(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記四角柱状の単結晶ダイヤモンド基板が、平板状の単結晶ダイヤモンド表面に厚み方向に気相成長させることによって得られた単結晶ダイヤモンド基板である請求項3又は請求項4に記載のダイヤモンド複合体を製造する方法。
前記平板状の単結晶ダイヤモンド基板が、単結晶ダイヤモンドの主面にイオンを注入して内部にイオン注入層を形成し、該主面上に気相合成法により単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させることにより得られた単結晶ダイヤモンド基板である請求項6に記載のダイヤモンド複合体を製造する方法。
請求項3から請求項7のいずれか1項に記載のダイヤモンド複合体を製造する方法により製造されたダイヤモンド複合体を、接合層を境にして分離する、単結晶ダイヤモンドの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて、主面の結晶欠陥が少ない単結晶ダイヤモンド、及び該単結晶ダイヤモンドを含むダイヤモンド複合体とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意探求を重ねた結果、単結晶ダイヤモンドとして、主面表面に転位を引き継がない基板とその作製方法を見出した。すなわち、(100)面を有する基板に厚板を成長させて単結晶ダイヤモンドのバルクを作製した後、縦に分離することが有効であった(
図1参照)。
そしてこの場合において、単純にバルクの単結晶ダイヤモンドを形成するのではなく、各々異なる基板を準備し、その上にダイヤモンドを成長させたり、同一の単結晶基板上に成長する場合は、平行な線状の溝を形成して、それぞれを分離した状態でダイヤモンドの成長を開始したりすることを特徴としている。
【0008】
本発明及び本発明に関連する発明は以下の通りである。
(1)少なくとも、板状の2つ以上の単結晶ダイヤモンドより構成されており、それぞれの単結晶ダイヤモンドが、それぞれの主面間に介在する接合層によって接合されてなることを特徴とするダイヤモンド複合体。
(2)前記接合層が多結晶ダイヤモンドを含むことを特徴とする上記(1)に記載のダイヤモンド複合体。
(3)前記接合層の50%以上が非ダイヤモンドのカーボン層であることを特徴とする上記(1)に記載のダイヤモンド複合体。
(4)前記接合層が、溝あるいは20%以上の空孔を有していることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のダイヤモンド複合体。
(5)前記単結晶ダイヤモンドの主面に平行な方向に単結晶ダイヤモンドを切断した断面における走査型電子顕微鏡像、カソードルミネッセンス像、又はフォトルミネッセンス像に縞模様が確認されることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のダイヤモンド複合体。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のダイヤモンド複合体から接合層を境にして分離されたことを特徴とする単結晶ダイヤモンド。
(7)前記単結晶ダイヤモンドが、放電加工、電気化学的エッチング、あるいは物理的振動により分離されたものであることを特徴とする上記(6)に記載の単結晶ダイヤモンド。
(8)前記単結晶ダイヤモンドの主面がオフ角10°以内の(100)面方位であることを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の単結晶ダイヤモンド。
(9)前記単結晶ダイヤモンドの主面がオフ角10°以内の(110)面方位であることを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の単結晶ダイヤモンド。
(10)少なくとも2以上の四角柱状の単結晶ダイヤモンド基板を、長手方向の側面同士が向かい合うように並べる工程と、
該基板上に気相合成法によりダイヤモンドをエピタキシャル成長させる工程と、
を含み、
前記並べた単結晶ダイヤモンド基板の表面の短い辺の長さよりも厚くダイヤモンドを形成することを特徴とする上記(1)に記載のダイヤモンド複合体を製造する方法。
(11)前記四角柱状の単結晶ダイヤモンド基板が、平板状の単結晶ダイヤモンド表面に厚み方向に気相成長させることによって得られた単結晶ダイヤモンド基板であることを特徴とする上記(10)に記載のダイヤモンド複合体の製造する方法。
(12)平板状の単結晶ダイヤモンド基板の主面に、少なくとも2以上の平行な線状の溝を形成する工程と、
該基板上に気相合成法によってダイヤモンドをエピタキシャル成長させる工程と、
前記単結晶ダイヤモンド基板を切り離す工程と、
を含むことを特徴とする上記(1)に記載のダイヤモンド複合体を製造する方法。
(13)前記平板状の単結晶ダイヤモンド基板が、単結晶ダイヤモンドの主面にイオンを注入して内部にイオン注入層を形成し、該主面上に気相合成法により単結晶ダイヤモンドをエピタキシャル成長させることにより得られた単結晶ダイヤモンド基板であることを特徴とする上記(12)に記載のダイヤモンド複合体の製造する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、主面の結晶欠陥が少ない単結晶ダイヤモンド、及び該単結晶ダイヤモンドを含むダイヤモンド複合体を安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るダイヤモンド複合体は、少なくとも、板状の2つ以上の単結晶ダイヤモンドより構成されており、それぞれの単結晶ダイヤモンドが、それぞれの主面間に介在する接合層によって接合されてなることを特徴とする。そして、かかるダイヤモンド複合体から接合層を境にして各々の単結晶ダイヤモンドを分離することにより、本発明の単結晶ダイヤモンドを得ることができる。ダイヤモンド複合体から分離した本発明の単結晶ダイヤモンドは、主面を容易に研磨することができ、また結晶欠陥も非常に少ないものである。
【0012】
上記本発明のダイヤモンド複合体は、例えば、少なくとも2以上の四角柱状の単結晶ダイヤモンド基板を、長手方向に平行な側面同士が向かい合うように並べる工程と、該基板上に気相合成法によりダイヤモンドをエピタキシャル成長させる工程と、を含み、前記並べた単結晶ダイヤモンド基板の表面の短い辺の長さよりも厚くダイヤモンドを形成することを特徴とするダイヤモンド複合体の製造方法により作製することができる。
また、平板状の単結晶ダイヤモンド基板の主面に、少なくとも2以上の平行な線状の溝を形成する工程と、該基板上に気相合成法によってダイヤモンドをエピタキシャル成長させる工程と、前記単結晶ダイヤモンド基板を切り離す工程と、を含むことを特徴とするダイヤモンド複合体の製造方法によっても作製することができる。
なお、単結晶ダイヤモンド基板の主面に、少なくとも2以上の平行な線状の溝を形成する場合において、線状の溝は厳密に平行である必要はなく、巨視的に観て略平行であればよい。例えば、レーザー加工により溝を形成する場合には、ミクロにみると、線の直線性は揺らいでいる。また、フォトリソグラフィーを使って溝を形成することもでき、この場合には、マスクの精度にもよるが、かなり高精度の直線性を有する溝を形成することができる。
【0013】
上記のように、本発明のダイヤモンド複合体を製造する方法においては、複数の単結晶ダイヤモンド基板を並べたり、平板状の単結晶ダイヤモンド基板の主面に複数の平行な線状の溝を形成したりすることによって、気相合成法により単結晶ダイヤモンドを成長させる際に、ダイヤモンドが成長し始める部分を分離して独立させる方法を採用している。
【0014】
上記の製造方法においては、溝もしくは離れている基板同士の隙間部分には、多結晶ダイヤモンド、非ダイヤモンド相、あるいはグラファイト等を含む接合層が形成されることが重要である。そのためには、並べる基板同士は、50μm以上、さらに好ましくは100μm以上離れている方が、このような状況を作製しやすく好ましい。
また、なるべく早く、隣り合う単結晶ダイヤモンド同士が接合層を介して接合されなければならない。このためには、基板同士を500μm以下、更に好ましくは300μm以下の間隔で並べることが好ましい。すなわち、並べる基板同士の間隔は、50μm〜500μmであることが好ましく、100μm〜300μmであることが更に好ましい。
【0015】
なお、並べる基板の高さが揃っていて、隣り合う基板の高さの差が30μm未満の場合には、基板同士をより離して、間隔を100μm以上とすることが好ましい。これは、並べる基板同士の高さが揃っていると、単結晶ダイヤモンドの成長に応じて、隙間部分が単結晶ダイヤモンドで埋められてしまうことが多いからである。
また、隣り合う基板同士の高さの差が30μm以上ある場合には、基板同士を近づけて間隔をより小さくすることができ、上記のように50μm以上とすればよく、更には、隙間がなくとも、本発明の複合体を製造することができる合成条件がある。具体的には、隙間が存在するときは、好ましくは成長パラメータ(α)が2〜3の範囲で成長させ、ある一定の成長の後、成長パラメータを2.8以上で成長させることがうまくいく条件となり、隙間が存在せず、隣り合う基板同士の高さも30μm以上と揃っていない場合は成長パラメータが2.8以上の条件で成長させれば、本発明のダイヤモンド複合体が得られる確率が高い。
【0016】
また、1つの基板上に2以上の平行な線状の溝を形成する場合においては、該溝の幅を100μm〜600μmとすることが好ましく、200μm〜400μmとすることがより好ましい。これは、溝が同一基板上に形成されるため、単結晶ダイヤモンドが成長する部分の高さが揃っており、更には、方位も揃ってしまっているからである。この場合には、単結晶ダイヤモンドが成長する部分同士の隙間が小さすぎると、当該隙間が単結晶ダイヤモンドで埋まってしまい、本発明のダイヤモンド複合体を得ることが難しくなるからである。
【0017】
また、溝の幅もしくは基板同士の間隔が同じであっても、形成される単結晶ダイヤモンド同士の界面が単結晶ダイヤモンドで全てきれいに接合されてしまう場合がある。これは、溝の側面もしくは隣同士の基板のオフ角が1°以内にきれいに揃っている場合であり、合成条件が、単結晶ダイヤモンド基板の側面にきれいに単結晶ダイヤモンドが成長する条件の場合に主に発生してしまう。側面に多結晶ダイヤモンドが成長しやすい条件では接合面は本発明の接合状態となる。
【0018】
気相合成法により単結晶ダイヤモンドを成長させる際には、成長パラメータを3以上に維持することで、分離した複数の下地基板から、それぞれ、基板の主面の結晶状態を引き継いでダイヤモンドが成長し、お互いに接合することがない条件となる。このような成長をすることによって、成長した単結晶ダイヤモンドの主面同士が接合層を介して接合したダイヤモンド複合体が形成される。
本発明に係るダイヤモンド複合体において接合層は、多結晶ダイヤモンド、50%以上の非ダイヤモンドのカーボン層の場合と、それぞれにランダムに空孔を含む場合もある。空孔は20%以上の場合もあり、溝になっている場合もある。そして、多結晶ダイヤモンド及び/又は非ダイヤモンド炭素(グラファイトを含む)を含む接合層を介して接合した単結晶ダイヤモンド同士は、いずれもが、ゆるい接合であるため、単結晶ダイヤモンド同士を物理的に容易に切り離すことができる。
【0019】
本発明のダイヤモンド複合体および単結晶ダイヤモンドは、その製造方法から転位などの欠陥を主面とは平行の方向に伸長し、主面表面の方に貫く転位などの欠陥を低減するものである(
図2、
図3参照)。そして、この製造方法は例えば以下の効果も発揮する。
【0020】
まず一つ目は、単結晶ダイヤモンドをエピタキシャルに成長する場合には単結晶ダイヤモンド基板を必要とするが、大型の単結晶ダイヤモンドを作製する場合には、一般的に同程度の大きさの大型の単結晶ダイヤモンド基板を必要とする。しかしながら、本発明の方法は大型の基板を必要とするわけではない。
【0021】
例えば、0.8mm×3mmの基板を用意して、該基板上に3mm厚さ成長させれば、3mm×3mmの面積の基板を形成することができるからである。極端には0.8mm×0.8mmから8mm厚さに成長させて、0.8mm×0.8mm×8mmの基板を得て、それを基板として並べて8mm厚さに成長させて、0.8mm×8mm×8mmの基板を得ることができるので、8mm×8mmの大型の基板を得るために、種基板として、0.8mm×0.8mmの種基板を準備することで済むという効果がある。本発明の製造方法においては、基板を2枚以上用意して、隙間を1つ以上形成すればよいが、基板の枚数が多ければ多いほど効率があがる。好ましくは基板の枚数は9個以上であり、更に好ましくは16個以上である。
【0022】
また2つ目として、種基板を切り離す場合、8mm角の基板から主面に成長した板を分離する場合は、従来はレーザー切断などでは非常に困難であり、イオン注入して剥離するスマートカットのような手法を必要とし、コストも高くなるが、本発明は大型基板の端面を切り離すだけなので、レーザーカットで十分可能でほとんどコスト高につながらないという効果がある。
【0023】
さらに3つ目として、ダイヤモンド合成装置に充填できる枚数が、数段に多くなる。すなわち、例えば16mm角の面積に、8mm角で0.8mmtの基板は主面を上面にすると4枚しか置けないが、主面を横にしておくと、約20枚置けるという効果がある。
【0024】
(実施形態1)
実施形態1として、本発明の複合体ダイヤモンド及び単結晶ダイヤモンドを作製した。
図4にその手順の概略を示す。
まず、基板として単結晶ダイヤモンドを準備する。単結晶ダイヤモンドは、天然ダイヤモンド、あるいは高圧合成法により形成されたダイヤモンド、あるいは気相合成法により形成されたダイヤモンドのいずれの単結晶ダイヤモンドであっても良い。
四角柱状の基板は複数個用意され、それぞれほぼ柱状あるいは板状の形状をしていることが好ましい。基板の表面は平坦研磨されている。基板の表面は(100)面である。
【0025】
これらの基板を、長手方向に平行側面がそれぞれ向かい合うようにして、ダイヤモンドの合成装置に並べる。このとき、隣り合う基板同士の高さの差が30μm未満である場合には、100〜600μmの隙間を開けて並べることが好ましい。より好ましくは、200〜400μmの隙間である。また、隣り合う基板同士の高さの差が30μm以上の場合には、50〜500μmの隙間を開けることが好ましく、100〜300μmの隙間を開けることがより好ましい。ここで、隙間とは、後述するように基板の側面同士が平行ではない場合には、基板の当該側面の平行な上辺同士の間の隙間のことをいう。
この隙間は非常に重要で、100μm未満又は50μm未満になるように近づけると、本発明のダイヤモンド複合体の作製がうまくいかないことが多い。100μm未満又は50μm未満になるとダイヤモンドの合成中にそれぞれの基板から成長したダイヤモンドが単結晶のまま接合し、ダイヤモンド複合体ではなく、一つの単結晶ダイヤモンドとなってしまうからであり、本発明の主旨に沿わなくなるからである。
【0026】
個々の基板の断面は厳密には正方形あるいは長方形ではない方が良い。基板の断面において、基板の上辺よりも下辺の長さが長い台形をしている方が好ましい。これは、基板の下辺を接触させて並べた場合に、基板の上辺同士に隙間が開くこととなり、好都合だからである。
このような形状はレーザーカットを垂直に行うと、自然に発生するので、特に難しいことではないが、基板の上辺同士の隙間を最適値に設定する場合は、レーザー切断の条件や基板の厚みなどを調整する必要があるので、予め設計しておくことが好ましい。
【0027】
基板の装置への設置を完了した後に、ダイヤモンドを気相合成法で成長させる。
この際には、初期(2h〜10hまで)には成長パラメータが2.8以上の条件で成長させること、その後(2h〜10h以降)は成長パラメータが3以上の条件で成長させることが肝要である。このようにして成長したダイヤモンドは、隣の基板から成長した単結晶ダイヤモンドとの間にわずかな隙間が生じたまま成長し、その隙間が埋まることがなかった。
【0028】
上記のように、隣り合う基板から成長した単結晶ダイヤモンドの間には隙間が生じているが、全く空洞と言うわけではなく、さらに奥の方から多結晶ダイヤモンドが成長していたり、グラファイトが析出していたりして、隙間を埋める多結晶ダイヤモンド、あるいは非ダイヤモンド炭素の接合層があった。これは、成長パラメータが3以上の成長をしているので、隙間の、(100)面以外の面は周辺の(100)面よりも遅い成長であるので、成長が追いつかず、溝になるためである。また、溝になっているために空孔を含んだりするが、空孔の位置や大きさはランダムであり、制御することは困難であるが、それでも特に問題はない。
【0029】
基板から成長する単結晶ダイヤモンドの厚さ(高さ)は2mm以上に成長させることができるが、2mm以上になるとホルダーとの位置関係を設定し直す必要がある。すなわち成長に伴ってダイヤモンドがホルダーよりも上部に突出するので、突出部ができないように、成長したダイヤモンドを低く設定し直すか、あるいはホルダーを突出するかする必要がある。成長とともに自動的に高さを下げるような制御を行っても良いし、定期的に手動でホルダーを組み直しても良い。ホルダーの工夫次第で、50mmの厚さまでもダイヤモンドを成長させることができる。
【0030】
形成したダイヤモンドは、単結晶ダイヤモンドの主面同士が、多結晶あるいはsp2結合を部分的に含むダイヤモンドあるいは非ダイヤモンド炭素を含む接合層を介して接合した複合体であった。設置した基板の枚数と同じ枚数の単結晶ダイヤモンドの主面同士が接合層を介して接合しており、2枚の基板を設置した場合は、単結晶ダイヤモンドと単結晶ダイヤモンドの間に多結晶ダイヤモンドあるいはsp2結合を一部に含むダイヤモンドあるいは非ダイヤモンド炭素を含む接合層を挟んで接合したダイヤモンド複合体であった。
【0031】
このような、単結晶ダイヤモンドの間に、多結晶(結晶面方位のランダムな多結晶)ダイヤモンドあるいは非ダイヤモンド炭素を含む接合層を挟んだ構造のダイヤモンド複合体は、本発明の製造方法以外には形成することが不可能である。従来の、基板の主面と目的のダイヤモンドの主面の方向とが平行になるように成長させる方法でこれを行うと、単結晶ダイヤモンド上には多結晶ダイヤモンドが形成できるが、多結晶上には単結晶ダイヤモンドができないからである。
【0032】
また、本発明の単結晶ダイヤモンドは主面となる面の方向と平行な方向に成長したことを形成後に確認することもできる。その方法は例えば、主面に平行な方向に単結晶ダイヤモンドを切断したとき、その断面において、走査型電子顕微鏡像あるいはカソードルミネッセンス像あるいはフォトルミネッセンス像を観察することで縞模様が確認でき、成長の方向を知ることができる。
【0033】
このようなサンドイッチ構造のダイヤモンド複合体は、表面部は単結晶ダイヤモンドであるため、ヘキ開のしがたいダイヤモンドとして利用できる。例として工具などに利用できる。
サンドイッチ構造のダイヤモンド複合体は、その単結晶ダイヤモンド同士の境界(接合層部分)で分離することができる。ほとんどsp2結合を含む非ダイヤモンド炭素が支配的な接合層を介して接合している場合は、機械的に力を加えることにより接合部分で分離することができる。また、sp2結合を含む非ダイヤモンド炭素が支配的な層であるならば、他にも電気化学的にエッチングする方法で剥離することも可能である。接合層に多結晶ダイヤモンド成分が多い場合は、レーザー切断が有効である。
接合層部分は一般的に黒い色をしているが、これはsp2結合を含む層を少なからず含んでいることを示している。
【0034】
以上のように単結晶ダイヤモンドを分離した場合、分離面(主面となる面)は十分に平坦でない場合が多いので、研磨によって平坦化することが有効である。分離面に残っている接合層の部分は、十分に純粋な多結晶ダイヤモンドではないので、研磨もそれほど困難ではない。
【0035】
このようにして分離した単結晶ダイヤモンドは主面が(100)面の場合と、主面が(110)面の場合を作製することができる。そして、基板のオフ角を調整しておけば、得られる単結晶ダイヤモンドのオフ角も10°以内にすることもできる。また、他にも(001)面に垂直な面であれば、(210)面、(310)面など種々の面が可能である。
このようにCVD法による単結晶ダイヤモンドの合成で種々の面を主面とするような単結晶ダイヤモンドの合成を可能にすることはこれまでの方法ではありえないことであった。
【0036】
さらに、転位等の結晶欠陥が極力表面にでていない単結晶ダイヤモンドを作製することもできた。これは、転位の多い種基板を利用して、該基板の主面上に結晶成長させる方法では得られないことである。
【0037】
(実施形態2)
実施形態2として、実施形態1とは異なる方法により本発明の複合体ダイヤモンド及び単結晶ダイヤモンドを作製した。
図5にその手順の概略を示す。
基板として、(100)面方位を主面とする単結晶ダイヤモンドを準備する。単結晶ダイヤモンドは、天然ダイヤモンド、あるいは高圧合成法により形成されたダイヤモンド、あるいは気相合成法により形成されたダイヤモンドのいずれの単結晶ダイヤモンドであっても良い。
大型の単結晶ダイヤモンド基板を1枚用意し、カーボンイオンをイオン注入した。単結晶ダイヤモンド基板はイオン注入の影響で黒くなった。その基板上にCVD法によりダイヤモンドを合成し、その後、合成された単結晶ダイヤモンドの表面にレーザーで複数の平行な線状の溝を形成した。
【0038】
溝の深さは深いほど良いが、CVD法により合成した層以上に深くしない方が好ましい。また、溝の隙間(幅)は100μm〜600μmがよく、さらには200μm〜400μmが好ましい。溝の隙間は大きすぎても、小さすぎてもよくない。隙間が1mm以上と大きくなると、合成に用いているマイクロ波の出力が個々の溝のエッジに集中して、その部分に非ダイヤモンド炭素成分が生成されやすくなり、放電が安定して継続しなくなる。
【0039】
隙間が充分に大きくても、溝の深さが浅いとダイヤモンドの合成中に溝が埋まってしまうため好ましくない。溝の深さは、溝の隙間以上あるいはその2倍以上深いことが好ましい。一方、隙間が小さすぎると、途中までの合成で溝が埋まってしまう可能性があるため好ましくない。溝が埋まってしまうと、隣り合う単結晶ダイヤモンド同士が成長により接合層を介さずに単結晶ダイヤモンドとして接合してしまい、本発明のダイヤモンド複合体や単結晶ダイヤモンドは得られない。
【0040】
十分な厚みにダイヤモンドを合成した後に、周囲をレーザーで切断し、イオン注入層を端面に露出させて、イオン注入層部分を電気化学的にエッチングした。これにより、もともとの大型の単結晶ダイヤモンド基板と、溝が入ったまま成長したCVD単結晶層が分離した。もともとの大型の単結晶ダイヤモンド基板はそのまま大型の基板として再利用できるし、CVD合成して得られた部分はダイヤモンド複合体であり、実施形態1と同じ方法で分離して複数の単結晶ダイヤモンドとしてもよい。実施形態1と同じようにするためには、イオン注入をした部分の上部の、最初にCVD合成した単結晶ダイヤモンドの部分をレーザーで除去しておくことが好ましい。
ダイヤモンド複合体や、分離した単結晶ダイヤモンドの利用の方法は実施形態1と同様であり、特徴なども実施形態1と同様である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
図6に示す手順により本発明のダイヤモンド複合体、及び単結晶ダイヤモンドを作製した。
基板として、0.6mm×6mm×1mmtおよび0.8mm×5mm×0.6mmtの直方体(6mm長の基板と5mm長の基板と称する)の、高圧合成法により作製された単結晶ダイヤモンドを9枚用意した。0.6×6mmの片面と、0.8×5mmの片面を研磨して平坦面にした。
表面はほぼ(100)面であった。側面はレーザーカットのままの面である。側面は、ほぼ(100)面の基板と、(110)面の基板を用意した。
【0042】
上記の同じサイズ、面方位の単結晶ダイヤモンド基板を、長手方向に平行な方向の側面同士の隙間が100μm〜600μmになるようにして、気相合成装置のホルダー上に並べ、気相合成法によりダイヤモンドを合成した。隣り合う基板同士の高さの差は、それぞれ30μm未満であった。
ダイヤモンドの合成は、メタンガスがメタンガス/水素ガス比で9%となるようにガスを導入し、窒素ガスも窒素/メタンガス比で1000ppmとなるようにし、マイクロ波パワー6kW、全圧力100Torrの条件で行った。それぞれのサイズの種基板に対して、それぞれ厚さが3mmおよび6mmまで合成を行い、いずれも一塊のダイヤモンド複合体を得た。
【0043】
複合体は、6mm長の種基板からは、一つは6mm×3mmの主面を有し、厚さ0.6mmtの単結晶ダイヤモンドが縦に並んで接合している構造のものが得られた。もう一つは、6mm×6mmの主面を有し、厚さ0.6mmtの単結晶ダイヤモンドが縦に並んで接合している構造となった。
5mm長の種基板からは、5mm×3mmの主面で0.8mmtの厚さの単結晶ダイヤモンド基板が並んだダイヤモンド複合体と、5mm×6mmの主面で0.8mmtの厚さの単結晶ダイヤモンドが並んだダイヤモンド複合体ができた。
【0044】
それぞれのダイヤモンド複合体で、単結晶ダイヤモンド同士は多結晶ダイヤモンドあるいは非ダイヤモンドを含むカーボン層を含む接合層を介して接合されていたが、その接合層に楔形状の刃を当てて軽く叩くと、単結晶ダイヤモンドの面が分離できた。また、熱混酸の液体中で煮沸し、超音波に掛けることによっても分離できた。さらには、純水中で600V以上の電圧をかけて放置すると、単結晶ダイヤモンド同士を接合していた部分の一部が除去され、容易に分離することができた。
もともとの種結晶基板は、ダイヤモンド複合体から分離した単結晶ダイヤモンドの端面にしっかり接合しており、上記の処理によってこれが外れることはなかったので、レーザーでカットした。カットされた元の種基板は、接合していた面を研磨して再度同じような種基板として再利用できた。
【0045】
上記の小さな種基板(例えば0.6mm×6mm×1mmt)から大きな主面を有する基板(6mm×6mm×0.6mmt)が得られた。介在する接合層を境にして分離しない単結晶ダイヤモンド基板を複数枚有するダイヤモンド複合体も得ることができた(例えば6mm×6mm×1.4mmt)。分離された単結晶ダイヤモンド基板の表面は荒れていたので、両面を研磨してきれいな単結晶ダイヤモンドを得た。
【0046】
作製された単結晶ダイヤモンドのエッチピットを確認すると、種基板のエッチピット密度が10
5cm
−2に対して、10
2cm
−2以下であった。エッチピットは種基板の接合していた辺から離れた方がより少ない傾向があった。10
3〜10
4cm
−2のエッチピット密度の小さい種基板を用いると作製された単結晶ダイヤモンドのエッチピットは更に少なく、10個以下となった。
【0047】
使用した直方体状(四角柱状)の単結晶ダイヤモンド種基板の側面が(110)面の場合は、作製された単結晶ダイヤモンドの主面は(110)面となり、種基板の側面が(100)面の場合は主面を(100)面とすることができた。同じように(210)面や(310)面などが主面となる単結晶ダイヤモンドも作製することができた。
【0048】
本発明のダイヤモンド複合体の製造方法で、初期の種基板の隙間を精度よく、50μmとした場合、上面に形成されたエピタキシャルダイヤモンドは隙間を埋めて上面に成長し、一体の基板となったので、単結晶ダイヤモンドの主面が接合層を介して縦に並んだ構造とはならず、上述の処理で単結晶ダイヤモンドを分離することも容易ではなかった。6mm×3mm×0.8mmtの単結晶ダイヤモンドが複数できるはずの複合体において、レーザーで無理やり分離した。
比較として、レーザーで無理やり分離したダイヤモンド基板を研磨し、主面のエッチピットを観察したところ、もとの種基板(10
5cm
−2)よりは少なくなっていた(10
4cm
−2)が、本発明の単結晶ダイヤモンドほどではなかった。
【0049】
初期の種基板の隙間が、80μmや90μmの場合、隙間なく接合する部分があったり、隙間がうまく形成される部分があったりしたが、全体として本発明のダイヤモンド複合体とはならなかった。また、反対に種基板同士の隙間を1mmより大きくした場合には、ダイヤモンドが成長してゆくにつれて端面の盛り上がりが大きくなり、放電が集中したり、多結晶の析出物が集中的に形成されたりして、やはり本発明のダイヤモンド複合体は形成されなかった。
【0050】
種基板同士の隙間が600μmより大きく、1mm以下の場合には、やはり途中までは成長するが、個々の単結晶ダイヤモンドは接合することなく、ばらばらのままであったので、やはり本発明の複合体を形成することはなかった。複合体を形成するようにさらに長時間形成を継続すると、個々の基板からの単結晶ダイヤモンドの成長に個別差が生じ、先の多結晶の析出物ができたり、接合しても境界を乗り越えて多結晶が成長したりして、やはり本発明の複合体は形成できなかった。
【0051】
[実施例2]
図7に示す手順により本発明のダイヤモンド複合体、及び単結晶ダイヤモンドを作製した。
実施例1とは異なり、6mm角の単結晶ダイヤモンド基板を用意して、該基板にイオン注入を行った。条件はカーボンイオンを250keVあるいは3MeVとした。ドーズ量は1×10
16cm
−2である。
イオン注入後、気相合成法で基板上にダイヤモンドを合成した。合成条件は実施例1と同じである。ほぼ600μmの厚さに形成した。
次に、気相成長した面にレーザーで、200μm幅、400μm深さの溝を0.8mm間隔で形成した。その後、気相合成法で実施例1と同じ条件でダイヤモンドをエピタキシャルに成長した。厚さは約6mm形成した。
【0052】
溝の部分には多結晶ダイヤモンドあるいは非ダイヤモンド成分の含まれるカーボン層が形成していた。周辺をレーザーでカットし、イオン注入層を端面に露出し、イオン注入層を電気化学的にエッチングすると、種基板と気相合成法により合成した単結晶ダイヤモンド部分が分離した。気相合成法による単結晶ダイヤモンド部分の根元の部分は隙間のない1枚の単結晶ダイヤであったので、根元の裏の方から接合層の方へとレーザーで切れ目を入れた後、縦に並んだ単結晶ダイヤモンド板の分離を実施例1と同じ方法で行った。
実施例1と同様に複数の単結晶ダイヤモンドが複合体から分離され、主面を研磨することできれいな単結晶ダイヤモンドが形成できた。エッチピットを確認すると、分離された単結晶ダイヤモンド基板は種結晶基板よりも2桁ほど低い値となった。
【0053】
分離された単結晶ダイヤモンドを分断し、断面を研磨してカソードルミネッセンスで観察すると主面に垂直に縞模様が観察された。これは成長の年輪のようなものであり、主面に平行方向に成長していることが確認できた。
【0054】
また、実施例1では複数枚の種基板を個別に用意したので、面方位は厳密には一致はしていなかったが、実施例2では同じ種基板から、結果として複数枚の単結晶ダイヤモンドを作製したので、面方位が個々の単結晶ダイヤモンドで揃っていた。オフさせた基板だと、同じように単結晶ダイヤモンドの主面がオフすることが分かった。
種基板の側面を(100)面としたり、(110)面としたりすると、作製された単結晶ダイヤモンドの主面が(100)面となったり、(110)面となったりすることも同様であった。