特許第6041192号(P6041192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041192
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】車両のエアデフレクタ
(51)【国際特許分類】
   B62D 35/00 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   B62D35/00 E
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-176286(P2012-176286)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34282(P2014-34282A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】石神 健夫
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−009774(JP,U)
【文献】 米国特許第03945677(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 31/00−39/00
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブ上面とキャブ後面と左右の車幅方向外端面とを有するキャブの後方に、前記キャブ後面から後方に離間して対向する荷台前面を有する荷台が搭載され、前記荷台前面の上端縁が前記キャブ上面よりも上方に位置する車両の前記キャブに対して固定されるエアデフレクタであって、
前記キャブ上面から前記荷台前面の前記上端縁の近傍まで斜め後上方へ延びる板状の上面部と、
前記上面部の車幅方向の両端縁からそれぞれ下方へ延び、前記上面部の前側部分と前記キャブ上面とが区画するキャブ上方空間の側面と、前記上面部の後側部分と前記キャブ後面とが区画するキャブ後方空間の側面とを、車幅方向の両側から閉止する左右1対の板状の側面部と、
前記キャブ後方空間の後面を閉止する板状の背面部と、
前記キャブ後方空間の下面を閉止する板状の底面部と、を備え、
前記上面部の前端縁は、その全域が前記キャブ上面に対して密着し、
前記左右の側面部は、前記キャブ上面よりも下方に配置される下側面部をそれぞれ有し、
前記左右の側面部の前記下側面部の前端縁は、前記キャブの前記左右の車幅方向外端面に対して密着する
ことを特徴とする車両のエアデフレクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行時にキャブと荷台との段差によって生じる空気抵抗を低減する車両のエアデフレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ドラッグフォイラとギャップシールとを有し、キャブと荷箱との間に配備される整流装置が記載されている。ギャップシールは、ゴム等の可撓部材であって、トラックの両側でドラッグフォイラ、キャブ及び荷箱の間の隙間を閉塞するように張り渡され、ギャップシールの下部がキャブの下方のエンジンルームに連通し、上部がドラッグフォイラに閉塞された空間を画成する。この整流装置は、トラックの走行時に車体の上部及び側部に沿って流れる空気を整流し、車体が受ける空気の抵抗を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−136786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の整流装置(エアデフレクタ)では、キャブの下方に配置されているエンジンルームに向かって下方が開口しているため、トラック(車両)の走行時に、下方の開口からエアデフレクタの内側に空気が流入する。このため、流入した空気による圧力が荷箱(荷台)の前面に発生し、この荷台の前面の圧力の発生により、車両全体としての空気抵抗が増加する可能性がある。
【0005】
また、キャブ及び荷台の双方に対し可撓部材のギャップシールを固定するため、必要な剛性を確保することが難しく、また、ギャップシールをドラッグフォイラとは異なる特別な素材にする必要があるため、エアデフレクタの製造コストの増大及び取付け作業の煩雑化を招く。
【0006】
また、エアデフレクタの後方及び下方が開口するため、エアデフレクタの形状特性による剛性が低く、必要な剛性を確保するためには、肉厚化や補強などを要し、何れの場合も重量の増大を招いてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、重量の増大を招くことなくエアデフレクタとして必要な剛性を確保するとともに、車両の走行時における空気抵抗の減少を図ることが可能な車両のエアデフレクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の車両のエアデフレクタは、キャブ上面とキャブ後面と左右の車幅方向外端面とを有するキャブの後方に、キャブ後面から後方に離間して対向する荷台前面を有する荷台が搭載され、荷台前面の上端縁がキャブ上面よりも上方に位置する車両の前記キャブに対して固定されるエアデフレクタであって、上面部と左右1対の側面部と背面部と底面部とを備える。上面部は、板状に形成され、キャブ上面から荷台前面の上端縁の近傍まで斜め後上方へ延びる。上面部の前端縁は、その全域がキャブ上面に対して密着する。左右1対の側面部は、板状に形成され、上面部の車幅方向の両端縁からそれぞれ下方へ延び、キャブ上方空間の側面とキャブ後方空間の側面とを車幅方向の両側から閉止する。左右の側面部は、キャブ上面よりも下方に配置される下側面部をそれぞれ有する。左右の側面部の下側面部の前端縁は、キャブの左右の車幅方向外端面に対して密着する。キャブ上方空間は、上面部の前側部分とキャブ上面とに区画される。キャブ後方空間は、上面部の後側部分とキャブ後面とに区画される。背面部は、板状に形成され、キャブ後方空間の後面を閉止する。底面部は、板状に形成され、キャブ後方空間の下面を閉止する。
【0009】
上記構成では、上面部は、キャブ上面から荷台前面の上端縁の近傍まで斜め後上方へ延びる。このため、キャブの上方を流れる走行風は、上面部に沿って斜め後上方の荷台前面の上端縁の近傍へ案内される。また、左右1対の側面部は、上面部の前側部分とキャブ上面とに区画されるキャブ上方空間を車幅方向の両側から閉止し、且つ上面部の後側部分とキャブ後面とに区画されるキャブ後方空間車幅方向の両側から閉止する状態で上面部の車幅方向の両端縁からそれぞれ下方へ延びている。このため、キャブの上方及び側方を流れる走行風は、左右1対の側面部により車両の側方へ案内される。すなわち、エアデフレクタは、車両の走行時にキャブの上方及び側方を流れる走行風を車両の上方及び側方へ案内し、キャブと荷台前面との段差に衝突する走行風を減らして荷台前面に発生する圧力を減少させるので、車両全体としての空気抵抗を減少させることができる。
【0010】
また、上面部がキャブ上面から荷台前面の上端縁の近傍まで延びているため、上面部の後側部分に区画されるキャブ後方空間が荷台前面の近傍に配置され、キャブ後方空間の後面を閉止する背面部が荷台前面の近傍に配置される。このため、車両の走行時にエアデフレクタにより後方へ案内された空気は、エアデフレクタの背面部と荷台前面との間に流入し難いので、荷台前面に発生する圧力を抑えて車両全体としての空気抵抗の増加を抑えることができる。また、エアデフレクタの背面部と荷台前面との間に上方及び側方から走行風が流入しても、背面部がキャブ後方空間の後面を閉止しているため、エアデフレクタの内側に流入することはなく、流入する走行風の量を抑えることができる。このため、荷台前面に発生する圧力を抑えて車両全体としての空気抵抗の増加を抑えることができる。
【0011】
また、キャブ上方空間の上端が上面部の前側部分に区画され、キャブ後方空間の上端が上面部の後側部分に区画されているため、キャブ上方空間とキャブ後方空間とは、互いに前後方向に連続する空間(以下、キャブ周辺空間と称する)を構成する。キャブ後方空間の下面は、底面部により閉止されている。これにより、キャブ周辺空間の上面は上面部によって、側面は側面部によって、前面はキャブ後面によって、後面は背面部によって、下面はキャブ上面及び底面部によってそれぞれ閉止され、キャブ周辺空間は略閉空間となる。このため、車両の走行時車両の下方を流れる走行風は、キャブ周辺空間(エアデフレクタの内側)に流れ込むことなく後方へ案内され、キャブ周辺空間の内側に走行風による圧力は発生しなので、キャブ周辺空間が開放空間である場合に比して、車両全体としての空気抵抗を大きく減少させることができる。
【0012】
また、エアデフレクタは、上面部、左右1対の側面部、及び底面部によって閉断面状に形成されている。このため、例えば、下方に開口する断面コ字状等の開断面状に形成される場合に比して、強い剛性を確保することができる。さらに、上面部、左右1対の側面部、及び底面部は、閉断面を形成して背面部と交差する方向に延びて背面部に固定されている。このため、背面部が、上面部、左右1対の側面部、及び底面部の上下方向及び左右方向の移動を拘束するので、上面部、左右1対の側面部、及び底面部のそれぞれの部材の肉厚化や補強などをすることなくエアデフレクタの変形を抑えることができる。これにより、重量の増大を招くことなく必要な剛性を確保することができる。
【0013】
また、可撓部材等の特別な素材を使用してデフレクタを形成する必要がないので、エアデフレクタの製造コストの増大及び取付け作業の煩雑化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重量の増大を招くことなくエアデフレクタとして必要な剛性を確保するとともに、車両の走行時における空気抵抗の減少を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るエアデフレクタを装備したトラックの外観斜視図である。
図2】本実施形態に係るエアデフレクタを装備したトラックの前部の側面図である。
図3】本実施形態に係るエアデフレクタの斜視図である。
図4】本実施形態に係るエアデフレクタのキャブ周辺空間を説明する模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、FRは車両の前方を、UPは上方を、INは車幅方向内側をそれぞれ示す。また、以下の説明において、左右方向は車両前方を向いた状態での左右方向を意味する。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るトラック(車両)1は、前部に配置される略箱型のキャブ2と、後部に配置される略箱型の荷台3とを備える。
【0018】
キャブ2は、キャブ2の上方、車幅方向両側方、後方、前方、及び下方をそれぞれ区画するルーフパネル4、左右1対のサイドパネル5、リアパネル6、フロントパネル7、及びフロアパネル(図示省略)を有し、トラック1の前端部に配置される。各パネルは、それぞれ隣接する他の4つのパネルと略直角に交叉し、これらのパネルによってキャブ2が略箱型に形成される。
【0019】
荷台3は、キャブ2のキャブ後面(リアパネル6の後面)12から後方に離間して対向する略矩形状の荷台前面9と、荷台前面9の後方で荷台前面9と対向して起立する略矩形状の荷台後面11と、車幅方向両端で対向して起立する左右の略矩形状の荷台側面10と、上方の略矩形状の荷台上面8と、下方の略矩形状の荷台下面(図示省略)とによって略箱型に形成され、キャブ2の後方に搭載される。荷台前面9、荷台後面11、左右の荷台側面10、荷台上面8、及び荷台下面によって荷室(図示省略)が区画される。荷台前面9の上端を区画する荷台前面上端縁14は、キャブ2のキャブ上面(ルーフパネル4の上面)13よりも上方に配置される。荷台前面9の車幅方向の長さは、キャブ2よりも長く設定され、荷台前面9の車幅方向両端縁は、左右1対のサイドパネル5のそれぞれの車幅方向外端面よりも車幅方向外側にそれぞれ配置される。なお、荷台3の形状は、キャブ後面12から後方に離間して対向する荷台前面9を有していれば、箱型に限られず任意の形状であってもよい。
【0020】
図1図3に示すように、エアデフレクタ20は、上面部21と左右1対の側面部22と背面部23と底面部24とを一体的に有し、荷台前面9の上部及び荷台前面9の車幅方向両端部とキャブ上面13とを覆う状態でキャブ2に固定される。
【0021】
上面部21は、上面後端縁25と上面前端縁26と左右の上面側端縁27(上面部21の車幅方向の両端縁)とを有する板状である。上面後端縁25は、上面部21の後端を区画し、荷台前面上端縁14の前方近傍で荷台前面上端縁14と略同じ長さで車幅方向に延びる。上面前端縁26は、上面部21の前端を区画し、ルーフパネル4の前端部の車幅方向中央部で車幅方向に延び、キャブ上面13に対して密着した状態でボルト等(図示省略)によって固定される。上面部21は、キャブ上面13に固定される上面前端縁26から後上方の上面後端縁25に向かって上方へ円弧状に緩やかに湾曲して延びる。左右の上面側端縁27は、上面部21の車幅方向両端を区画し、上面後端縁25の車幅方向両端から上面前端縁26の車幅方向両端まで延びる。左右の上面側端縁27の車幅方向の間隔(上面部21の車幅方向の幅)は、上面後端縁25側から上面前端縁26に向かって徐々に狭くなっている。なお、上面部21は、上面前端縁26から上面後端縁25に向かって上方へ円弧状に緩やかに湾曲して延びたが、これに限定されるものではなく、例えば、直線状に延びてもよい。また、上面前端縁26は、ルーフパネル4の前端部の車幅方向中央部で車幅方向に延びたが、ルーフパネル4の前端部の車幅方向全域に延びてもよい。
【0022】
左右1対の側面部22は、上面部21と一体的に形成され、上側面部28と下側面部29とをそれぞれ有し、車幅方向両側で対向して左右の上面側端縁27から下方へ延びる。
【0023】
上側面部28は、上側面部28の後端を区画する上側面後端縁31と、上側面部28の下端を区画する上側面下端縁30とを有する板状である。上側面後端縁31は、上面後端縁25の車幅方向両端から曲折して荷台前面9の車幅方向両端縁の前方近傍で略鉛直方向に延びる。上側面下端縁30は、上面前端縁26の車幅方向両端から連続してルーフパネル4の前端縁の車幅方向両端まで延び、ルーフパネル4の前端縁の車幅方向両端から後方に曲折してルーフパネル4の車幅方向両端縁に沿って後方に向かって延びて荷台前面9の近傍の上側面後端縁31の下端に連続する。上側面部28は、上面部21と一体的に形成され、左右の上面側端縁27から連続して下方の上側面下端縁30まで延びる。上側面下端縁30は、キャブ上面13に対して密着した状態でボルト等(図示省略)によって固定される。
【0024】
下側面部29は、下側面部29の前端、後端、及び下端をそれぞれ区画する下側面前端縁33、下側面後端縁34、及び下側面下端縁35を有し、上側面部28と一体的に形成され、リアパネル6よりも後方の上側面下端縁30の後端部から連続して下方に延びる。下側面前端縁33は、サイドパネル5の車幅方向外端面に対して密着した状態でボルト等(図示省略)によって固定される。下側面後端縁34は、上側面後端縁31の下端から連続して略鉛直方向に延びる。下側面下端縁35は、下側面前端縁33の下端から下側面後端縁34の下端まで延びる。
【0025】
図4に示すように、上面部21の前側部分(図4中に2点鎖線で示す位置よりも前側の部分)38とキャブ上面13とは、キャブ上方空間36を区画する。キャブ上方空間36は、上側面部28の前側部分(図4中に2点鎖線で示す位置よりも前側の部分)40により車幅方向両側が閉止される。
【0026】
上面部21の後側部分(図4中に2点鎖線で示す位置よりも後側の部分)39とキャブ後面12とは、キャブ後方空間37を区画する。キャブ後方空間37は、上側面部28の後側部分(図4中に2点鎖線で示す位置よりも後側の部分)41と、下側面部29とにより車幅方向両側が閉止される。
【0027】
キャブ上方空間36とキャブ後方空間37とは、互いに前後方向に連続するキャブ周辺空間43を構成する。キャブ周辺空間43は、上側面部28の前側部分40と、上側面部28の後側部分41と、下側面部29とにより、すなわち、左右1対の側面部22により車幅方向両側が閉止される。
【0028】
背面部23は、上面部21及び左右1対の側面部22と一体的に形成される略矩形板状であって、下側面下端縁35のそれぞれの後端同士を連結する背面下端縁42を有し、背面下端縁42から上方へ延びる。背面部23の上端縁は、上面後端縁25に固定され、背面部23の車幅方向両端縁は、上側面後端縁31及び下側面後端縁34に固定される。背面部23は、キャブ後方空間37の後面を閉止する。
【0029】
底面部24は、左右1対の側面部22及び背面部23と一体的に形成される略矩形板状であって、上下方向と交差する方向に沿って配置される。底面部24の後端縁は、背面下端縁42に固定され、底面部24の車幅方向両端縁は、下側面下端縁35固定され、底面部24の前端縁は、キャブ後面12の近傍まで延びる。底面部24は、キャブ後方空間37の下面を閉止する。なお、底面部24の形状は、略矩形板状に限られず、例えば、リアパネル6の後方に車両を構成する補機類等(図示省略)がある場合には、補機類等を避けるために補機類等の形状に沿った切欠部を有してもよい。
【0030】
上記のように構成されたエアデフレクタ20では、上面部21は、キャブ2に対して密着した状態で固定される上面前端縁26から、荷台前面上端縁14の前方近傍で荷台前面上端縁14と略同じ長さで車幅方向に延びる上面後端縁25まで斜め後上方へ延びる。このため、キャブ2の上方を流れる走行風は、上面部21に沿って斜め後上方の荷台前面上端縁14の近傍へ案内される。また、左右1対の側面部22は、キャブ上方空間36及びキャブ後方空間37を車幅方向の両側から閉止する状態で左右1対の上面側端縁27からそれぞれ下方へ延びる。上側面下端縁30及び下側面前端縁33は、キャブ2に対して密着した状態で固定され、上側面後端縁31及び下側面後端縁34は、荷台前面9の車幅方向両端縁の前方近傍で略鉛直方向に延びる。このため、エアデフレクタ20は、トラック1の走行時にキャブ2の上方及び側方を流れる走行風をトラック1の上方及び側方へ案内し、キャブ2と荷台前面9との段差に衝突する走行風を減らして荷台前面9に発生する圧力を減少させるので、車両全体としての空気抵抗を減少させることができる。
【0031】
また、背面部23は、荷台前面9の近傍に配置されるため、トラック1の走行時にエアデフレクタ20の上面部21と左右1対の側面部22とにより後方へ案内された空気は、エアデフレクタ20の背面部23と荷台前面9との間に流入し難い。このため、荷台前面9に発生する圧力を抑えて車両全体としての空気抵抗の増加を抑えることができる。
【0032】
また、背面部23がキャブ後方空間37の後面を閉止するため、エアデフレクタ20の背面部23と荷台前面9との間に走行風が流入しても、エアデフレクタ20の内側に流入することはなく、流入する走行風の量を抑えることができる。このため、荷台前面9に発生する圧力を抑えて車両全体としての空気抵抗の増加を抑えることができる。
【0033】
また、上面部21及び左右1対の側面部22は、キャブ2に対して密着した状態で固定されるため、キャブ周辺空間43の上面は上面部21によって、側面は左右1対の側面部22によって、前面はキャブ後面12によって、後面は背面部23によって、下面はキャブ上面13と底面部24とによってそれぞれ閉止され、キャブ周辺空間43は略閉空間となる。このため、トラック1の走行時にトラック1の下方を流れる走行風は、キャブ周辺空間43(エアデフレクタ20の内側)に流れ込むことなく後方へ案内され、キャブ周辺空間43の内側に走行風による圧力は発生しなので、キャブ周辺空間が開放空間である場合に比して、車両全体としての空気抵抗を大きく減少させることができる。
【0034】
また、エアデフレクタ20は、板状の上面部21と左右1対の板状の側面部22と板状の底面部24とによって閉断面状に形成される。このため、例えば、下方に開口する断面コ字状等の開断面状に形成される場合に比して、強い剛性を確保することができる。さらに、上面部21、左右1対の側面部22、及び底面部24は、閉断面を形成して背面部23と交差する方向に延びて背面部23に固定される。このため、背面部23が、上面部21、左右1対の側面部22、及び底面部24の上下方向及び左右方向の移動を拘束するので、上面部21、左右1対の側面部22、及び底面部24のそれぞれの部材の肉厚化や補強などをすることなくエアデフレクタ20の変形を抑えることができる。これにより、重量の増大を招くことなく必要な剛性を確保することができる。
【0035】
また、可撓部材等の特別な素材を使用してエアデフレクタ20を形成する必要がないので、エアデフレクタ20の製造コストの増大及び取付け作業の煩雑化を抑えることができる。
【0036】
次に、キャブ周辺空間43が略閉空間であるエアデフレクタ20を装備した場合のトラック1が受ける空気抵抗の減少について、風洞解析を用いた検証結果に基づいて説明する。
【0037】
この風洞解析は、上下方向の長さが4.4m、車幅方向の長さが20mの断面状の空気領域が前後方向に30m延びる風洞をコンピュータ上に構成し、解析モデル化した車両を風洞の中央部に車両の前部を風洞の入口方向に向けて配置し、風洞の入口から時速100kmの空気流を流入させることによって、時速100kmで走行する車両が進行方向前方から受ける空気抵抗を求めるものである。車両が受ける空気抵抗は、風洞の入口の圧力と風洞の出口の圧力との圧力差である圧力損失によって測定される。
【0038】
まず、エアデフレクタ20の背面部23及び底面部24がない状態(キャブ周辺空間43が開放空間である状態)のエアデフレクタを装備したトラックの解析モデルを風洞に配置し、風洞の入口から時速100kmの空気流を流入させて解析を行った。この場合、キャブ周辺空間43に空気が流入することが確認された。また、圧力損失は、0.12621kpaであることが確認された。
【0039】
次に、キャブ周辺空間43が略閉空間である本実施形態に係るエアデフレクタ20を装備したトラック1の解析モデルを風洞に配置し、風洞の入口から時速100kmの空気流を流入させて解析を行った。この場合、キャブ周辺空間43に空気が流入しないことが確認された。また、圧力損失は、0.12455kpaであることが確認された。
【0040】
従って、キャブ周辺空間43が略閉空間である本実施形態に係るエアデフレクタ20を装備したトラック1では、キャブ周辺空間43が開放空間であるエアデフレクタを装備したトラックと比べて圧力損失が約1.5%減少することが確認され、キャブ周辺空間43が開放空間であるエアデフレクタを装備したトラックと比べてトラック1が受ける空気抵抗をより多く減少させることができることが検証された。
【0041】
次に、背面部23及び底面部24を有するエアデフレクタ20のマッチボックス剛性について、エアデフレクタの解析モデルを用いた実験の検証結果に基づいて説明する。ここでマッチボックス剛性とは、マッチボックス変形に対する剛性であって、所定の荷重に対するマッチボックス変形の変形量であらわされる。マッチボックス変形とは、平行四辺形状に潰れるような変形(例えば、スライド式中箱を外したマッチ箱の外枠部が僅かな外力で平行四辺形状に潰れるような変形)をいう。
【0042】
このマッチボックス剛性の解析は、コンピュータ上で材質がSMC(Sheet Molding Compound)に設定されたエアデフレクタの解析モデルに対して所定の方向に所定の荷重を加え、エアデフレクタの肉厚を様々な値に変化させてマッチボックス変形の変形量(マッチボックス剛性)を測定し、所定のマッチボックス剛性のときのエアデフレクタの肉厚及び重量を計測することにより行う。
【0043】
まず、エアデフレクタ20の背面部23及び底面部24がない状態のエアデフレクタの解析モデルでは、所定のマッチボックス剛性(1.81mm/9800N)を確保するために必要なエアデフレクタの肉厚は50mmであり、その際の重量は322.6kgであることが確認された。
【0044】
次に、背面部23及び底面部24を有する本実施形態に係るエアデフレクタ20の解析モデルでは、所定のマッチボックス剛性(1.77mm/9800N)を確保するために必要なエアデフレクタの肉厚は11.4mmであり、その際の重量は163.6kgであることが確認された。
【0045】
従って、本実施形態に係るエアデフレクタ20は、背面部23及び底面部24がない状態の略同じマッチボックス剛性のエアデフレクタと比べて、同一の材質SMCにおいて、必要な肉厚を大きく抑えることができ、重量を約50%軽量化することができることが確認された。すなわち、エアデフレクタ20は、背面部23及び底面部24を有することにより、材料の肉厚を大きく抑えることができ、重量の増大を招くことなくエアデフレクタとして必要な剛性を確保することができることが検証された。
【0046】
このように、本実施形態によれば、重量の増大を招くことなくエアデフレクタとして必要な剛性を確保するとともに、車両の走行時における空気抵抗の減少を図ることができる。
【0047】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定をされるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲では適宜の変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0048】
例えば、上記実施形態では、エアデフレクタ20は、上面部21と左右1対の側面部22と背面部23と底面部24とを一体的に有したが、各面部を別々の部材として有してもよい。
【0049】
また、トラック1の走行時に走行風を良好に後方や側方に案内するために、上面部21や左右1対の側面部22に凹凸を設けてもよい。
【0050】
また、上面部は、上面部の傾斜角度を変更可能な可変式の上面部であってもよい。
【0051】
また、上面部の前部に埋め込み式の看板灯を備えてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:トラック(車両)
2:キャブ
3:荷台
4:ルーフパネル
6:リアパネル
9:荷台前面
12:キャブ後面
13:キャブ上面
14:荷台前面上端縁
20:エアデフレクタ
21:上面部
22:左右1対の側面部
23:背面部
24:底面部
28:上側面部
29:下側面部
36:キャブ上方空間
37:キャブ後方空間
38:上面部の前側部分
39:上面部の後側部分
43:キャブ周辺空間
図1
図2
図3
図4