【文献】
北條英次,中山恭秀,大崎信,塩田匡史,細川正明,竹内泰輔,加藤英一郎,高信頼性・高性能をそなえた二輪車用制御弁式鉛蓄電池−接続利便性新端子付き高クランキング性能のGYZ20HL形電池―,GS YUASA Technical Report,日本,株式会社 ジーエス・ユアサ コーポレーション 研究開発センター GS YUASA Technical Report編集委員会,2009年12月25日,第6巻 第2号,p.39-46,URL,https://www.gs-yuasa.com/jp/technic/vol6_2/pdf/006_02_039.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記端子部の前記空洞は、前記ナットの挿入方向に長尺であり、前記端子部の前記空洞の前記ナット挿入口からみて奥まった位置に前記ナットを配置することを特徴とする請求項3に記載の蓄電池用端子部。
【背景技術】
【0002】
二輪車用鉛蓄電池の端子構造には、樹脂巻き端子が多く用いられている。
従来の樹脂巻き端子として、
図14に示されるようなものが公知である(特許文献1参照)。
図14において、11は直方体からなる端子部、12は円柱形の極柱部、13は板状の台座、14はポリプロピレンやポリエチレンなどからなる樹脂部であり、端子部11は下端が極柱部12の上端と一体に連結され、極柱部12は下端が台座13の上端と一体に連結されている。前記端子部11は、
図14の手前側面から奥の側面に向かって貫通するナット挿入孔11aが穿たれており、該孔11aに向かって天面と左側面からボルト挿入孔11b,11cが穿たれている。前記極柱部12は、周面の最上部に円形のばり切り用鍔12aが形成され、この下に間隔をおいて前記ばり切り用鍔12aの半径より小さい3条の鍔12b,12c,12dが形成されている。前記ばり切り用鍔12aは、周面が前記端子部11の下端周囲より水平方向に突出するようになっている。前記樹脂部14は、前記ばり切り用鍔12aと前記鍔12b,12c,12dとを包み込むように極柱部12の周囲に形成され、鍔12aの上端から外側に少し延び、上方に立ち上がって、前記端子部11の下部周面を溝15を介して覆っている。
【0003】
そして、上記のような鉛蓄電池の樹脂巻き端子の端子部11は、従来、顧客がナット挿入孔11aに直方体のナットを挿入した後、天面と左側面に形成されたボルト挿入孔11b又は11cからボルトを挿入し、螺合させている。そのため、顧客がナットを小さな端子部の空洞に入れようとして、ナットを落下させる場合があるという問題があった。
また、特許文献1に記載されているようなナットは、ネジ孔が一つであり、天面と左側面に形成されたボルト挿入孔11b,11cのいずれか一方からしかボルトが挿入できないため、外部リード線を接続したい方のボルト挿入孔とナットのネジ孔とが一致するように、その都度ナットの向きを変更する必要があり、外部リード線を2箇所同時に接続できなかった。
【0004】
一方、端子に予めナットを固定した鉛蓄電池については、「鉛蓄電池本体と、この鉛蓄電池本体に固定され、かつ、一面にナット挿入口が開放され、この一面以外の他の面のうちの少なくとも一面にボルト挿通孔が開けられている中空の箱形端子と、この箱形端子の内寸よりも僅かに小さい外寸に形成されているとともに、前記ボルト挿通孔の一つに対向する雌ねじ孔を有し、かつ、この雌ねじ孔と前記ボルト挿通孔とが対向する姿勢を保持して前記箱形端子内に前記ナット挿入口を通して収容されたナットと、前記ナット挿入口の少なくとも一部を塞いで鉛蓄電池本体の蓋部に設けられたナット外れ止めとを具備していることを特徴とする鉛蓄電池。」の発明が公知である(特許文献2参照)。しかし、この発明は、端子にナットを固定するために、ナット挿入口の一部を塞ぐ手段を別途設けなければならないという問題があった。
また、特許文献2には、「箱形端子4に設けられているボルト挿通孔9は、前述した箱形端子4の手前側端面だけではなく、上面や、あるいは背面などに複数個もうけても構わない。これにより、1種類の形状の箱形端子4、およびこの箱形端子4内にナット6を収納する際の向きに応じて、端子部3a,3bに接続されるリード線の取り付ける向きを複数の向きに設けることができる。」(段落[0023])と記載されているが、
図2に示されるように、ナット6は、雌ねじ孔10が一つであるから、リード線を2箇所同時に取り付けることができなかった。
【0005】
また、「蓄電池用端子金具」の登録意匠(非特許文献1参照)が公知であり、この意匠に係る物品の説明には、「本願の意匠に係る物品は、蓄電池用の端子金具である。略直方体状の端子部分に2個の円形貫通孔を上面と前面に位置をずらして設け、底面部に略『U』字状の突起を設けた構成態様に特徴がある。」と記載されている。
【0006】
そして、非特許文献2には、上記のような略直方体状の端子部分に2個の円形貫通孔(穴)を上面と前面に位置をずらして設けた蓄電池用端子の空洞にナットを固定することが示され、「端子の利便性および機能性を向上させるために、ハーネスを、その端子の上面と前面の2箇所同時に取り付けることができるようにした。その手段とて、Fig.3に示すような鉛ブッシング端子形状とし、ナットの穴位置は、現行電池と互換性を持たせるよう設計した。また、端子は、現行電池と比較して横幅を3.5mmまたは4.5mm大きくし、上面と前面の穴軸を6.5mmずらすことによって端子の中で両穴が交差することなく、Fig.4に示すように、ハーネスを2箇所同時に固定できるように設計した。」(第43頁右欄第2行〜第11行)、「ナットは、電池製造工程内で端子内に固定するために、新規に開発した特殊な鉛ブッシング端子に挿入し、ふたの樹脂成形時に端子内に固定できる技術を構築した。そのことにより、GYZ20HL電池の端子へのナット挿入口を下にして、電池を横転させた場合においても、端子からナットが落下しない(Fig.6参照)。」(第45頁左欄第6行〜11行)と記載されているが、ナットの固定方法については具体的に記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、端子部にナットを簡便に、かつ、確実に固定することができ、ナットが落下しないような蓄電池用端子部、また、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、端子部にナットが固定されていても、上面若しくは前面のいずれか1箇所、又は2箇所以上を同時に選択してナットにボルトを挿入することができるような蓄電池用端子部、及びこのような端子部を備えた蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)異なる及び/又は同一
の方向から穿たれた複数のボルト挿入孔と、前記異なる及び/又は同一
の方向と少なくとも1つが一致する方向にネジ切りされた少なくとも1個のネジ孔を有するナットが挿入されるナット挿入口と、前記ボルト挿入孔及び前記ナット挿入口と連通する空洞と、を有する蓄電池用端子部であって、
前記端子部は鉛合金製であり、
前記ナットが前記ナット挿入口から前記空洞に挿入されており、前記ナットの少なくとも1個のネジ孔が前記複数のボルト挿入孔の少なくとも1個とそれぞれ連通した状態で、前記端子部
が変形
した突出部により前記ナット
が固定
されている固定部を有することを特徴とする蓄電池用端子部。
(2)前記固定部は、前記端子部内面の前記空洞に面した部分に前記空洞方向に突出する突出部で
形成されていることを特徴とする前記(1)の蓄電池用端子部。
(3)前記固定部は
、前記ナット挿入口を狭くした部分
で形成されていることを特徴とする前記(1)又は(2)の蓄電池用端子部。
(4)前記端子部の前記空洞は、前記ナットの挿入方向に長尺であり、前記端子部の前記空洞の前記ナット挿入口からみて奥まった位置に前記ナットを配置することを特徴とする前記(3)の蓄電池用端子部。
(5)前記固定部は
、前記端子部の側壁又は天井に窪みを設けた部分
で形成されていることを特徴とする前記(1)又は(2)の蓄電池用端子部。
(6)前記複数のボルト挿入孔は、前記端子部の前記空洞で交差しないような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、前記
ネジ孔を複数有するとともに、該各ネジ孔が互いに交差しないような位置に形成されていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項の蓄電池用端子部。
(7)前記複数のボルト挿入孔は、前記端子部の前記空洞で交差するような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、前記
ネジ孔を複数有するとともに、該各ネジ孔が互いに交差するような位置に形成されていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1項の蓄電池用端子部。
【0011】
ここで、「異なる方向」とは、通常採用されている直方体状の端子部、ナットにおいては、例えば、「上面から下面」の方向及び「前面から背面」の方向であり、「同一の方向」とは、上記の何れか1つの方向である。また、「異なる及び/又は同一の複数の方向から穿たれた複数のボルト挿入孔」とは、例えば、「上面から下面」の方向に1個及び「前面から背面」の方向に1個以上、「上面から下面」の方向に1個以上及び「前面から背面」の方向に1個、上面から下面」の方向及び「前面から背面」の方向にそれぞれ2個以上、又は、「上面から下面」の方向若しくは「前面から背面」の方向に2個以上、ボルト挿入孔が穿たれたものを意味する。「前記異なる及び/又は同一の複数の方向と少なくとも1つが一致する方向にネジ切りされた少なくとも1個のネジ孔を有するナット」とは、例えば、「上面から下面」の方向に少なくとも1個(「前面から背面」の方向には0)、「前面から背面」の方向に少なくとも1個(「上面から下面」の方向には0)、又は、「上面から下面」の方向及び「前面から背面」の方向にそれぞれ少なくとも1個、ナットがネジ孔を有するものを意味する。「異なる又は同一の複数の方向」は、上記の方向に限定されるものではなく、「右(左)側面から左(右)側面」の方向も含まれる。また、「複数」は多数を意味するものではないから、通常、2〜10個であり、好ましくは、2〜4個である。「少なくとも1個」は、1個又は上記の「複数」に対応した数であり、少なくとも2個であることが好ましい。
本願明細書において、「上面」及び「下面」というときには、水平面に限定されず、「前面」及び「背面」というときには、垂直面に限定されず、それぞれ、傾斜したもの、位置がずれたものも含まれる。
また、端子部、ナットの形状は、上記の直方体状に限らず、三角柱、三角錐、五角柱などでもよく、要は、2つ以上の方向からボルトを締めることが可能な構成であれば、形状に依存しない。
【0012】
本発明において、「ナットを固定」とは、端子部のナット挿入口を下に向けてもナットが落下しない状態を意味し、ナットが端子部に動かない状態で固定されている場合だけではなく、ナットと端子部の間に隙間がありナットが端子部に動く状態で固定されている場合も含まれる。さらに、ナットが端子部に摩擦力により固定され、摩擦力を超える外力を加えることによって容易にナットが外れる場合も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明における蓄電池用端子部を採用することにより、端子部にナットを簡便に、かつ、確実に固定することができるようになり、そして、ナットを予め固定したことにより顧客がナットを落下させるという問題が解決できた。
また、複数のボルト挿入孔が、端子部の空洞で交差しないような位置に穿たれ、且つ、ナットの複数のネジ孔が互いに交差しないような位置に形成されている端子部を使用することにより、蓄電池に外部リード線を接続する場合に2箇所以上同時に接続できるようになった。これに対して、2個のボルト挿入孔が、端子部の空洞で交差するような位置に穿たれ、且つ、ナットの2個のネジ孔が互いに交差するような位置に形成されている端子部については、蓄電池に外部リード線を接続する場合にいずれか一方のネジ孔を選択してボルトを挿入することになるが、ナットをコンパクトにでき、端子部もコンパクトにできるという効果を奏する。さらに、前記2個のボルト挿入孔と前記2個のネジ孔を2箇所以上設けた場合には、2箇所以上同時に接続できるようになる。
ナットを予め固定した端子を用いることで、自動車本体への蓄電池の取り付けの作業効率が飛躍的に容易になる。この効果は、自動車を量産するときに顕著である。さらに、この効果は、二輪自動車を製造する場合に顕著である。なぜなら、二輪の自動車は、四輪のものと比べて蓄電池の取り付けスペースやその周囲の作業スペースが小さいので、ナットが落下することによる組み付け作業の遅延が大きな問題となっていたからである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蓄電池用端子部の実施態様1(樹脂巻き端子7に適用した例)を
図1(a)及び図(b)に示す。
直方体状の蓄電池用端子部1は、ナット6が挿入される空洞1a及び挿入口1bを有し、
図1(a)の右側面の挿入口1bから左側面に向かって貫通するナット6が挿入される空洞1aが穿たれている。但し、
図1(b)に示すように、挿入口1bの反対側の側面は、ナット6が抜けないように、壁を残しておくことが好ましい。また、空洞1aに向かって上面からボルト挿入孔1c、前面から1dが穿たれている。
【0016】
実施態様1においては、外部リード線を2箇所以上同時に接続するために、上面のボルト挿入孔1c及び前面のボルト挿入孔1dが空洞1aで交差しないような位置、すなわち、ボルト挿入孔1cが上面の左又は右にずれた位置、ボルト挿入孔1dが前面の右又は左にずれた位置に形成されている。
ナット6は、端子部1の挿入口1bから、空洞1aに挿入され、固定されている。端子部1に予めナット6を固定した蓄電池に外部リード線を接続する場合に、端子部1の上面のボルト挿入孔1cもしくは前面のボルト挿入孔1dの両者を同時に選択してナット6にボルトを挿入することができるようにするため、直方体状のナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが互いに交差しないような位置、すなわち、ネジ孔6aが上面(下面)の左又は右にずれた位置、ネジ孔6bが前面(背面)の右又は左にずれた位置に形成されている。
【0017】
そして、ナット6を、端子部1の挿入口1bから、空洞1aに挿入して、固定する際に、ナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6aが、端子部1の上面に穿たれたボルト挿入孔1cと連通するように、また、ナット6の前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが、端子部1の前面に穿たれたボルト挿入孔1dと連通するように固定する。したがって、ボルト(図示せず)を上面のボルト挿入孔1c及び前面のボルト挿入孔1dから挿入し、ボルトの先端をナットに螺合させることができる。そして、このボルトとナット6の間に、図示していない外部リード線(電装品等に接続可能な線)等を挟み込んで固定する。このように、実施態様1においては、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、2箇所同時に接続できる。
【0018】
また、実施態様1の変形例として、
図1(a)における端子部1の上面のボルト挿入孔1cを2個以上及び/又は前面のボルト挿入孔1dを2個以上(「又は」の場合、他の面のボルト挿入孔は0又は1個である)とし、これらのボルト挿入孔に対応するように、上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bも2個以上設けたナット6を採用すれば、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、2箇所以上、例えば、3箇所又は4箇所同時に接続できる。
【0019】
本発明の蓄電池用端子部の実施態様2(樹脂巻き端子7に適用した例)を
図2(a)及び
図2(b)に示す。
直方体状の蓄電池用端子部1は、ナット6が挿入される空洞1a及び挿入口1bを有し、
図2(b)の右側面の挿入口1bから左側面に向かって貫通するナット6が挿入される空洞1aが穿たれている。但し、
図2(a)に示すように、挿入口1bの反対側の側面は、ナット6が抜けないように、壁を残しておくことが好ましい。また、空洞1aに向かって上面からボルト挿入孔1c、前面からボルト挿入孔1dが穿たれている。
【0020】
実施態様2においては、
図2(b)に示すように、ナット6は、端子部1の挿入口1bから、空洞1aに挿入され、固定されている。端子部1に予めナット6を固定した蓄電池に外部リード線を接続する場合に、必要に応じて、端子部1の上面のボルト挿入孔1c又は前面のボルト挿入孔1dのいずれかを選択してナット6にボルトを挿入することができるようにするため、
図3に示すように、直方体状のナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが交差しているナットを採用する。上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bは、両者を効率的に利用するためには、ナットの中心で交差させることが好ましいが、中心から少しずれた位置で交差しているように構成することもできる。
【0021】
実施態様2においても、ナットの挿入方法、ボルトの挿入方法は、実施態様1と同様であるが、端子部1の上面のボルト挿入孔1c又は前面のボルト挿入孔1dのいずれかを選択してナット6にボルトを挿入するものであるから、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、ナット6が固定されていても、必要に応じて、上面でも前面でも選択できるという効果がある。
【0022】
また、実施態様2の変形例として、
図2(a)における端子部1の上面のボルト挿入孔1cを2個及び前面のボルト挿入孔1dを2個とし、これらのボルト挿入孔に対応するように、上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bも2個設けたナット6を採用すれば、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、必要に応じて、上面の2箇所、前面の2箇所、上面と前面の1箇所ずつを選択できる。
【0023】
さらに、実施態様2においては、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、挿入口1bの反対側の側面にナット6が露出されているが、これは、後述するように固定されたナット6をたたいて押し出すためのものである。このようなナット6を押し出すための露出面がない場合には、挿入口1bの反対側の側面にボルト挿入孔を設け、前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bの代わりに、挿入口1bの反対側の側面から挿入口1bに向けてネジ切りされたネジ孔を設けたナット6を採用することもできる。
【0024】
上記の実施態様1及び2においては、ナット6の外形は、直方体状の端子部1の空洞1aに合致するように直方体状である。
ナット6は、ネジ孔6aを上面(下面)の左又は右にずれた位置、ネジ孔6bを前面(背面)の右又は左にずれた位置に形成するために、上面(下面)及び前面(背面)が横長の略長方形で、両側面が略正方形の直方体状であることが好ましい。
端子部1の空洞1aは、ナットの外形に合致する形状であるが、端子部1の外形は、立方体状か横長の直方体状とすることができる。端子部1の縦横比は1:1〜1:1.5程度である。端子部1は、鉛合金製であり、通常、樹脂巻き端子においては、底部が厚く形成されているので、底部を含めると、縦長の直方体状となる場合もある。
また、ナット6の角は全部直角でも良いが、一部の角を面取り加工して、ナット6の一方の端部の外形を空洞1aの端部に合致する形状とし、ナット6の他方の端部の外形を空洞1aの端部に合致しない形状とすることが好ましい。この形状とすることによって、ナット6の誤挿入を防ぐことができる。例えば、ナット6の断面を
図8に示すような形状とした場合、正しい方向でナット6が端子部1の空洞1aに挿入されたとき、ナット6の他端は挿入口1bと面一となる位置に配置されるが、誤った方向で挿入されたときには、ナット6の他端は挿入口1bから外側に突出した位置に配置されることになり、その結果、誤挿入の検知が容易に行える。この効果は、端子部1及びナット6に設けられたボルト挿入孔及びネジ孔が複数ずつ(1c、1d、6a、6b)の場合、ナットが誤った方向で挿入されると、ナットのネジ孔と端子部のボルト挿入孔がずれてしまうことがあるから、特に有効である。なお、上記の
図8に示す例では、ナット6の一方の端部に面取り加工を施したが、その他ナットの端部を変形させた例として、角丸め加工を施した形状としたり、突起を設けたり、凹部を設けたりすることもできる。ナットの一方の端部に突起を設ける場合は、空洞1aの端部の対応する箇所には前記突起を収容可能な凹部が設けられる。ナットの一方の端部に凹部を設ける場合は、空洞1aの端部の対応する箇所には前記凹部に収容可能な突起が設けられる。いずれの場合についてもナットの他端の外形は、誤挿入したときに、空洞1aの端部とは合致しないものにすることが好ましい。
本発明においては、立方体状のもの、上記のように端部を変形させたもの、後述する凹部を設けたものなどを含めて、「直方体状」と総称する。
また、端子部1、ナット6の形状は、直方体状に限らず、三角柱、三角錐、五角柱などでもよく、要は、2つ以上の方向からボルトを締めることが可能な構成であれば、形状に依存しない。
【0025】
本発明においては、ナットを端子部に対して固定するために、空洞方向に突出する突出部を端子部内面の空洞に面した部分に設ける。この構造による固定は、突出部とナットとの摩擦によるものであるので、摩擦力を超える外力を加えることによって容易にナットを取り外す(例えば、挿入口の反対側の面に露出したナットをたたいて押し出す)ことができる。また、挿入口の反対側の面にナットを押し出すための孔がない場合には、ナットに突起(持ち手)を設けて、引っ張り出すことによって取り出しても良い。突出部は、ナットを端子部に挿入した後、挿入口を押圧して狭くすることによって形成することができるし、側壁又は天井に窪みを設けることによっても形成することができる。
【0026】
具体的なナット6の固定方法としては、ナット6を端子部1の空洞1aに挿入した後、端子部1の側壁1e(ボルト挿入孔1dが穿たれた前面とは反対の背面側の側壁)若しくは側壁のボルト挿入孔1dが穿たれていない箇所に窪み1fを設けること、又は天井のボルト挿入孔1cが穿たれていない箇所に窪みを設けることによりナット6を固定する方法などが採用される。端子部1の側壁1eの一部をポンチなどで押圧して、
図1(b)及び
図2(b)に示すような窪み1fを設けることにより、ナット6が固定される。
【0027】
また、上面から下面又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を一個有する従来のナットの場合には、前記ナットを、前記ネジ孔が端子部1の上面のボルト挿入孔又は前面のボルト挿入孔と連通するように端子部1の空洞1aに挿入した後、同様に端子部1の側壁1eの一部をポンチなどで押圧して、
図2(b)に示すような窪み1fを設けることにより固定すれば良い。
【0028】
機械加工により形成される突出部は、端子部の天井以外の側壁1eに設けることが好ましい。なぜなら、
図1(b)及び
図2(b)に示すように、突出部(窪み1f)を形成する加工を行うときに、端子部1の極柱部2又は樹脂部4が不用意に変形してしまう問題が回避できるからである。
【0029】
ボルト挿入孔のある側壁に対向する側壁1eを押圧して窪み1fを設ける場合には、ボルト挿入孔1dに対応する背面側の箇所を押圧することが好ましい。また、この場合、ナット6のネジ穴6bを一方から他方に貫通するように設けることが好ましい。なぜなら、側壁1eに設けられる窪み(空洞方向に突出する突出部)1fをナット6のネジ穴6bにはまり込むような位置に配置することが可能だからである。このような配置を採用した場合、空洞方向に突出する突出部(窪み)1fが形成される空間が存在するので、端子部1が不用意に変形することが抑制される。なお、側壁1eに窪み1fを設ける場合には、壁を変形させるのに最適な大きさの突起形状を選択する。
さらに、端子部の一対の側壁を工具で挟んで、一対の側壁の両方に窪みを設けても良い。また、端子部の角部をポンチなどで押圧して角部を構成する二つの側壁に窪みを設けることによってもナットを固定することができる。
【0030】
実施態様3においては、ナット6を端子部1の空洞1aに挿入した後、挿入口1bを工具で挟んで押圧して狭くすることにより、ナットを固定する。
挿入口1bを押圧して狭くすることにより固定する際に、挿入口1bを変形し易くするために、
図4(a)に示すように、ナット6を端子部1の空洞の挿入口1bからみて奥まった位置に配置する。さらに、端子部1の空洞1aは、ナットの挿入口1bが広く、奥が狭くなっていることが好ましい。このように構成することにより、ナット6が挿入口1bから挿入し易くなると共に、挿入口1b、又は挿入口1b近傍の側壁1eを押圧し易くなるから、ナット6を簡単に固定することが可能になる。
【0031】
上記のように挿入口1bを工具で挟んで押圧して狭くする場合、端子部1の左右の側壁1eを工具で挟んで窪みfを形成することにより狭くしても良いし、端子部1の上下(天井と底部)を工具で挟んで窪みfを形成することにより狭くしても良い。また、
図4(a)及び
図4(b)に示すように両者を併用することもできる。
また、窪みfを形成する代わりに、挿入口1bの全体が均一に狭くなるように変形させても良い。
さらに、挿入口1bをより変形し易くするために、挿入口1bの狭くする部分に対応するナット6の表面に凹部を設けておくことが好ましい。
【0032】
図5(a)及び
図5(b)に示す実施態様4においては、ナット6を、上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6aが端子部1の上面のボルト挿入孔1cと連通し、前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが端子部1の前面のボルト挿入孔1dと連通するように、端子部1の空洞1aの挿入口1bからみて奥まった位置に配置した後、端子部1の挿入口1bを押圧して狭くすること(窪みfを形成することなど)により固定する。
【0033】
また、上面から下面又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を一個有する従来のナットの場合には、前記ナットを、前記ネジ孔が端子部1の上面のボルト挿入孔又は前面のボルト挿入孔と連通するように端子部1の空洞1aの挿入口1bからみて奥まった位置に配置した後、端子部1の挿入口1bを押圧して狭くすることにより固定すれば良い。
【0034】
実施態様5においては、ナットを端子部に対して固定するために、ナットを端子部の空洞に挿入した後、端子部を加熱して変形させる方法を採用する。端子部を加熱して変形させることにより、空洞方向に突出する突出部を端子部内面の空洞に面した部分に設ける。この構造による固定も、突出部とナットとの摩擦によるものであるので、摩擦力を超える外力を加えることによって容易にナットを取り外すことができる。
端子部を加熱して変形させる方法として、端子部の外面に熱源を近づける方法を用いることができる。この方法を用いる場合、熱源として、各種の溶接機を用いることができ、例えばガス溶接機、TIG溶接機、プラズマアーク溶接機、レーザー溶接機を用いることができる。このうち、ガス溶接機は、設備導入のコストが安価であるので好ましい。
【0035】
具体的なナット6の固定方法の一例としては、ナット6を端子部1の空洞1aに挿入した後、端子部1を加熱して変形させ、
図6(a)及び
図6(b)に示すように天井部1gに窪み1f(空洞方向に突出する突出部)を設けることにより、ナットを固定する。
上記のように変形させる箇所を端子部の天井部1gとした場合は、重力によって変形させることができるので、加熱する工程を行うだけでよく、ポンチ等による追加の操作をしなくても良い。
【0036】
変形させる箇所を端子部の側壁とすることもできるが、加熱することによって端子部を構成する金属が柔らかくなるので、ポンチ等により押圧すれば、小さい力で目的の箇所を変形させることができる。
また、端子部1の空洞1aは、ナットの挿入口1bが広く、奥が狭くなっていることが好ましい。このように構成することにより、ナット6が挿入口1bから挿入し易くなると共に、挿入口1b近傍を加熱する場合に変形させ易くなるから、ナット6を簡単に固定することが可能になる。
さらに、端子部の該当箇所をより変形し易くするために、端子部の加熱する箇所に対応するナット6の表面に凹部を設けておくことが好ましい。
【0037】
図7(a)及び
図7(b)に示す実施態様6においては、ナット6を、上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6aが端子部1の上面のボルト挿入孔1cと連通し、前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが端子部1の前面のボルト挿入孔1dと連通するように、端子部1の空洞1aに挿入した後、端子部1を加熱して変形させ、天井部1gに窪み1f(空洞方向に突出する突出部)を設けることにより固定する。
図7(a)及び
図7(b)に示すような、端子部1の上面及び前面から穿たれているボルト挿入孔が空洞1aで交差するような位置に形成された直方体状の端子部の場合には、天井部1gが狭いので、端子部1の天井部1eのうち、挿入口1bの近傍を加熱して変形させ、挿入口1bを狭くすることにより、ナット6を固定することが好ましい。天井部1g以外の挿入口1bの近傍を加熱して変形させても良い。
【0038】
また、上面から下面又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を一個有する従来のナットの場合には、前記ナットを、前記ネジ孔が端子部1の上面のボルト挿入孔又は前面のボルト挿入孔と連通するように端子部1の空洞1aに挿入した後、同様に端子部1を加熱して変形させることにより固定すれば良い。
【0039】
本発明の樹脂巻き端子について、
図1(a)及び
図1(b)を用いて説明する。
樹脂巻き端子7において、1は直方体状の端子部、2は円柱形の極柱部、3は板状の台座、4はポリプロピレンやポリエチレンなどからなる樹脂部であり、端子部1は下端が極柱部2の上端と一体に連結され、極柱部2は下端が台座3の上端と一体に連結されている。
図8に示すように、極柱部2は、周面の最上部に長方形(端子部の底面にほぼ相似する形状)のばり切り用鍔2aが形成され、この下に間隔をおいてばり切り用鍔2aの一辺の長さより直径の小さい3条の鍔2b,2c,2dが形成されている。ばり切り用鍔2aは、周面が端子部1の下端周囲より水平方向に突出するようになっている。樹脂部4は、ばり切り用鍔2aと鍔2b,2c,2dとを包み込むように極柱部2の周囲に形成され、鍔2aの上端から外側に少し延び、上方に立ち上がって、端子部1の下部周面を、溝5を介して覆っている。
【0040】
次に、本発明の実施態様1の樹脂巻き端子の樹脂部を形成する方法を、
図8を用いて説明する。
樹脂巻き端子を作製する場合、先ず、鋳型(図示せず)に鉛合金を注入して端子部1と極柱部2と台座3とが一体となった金属部分を作製する。樹脂巻き端子には一定の硬度が必要であるため、Pb−Ca−Sn系合金を使用することが好ましい。
次に、この金属部分を
図8のような上型8と、2分割された下型9a、9bとからなる金型内に配置し、金型内に樹脂成形空間を形成する。続いて、金型内の樹脂成形空間にポリプロピレンなどの樹脂を注入し、樹脂が硬化した後、上型8と下型9a、9bとを取り除いて、極柱部2の周囲に樹脂部4が形成された樹脂巻き端子7を得る。
図8に示すように、ばり切り用鍔2a上面と上型8の突起8a下面とが密接した状態で樹脂部4を形成すれば、端子部1の側面と上型8の凹部の側面との間に隙間があっても、この隙間に樹脂が入り込むことがなく、端子部1側面にばりが発生するのを防止できる。
【0041】
本発明における樹脂巻き端子を製造する第一の方法は、上面及び前面からボルト挿入孔1c及び1dが穿たれ、上記のように他端に極柱部2が連結された直方体状の端子部1の空洞1aに、上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び6bが互いに交差しないような位置に形成された直方体状のナット6を、ネジ孔6a及び6bが、それぞれボルト挿入孔1c及び1dと連通するように挿入するか、又は、ネジ孔を一個有する直方体状のナットを、ネジ孔が端子部の上面のボルト挿入孔又は前面のボルト挿入孔と連通するように挿入し、固定した後、樹脂部を形成する方法である。この製造方法によれば、端子部1にナット6を固定する操作のときに樹脂部4が存在しないので、固定操作によって樹脂部4が変形または劣化することが抑制される。
【0042】
本発明における樹脂巻き端子を製造する第二の方法は、樹脂部4を形成した後、上記のように、端子部1の空洞1aにナット6を固定する方法である。この製造方法によれば、ナット6を固定する操作によって端子部1が変形する前に樹脂部4を形成できるので、端子部1を後述する金型(上型8、下型9a及び9b)にはめ込む作業が容易にできたり、樹脂部4の寸法精度および樹脂部4と端子部1との接触性の低下が抑制できる。端子部1や極柱部2は、ナット6を固定する操作によって不用意に変形してしまうことがあり、その場合、金型を精度良く端子部1の周囲に組み付けることができなくなる問題があった。また、極柱部2の複数の鍔2a、2b、2c及び2dは、高精度に寸法設計されているが、不用意に変形することで寸法精度が維持できなくなる問題もあった。端子部1が変形する前に樹脂部4を形成する工程を行うことによって、端子部1の不用意な変形によって生じていたこれらの問題が改善するので、生産性が高く、高い寸法精度を有する端子を製造することができる。
【0043】
本発明における樹脂巻き端子を製造する第三の方法は、樹脂部4の形成時に、端子部1の空洞1aにナット6を固定する方法である。
この第三の方法を本発明の実施態様2の樹脂巻き端子に適用した例について、
図9を用いて説明する。
すなわち、上面及び前面からボルト挿入孔1c及び1dが穿たれ、上記のように他端に極柱部2が連結された直方体状の端子部1の空洞1aに、ナット6の上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び6bが交差している直方体状のナット6を、ネジ孔6a及び6bが、それぞれボルト挿入孔1c及び1dと連通するように挿入した後、樹脂部4の成形時に、樹脂圧入穴1iから端子部1の底部1hに樹脂を圧入し、空洞1aの下に位置する底部1hを変形させてナット6を押圧して固定する方法が採用できる。
【0044】
この第三の方法においては、端子部1の底部1hに、樹脂圧入穴1iを設けておき、樹脂部3の成形時に端子部1の底部1hに樹脂を導入する。そうすると、成形時の圧力で、樹脂圧入穴1iから圧入された樹脂が空洞1aの下に位置する底部1hを変形させ、ナット6が押圧されて固定される。底部1hに鉛合金の厚みの薄い部分を作っておくことによって、その部分を成形時の圧力により変形し易くすることが好ましい。この方法によれば、端子部1へのナット6の固定は樹脂部3の成形時に可能であり、ナット6が固定されると同時に、樹脂巻き端子7が完成する。
【0045】
また、本発明における樹脂巻き端子を製造する第四の方法を、
図10のフロー図を参照して説明する。
この第四の方法は、樹脂巻き端子への樹脂成形時に、樹脂成形用金型に設置されている押し出しピンにより端子部1の側壁1eを加圧し、側壁1eに窪み1fを設けて、ナット6を固定することを特徴とする。
まず、樹脂巻き端子を作製する場合、先ず、鋳型(図示せず)に鉛合金を注入して端子部1と極柱部2と台座3とが一体となった金属部分(端子)を作製し、
図10(a)に示すように、この端子の端子部1にナット6を挿入する。
【0046】
次に、
図10(b)に示すように、この端子を上型8と、2分割された下型9a、9bとからなる金型内に配置し、金型内に樹脂成形空間を形成する。
この第四の方法においては、
図10(b)及び(c)に示すように、押し出しピン10を、金型の下型9aに予めネジ固定し、押し出しピン10をネジ込むことによる端子部1の側壁1eへの加圧を、金型に端子をはめ込む操作(上型8に下型9a、9bにはめ合わせる操作)と同時に行うことが好ましい。そうすることにより、金型に端子をはめ込むときの動きを利用して端子部1の側壁1eを加圧することができる。また、押し出しピン10のネジ込み量で押し出しピン10の押し込み量を変化させて、端子部1の側壁1eに対する加圧力を変化させることにより、側壁1eに形成される窪み1fの形状を制御することができる。
金型に端子をはめ込んだ後に押し出しピンにより加圧することもできるが、押し出しピンを前後に移動させる機構が必要になるから、低い装置コストを達成するためには、金型に端子をはめ込む操作時に加圧をすることが好ましい。
【0047】
下型9a、9bが端子部1の上方まで形成されている場合には、下型9a、9bの上方部分に押し出しピン10を配置して、端子部1の上壁を加圧して、端子部1の上壁に窪みを設けてもよい。
【0048】
押し出しピン周りの機構は、以下のようにすることが好ましい。
押し出しピン10は、根元の雄ネジ部分が金型の雌ネジ部分にネジ止めされており、金型が
図10(c)に示すようにスライドすることによって端子部1の側壁1eを加圧する。その場合の押し出しピン10の先端の出代の長さは、ピン自身をネジ込むことによって調整可能であり、任意に設定可能である。金型をスライドさせる前に、出代長さを設定しておくことによって、金型を押し付けるときに端子部1の側壁1eに所定の深さの窪み1fを形成することができる。
【0049】
型締め時に金型に設置の押し出しピン10が端子部1の側壁1eを加圧して、端子にナット6が固定された後、従来と同様に、金型内の樹脂成形空間にポリプロピレンなどの樹脂を注入し、樹脂が硬化した後、
図10(d)及び(e)に示すように、上型8と下型9a、9bとを取り除いて、極柱部2の周囲に樹脂部4が形成された樹脂巻き端子7を得る。
図10(c)に示すように、ばり切り用鍔2a上面と上型8の突起8a下面とが密接した状態で樹脂部4を形成すれば、端子部1の側面と上型8の凹部の側面との間に隙間があっても、この隙間に樹脂が入り込むことがなく、端子部1側面にばりが発生するのを防止できる。
【0050】
上記のようにして作製した樹脂巻き端子7を、
図11及び
図12に示すように、鉛蓄電池の蓋に接合する。
樹脂巻き端子7の一部を構成する台座3の端部と、あらかじめCOS方式等により極板群21と一体に形成されたストラップ22とが、溶接により溶接部22aを形成して接合される。さらに電槽23と蓋24とを溶着する際に、樹脂部4の上面と蓋24の内面に設けた突起24aとが溶着部24bを形成して接合される。樹脂巻き端子7における気密性および液密性は、蓋24の下面に設けた突起24aと樹脂部4との溶着および極柱2の外周面に形成された複数の鍔2b、2c、2dと樹脂部4との密着性および沿面距離によって確保される。
【0051】
以上、樹脂巻き端子及び樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池に適用した例について説明したが、本発明は、ナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が空洞で交差しないような位置に穿たれている直方体状の端子部が、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングと、導通部を介して連結するように一体成形により構成された、非特許文献2に記載されているような蓄電池用端子部にも適用できる。
上記のような端子部の空洞に、ナットの上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔が互いに交差しないような位置に形成されたナットを、そのネジ孔が端子部のボルト挿入孔と連通するように挿入し、樹脂巻き端子の場合と同様に、端子部の挿入口を狭くするか、端子部の側壁若しくは天井に窪みを設けるか、又は端子部を加熱して変形させることなどによりナットを固定すれば良い。
【0052】
また、蓄電池を製造
する場合、上記のような一体成形により構成された端子部は、従来と同様に、合成樹脂製の蓋にインサート成形することにより、取り付けることができる。
さらに、樹脂巻き端子の場合と同様に、樹脂成形用金型に設置されている押し出しピンにより前記端子部の壁を加圧し、前記壁に窪みを設けることによりナットを固定することもできる。
【0053】
樹脂の成形圧力で固定する場合には、ナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、ボルト挿入孔が上面及び前面から前記空洞で交差するような位置に穿たれている端子部と、電槽内の極板群から延びる極柱が挿入されて溶接される筒状のブッシングと、両者を連結する導通部とが一体成形により構成された蓄電池用端子部の空洞に、上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔が交差しているナットを挿入した後、合成樹脂製の蓋にインサート成形することにより固定する。インサート成形時の合成樹脂の射出成形圧力により端子部の底部が変形し、ナットが押圧されて端子部の空洞部に固定される。
【0054】
本発明の端子を有する蓄電池を二輪自動車に搭載した状態を
図13に示す。
図13に示すように、電池を二輪自動車に搭載する際、非常に狭い箇所に収める必要がある。また、一部センタースタンドを装備している二輪自動車もあるが、サイドスタンドのみを装備している二輪自動車が大多数である。そのような二輪自動車では、地面に対して傾いた状態で電池を取り付けることになるから、ナットが端子に未固定であると取り付ける際にナットが落下することがあり、利便性が悪い。本発明の蓄電池では、
図13に示すように、ナット6が端子部1に予め固定されているので、利便性の良い蓄電池を提供することが可能である。