9g/cm
3でも成り立ち、これは据置型でフロート充電あるいはトリクル充電等で用いることと関係している。正極活物質の密度が3.4g/cm
3でも2.9g/cm
3でも、Bi含有量が0.08mass%と0.10mass%の結果はほぼ同じで、0.15mass%とすると初期容量が低下する。従ってBiの最適含有量は0.08mass%以上で0.12mass%以下と考えられ、かつこの範囲ではBi含有量が変化しても影響は小さい。初期容量は正極活物質の密度が低下するほど大きくなるが、密度が低下するとペーストの充填が難しくなり、かつ液式の場合、正極活物質が格子から脱落する可能性が生じる。従って正極活物質密度の最適値は、3.5g/cm
3以下で3.2g/cm
3以上と考えられる。
【0020】
実施例では、
1) 正極格子に0.08mass%以上0.19mass%以下のBiを含有させることにより、正極格子の腐食を防止し、フロート寿命を長くでき、
2) 正極活物質の密度を2.9g/cm
3以上3.5g/cm
3以下とすることにより、Biを含有しない定法の正極格子と定法の密度の正極活物質とを用いた鉛蓄電池と、同等の初期容量が得られた。