(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
以下の(a)〜(d)のいずれかの塩基配列からなるホスホランバンに特異的な結合性を有する1本鎖RNAであって、硫黄修飾されていることを特徴とするホスホランバン標的修飾RNAアプタマー。
(a)配列番号10又は20で示される塩基配列;
(b)配列番号10又は20で示される塩基配列のN末端側あるいはC末端側の10塩基を欠失した塩基配列;
(c)前記(a)又は(b)に示される塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列;
(d)前記(a)又は(b)に示される塩基配列との相同性が90%以上である塩基配列。
【背景技術】
【0002】
心臓の収縮力制御には、心筋細胞内のCa
2+(カルシウムイオン)が中心的役割を果たすことが明らかになっている。心筋細胞内のCa
2+量は、主として細胞内のCa
2+貯蔵部位である心筋小胞体(SR)へのCa
2+輸送と、心筋小胞体からのCa
2+の遊離によって制御されている(
図1、A)。心筋小胞体へのCa
2+輸送により細胞質Ca
2+濃度が低下すると心筋弛緩が起こり、心筋小胞体からのCa
2+遊離によって細胞質Ca
2+濃度が上昇すると収縮が起こる。
【0003】
心筋細胞内のCa
2+動態では、細胞内のCa
2+を制御している心筋小胞体のCa
2+ポンプATPase(SERCA)タンパク質と、その調節タンパク質のホスホランバン(PLN)のはたらきが重要である。ホスホランバンは、心筋小胞体のCa
2+輸送を司るSERCAの抑制因子として働く。ホスホランバンはcAMP依存性リン酸化酵素(PKA)にリン酸化されることによってSERCAから解離し、Ca
2+輸送が促進されることが明らかにされ、両タンパク質の結合部位も特定されている(非特許文献1、2)(
図1、B)。
【0004】
正常な心筋細胞内Ca
2+動態は、カテコラミンからβ1受容体、アンデニル酸シクラーゼ、cAMP、PKAを介したシグナルを経て、電位依存性カルシウムチャネル(VDCC)のリン酸化、リアノジン受容体(RyR)のリン酸化、ホスホランバンのリン酸化などを介して、最終的に心筋の収縮力の増強及び弛緩の促進をもたらす。ここでホスホランバンのリン酸化はカテコラミンの心筋作用において主要な役割を果たしている(
図2、I)。それに対し、不全心の心筋細胞内Ca
2+動態は、Na−Ca交換(NCX)の異常による細胞外へのCa
2+排出機能の低下、RyRの異常による心筋小胞体から細胞質へのCa
2+漏出、SERCA−PLN系の異常によるSRへのCa
2+取り込み能の低下から、細胞質のCa
2+のオーバーロードが引き起こされ、さらにSERCAの発現が減少し、ホスホランバンの発現が上昇し、リン酸化ホスホランバンが減少することによりホスホランバンによるSERCA抑制が増強されている(
図2、II)。
【0005】
従来、強心薬を主とした心不全治療薬の開発には、動物への投与や取り出した拍動心臓への投与実験による心筋収縮力増強を指標にしたスクリーニング方法が用いられてきた。この方法で得られた強心薬は、細胞外から細胞内へのCa
2+流入を増加させる作用を有するため、弛緩時の細胞質Ca
2+濃度が充分に低下せず、充分な弛緩が得られないために、重症心不全をむしろ悪化させる方向に働くという問題があった。
【0006】
それに対して、ホスホランバンを標的とした医薬品は、ホスホランバンが心臓特異的に発現していることから心臓特異的に作用し、さらに、心臓においてホスホランバンの発現は心房筋と比較して心室筋で多いことから、頻脈を引き起こしにくいと予想される。従来の強心薬等が細胞外から細胞内へのCa
2+流入を増加させることとは異なり、ホスホランバンの阻害剤はSERCAによる心筋小胞体へのCa
2+輸送を促進することから、細胞質Ca
2+濃度が充分に低下して充分な弛緩が得られるだけでなく、心筋小胞体からのCa
2+放出をも増加させることにより最終的に心筋収縮力が増強される。したがって、ホスホランバンを標的とした医薬品は、従来の強心薬と比べて副作用が少なく効果が高い、優れた心疾患治療薬となりうる。また、β1受容体やcAMPのシグナルと独立した作用機序であることから、これらのシグナルに作用する薬剤と併用することもできる利点がある。
【0007】
上記のようなSERCA−PLN系が関与する機序に基づいた心不全治療の安全性と有効性は、遺伝子操作によりホスホランバンを欠損させたマウスの実験(非特許文献3、4)や、ウイルスを用いて不活性なホスホランバンを大量に発現させたラットの実験(非特許文献5)からも示されている。これらの心臓では心筋小胞体のSERCA活性が顕著に増強され、Ca
2+動態の異常が是正されている。しかしながら、これらの遺伝子操作やウイルスによる遺伝子発現を治療方策として臨床で用いることは、安全性や技術的な観点から極めて困難である。
【0008】
特許文献1では、心筋細胞内でのホスホランバンと筋小胞体SERCAの相互作用を阻害することにより、不全心臓における収縮能を高める心不全治療薬として、2つのペプチド複合体と、ホスホランバンの変異タンパク質を明らかにしている。しかしながら、ペプチド複合体や変異タンパク質などは抗原性を有するため、副作用や生体へ投与した場合に十分な効果が得られない可能性が高いという問題がある。また、ホスホランバンとの結合部位を含むCa
2+ポンプ遺伝子組み換えタンパク質と、Ca
2+ポンプとの結合部位を含むホスホランバン遺伝子組み換えタンパク質とを用いて、Ca
2+ポンプとホスホランバンとの結合量を指標として心筋小胞体のCa
2+輸送調節機構(Ca
2+ポンプ−ホスホランバン系)に作用点を有する薬物のスクリーニング方法が開示されているが(特許文献2)、スクリーニング方法が開示されるにとどまり、そのような薬物は見いだされていない。
【0009】
酵素や受容体に結合する短い1本鎖のDNAやRNAであるアプタマーは、医薬品としての利用可能性を有するため種々の分野で注目されている。特定のタンパク質に結合するアプタマーは、SELEX(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment)法を用いて同定することができ、SELEX法により取得したアプタマーとして、プリオンタンパク質と特異的に結合するRNAアプタマー(特許文献3)の他、ビトロネクチンアプタマー(特許文献4)、HGF(肝細胞増殖因子)に特異的に結合するアプタマー(特許文献5)があり、それぞれ、プリオン病の診断薬、抗癌剤、癌転移抑制剤としての用途が開示されている。本願発明者らは、心臓でホスホランバンに作用し心筋小胞体のSERCA活性を促進するDNAアプタマーを同定し、開示しているが(特許文献6)、さらに安定性に優れ、SERCA活性化効果が高いアプタマーの開発が望まれていた。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマー(以下、単に「標識RNAアプタマー」や「ホスホランバン修飾RNAアプタマー」ということもある。)は、心筋小胞体のSERCAに作用するホスホランバンに結合し、ホスホランバンによるSERCA活性の抑制を解除する機能を有するものである。ホスホランバンは、心臓、骨格筋の遅筋及び平滑筋に存在する低分子タンパク質であり、例えば、アクセッション番号AAA60109、バージョンAAA60109.1、GI:190019に登録される52個のアミノ酸からなるタンパク質を例示することができる。ホスホランバンの細胞質ドメインは、ホスホランバンとCa
2+−ATPaseとの機能的な結合にとって必須な領域であるとされている。心筋小胞体のSERCAの阻害因子であるホスホランバンは、SERCAと結合することによりSERCA活性を抑制し、必要に応じてSERCAから解離することによりSERCAを活性化する。心筋小胞体のSERCAが活性化されると、心筋小胞体へのCa
2+輸送が増加し心筋弛緩が促進され、それに引き続く心筋収縮力が増強される。
【0019】
本発明の修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンに特異的な結合性を有し、SERCAからホスホランバンを解離させ、SERCA活性を促進することが出来る物質であり、SELEX法により得ることができる。本発明において「ホスホランバンに特異的な結合性を有する」とは、ホスホランバンをターゲットとしたSELEX法により得ることができることや、化学架橋、ゲルシフトアッセイ、pull down法などの常法によりホスホランバンとの有意な結合を検出できることを意味する。本発明の修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンのSERCA活性の抑制機能を阻害することができることが好ましく、ホスホランバンの細胞質ドメイン、具体的には、アクセッション番号AAA60109、バージョンAAA60109.1、GI:190019に登録される52個のアミノ酸からなるアミノ酸配列の1番目〜32番目のアミノ酸や1番目〜26番目のアミノ酸からなるタンパク質と特異的に結合することが好ましい。
【0020】
SELEX法とは、タンパク質などのターゲットに特異的に結合する物質を得るための操作法である。本発明で行うSELEX法は、ランダム配列をもつDNA又はRNAのプールの中からターゲットに結合する配列をもつものを選択し、PCR(Polymerase chain reaction)法又はRT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法での増幅を行い、それにより得られた1本鎖DNA又は転写したRNAの中から再び結合する配列を選択する。このサイクルを繰り返すことによって結合する核酸の配列を収束させる。それぞれのサイクルにおいて、選択の際にタンパク質とDNA又はRNAプールの濃度比、競合剤などの結合条件を厳しくすることにより、結合特異性の高い配列を得ることができる。
【0021】
本発明の修飾RNAアプタマーを得るためにSELEX法で使用するターゲット物質として、ホスホランバンの細胞質ドメインの任意の領域を含むタンパク質を使用することができるが、SELEX法での精度を高めるために、かかるホスホランバン細胞質ドメインの領域の有するタンパク質に、リンカーを介してタグタンパク質など任意の適切なタンパク質が連結した融合タンパク質を用いることが望ましい。ホスホランバンの細胞質ドメインの任意の領域のアミノ酸配列としては、ホスホランバンタンパク質の第1番目のメチオニンから第32番目のフェニルアラニンまでのアミノ酸配列や、第1番目のメチオニンから第26番目のグルタミンまでのアミノ酸配列を挙げることができる。前記タグとしては、Mycタグ、ヒスチジン(His
6)タグ、HAタグ、FLAGタグ、Niタグ、GSTタグ、MBPタグ、GFPタグ、EGFPタグ等を挙げることができる。また、リンカーとしては、ホスホランバンの細胞質ドメインの任意の領域とタグタンパク質とを、それらの機能を阻害することなく互いに連結することができるものであればよい。また、前記リンカーはその融合タンパク質をSDS電気泳動で検出した場合に、かかる実験系において融合タンパク質を容易に確認できる程度の分子量を付加することができるリンカーであることが好ましい。かかるリンカーとしては、例えば、PDZなどを使用することができる。またこれらの細胞質ドメインの任意の領域、リンカー、タグ等は適宜任意の方法で連結することができ、適当なアミノ酸配列からなるペプチドを介して、又は架橋剤を用いて架橋することにより連結されていてもよく、その連結の順番も特に制限されない。
【0022】
本発明の修飾RNAアプタマーは、例えば、40塩基のDNAランダムライブラリーからSELEX法で取得することができる。DNAランダムライブラリーは、それぞれ4種類のヌクレオチドをランダムに連結した40塩基の1本鎖DNAを、例えば核酸合成用機器等を用いて化学的に合成して得られる。かかる1本鎖DNAを鋳型として1本鎖RNAを合成し、1本鎖RNAの両端にはPCRで増幅するための配列を付加し、5’端にはRNAポリメラーゼでRNAを合成するための配列を付加する。かかるRNAの合成には、DNAランダムライブラリーと修飾された核酸塩基(ATP、CTP、GTP、UTP)を用いて合成する。核酸塩基の修飾の種類や数、修飾された核酸塩基の種類や数、修飾部位等は、修飾RNAアプタマーがホスホランバンへの特異的結合能を有する限り特に制限されず、好ましくは硫黄修飾されたATP、CTP、GTP、UTPを用いた合成、さらに好ましくは硫黄修飾のATPアナログであるdenosin-5’-O- (1-thiotriphosphate), Sp-isomerと、CTP、GTP、UTPを用いた合成を挙げることができる。また、他の修飾がさらに1又は2種類以上組み合わされてもよく、核酸塩基における修飾の部位や数も特に制限されず、核酸塩基1分子に対して1箇所、あるいは2箇所以上が一種類の又は複数の種類の修飾をうけていてもよい。このような修飾された核酸塩基を用いる目的は、合成した修飾RNAの安定性の向上や、安全性等である。中でも、修飾RNAが血中で少なくとも24時間以上安定であり、血中で24時間経過後に、測定開始時の70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の量の修飾RNAが存在することが好ましい。前記血中安定性を向上させる修飾としては、硫黄修飾を好適に例示することができ、硫黄修飾のATPアナログ(例えばATP−α−S、denosin-5’-O- (1-thiotriphosphate), Sp-isomer)、CTP、GTP、UTPを用いた修飾RNAの合成を好適に例示することができる。合成した修飾RNAは、ビーズに固相化したホスホランバンの細胞質ドメインを含まない組み換え融合タンパク質(コントロール融合タンパク質)と混合し、非特異的に結合するRNAを除く。コントロール融合タンパク質に結合しなかったRNAをホスホランバンの細胞質ドメインを含む組み換え融合タンパク質を固相化したビーズと混合する。洗浄後、結合したRNAを溶出、回収する。回収されたRNAを、RT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)に供し、2本鎖DNAを増幅し、これを鋳型に修飾RNAを合成する。これらの修飾RNAをもとに、前述のコントロール融合タンパク質による非特異的結合の除去、融合タンパク質への結合、RT−PCRによる増幅、RNA合成のサイクルを繰り返す。PCR法による増幅サイクルは7〜20サイクル行うが、好ましくは9〜15サイクル行う。
【0023】
上記RT−PCRで増幅した2本鎖DNAは、クローニング・ベクターに挿入し、そのDNA(アプタマー)の配列を決定する。かかるシークエンシングは、ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied biosystems社製)などの自動シークエンシング装置などを用いて行うことができる。得られた配列から、SELEX法実施の際と同じ修飾のRNAを合成し、修飾RNAアプタマーを得ることができる。ホスホランバンの細胞質ドメインを含む組み換え融合タンパク質への、ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの結合能は、担体に結合したホスホランバンの細胞質ドメインを含む組み換え融合タンパク質に結合した修飾RNAアプタマーを検出することにより調べることができる。修飾RNAアプタマーの検出は、アプタマーの5’または3’端にビオチンを付加し、酵素標識したアビジンを用いて、結合したビオチン標識アプタマーを定量することにより求めることができる。
【0024】
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンによるSERCA活性の抑制を解除することができ、かかる効果はSERCA活性を測定することにより確認することができる。SERCA活性は、佐々木らの方法(Sasaki, T. et al., J. Biol. Chem. 267: 1674-1679 (1992))でCa
2+依存性ATPase活性を測定することにより調べることができる。すなわち、イヌ心臓から調製した心筋小胞体濾胞におけるSERCA活性(Ca
2+依存性ATPase活性)を、修飾RNAアプタマー存在下及び非存在下で調べ比較することによって、修飾RNAアプタマーの効果を求めることができる。すなわち、修飾RNAアプタマー存在下及び非存在下におけるSERCA活性比を求めることにより、修飾RNAアプタマーのSERCA活性への効果の程度を知ることができる。また、コントロールとしてホスホランバンが存在しないウサギ骨格筋の筋小胞体濾胞におけるSERCA活性を合わせて調べることもできる。骨格筋の筋小胞体濾胞においては、ホスホランバンが存在せず、ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーによってSERCA活性が変化しないことから、心筋小胞体濾胞と筋小胞体濾胞におけるSERCA活性の比を求め、修飾RNAアプタマーのSERCA活性への効果の程度を測定することもできる。
【0025】
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーとしては、配列番号1〜20、好ましくは配列番号1〜13、15〜20の塩基配列からなる修飾RNAを具体的に例示することができ、中でもアデニンが硫黄により修飾された修飾RNA、具体的にはAdenosin-5’-O-(1-thiotriphosphate), Sp-isomer、GTP、CTP、及びUTPを用いて合成されたホスホランバン標的修飾RNAが好ましい。また、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンへの特異的結合能を有する限り、これらの修飾RNAに限定されるものではなく、置換、欠失、付加等の変異等を含むものでもよい。例えば、配列番号1〜13、15〜20のいずれかで示される塩基配列のN末端側あるいはC末端側、又はN末端側及びC末端側が全体の0〜60%欠失した塩基配列を挙げることができ、配列番号1〜13、15〜20のいずれかで示される塩基配列のN末端側あるいはC末端側、又はN末端側及びC末端側が全体の長さの0〜65%、好ましくは0〜50%、好ましくは0〜40%以上、好ましくは0〜30%以上、好ましくは0〜20%以上、さらに好ましくは0〜10%が欠失した塩基配列を挙げることができる。例えば、配列番号10又は配列番号20の40塩基からなる修飾RNAアプタマー(それぞれApt−RNA−19又はApt−RNA−30ともいう。)について、N末端側又はC末端側の10塩基、すなわち全体の長さの25%を欠失した塩基配列を挙げることができる。また、Apt−RNA−19(配列番号10)又はApt−RNA−30(配列番号20)の40塩基からなる修飾RNAアプタマーについて、N末端側の10塩基及びC末端側の10塩基、すなわち全体の長さの50%を欠失した塩基配列を挙げることができる。また、これらの塩基配列の1若しくは数個の塩基が欠失・置換若しくは付加された塩基配列や、相同性が90%以上である塩基配列を例示することができる。
【0026】
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンと結合し、SERCAとホスホランバンの結合を阻害する機能を有することから、ホスホランバンとSERCAの結合阻害剤として用いることができる。また、かかるSERCAとホスホランバンの結合阻害により、SERCAの活性を増強することができることから、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーはSERCAの活性増強剤として用いることができる。さらに、SERCAの活性が増強されると心筋の収縮及び弛緩機能が増強されることから、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは心筋の収縮及び弛緩機能増強剤として用いることができる。かかる心筋の収縮及び弛緩機能の増強によって、心不全を予防又は治療することができ、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは心不全治療又は予防薬として用いることができる。本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは心臓特異的な作用であり、心拍数増加(頻脈)を引き起こさず、心筋細胞外から細胞内へのCa
2+流入増加を伴わず心筋の収縮及び弛緩を促進しうることから、副作用が少なく、心不全の治療だけでなく、予防にも好適に利用することができる。さらに、本発明は、ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーを、心不全治療及び予防薬を調製するために使用する方法を含む。
【0027】
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーを有効成分とする、SERCAの結合阻害剤や、SERCAの活性増強剤や、心筋の収縮及び弛緩機能増強剤や、心不全治療又は予防薬(以下「本発明の修飾RNAアプタマーを有効成分とする剤」ともいう)は、ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーを有効成分としていればよく、製剤化のために通常使用され薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤等の添加物を含んでいてもよい。また、これら本発明の修飾RNAアプタマーを有効成分とする剤は、他の薬剤やサプリメント、治療薬を含有してもよく、また他の薬剤やサプリメント、治療薬と併用してもよい。本発明の修飾RNAアプタマーを心不全治療又は予防薬として用いる場合は、他の心不全治療薬や他の薬剤、サプリメント等と併用してもよく、手術等を併用してもよい。本発明の修飾RNAアプタマーを有効成分とする剤はその作用機序がβ1受容体やcAMPシグナルと関係がないため、β受容体遮断薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンII受容体遮断薬や、高血圧治療薬、不整脈治療薬、利尿薬等との併用が可能であり、併用によって修飾RNAアプタマーの効果を増強し、高い治療及び予防効果が得られると考えられる。また、本発明の修飾RNAアプタマーを有効成分とする剤は、細胞、組織、生体に投与することができ、その投与方法や投与形態、投与量は適宜選択することができる。また投与対象の細胞、組織の由来や生体は特に制限されず、好ましくは哺乳類であり、例えばヒト、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ハムスターなどを例示することができ、好ましくはヒトを挙げることができる。投与方法としては、例えば、細胞内導入剤、細胞培養液や組織保存液等に添加することにより、細胞や組織に投与することができる。生体に投与する場合は、経口投与のほか、注射や点滴、塗布、坐剤、鼻腔内スプレー等による非経口投与とすることもでき、適宜任意の形態に製剤することができる。この場合、製剤化のために通常使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、防腐剤、等張化剤、安定化剤、分散剤、酸化防止剤、着色剤、香味剤、緩衝剤等の添加物を使用することができる。
【0028】
本発明の修飾RNAアプタマーを有効成分とする心不全治療及び予防薬は、錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤、丸剤、トローチ錠などの固体形態、あるいは、坐剤、軟膏などの半固体形態、注射剤、乳剤、懸濁液、ローション、スプレーなどの液体形態などの製剤形態として製剤化することができる。これらの製剤形態では、剤形に好ましい、製剤上許容される添加物を用いうるが、例えば、乳糖、ブドウ糖、乳糖、果糖、マルトース、炭酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、p−ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル、シロップ、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ワセリン、又は硬質油のような脂質成分、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウム、クエン酸等が挙げられる。
【0029】
本発明の心不全治療又は予防薬の投与量は特に制限されず、被検者や被検動物の体調、病状、体重、年齢、性別等によって適宜調整することができ、例えば一日あたり、0.01μg〜100g/kg体重、より好ましくは0.1μg〜10g/kg体重、さらに好ましくは1μg〜1g/kg体重を投与することができる。本発明の心不全治療又は予防薬の投与回数や投与期間等も特に制限されず、1日あたりの投与量を1日1回又は数回に分けて投与することもできる。本発明の心不全治療又は予防薬におけるホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの含有割合はその剤形に応じて異なるが、一般に固体及び半固体形態の場合には0.01〜10重量%の濃度で、液体形態の場合には0.001〜1重量%の濃度で含有していることが望ましい。
【0030】
以下、本発明をさらに詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0031】
<SELEX法によるホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの選択>
ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの選択は、以下の方法で行った。ホスホランバンの1〜32番目のアミノ酸配列からなるタンパク質にPDZドメイン、Mycタグ、ヒスチジンタグタンパク質を順次連結したPLN
1−32−PDZ−Myc−His
6又は、PDZドメイン、Mycタグ、ヒスチジンタグタンパク質が順次連結したPDZ−Myc−His
6融合タンパク質の調製は、Kimuraらの方法(Kimura,Y.et al.,Mol.Pharmacol.61:667-673,2002)で行った。PLN
1−32−PDZ−Myc−His
6又は、PDZ−Myc−His
6を結合したNi−NTAビーズの調製は、Ni−NTAビーズをPBS−T(0.05%のTween20を含むリン酸バッファー溶液)で平衡化した後に、5μlのビーズにPLN
1−32−PDZ−Myc−His
6又は、PDZ−Myc−His
6 10μgを含むPBS−T 200μlを加え、4℃で30分間振とうした。反応させたビーズは、PBS−T 1mlで3回洗浄した。1本鎖RNAライブラリーとしては、40塩基の混合配列の5’端と3’にそれぞれT7プロモーターとPCR増幅用配列を含む配列P1(配列番号21)とPCR増幅用のP2(配列番号22)を付加した80塩基の2本鎖DNAを合成し、これを鋳型にT7 RNA polymeraseを用いて1本鎖修飾RNAを合成した。かかるRNAは、硫黄修飾ATP(Adenosin-5’-O-(1-thiotriphosphate), Sp-isomer)、CTP、GTP、UTPを使用して合成した。1nmolの1本鎖修飾RNAライブラリーをPBS−T 100μl中98℃で3分間変性させ、直ちに4℃で冷却した。第1回目の選択では、1本鎖RNAライブラリーをPDZ−Myc−His
6結合Ni−NTAビーズ 5μlとBSA 1μg/mlを含むPBS−T 10mlへ添加した。室温で30分間振とうした後、混合物を3,000rpmで5分間遠心分離し、その上清をPLN
1−32−PDZ−Myc−His
6結合Ni−NTAビーズ 5μlと、室温で30分間混合した。ビーズは、PBS−T 1mlで3回洗浄した。タンパク質に結合した修飾RNAアプタマーは、0.5Mのイミダゾール−HCl(pH 7.4)50μlに溶出した。溶出液は、フェノール−クロロホルム混合液で抽出し、1本鎖修飾RNAをエタノールで沈殿させた。70%のエタノールで洗浄した後、1本鎖修飾RNAは、2×RT−PCR反応液 25μl、10pmolのP1プライマー(配列番号21)とP2プライマー(配列番号22)、RT/Platina Taq polymerase(Invitrogen社製)1μlを含むPCR混合液50μlに溶解した。50℃で20分間反応させた後、95℃で2分間変性させた。95℃で30秒間の熱変性、50℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の伸長反応を25サイクルのPCR反応を行い、2本鎖DNAを増幅した。PCR産物の一部を4%アガロースゲルで電気泳動し、正しい長さの2本鎖DNAが増幅されていることを確認した。かかる2本鎖DNAを鋳型に、5×反応液 20μl、硫黄修飾ATP(Adenosin-5’-O-(1-thiotriphosphate), Sp-isomer)、CTP、GTP、UTP(各5mM)、T7 RNA polymerase(プロメガ社製)を含む反応液(100μl)を調整し、37℃で2時間反応を行った。さらに、5unitsのRNase-free DNaseを加え37℃で15分間反応させ鋳型DNAを除いた。
【0032】
かかる1本鎖修飾RNAの一部を4%アガロースゲルで電気泳動し、正しい長さの修飾RNAが得られていることを確認した。マイクロバイオスピンカラム(バイオラッド社製)で精製した1本鎖RNAは、エタノールで沈殿させ、70%のエタノールで洗浄し、PBS−T 100μlに溶解した。この1本鎖修飾RNAを用いて2回目以降のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの選択も1回目の選択と同様に行ったが、2回目以降の選択ではNi−NTAビーズに結合したPLN
1−32−PDZ−Myc−His
6の量をビーズ5μl当たり5μgとした。
【0033】
9回目の選択を行った後、得られた1本鎖修飾RNAは、P1プライマー(配列番号21)とP2プライマー(配列番号22)を使ってPCRで増幅した。PCRで得られた2本鎖DNAは、pCR2.1−TOPOベクター(Invitrogen社製)へ挿入、大腸菌(TOP10:Invitrogen社製)へ導入して形質転換した。生育した大腸菌のコロニーから任意に45個のコロニーを選び、大腸菌からプラスミドを精製した。精製したプラスミドからT7プロモーターとM13逆転写プライマーを使用して、挿入したDNA配列を決定し、アプタマーのDNA配列を決定した。その結果、20種類のDNAアプタマーが得られた。20種類の配列は、表1の通りであった。
【0034】
【表1】
【実施例2】
【0035】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの心筋小胞体SERCA活性への効果>
イヌの心臓より調製した心筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)を、20mMのイミダゾール−HCl(pH6.9)、100mMのKCl、2mMのMgCl
2、5mMのNaN
3、0.1mMのATP、0.35μM Ca
2+(Ca−EGTA buffer:0.5mMのCaCl
2と1.3mMのEGTA)を含む反応液50μlに懸濁し、合成した配列番号1〜7及び配列番号9〜20で示される塩基配列からなる19種類のホスホランバン標的修飾RNAアプタマー(1μM)のいずれか1種類の存在下及び非存在下で、37℃で4分間のATPase活性を測定した。活性測定は、佐々木らの方法(Sasaki, T. et al., J. Biol. Chem. 267: 1674-1679 (1992))を用いた。0.35μM Ca
2+の代わりに2mMのEGTAを加えたCa
2+非存在下でも同様にATPase活性を測定し、両者の量からCa
2+依存性ATPase活性(SERCA活性)を求めた。アプタマーのSERCA活性への効果を見るために、アプタマー存在下と非存在下でのSERCA活性の比を求めた。
【0036】
心筋小胞体19種類のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの存在下と非存在下でのSERCA活性の比を求めた結果を
図3に示す。縦軸は、アプタマーによるSERCA活性の促進の程度をあらわす。アプタマーNo.24(Apt−24、配列番号14)を除く18種類のアプタマーで心筋小胞体のSERCA活性が有意に促進されていた。これらの結果は、ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーがホスホランバンに作用してSERCAに対する抑制を解除しSERCA活性を促進していることを示す。データは、3−5回の測定の平均値と標準偏差を示す。
【実施例3】
【0037】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの血中安定性>
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの血中安定性を調べるために、以下の実験を行った。ヒトの血清1mlに、配列番号23で示される塩基配列からなるホスホランバン標的DNAアプタマー(Apt−DNA−9)又はApt−RNA−19(11−30)ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーを20μg添加し、37℃で0、1、2、3、6、12、又は24時間インキュベートした。各サンプルをエタノール沈殿による濃縮後、アガロースゲル電気泳動により分離し、エチジウムブロマイドにより染色した(
図4)。Apt−DNA−9(11−30)がインキュベーション3時間から分解しはじめ、12時間後にはほぼ完全に分解したのに対し、Apt−RNA−19は24時間後においても、インキュベーション開始時とほぼ同程度の量が分解されずに残っていることが示された。すなわち、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンDNAアプタマーよりも血中安定性に優れており、体内に投与した場合に長時間分解されないためより効果が高いと考えられる。
【実施例4】
【0038】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの心筋細胞への効果>
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの心筋細胞への効果を調べるために、以下の実験を行った。ラット成獣より心筋細胞を調製し、ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーApt−RNA−19(11−30)又はスクランブルの修飾RNAを細胞内導入試薬N-Ter(シグマ社製)と共に心筋細胞に添加した。5%CO
2、37℃にて4時間培養した。スクランブルの修飾RNAは、Apt−RNA−19と同じ40塩基の修飾RNAからなり、塩基組成が同じでありながら塩基配列がランダムな塩基の並びからなる、ネガティブコントロールである。
細胞長の変化とFura-2を用いた細胞内Ca
2+濃度変化は、Iwanagaらの方法(Iwanaga, Y. et al. J. Clin. Invest. 113: 727-736 (2004))により測定した。顕微鏡を用いた細胞長の測定結果を
図5のa−cに示す。Apt−RNA−19(11−30)添加により、細胞長の短縮率(
図5のa)と収縮速度(
図5のb)が有意に増加した。すなわち、Apt−RNA−19添加により細胞収縮能が向上したことが示された。また、
図5のcに示すようにApt−RNA−19(11−30)添加により、細胞弛緩速度が有意に増加し、Apt−RNA−19(11−30)により細胞弛緩能が向上したことが示された。
蛍光顕微鏡による心筋細胞内Ca
2+濃度測定の結果を
図5のd及びeに示す。Apt−RNA−19(11−30)添加により、細胞内最大Ca
2+濃度が有意に増加した(
図5のd)。すなわち、Apt−RNA−19による収縮力増大に対応した細胞内Ca
2+の増加が認められた。また、心筋細胞内Ca
2+濃度低下の時定数を測定した結果、Apt−RNA−19(11−30)添加により、細胞内Ca
2+濃度低下の時定数への効果が有意に減少した(
図5のe)。すなわち、Apt−RNA−19(11−30)によりSERCAが活性化された結果、細胞内Ca
2+低下が速やかに行われ心筋細胞の弛緩能が亢進していることを示す。
これらの結果から、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは心筋細胞の収縮、弛緩能を増強し、また速やかかつ効果的な細胞内Ca
2+濃度変化に効果を有することが示された。
【実施例5】
【0039】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの長さについての検証>
本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの心筋細胞への効果に必要な長さを調べるために、以下の実験を行った。Apt−RNA−19(配列番号10)又はApt−RNA−30(配列番号20)について、全長(1−40)、N末端側10塩基欠失体(11−40)、C末端側10塩基欠失体(1−30)及びN末端及びC末端側10塩基欠失体(11−30)を作製した。これらのアプタマーフラグメント0.1μM又は1μMによるSERCA活性化への効果を実施例2と同様の方法で調べた。その結果、Apt−RNA−19はいずれのフラグメントも全長体と同程度のSERCA活性化効果を有することが示された(
図6)。また、Apt−RNA−30は11−30フラグメントのSERCA活性化効果が少々低かったものの、11−40フラグメント及び1−30フラグメントは、全長よりも高いSERCA活性化効果を有することが示された(
図7)。したがって、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーはN末端側又はC末端側が欠失したフラグメントの形であっても、40塩基のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーと遜色なく高いSERCA活性化効果を有することが示された。
【実施例6】
【0040】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーとホスホランバン細胞質領域との結合>
ビオチンでラベルした本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーとホスホランバン細胞質領域との結合を以下の方法で調べた。実施例1と同様の方法で作製した10μgのPDZ−Myc−His
6結合Ni−NTAビーズと各濃度段階のApt−RNA−19(11−30)又はApt−RNA−30(1−30)とを0.1% Triton X-100と0.1mg/mlを含むPBS中で室温、30分間反応させ、結合させた。同液で洗浄後、HRPでラベルしたアビジンを結合させた。HRPの発色によりビオチンでラベルしたホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの結合量を測定した。結果を
図8及び
図9に示す。ホスホランバン細胞質領域とホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、修飾RNAアプタマー濃度依存的に結合量が増加した。ホスホランバン細胞質領域とApt−RNA−30(11−30)解離定数K
dは27nM、ホスホランバン細胞質領域とApt−RNA−30(1−30)の解離定数K
dは11nMであった。
【実施例7】
【0041】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーのSERCA活性への効果>
イヌの心臓より調製した心筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)に、各濃度段階のApt−RNA−19(11−30)を加え、0.35μMのCa
2+存在下で実施例2と同様の方法でSERCA活性を測定した。同様に各濃度段階のApt−RNA−30(1−30)を加え、0.35μMのCa
2+存在下で実施例2と同様の方法でSERCA活性を測定した。結果を
図10及び
図11に示す。本発明の修飾RNAアプタマー濃度依存的にSERCA活性が増加し、Apt−RNA−19(11−30)のEC
50は0.31μM、Apt−RNA−30(1−30)のEC
50は18nMであった。また、本発明者らが既に得ているホスホランバンDNAアプタマー(No.9、配列番号23;特開2009−189292号公報参照)のEC
50は3.2μMであったことから、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは濃度依存的にSERCA活性を増強し、さらにいずれの濃度においても本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、ホスホランバンDNAアプタマーよりもSERCA活性を増強する効果が高いことが示された。
【実施例8】
【0042】
<ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーのSERCA活性への効果>
カルシウム依存的SERCA活性への本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーの作用メカニズムを調べるために、以下の実験を行った。イヌの心臓より調製した心筋小胞体濾胞(最終濃度50μg/ml)に、TBS(10mM Tris−HCl,pH7.4+150mM NaCl)(コントロール)又は合成したApt−RNA−30(1−30)を2μM、又は抗ホスホランバン抗体(mAb−A1、Kimura, Y. et al. J. Mol. Cell. Cardiol. 23, 1223-1230 (1991))を25μg/ml添加したサンプルを調整した。各サンプルについて、種々のCa
2+濃度段階におけるSERCA活性を実施例2と同様の方法にて調べた。SERCA活性のCa
2+濃度依存性は、最大のSERCA活性を100%としたパーセント表示で示した。結果を
図12に示す。
【0043】
SERCAはCa
2+依存性酵素であるが、心筋小胞体等のホスホランバン存在下では、Ca
2+感受性が低下したコントロール(黒丸)の様なCa
2+濃度依存性曲線を示す。しかし、抗ホスホランバン抗体(mAb−A1)存在下では、抗ホスホランバン抗体がホスホランバンに結合することにより、ホスホランバンとSERCAの結合が阻害され、SERCA抑制がはずれてSERCAのCa
2+感受性が増加し、
図12で示されるようなCa
2+濃度依存性曲線となる。ホスホランバン標的修飾RNAアプタマーサンプル(白丸)でも、抗ホスホランバン抗体サンプル(黒三角)と同様に、SERCAのCa
2+感受性の増加が示された。すなわち、本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーは、抗ホスホランバン抗体と同程度のSERCA抑制解除能を有し、したがって本発明のホスホランバン標的修飾RNAアプタマーはホスホランバンに作用することによりSERCAのCa
2+感受性を増強することが示された。