特許第6041293号(P6041293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041293甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法および甘柿果実の炭酸ガスくん蒸装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041293
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法および甘柿果実の炭酸ガスくん蒸装置
(51)【国際特許分類】
   A01M 17/00 20060101AFI20161128BHJP
   A01F 25/00 20060101ALI20161128BHJP
   A23B 7/148 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   A01M17/00 Q
   A01F25/00 C
   A23B7/148
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-117371(P2012-117371)
(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2013-243937(P2013-243937A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187149
【氏名又は名称】昭和電工ガスプロダクツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080838
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 光康
(72)【発明者】
【氏名】馬場 紀子
(72)【発明者】
【氏名】法村 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】江嶋 亜祐子
(72)【発明者】
【氏名】服部 良隆
(72)【発明者】
【氏名】中山 孝
(72)【発明者】
【氏名】羽野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】則松 新介
(72)【発明者】
【氏名】矢野 貴久
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−155099(JP,A)
【文献】 特開2000−262209(JP,A)
【文献】 特開2004−208534(JP,A)
【文献】 特開平04−325053(JP,A)
【文献】 米国特許第05968573(US,A)
【文献】 鹿島哲郎,クリ果実内のクリシギゾウムシ幼虫に対するドライアイスを用いた炭酸ガスくん蒸の有効性,茨城県農業総合センター園芸研究所研究報告,日本,茨城県農業総合センター園芸研究所,2010年 3月,No.17,p.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 13/00
A01M 17/00
A01F 25/00
A23B 7/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫の寄生した甘柿果実をくん蒸室に収納し炭酸ガスでくん蒸し害虫を駆除する甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法において、前記くん蒸室の内部温度を温度調整装置により−4℃以上4℃以下に調整することを特徴とする甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法。
【請求項2】
くん蒸室内の炭酸ガス濃度を30%〜60%に調整及び維持し、くん蒸処理時間を24時間〜48時間とすることを特徴とする請求項1記載の甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法。
【請求項3】
くん蒸室内の炭酸ガス濃度を測定し、濃度が設定値より低下した場合に炭酸ガスを追加投入によりくん蒸室内の炭酸ガス濃度を維持することを特徴とする請求項1または2記載の甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法。
【請求項4】
害虫はカイガラムシ類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘柿果実に寄生した害虫をくん蒸により駆除する甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法および炭酸ガスくん蒸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穀物や果実の炭酸ガスくん蒸による殺虫処理が実施されている。例えば、特公平7−88285号公報には貯蔵玄米害虫の炭酸ガスくん蒸による殺虫方法が開示され、特開2000−262209号公報には青果物穀物殺虫装置が開示されている。
【0003】
しかし甘柿果実については、炭酸ガスの作用により果実の軟化が急速に進行することによる商品価値の低下がおこるため、炭酸ガスくん蒸を行うことができなかった。
【0004】
また、一般的に低温では害虫の活性が落ち、炭酸ガスによる殺虫の効果が低下すると考えられ、低温での炭酸ガスくん蒸は実施されなかった。
【0005】
そのため現状では、エアガンを使用した手作業で甘柿果実表面の害虫を吹き飛ばす駆除方法がとられ、多量の柿果実の処理には膨大な時間とハンドリングコストがかかる上に、害虫の残留が多く非効率な作業となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−88285号公報
【特許文献2】特開2000−262209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、甘柿果実を商品価値の低下を起こさずに安価で確実に害虫駆除できる炭酸ガスくん蒸方法を提供することを目的としている。
【0008】
本発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴は次の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、より完全に明らかになるであろう。ただし、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、甘柿果実の炭酸ガスくん蒸において、温度調整装置によりくん蒸室内の温度を−4℃以上4℃以下に調整する甘柿果実の炭酸ガスくん蒸方法を構成している。
【発明の効果】
【0010】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1に係る発明によれば、甘柿果実の炭酸ガスくん蒸において、温度調整装置によりくん蒸室内の温度を−4℃以上4℃以下に調整することで、甘柿果実の軟化を抑制することができ、商品価値の低下を防ぐことができる。また、後述の実験結果のとおり、低温であっても甘柿果実に寄生する害虫を駆除できる。
(2)請求項2も、(1)と同様な効果が得られるとともに、炭酸ガス濃度を30%〜60%に調整及び維持することで、果実の軟化による商品価値の低下を防止することができ、1回の処理あたりのくん蒸処理時間が24時間〜48時間で迅速な処理ができる。
(3)請求項3も、(2)と同様な効果が得られるとともに、炭酸ガスの果実への吸収や空気の流出によりくん蒸室内の炭酸ガス濃度が低下した場合でも、適切な炭酸ガス濃度を自動で維持することができる。
(4)請求項4も、(2)と同様な効果が得られるとともに、カイガラムシ類の駆除において効果を得ることができる。
(5)請求項5に係る発明により、甘柿果実の炭酸ガスくん蒸において、くん蒸室内の温度を−4℃以上4℃以下に調整する温度調整装置を備えることで甘柿果実の軟化を抑制して商品価値の低下を防ぎ、かつ甘柿果実に寄生する害虫を駆除できる甘柿果実の炭酸ガスくん蒸装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を実施するための第1の形態の概略説明図。
図2】本発明を実施するための第1の形態による実験のくん蒸室内の温度と二酸化炭素濃度の変化を示す図。
図3】本発明を実施するための第1の形態による実験の害虫駆除効果を示す図。
図4】本発明を実施するための第1の形態の温度条件による死虫率を示す図。
図5】本発明を実施するための第2の形態の概略説明図。
図6】本発明を実施するための第3の形態の概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
【0013】
図1に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は本発明の甘柿果実のくん蒸方法で、この甘柿果実のくん蒸方法1は甘柿果実のくん蒸装置2により、害虫の寄生した甘柿果実をくん蒸室に収納する収納工程と、該くん蒸室内部の温度を−4℃以上4℃以下に調整する温度調整工程と、前記くん蒸室内部に炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給工程と、くん蒸室内部の炭酸ガス濃度を調整する炭酸ガス濃度調整工程と、甘柿果実のくん蒸を行うくん蒸工程とで構成されている。
【0014】
甘柿果実のくん蒸装置2は害虫の寄生した甘柿果実4を内部に収納するくん蒸室10と、このくん蒸室10内部の温度を−4℃から4℃に調整することができる温度調整装置30と、前記くん蒸室10内部に希釈炭酸ガスを供給する希釈炭酸ガス供給装置20と、前記くん蒸室10内の炭酸ガス濃度を調整する炭酸ガス濃度調整手段19とより構成されている。
【0015】
前記炭酸ガス濃度調整手段19は、前記くん蒸室10内のガスの循環を行う循環ブロアー12と、前記くん蒸室10内の炭酸ガス濃度を測定する炭酸ガス濃度計13と、前記くん蒸室10から空気やガスを排気する排気弁15を介装した排気路14で構成されている。
【0016】
前記希釈炭酸ガス供給装置20は炭酸ガスが充填された炭酸ガス容器21と、この炭酸ガス容器からガス混合器25へ炭酸ガスを供給する炭酸ガス供給路22と、前記ガス混合器25に供給された炭酸ガスを希釈するエアーを供給するエアーコンプレッサー23と、このエアーコンプレッサー23から前記ガス混合器25へエアーを供給するエアー供給路24と、炭酸ガスを所定の濃度にエアーで希釈する前記ガス混合器25と、前記ガス混合器25から前記くん蒸室へ希釈炭酸ガスを供給する供給弁27を介装した希釈炭酸ガス供給路26で構成されている。この希釈炭酸ガス供給装置20は、希釈率を調整することにより、炭酸ガスのみやエアーのみの供給を行うこともできる。
【0017】
前記温度調整装置30は、前記くん蒸室10内に設置された温度調整装置室内機31と、前記くん蒸室10の外部に設置された温度調整装置室外機32と、温度調整装置室内機31および温度調整装置室外機32を接続し、温度調整装置室内機31に冷媒を供給する冷媒配管33とより構成されている。
【0018】
甘柿果実4は通気性のあるコンテナ5に収納して前記くん蒸室10に収納する収納工程を行う。その後前記温度調整装置30により前記くん蒸室内を−4℃から4℃に調整する温度調整工程を行い、前記希釈炭酸ガス供給装置20により、炭酸ガス濃度30〜60%の希釈炭酸ガスを前記くん蒸室10に供給する炭酸ガス供給工程を行う。その後、余分なくん蒸室内の空気は前記排気路14より排出し、前記くん蒸室10内がムラ無く30〜60%の炭酸ガス濃度になったら、前記排気弁15と前記供給弁27を閉止する炭酸ガス濃度調整工程を行い、くん蒸工程を開始する。
【0019】
炭酸ガス濃度調整工程においては、前記くん蒸室10内の炭酸ガス濃度にムラが発生する場合は前記循環ブロアー12を運転して攪拌を行い炭酸ガス濃度を均一にする。また、前記くん蒸室10内の炭酸ガス濃度が低下する場合は前記希釈炭酸ガス供給装置により必要に応じて希釈炭酸ガス又は炭酸ガスの追加供給を行う。
【0020】
前記くん蒸工程は、24時間〜48時間の時間くん蒸した後、前記くん蒸室10の扉を開放する等して内部の希釈炭酸ガスを排出し、くん蒸工程を終了する。
なお、くん蒸を行う際には図2に示すように温度調整装置30炭酸ガス濃度調整手段19によりくん蒸室内の温度および炭酸ガス濃度を一定に保って行う。
【0021】
甘柿果実のくん蒸試験を前記甘柿果実のくん蒸方法1にて実施し、炭酸ガス濃度又はくん蒸室10内の温度をこれと変更した場合と比較した。
【0022】
カイガラムシ類が寄生した「富有」、「太秋」などの甘柿果実に前記甘柿果実のくん蒸方法1を実施し、24〜48時間処理後、カイガラムシ類の生死の確認を行った。
【0023】
図3に示すように、前記甘柿果実のくん蒸方法1にて実施した前記材料及び方法の甘柿果実のくん蒸実験において、炭酸ガス濃度30〜60%で供試虫の死虫率が大幅に増加した。また、甘柿果実の軟化の急激な進行はおこらなかった。
【0024】
前記甘柿果実のくん蒸方法1から炭酸ガス濃度を60%より高い濃度に変更した場合、甘柿果実の軟化の発生が確認された。
【0025】
前記甘柿果実のくん蒸方法1から炭酸ガス濃度を30%より低い濃度に変更した場合、図3に示すとおり、供試虫の死虫率の低下が確認された。
【0026】
前記甘柿果実のくん蒸方法1から前記くん蒸室10内の温度を5℃に変更した場合、甘柿果実の急激な軟化が確認された。
【0027】
前記甘柿果実のくん蒸方法1から前記くん蒸室10内の温度を−5℃に変更した場合、甘柿果実の凍結が確認された。
【0028】
図4に示すように、くん蒸室10内の温度を低温(本実験においては−1℃)にしてくん蒸を行った場合、くん蒸室10内の温度が25℃の場合に比べてカイガラムシ類の死虫率が大幅に向上した。
【0029】
以上より、炭酸ガス濃度30%〜60%、−4℃〜4℃の環境で甘柿果実のくん蒸を実施することが適切であることを確認した。
【0030】
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図5および図6に示す本発明を実施するための異なる形態について説明する。なお、この本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0031】
図5に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、供給弁27を自動供給弁28に、排気弁15を自動排気弁16に変更し、自動供給弁28および自動排気弁16を炭酸ガス濃度計13に自動弁制御配線18で接続し、それぞれ炭酸ガス濃度計13によって計測された濃度により自動でガスを供給、排出をおこなう事ができ、くん蒸室10の炭酸ガスの濃度が低下した場合には自動で炭酸ガスの追加供給をおこなう事ができる炭酸ガス濃度調整工程および炭酸ガス濃度調整手段19Aにした点で、このような甘柿果実のくん蒸方法1Aおよび甘柿果実のくん蒸装置2Aにしても、前記本発明を実施するための第1の形態と同様の効果が得られる。
【0032】
図6に示す本発明を実施するための第3の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、希釈炭酸ガス供給装置20を炭酸ガス容器41と、供給弁43を介装した炭酸ガス供給路42で構成される炭酸ガス供給装置40に変更し、これを用いた炭酸ガス供給工程にした点で、このような甘柿果実のくん蒸方法1Bおよび甘柿果実のくん蒸装置2Bにしても、前記本発明を実施するための第1の形態と同様の効果が得られるとともに、希釈炭酸ガス供給装置20に比べコストダウンがはかれる。
【0033】
前記第3の形態において炭酸ガスの供給方法は、予めくん蒸室10が30%〜60%となる炭酸ガス必要量をその内容積を基に計算し、その必要量の炭酸ガスを炭酸ガス供給装置40により供給する。その際炭酸ガスは空気より重いため、前記くん蒸室10内の低部に滞留し、前記くん蒸室10内の空気は排気路14より排出される。供給が終了したら供給弁43と排出弁14を閉止し、循環ブロワー12にて攪拌して前記くん蒸室10内の炭酸ガス濃度を均一にする。炭酸ガスの供給量は、炭酸ガス容器21の重量や本数等で確認することができる。
【0034】
また、炭酸ガスの供給方法について、炭酸ガスが低部に滞留する性質を利用する方法もある。この場合は炭酸ガス濃度計13により前記くん蒸室10内の一定の高さまで炭酸ガスの滞留が確認できたら供給弁43と排出弁14を閉止し、循環ブロワー12にて攪拌して前記くん蒸室10内の炭酸ガス濃度を均一にする。一定の高さは、前記くん蒸室10の形状や容積から計算する又は試運転することにより、攪拌後に30%〜60%となる高さを求める。
【産業上の利用の可能性】
【0035】
本発明は、甘柿果実を生産、処理、流通、販売する産業で利用される。
【符号の説明】
【0036】
1:甘柿果実のくん蒸方法、 2:甘柿果実のくん蒸装置、
4:甘柿果実、 5:コンテナ、
10:くん蒸室、 12:循環ブロワー、
13:炭酸ガス濃度計、 14:排気路、
15:排気弁、 16:自動排気弁、
17:炭酸ガス濃度計ガスサンプル供給路、
18:自動弁制御配線、 19:炭酸ガス濃度調整手段、
20:希釈炭酸ガス供給装置、 21:炭酸ガス容器、
22:炭酸ガス供給路、 23:エアーコンプレッサー、
24:エアー供給路、 25:ガス混合装置、
26:希釈炭酸ガス供給路、 27:供給弁、
28:自動供給弁、 30:温度調整装置、
31:温度調整装置室内機、 32:温度調整装置室外機、
33:冷媒配管、 40:炭酸ガス供給装置、
41:炭酸ガス容器、 42:炭酸ガス供給路、
43:供給弁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6