特許第6041221号(P6041221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041221
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/14 20060101AFI20161128BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20161128BHJP
   H01M 4/56 20060101ALI20161128BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H01M4/14 Q
   H01M10/06 L
   H01M4/56
   H01M4/62 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-538147(P2014-538147)
(86)(22)【出願日】2013年9月17日
(86)【国際出願番号】JP2013005476
(87)【国際公開番号】WO2014050012
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2015年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2012-214284(P2012-214284)
(32)【優先日】2012年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直久
(72)【発明者】
【氏名】堤 誉雄
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−196191(JP,A)
【文献】 特開2001−015114(JP,A)
【文献】 特開平10−092415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14
H01M 4/56
H01M 4/62
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えている液式鉛蓄電池において、
前記負極活物質は、海綿状鉛を含有しさらに、カーボンを0.5mass%以上2.5mass%以下スルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物を0.1mass%以上0.9mass%以下、アルギン酸またはそのアルカリ金属塩を0.05mass%以上0.3mass%以下含有することを特徴とする、液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極活物質がさらに、オレフィン系ポリカルボン酸またはその塩を0.3mass%以下含有することを特徴とする、請求項1の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記カーボンはカーボンブラックであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかの液式鉛蓄電池。
【請求項4】
前記カーボンはカーボンブラックであり、かつ前記電解液は、カーボンブラック濃度が4massppm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかの液式鉛蓄電池。
【請求項5】
前記負極活物質はポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそれらの塩を含有し、かつ前記電解液は、カーボンブラック濃度が3massppm以下であることを特徴とする、請求項4の液式鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液式鉛蓄電池に関し、特に負極活物質にカーボンブラックを多量に含有し、しかも電解液の濁りが少ない液式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液式鉛蓄電池を充電が不完全な状態で使用することにより、自動車のエネルギー効率を向上させることが行われている。例えばアイドリングストップ車では、停車の都度エンジンを停止することにより燃料消費量を小さくし、発進時に蓄電池からの電力でエンジンを起動する。このため蓄電池は充電不足の状態で使用される。アイドリングストップ車に限らず、エネルギー効率を向上させるため蓄電池への過充電を避け、しかも蓄電池から取り出す電力が増しているので、蓄電池は充電不足な状態に置かれることが多い。
【0003】
鉛蓄電池を充電不足の状態で使用する場合、還元が困難な硫酸鉛が負極活物質中に蓄積するため、耐久性が低下する。硫酸鉛の蓄積は、カーボンブラックを負極活物質に多量に含有させることにより抑制できることが知られている。しかしながらカーボンブラックを負極活物質の海綿状鉛100mass%に対して、例えば0.5mass%を超えて含有させると、使用中にカーボンブラックが電解液中に流出し、電槽内壁に付着することで液面の視認性が低下する。液式鉛蓄電池では、水を加えて電解液の減少分を補う必要があるため、液面の視認性が低下すると問題である。液面センサーを設けることも行われているが、カーボンブラックでセンサーが汚染されると、液面の検出が難しくなる。このため、液式鉛蓄電池に対して、電解液の濁りを僅かにしながら、多量のカーボンブラックを添加する必要がある。
【0004】
特許文献1(特開2003-338285)は、制御弁式鉛蓄電池の負極活物質に、ビスフェノール系縮合物とカーボンブラックとを含有させることを開示している。そしてビスフェノール系縮合物は負極活物質を微細化し、カーボンブラックとの相乗作用により充電受入性を向上させるとしている。しかしながら発明者の実験では、液式鉛蓄電池の負極活物質にビスフェノール系縮合物と多量のカーボンブラックとを含有させると、カーボンブラックによる電解液の濁りが著しくなり、液面が視認できなくなった。また多量のカーボンブラックとを含有させると、負極活物質ペーストが硬化するため、負極格子へのペーストの充填が難しくなる、との問題も生じた。そこで電解液中へのカーボンの流出が僅かで、負極格子へのペーストの充填が容易で、しかも充電不足な状態での耐久性等に優れた液式鉛蓄電池を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-338285
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の基本的課題は、電解液の濁りが僅かで、格子へのペーストの充填が容易で、かつ低温ハイレート放電性能と、回生充電受入性能と、充電が不十分な状態での耐久性能とに優れた、液式鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、負極活物質と、二酸化鉛を主成分とする正極活物質と、硫酸を含有し流動自在な電解液とを備えている液式鉛蓄電池において、前記負極活物質は、海綿状鉛を含有しさらに、カーボンを0.5mass%以上2.5mass%以下、スルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物を0.1mass%以上0.9mass%以下、アルギン酸またはそのアルカリ金属塩を0.05mass%以上0.3mass%以下含有することを特徴とする。
【0008】
この明細書において、負極活物質中のカーボン等の含有量は、海綿状鉛を100mass%として示す。負極活物質が硫酸鉛等を含有している場合、硫酸鉛等を海綿状鉛に換算して海綿状鉛の量を定める。負極活物質中の含有物の量は、例えば化成済みの段階での含有量である。化成は、塩基性硫酸鉛及び酸化鉛を、硫酸水溶液中で酸化することにより正極活物質の二酸化鉛とし、同じく硫酸水溶液中で還元することにより負極活物質の金属鉛とする、工程である。
【0009】
スルホン酸基を有するビスフェノール系縮合物から成る水溶性高分子を、以下では単にビスフェノール系縮合物という。ビスフェノール系縮合物は例えば、
(−(OH)(RSO3H)Ph−X−Ph(OH)(R'SO3H)CH2−)n
の化学式で表され、R,R'はメチレン基等の適宜のアルキル基、XはSO2基、アルキル基等で、Xを含まずに2個のフェニル基が直接結合していても良い。またSO3H基の水素は、負極活物質中でNaイオン等の適宜の陽イオン、特にアルカリ金属イオンにより置換されていることがある。さらにRSO3H基、R'SO3H基、CH2基はフェニル基(Ph)のOH基に対してオルソの位置にあり、縮合物のモノマーはCH2基を介して互いに接続されている。市販のビスフェノール系縮合物はモノマー当たり2個のスルホン酸基を有するものが多いが、モノマー当たりのスルホン酸基の数は1個〜4個等のように任意である。XがSO2基の場合がビスフェノールS、Xが −C(CH32− の場合がビスフェノールAで、実施例ではビスフェノールSを用いる例を示すが、ビスフェノールAを用いても結果は同等である。ビスフェノール系縮合物の分子量は任意で、例えば4000〜250,000程度とし、分子量の影響は小さい。
ビスフェノール系縮合物は、芳香族環とスルホン酸基とを含む水溶性高分子である点で、リグニンスルホン酸と類似しているが、カルボキシ基とエーテル基及びアルコール性水酸基を持たない点と、網状ではなく直鎖状の高分子である点が異なる。
【0010】
ビスフェノール系縮合物の含有量は、海綿状鉛100mass%当たりで、0.1mass%以上が好ましい。またビスフェノール系縮合物から成る水溶性の含有量は、海綿状鉛100mass%当たりで、0.9mass%以下が好ましい。全体としては、ビスフェノール系縮合物を0.1mass%以上で0.9mass%以下含有することが好ましく、0.3mass%以上で0.7mass%以下含有することが特に好ましい。
【0011】
アルギン酸は天然の多糖類高分子で酸性の物質であり、直鎖状の高分子で、分子量は任意で、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩は水に溶けやすいので、負極活物質ペーストの製造に適している。しかし化成後の負極活物質中では、アルカリ金属イオンを放出して酸として存在している可能性がある。
【0012】
アルギン酸またはその塩の含有量は、海綿状鉛100mass%当たりで、0.05mass%以上が好ましい。またアルギン酸またはその塩の含有量は、海綿状鉛100mass%当たりで、0.3mass%以下が好ましい。全体としては、アルギン酸またはその塩を、海綿状鉛100mass%当たりで、0.05mass%以上0.3mass%以下含有することが好ましく、0.05mass%以上0.2mass%以下含有することが特に好ましい。
【0013】
カーボンは、黒鉛、カーボンファイバー、煤等の非晶質カーボン、等でも良いが、微細で比表面積が大きなカーボンブラックが好ましい。カーボンブラック等のカーボンの含有量は、海綿状鉛100mass%当たりで、0.5mass%以上が好ましい。またカーボンブラック等の含有量は、海綿状鉛100mass%当たりで、2.5mass%以下が好ましい。全体としては、海綿状鉛100mass%当たりで、カーボンブラック等を0.5mass%以上で2.5mass%以下含有することが好ましい。
【0014】
好ましくは、負極活物質はさらに、オレフィン系ポリカルボン酸またはその塩を含有する。オレフィン系ポリカルボン酸には、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等があり、これらはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン骨格の水素をカルボキシル基で置換した化合物である。実施例では、オレフィン系ポリカルボン酸として、ポリアクリル酸とその塩を用いた。ポリアクリル酸とポリメタクリル酸は化学的性質が酷似した物質で、ポリアクリル酸とその塩をポリメタクリル酸とその塩に代えても、結果は同等である。ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のオレフィン系ポリカルボン酸は、ポリエチレン、ポリプロピレン等とのポリオレフィンとブロック共重合させることができる。ポリアクリル酸等のポリカルボン酸を含む共重合体中で実際に有効なのは、ポリカルボン酸のブロックなので、共重合体の質量をM、その内のポリカルボン酸のブロックの質量をmとすると、共重合体の含有量にm/Mを掛けたものを、ポリカルボン酸の含有量とする。またオレフィン系ポリカルボン酸の塩は、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩で、強酸性のビスフェノール系縮合物のため、負極活物質中では主として酸型で存在すると考えられる。
【0015】
好ましくは、負極活物質は、海綿状鉛100mass%当たりで、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそれらの塩を、0.01mass%以上含有する。また好ましくは、負極活物質は、海綿状鉛100mass%当たりで、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそれらの塩を、0.3mass%以下含有する。負極活物質は、海綿状鉛100mass%当たりで、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそれらの塩を、0.01mass%以上0.3mass%以下含有することが好ましく、0.05mass%以上0.15mass%以下含有することが特に好ましい。
【発明の効果】
【0016】
負極活物質に、カーボンと、ビスフェノール系縮合物と、アルギン酸またはその塩とを含有させることにより、電解液の濁りを僅かにでき、かつ低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能とを向上させることができる。さらに充電不足な状態での耐久性能を向上させることができる。そしてアルギン酸またはその塩を負極活物質に含有させることにより、カーボンを多量に含有させても、負極活物質ペーストの硬化を抑制し、負極格子への充填を容易にすることができる。負極活物質にさらにオレフィン系ポリカルボン酸またはその塩を含有させると、電解液中に流出するカーボン濃度をさらに低下させることができる。
【0017】
各含有物の濃度について説明し、含有量は全て海綿状鉛を100mass%とするmass%単位で示す。カーボンをカーボンブラックとすると、カーボンブラック含有量を0.5mass%以上とすることにより充電不足な状態での耐久性が向上し、2.5mass%以下とすることにより液面の視認性を保つことができる。ビスフェノール系縮合物を0.1mass%以上含有させると、電解液の濁り、即ち電解液へのカーボンブラックの流出量を小さくし、かつ低温ハイレート放電性能を向上させることができる。
【0018】
ビスフェノール系縮合物を0.9mass%を越えて含有させると、電解液の濁りが増す。ビスフェノール系縮合物の含有量を0.3mass%以上0.7mass%以下とすると、電解液の濁りも僅かで、かつ低温ハイレート放電性能も回生充電受入性能も良好で、さらに耐久性能も良好でる。このため全体としては、ビスフェノール系縮合物を、0.1mass%以上0.9mass%以下、特に0.3mass%以上0.7mass%以下含有することが好ましい。
【0019】
アルギン酸またはその塩を0.05mass%以上含有させると、ペーストの充填性を向上させると共に、電解液の濁りを僅かにし、さらに低温ハイレート放電性能を向上させることができる。しかしながらアルギン酸とその塩を、0.2mass%を越えて含有させると、回生充電受入性能がやや低下し、0.3mass%を越えて含有させると、回生充電受入性能の低下が著しくなる。このためアルギン酸またはその塩は合計で、0.05mass%以上0.3mass%以下含有させることが好ましく、特に0.05mass%以上0.2mass%以下含有させることが好ましい。
【0020】
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそれらの塩を0.01mass%以上含有させると、電解液の濁りを僅かにでき、0.05mass%以上0.15mass%以下含有させると、回生充電受入性能も向上させることができる。しかし0.3mass%を越えて含有させると、回生充電受入性能が低下するので、好ましくない。
【0021】
海綿状鉛100mass%に対するカーボンブラック含有量を0.5mass%以上2.5mass%以下とした際に、ビスフェノール系縮合物を0.1mass%以上0.9mass%以下含有させ、かつアルギン酸またはその塩を0.05mass%以上0.3mass%以下含有させると、化成済みの段階において、電解液中のカーボンブラック濃度を4massppm以下にできる。さらに同じ条件で、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸またはそれらの塩を0.01mass%以上0.3mass%以下含有させると、電解液中のカーボンブラック濃度が3massppm以下にできる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0023】
アルギン酸ナトリウム(分子量約250,000)とポリアクリル酸ナトリウム(分子量約2,500,000)とを水に溶かし、カーボンブラックを加えて混練した。これに、ビスフェノールSの縮合物(分子量約100,000)と、海綿状鉛100mass%に対して0.6mass%の硫酸バリウムと、0.1mass%の合成繊維の補強剤とを加えて再度混練し、カーボンペーストとした。カーボンペーストに、ボールミル法による鉛粉と、海綿状鉛100mass%に対して0.2mass%のリグニンと水と硫酸とを加えて混練し、負極活物質ペーストとした。カーボンブラックの種類は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等、任意で、カーボンブラックの種類を変えても結果はほぼ同等であった。またビスフェノールS縮合物に変えて、ビスフェノールA縮合物を用いてもほぼ同等の結果が得られた。ビスフェノールS縮合物の分子量を10,000に変えても、あるいはポリアクリル酸ナトリウムの分子量を5,000,000に変えても、結果は同等であった。また補強剤と硫酸バリウム及びリグニンは加えなくても良い。なお鉛粉の種類と製造方法は任意である。アルギン酸とポリアクリル酸はリチウム塩、カリウム塩等として添加しても、あるいは酸型で添加しても良い。さらに各成分を加える順序は任意である。
【0024】
アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カーボンブラック、及びビスフェノールSの含有量を変えて、表1,表2に示す組成の負極活物質ペーストを作製した。アルギン酸とポリアクリル酸の含有量は、ナトリウム塩として表す。またビスフェノールSに代えてリグニンを、ポリアクリル酸に代えてポリグルタミン酸を、アルギン酸ナトリウムに代えてアルギン酸カルシウムを、カーボンペースト中に含有させた負極活物質ペーストを作成した。
エキスパンドタイプでPb-Ca-Sn合金系の負極格子に負極活物質ペーストを充填し、未化成の負極板とした。各負極活物質ペーストに対し、JIS K2207に従って、針入度計により針入度を測定した。針入度は負極活物質ペーストの負極格子への充填の容易さを表す。
【0025】
ボールミル法で製造した鉛粉100mass%と、0.1mass%の合成繊維補強剤とを、水と硫酸とで混練して、エキスパンドタイプでPb-Ca-Sn合金系の正極格子に充填し、未化成の正極板とした。未化成の正極板、未化成の負極板、セパレータ、及び硫酸電解液を電槽にセットし、電槽化成を施して液式鉛蓄電池(化成後の電解液比重1.285)とした。電解液中のカーボン濃度を測定すると共に、低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能とを初期性能として測定した。また充電不足な状態(以下PSOCという)での耐久性能とを測定した。初期性能の測定用の蓄電池は、正極板が2枚、負極板が1枚で、5hR容量は8Ahであり、耐久性能の測定用の蓄電池は、正極板が7枚、負極板が8枚で、5hR容量は48Ahであった。
【0026】
各2個の蓄電池に対して以下の条件で測定を行った。電解液の濁りは、化成後30分以内に電解液を採取し、カーボン濃度を比色法で測定した。低温ハイレート放電性能は、-15℃で37.5Aで蓄電池を放電させ、端子電圧が1.0Vとなるまでの放電時間を測定した。回生充電受入性能は、25℃で蓄電池の充電率90%から、最大12.5Aの電流で2.4Vの定電圧充電を10秒間行い、その間の充電受入電気量を測定した。耐久性能として、50Aで60秒間の放電と、最大50Aで60秒間2.33Vの定電圧充電とのサイクルを繰り返して行い、放電時の端子電圧が1.0V未満となるまでのサイクル数を測定した。
【0027】
表1にアルギン酸無しでの結果を、表2にアルギン酸を含有させた際の結果を示す。ポリアクリル酸はカーボンの流出を抑制するので、カーボンに対するバインダーである。またビスフェノール系縮合物は、ポリアクリル酸等のバインダーを塩型から酸型に変化させて、バインダーの水溶性を低下させることにより、バインダーとカーボンとを負極活物質中に固定すると考えられるので、負極活物質中へのカーボンの分散剤である。さらにアルギン酸は負極活物質ペーストへの針入度を増加させるので、針入度調整剤である。表1,表2では、電解液の濁りを、カーボンブラック0.5mass%含有の従来例(試料No.2)と同等の、カーボンブラック濃度が5masssppm以上で不可とし、4masssppm以下で可とした。また初期性能を、カーボンブラック0.3mass%含有の従来例(試料No.1:低温ハイレート放電持続時間220秒、回生充電受入量104A・s)と同等以上で可とした。さらに針入度は50以上で可とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表1から明らかなように、負極活物質にカーボンブラックを0.5mass%以上で2.5mass%以下と多量に含有させて、ビスフェノール系縮合物と、ポリアクリル酸ナトリウムとを含有させることにより、電解液の濁りをカーボンブラック0.3mass%の従来例と同等にでき、低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能を従来例と同等かそれ以上にでき、かつ耐久性能を向上させることができた。またビスフェノール系縮合物の含有量を0.1mass%以上とすると、電解液の濁りが僅かになり、初期性能も耐久性能も優れた値が得られた。ビスフェノール系縮合物の含有量を0.3mass%以上とすると耐久性能がさらに向上し、含有量が0.3mass%以上0.7mass%以下の範囲で最適性能が得られた。ビスフェノール系縮合物を0.9mass%含有させると、回生充電受入性能がやや低下し、1.0mass%含有させると、電解液の濁りが増加した。ビスフェノール系縮合物の含有量が0.1mass%以上で0.9mass%以下の範囲で、ポリアクリル酸ナトリウムの含有量を0.01mass%以上で0.3mass%以下とすると、電解液の濁りをカーボンブラック濃度で3masssppm以下にできた。そしてポリアクリル酸ナトリウムの含有量を0.15mass%以下とすると回生充電受入性能を高くでき、0.05mass%以上とすると耐久性能を高くできた。
【0031】
表1の各試料は針入度が全て50未満で、負極格子への充填が難しかった。そこで表2に示すように、負極活物質にアルギン酸ナトリウムを含有させると針入度が改善した。アルギン酸ナトリウムを0.05mass%以上含有させると、針入度は実用的な範囲に達し、0.3mass%を越えて含有させると、回生充電受入性能が低下した。回生充電受入性能をさらに高くするには、アルギン酸ナトリウムを0.05mass%以上0.2mass%以下含有させることが好ましい。ビスフェノール系縮合物とポリアクリル酸ナトリウムとを含む試料で、アルギン酸ナトリウムの含有量を増すと、電解液の濁りはさらに減少し、低温ハイレート放電性能が向上し、回生充電受入性能と耐久性能とが低下した。さらに、試料No.45,46のようにビスフェノール系縮合物とポリアクリル酸ナトリウムの含有量を変えても、アルギン酸ナトリウムとの組み合わせで、良い性能が得られた。このため、アルギン酸ナトリウムを含有する試料に対し、表1に示した範囲で、ビスフェノール系縮合物とポリアクリル酸ナトリウムの含有量を変更しても良い。即ち、アルギン酸ナトリウムを0.05mass%以上0.3mass%以下含む試料に対し、ビスフェノール系縮合物の含有量を0.1mass%以上0.9mass%以下、好ましくは0.3mass%以上0.7mass%以下の範囲で変更しても良く、ポリアクリル酸の含有量を0.01mass%以上0.3mass%以下、好ましくは0.05mass%以上0.15mass%以下の範囲で変更しても良い。
【0032】
なおポリアクリル酸を含まず、ビスフェノール系縮合物とアルギン酸ナトリウムとを含む試料でも、電解液中のカーボンブラック濃度を4massppmに留めることができ、液面を実用的に視認できる蓄電池が得られた。
【0033】
ポリアクリル酸をポリグルタミン酸に変えた比較例と、アルギン酸を水に不溶なカルシウム塩に変えた際の結果を示す。ポリグルタミン酸では、カーボンの流出を抑制できず、耐久性能も不足した。アルギン酸カルシウムとポリアクリル酸ナトリウムとの組合せでは、針入度が低すぎ、ポリアクリル酸ナトリウム無しでアルギン酸カルシウムを含有させると、針入度が低く、カーボン流出量も多い。
【0034】
以上のように実施例では、
・負極活物質ペーストの充填性を保ちながら、
・電解液の濁りを僅かにすることにより液面の視認性を高め、
・低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能とを従来例と同等以上に保ち、
・しかも充電不足な条件での耐久性能を向上させることができた。
【0035】
またカーボンブラックの電解液への流出は、以下の機構により達成されているものと推定できる。
・アルギン酸及びその塩は針入度を改善すると共に、カーボンブラックを吸着して負極活物質中に固定する作用があり、
・ポリアクリル酸は、カーボンブラックを吸着して負極活物質中に固定する作用が、アルギン酸よりも強く、
・強酸であるビスフェノール系縮合物は、弱酸であるポリアクリル酸を酸型に変換して、負極活物質中に固定する。