(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明による実施形態を説明する。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0019】
以下、リチウム二次電池に係る好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な電池一般をいい、リチウム二次電池等の蓄電池(すなわち化学電池)のほか、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(すなわち物理電池)を包含する。また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオン(Liイオン)を利用し、正負極間におけるLiイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。その限りにおいて、例えば、Liイオン以外の金属イオン(例えばナトリウムイオン)を電荷担体として併用する二次電池も本明細書における「リチウム二次電池」に包含され得る。一般にリチウムイオン二次電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0020】
図1および
図2に示すように、リチウム二次電池100は、角型箱状の電池ケース10と、電池ケース10内に収容される捲回電極体20とを備える。電池ケース10は上面に開口部12を有している。この開口部12は、捲回電極体20を開口部12から電池ケース10内に収容した後、蓋体14によって封止される。電池ケース10内にはまた、非水電解質(非水電解液)25が収容されている。蓋体14には、外部接続用の外部正極端子38と外部負極端子48とが設けられており、それら端子38,48の一部は蓋体14の表面側に突出している。また、外部正極端子38の一部は電池ケース10内部で内部正極端子37に接続されており、外部負極端子48の一部は電池ケース10内部で内部負極端子47に接続されている。
【0021】
図3に示すように、捲回電極体20は、長尺シート状の正極(正極シート)30と、長尺シート状の負極(負極シート)40とを備える。正極シート30は、長尺状の正極集電体32とその少なくとも一方の表面(典型的には両面)に形成された正極活物質層34とを備える。負極シート40は、長尺状の負極集電体42とその少なくとも一方の表面(典型的には両面)に形成された負極活物質層44とを備える。捲回電極体20はまた、長尺シート状の2枚のセパレータ(セパレータシート)50A,50Bを備える。正極シート30および負極シート40は、2枚のセパレータシート50A,50Bを介して積層されており、正極シート30、セパレータシート50A、負極シート40、セパレータシート50Bの順に積層されている。該積層体は、長尺方向に捲回されることによって捲回体とされ、さらにこの捲回体を側面方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状に成形されている。なお、電極体の形態は、上述のような捲回電極体に限定されず、電池の形状や使用目的等に応じて、例えばラミネート型(積層型)等の適切な形状および構成を適宜採用することができる。
【0022】
捲回電極体20の幅方向(捲回方向に直交する方向)の中央部には、正極集電体32の表面に形成された正極活物質層34と、負極集電体42の表面に形成された負極活物質層44とが重なり合って密に積層された部分が形成されている。また、正極シート30の幅方向の一方の端部には、正極活物質層34が形成されずに正極集電体32が露出した部分(正極活物質層非形成部36)が設けられている。この正極活物質層非形成部36は、セパレータシート50A,50Bおよび負極シート40からはみ出している。すなわち、捲回電極体20の幅方向の一端には、正極集電体32の正極活物質層非形成部36が重なり合った正極集電体積層部35が形成されている。また、捲回電極体20の幅方向の他端にも、上記一端の正極シート30の場合と同様に、負極集電体42の負極活物質層非形成部46が重なり合った負極集電体積層部45が形成されている。なお、セパレータシート50A,50Bは、正極活物質層34および負極活物質層44の積層部分の幅より大きく、捲回電極体20の幅より小さい幅を有する。これを正極活物質層34および負極活物質層44の積層部分に挟むように配することで、正極活物質層34および負極活物質層44が互いに接触して内部短絡が生じることを防いでいる。
【0023】
次に、上述のリチウム二次電池を構成する各構成要素について説明する。
リチウム二次電池の正極(典型的には正極シート)を構成する正極集電体としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。そのような導電性部材としては、例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体の形状は、電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。正極集電体の厚さも特に限定されず、例えば5μm〜30μmとすることができる。正極活物質層は、正極活物質の他、必要に応じて導電材、結着剤(バインダ)等の添加剤を含有し得る。
【0024】
正極活物質としては、リチウム二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種または2種以上を、特に限定なく使用することができる。例えば、リチウム(Li)と少なくとも1種の遷移金属元素とを構成金属元素として含む層状構造やスピネル構造等のリチウム遷移金属化合物(典型的には酸化物)、ポリアニオン型(例えばオリビン型)のリチウム遷移金属化合物等を、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。より具体的には、例えば以下の化合物を用いることができる。
【0025】
(1)次の一般式(A1):Li
1+αMO
2;で表される、典型的には層状構造のリチウム遷移金属酸化物。ここで、Mは、Ni,Co,Mn等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、LiNiO
2、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2等が挙げられる。
(2)次の一般式(B1):Li
1+αMn
2−xM
xO
4;で表される、典型的にはスピネル構造のリチウム遷移金属酸化物。ここで、xは0≦x<2であり、典型的には0≦x≦1である。xが0より大きい場合、Mは、Mn以外の任意の金属元素または非金属元素であり得る。Mが遷移金属元素の少なくとも1種を含む組成のものが好ましい。具体例としては、LiMn
2O
4,LiNi
0.5Mn
1.5O
4,LiCrMnO
4等が挙げられる。
(3)次の一般式(C1):Li
2+αMO
3;で表されるリチウム遷移金属酸化物。ここで、Mは、Mn,Fe,Co等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、Li
2MnO
3,Li
2PtO
3等が挙げられる。
(4)次の一般式(D1):Li
1+αMPO
4;で表されるリチウム遷移金属化合物(リン酸塩)。ここで、Mは、Mn,Fe,Ni,Co等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、LiMnPO
4,LiFePO
4等が挙げられる。
(5)次の一般式(E1):Li
2+αMPO
4F;で表されるリチウム遷移金属化合物(リン酸塩)。ここで、Mは、Mn,Ni,Co等の遷移金属元素の少なくとも1種を含み、他の金属元素または非金属元素をさらに含み得る。具体例としては、LiMnPO
4F等が挙げられる。
(6)Li
1+αMO
2とLi
2+αMO
3との固溶体。ここで、Li
1+αMO
2は上記(1)に記載の一般式(A1)で表される組成を指し、Li
2+αMO
3は上記(3)に記載の一般式(C1)で表される組成を指す。具体例としては、0.5LiNiMnCoO
2−0.5Li
2MnO
3で表される固溶体が挙げられる。
なお、上記(1)〜(6)中の各組成式におけるαは、0≦α≦0.5であり、典型的には0≦α≦0.3(例えば0≦α≦0.2)が適当である。
【0026】
ここに開示される技術の好ましい一態様に係るリチウム二次電池は、正極活物質として、層状の結晶構造(典型的には、六方晶系に属する層状岩塩型構造)を有するリチウム遷移金属酸化物を含む。例えば、正極活物質の90質量%以上(例えば、実質的に100質量%)が上記層状リチウム遷移金属酸化物である構成を好ましく採用し得る。
【0027】
上記層状リチウム遷移金属酸化物は、Ni,CoおよびMnのうちの少なくとも1種を含むことが好ましい。好適例として、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物およびリチウムマンガン酸化物が挙げられる。ここで、リチウムニッケル酸化物とは、リチウム(Li)とニッケル(Ni)と酸素とを構成元素として含む酸化物のほか、リチウム、ニッケル、酸素以外に他の少なくとも1種の元素を、原子数換算でニッケルと同程度またはニッケルよりも少ない割合で構成元素として含む酸化物をも包含する意味である。上記LiおよびNi以外の金属元素は、例えば、Co,Mn,W,Cr,Mo,Ti,Zr,Nb,V,Al,Mg,Ca,Na,Fe,Cu,Zn,Si,Ga,In,Sn,La,Ce,BおよびF等から選択される1種または2種以上の元素であり得る。リチウムコバルト酸化物およびリチウムマンガン酸化物についても同様の意味である。
【0028】
ここに開示されるリチウム二次電池の正極
活物質としては、少なくともNiを含む組成の層状リチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を好ましく採用し得る。例えば、リチウム以外の金属元素の総量を100モル%として、Niを10モル%以上(より好ましくは20モル%以上)含有する層状リチウム遷移金属酸化物を含む正極
活物質が好ましい。
【0029】
このようなNi含有層状リチウム遷移金属酸化物の一好適例として、Ni,CoおよびMnの全てを含む層状リチウム遷移金属酸化物(以下「LiNiCoMn酸化物」ともいう。)が挙げられる。例えば、原子数基準で、Ni,CoおよびMnの合計量を1として、Ni,CoおよびMnの量がいずれも0を超えて0.7以下(より好ましくは0.1を超えて0.6以下、典型的には0.3を超えて0.5以下)であるLiNiCoMn酸化物が好ましい。なかでも特に、Ni,CoおよびMnの量が概ね同程度であるLiNiCoMn酸化物(例えばLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)が好ましい。
【0030】
上記層状リチウム遷移金属酸化物は、Ni,CoおよびMnの少なくとも1種の他に、付加的な構成元素(添加元素)として、他の1種または2種以上の元素を含有し得る。かかる付加的な元素の好適例として、W,Cr,Mo,Ti,Zr,Nb,V,Al,Mg,Ca,Na,Fe,Cu,Zn,Si,Ga,In,Sn,La,Ce,BおよびFが例示される。例えば、上記添加元素として、W,CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素を含む組成の層状リチウム遷移金属酸化物(例えばLiNiCoMn酸化物)を好ましく採用し得る。このような添加元素の添加量は、層状リチウム遷移金属酸化物に含まれるリチウムおよび酸素以外の元素の総量を100モル%として、例えばその0.001〜5モル%程度(典型的には0.005〜1モル%程度)とすることができる。特に、上記添加元素として少なくともWを含む組成が好ましい。かかる層状リチウム遷移金属酸化物を含む正極活物質を用いた電池は、反応抵抗が低減され、入出力特性に優れたものとなり得る。あるいは、上記のような添加元素を含まない層状リチウム遷移金属酸化物であってもよい。
【0031】
ここに開示される技術の他の好ましい一態様に係るリチウム二次電池は、正極活物質として、上記一般式(B1)で表される化合物を含む。例えば、正極活物質の90質量%以上(例えば、実質的に100質量%)が上記一般式(B1)で表される化合物である構成を好ましく採用し得る。
上記一般式(B1)で表される化合物の好適例として、該一般式(B1)におけるMが少なくともNiを含む化合物、例えば、次の一般式(B2):LiNi
pM
1qMn
2−p−qO
4;で表されるスピネル構造のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。ここで、0<pであり、0≦qであり、p+q<2(典型的にはp+q≦1)である。好ましい一態様では、q=0であり、0.2≦p≦0.6である。上記の含有割合(上記一般式(B2)のpで示す割合)のNiを含有させることによって、スピネル構造のLiNiMn複合酸化物(例えばLiNi
0.5Mn
1.5O
4)の充電終止時の正極電位を高電位化(典型的には4.5V(対Li/Li
+)以上に高電位化)させることができ、5V級のリチウム二次電池を構築することが可能になる。上記一般式(B2)において、0<qである場合、M
1は、Ni,Mn以外の任意の金属元素または非金属元素(例えば、Fe,Co,Cu,Cr,ZnおよびAlから選択される1種または2種以上)であり得る。M
1が3価のFeおよびCoの少なくとも一方を含むことが好ましい。また、0<q≦0.3であり、1≦2p+qであることが好ましい。
【0032】
ここに開示される技術の一態様において、正極活物質として用いられるリチウム遷移金属酸化物は、原子数基準で、該リチウム遷移金属酸化物に含まれるLi以外の全ての金属元素の合計量m
Mallに対して過剰量のLiを含む組成であり得る。すなわち、1.00<(m
Li/m
Mall)を満たす組成であり得る。このように、M
allに対してLiを過剰に含む組成のリチウム遷移金属酸化物によると、より高性能な(例えば、出力性能の良い)リチウム二次電池が実現され得る。好ましい一態様では(m
Li/m
Mall)が1.05以上であり、より好ましくは1.10以上である(すなわち、1.10≦(m
Li/m
Mall))。m
Li/m
Mallの上限は特に限定されない。通常は、m
Li/m
Mallが1.4以下(好ましくは1.3以下、例えば1.2以下)であることが好ましい。
【0033】
正極活物質の形状としては、通常、平均粒径1μm〜20μm(例えば2μm〜10μm)程度の粒子状が好ましい。なお、本明細書中において「平均粒径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわち50%体積平均粒子径を意味するものとする。
【0034】
導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック、例えばアセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末が好ましい。また、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類およびポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料等を、1種を単独でまたは2種以上の混合物として用いることができる。
【0035】
結着剤としては、各種のポリマー材料が挙げられる。例えば、水系の組成物(活物質粒子の分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた組成物)を用いて正極活物質層を形成する場合には、水溶性または水分散性のポリマー材料を結着剤として好ましく採用し得る。水溶性または水分散性のポリマー材料としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類;が例示される。あるいは、溶剤系の組成物(活物質粒子の分散媒が主として有機溶媒である組成物)を用いて正極活物質層を形成する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等のハロゲン化ビニル樹脂;ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド;等のポリマー材料を用いることができる。このような結着剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、上記で例示したポリマー材料は、結着剤として用いられる他に、正極活物質層形成用組成物の増粘剤その他の添加剤として使用されることもあり得る。
【0036】
正極活物質層に占める正極活物質の割合は、凡そ50質量%を超え、凡そ70質量%〜97質量%(例えば75質量%〜95質量%)であることが好ましい。また、正極活物質層に占める添加剤の割合は特に限定されないが、導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して凡そ1質量部〜20質量部(例えば2質量部〜10質量部、典型的には3質量部〜7質量部)とすることが好ましい。結着剤の割合は、正極活物質100質量部に対して凡そ0.8質量部〜10質量部(例えば1質量部〜7質量部、典型的には2質量部〜5質量部)とすることが好ましい。
【0037】
上述したような正極の作製方法は特に限定されず、従来の方法を適宜採用することができる。例えば以下の方法によって作製することができる。まず、正極活物質、必要に応じて導電材、結着剤等を適当な溶媒(水系溶媒、非水系溶媒またはこれらの混合溶媒)で混合してペースト状またはスラリー状の正極活物質層形成用組成物を調製する。混合操作は、例えば適当な混練機(プラネタリーミキサー、ホモディスパー、クレアミックス、フィルミックス等)を用いて行うことができる。上記組成物を調製するために用いられる溶媒としては、水系溶媒および非水系溶媒のいずれも使用可能である。水系溶媒は全体として水性を示すものであればよく、水または水を主体とする混合溶媒を好ましく用いることができる。非水系溶媒の好適例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン、トルエン等が例示される。
【0038】
こうして調製した上記組成物を正極集電体に塗付し、乾燥により溶媒を揮発させた後、必要に応じて圧縮(プレス)する。正極集電体に上記組成物を塗付する方法としては、従来公知の方法と同様の技法を適宜採用することができる。例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター、コンマコーター等の適当な塗付装置を使用することにより、正極集電体に該組成物を好適に塗付することができる。また、溶媒を乾燥するにあたっては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線および電子線を、単独でまたは組み合わせて用いることにより良好に乾燥し得る。さらに、圧縮方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。厚さを調整するにあたり、膜厚測定器で該厚さを測定し、プレス圧を調整して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。このようにして正極活物質層が正極集電体上に形成された正極が得られる。
【0039】
正極集電体上への正極活物質層の単位面積当たりの目付量(正極活物質層形成用組成物の固形分換算の塗付量)は特に限定されるものではないが、充分な導電経路(導電パス)を確保する観点から、正極集電体の片面当たり3mg/cm
2以上(例えば5mg/cm
2以上、典型的には6mg/cm
2以上)であり、45mg/cm
2以下(例えば28mg/cm
2以下、典型的には15mg/cm
2以下)とすることが好ましい。
【0040】
負極(典型的には負極シート)を構成する負極集電体としては、従来のリチウム二次電池と同様に、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。そのような導電性部材としては、例えば銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。負極集電体の形状は、電池の形状等に応じて異なり得るため特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。負極集電体の厚さも特に限定されず、例えば5μm〜30μm程度とすることができる。
【0041】
負極活物質層には、電荷担体となるLiイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質が含まれる。負極活物質の組成や形状に特に制限はなく、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の1種または2種以上を使用することができる。そのような負極活物質としては、例えばリチウム二次電池で一般的に用いられる炭素材料が挙げられる。上記炭素材料の代表例としては、グラファイトカーボン(黒鉛)、アモルファスカーボン等が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましく用いられる。なかでも天然黒鉛を主成分とする炭素材料の使用が好ましい。上記天然黒鉛は鱗片状の黒鉛を球形化したものであり得る。また、黒鉛の表面にアモルファスカーボンがコートされた炭素質粉末を用いてもよい。その他、負極活物質として、チタン酸リチウム等の酸化物、ケイ素材料、スズ材料等の単体、合金、化合物、上記材料を併用した複合材料を用いることも可能である。負極活物質として金属リチウムを用いてもよい。負極活物質層に占める負極活物質の割合は、凡そ50質量%を超え、凡そ90質量%〜99質量%(例えば95質量%〜99質量%、典型的には97質量%〜99質量%)であることが好ましい。
【0042】
負極活物質層は、負極活物質の他に、一般的なリチウム二次電池の負極活物質層に配合され得る1種または2種以上の結着剤や増粘剤その他の添加剤を必要に応じて含有することができる。結着剤としては各種のポリマー材料が挙げられる。例えば、水系の組成物または溶剤系の組成物に対して、正極活物質層に含有され得るものを好ましく用いることができる。そのような結着剤は、結着剤として用いられる他に負極活物質層形成用組成物の増粘
剤その他の添加剤として使用されることもあり得る。負極活物質層に占めるこれら添加剤の割合は特に限定されないが、凡そ0.8質量%〜10質量%(例えば凡そ1質量%〜5質量%、典型的には1質量%〜3質量%)であることが好ましい。
【0043】
負極の作製方法は特に限定されず、従来の方法を採用することができる。例えば以下の方法によって作製することができる。まず、負極活物質を結着剤等とともに上記適当な溶媒(水系溶媒、有機溶媒またはこれらの混合溶媒)で混合して、ペースト状またはスラリー状の負極活物質層形成用組成物を調製する。こうして調製した上記組成物を負極集電体に塗付し、乾燥により溶媒を揮発させた後、必要に応じて圧縮(プレス)する。このように該組成物を用いて負極集電体上に負極活物質層を形成することができ、該負極活物質層を備える負極を得ることができる。なお、混合、塗付、乾燥および圧縮方法は、上述の正極の作製と同様の手段を採用することができる。
【0044】
負極集電体上への負極活物質層の単位面積当たりの目付量(負極活物質層形成用組成物の固形分換算の塗付量)は特に限定されるものではないが、充分な導電経路(伝導パス)を確保する観点から、負極集電体の片面当たり2mg/cm
2以上(例えば3mg/cm
2以上、典型的には4mg/cm
2以上)であり、40mg/cm
2以下(例えば22mg/cm
2以下、典型的には10mg/cm
2以下)とすることが好ましい。
【0045】
ここに開示されるリチウム二次電池は、所定の環状シロキサンおよび/またはその反応生成物が、少なくとも負極の表面(負極活物質粒子の表面であり得る。)に存在している。上記環状シロキサンは、少なくとも1つのシロキシ基(−OSi基)を側鎖に有するシロキシ側鎖含有環状シロキサンである。ここで、環状シロキサンが「少なくとも1つのシロキシ基を側鎖に有する」とは、シロキサン環を構成するケイ素原子(以下「環構成Si原子」ともいう。)のうち少なくとも1つが、シロキシ基を含む構造の側鎖(シロキシ側鎖)を置換基として有することをいう。ここに開示される技術における環状シロキサンは、典型的には、ジメチルシロキシ基(−Si(CH
3)
2H)を含む構造のシロキシ側鎖を少なくとも1つ有する。
【0046】
かかる環状シロキサン(シロキシ側鎖含有環状シロキサン)は、環状構造と、その環から延びるシロキシ側鎖とを備えた立体的な構造を有する。このように立体的な構造を有する環状シロキサンおよび/またはその反応生成物は、その立体効果により、負極表面においてSEI膜の生成を効果的に阻害するように作用し得る。これにより、SEI膜の過剰な形成に起因する電池性能の低下が抑制され、例えば、充放電の繰返しに対する電池容量の維持性(容量維持率)を向上させる効果が実現され得る。このような容量維持率向上効果は、鎖状シロキサンや、側鎖がアルキル基のみである環状シロキサン(すなわち、シロキシ側鎖を有しない環状シロキサン)によっては実現されないことが、本発明者らによって確認されている。そのメカニズムは不明だが、環状シロキサンであって且つシロキシ側鎖を有することが、容量維持率の向上に重要な役割を果たしていると推察される。
【0047】
なお、この明細書において「環状シロキサンおよび/またはその反応生成物」とは、上記のとおり、上記環状シロキサンに由来する成分(典型的には析出物)を意味するものであり、環状シロキサンおよびその反応生成物の少なくとも一方を含むものとして解釈され得る。上記反応生成物は、例えば、上記環状シロキサンの還元分解物、該環状シロキサンまたはその還元分解物と非水溶媒との反応物、等であり得る。環状シロキサンに由来する析出物の有無は、例えば電極表面から試料を採取し、ICP(高周波誘導結合プラズマ)発光分析等の公知の分析手段を適用することにより確認することが可能である。
【0048】
上記環状シロキサンは、SiとOとが交互に連続した環(シロキサン環)を有する化合物である。シロキサン環を構成する原子の数(SiとOとの合計数)は特に限定されないが、被膜形成性等を考慮して、通常は4〜20とすることが適当であり、4〜12(例えば4〜10、典型的には6または8)とすることが好ましい。
【0049】
シロキシ側鎖の数は、1以上であれば特に限定されないが、より大きな立体効果を得るという観点からは2以上が好ましく、3以上がより好ましい。シロキシ側鎖の数は、環構成Si原子の数の2倍以下とすることができ、通常は、環構成Si原子の数の0.5倍以上1.5倍以下とすることが適当である。例えば、全ての環構成Si原子にそれぞれ1つのシロキシ側鎖が結合した構造の環状シロキサンを好ましく用いることができる。
【0050】
ここに開示される技術におけるシロキシ側鎖は、少なくとも1つのシロキシ基を含む、炭素原子数1〜12(典型的には2〜12、例えば2〜10)の有機基であり得る。例えば、飽和または不飽和の炭化水素基、飽和または不飽和のフッ素置換炭化水素基、水素原子、ハロゲン原子等がシロキシ基に結合した構造のシロキシ側鎖であり得る。上記炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、ビニル基、アリル基、アリール基(例えばフェニル基)、アルキルアリール基等が挙げられる。上記フッ素置換炭化水素基は、上記飽和または不飽和の炭化水素基における水素原子の一部または全部がフッ素に置き換えられた構造の基であり得る。例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、パーフルオロメチル基等のフッ素化アルキル基であり得る。
1つのシロキシ側鎖に含まれるシロキシ基の数は、2以上(例えば2〜5程度)であってもよいが、通常は1であることが好ましい。
【0051】
シロキシ側鎖に含まれるシロキシ基は、他の構造部分(例えば、メチレン基等のアルキレン基や、オキシエチレン基等のオキシアルキレン基等)を介して環構成Si原子に結合していてもよく、環構成Si原子に直接シロキシ基(−OSi基)が結合していてもよい。より大きな立体効果を得るという観点からは、環構成Si原子にシロキシ基が直接結合しているシロキシ側鎖を少なくとも1つ有する環状シロキサンが好ましい。
【0052】
環構成Si原子にシロキシ基が直接結合した構造におけるシロキシ側鎖の好適例として、アルキルシロキシ基が挙げられる。例えば、次式:−OSiR
31R
32R
33;で表されるアルキルシロキシ基が好ましい。ここで、R
31はアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜12(より好ましくは1〜6、例えば1〜3)のアルキル基である。R
32およびR
33は、それぞれ独立に、水素原子およびアルキル基から選択される。このアルキル基の炭素原子数は、炭素原子数1〜12であることが好ましく、より好ましくは1〜6、例えば1〜3である。ここに開示される技術におけるシロキシ側鎖は、R
32がアルキル基でありR
33が水素原子であるジアルキルシロキシ基であってもよく、R
32およびR
33がいずれもアルキル基であるトリアルキルシロキシ基であってもよく、R
32およびR
33がいずれも水素原子であるモノアルキルシロキシ基であってもよい。立体効果等の観点から、ジアルキルシロキシ基また
はトリアルキルシロキシ基が好ましい。また、被膜形成性等の観点から、ジアルキルシロキシ基が特に好ましい。
【0053】
ジアルキルシロキシ基の好適例として、次式:−OSiR
41R
42H;で表されるジアルキルシロキシ基が挙げられる。R
41およびR
42は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12(好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3)のアルキル基であり得る。具体例としては、ジメチルシロキシ基、ジエチルシロキシ基、ジ−(n−プロピル)シロキシ基、ジ−(イソプロピル)シロキシ基、ジブチルシロキシ基、ジペンチルシロキシ基、ジヘプチルシロキシ基、ジシクロヘキシルシロキシ基、メチルエチルシロキシ基、メチルプロピルシロキシ基、メチルブチルシロキシ基、エチルプロピルシロキシ基、エチルブチルシロキシ基、プロピルブチルシロキシ基等が挙げられる。通常は、R
41とR
42とが同じ基であるジアルキルシロキシ基が好ましい。
【0054】
ここで開示される環状シロキサンの好適例として、式(1):
【化2】
で表されるシロキシ側鎖含有環状シロキサンが挙げられる。ここで、R
1およびR
2は、同じかまたは異なり、それぞれ水素原子および炭素原子数1〜12の有機基から選択され、R
1およびR
2の少なくとも一方はジメチルシロキシ基を含む。nは3〜10の整数である。
【0055】
上記式(1)中、R
1およびR
2のうちジメチルシロキシ基以外の基は、それぞれ独立に、水素原子および炭素原子数1〜12の有機基から選択され得る。上記有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−メチル−2−メチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の鎖状アルキル基;シクロヘキシル基、ノルボルナニル基等の環状アルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、ブテニル基、1,3−ブタジエニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等のアルキニル基;トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;3−ピロリジノプロピル基等の飽和複素環基を有するアルキル基;アルキル基を有していてもよいフェニル基等のアリール基;フェニルメチル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;トリメチルシリル基等のトリアルキルシリル基;トリメチルシロキシ基等のトリアルキルシロキシ基等が挙げられる。
【0056】
シロキシ側鎖含有環状シロキサンによる作用を好適に発現させる観点から、上記ジメチルシロキシ基以外の基は、水素原子または炭素原子数1〜10(例えば1〜6)の有機基であることが好ましい。好適例として、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数2〜4のアルケニル基、炭素原子数6〜8のアリール基等が挙げられる。負極への供給容易性等の観点から、例えば、水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、イソブチル基等)であることが好ましい。
【0057】
また、上記式(1)中、R
1およびR
2の少なくとも一方はジメチルシロキシ基を含む。好ましくは、R
1およびR
2の少なくとも一方(典型的にはR
1およびR
2の一方のみ)の全部がジメチルシロキシ基である。
【0058】
上記式(1)中のnは3〜10の整数である。容量維持率向上効果の観点から、nは好ましくは3〜6の整数であり、より好ましくは3〜5の整数であり、特に好ましくは3または4(例えば4)である。
【0059】
上述のジメチルシロキシ基を側鎖に有する環状シロキサンの具体例としては、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロトリシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロテトラシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロペンタシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロヘキサシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロヘプタシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロオクタシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロノナシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロデカシロキサンが挙げられる。なかでも、容量維持率向上の観点から、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロトリシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロテトラシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロペンタシロキサン、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロヘキサシロキサンが好ましく、ジメチルシロキシ側鎖含有シクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0060】
化合物の合成容易性や入手容易性等の観点から、上記式(1)におけるR
1およびR
2の少なくとも一方が1種類に固定された環状シロキサンが有利である。このような環状シロキサンの具体例としては、2,4,6,8−テトライソブチル−2,4,6,8−テトラ(ジメチルシロキシ)シクロテトラシロキサン等のように、R
1が1種類のアルキル基であり、R
2が1種類のシロキシ基である環状シロキサン;2,4−ジメチル−6,8−ジエチル−2,4,6,8−テトラ(ジメチルシロキシ)シクロテトラシロキサン等のように、R
2が1種類のシロキシ基であって、R
1が2種類のアルキル基を約半数づつ含む環状シロキサン;2,4,6,8−テトライソブチル−2−メチル−4,6,8−トリ(ジメチルシロキシ)シクロテトラシロキサン等のように、R
1が1種類のアルキル基であってR
2の少なくとも1つがシロキシ基である環状シロキサン;等が挙げられる。R
1およびR
2の両方がそれぞれ1種類に固定された環状シロキサンを好ましく使用し得る。
【0061】
正極と負極とを隔てるように配置されるセパレータ(セパレータシート)は、正極活物質層と負極活物質層とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材であればよい。セパレータの好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、厚さ5μm〜30μm程度の合成樹脂製(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、またはこれらを組み合わせた二層以上の構造を有するポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。このセパレータシートには耐熱層が設けられていてもよい。なお、液状の電解質に代えて、例えば上記電解質にポリマーが添加されたような固体状(ゲル状)電解質を使用する場合には、電解質自体がセパレータとして機能し得るため、セパレータが不要になることがあり得る。
【0062】
リチウム二次電池に注入される非水電解質(典型的には、25℃程度の室温において液状を呈する電解質、すなわち電解液)は、少なくとも非水溶媒と支持塩とを含み得る。典型例としては、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する電解液が挙げられる。上記非水溶媒としては、一般的なリチウム二次電池の電解液と同様、各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等を用いることができる。上記カーボネート類とは、環状カーボネートおよび鎖状カーボネートを包含する意味である。また、上記エーテル類とは、環状エーテルおよび鎖状エーテルを包含する意味である。非水溶媒として使用し得る化合物の具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、これらのフッ素化物等が例示される。これらは、1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0063】
ここに開示される技術における非水溶媒の好適例として、カーボネート類を主体とする非水溶媒が挙げられる。例えば、非水溶媒として1種または2種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計質量が非水溶媒全体の質量の60質量%以上(より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、実質的に100質量%であってもよい。)を占める非水電解液を好ましく採用し得る。好ましい具体例として、ECとEMCとの混合溶媒や、EC、DMCおよびEMCの混合溶媒等が挙げられる。
【0064】
ここに開示される技術における非水溶媒の他の好適例として、1種または2種以上のフッ素化カーボネート(例えば、上述のようなカーボネート類のフッ素化物)を含有する非水溶媒が挙げられる。フッ素化環状カーボネートおよびフッ素化鎖状カーボネートのいずれも好ましく使用可能である。通常は、1分子内に1個のカーボネート構造を有するフッ素化カーボネートの使用が好ましい。フッ素化カーボネートのフッ素置換率は、通常、10%以上が適当であり、例えば20%以上(典型的には20%以上100%以下、例えば20%以上80%以下)であり得る。
【0065】
上記支持塩としては、例えばLiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiI等のリチウム化合物(リチウム塩)の1種または2種以上を用いることができる。なお、支持塩の濃度は特に限定されないが、凡そ0.1mol/L〜5mol/L(例えば0.5mol/L〜3mol/L、典型的には0.8mol/L〜1.5mol/L)の濃度とすることができる。
【0066】
非水電解質は、本発明の目的を大きく損なわない限度で、必要に応じて任意の添加剤を含んでもよい。上記添加剤は、例えば、電池の出力性能の向上、保存性の向上(保存中における容量低下の抑制等)、サイクル特性の向上、初期充放電効率の向上等の1または2以上の目的で使用され得る。好ましい添加剤の例として、フルオロリン酸塩(好ましくはジフルオロリン酸塩。例えば、LiPO
2F
2で表されるジフルオロリン酸リチウム)や、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)等が挙げられる。また、例えば、過充電対策で用いられ得るシクロヘキシルベンゼン、ビフェニル等の添加剤が使用されていてもよい。
【0067】
次に、リチウム二次電池の製造方法について説明する。この二次電池の製造方法は、正極と負極とを用意することと、少なくとも上記負極に上記環状シロキサンを供給することとを包含する。上記製造方法は、その他にも、例えば、正極を構築すること、負極を構築すること、上記正極および上記負極を用いてリチウム二次電池を構築すること等の工程を包含し得るが、これらについては、上述の説明および従来から用いられている手法を適宜採用して行うことができるので、ここでは特に説明しない。
【0068】
ここで開示される製造方法は、少なくとも上記負極にシロキシ側鎖含有環状シロキサンを供給することを包含する。負極に供給されたシロキシ側鎖含有環状シロキサンは、その少なくとも一部がシロキシ側鎖含有環状シロキサンおよび/またはその反応生成物として負極表面に存在し(例えば、吸着、堆積、析出等により負極に付着し)、該負極表面においてSEI膜の生成を抑制するように作用し得る。上記シロキシ側鎖含有環状シロキサンとしては、上述のものを好ましく用いることができる。なお、上記シロキシ側鎖含有環状シロキサンは、少なくとも負極に供給されればよく、正極等の負極以外の電池構成要素にも供給されてもよい。
【0069】
好ましい一態様に係る製造方法では、上記シロキシ側鎖含有環状シロキサンを、非水電解質を通じて負極に供給する。例えば、上記シロキシ側鎖含有環状シロキサンを含む非水電解質を用意(調製)し、その非水電解質を正極および負極と接触するように配置してリチウム二次電池を構築するとよい。この供給方法によると、負極表面の各部にシロキシ側鎖含有環状シロキサンを的確に供給することができる。
【0070】
シロキシ側鎖含有環状シロキサンを含む非水電解質を用いる場合、該非水電解質におけるシロキシ側鎖含有環状シロキサンの含有率(質量%)は特に限定されない。充分な容量維持率向上効果を得る観点から、通常は、0.005質量%以上(例えば0.01質量%以上、典型的には0.05質量%以上)であることが好ましい。また、過剰添加による電池特性の低下(例えば抵抗上昇)を抑制する観点から、上記含有率を25質量%未満(より好ましくは20質量%以下、例えば15質量%以下)とすることが好ましい。シロキシ側鎖含有環状シロキサンの含有率が高すぎると、容量維持率向上作用よりも過剰添加によるデメリットが上回り、所望の効果が得られなくなることがあり得る。また、容量維持率の向上効果と材料コストとの兼ね合いから、非水電解質におけるシロキシ側鎖含有環状シロキサンの含有率は、例えば10質量%以下とすることができ、5質量%以下であってもよく、さらには1質量%以下であってもよい。
【0071】
なお、負極への上記シロキシ側鎖含有環状シロキサンの供給方法は、上記のような非水電解質への含有に限定されない。例えば、適当な液状媒体(典型的には水または有機溶媒)にシロキシ側鎖含有環状シロキサンを溶解または分散させた液体を負極の表面に塗付し、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。あるいは、負極活物質層形成用組成物に上記シロキシ側鎖含有環状シロキサンを含有させてもよい。
【0072】
上述のように、ここで開示されるリチウム二次電池は容量維持率が向上しているので、各種用途の二次電池として利用可能である。例えば、
図5に示すように、リチウム二次電池100は、自動車等の車両1に搭載され、車両1を駆動するモータ等の駆動源用の電源として好適に利用することができる。したがって、本発明は、上記リチウム二次電池(典型的には、複数個のリチウム二次電池を直列に接続してなる組電池)100を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1を提供することができる。
【0073】
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0074】
以下の実験では、次のシロキサン化合物を使用した。
[シロキシ側鎖含有環状シロキサン]
化合物(a1):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもイソブチル基(−
CH2CH(CH
3)
2)である環状シロキサン(2,4,6,8−テトライソブチル−2,4,6,8−テトラ(ジメチルシロキシ)シクロテトラシロキサン)
化合物(a2):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもメチル基(−CH
3)である環状シロキサン
化合物(a3):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもエチル基(−CH
2CH
3)である環状シロキサン
化合物(a4):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもn−ノニル基(−(CH
2)
8CH
3)である環状シロキサン
化合物(a5):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもアリル基(−CH
2CH=CH
2)である環状シロキサン
化合物(a6):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもフェニル基(−C
6H
5)である環状シロキサン
化合物(a7):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれもビニル基(−CH=CH
2)である環状シロキサン
化合物(a8):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14がいずれも水素原子(H)である環状シロキサン
化合物(a9):下記式(2)におけるR
11,R
12,R
13およびR
14のうち2つがメチル基であり、他の2つがエチル基である環状シロキサン
【0076】
[シロキシ基不含有環状シロキサン]
化合物(b1):ヘキサメチルシクロトリシロキサン
[鎖状シロキサン]
化合物(c1):ヘキサメチルジシロキサン
【0077】
<実験例1>
[コインセルの作製]
ステンレス鋼を作用極、金属リチウムを対極とし、これらをセパレータおよび非水電解液とともにステンレス製容器に組み込んで、直径20mm、厚さ3.2mm(2032型)のコインセル(性能評価用のハーフセル)A1〜A7を構築した。セパレータとしては多孔質ポリオレフィンシートを使用した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との3:7(質量比)混合溶媒中に支持塩として約1mol/LのLiPF
6を含む基本組成の電解液に、シロキサン化合物としての化合物(a1)を配合して、該化合物(a1)の含有率がそれぞれ表1に示す値(質量%)となるように調製したものをそれぞれ使用した。例えば、セルA3の構築には、上記基本組成の電解液と化合物(a1)とを85:15の質量比で混合して調製した電解液(化合物(a1)の含有率が15質量%である電解液)を使用した。なお、セルA5の構築には上記基本組成の電解液をそのまま使用した。
【0078】
[50サイクル後容量維持率]
セルA1〜A7に対して、温度60℃にて、0.5mA/cm
2の電流密度で、カット電圧−2.0V〜1.5V(E/V vs.(Li
+/Li))の範囲で50サイクルの充放電を行った。そして、1サイクル目の充電容量(リチウムイオンをステンレス鋼にLi金属として充電した充電容量)を100%として、50サイクル目の充電容量の維持率(%)を求めた。得られた結果を表1および
図4に示す。
【0080】
<実験例2>
上記基本組成の電解液と化合物(a2)〜(a9)とをそれぞれ85:15の質量比で混合して調製した電解液(すなわち、各シロキサン化合物を15質量%の含有率で含む電解液)を用いた点以外は実験例1と同様にして、コインセルB1〜B8を構築した。また、上記基本組成の電解液と化合物(b1)および(c1)とをそれぞれ85:15の質量比で混合して調製した電解液を用いた点以外は実験例1と同様にして、コインセルB9およびB10を構築した。
【0081】
セルB1〜B10に対して、上記の50サイクル後容量維持率測定試験と同内容の試験を行った。得られた結果を表2に示す。表2には、実験例1において得られたセルA3およびA5の容量維持率測定試験結果を併せて示している。
【0083】
表1および表2に示されるように、シロキシ側鎖含有環状シロキサンを含まない基本組成の電解液を用いたセルA5の容量維持率に比べて、シロキシ側鎖を有する環状シロキサンである化合物(a1)〜(a9)を含む電解液を用いたセルA1〜A4およびセルB1〜B8では、いずれも、50サイクル後の容量維持率が2倍以上に向上した。この結果から、シロキシ側鎖含有環状シロキサン(ここでは、4つのジメチルシロキシ側鎖を有するシクロテトラシロキサン)を含む電解液の使用により、リチウム二次電池の容量維持率を大幅に向上させ得ることがわかる。これは、シロキシ側鎖含有環状シロキサンの使用により負極(ここでは、対極としての金属リチウム極)上においてSEI膜の形成が抑制され、これにより負極へのリチウムイオンの吸蔵抵抗が低く維持されたことや、SEI膜に取り込まれて固定されるリチウムイオンの量が抑制されたことにより得られた効果であると推察される。したがって、これらのセルにおいてシロキシ側鎖含有環状シロキサンにより得られた容量維持率向上効果は、例えば、一般的な構成のリチウムイオン二次電池(例えば、LiNiCoMn酸化物等のリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として含む正極と、炭素材料を負極活物質として含む負極とを備えるリチウムイオン二次電池)においても同様に発揮され得ることが理解される。
【0084】
本実験例に係るコインセルの構成では、少なくとも化合物(a1)の含有率が20質量%以下の範囲において、上記のように容量維持率を大幅に向上させる効果が確認された。また、化合物(a1)の含有率が0.1質量%であっても充分な容量維持率向上効果が発揮された。また、R
11〜R
14が炭素原子数1〜10の炭化水素基である場合(例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、)および水素原子である場合のいずれにおいても上記の容量維持率効果が得られた。
【0085】
これに対して、シロキシ側鎖を有しない環状シロキサンである化合物(b1)を用いたセルB9では、セルA5に対する容量維持率向上効果は認められなかった。また、鎖状シロキサンを用いたセルB10では、セルA5に対する容量維持率向上効果が認められないか、むしろ容量維持率が低下する傾向にあった。この結果は、シロキシ側鎖環状シロキサンの立体効果が容量維持率の向上に重要な役割を果たすことを裏付けるものである。
【0086】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。