【実施例】
【0023】
アルギン酸ナトリウム(分子量約250,000)とポリアクリル酸ナトリウム(分子量約2,500,000)とを水に溶かし、カーボンブラックを加えて混練した。これに、ビスフェノールSの縮合物(分子量約100,000)と、海綿状鉛100mass%に対して0.6mass%の硫酸バリウムと、0.1mass%の合成繊維の補強剤とを加えて再度混練し、カーボンペーストとした。カーボンペーストに、ボールミル法による鉛粉と、海綿状鉛100mass%に対して0.2mass%のリグニンと水と硫酸とを加えて混練し、負極活物質ペーストとした。カーボンブラックの種類は、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等、任意で、カーボンブラックの種類を変えても結果はほぼ同等であった。またビスフェノールS縮合物に変えて、ビスフェノールA縮合物を用いてもほぼ同等の結果が得られた。ビスフェノールS縮合物の分子量を10,000に変えても、あるいはポリアクリル酸ナトリウムの分子量を5,000,000に変えても、結果は同等であった。また補強剤と硫酸バリウム及びリグニンは加えなくても良い。なお鉛粉の種類と製造方法は任意である。アルギン酸とポリアクリル酸はリチウム塩、カリウム塩等として添加しても、あるいは酸型で添加しても良い。さらに各成分を加える順序は任意である。
【0024】
アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、カーボンブラック、及びビスフェノールSの含有量を変えて、表1,表2に示す組成の負極活物質ペーストを作製した。アルギン酸とポリアクリル酸の含有量は、ナトリウム塩として表す。またビスフェノールSに代えてリグニンを、ポリアクリル酸に代えてポリグルタミン酸を、アルギン酸ナトリウムに代えてアルギン酸カルシウムを、カーボンペースト中に含有させた負極活物質ペーストを作成した。
エキスパンドタイプでPb-Ca-Sn合金系の負極格子に負極活物質ペーストを充填し、未化成の負極板とした。各負極活物質ペーストに対し、JIS K2207に従って、針入度計により針入度を測定した。針入度は負極活物質ペーストの負極格子への充填の容易さを表す。
【0025】
ボールミル法で製造した鉛粉100mass%と、0.1mass%の合成繊維補強剤とを、水と硫酸とで混練して、エキスパンドタイプでPb-Ca-Sn合金系の正極格子に充填し、未化成の正極板とした。未化成の正極板、未化成の負極板、セパレータ、及び硫酸電解液を電槽にセットし、電槽化成を施して液式鉛蓄電池(化成後の電解液比重1.285)とした。電解液中のカーボン濃度を測定すると共に、低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能とを初期性能として測定した。また充電不足な状態(以下PSOCという)での耐久性能とを測定した。初期性能の測定用の蓄電池は、正極板が2枚、負極板が1枚で、5hR容量は8Ahであり、耐久性能の測定用の蓄電池は、正極板が7枚、負極板が8枚で、5hR容量は48Ahであった。
【0026】
各2個の蓄電池に対して以下の条件で測定を行った。電解液の濁りは、化成後30分以内に電解液を採取し、カーボン濃度を比色法で測定した。低温ハイレート放電性能は、-15℃で37.5Aで蓄電池を放電させ、端子電圧が1.0Vとなるまでの放電時間を測定した。回生充電受入性能は、25℃で蓄電池の充電率90%から、最大12.5Aの電流で2.4Vの定電圧充電を10秒間行い、その間の充電受入電気量を測定した。耐久性能として、50Aで60秒間の放電と、最大50Aで60秒間2.33Vの定電圧充電とのサイクルを繰り返して行い、放電時の端子電圧が1.0V未満となるまでのサイクル数を測定した。
【0027】
表1にアルギン酸無しでの結果を、表2にアルギン酸を含有させた際の結果を示す。ポリアクリル酸はカーボンの流出を抑制するので、カーボンに対するバインダーである。またビスフェノール系縮合物は、ポリアクリル酸等のバインダーを塩型から酸型に変化させて、バインダーの水溶性を低下させることにより、バインダーとカーボンとを負極活物質中に固定すると考えられるので、負極活物質中へのカーボンの分散剤である。さらにアルギン酸は負極活物質ペーストへの針入度を増加させるので、針入度調整剤である。表1,表2では、電解液の濁りを、カーボンブラック0.5mass%含有の従来例(試料No.2)と同等の、カーボンブラック濃度が5masssppm以上で不可とし、4masssppm以下で可とした。また初期性能を、カーボンブラック0.3mass%含有の従来例(試料No.1:低温ハイレート放電持続時間220秒、回生充電受入量104A・s)と同等以上で可とした。さらに針入度は50以上で可とした。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表1から明らかなように、負極活物質にカーボンブラックを0.5mass%以上で2.5mass%以下と多量に含有させて、ビスフェノール系縮合物と、ポリアクリル酸ナトリウムとを含有させることにより、電解液の濁りをカーボンブラック0.3mass%の従来例と同等にでき、低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能を従来例と同等かそれ以上にでき、かつ耐久性能を向上させることができた。またビスフェノール系縮合物の含有量を0.1mass%以上とすると、電解液の濁りが僅かになり、初期性能も耐久性能も優れた値が得られた。ビスフェノール系縮合物の含有量を0.3mass%以上とすると耐久性能がさらに向上し、含有量が0.3mass%以上0.7mass%以下の範囲で最適性能が得られた。ビスフェノール系縮合物を0.9mass%含有させると、回生充電受入性能がやや低下し、1.0mass%含有させると、電解液の濁りが増加した。ビスフェノール系縮合物の含有量が0.1mass%以上で0.9mass%以下の範囲で、ポリアクリル酸ナトリウムの含有量を0.01mass%以上で0.3mass%以下とすると、電解液の濁りをカーボンブラック濃度で3masssppm以下にできた。そしてポリアクリル酸ナトリウムの含有量を0.15mass%以下とすると回生充電受入性能を高くでき、0.05mass%以上とすると耐久性能を高くできた。
【0031】
表1の各試料は針入度が全て50未満で、負極格子への充填が難しかった。そこで表2に示すように、負極活物質にアルギン酸ナトリウムを含有させると針入度が改善した。アルギン酸ナトリウムを0.05mass%以上含有させると、針入度は実用的な範囲に達し、0.3mass%を越えて含有させると、回生充電受入性能が低下した。回生充電受入性能をさらに高くするには、アルギン酸ナトリウムを0.05mass%以上0.2mass%以下含有させることが好ましい。ビスフェノール系縮合物とポリアクリル酸ナトリウムとを含む試料で、アルギン酸ナトリウムの含有量を増すと、電解液の濁りはさらに減少し、低温ハイレート放電性能が向上し、回生充電受入性能と耐久性能とが低下した。さらに、試料No.45,46のようにビスフェノール系縮合物とポリアクリル酸ナトリウムの含有量を変えても、アルギン酸ナトリウムとの組み合わせで、良い性能が得られた。このため、アルギン酸ナトリウムを含有する試料に対し、表1に示した範囲で、ビスフェノール系縮合物とポリアクリル酸ナトリウムの含有量を変更しても良い。即ち、アルギン酸ナトリウムを0.05mass%以上0.3mass%以下含む試料に対し、ビスフェノール系縮合物の含有量を0.1mass%以上0.9mass%以下、好ましくは0.3mass%以上0.7mass%以下の範囲で変更しても良く、ポリアクリル酸の含有量を0.01mass%以上0.3mass%以下、好ましくは0.05mass%以上0.15mass%以下の範囲で変更しても良い。
【0032】
なおポリアクリル酸を含まず、ビスフェノール系縮合物とアルギン酸ナトリウムとを含む試料でも、電解液中のカーボンブラック濃度を4massppmに留めることができ、液面を実用的に視認できる蓄電池が得られた。
【0033】
ポリアクリル酸をポリグルタミン酸に変えた比較例と、アルギン酸を水に不溶なカルシウム塩に変えた際の結果を示す。ポリグルタミン酸では、カーボンの流出を抑制できず、耐久性能も不足した。アルギン酸カルシウムとポリアクリル酸ナトリウムとの組合せでは、針入度が低すぎ、ポリアクリル酸ナトリウム無しでアルギン酸カルシウムを含有させると、針入度が低く、カーボン流出量も多い。
【0034】
以上のように実施例では、
・負極活物質ペーストの充填性を保ちながら、
・電解液の濁りを僅かにすることにより液面の視認性を高め、
・低温ハイレート放電性能と回生充電受入性能とを従来例と同等以上に保ち、
・しかも充電不足な条件での耐久性能を向上させることができた。
【0035】
またカーボンブラックの電解液への流出は、以下の機構により達成されているものと推定できる。
・アルギン酸及びその塩は針入度を改善すると共に、カーボンブラックを吸着して負極活物質中に固定する作用があり、
・ポリアクリル酸は、カーボンブラックを吸着して負極活物質中に固定する作用が、アルギン酸よりも強く、
・強酸であるビスフェノール系縮合物は、弱酸であるポリアクリル酸を酸型に変換して、負極活物質中に固定する。