【文献】
Norihiro Ishikura et al.,Large tunable fractional delay of slow light pulse and its application to fast optical correlator,OPTICS EXPRESS,2011年11月21日,Vol.19, No.24
【文献】
Norihiro Ishikura et al.,Photonic crystal tunable slow light device integrated with multi-heaters,Applied Physics Letters,2012年,100,221110
【文献】
Ryo Hayakawa et al.,Two-photon-absorption photodiodes in Si photonic-crystal slow-light waveguides,Applied Physics Letters,2013年,102,031114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光パルスを二つの光路に分岐して得られる二つの光パルスの内、一方の光パルスの群速度の遅延時間を変えながら遅延させた後に他方の光パルスと合流させ、合流した光パルスを非線形の検出器で検出することによって光パルスの自己相関波形を得る自己相関計において、
入射した光パルスを二つの光路に分岐する第1の分岐器と、
前記第1の分岐器で分岐された一方の光路上に直列配置する、光パルスの群速度の遅延時間を可変とする光遅延走査器、および光パルスの波長に対する遅延分散を補償する分散補償器と、
前記第1の分岐器で分岐された他方の光路上に配置する、光パルスを遅延させる遅延器と、
前記二つの光路を合流する合流器と、
前記合流器で合流した二つの光パルスに基づいて、入射した光パルスの自己相関波形を検出する非線形検出器とを備え、
前記光路、前記第1の分岐器、前記光遅延走査器、前記分散補償器、前記遅延器、前記合流器、および前記非線形検出器はシリコン基板上に形成され、
前記光路、前記第1の分岐器、および前記合流器は、シリコンフォトニクス細線導波路により形成され、
前記光遅延走査器および前記分散補償器は、低群速度を有するフォトニック結晶スローライト導波路、および当該フォトニック結晶スローライト導波路に沿って配置した複数の加熱器を集積して備え、
前記光遅延走査器は、前記加熱器の加熱温度の時間的変化によってフォトニック結晶スローライト導波路の群速度の遅延時間を走査し、
前記分散補償器は、前記複数の加熱器の温度分布による遅延分散特性によってフォトニック結晶スローライト導波路の遅延分散を補償し、
前記遅延器は、当該遅延器を形成するシリコンフォトニクス細線導波路において、前記一方の光路を通る光パルスの遅延時間に対応した長さであり、前記一方の光路を形成するシリコンフォトニクス細線導波路よりも幅広であり、
前記非線形検出器は、フォトニック結晶スローライト導波路と、当該フォトニック結晶スローライト導波路の一方の側にP層を他方の側にN層を有したPNダイオードとを有した二光子吸収フォトダイオードを備え、一方の光路の光パルスと他方の光路の遅延時間が走査された光パルスとから入射した光パルスの自己相関波形を検出することを特徴とする、光相関計。
前記光遅延走査器は、前記加熱手段をのこぎり波状の走査信号により加熱によってフォトニック結晶スローライト導波路の温度を変化させ、前記光パルスの遅延時間を線形可変することを特徴とする、請求項1に記載の光相関計。
前記光遅延走査器は、前記フォトニック結晶スローライト導波路を冷却する冷却器を備え、当該冷却器は前記加熱手段で加熱されたフォトニック結晶スローライト導波路を冷却して群速度の遅延時間を所定の温度状態に戻すことを特徴とする、請求項2に記載の光相関計。
前記二光子吸収フォトダイオードは、当該二光子吸収フォトダイオードが備えるフォトニック結晶スローライト導波路の一端はシリコンフォトニクス細線導波路を介して前記合流器側に接続し、フォトニック結晶スローライト導波路の他端は端部を自由端とするシリコンフォトニクス細線導波路を接続することを特徴とする、請求項2に記載の光相関計。
前記一方の光路は、シリコン基板上において前記合流器側の端部にシリコンフォトニクス細線導波路により形成される第2の分岐器を備え、当該第2の分岐器の一方の分岐端を前記合流器の接続端とし、当該第2の分岐器の他方の分岐端をモニタの接続端とすることを特徴とする、請求項2に記載の光相関計。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来知られている10ps以下の光パルスの測定が可能な装置は何れも大型で高価であり、光相関計においても数10cm角のボックスサイズである。光通信や光計測の高速化に伴って10ps以下の光パルスの測定の要求が高まり、かつ、小型化および低価格化が求められている。光パルスの測定システムにおいては、光相関計が外付け装置ではなく組み込み装置として構成されることを考慮すると、光相関計には小型化の要求がより高いと考えられる。
【0009】
このような組み込み装置では、光相関計をワンチップに納めることが理想的であるが、従来の光相関計は数10cm角のボックスサイズの大きさであるため、現状ではワンチップに納めるという要求に対応できていない。
【0010】
本願の発明者は、光遅延器や非線形検出器を小型化し、それぞれをチップ上に形成することを提案している(非特許文献1,2参照)。上記提案の光遅延器および非線形検出器はシリコンフォト技術を用いて各光学素子をチップ上に形成するものである。
【0011】
上記の光遅延器や非線形検出器は光相関計の光学素子としての適用が考えられる。しかしながら、単にチップ上に光遅延器や非線形検出器を形成した構成では、光相関計として有効に機能させることはできない。
【0012】
(a)自己相関計では、2つに分岐した光路の光パルスが重なるタイミングを高速でずらしながら走査する必要がある。しかしながら、適当に一方の光路に光遅延器を設けただけでは、それぞれの光路の光パルスが個別に非線形検出器に入射されるのみであるため、他方の光路の光パルスとの間の重なりを高速でずらして走査することはできないとう問題がある。
【0013】
(b)光遅延器は波長によって遅延時間が異なり遅延分散という現象を伴う場合がある。このような遅延分散が生じると光パルスに歪みが生じるため、得られる自己相関波形にも歪みが生じるという問題がある。
【0014】
(c)2つに分岐した光路の光パルスを重ならせるには、光遅延器を設けた一方の光路を通る光パルスの遅れと、分岐した他方の光路を通る光パルスの遅れを合わせる必要がある。一方、2つの光路の光群速度は光路を形成する光学部材の違いによって異なる。そこで、光遅延器を設けない光路の導波路長を長くすることによって、分岐した2つの光路の光パルスの光路の通過に伴う時間遅れを合わせることができる。しかしながら、導波路長の長さを長くすると非線形現象によって光パルスに歪みが生じるという問題が生じる。
【0015】
したがって、光相関計の小型化には、光遅延器において光パルスの遅延時間を高速で走査すること、遅延分散を補償すること、および光路の導波路長に伴う非線形現象を低減することが求められる。
【0016】
そこで、本発明は前記した従来の問題点を解決し、光相関計を小型化することを目的とし、光相関計をワンチップに納めることを目的とする。
【0017】
さらに、詳細には、光遅延器において、光パルスの遅延時間を高速で走査すること、遅延分散を補償すること、および光路の導波路長に伴う非線形現象を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明は、光パルスを二つの光路に分岐して得られる二つの光パルスの内、一方の光パルスの群速度の遅延時間を変えながら遅延させた後に他方の光パルスと合流させ、合流した光パルスを非線形の検出器で検出することによって光パルスの自己相関波形を得る自己相関計において、入射した光パルスを二つの光路に分岐する第1の分岐器と、光パルスの群速度の遅延時間を可変とする光遅延走査器、および光パルスの波長に対する遅延分散を補償する分散補償器と、光パルスを遅延させる遅延器と、二つの光路を合流する合流器と、合流器で合流した二つの光パルスに基づいて、入射した光パルスの自己相関波形を検出する非線形検出器とを備える。二つの光路の内の一方の光路上には光遅延走査器と分散補償器とを設け、二つの光路の内の他方の光路上には遅延器を設ける。
【0019】
本発明の光相関計は、光路、第1の分岐器、光遅延走査器、分散補償器、遅延器、合流器、および非線形検出器はシリコン基板上に形成し、光路、第1の分岐器、および合流器は、シリコンフォトニクス細線導波路で形成する。また、光遅延走査器および分散補償器は、低群速度を有するフォトニック結晶スローライト導波路と、このフォトニック結晶スローライト導波路に沿って配置した複数の加熱器を集積して備える。
【0020】
伝搬が遅い光(スローライト)は光信号が空間的に圧縮されているため、光デバイスの縮小に利用されている。本願発明は、光学波長オーダーの多次元周期性を有する微細構造のフォトニック結晶(Photonic crystal, PC)を用いてスローライトを構成する。フォトニック結晶の導波路は、高屈折率材の薄膜に孔を二次元配置してなるPCクラブに一列の孔のない領域を形成して線欠陥を設け、この線欠陥を光導波路とするものであり、円孔の直径や位置、導波路の幅や屈折率等の構造パラメータを調整することによって光の群速度を低下させて遅延を生じさせることができる。
【0021】
波長に対する遅延が分散することなく光を遅延させる零分散スローライトとして、導波路から三列目の円孔を格子シフトさせた構造の格子シフト型フォトニック結晶スローライト導波路(LSPCW)が知られている。本発明の光遅延走査器と分散補償器は、低群速度を有するフォトニック結晶スローライト導波路を用いて構成する。
【0022】
光遅延走査器は光パルスの遅延時間を走査して変えることによって、他方の光路を通過した光パルスとの重なりをずらし、これによって自己相関波形を形成している。フォトニック結晶スローライト導波路を用いて光遅延走査器を構成するには、フォトニック結晶スローライト導波路の構造パラメータを連続的に変化させることで遅延時間を走査させる。
【0023】
本発明の光遅延走査器は、フォトニック結晶スローライト導波路に沿って配置した複数の加熱器によってフォトニック結晶スローライト導波路に加熱チャープを与えることで、フォトニック結晶スローライト導波路の光の群速度の遅延時間を可変とし、加熱器の加熱温度の時間的変化によってフォトニック結晶スローライト導波路の群速度の遅延時間を走査する。ここで、チャープとは構造パラメータを連続的に変化させることを意味し、加熱チャープは加熱温度あるいは加熱器に印加する電力を連続的に変化させることを意味している。
【0024】
本発明の光遅延走査器は、加熱手段にのこぎり波状の走査信号を印加することで加熱温度を直線状に変化させ、この加熱によってフォトニック結晶スローライト導波路の温度を直線状に変化させる。フォトニック結晶スローライト導波路を通る光パルスの遅延時間は加熱状態に応じて線形可変する。
【0025】
加熱手段に印加する走査信号は繰り返し信号とすることができる。繰り返し信号を印加した場合には走査信号毎に自己相関波形の信号が取得され、これら複数の自己相関波形を重ねることでSN比を向上させることができる。
【0026】
本発明の光遅延走査器は、フォトニック結晶スローライト導波路を冷却する冷却器を備える。冷却器は加熱手段で加熱されたフォトニック結晶スローライト導波路を冷却して群速度の遅延時間を加熱前の温度状態あるいは所定の温度状態に戻すことができる。加熱したフォトニック結晶スローライト導波路を冷却器によって加熱前の温度状態あるいは所定の温度状態に戻すことで、走査信号を繰り返して印加した際に、各走査信号で同様の遅延時間を走査することができる。
【0027】
また、フォトニック結晶スローライト導波路における光パルスの遅延時間は構造パラメータによって変化し遅延分散が発生する。本発明の光遅延走査器は、遅延分散が小さい領域を用いて遅延走査を行うものの遅延分散が発生する可能性がある。本発明の光相関計は、この光遅延走査器あるいは光路上で発生する遅延分散を補償する装置として分散補償器を備える。
【0028】
本発明の分散補償器は、フォトニック結晶スローライト導波路に沿って配置した複数の加熱器の温度分布による遅延分散特性によってフォトニック結晶スローライト導波路の遅延分散を補償する。フォトニック結晶スローライト導波路は、導波路に沿って形成される温度分布を変えることによって遅延分散の分散特性を変更することができる。遅延分散の分散特性は波長λと遅延時間との関係で表すことができ、フォトニック結晶スローライト導波路に沿って形成される温度分布に応じて、波長の増減に対する遅延時間の増減特性を変えることができる。
【0029】
例えば、光遅延走査器あるいは光路上で発生する遅延分散特性に対して、この遅延分散特性と逆特性となるように分散補償器の温度分布を設定することによって、遅延分散を補償することができる。
【0030】
なお、光路上において光遅延走査器と分散補償器の配置順序は任意とすることができ、光の伝搬方向に沿ってはじめに光遅延走査器を配置し次に分散補償器を配置する構成、あるいは、はじめ分散補償器を配置し次に光遅延走査器を配置する構成の何れの配置構成としてもよい。また、光遅延走査器を挟んで両側に光遅延走査器を配置する構成としてもよい。さらに、基本的に光遅延走査器も分散補償器も加熱器を備えたフォトニック結晶導波路により構成されることから、同一の構造で複数の加熱器の熱量を適当に調整することによって両者の機能を同時に満たすような動作をさせることもあり得る。
【0031】
本発明の遅延器は、二つの光路を通る二つの光パルスの遅れ時間を合わせるために、光遅延走査器と分散補償器を配置した一方の光路ではなく、他方の光路に設けることによって、分岐した二つの光路の光パルスの光路の通過に伴う時間遅れを合わせる素子である。この他方の光路の時間遅れの調整は導波路長を長くすることで合わせることができる。しかしながら、導波路長の長さを長くすると非線形現象によって光パルスに歪みが生じるという問題が生じる。
【0032】
本発明の遅延器は、シリコンフォトニクス細線導波路の長さを、一方の光路を通る光パルスの遅延時間に対応した長さとし、一方の光路を形成するシリコンフォトニクス細線導波路よりも幅広とすることによって、非線形成分の発生を低減させる。シリコンフォトニクス細線導波路で発生する非線形成分は導波路の幅の2乗にほぼ逆比例するため、導波路の幅を例えば10倍とした場合には、導波路で発生する非線形成分は1/100に低減される。
【0033】
また、本発明の遅延器をシリコンフォトニクス細線導波路とフォトニック結晶スローライト導波路とを組み合わせた構成とし、フォトニック結晶スローライト導波路に沿って加熱器を配置して光遅延器を構成し、この光遅延器によって分岐した二つの光路の光パルスの光路の通過に伴う時間遅れを合わせる構成とすることもできる。なお、分散補償器を追加することによって、シリコンフォトニクス細線導波路のわずかな分散を補償してもよい。
【0034】
本発明の非線形検出器は、フォトニック結晶スローライト導波路と、このフォトニック結晶スローライト導波路の一方の側にP層を他方の側にN層を有したPNダイオードとを有した二光子吸収フォトダイオードを備える構成とすることができ、一方の光路の光パルスと他方の光路の遅延時間が走査された光パルスとによって、二つの光パルスの重なるタイミングを走査させ、入射した光パルスの自己相関波形を検出することができる。
【0035】
本発明の二光子吸収フォトダイオードは、この二光子吸収フォトダイオードが備えるフォトニック結晶スローライト導波路の一端をシリコンフォトニクス細線導波路を介して合流器側に接続し、フォトニック結晶スローライト導波路の他端の端部を自由端としてシリコンフォトニクス細線導波路に接続する。
【0036】
二光子吸収フォトダイオードの入力端と反対側の端部を自由端とすることによって、二光子吸収フォトダイオードを通過した光パルスの端部における反射を抑制することができる。二光子吸収フォトダイオードの端部で通過後の光パルスが反射した場合には、反射光が二光子吸収フォトダイオードを再度通過することになり、ノイズ成分となるおそれがある。本発明の構成によれば、反射波が二光子吸収フォトダイオードを再度通過することを抑制されるため、誤検出を防ぐことができる。
【0037】
また、自由端に検出器を接続することによって、入射した光パルスに含まれる直流分を測定することができる。
【0038】
本発明の光相関計において、光遅延走査器および分散補償器を備える一方の光路に、シリコン基板上において合流器側の端部にシリコンフォトニクス細線導波路により形成される第2の分岐器を設け、この第2の分岐器の一方の分岐端を合流器の接続端とし、第2の分岐器の他方の分岐端をモニタの接続端とする構成とする。この構成によれば、光遅延走査器で遅延走査され、分散補償器で分散補償された後の光パルスをモニタで観察し、遅延器時間幅や分散補償を調整することができる。
【0039】
または、この第2の分岐器の他方の分岐端を別途設けた二光子吸収フォトダイオードに接続すれば、光パルスの幅がパルスのピーク電力に反比例し、二光子吸収フォトダイオードの検出電流がピーク電力に比例するという性質から、分散補償量をモニタすることもできる。遅延器時間幅や分散補償の調整は、フォトニック結晶スローライト導波路に沿って配置された加熱器に供給する電力や複数の加熱器の加熱パターンを調整することで行うことができる。
【発明の効果】
【0040】
以上説明したように、本願発明の光相関計によれば光相関計を小型化することができ、光相関計をワンチップに納めることができる。また、本願発明の光相関計によれば、光遅延器において光パルスの遅延時間を高速で走査して光遅延走査器を構成することができ、光遅延走査器による遅延分散を補償することができ、また、光路の導波路長に伴う非線形現象を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。以下、
図1を用いて本発明の光相関計の構成例を説明し、
図2を用いてフォトニック結晶スローライト導波路の構成例を説明し、
図3を用いて光遅延走査器および分散補償器の構成例を説明し、
図4を用いて本発明の光相関計による二つの光パルスの重なりを説明し、
図5を用いて本発明の光遅延走査器におけるのこぎり波状走査信号による動作例を説明し、
図6、7を用いて本発明の光遅延走査器の遅延特性を説明し、
図8を用いて本発明の分散補償器の分散特性を説明し、
図9を用いて本発明の二光子吸収フォトダイオードの検出特性を説明し、
図10を用いて本発明の光相関計による検出例を説明し、
図11を用いて本発明の光相関計の遅延器の構成例を説明する。
【0043】
本発明に係る光相関計は、光パルスを二つの光路に分岐して得られる二つの光パルスの内、一方の光パルスの群速度の遅延時間を変えながら遅延させることで、他方の光パルスと合流において重なるタイミングを走査(スキャン)させ、合流した光パルスを非線形の検出器で検出することによって光パルスの自己相関波形を得る。
【0044】
[光相関計の構成例]
図1は、本発明の光相関計の一構成例を説明するための図である。光相関計1は、入射した光パルスをスポットサイズ変換器11を通すことによって、光相関計1側が備える光路のスポットサイズに合わせた後、第1の分岐器2によって二つの光路A,Bに分岐する。光路A,Bはシリコンフォトニクス細線導波路で形成することができる。
【0045】
第1の分岐器2で分岐された一方の光路A上には、光パルスの群速度の遅延時間を可変とする光遅延走査器3、および光パルスの波長に対する遅延分散を補償する分散補償器4を直列配置する。光遅延走査器3と分散補償器4の配置順序は、光路Aにおいて何れを先に配置してもよい。
【0046】
光遅延走査器3は、フォトニック結晶スローライト導波路3aと、導波路に沿って対称に配置され集積された複数の加熱器(ヒーター)3bとを備えると共に、加熱器3bは遅延走査制御器21の走査信号によって加熱制御される。分散補償器4は、フォトニック結晶スローライト導波路4aと、導波路に沿って配置されて集積された複数の加熱器(ヒーター)4bとを備え、加熱器4bは分散補償制御器22の制御信号によって加熱制御される。遅延走査制御器21と分散補償制御器22は、加熱制御器20を構成している。
【0047】
光遅延走査器3は、加熱器3bの加熱温度の時間的変化によってフォトニック結晶スローライト導波路3aの群速度の遅延時間を走査する。分散補償器4は、複数の加熱器4bの温度分布による遅延分散特性によってフォトニック結晶スローライト導波路4aの遅延分散を補償する。
【0048】
なお、光遅延走査器3のフォトニック結晶スローライト導波路3aと分散補償器4のフォトニック結晶スローライト導波路4aは連続したフォトニック結晶スローライト導波路で構成することができる。
【0049】
第1の分岐器2で分岐された他方の光路B上には、光パルスを遅延させる遅延器5を形成する。遅延器5はシリコンフォトニクス細線導波路で形成することができ、シリコンフォトニクス細線導波路の長さは、一方の光路Aを通る光パルスの遅延時間に対応した長さとし、幅は一方の光路Aを形成するシリコンフォトニクス細線導波路よりも幅広とする。幅は、例えば10倍の幅に設定する。シリコンフォトニクス細線導波路の幅を10倍とした場合には、非線形成分はおよそ1/100のオーダーで低減される。遅延器5を構成するシリコンフォトニクス細線導波路の幅は10倍に限らず、非線形成分の低減の程度に応じて任意に定めることができる。
【0050】
二つの光路A,Bは合流器6で合流し、合流器6で合流した二つの光パルスは非線形検出器7において入射した光パルスの自己相関波形が検出される。
【0051】
非線形検出器7は、フォトニック結晶スローライト導波路7aと、フォトニック結晶スローライト導波路7aの一方の側面にP層を、他方の側面にN層を形成したPNダイオード7bとを有した二光子吸収フォトダイオードで構成することができ、一方の光路Aの光パルスと他方の光路Bの遅延時間が走査された光パルスを入力し、光路Bの光パルスを走査することによって二つの光パルスが重なるタイミングを順にずらし、入射した光パルスの自己相関波形を検出する。非線形検出器7を構成する二光子吸収フォトダイオードのPNダイオード7bには、電源8から逆バイアスを印加し、光電子を電流に変換して検出器10で検出する。検出器10の検出は、電源8で逆バイアスされた二光子吸収フォトダイオードの光電流を電流計9で検出した検出信号を用いて行う。
【0052】
光路A,B、第1の分岐器2、光遅延走査器3、分散補償器4、遅延器5、合流器6、および非線形検出器7はシリコン基板100上にシリコンフォトニクス技術を用いて形成することができ、光路A,B、第1の分岐器2、および合流器6は、シリコンフォトニクス細線導波路により形成される。
【0053】
検出器10は、遅延走査制御器21が印加する走査信号のタイミングを入力することによって、検出動作を遅延走査に同期して行うことができる。
【0054】
光遅延走査器3および分散補償器4と合流器6との間の光路に第2の分岐器12を設け、一方の分岐した光路を合流器6に接続し、他方の分岐した光路に出力ポート13を設ける。出力端ポートにはモニタ14を接続することができる。モニタ14は通常知られた波形計測器を用いることができ、光遅延走査器3および分散補償器4を通過した光パルスの波形や遅延スペクトルを観察し、得られた結果に基づいて加熱制御器20の遅延走査制御器21や分散補償制御器22が印加する電力量や電力パターンを制御し、光遅延走査器3の遅延時間や分散補償器4の分散補償を調整する。
【0055】
[フォトニック結晶スローライト導波路の構成例]
図2を用いてフォトニック結晶スローライト導波路の構成例について説明する。フォトニック結晶の導波路は、円孔の直径や位置、導波路の幅や屈折率等の構造パラメータを調整することによって光の群速度を低下させて遅延を生じさせることができる。
【0056】
図2に示すフォトニック結晶スローライト導波路30(3a,4a)は、高屈折率媒体31の薄膜に円孔32を二次元配置してなるPCクラブ33に、一列の円孔のない領域を形成して線欠陥を設け、この線欠陥を線欠陥導波路34とする構成において、線欠陥導波路34から三列目の円孔を格子シフトさせる構造(LSPCW)である。
図2に示すフォトニック結晶スローライト導波路では、円孔32の径は2rとし、隣接する円孔32間の間隔をaとし、格子シフト量をsとしている。
【0057】
フォトニック結晶スローライト導波路の一例は、長さが300μm、スラブ幅が220nm、格子定数が480nm、円孔直径が250nm、シフト量が80nmである。なお、この数値は一例であって、これに限定されるものではない。
【0058】
[光遅延走査器および分散補償器の構成例]
図3(a)を用いて光遅延走査器および分散補償器の構成例について説明する。光遅延走査器3と分散補償器4は同様の構成とすることができる。ここでは、光遅延走査器3を例にして説明する。
【0059】
光遅延走査器3は、フォトニック結晶スローライト導波路3aの両側面に導波路に沿って複数の加熱器3bを配置し集積する。複数の加熱器3bは加熱体を構成する抵抗線を備え、抵抗線の一端は共通ライン3eに接続し、抵抗線の他端を制御ライン3fに接続する。制御ライン3fへの印加を制御することによって、加熱する加熱器3bを選択する他、加熱器3bの加熱温度を制御することができる。各加熱器3bは個別に制御することができ、フォトニック結晶スローライト導波路3aに配置された複数の加熱器を制御することによって、加熱パターンを制御することができる。
【0060】
抵抗線のフォトニック結晶スローライト導波路3a側を除く周囲にエアースロット3d等の空気孔を設け、抵抗線からの外部への放熱を低減し、加熱効率を向上させると共に熱分離を行う。
【0061】
また、フォトニック結晶スローライト導波路3aおよび加熱器3bが設けられた基板底面にはペルチェ素子等による冷却器3cを形成し、冷却器3cを駆動することによって加熱されたフォトニック結晶スローライト導波路3aおよび加熱器3bを冷却することができる。
【0062】
[二光子吸収フォトダイオードの構成例]
図3(b)を用いて二光子吸収フォトダイオードの構成例について説明する。非線形検出器7の二光子吸収フォトダイオードは、フォトニック結晶スローライト導波路7aの一方の側面にP層7cを、他方の側面にN層7dを積層してPNダイオード7bを形成することによって構成することができる。
【0063】
二光子吸収フォトダイオードを構成するフォトニック結晶スローライト導波路の一例は、長さが400μm、格子定数が450nm、円孔直径が260nm、シフト量が80nmである。なお、この数値は一例であって、これに限定されるものではない。二光子吸収フォトダイオードは、SOI基板上においてフォトニック結晶スローライト導波路を挟んでSi層にpとnをドーピングすることによって二光子吸収フォトダイオードを形成するができる。
【0064】
[光遅延走査器の動作例および遅延特性]
図4〜7を用いて光遅延走査器の動作例および遅延特性について説明する。
図4(a)は入射光の光パルスを示し、
図4(b)は光遅延走査器の遅延時間を走査させるための走査信号を示し、
図4(c)〜(e)は入射光の光パルスを光遅延走査器で遅延走査して得られる遅延した光パルスを示し、
図4(f)は入射光の光パルスと遅延した光パルスとの重なり状態を示している。
【0065】
図4(b)はのこぎり波状の走査信号を示している。のこぎり波状の走査信号は、加熱器に印加する電力を線形増加させる。フォトニック結晶スローライト導波路では、温度の上昇に伴って遅延時間Δτが減少する。したがって、
図4(b)に示すのこぎり波状の走査信号を印加することによって、遅延時間Δτが線形減少した遅延した光パルスが得られる。
図4(c)〜
図4(e)は遅延時間ΔτがΔτ1〜Δτnに減少する状態を示している。なお、各遅延した光パルスは光パルスが入射する毎に得られ、入射する光パルスの間隔を縮めることによって多数の遅延した光パルスを得ることができる。
【0066】
図4(f)は、入射した光パルスと遅延した光パルスとの重なり状態を示している。この光パルスの重なりは、遅延した光パルスが得られる度に行われ、走査信号によって遅延光パルスの遅延時間を変えて走査することによって、入射した光パルスについて自己相関波形を得ることができる。
【0067】
図5はのこぎり波状の走査信号を繰り返す場合を示している。入射した光パルスの自己相関波形は、一つののこぎり波状の走査信号によって取得することができるが、この走査信号を繰り返して印加することによって自己相関波形の検出信号を複数個数取得することができ、これら複数個数の検出信号を重ね合わせることによって信号強度を高めSN比を向上させることができる。
【0068】
図5(a)は連続して入射する光パルスを示し、
図5(b)はのこぎり波状の走査信号の繰り返し信号を示し、
図5(c)は冷却器の制御信号示し、
図5(d)は遅延時間Δτの変化を示し、
図5(e)は自己相関波形の検出信号をそれぞれ模式的に示している。
【0069】
冷却器の制御信号は、走査信号による加熱が終了した時点で立ち上がって冷却器の冷却を開始し温度上昇した光遅延走査器を冷却する。光遅延走査器は冷却することで遅延時間Δτを初期状態に戻すことができる。冷却器の制御信号の立ち下がりは、所定の冷却温度まで低下する時間に応じて定めることができる。
【0070】
次に、
図6、
図7の光遅延走査器の加熱チャープによる遅延時間の変化を用いて、遅延特性について説明する。
図6は、格子シフト型フォトニック結晶スローライト導波路(LSPCW)に設けた複数の加熱器の内、対称配置した一組の加熱器によって加熱チャープを与えたときの遅延スペクトルを示している。なお、
図6,7において、上方に示される7個のブロックは加熱器を示し、ブロックの濃淡は印加電力を示している。
【0071】
このとき得られる遅延スペクトルは、加熱器に印加する電力と遅延時間Δτの波長特性を、印加電力Pが0W、0.6W、0.7W、0.9Wの場合について示している。この遅延スペクトルによれば、加熱を行わないとき(P=0W)には、LSPCWのフラットバンドの波長が導波路の位置に一致し対応する88psの遅延ピークが生じる。一方、加熱すると加熱チャープによってフラットバンドの波長が導波路の位置に応じて変化し、印加電力Pが0.9Wの場合には遅延ピークが80psまで減少すると共に波長方向に広がり、長波長側の低分散領域の遅延が増加する。
【0072】
図6に示す例は複数の加熱器の内の対称配置した一組の加熱器によって加熱チャープを形成した場合を示しているが、格子シフト型フォトニック結晶スローライト導波路(LSPCW)に設けた複数の加熱器に印加する電力パターンを異ならせることによっても加熱チャープを形成することができる。
【0073】
図7は、格子シフト型フォトニック結晶スローライト導波路(LSPCW)に設けた複数の加熱器の印加する電力のパターンによる遅延スペクトル変化を示している。
【0074】
図7(a)は加熱を行わない場合の遅延スペクトルを示し、
図7(b)〜
図7(e)は複数の加熱器の印加する電力量を異ならせた場合の遅延スペクトルを示している。
図7(a)の遅延スペクトルでは遅延時間は37psであり、
図7(e)の遅延スペクトルは54psである。
【0075】
本発明の光遅延走査器は、この加熱チャープの遅延特性を用い、加熱状態を制御することによって遅延時間を順に走査することができる。
【0076】
[分散補償器の分散特性]
次に、
図8の分散補償器の加熱チャープによる遅延時間の分散特性について説明する。
図8は、格子シフト型フォトニック結晶スローライト導波路(LSPCW)に設けた複数の加熱器の電力パターンを異ならせることで形成される加熱チャープによる遅延スペクトルを示し、種々の遅延時間の分散特性が得られることを示している。
【0077】
図8において1550nm付近の3nmの波長幅についてみると、複数の加熱器に印加する電力パターンによって-10〜17ps/nm(-32〜54ps/nm/mm)の遅延分散が得られる。
【0078】
本発明の分散補償器は、光遅延走査器や光路で発生した遅延分散と逆特性の分散特性を形成することによって分散補償を行うことができる。分散補償は、
図1に示した第2の分岐器12で分岐した光パルスを出力ポート13に接続したモニタ14で観察し、観察結果に基づいて加熱制御器20の遅延走査制御器21や分散補償制御器22が印加する電力量や電力パターンを制御することによって、光遅延走査器3の遅延時間や分散補償器4の分散補償を調整することで行うことができる。
【0079】
[二光子吸収フォトダイオードの動作例]
図9,10を用いて二光子吸収フォトダイオードの動作例について説明する。
図9は、二光子吸収フォトダイオードに入力する光パルスのパワーPに対する光電流の出力を示している。
図9の8×10
−5<P<3×10
−4Wの領域は二光子吸収フォトダイオードに由来する二次関数特性を有し、この領域の線形領域の感度は0.021A/Wである。
【0080】
本発明の非線形検出器は、二光子吸収フォトダイオードの特性を利用して自己相関波形を検出する。
【0081】
図10は異なる幅の光パルスについて、本発明の光相関計と市販の相関計とで測定した結果を示している。図中の円印は本発明の光相関計による測定結果を表し、実線は市販の相関計による測定結果を示している。
【0082】
[光相関計の遅延器の構成例及びモニタの構成例]
光相関計の光路B上に形成される遅延器5の構成例及びモニタの構成例について
図11を用いて説明する。
図11(a)に示す遅延器5Aは、シリコンフォトニクス細線導波路の線幅を一方の光路Aを形成するシリコンフォトニクス細線導波路よりも幅広とすると共に、線路長を一方の光路Aを通る光パルスの遅延時間に対応した長さとする。
【0083】
線路長を一方の光路Aを通る光パルスの遅延時間に対応した長さとすることによって、分岐した2つの光路A,Bの光パルスの光路の通過に伴う時間遅れを合わせることができる。
【0084】
図11(b)に示す遅延器5Bは、光遅延走査器3と同様の構成からなる遅延器とシリコンフォトニクス細線導波路とによって構成する。光遅延走査器3と同構成の加熱器に一定の電力を印加することによって所定量の遅延を生じさせる。また、遅延器と第1の分岐器2および合流器6とをつなぐシリコンフォトニクス細線導波路の線幅を一方の光路Aを形成するシリコンフォトニクス細線導波路よりも幅広とする。
【0085】
遅延器の遅延時間を一方の光路Aを通る光パルスの遅延時間に対応した長さとすることによって、分岐した2つの光路A,Bの光パルスの光路の通過に伴う時間遅れを合わせることができる。
【0086】
図11(c)はモニタの構成例を示す図である。第2の分岐器12の他方の分岐端の出力ポート13に接続するモニタ14として二光子吸収フォトダイオード14Aを用いる。光パルスの幅はパルスのピーク電力に反比例し、二光子吸収フォトダイオードの検出電流はピーク電力に比例するという性質があるため、モニタとして二光子吸収フォトダイオードを用いる構成とすることによって、分散補償量をモニタすることができる。
【0087】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に基づいて種々変形することが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。