特許第6041289号(P6041289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041289
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】水中溶接補修方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/06 20060101AFI20161128BHJP
   G21C 19/07 20060101ALI20161128BHJP
   G21C 19/02 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B23K11/06 510
   G21C19/06 A
   G21C19/02 Y
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-40933(P2012-40933)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-176777(P2013-176777A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078499
【弁理士】
【氏名又は名称】光石 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】230111796
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 忠敬
(74)【代理人】
【識別番号】230112449
【弁護士】
【氏名又は名称】光石 春平
(74)【代理人】
【識別番号】100102945
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100120673
【弁理士】
【氏名又は名称】松元 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100182224
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲三
(72)【発明者】
【氏名】鴨 和彦
(72)【発明者】
【氏名】渡部 裕二郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−288999(JP,A)
【文献】 特開2001−287062(JP,A)
【文献】 特開2007−229755(JP,A)
【文献】 特開2001−081799(JP,A)
【文献】 特開2001−151050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/06
G21C 19/02
G21C 19/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中環境下で溶接により鋼材の被補修箇所の補修を行う水中溶接補修方法であって、
前記被補修箇所を当て板で覆う一方、前記鋼材を接地し、
前記当て板の外周縁の内側であって前記被補修箇所を囲むように設定される第一被溶接部に対し、前記当て板側に円盤状電極を押し当てながら該円盤状電極を回転させるとともに、該円盤状電極に通電を行って前記鋼材と前記当て板との間に抵抗熱を発生させ、前記鋼材と前記当て板とを連続的に接合するシーム溶接を行って、前記被補修箇所を前記水中環境と隔離する際に、
前記第一被溶接部を、前記当て板の外周縁から離間し且つ前記被補修箇所を囲むように設けられた四本の直線状の被溶接部から構成し、前記直線状の被溶接部をその両端において隣接する直線状の前記被溶接部と交差させる
ことを特徴とする水中溶接補修方法。
【請求項2】
前記第一被溶接部の内側に該第一被溶接部とは所定距離離間し且つ前記被補修箇所を囲むように設定される第二被溶接部に対し、前記当て板側に円盤状電極を押し当てながら該円盤状電極を回転させるとともに、該円盤状電極に通電を行って前記鋼材と前記当て板との間に抵抗熱を発生させ、前記鋼材と前記当て板とを連続的に接合するシーム溶接を行って、前記被補修箇所を前記水中環境から二重に隔離する
ことを特徴とする請求項1記載の水中溶接補修方法。
【請求項3】
前記所定距離が、該第二被溶接部に対する前記シーム溶接を行うことにより、前記第一被溶接部に対して前記シーム溶接を行った際に発生した引張溶接残留応力を低減することができる距離である
ことを特徴とする請求項2記載の水中溶接補修方法。
【請求項4】
水中環境下で溶接により鋼材の被補修箇所の補修を行う水中溶接補修方法であって、
前記被補修箇所が広範囲にわたる場合は、前記被補修箇所を当て板で覆う一方、前記鋼材を接地し、
前記当て板の外周縁の内側であって前記被補修箇所の一部を囲むように設定される被溶接部に対し、前記当て板側に円盤状電極を押し当てながら該円盤状電極を回転させるとともに、該円盤状電極に通電を行って前記鋼材と前記当て板との間に抵抗熱を発生させ、前記鋼材と前記当て板とを連続的に接合するシーム溶接を行い、
他の当て板を、該他の当て板の外周縁の内側であって前記被補修箇所の他の一部を囲むように設定される他の被溶接部について前記当て板と同様に前記他の当て板を前記鋼材に連続的に接合するシーム溶接を行って、複数の前記被溶接部により前記被補修箇所を囲んで該被補修箇所を前記水中環境から隔離する際に、
前記被溶接部を、前記当て板の外周縁から離間し且つ前記被補修箇所を囲むように設けられた四本の直線状の被溶接部から構成し、前記直線状の被溶接部をその両端において隣接する直線状の前記被溶接部と交差させる
ことを特徴とする水中溶接補修方法。
【請求項5】
前記シーム溶接を行う前に、前記当て板を抵抗スポット溶接により前記鋼材に仮止めする
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に係る水中溶接補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中において溶接により鋼材の被補修箇所の補修を行う水中溶接補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電プラントの使用済燃料ピット(SFP)および原子炉キャビティ(以下、ピットという)は、コンクリートからなる躯体と、この躯体の表面に設けられピット内の水の漏洩を防止するオーステナイト系ステンレス(SUS)鋼からなるライニング板とを備えて構成されている。ここで、ライニング板は、コンクリートからの塩化物イオンによる応力腐食割れ(Cl−SCC)の潜在懸念を有しており、万が一、応力腐食割れが発生した場合、ピット内の水が漏洩してしまう。
【0003】
一方、ピット内には、核燃料サイクルの終期にあって燃焼を終えて使用できなくなった燃料集合体が、使用済燃料貯蔵ラックに収納されて一定期間冷却状態で貯蔵され、熱的に冷却されている。つまり、ライニング板の補修を行う場合であっても、使用済み燃料を水で冷却し続ける必要があることからピット内の水を排出することはできない。そのため、ライニング板の補修を水中で行う技術を確立することが求められている。
【0004】
従来、水中での溶接による補修技術としては、補修箇所に当て板を当て、当て板の周囲をレーザ溶接又はTIG溶接によりすみ肉溶接することで新たに水バウンダリーを構成する当て板補修溶接工法(例えば、下記特許文献1等参照)、もしくは溶接金属で補修箇所を覆う肉盛り溶接工法等が公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−188650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の水中補修技術においては、健全な溶接部を得るために、溶融金属が水と接しないように特別な溶接部シールド装置で溶接部を覆い、気相を確保する必要がある。そして、この溶接部シールド装置は溶接部もしくは当て板全体を覆う必要があることから、装置が大型化し、狭隘場所での施工に制約が生じるという問題があった。
【0007】
また、当て板溶接補修や肉盛り溶接補修によってライニング板に新たな応力腐食割れが発生することを防止するためには、当て板や溶接材料を現状材より耐食性に優れた材質とし、かつ引張溶接残留応力の発生を抑制するような溶接方法を用いる必要があるが、レーザ溶接又はTIG溶接を適用した場合、当て板溶接時の熱により躯体を構成するコンクリートがオーバーヒートされて材質劣化が生じるおそれがあるという問題もあった。
【0008】
このようなことから本発明は、気中空間を作成する必要がなく、水中において省スペース化を図りながら溶接による補修作業を行うことが可能な水中溶接補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための第1の発明に係る水中溶接補修方法は、水中環境下で溶接により鋼材の被補修箇所の補修を行う水中溶接補修方法であって、前記被補修箇所を当て板で覆う一方、前記鋼材を接地し、前記当て板の外周縁の内側であって前記被補修箇所を囲むように設定される第一被溶接部に対し、前記当て板側に円盤状電極を押し当てながら該円盤状電極を回転させるとともに、該円盤状電極に通電を行って前記鋼材と前記当て板との間に抵抗熱を発生させ、前記鋼材と前記当て板とを連続的に接合するシーム溶接を行って、前記被補修箇所を前記水中環境と隔離する際に、前記第一被溶接部を、前記当て板の外周縁から離間し且つ前記被補修箇所を囲むように設けられた四本の直線状の被溶接部から構成し、前記直線状の被溶接部をその両端において隣接する直線状の前記被溶接部と交差させることを特徴とする。
【0010】
また、上記の課題を解決するための第2の発明に係る水中溶接補修方法は、第1の発明に係る水中溶接補修方法において、前記第一被溶接部の内側に該第一被溶接部とは所定距離離間し且つ前記被補修箇所を囲むように設定される第二被溶接部に対し、前記当て板側に円盤状電極を押し当てながら該円盤状電極を回転させるとともに、該円盤状電極に通電を行って前記鋼材と前記当て板との間に抵抗熱を発生させ、前記鋼材と前記当て板とを連続的に接合するシーム溶接を行って、前記被補修箇所を前記水中環境から二重に隔離することを特徴とする。
【0011】
また、上記の課題を解決するための第3の発明に係る水中溶接補修方法は、第2の発明に係る水中溶接補修方法において、前記所定距離が、該第二被溶接部に対する前記シーム溶接を行うことにより、前記第一被溶接部に対して前記シーム溶接を行った際に発生した引張溶接残留応力を低減することができる距離であることを特徴とする。
【0012】
また、上記の課題を解決するための第4の発明に係る水中溶接補修方法は、水中環境下で溶接により鋼材の被補修箇所の補修を行う水中溶接補修方法であって、前記被補修箇所が広範囲にわたる場合は、前記被補修箇所を当て板で覆う一方、前記鋼材を接地し、前記当て板の外周縁の内側であって前記被補修箇所の一部を囲むように設定される被溶接部に対し、前記当て板側に円盤状電極を押し当てながら該円盤状電極を回転させるとともに、該円盤状電極に通電を行って前記鋼材と前記当て板との間に抵抗熱を発生させ、前記鋼材と前記当て板とを連続的に接合するシーム溶接を行い、他の当て板を、該他の当て板の外周縁の内側であって前記被補修箇所の他の一部を囲むように設定される他の被溶接部について前記当て板と同様に前記他の当て板を前記鋼材に連続的に接合するシーム溶接を行って、複数の前記被溶接部により前記被補修箇所を囲んで該被補修箇所を前記水中環境から隔離する際に、前記被溶接部を、前記当て板の外周縁から離間し且つ前記被補修箇所を囲むように設けられた四本の直線状の被溶接部から構成し、前記直線状の被溶接部をその両端において隣接する直線状の前記被溶接部と交差させることを特徴とする。
【0013】
また、上記の課題を解決するための第5の発明に係る水中溶接補修方法は、第1ないし第4のいずれか一つの水中溶接補修方法において、前記シーム溶接を行う前に、前記当て板を抵抗スポット溶接により前記鋼材に仮止めすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明に係る水中溶接補修方法によれば、溶接部もしくは当て板全体を覆うシールド装置が不要となるため、水中における溶接による補修を省スペース化を図りつつ行うことが可能となり、狭隘空間での補修も可能となる。また、シーム溶接は重ね溶接性に優れるため、鋼材と当て板との界面近傍を効率的に加熱でき、高能率化、低入熱化が図れるとともに、溶接時の熱によるコンクリートの材質劣化を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係る水中溶接補修方法における溶接補修部の周囲を破断して示す説明図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3図1のIII-III断面図である。
図4】本発明の実施例2に係る水中溶接補修方法における溶接補修部の周囲を破断して示す説明図である。
図5図4のV-V断面図である。
図6図6(a)は本発明の実施例1に係る水中溶接補修方法を適用した場合の溶接残留応力を示すグラフ、図6(b)は本発明の実施例2に係る水中溶接補修方法を適用した場合の溶接残留応力を示すグラフである。
図7】本発明の実施例3に係る溶接補修部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る水中溶接補修方法の詳細を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図3を用いて本発明の実施例1に係る水中溶接補修方法について説明する。本実施例は、図1ないし図3に示す使用済燃料ピット又は原子炉キャビティ等(以下、ピットという)1に設けられる鋼材としてのライニング板12の被補修箇所14を水中において溶接により補修する例である。
【0018】
図1ないし図3に示すように、ピット1は、コンクリートからなる躯体11の表面に、ピット1内の水の漏洩を防止するようにオーステナイト系ステンレス鋼製のライニング板12(例えば、厚さ6mm)を内張りして構成されている。ライニング板12の躯体11側には数ヶ所にわたってアングル材13による裏当てが施されており、このアングル材13は溶接部28によってライニング板12に固定されている。
【0019】
ここで、ピット1では、図示はしないが核燃料サイクルの終期にあって燃焼を終えて使用できなくなった燃料集合体が、使用済燃料貯蔵ラックに収納されて一定期間冷却状態で貯蔵され、熱的に冷却されている。
【0020】
そのため、ピット1においてライニング板12に例えば応力腐食割れ等による被補修箇所14が発生した場合、燃料集合体の冷却を継続するため、水中において、遠隔操作により被補修箇所14に対する補修(ここでは水バウンダリーの形成)を行う必要がある。
【0021】
そこで、本実施例に係る水中溶接補修方法では、被補修箇所14を覆うように当て板21を配設し、シーム溶接により被補修箇所14を囲むように当て板21とライニング板12とを接合して水バウンダリーを形成することにより被補修箇所14をピット1内の水中環境から隔離する。
【0022】
具体的には、まず、被補修箇所14が概ね中心に位置するように該被補修箇所14を当て板21で覆う。
【0023】
ここで、当て板21としては、ライニング板12に比較してクロム含有率が高く、かつMoを含有する高耐食性を有する材料(例えば、SUS317系オーステナイト系ステンレス鋼等)を用いるものとする。
【0024】
また、当て板21は構造体としての強度を要求されないため、板厚をできるだけ薄くしてシーム溶接時の溶接入熱量を低減し、溶接変形及び応力腐食割れが懸念されるライニング板12の裏面への熱影響を抑制することが望ましい一方、板厚を薄くしすぎると、シーム溶接時にしわが発生し、後述する四本の直線状の被溶接部26a〜26dが交差する部分でライニング板12と当て板21との間に隙間が生じて接合できなくなるおそれがある。そこで、当て板21の板厚は、ライニング板12の1/10程度(例えば、0.5mm)とする。これにより、ライニング板12の裏面への熱影響を抑制しつつライニング板12と当て板12とを確実に接合することが可能となる。
【0025】
次に、ライニング板12を接地する一方、ピット1の内面側から、当て板21の外周縁の内側であって被補修箇所14を囲むように設定される第一被溶接部26に対し、当て板21に円盤状電極22を押し当てながら該円盤状電極22を回転させるとともに、該円盤状電極22に通電を行う。これにより、ライニング板12と当て板21との接触界面を抵抗熱により加熱して接触界面を溶融させ、ライニング板12と当て板21とを連続的に接合して水バウンダリーを形成し、被補修箇所14をピット1内の水中環境から隔離することができる。なお、図2中の符号24は、接触界面を溶融させることにより形成される溶融域(ナゲット)を示している。
【0026】
ここで、本実施例においては、上述した第一被溶接部26を当て板21の外周縁から離間し且つ被補修箇所14を囲むように設けられた四本の直線状の被溶接部26a〜26dから構成している。より詳しくは、各直線状の被溶接部26a〜26dをその両端において隣接する直線状の被溶接部26a〜26dと交差させることにより被補修箇所14を囲んでいる。
【0027】
ただし、四本の直線状の被溶接部26a〜26dをシーム溶接する場合、溶接するにつれ、溶接変形により当て板21にシワが発生し、円盤状電極22で当て板21を押さえつけても、ライニング板12と当て板21との間に隙間が発生し、シーム溶接を実施することが困難となる可能性がある。そこで、図1に示すように、シーム溶接の施工前に抵抗スポット溶接25により変形防止のための仮付け溶接を実施すれば、より確実に被補修箇所14をピット1内の水中環境から隔離することができ、好適である。
以上の処理により、水中における溶接による被補修箇所14の補修を行う。
【0028】
上述した本実施例に係る水中溶接補修方法によれば、第一被溶接部26に対応するライニング板12と当て板21との接触界面はピット1内の水中環境から隔離された状態であり、この水中環境から隔離された接触界面を溶融させ、該ライニング板12と当て板21とを接合することができるため、接合部周辺に気中環境を作成することなく、水中で省スペース化を図りつつ健全な溶接部を得ることができる。
【0029】
しかも、四本の直線状の被溶接部26a〜26dを、各直線状の被溶接部26a〜26dをその両端において隣接する直線状の被溶接部26a〜26dと交差させて被補修箇所14を囲むように施工することにより、被補修箇所14をピット1内の水から確実に隔離することができ、ピット1内からの水の漏洩を防止することができる。
【0030】
なお、上述した実施例においては、ピット1においてライニング板12を補修する例を示したが、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、水中において溶接により鋼材の補修を行う場合に適用可能である。また、第一被溶接部26としては、四本の直線状の被溶接部26a〜26dに限定されるものではなく、例えば、矩形状、円状等、当て板21の外周縁から離間するとともに被補修箇所14を水中環境から隔離することが可能な形状であればよい。
【実施例2】
【0031】
図4ないし図6を用いて本発明の実施例2に係る水中溶接補修方法について説明する。
本実施例に係る水中溶接補修方法は、上述した実施例1において、上述した第一被溶接部26の内側(被補修箇所14側)にさらに被補修箇所14を囲むようにシーム溶接を施す例である。その他の構成は上述した実施例1とおおむね同様であり、以下、上述した実施例1と同様の構成については重複する説明を適宜省略し、異なる点を中心に説明する。
【0032】
図4及び図5に示すように、本実施例においては実施例1において説明した第一被溶接部26に対してシーム溶接を行い、ライニング板12と当て板21とを接合した後、さらに、該第一被溶接部26の内側に所定の距離(例えば、5mm)をおいて設定される第二被溶接部27に対してシーム溶接を行い、ライニング板12と当て板21とを接合して二重に水バウンダリーを形成することにより被補修箇所14をピット1内の水中環境から隔離する。
【0033】
第二被溶接部27は、第一被溶接部26から離間し且つ被補修箇所14を囲むように設けられた四本の直線状の被溶接部27a〜27dから構成されている。そして、第一被溶接部26と同様、各直線状の被溶接部27a〜27dをその両端において隣接する直線状の被溶接部27a〜27dと交差させることにより被補修箇所14を囲んでいる。これにより、第一被溶接部26と第二被溶接部27とで二重の水バウンダリーが形成されることとなり、被補修箇所14をピット1内の水中環境から確実に隔離している。
【0034】
なお、第一被溶接部26と第二被溶接部27との距離は、第二被溶接部27に対してシーム溶接を行うことにより、第一被溶接部26に対してシーム溶接を行った際に発生した引張溶接残留応力を低減することができる範囲とすればより好適である。
【0035】
このような構成とすれば、図6に示すように、本実施例に係る水中溶接補修方法を適用することで、上述した実施例1に係る水中溶接補修方法を適用した場合に比較して、第一被溶接部26における引張溶接残留応力を低減することができる。なお、図6において、溶接線直角方向位置0mmの位置が第一被溶接部26における引張溶接残留応力を示し、図6(b)における溶接線直角方向位置−5mmの位置が第二被溶接部27における引張溶接残留応力を示している。
【0036】
上述した本実施例に係る水中溶接補修方法によれば、被補修箇所14を囲むようにシーム溶接を施工する際、万が一、第一被溶接部26において溶接欠陥があった場合であっても、第二被溶接部27を設けたことにより、水の漏洩発生の確率を大幅に低減することができ、補修箇所の信頼性をより向上させることができる。
【0037】
さらに、第一被溶接部26におけるシーム溶接の後に適度な距離をおいて第二被溶接部27へのシーム溶接を施工すれば、第一被溶接部26へのシーム溶接によりライニング板12の裏面に発生する溶接線方向の引張溶接残留応力を低減することができる。引張溶接残留応力は応力腐食割れの原因の1つであることから、この引張溶接残留応力を低減することにより、被補修箇所14の拡大を抑制することができる。
【実施例3】
【0038】
図7を用いて本発明の実施例3に係る水中溶接補修方法について説明する。
本実施例に係る水中溶接補修方法は、上述した実施例1において、予防保全等により被補修箇所14が広範囲にわたる場合の例である。その他の構成は上述した実施例1とおおむね同様であり、以下、上述した実施例1と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明を適宜省略し、異なる点を中心に説明する。
【0039】
図7に示すように、本実施例に係る水中溶接補修方法においては、広範囲にわたる被補修箇所14を覆うため、複数枚の当て板21を用いる。
【0040】
具体的には、まず、一枚目の当て板21−1を上述した実施例1において説明した方法によりライニング板12に接合した後、一枚目の当て板21−1の被溶接部26によって囲まれる領域と二枚目の当て板21−2の被溶接部26によって囲まれる領域とが一部重なるように、二枚目の当て板21−2を配置し、二枚目の当て板21−2を上述した実施例1において説明した方法によりライニング板12に接合する。
【0041】
同様にして、必要な枚数の当て板21をライニング板12に接合する。
なお、一枚目の当て板21−1に対応する第一被溶接部26(請求項4の被溶接部に対応)は、一枚目の当て板21−1の外周縁の内側であって被補修箇所14の一部を囲むように設定され、二枚目の当て板21−2に対応する第一被溶接部26(請求項4の他の被溶接部に対応)は、二枚目の当て板21−2の外周縁の内側であって被補修箇所14の他の一部を囲むように設定される。さらに、本実施例では、少なくとも被補修箇所14に並行する直線状の被溶接部26b,26dは、その両端が一枚目の当て板21−1、二枚目の当て板21−2それぞれの端部まで達するように設定される。このように構成することにより、複数の当て板21に対応する第一被溶接部26全てによって被補修箇所14を囲み、該補修箇所14をピット1内の水中環境から隔離する。
【0042】
上述した本実施例に係る水中溶接補修方法によれば、応力腐食割れが発生した場合の補修だけでなく、広い範囲のライニング部を損傷した場合や応力腐食割れが発生する懸念がある場合の予防保全にも当て板溶接を適用できる。しかも、隣接する当て板21の第一被溶接部26によって囲まれた領域が一部重なるようにすることにより、複数枚の当て板21を用いた場合であっても、被補修箇所14を確実にピット1内の水中環境から隔離することができる。
【0043】
なお、本実施例ではライニング板12と当て板21との接合を実施例1において説明した方法により行う例を示したが、本発明は上述した構成に限定されるものではなく、例えば、ライニング板12と当て板21との接合を実施例1において説明した方法により行ってもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、使用済燃料ピットや原子炉キャビティ等のライニング板の補修を水中において溶接により行う水中溶接補修方法に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0045】
1 ピット
11 躯体
12 ライニング板
13 アングル材
14 被補修箇所
21 当て板
22 円盤状電極
24 溶融域
25 抵抗スポット溶接部
26 第一被溶接部
27 第二被溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7