特許第6041346号(P6041346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6041346グラフェン/SiC複合材料の製造方法及びそれにより得られるグラフェン/SiC複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041346
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】グラフェン/SiC複合材料の製造方法及びそれにより得られるグラフェン/SiC複合材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20161128BHJP
   C01B 31/30 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   C01B31/30
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-21076(P2013-21076)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-152051(P2014-152051A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】楠 美智子
(72)【発明者】
【氏名】木村 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】庄司 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】乗松 航
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/023934(WO,A1)
【文献】 特開平9−287076(JP,A)
【文献】 特開2009−155168(JP,A)
【文献】 特開2013−67549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC単結晶基板上に一層又は二層以上のグラフェンが積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料の製造方法にして、
自然酸化によって形成された、SiC単結晶基板の表面を覆う酸化皮膜を除去することにより、該SiC単結晶基板のC面を露出させる工程と、
前記SiC単結晶基板のC面上に、TiC層を形成せしめる工程と、
TiC層が形成された前記SiC単結晶基板を、アルゴンガス雰囲気下、加熱する工程とを、
有することを特徴とするグラフェン/SiC複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン/SiC複合材料の製造方法、及びそれにより得られるグラフェン/SiC複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素原子が最密充填された六員環構造を呈する、炭素の単一原子層であるグラフェン(グラファイトシート)は、その内部において、電子が質量ゼロの相対論的粒子として振る舞い、極めて高い電子移動度を示すことが知られている。また、グラフェンは、既知の物質の中で最高の融点を有し、熱伝導度においても優れているところから、最初の報告(非特許文献1参照)以来、研究者達の間で盛んに研究が進められている。このような状況の下、近年、グラフェンに関して種々の報告が為されている。
【0003】
例えば、非特許文献2においては、最大で200000cm2 /Vsecを超える電子移動度がグラフェンにて測定された旨を報告している。なお、そのような高い電子移動度は、Si(シリコン)の約100倍、カーボンナノチューブの5倍以上に相当するものである。また、非特許文献3においては、2層のグラフェンとSiC基板との間に0.26eVのバンドギャップが存在することが報告されており、トランジスタやその他の電子機器への応用が提案されている。
【0004】
ところで、上述の如き優れた特性を有するグラフェンを、例えば基板上に形成せしめる手法としては、従来より、1)層状構造を呈するグラファイト結晶から剥離した1層又は2層以上のグラフェン(特許文献1参照)を、SiO2 /Si基板上に転写する手法や、2)SiC基板を(超)高真空下において加熱し、Si原子を昇華させて、残存するC(炭素)原子の自己組織化によってSiC基板上にグラフェンを形成する手法等が、広く知られている。
【0005】
しかしながら、上記1)の手法は、グラファイト結晶からグラフェンを剥離する際に偶然に頼るところが大きく、大面積のグラフェンを得難いという問題を内在しており、また、上記2)の手法にあっては、得られるグラフェンが原子レベルの凹凸を比較的多く有しており、その大きさも、最大長が約200nm程度と未だ充分な大きさとは言い難いものであった。
【0006】
このため、特に半導体業界においては、現在、原子レベルにおいて平坦な大面積グラフェンがSiC基板上に積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料の開発が、切望されているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-120660号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K.S.Novoselov 、外7名、「Electric Field Effect in Atomically Thin Carbon Films 」、Science 、(米国)、2004年10月22日、第306巻、第5696号、p.666-669
【非特許文献2】S.V.Morozov 、外6名、「Giant Intrinsic Carrier Mobilities in Graphene and Its Bilayer」、Physical Review Letters 、(米国)、2008年1月11日、第100巻、第1号、016602(article number)
【非特許文献3】S.Y.Zhou、外8名、「Substrate-induced bandgap opening in epitaxial graphene 」、Nature Materials、(英国)、2007年9月、第6巻、p.770-775
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、例えば上述の如き、SiC基板を(超)高真空下において加熱し、Si原子を昇華させて、残存するC(炭素)原子の自己組織化によってSiC基板上にグラフェンを形成する手法等の従来の手法においては、通常、表面がSi(シリコン)面であるSiC基板が用いられている。これは、原子レベルにおいて比較的均一であり、また比較的大面積なグラフェンを、製造し易い等の理由に基づくものと考えられる。しかしながら、従来の手法によって得られるグラフェン/SiC複合材料においては、最も基板側に位置する(最下層の)擬似的グラフェン層は、バッファー層と呼ばれ、1/3のC原子がSiC単結晶基板のSi原子と共有結合を形成し、Si面との界面における相互作用が強いことから、キャリヤ移動が低減され、電子デバイスとして利用することが困難となる恐れがある。
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、SiC単結晶基板上のC(カーボン)面上に、従来のものと比較して、原子レベルにおいて平坦であり且つ大面積なグラフェンが、積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料を、有利に製造することが出来る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明は、SiC単結晶基板上に一層又は二層以上のグラフェンが積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料の製造方法にして、自然酸化によって形成された、SiC単結晶基板の表面を覆う酸化皮膜を除去することにより、該SiC単結晶基板のC面を露出させる工程と、前記SiC単結晶基板のC面上に、TiC層を形成せしめる工程と、TiC層が形成された前記SiC単結晶基板を、アルゴンガス雰囲気下、加熱する工程とを、有することを特徴とするグラフェン/SiC複合材料の製造方法を、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明のグラフェン/SiC複合材料の製造方法にあっては、表面がC面(カーボン面)とされているSiC単結晶基板に対して、先ず、かかるSiC単結晶基板上の自然酸化によって形成された酸化皮膜の除去処理を施して、SiC単結晶基板のC面を露出させ、次いで、かかるSiC単結晶基板のC面上にTiC層を形成せしめ、更に、そのようなTiC層が形成されたSiC単結晶基板を、アルゴンガス雰囲気下で加熱することを、特徴とするものである。SiC単結晶基板のC面上に人為的に形成せしめられたTiC層は比較的高温でなければ分解しないことから、かかるTiC層の存在によって、低温下におけるSiC単結晶基板の表面のC原子の自己組織化が効果的に抑制される。そして、TiCの分解温度に達すると、TiC層の分解(昇華)により、Tiが選択的に除去され、TiC由来のCにより平滑なグラフェンが一様に成長する。TiC層の分解が終わると、続いてC面からSiC単結晶基板の内部に向かって、Si原子の昇華及び残存するC原子の自己組織化が効果的に、且つSi面の全面に亘って一様に進行する。このようなTiCの分解(昇華)、Si原子の昇華及び残存するC原子の自己組織化が比較的短時間で進行することにより、本発明に従って製造されるグラフェン/SiC複合材料にあっては、従来の、SiC単結晶基板のC面上にグラフェンを形成せしめてなる複合材料と比較して、原子レベルにおいて平坦であり且つ大面積なグラフェンが積層形成されてなるものと、なるのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例における、TiC層が形成されたSiC単結晶基板のTEM写真である。
図2】本発明に従って製造された一のグラフェン/SiC複合材料のTEM写真である。
図3】本発明に従って製造された他の一のグラフェン/SiC複合材料のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ところで、本発明の製造方法に従って、グラフェン/SiC複合材料を製造するに際しては、SiC単結晶基板(以下、単に基板とも言う。)が準備されることとなる。ここで、本発明にて用いられるSiC単結晶基板としては、電子デバイス用として一般に市販されているSiC単結晶基板であって、その表面がC(カーボン)面とされたものであれば、如何なるものであっても用いることが可能である。電子デバイス用のSiC単結晶基板は、例えば「SiCエピタキシャルウェハー」等と称されて、市販されている。
【0015】
なお、SiCには、立方晶(3C−SiC)、六方晶(2H−SiC、4H−SiC及び6H−SiC等)、及び菱面晶(15R−SiC等)に大別される各種の結晶多形が存在することが知られているが、本発明においては、好ましくは、結晶構造が4H−SiC又は6H−SiCであるSiC単結晶基板が用いられる。
【0016】
市販品を購入する等によって入手したSiC単結晶基板は、通常、自然酸化によって形成された酸化皮膜(厚さ:数nm)にて覆われている。この酸化皮膜は、SiO2 を主成分とするものではあるが、大気中の水分等との反応物等をも含むものである。そこで、本発明に係るグラフェン/SiC複合材料の製造方法においては、SiC単結晶基板について、先ず、自然酸化によって形成された、基板表面を覆う酸化皮膜の除去が行なわれる。かかる酸化皮膜の除去は、後述するSiC単結晶基板の表面へのTiC層の形成と相俟って、本発明の製造方法における特徴的な工程である。
【0017】
かかるSiC単結晶基板表面の酸化皮膜を除去する手法としては、従来より公知の手法の何れをも用いることが出来るが、好ましくは、基板をフッ化水素酸(フッ酸)内に浸漬せしめる等のフッ酸を用いた手法が採用される。なお、かかるフッ酸を用いた酸化皮膜の除去に際しての各種条件、例えば、フッ酸の濃度や浸漬時間等の条件は、適宜に決定される。また、本発明においては、SiC単結晶基板の表面を覆う酸化皮膜のうち、少なくともグラフェンを形成せしめる基板表面上のものを除去し、C面を露出させれば充分であり、必ずしもSiC単結晶基板を覆う酸化皮膜の全てを除去する必要はない。
【0018】
そのようにして酸化皮膜が除去され、C面が露出したSiC単結晶基板に対しては、次いで、そのC面上にTiC層が形成される。このように、表面にTiC層が形成されたSiC単結晶基板を、後述の如くアルゴンガス雰囲気下において加熱することによって、従来の、SiC単結晶基板のC面上にグラフェンが形成されてなるグラフェン/SiC複合材料と比較して、原子レベルにおいて平坦であり且つ大面積なグラフェンが、SiC単結晶基板の表面に有利に形成せしめられるのである。
【0019】
ここで、SiC単結晶基板のC面上へのTiC層の形成は、例えば、以下の如き手法に従って実施される。先ず、坩堝等の耐熱容器内にTiO2 粉末、C粉末及びSiC粉末を入れ、耐熱容器の上部をカーボンメッシュで蓋をし、かかるカーボンメッシュ上に、SiC単結晶基板を、そのC面が下側(坩堝側)を向くように載置する。次いで、SiC単結晶基板を載置した状態の坩堝を、加熱炉内に入れ、10-4torr程度の真空下、1500〜1600℃で10分〜1時間程度加熱することにより、SiC単結晶基板のC面上へTiC層を形成せしめることが可能である。
【0020】
上述したTiC層の形成手法においては、TiO2 粉末、C粉末及びSiC粉末が使用されるが、それら各粉末の平均粒径は、好ましくは、TiO2 粉末にあっては30〜70μm、C粉末にあっては10〜50μm、SiC粉末にあっては0.5〜5μmである。また、TiO2 粉末及びC粉末は、モル比で、TiO2 :C=1:2.5の割合で使用することが好ましい。更に、上記したTiC層の形成手法においては、SiC粉末が使用されているが、かかるSiC粉末を使用することにより、加熱炉内が、過剰なSiが存在する雰囲気(Siリッチな雰囲気)となり、SiCの分解(昇華)が効果的に抑制されつつ、SiC単結晶基板のC面上に有利にTiC層を形成せしめることが可能ならしめられる。
【0021】
なお、SiC単結晶基板の表面に形成されるTiC層は、その厚さが薄すぎたり、或いは厚すぎたりすると、本発明の優れた効果を享受し難くなる恐れがある。通常、SiC単結晶基板の表面に形成されるTiC層の厚さは、0.75〜5nm程度とされ、グラフェン/SiC複合材料の最終的な用途に応じて、適宜、決定されることとなる。
【0022】
そして、上述の如くして表面にTiC層が形成されたSiC単結晶基板を、アルゴンガス雰囲気下で加熱することにより、目的とするグラフェン/SiC複合材料が製造されるのである。
【0023】
本発明の製造方法に従うことにより、SiC単結晶基板の表面に、原子レベルにおいて平坦な大面積グラフェンが積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料が得られることについて、本発明者等は、現段階においては以下のように考えている。即ち、SiC単結晶基板のC面上に人為的に形成せしめられたTiC層は、SiCとの格子整合性が良く、また、SiCよりも分解温度が高いものである。そのようなTiC層を表面に有するSiC単結晶基板を、アルゴンガス雰囲気下で加熱すると、TiC層の分解(昇華)が一様に進行する。このとき、基板表面にTiC層が存在することにより、より高い温度まで、SiCの分解の開始が抑制されるため、TiC/SiC界面に存在する欠陥や凹凸が除去されて、平滑なC面を得ることが出来る。そして、更に加熱を続けると、安定なTiCも、分解により、自ら均一なグラフェンを形成する。TiC由来のグラフェンは、TiC層の厚さに依存するため、1層のグラフェンを形成するためには0.75nmの厚さのTiC層が必要である。このグラフェンの形成により、TiC層が全て分解した後に、SiC単結晶基板のC面の表面は保護されることとなり、SiC単結晶基板のC面からのグラフェンの形成に適した温度で、C面からSiC単結晶基板の内部に向かって、Si原子の昇華及び残存するC原子の自己組織化が、効果的に、比較的短時間で進行することとなる。また、SiC単結晶基板のC面上に1〜2層のTiC層由来のグラフェンが形成せしめられていることにより、SiC単結晶基板のC面における群発的なC原子の自己組織化が効果的に抑制される。以上より、本発明の製造方法にあっては、原子レベルにおいて平坦な大面積グラフェンがSiC単結晶基板の表面に積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料が、有利に得られるのである。
【0024】
ここで、TiC層が形成されたSiC単結晶基板の加熱は、アルゴンガス雰囲気下において行なわれることとなるが、本発明に従うグラフェン/SiC複合材料の製造方法においては、通常、アルゴンガス圧が5〜7atm程度の雰囲気下において、TiC層が形成されたSiC単結晶基板の加熱が行なわれる。
【0025】
また、そのようなアルゴンガス雰囲気下において、TiC層が形成されたSiC単結晶基板を加熱する際の加熱温度及び加熱時間は、TiC層の厚さや、目的とするグラフェン/SiC複合材料におけるグラフェンの層数、更にはかかる複合材料の特性等に応じて、適宜に設定されることとなるが、通常、加熱温度としては1500〜1600℃程度の温度が採用され、また、加熱時間は数分〜2時間程度である。
【0026】
なお、TiC層が形成されたSiC単結晶基板を加熱する際の加熱温度及び加熱時間を適宜、変更することにより、或いは、TiC層の表面の一部をカーボン製のマスク等で覆うことにより、TiC層の分解(昇華)を効果的に抑制することが出来る。そして、そのような手法により、グラフェン/SiC複合材料にあっては、TiCを部分的に残すことにより、SiC単結晶基板上に、グラフェンとTiCが連続的に存在するグラフェン/SiC複合材料を有利に製造することが可能である(図3参照)。このようにして得られるグラフェン/SiC複合材料については、導電性の高いTiC領域を電極として利用することが可能である。
【0027】
なお、上述した、SiC単結晶基板の表面へのTiC層の形成と、かかるTiC層が形成されたSiC単結晶基板の加熱は、所定の真空雰囲気とされた一の加熱炉にて基板上にTiC層を形成せしめた後、その基板を、他の一の加熱炉に移動させ、かかる他の一の加熱炉内にてアルゴンガス雰囲気下において加熱する手法は勿論のこと、一の加熱炉内にて、真空雰囲気下にて基板上にTiC層を形成せしめた後、その炉内にアルゴンガスを供給し、所定のアルゴンガス雰囲気に調整した後、再度加熱する手法であっても、採用することが可能である。
【0028】
そして、上述の如き本発明に係る製造方法に従うと、従来の、SiC単結晶基板のC面上にグラフェンを形成せしめてなる複合材料と比較して、原子レベルにおいて平坦であり且つ大面積なグラフェンが積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料が、有利に得られるのである。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の外にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0030】
なお、以下の本発明例及び比較例においては、SiC単結晶基板として、特に示す場合を除いて、米国CREE社製の6H−SiC単結晶基板(表面:C面、オンアクシス)を用いた。SiC単結晶基板は、TiC層を形成する前に、予めフッ酸内に所定時間、浸漬せしめて、その表面の酸化皮膜の除去を行なった。また、TiO2 粉末(株式会社高純度化学社製、純度:99%、平均粒径:50μm)、C粉末(株式会社高純度化学社製、純度:99.9%、平均粒径:50μm)、及び、SiC粉末(屋久島電工株式会社製、純度:99.9%、平均粒径:2μm)を準備した。更に、最終的に得られた試料の観察は、特に示す場合を除いて、日本電子株式会社製のJEM-2010DM型透過型電子顕微鏡(加速電圧:200kV。以下、TEMという。)を用いて行ない、TEM観察用試料はイオンシニング法に従って作製した。
【0031】
−本発明例1−
先ず、坩堝内に、40mgのTiO2 粉末、8mgのC粉末[TiO2 :C=1:2.5(モル比)]、及び1.0gのSiC粉末を入れ、かかる坩堝の上部をカーボンメッシュで蓋をし、かかるカーボンメッシュ上に、SiC単結晶基板を、そのC面が下側(坩堝側)を向くように載置した。そのようにSiC単結晶基板を載置した状態の坩堝を、加熱炉内に入れ、10-4torrの真空下、1500〜1550℃で0.5時間、加熱することにより、SiC単結晶基板のC面上にTiC層を形成した。かかるTiC層が形成されたSiC単結晶基板のTEM写真を、図1に示す。
【0032】
TiC層が形成されたSiC単結晶基板を、アルゴンガス供給ボンベが接続された加熱炉内に載置し、炉を密閉した後、炉内にアルゴンガスの供給を開始すると共に、炉の加熱を開始した。そして、アルゴンガス圧:6atm、1600℃で1.5時間、SiC単結晶基板を加熱した。以上の処理が施されたSiC単結晶基板を試料として用いて、かかる試料の断面をTEMにて観察した。そのTEM写真を図2に示す。
【0033】
図2からも明らかなように、本発明に係る製造方法に従うことにより、原子レベルにおいて平坦であり且つ大面積なグラフェンが積層形成されてなるグラフェン/SiC複合材料が得られることが認められる。
【0034】
−本発明例2−
先ず、坩堝内に、80mgのTiO2 粉末、30mgのC粉末[TiO2 :C=1:2.5(モル比)]、及び1.0gのSiC粉末を入れ、かかる坩堝の上部をカーボンメッシュで蓋をし、かかるカーボンメッシュ上に、SiC単結晶基板を、そのC面が下側(坩堝側)を向くように載置した。そのようにSiC単結晶基板を載置した状態の坩堝を、加熱炉内に入れ、10-4torrの真空下、1800℃で0.5時間、加熱することにより、SiC単結晶基板のC面上にTiC層を形成した。
【0035】
TiC層が形成されたSiC単結晶基板を、アルゴンガス供給ボンベが接続された加熱炉内に載置し、炉を密閉した後、炉内にアルゴンガスの供給を開始すると共に、炉の加熱を開始した。そして、アルゴンガス圧:6atm、1600℃で1.5時間、SiC単結晶基板を加熱した。以上の処理が施されたSiC単結晶基板を試料として用いて、かかる試料の断面をTEMにて観察したところ、SiC単結晶基板上にグラフェンが成形されていることが確認された。
【0036】
−本発明例3−
先ず、坩堝内に、40mgのTiO2 粉末、8mgのC粉末[TiO2 :C=1:2.5(モル比)]、及び1.0gのSiC粉末を入れ、かかる坩堝の上部をカーボンメッシュで蓋をし、かかるカーボンメッシュ上に、SiC単結晶基板を、そのC面が下側(坩堝側)を向くように載置した。そのようにSiC単結晶基板を載置した状態の坩堝を、加熱炉内に入れ、10-4torrの真空下、1500〜1550℃で0.5時間、加熱することにより、SiC単結晶基板のC面上にTiC層を形成した。
【0037】
TiC層が形成されたSiC単結晶基板を、アルゴンガス供給ボンベが接続された加熱炉内に載置し、炉を密閉した後、炉内にアルゴンガスの供給を開始すると共に、炉の加熱を開始した。そして、アルゴンガス圧:6atm、1500℃で0.5時間、SiC単結晶基板を加熱した。以上の処理が施されたSiC単結晶基板を試料として用いて、かかる試料の断面をTEMにて観察した。そのTEM写真を図3に示す。
【0038】
図3からも明らかなように、上述した本発明例1における、TiC層が形成されたSiC単結晶基板の加熱条件を変更することにより、SiC単結晶基板上に、グラフェンとTiCが連続的に存在するグラフェン/SiC複合材料が得られることが認められる。
図1
図2
図3