(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記極値検出部は、前記第1極値を検出する際に、前記容積情報が最小となる時相を用いて前記第1時系列データにおける拡張早期の時相を推定する、請求項1に記載の超音波診断装置。
前記極値検出部は、前記第2極値を検出する際に、前記第1極値が検出された時相を用いて前記第2時系列データにおける拡張早期の時相を推定する、請求項5に記載の超音波診断装置。
前記容積情報算出部は、画像データ間のパターンマッチングを含む処理により前記第1関心領域の位置を追跡した結果を用いて、前記容積情報の算出処理を行なう、請求項1に記載の超音波診断装置。
前記壁運動情報算出部は、画像データ間のパターンマッチングを含む処理により前記第2関心領域の位置を追跡した結果を用いて、前記壁運動情報の算出処理を行なう、請求項1に記載の超音波診断装置。
前記壁運動情報算出部は、前記複数の2次元超音波画像データ群それぞれの壁運動情報の時系列データを平均した時系列データを、前記壁運動情報の時系列データとして算出する、請求項4に記載の超音波診断装置。
前記容積情報算出部は、更に、前記容積情報の時系列データから、左室駆出率及び心筋重量の少なくとも1つを算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、超音波診断装置の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図1に例示するように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、モニタ2と、入力装置3と、心電計4と、装置本体10とを有する。
【0012】
超音波プローブ1は、複数の圧電振動子を有し、これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体10が有する送受信部11から供給される駆動信号に基づき超音波を発生する。また、超音波プローブ1は、被検体Pからの反射波を受信して電気信号に変換する。また、超音波プローブ1は、圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方への超音波の伝播を防止するバッキング材等を有する。なお、超音波プローブ1は、装置本体10と着脱自在に接続される。
【0013】
超音波プローブ1から被検体Pに超音波が送信されると、送信された超音波は、被検体Pの体内組織における音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、反射波信号として超音波プローブ1が有する複数の圧電振動子にて受信される。受信される反射波信号の振幅は、超音波が反射される不連続面における音響インピーダンスの差に依存する。なお、送信された超音波パルスが、移動している血流や心臓壁等の表面で反射された場合の反射波信号は、ドプラ効果により、移動体の超音波送信方向に対する速度成分に依存して、周波数偏移を受ける。
【0014】
ここで、第1の実施形態に係る超音波プローブ1は、超音波により被検体Pを2次元で走査するとともに、被検体Pを3次元で走査することが可能な超音波プローブである。具体的には、本実施形態に係る超音波プローブ1は、一列に配置された複数の圧電振動子により、被検体Pを2次元で走査するとともに、複数の圧電振動子を所定の角度(揺動角度)で揺動させることで、被検体Pを3次元で走査するメカニカル4Dプローブである。或いは、第1の実施形態に係る超音波プローブ1は、複数の圧電振動子がマトリックス状に配置されることで、被検体Pを3次元で超音波走査することが可能な2Dアレイプローブである。なお、2Dアレイプローブは、超音波を集束して送信することで、被検体Pを2次元で走査することも可能である。
【0015】
入力装置3は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有し、超音波診断装置の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体10に対して受け付けた各種設定要求を転送する。なお、第1の実施形態に係る入力装置3が操作者から受け付ける設定情報については、後に詳述する。
【0016】
モニタ2は、超音波診断装置の操作者が入力装置3を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体10において生成された超音波画像等を表示したりする。
【0017】
心電計4は、3次元走査される被検体Pの生体信号として、被検体Pの心電波形(ECG: Electrocardiogram)を取得する。心電計4は、取得した心電波形を装置本体10に送信する。
【0018】
装置本体10は、超音波プローブ1が受信した反射波信号に基づいて超音波画像データを生成する装置である。
図1に示す装置本体10は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波データに基づいて2次元の超音波画像データを生成可能な装置である。また、
図1に示す装置本体10は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波データに基づいて3次元の超音波画像データを生成可能な装置である。以下、3次元の超音波画像データを「ボリュームデータ」と記載する場合がある。
【0019】
装置本体10は、
図1に示すように、送受信部11と、Bモード処理部12と、ドプラ処理部13と、画像生成部14と、画像メモリ15と、内部記憶部16と、画像処理部17と、制御部18とを有する。
【0020】
送受信部11は、パルス発生器、送信遅延部、パルサ等を有し、超音波プローブ1に駆動信号を供給する。パルス発生器は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。また、送信遅延部は、超音波プローブ1から発生される超音波をビーム状に集束し、かつ送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生器が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサは、レートパルスに基づくタイミングで、超音波プローブ1に駆動信号(駆動パルス)を印加する。すなわち、送信遅延部は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波の送信方向を任意に調整する。
【0021】
なお、送受信部11は、後述する制御部18の指示に基づいて、所定のスキャンシーケンスを実行するために、送信周波数、送信駆動電圧等を瞬時に変更可能な機能を有している。特に、送信駆動電圧の変更は、瞬間にその値を切り替え可能なリニアアンプ型の発信回路、又は、複数の電源ユニットを電気的に切り替える機構によって実現される。
【0022】
また、送受信部11は、プリアンプ、A/D(Analog/Digital)変換器、受信遅延部、加算器等を有し、超音波プローブ1が受信した反射波信号に対して各種処理を行って反射波データを生成する。プリアンプは、反射波信号をチャネル毎に増幅する。A/D変換器は、増幅された反射波信号をA/D変換する。受信遅延部は、受信指向性を決定するために必要な遅延時間を与える。加算器は、受信遅延部によって処理された反射波信号の加算処理を行なって反射波データを生成する。加算器の加算処理により、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調され、受信指向性と送信指向性とにより超音波送受信の総合的なビームが形成される。
【0023】
送受信部11は、被検体Pを2次元走査する場合、超音波プローブ1から2次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した2次元の反射波信号から2次元の反射波データを生成する。また、送受信部11は、被検体Pを3次元走査する場合、超音波プローブ1から3次元の超音波ビームを送信させる。そして、送受信部11は、超音波プローブ1が受信した3次元の反射波信号から3次元の反射波データを生成する。
【0024】
なお、送受信部11からの出力信号の形態は、RF(Radio Frequency)信号と呼ばれる位相情報が含まれる信号である場合や、包絡線検波処理後の振幅情報である場合等、種々の形態が選択可能である。
【0025】
Bモード処理部12は、送受信部11から反射波データを受信し、対数増幅、包絡線検波処理等を行なって、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。
【0026】
ドプラ処理部13は、送受信部11から受信した反射波データから速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。
【0027】
なお、第1の実施形態に係るBモード処理部12及びドプラ処理部13は、2次元の反射波データ及び3次元の反射波データの両方について処理可能である。すなわち、Bモード処理部12は、2次元の反射波データから2次元のBモードデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のBモードデータを生成する。また、ドプラ処理部13は、2次元の反射波データから2次元のドプラデータを生成し、3次元の反射波データから3次元のドプラデータを生成する。
【0028】
画像生成部14は、Bモード処理部12及びドプラ処理部13が生成したデータから超音波画像データを生成する。すなわち、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度で表した2次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した2次元のドプラデータから移動体情報を表す2次元ドプラ画像データを生成する。2次元ドプラ画像データは、速度画像、分散画像、パワー画像、又は、これらを組み合わせた画像である。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成したドプラデータから、血流や組織の速度情報を時系列に沿ってプロットしたドプラ波形を生成することも可能である。
【0029】
ここで、画像生成部14は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成部14は、超音波プローブ1による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成部14は、スキャンコンバート以外に種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成部14は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
【0030】
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成部14が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。
【0031】
更に、画像生成部14は、Bモード処理部12が生成した3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成部14は、ドプラ処理部13が生成した3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。すなわち、画像生成部14は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
【0032】
更に、画像生成部14は、ボリュームデータをモニタ2にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対してレンダリング処理を行なう。画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理がある。また、画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、ボリュームデータに対して「Curved MPR」を行なう処理や、ボリュームデータに対して「Maximum Intensity Projection」を行なう処理がある。また、画像生成部14が行なうレンダリング処理としては、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理がある。
【0033】
画像メモリ15は、画像生成部14が生成した表示用の画像データを記憶するメモリである。また、画像メモリ15は、Bモード処理部12やドプラ処理部13が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ15が記憶するBモードデータやドプラデータは、例えば、診断の後に操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成部14を経由して表示用の超音波画像データとなる。なお、画像生成部14は、ボリュームデータと当該ボリュームデータを生成するために行なわれた超音波走査の時間とを、心電計4から送信された心電波形に対応付けて画像メモリ15に格納する。後述する画像処理部17や制御部18は、画像メモリ15に格納されたデータを参照することで、ボリュームデータを生成するために行なわれた超音波走査時の心時相を取得することができる。
【0034】
内部記憶部16は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行なうための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、内部記憶部16は、必要に応じて、画像メモリ15が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、内部記憶部16が記憶するデータは、図示しないインターフェースを経由して、外部装置へ転送することができる。なお、外部装置は、例えば、画像診断を行なう医師が使用するPC(Personal Computer)や、CDやDVD等の記憶媒体、プリンター等である。
【0035】
画像処理部17は、コンピュータ支援診断(Computer-Aided Diagnosis:CAD)を行なうために、装置本体10に設置される。画像処理部17は、画像メモリ15に格納された超音波画像データを取得して、診断支援のための画像処理を行なう。そして、画像処理部17は、画像処理結果を、画像メモリ15や内部記憶部16に格納する。なお、画像処理部17が行なう処理については、後に詳述する。
【0036】
制御部18は、超音波診断装置の処理全体を制御する。具体的には、制御部18は、入力装置3を介して操作者から入力された各種設定要求や、内部記憶部16から読込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づき、送受信部11、Bモード処理部12、ドプラ処理部13、画像生成部14及び画像処理部17の処理を制御する。また、制御部18は、画像メモリ15や内部記憶部16が記憶する表示用の超音波画像データをモニタ2にて表示するように制御する。また、制御部18は、画像処理部17の処理結果をモニタ2に表示するように制御したり、外部装置に出力したりするように制御する。
【0037】
以上、第1の実施形態に係る超音波診断装置の全体構成について説明した。かかる構成のもと、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、左室拡張末期圧に相関する指標値として用いられている「E/e’」に代わる指標値を算出する。
【0038】
上述したように、EDPに相関する指標値として従来用いられている「E/e’」を算出するためには、左室流入血流速度及び僧帽弁輪部速度を双方計測する必要ある。従来、「E」と「e’」とは、別々の心拍で計測されていた。或いは、「E/e’」の精度を高めるために、2つの部位のドプラ波形を同時に収集可能な技術を用いて、同一心拍での「E」及び「e’」を同時に計測することも行なわれていた。ここで、僧帽弁輪部速度は、1箇所、又は、2箇所(通常、四腔断面での中隔側と側壁側との2箇所)で測定されている。僧帽弁輪部速度を正確に測定するためには、僧帽弁輪部速度の測定が、複数の断面それぞれで複数の部位において行なわれることが望ましい。
【0039】
しかし、「E」と「e’」とを同時に収集する場合、「e’」が測定できる箇所は1箇所であり、複数箇所の「e’」を求めるためには、やはり、別々の心拍で計測する必要があり、検査時間が長くなる。また、「E」と「e’」とを別々の心拍で計測する場合には、「e’」を2以上の複数箇所で測定することができるが、測定部位を増やすと、検査時間が長くなってしまう。
【0040】
また、「E/e’」を用いた左室拡張能の診断では、「E/e’」が「8」未満であれば拡張能が正常であり、「E/e’」が「15」を超えると拡張能が異常であるとされている。しかし、正常異常の判断基準となるカットオフの値は、必ずしも「15」とならない場合があり、一般的には「8〜22」と広い範囲の値が用いられていた。「8〜22」とカットオフのオーバーラップが大きくなる要因は、以下の2つの要因に大別される。
【0041】
第1の要因は、ドプラ法により行なわれる「E」及び「e’」の計測結果に、ドプラ角度に依存する誤差が含まれることである。特に、組織ドプラ法により計測される「e’」の場合、弁輪の運動方向が走査線方向に一致しないと、計測結果の誤差が大きくなる。例えば、左心室が球形状になる拡張型心筋症(DCM:Dilated Cardiomyopathy)では、弁輪の運動方向が走査線方向に一致せず、「e’」の誤差が大きくなる場合がある。これに対しては、近年、2次元のスペックルトラッキング(2D Speckle Tracking、以下「2DT」)を用いて、拡張早期における、長軸(Longitudinal)方向の全体的な歪み率(strain rate)のピーク値を「e’」に対応する値として用いて、「E/e’」に対応する指標値を得ることも行なわれている。スペックルトラッキング法では、動きの検出にドプラ法を用いないので、ドプラ角度依存性の問題は無くなる。しかし、前記の方法では、同一心拍での「E」及び「e’」を同時に計測することができない。
【0042】
第2の要因は、「E」が心壁の全体的(global)な指標であるのに対し、前述したように、「e’」が、弁輪の円周方向における局所的な一部分の指標であることである。
【0043】
このように、「E/e’」は、必ずしも、左室拡張末期圧を正確に反映した指標値とならない場合があった。そこで、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、以下に説明する画像処理部17の機能により、左室拡張末期圧を正確に反映した指標値を算出する。
【0044】
図2は、第1の実施形態に係る画像処理部の構成例を示すブロック図である。
図2に例示するように、第1の実施形態に係る画像処理部17は、画像取得部17aと、容積情報算出部17bと、壁運動情報算出部17cと、時間変化率算出部17dと、極値検出部17eと、指標値算出部17fとを有する。
【0045】
第1の実施形態では、まず、3次元走査可能な超音波プローブ1を用いて、操作者は、被検体Pの心臓の左心系を、例えば、心尖部アプローチにより1心拍以上の期間で3次元走査する。これにより、画像生成部14は、1心拍以上の期間の時系列に沿った複数の3次元超音波画像データを生成し、画像メモリ15に格納する。画像メモリ15に格納された複数の3次元超音波画像データは、少なくとも左心室を含む心臓を1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された3次元超音波画像データ群である。なお、第1の実施形態に係る3次元超音波画像データは、3次元Bモード画像データである。
【0046】
そして、画像取得部17aは、少なくとも左心室を含む心臓を1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された3次元超音波画像データ群を取得する。
図3は、第1の実施形態に係る画像取得部を説明するための図である。画像取得部17aは、
図3に例示するように、1心拍以上の時系列に沿った複数の3次元超音波画像データを取得する。各3次元超音波画像データには、被検体Pの左心室が含まれている。
【0047】
そして、容積情報算出部17bは、3次元超音波画像データ群から、左心室の第1関心領域における容積情報の時系列データを算出する。また、壁運動情報算出部17cは、同一の3次元超音波画像データ群から、左心室の第2関心領域における壁運動情報の時系列データを算出する。
【0048】
具体的には、容積情報算出部17bは、画像データ間のパターンマッチングを含む処理により第1関心領域の位置を追跡した結果を用いて、容積情報の算出処理を行なう。また、壁運動情報算出部17cは、画像データ間のパターンマッチングを含む処理により第2関心領域の位置を追跡した結果を用いて、壁運動情報の算出処理を行なう。
【0049】
より具体的には、容積情報算出部17b及び壁運動情報算出部17cは、3次元心エコー法で得られた3次元動画像データに対して3次元スペックルトラッキング(3D Speckle Tracking、以下「3DT」)を行なった結果を用いて、第1関心領域における容積情報及び第2関心領域における壁運動情報を算出する。スペックルトラッキング法は、パターンマッチング処理と共に、例えば、オプティカルフロー法や種々の時空間補間処理を併用することで、正確な動きを推定する方法である。また、スペックルトラッキング法には、パターンマッチング処理を行なわずに、動きを推定する方法もある。以下では、3DT処理が容積情報算出部17bにより行なわれる場合について説明する。ただし、第1の実施形態は、3DT処理が、画像取得部17aや壁運動情報算出部17cにより行なわれる場合であっても、画像処理部17以外の処理部(例えば制御部18)により行なわれる場合であっても良い。
【0050】
図4は、3次元スペックルトラッキングの一例を説明するための図である。例えば、入力装置3は、操作者から、3次元超音波画像データ群の第1フレーム(第1ボリューム)の表示要求を受け付ける。表示要求が転送された制御部18は、第1フレームの3次元超音波画像データを画像メモリ15から読み出して、モニタ2に表示させる。例えば、制御部18は、第1フレームの3次元超音波画像データを複数方向の断面にて切断した複数のMPR画像データを画像生成部14に生成させ、モニタ2に表示させる。
【0051】
そして、操作者は、モニタに表示された複数のMPR画像データを参照して、3DTを行なう追跡点を複数設定する。一例を挙げると、操作者は、各MPR画像データにおいて、左室内膜や心筋外膜の位置をトレースする。容積情報算出部17bは、トレースされた内膜面や外膜面から3次元的な境界面を再構成する。そして、容積情報算出部17bは、
図4に例示するように、第1フレームの内膜面に対して複数の矩形で構成されるメッシュを設定し、各矩形の頂点を追跡点として設定する。また、図示しないが、容積情報算出部17bは、第1フレームの外膜面に対しても複数の矩形で構成されるメッシュを設定し、各矩形の頂点を追跡点として設定する。ここで、容積情報算出部17bは、内膜面の各追跡点と外膜面の各追跡点とをペアとして設定する。そして、容積情報算出部17bは、第1フレームで設定された複数の追跡点それぞれに対して、テンプレートデータを設定する。テンプレートデータは、追跡点を中心とする複数のボクセルから構成される。
【0052】
そして、容積情報算出部17bは、2つのフレーム間でテンプレートデータのスペックルパターンと最も一致する領域を探索することで、テンプレートデータが次のフレームでどの位置に移動したかを追跡する。これにより、容積情報算出部17bは、
図4に示すように、第1フレームの各追跡点が、第nフレームのどの位置に移動したかを追跡する。なお、追跡点を設定するためのメッシュは、容積情報算出部17bが第1フレームに含まれる左心室の内膜面や外膜面を検出することで設定する場合であっても良い。
【0053】
容積情報算出部17bは、左心室全体(例えば、左心室の内膜及び左心室の外膜)を第1関心領域として、3次元超音波画像データ群に対する3DTを行なう。そして、容積情報算出部17bは、内膜の3DTの結果から、各ボリュームデータで、左心室の内膜面で囲まれる内腔容積(V)を算出する。これにより、容積情報算出部17bは、内腔容積(V)の1心周期以上の期間にわたる時系列データを生成する。また、容積情報算出部17bは、外膜の3DTの結果から、外膜内部の容積を算出する。これにより、容積情報算出部17bは、外膜内部の容積の1心周期以上の期間にわたる時系列データを生成する。なお、後述するが、第1の実施形態では、内腔容積(V)の時間微分が、左室流入血流速度に対応する値として用いられる。
【0054】
そして、壁運動情報算出部17cは、3次元超音波画像データ群に対する3DTの結果から、壁運動情報の1心周期以上の期間にわたる時系列データを生成する。なお、後述するが、第1の実施形態では、壁運動情報の時間微分が、僧帽弁輪部速度に対応する値として用いられる。以下、3DTの結果から算出される壁運動情報の具体例と、第2関心領域とについて説明する。
【0055】
例えば、壁運動情報算出部17cは、内膜及び外膜の3DTの結果から、壁運動情報として歪み(Strain)を算出する。壁運動情報算出部17cは、長軸(Longitudinal)方向の歪み(LS)や、円周(Circumferential)方向の歪み(CS)、壁厚(Radial)方向の歪み(RS)を算出する。
【0056】
或いは、例えば、壁運動情報算出部17cは、内膜の3DTの結果から、壁運動情報として、左室内膜面の面積変化率(Area Change ratio:AC)を算出する。僧帽弁輪部速度に対応する値という観点からは、壁運動情報は、LSが好適である。また、内腔容積(V)の変化と対応する値という観点からは、壁運動情報はACが好適である。
【0057】
或いは、例えば、壁運動情報算出部17cは、内膜又は外膜の3DTの結果から、変位(Displacement)を算出しても良い。変位の時間微分も、僧帽弁輪部速度に対応する値として用いることができる。壁運動情報として変位を用いる場合、壁運動情報算出部17cは、長軸方向の変位(LD)や、壁厚方向の変位(RD)を算出することができる。或いは、壁運動情報算出部17cは、基準時相(例えば、R波)での追跡点の位置に対する、基準位相以外の時相での追跡点の移動距離(Absolute Displacement:AD)を算出しても良い。
【0058】
「歪み、面積変化率及び変位」は、スペックルトラッキング技術を用いて得られる壁運動情報であり、心筋の動きを追跡可能であることから、局所領域での定義が可能となる。特に、「歪み及び面積変化率」は、心臓全体の動きである「translation」の影響を除外した局所心筋の伸縮情報が得られる点が、「変位」に対する利点として知られている。
【0059】
ここで、壁運動情報算出部17cは、第2関心領域における壁運動情報として左心室全体の壁運動情報(全体的な壁運動情報)を算出する場合であっても、第2関心領域における壁運動情報として左心室の弁輪部位の壁運動情報(局所的な壁運動情報)を算出する場合であっても良い。例えば、壁運動情報算出部17cは、アメリカ心エコー図学会やアメリカ心臓協会が推奨する分割領域を用いて、局所的な壁運動情報を算出する。
【0060】
第2関心領域が左心室全体である場合、壁運動情報算出部17cは、全ての分割領域の壁運動情報を算出し、算出した全ての壁運動情報を平均することで、左心室全体の壁運動情報を算出する。
【0061】
また、第2関心領域が左心室の弁輪部位(僧帽弁輪部)である場合、壁運動情報算出部17cは、例えば、基部レベルにおける前壁、側壁、後壁、下壁、中隔及び前壁中隔それぞれの壁運動情報を算出し、算出した6つの壁運動情報を平均することで、左心室の弁輪部位の壁運動情報を算出する。
【0062】
内腔容積(V)の変化と対応する値という観点からは、「中隔の壁運動情報」や「中隔及び側壁の壁運動情報の平均」等のように「弁輪部位における局所的な壁運動情報」を用いるより、「内膜面全体」や「弁輪部位全体」といった全体的な壁運動情報を用いることが好適である。「弁輪部位全体の壁運動情報」は、左心室としては局所的な壁運動情報であるが、弁輪部としては全体的な壁運動情報となる。
【0063】
例えば、壁運動情報としてLSやCS、RSもしくはRDを用いる場合は、壁運動情報算出部17cは、局所領域での値についての左心室全体の平均値を算出する。或いは、ACを用いる場合は、壁運動情報算出部17cは、局所領域での値についての左心室全体の平均値もしくは内膜面全体での面積変化率を算出する。また、LDやADを用いる場合、壁運動情報算出部17cは、弁輪部位全体の平均値を算出するのが好適である。
【0064】
なお、壁運動情報として算出される情報の設定は、操作者により入力装置3を介して設定される場合であっても、初期設定されている場合であっても良い。
【0065】
そして、
図2に例示する時間変化率算出部17dは、容積情報の時系列データから容積情報の時間変化率の時系列データである第1時系列データを算出する。また、
図2に例示する時間変化率算出部17dは、壁運動情報の時系列データから壁運動情報の時間変化率の時系列データである第2時系列データを算出する。そして、
図2に例示する極値検出部17eは、第1時系列データの拡張早期における極値を第1極値として検出し、第2時系列データの拡張早期における極値を第2極値として検出する。
図5及び
図6は、第1の実施形態に係る極値検出部を説明するための図である。
【0066】
図5の上図は、容積情報算出部17bが算出した内腔容積(V、単位:mL)の時系列データをプロットしたグラフを破線で示し、壁運動情報算出部17cが算出した左室内膜全体の面積変化率(AC、単位:%)の時系列データをプロットしたグラフを実線で示している。また、
図5の下図は、時間変化率算出部17dが第1時系列データとして算出した内腔容積の時間変化率(dV/dt、単位:mL/s)の時系列データをプロットしたグラフを破線で示し、時間変化率算出部17dが第2時系列データとして算出した面積変化率の時間変化率(ACR:AC Rate、単位:1/s)の時系列データをプロットしたグラフを実線で示している。なお、
図5では、心電計4から取得したECGも併せて示している。
【0067】
図5に例示する場合、極値検出部17eは、拡張早期時相での第1極値として「dV/dt」のピーク値「(dV/dt)e」を検出する。ここで、「e」は、「early diastole」を示す。また、
図5に例示する場合、極値検出部17eは、拡張早期時相での第2極値として「ACR」のピーク値「SRe」を検出する。ここで、「e」は、上記と同様に、「early diastole」を示す。また、「SR」は、「strain rate」を示す。ACは、上述したように、壁運動情報の一形態である。
【0068】
極値検出部17eは、拡張早期のピーク値を検出するため、まず、時系列データにおける収縮末期(end systole:ES)を決定する。ESの決定方法は、被検体Pの大動脈弁が閉鎖する時間(AVC)を、左室流出血流計測での駆出期間として予め計測しておき、計測結果を参照する方法が知られている。或いは、ESの決定方法は、心音図を用いて第II音の時間を計測する方法が知られている。第1の実施形態では、これらの方法を用いる場合であっても良いが、これらの方法は、ESの決定用に、別途計測が必要となる。
【0069】
そこで、第1の実施形態に係る極値検出部17eは、計測を行なわずにESを簡便に決定するために、以下の推定処理を行なう。極値検出部17eは、第1極値を検出する際に、容積情報が最小となる時相を用いて第1時系列データにおける拡張早期の時相を推定する。
【0070】
例えば、極値検出部17eは、
図5の上図に例示するように、内腔容積の時系列データをプロットしたグラフで「V」が最小となる時相を「ES」として検出する。そして、極値検出部17eは、「ES」として検出した時相から拡張末期(end diastole:ED)までを探索期間として、「dV/dt」の極大値の候補を探索する。この探索期間には、左室拡張に伴う拡張早期のE波と、心房収縮に伴う拡張後期のA波との2つの極大値が候補として出現する。
【0071】
極値検出部17eは、2つの極大値のうち、「ES」として検出した時相に近い極大値を「(dV/dt)e」として検出する。
図5の下図に例示する場合では、極値検出部17eは、時間「t1」の「dV/dt」を「(dV/dt)e」として検出する。
【0072】
そして、極値検出部17eは、第2極値を検出する際に、第1極値が検出された時相を用いて第2時系列データにおける拡張早期の時相を推定する。ここで、一般的に、「dV/dt」がピークとなる時間と、「SR」がピークとなる時間とは、必ずしも、一致しない。このため、極値検出部17eは、第1極値が検出された時相に最も近い時相でピークとなる壁運動情報の時間変化率を第2極値として検出する。
図5の下図に例示する場合では、極値検出部17eは、時間「t1」に最も近い時間でピークとなる時間「t2」の「ACR」を「SRe」として検出する。
【0073】
なお、壁運動情報が「RS」や「変位」の場合、拡張期での極性は「負」となり、壁運動情報が「RS」及び「変位」以外の情報の場合、拡張期での極性は「正」となる。極値検出部17eは、探索するピーク値の極性に応じて、探索すべきピーク値の正負を選択する。
【0074】
また、心筋虚血では、PSS(post systolic shortening)と呼ばれる特異な収縮が発生することが知られている。PSSが起こると、拡張早期に複数の「SR」のピークが出現する可能性がある。そこで、極値検出部17eは、第1極値が検出された時相を含む所定時間範囲内で最大のピーク値となる「SR」を「SRe」として検出しても良い。
図6に示す一例では、極値検出部17eは、「(dV/dt)e」が検出された時間「t1」に対して、時間範囲『「t1−dT」〜「t1+dT」』を設定する。そして、
図6に例示するように、極値検出部17eは、『「t1−dT」〜「t1+dT」』内で、「SR」が最大となる時間「t2」の「SR」を「SRe」として検出する。
【0075】
図2に戻って、指標値算出部17fは、第1極値と第2極値とを用いて指標値を算出する。例えば、指標値算出部17fは、「(dV/dt)e」と「SRe」との比「(dV/dt)e/SRe」を指標値として算出する。すなわち、第1の実施形態では、「(dV/dt)e」を「E」として用い、「SRe」を「e’」として用いる。そして、第1の実施形態では、「E/e’」の代わりに、「(dV/dt)e/SRe」をEDPに対応する指標値として算出する。なお、指標値「(dV/dt)e/SRe」は、制御部18の制御により、モニタ2に表示されたり、外部装置に出力されたりする。
【0076】
ここで、容積情報算出部17bは、更に、容積情報の時系列データから、左室駆出率(Ejection Fraction:EF)を算出しても良い。EFは、左室拡張末期容積及び左室収縮末期容積により定義される値である。従って、容積情報算出部17bは、容積情報の時系列データから、左室拡張末期容積及び左室収縮末期容積を取得して、EFを算出することができる。
【0077】
また、容積情報算出部17bは、更に、容積情報の時系列データから、心筋重量を算出しても良い。上述したように、第1関心領域として、容積情報算出部17bは、内膜面とともに外膜面の3DTを行っており、外膜面で囲まれる容積の1心周期以上の期間にわたる時系列データを生成している。容積情報算出部17bは、同一時相の外膜内部の容積から内腔容積を差し引くことで、「心筋容積(mL)」を算出する。そして、容積情報算出部17bは、「心筋容積(mL)」に平均的な心筋密度値(例えば、1.05g/mL)を乗算することで「心筋重量(g)」を算出する。なお、容積情報算出部17bは、更に、「心筋重量(g)」を「体表面積(BSA)(m
2)」で規格化することで「Mass−Index(g/m
2)」を算出しても良い。
【0078】
容積情報算出部17bが算出した左室駆出率や心筋容積、心筋重量、Mass−Index等は、指標値と共に、制御部18の制御により、モニタ2に表示されたり、外部装置に出力されたりする。
【0079】
図7は、第1の実施形態に係る画像処理解析を適用した実験例を示す図である。
図7は、上記した解析方法を、実験動物(イヌ)に適用した結果の一例である。
図7のグラフの縦軸は、globalな内膜のACの時間微分(ACR)のピーク値をSReとして用いた場合に、上記した方法で算出した「(dV/dt)e/SRe」である。
図7では、「(dV/dt)e/SRe」を「dQ/de’」と示している。なお、「dQ/de’」の単位は、「[mL]=[mL/s]/[1/s]」 と体積の次元を有する。また、
図7のグラフの横軸は、心臓カテーテルを用いて計測した計測した左房圧(LAP、単位:mmHg)を示す。なお、LAPは、左室充満圧に略一致する。
図7に例示するように、本実施形態により算出される指標値がLAPと良好に相関することが、相関係数「R
2=0.83」により実証されている。
【0080】
次に、
図8を用いて、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。
図8は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0081】
図8に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置は、処理対象となる3次元超音波画像データ群が指定され、指標値の算出要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS101)。ここで、指標値の算出要求を受け付けない場合(ステップS101否定)、超音波診断装置は、指標値の算出要求を受け付けるまで待機する。
【0082】
一方、指標値の算出要求を受け付けた場合(ステップS101肯定)、画像取得部17aは、指定された3次元超音波画像データ群を取得する(ステップS102)。そして、容積情報算出部17bは、3次元超音波画像データ群に対して3次元スペックルトラッキング処理を行なう(ステップS103)。
【0083】
そして、容積情報算出部17bは、内腔容積(V)の時系列データを算出し(ステップS104)、時間変化率算出部17dは、内腔容積(V)の時系列データに対して時間微分による変換を行なうことで、内腔容積の時間変化率(dV/dt)の時系列データ(第1時系列データ)を算出する(ステップS105)。そして、極値検出部17eは、dV/dtの拡張早期におけるピーク値「(dV/dt)e」を第1極値として算出する(ステップS106)。なお、極値検出部17eは、ステップS106において、内腔容積が最小となる時相を用いて第1時系列データにおける拡張早期の時相を推定する。
【0084】
また、ステップS104〜ステップS106の処理と並行して、壁運動情報算出部17cは、壁運動情報(S)の時系列データを算出し(ステップS107)、時間変化率算出部17dは、壁運動情報(S)の時系列データに対して時間微分による変換を行なうことで、壁運動情報の時間変化率(SR)の時系列データ(第2時系列データ)を算出する(ステップS108)。そして、極値検出部17eは、SRの拡張早期におけるピーク値「SRe」を第2極値として算出する(ステップS109)。なお、極値検出部17eは、ステップS106を行なった後、検出した第1極値の時相を用いて、ステップS109の処理を行なう。
【0085】
そして、指標値算出部17fは、指標値「(dV/dt)e/SRe」を算出し(ステップS110)、制御部18の制御により、指標値を出力し(ステップS111)、処理を終了する。
【0086】
上述したように、第1の実施形態では、ドプラ法ではなく、スペックトラッキング技術を用いて、同一の3次元動画データ(3次元超音波画像データ群)から、同一心拍における容積情報と壁運動情報とを取得する。そして、第1の実施形態では、同一心拍におけるにおける容積情報の時間変化率の時系列データと壁運動情報の時間変化率の時系列データとを取得する。ここで、僧帽弁輪の面積が拡張期に変化しないと仮定すると、「dV/dt」の拡張早期における波高「(dV/dt)e」は、左室流入速度のE波の波高に比例すると考えられる。そこで、第1の実施形態では、容積情報の時間変化率の時系列データのピーク値「(dV/dt)e」を、従来、ドプラ法により求められていた「E」に相当する値として検出する。また、第1の実施形態では、壁運動情報の時間変化率の時系列データのピーク値「SRe」を、従来、ドプラ法により求められていた「e’」に相当する値として検出する。
【0087】
実際の心疾患の患者は、心房細動や期外収縮等の不整脈を高率に合併している。「E/e’」の測定において、かかる不整脈は、「E」及び「e’」の双方の値に影響を及ぼすので、正確に測定するためには両者の同時性が必要となる。
【0088】
第1の実施形態では、「(dV/dt)e」及び「SRe」を同一心拍のデータから得られるため、不整脈が発生した場合でも、「(dV/dt)e/SRe」は、正確にEDPを反映した指標値になると考えられる。すなわち、「(dV/dt)e/SRe」の分母の値及び分子の値は、同時性が担保された値である。
【0089】
また、上述したように、第1の実施形態では、壁運動情報の取得にドプラ法を用いない。また、第1の実施形態では、左心室全体の情報を一度に得て全体的な壁運動情報(左心室全体の壁運動情報や弁輪部全体の壁運動情報)を得ることが可能である。
【0090】
このように、第1の実施形態では、指標値算出に際して、壁運動情報にドプラ角度の依存性に起因する誤差が無い。また、第1の実施形態では、「e’」に対応する値を複数の局所的な壁運動情報から算出できる。また、第1の実施形態では、「E」及び「e’」に対応する2つの値を、同一心拍で算出できる。従って、第1の実施形態では、左室拡張末期圧を正確に反映した指標値を算出することができる。
【0091】
なお、第1の実施形態は、以下に説明する2つの変形例により上述した指標値を算出しても良い。以下、
図9及び
図10を用いて第1の実施形態に係る変形例について説明する。
図9は、第1の実施形態に係る第1の変形例を説明するための図であり、
図10は、第1の実施形態に係る第2の変形例を説明するための図である。
【0092】
第1の変形例では、容積情報算出部17bは、容積情報の時系列データを、3DTではなく、2DTを用いて算出する。例えば、容積情報算出部17bは、
図9に示すように、3次元超音波画像データ(第1フレーム)に対して、長軸方向に直行する複数の断面を設定する。そして、容積情報算出部17bは、
図9に示すように、各断面において外膜を形成する閉曲線(M1〜M6・・・)及び内膜を形成する閉曲線(m1〜m6・・・)それぞれに追跡点を設定する。これにより、容積情報算出部17bは、3次元超音波画像データ群に対して、複数断面での2DTを行なう。
【0093】
そして、容積情報算出部17bは、複数断面での2DT処理の結果を空間的に補間して合成することで、3DT処理の結果に相当するデータを取得する。容積情報算出部17bは、取得したデータを用いて、内腔容積(V)の時系列データを算出する。本変形例では、壁運動情報として、globalなCSを用いるのが好適である。更に、壁運動情報算出部17cは、容積情報算出部17bが2DT処理の結果を空間的に補間して合成したデータを用いて、壁運動情報の時系列データを算出する。かかる変形例でも、左室拡張末期圧を正確に反映した指標値を算出することができる。なお、本変形例における複数断面の方向としては、前述したMPR短軸像の他に、複数のMPR長軸像を用いても良い。
【0094】
また、第2の変形例では、容積情報算出部17bは、容積情報の時系列データを、スペックルトラッキング技術以外の方法により算出する。具体的には、容積情報算出部17bは、第1関心領域としての内腔境界の位置を検出した結果を用いて、容積情報の算出処理を行なう。より具体的には、容積情報算出部17bは、画像輝度分布に関するエッジ検出等の公知の自動輪郭検出技術を用いて、
図10に例示するように、左室内膜面の位置を同定する(図中のハッチングされた領域を参照)。これにより、容積情報算出部17bは、内腔容積(V)の時系列データを算出する。なお、自動輪郭検出処理は、容積情報算出部17b以外の処理部が行なっても良い。
【0095】
また、第2の変形例では、壁運動情報算出部17cは、第2関心領域としての心筋領域の位置を検出した結果を用いて、壁運動情報の算出処理を行なう。壁運動情報算出部17cは、容積情報算出部17bが行なった自動輪郭検出結果を用いて、壁運動情報を算出する。かかる場合、壁運動情報算出部17cは、SReを検出するための壁運動情報として、左室内膜面の位置情報から内膜面全体のglobalな面積変化率(AC)を算出することが好適である。なお、本変形例で行なわれる処理では、
図8に示すステップS102の処理が自動輪郭検出処理に置き換えられる。かかる変形例でも、左室拡張末期圧を正確に反映した指標値を算出することができる。
【0096】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、上述した指標値を、2次元超音波画像データ群を用いて算出する場合について説明する。
【0097】
なお、第2の実施形態に係る画像処理部17は、
図2に例示した第1の実施形態に係る画像処理部17と同様の構成を有する。しかし、第2の実施形態では、画像取得部17a、容積情報算出部17b及び壁運動情報算出部17cの処理対象が、以下、説明するように、2次元超音波画像データ群となる。
【0098】
3次元走査を行なって3次元超音波画像データ群の収集を収集する場合のフレームレート(ボリュームレート)は、例えば、1秒間当たり20〜30フレーム程度となり、収集される3次元超音波画像データ群の時間分解能が低くなる。このため、第1極値や第2極値が検出される時相にばらつきが生じたり、第1極値や第2極値が過小評価されたりする場合がある。また、走査線の間隔を広くして、時間分解能向上させることが可能であるが、かかる場合、空間分解能(方位分解能)が、2次元走査に比べて相対的に低下する。
【0099】
そこで、第2の実施形態では、まず、操作者は、被検体Pの心臓の左心系の所定断面を、例えば、心尖部アプローチにより1心拍以上の期間で2次元走査する。これにより、画像生成部14は、1心拍以上の期間の時系列に沿った複数の2次元超音波画像データを生成し、画像メモリ15に格納する。画像メモリ15に格納された複数の2次元超音波画像データは、少なくとも左心室を含む心臓の所定断面を1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された2次元超音波画像データ群である。なお、第2の実施形態に係る2次元超音波画像データは、2次元Bモード画像データである。また、第2の実施形態は、メカニカル4Dプローブや2Dアレイプローブである超音波プローブ1を用いて、2次元走査を行なう場合であっても良いし、2次元走査専用の超音波プローブ1を用いる場合であっても良い。
【0100】
そして、第2の実施形態に係る画像取得部17aは、少なくとも左心室を含む心臓の所定断面を1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された2次元超音波画像データ群を取得する。ここで、上記の所定断面とは、長軸像を撮影するための断面ある。第2の実施形態においては、長軸像の2次元超音波画像データとして、心尖部四腔像(apical four-chamber view、以下、A4C)や、心尖部二腔像(apical two-chamber view、以下、A2C)、心尖部長軸像(apical long-axis view、以下、A3C)のいずれかを用いる。
【0101】
そして、第2の実施形態に係る 画像取得部17aは、少なくとも左心室を含む心臓の所定断面(A4C面、A3C面、又は、A2C面)を1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された2次元超音波画像データ群を取得する。
図11は、第2の実施形態に係る画像取得部を説明するための図である。画像取得部17aは、
図11に示すように、例えば、1心拍以上の時系列に沿った複数のA4C面の画像データを取得する。
【0102】
そして、第2の実施形態に係る容積情報算出部17bは、2次元超音波画像データ群から、左心室の第1関心領域における容積情報の時系列データを算出する。また、第2の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、2次元超音波画像データ群から、左心室の第2関心領域における壁運動情報の時系列データを算出する。
【0103】
具体的には、第2の実施形態に係る容積情報算出部17bは、2次元超音波画像データ間のパターンマッチングを含む処理により第1関心領域の位置を追跡した結果を用いて、容積情報の算出処理を行なう。また、第2の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、2次元超音波画像データ間のパターンマッチングを含む処理により第2関心領域の位置を追跡した結果を用いて、壁運動情報の算出処理を行なう。
【0104】
すなわち、第2の実施形態では、2次元スペックルトラッキング処理が行なわれる。なお、以下では、2DT処理が容積情報算出部17bにより行なわれる場合について説明する。ただし、第2の実施形態は、2DT処理が、画像取得部17aや壁運動情報算出部17cにより行なわれる場合であっても、画像処理部17以外の処理部(例えば制御部18)により行なわれる場合であっても良い。
【0105】
図12は、2次元スペックルトラッキングの一例を説明するための図である。例えば、入力装置3は、操作者から、2次元超音波画像データ群の第1フレームの表示要求を受け付ける。表示要求が転送された制御部18は、第1フレームの2次元超音波画像データを画像メモリ15から読み出して、モニタ2に表示させる。
【0106】
そして、操作者は、モニタ2に表示された2次元超音波画像データを参照して、2DTを行なう追跡点を複数設定する。一例を挙げると、操作者は、2次元超音波画像データにおいて、左室内膜や心筋外膜の位置をトレースする。容積情報算出部17bは、トレースされた内膜面や外膜面から2次元的な境界面を再構成する。そして、容積情報算出部17bは、
図12に例示するように、第1フレームの内膜面及び外膜面それぞれにおいて、ペアとなる複数の追跡点を設定する。容積情報算出部17bは、第1フレームで設定された複数の追跡点それぞれに対して、テンプレートデータを設定する。テンプレートデータは、追跡点を中心とする複数のピクセルから構成される。
【0107】
そして、容積情報算出部17bは、2つのフレーム間でテンプレートデータのスペックルパターンと最も一致する領域を探索することで、テンプレートデータが次のフレームでどの位置に移動したかを追跡する。なお、追跡点は、容積情報算出部17bが第1フレームに含まれる左心室の内膜面や外膜面を検出することで設定する場合であっても良い。
【0108】
そして、容積情報算出部17bは、内腔容積(V)を、2次元像の輪郭から、3次元的な内腔形状を推定する「Area−Length法」や「ディスク総和法(Simpson法)」により近似的に算出する。
図13は、第2の実施形態に係る容積情報算出部を説明するための図である。
【0109】
容積情報算出部17bは、例えば、
図13に示すように、ディスク総和法を行なうここで、内腔容積を近似した時系列データを算出する。ディスク総和法を行なう場合、容積情報算出部17bは、例えば、
図13に示すように、A4C像を、長軸(L)に垂直な20個のディスクに等分する。そして、容積情報算出部17bは、i番目のディスクが内膜面と交差する2点の距離(図中のa
iを参照)を算出する。そして、容積情報算出部17bは、
図13に示すように、i番目のディスクにおける内腔の3次元形状を直径「ai」の円柱のスライスとして近似する。容積情報算出部17bは、20個の円柱の体積の総和を、内腔容積を近似した容積情報として算出する。これにより、容積情報算出部17bは、容積情報の時系列データを算出する。
【0110】
なお、「Area−Length法」は、左心室を回転楕円体として仮定し、左室長軸を含む左室内腔面積と左室内腔長軸長との計測結果から、左室内腔短軸長を算出して、内腔容積の近似値を算出する方法である。容積情報算出部17bは、2DT処理の結果から左室内腔面積と左室内腔長軸長とを計測することで左室内腔短軸長を算出して、内腔容積を近似した容積情報を算出する。
【0111】
第2の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、2次元の長軸像を用いることから、壁運動情報の種別として、長軸方向の歪み(LS)、長軸方向の変位(LD)、移動距離(AD)、壁厚方向の変位(RD)、又は、長軸像での壁厚変化率である「Transverse(TS)」のいずれかを算出する。僧帽弁輪部速度に対応する値という観点では、長軸方向に平行なLSかLDを用いるのが好適である。
【0112】
また、第2の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、2次元の長軸像を用いることから、壁運動情報の定義領領域としては、LSやTS、RDでは、内膜上での全体的な平均値を算出し、LDやADでは、左右両側の弁輪部位の2分割領域の平均値を算出することが好適である。
【0113】
なお、第2の実施形態において、時間変化率算出部17dが行なう算出処理、極値検出部17eが行なう検出処理及び指標値算出部17fが行なう算出処理は、第1の実施形態と同様である。なお、指標値は、制御部18の制御により、モニタ2に表示されたり、外部装置に出力されたりする。
【0114】
また、第2の実施形態に係る容積情報算出部17bは、更に、近似により算出した内腔容積の時系列データから、左室駆出率を算出しても良い。また、第2の実施形態に係る容積情報算出部17bは、更に、2DTの処理結果から、外膜内部の容積の近似値を算出することで、心筋容積や、心筋重量、Mass−Indexを算出しても良い。容積情報算出部17bが算出した左室駆出率や心筋容積、心筋重量、Mass−Index等は、指標値と共に、制御部18の制御により、モニタ2に表示されたり、外部装置に出力されたりする。
【0115】
次に、
図14を用いて、第2の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。
図14は、第2の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0116】
図14に示すように、第2の実施形態に係る超音波診断装置は、処理対象となる2次元超音波画像データ群が指定され、指標値の算出要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS201)。ここで、指標値の算出要求を受け付けない場合(ステップS201否定)、超音波診断装置は、指標値の算出要求を受け付けるまで待機する。
【0117】
一方、指標値の算出要求を受け付けた場合(ステップS201肯定)、画像取得部17aは、指定された2次元超音波画像データ群を取得する(ステップS202)。そして、容積情報算出部17bは、2次元超音波画像データ群に対して2次元スペックルトラッキング処理を行なう(ステップS203)。
【0118】
そして、容積情報算出部17bは、近似により、内腔容積(V)の時系列データを算出し(ステップS204)、時間変化率算出部17dは、内腔容積(V)の時系列データに対して時間微分による変換を行なうことで、内腔容積の時間変化率(dV/dt)の時系列データ(第1時系列データ)を算出する(ステップS205)。そして、極値検出部17eは、dV/dtの拡張早期におけるピーク値「(dV/dt)e」を第1極値として算出する(ステップS206)。なお、極値検出部17eは、ステップS206において、内腔容積が最小となる時相を用いて第1時系列データにおける拡張早期の時相を推定する。
【0119】
また、ステップS204〜ステップS206の処理と並行して、壁運動情報算出部17cは、壁運動情報(S)の時系列データを算出し(ステップS207)、時間変化率算出部17dは、壁運動情報(S)の時系列データに対して時間微分による変換を行なうことで、壁運動情報の時間変化率(SR)の時系列データ(第2時系列データ)を算出する(ステップS208)。そして、極値検出部17eは、SRの拡張早期におけるピーク値「SRe」を第2極値として算出する(ステップS209)。なお、極値検出部17eは、ステップS206を行なった後、検出した第1極値の時相を用いて、ステップS209の処理を行なう。
【0120】
そして、指標値算出部17fは、指標値「(dV/dt)e/SRe」を算出し(ステップS210)、制御部18の制御により、指標値を出力し(ステップS211)、処理を終了する。
【0121】
上述したように、第2の実施形態では、3次元動画データを用いる第1の実施形態と比較して、2次元動画データを用いることで、時間分解能及び空間分解能の制約が共に改善される。2次元走査では、3次元走査に比べて、走査線間隔を十分に細かく設定して方位分解能を高くしても、60〜80fps(frame per second)程度の動画データを取得できる。このため、第2の実施形態では、第1極値や第2極値が検出される時相にばらつきが生じたり、第1極値や第2極値が過小評価されたりすることを回避することができる。
【0122】
ただし、第2の実施形態では、壁運動情報を1断面上での情報から推定するので、第1の実施形態と比較して、「e’」に相当する値について、空間的に限定された領域からしか得られないという制約がある。また、「E」に相当する値について、基となる体積値が2次元断面から推定されることに起因する誤差が含まれる場合もある。
【0123】
時間分解能が高い2次元動画データを用いる第2の実施形態で説明した方法は、指標値を算出する分母及び分子の同時性が担保されることが重要である場合に適用されることが好適である。具体的には、心房細動のような心拍期間が一定でない症例では「E」及び「e’」に対応する値の同時性が重要となることから、第2の実施形態で説明した方法が効果的に機能し得る。
【0124】
なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態に係る第2の変形例と同様に、2DT処理の代わりに、自動輪郭検出技術を適用しても良い。かかる場合、壁運動情報算出部17cは、指標値の算出に用いる壁運動情報として、左室内膜輪郭の位置情報から内膜全体の全体的な長さの変化率を「LS」として算出することが好適である。なお、本変形例で行なわれる処理では、
図14に示すステップS202の処理が自動輪郭検出処理に置き換えられる。
【0125】
更に、この変形例では、内腔容積ではなく、輪郭で囲まれた内腔面積の情報を指標値の分子として用いても、EDPに相関する指標値を提供することができる。かかる場合、壁運動情報をStrain Rate(単位:1/s)とすると、最終的に得られる指標値の単位は「cm
2」と面積の次元を有する。
【0126】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、上述した指標値を、複数の2次元超音波画像データ群を用いて算出する場合について説明する。
【0127】
なお、第3の実施形態に係る画像処理部17は、
図2に例示した第1の実施形態に係る画像処理部17と同様の構成を有する。しかし、第3の実施形態では、画像取得部17a、容積情報算出部17b及び壁運動情報算出部17cの処理対象が、以下、説明するように、複数の2次元超音波画像データ群となる。
【0128】
第3の実施形態では、まず、操作者は、被検体Pの心臓の左心系の所定断面として、複数断面それぞれを、例えば、心尖部アプローチにより1心拍以上の期間で2次元走査する。例えば、操作者は、心尖部四腔像(A4C)用の断面や、心尖部二腔像(A2C)用の断面及び心尖部長軸像(A3C)用の断面から選択した2つ以上の断面それぞれを、1心拍以上の期間にわたって順次、2次元走査する。これにより、画像生成部14は、1心拍以上の期間の時系列に沿った複数の2次元超音波画像データ、複数断面ごとに生成し、画像メモリ15に格納する。画像メモリ15に格納された複数断面ごと複数の2次元超音波画像データは、少なくとも左心室を含む心臓の複数断面それぞれを1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された複数の2次元超音波画像データ群である。なお、第3の実施形態に係る2次元超音波画像データは、2次元走査専用の超音波プローブ1を用いることで収集される。
【0129】
そして、第3の実施形態に係る画像取得部17aは、少なくとも左心室を含む心臓の複数断面それぞれを1心拍以上の期間で超音波走査することで生成された複数の2次元超音波画像データ群を取得する。画像取得部17aは、所定断面としての複数断面それぞれに対応する複数の2次元超音波画像データ群を取得する。
【0130】
図15A及び
図15Bは、第3の実施形態に係る画像取得部を説明するための図である。画像取得部17aは、
図15Aに示すように、例えば、1心拍以上の時系列に沿った複数のA4Cの画像データと、1心拍以上の時系列に沿った複数のA2Cの画像データとを取得する。
【0131】
或いは、画像取得部17aは、
図15Bに示すように、例えば、1心拍以上の時系列に沿った複数のA4Cの画像データと、1心拍以上の時系列に沿った複数のA3Cの画像データと、1心拍以上の時系列に沿った複数のA2Cの画像データとを取得する。
【0132】
そして、第3の実施形態に係る容積情報算出部17bは、複数の2次元超音波画像データ群から、左心室の第1関心領域における容積情報の時系列データを算出する。また、第3の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、複数の2次元超音波画像データ群から、左心室の第2関心領域における壁運動情報の時系列データを算出する。
【0133】
具体的には、第3の実施形態に係る容積情報算出部17bは、第2の実施形態と同様に、2次元超音波画像データ間のパターンマッチングを含む処理により第1関心領域の位置を追跡した結果を用いて、容積情報の算出処理を行なう。また、第2の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、第2の実施形態と同様に、2次元超音波画像データ間のパターンマッチングを含む処理により第2関心領域の位置を追跡した結果を用いて、壁運動情報の算出処理を行なう。
【0134】
すなわち、第3の実施形態では、複数の2次元超音波画像データ群それぞれで、2次元スペックルトラッキング処理が行なわれる。なお、以下では、2DT処理が容積情報算出部17bにより行なわれる場合について説明する。ただし、第3の実施形態は、2DT処理が、画像取得部17aや壁運動情報算出部17cにより行なわれる場合であっても、画像処理部17以外の処理部(例えば制御部18)により行なわれる場合であっても良い。
【0135】
ここで、2次元走査専用の超音波プローブ1を用いる場合、第3の実施形態では、各断面の2次元超音波画像データ群は、異なる時期に個別に収集される。そこで、容積情報算出部17bは、例えば、R波やP波を基準時相として、R波やP波の2次元超音波画像データを先頭として、各2次元超音波画像データ群を配列する。これにより、容積情報算出部17bは、例えば、A4Cの超音波画像データ群と、A2Cの超音波画像データ群との時相を、時系列に沿って略一致させる。なお、容積情報算出部17bは、各2次元超音波画像データ群の時相を略一致させるために、R波間隔やP波間隔、又は、ECGの形状が互いに略一致する2次元超音波画像データ群を、複数の2次元超音波画像データ群それぞれから選択しても良い。また、時相を一致させるための処理は、画像取得部17aや壁運動情報算出部17cにより行なわれる場合であっても、画像処理部17以外の処理部(例えば制御部18)により行なわれる場合であっても良い。ただし、第3の実施形態は、2Dアレイプローブである超音波プローブ1を用いて、複数断面の2次元走査を同時に行なう場合であっても良い。かかる場合、第3の実施形態では、時相一致のための処理を行なわなくても良い。
【0136】
第3の実施形態に係る容積情報算出部17bは、同一時相の複数断面それぞれの2次元超音波画像データの2DT処理の結果から、各2次元超音波画像データにおける内膜に対応する追跡点の位置(すなわち、内腔の輪郭の位置)を取得する。そして、容積情報算出部17bは、内腔容積(V)を、内腔の輪郭の位置から、3次元的な内腔形状を推定する「ディスク総和法(Simpson法)」の修飾法である「modified−Simpson法」により近似的に算出する。
図16A及び
図16Bは、第3の実施形態に係る容積情報算出部を説明するための図である。
【0137】
A4C面及びA2C面の2断面それぞれの2次元走査が行なわれた場合、容積情報算出部17bは、例えば、同一時相のA4C像及びA2C像それぞれを長軸に垂直な20個のディスクに等分する。そして、容積情報算出部17bは、
図16Aに示すように、A4C像のi番目のディスクが内膜面と交差する2点の距離(図中のa
iを参照)と、A2C像のi番目のディスクが内膜面と交差する2点の距離(図中のb
iを参照)とを算出する。そして、容積情報算出部17bは、i番目のディスクの内腔の3次元形状を、「a
i」及び「b
i」から推定される長径及び短径を有する楕円体のスライスとして近似する。容積情報算出部17bは、20個の楕円体の体積の総和を、内腔容積を近似した容積情報として算出する。これにより、容積情報算出部17bは、容積情報の時系列データを算出する。
【0138】
A4C面、A3C面及びA2C面それぞれの2次元走査が行なわれた場合、容積情報算出部17bは、例えば、A4C像、A3C像、及びA2C像それぞれを長軸に垂直な20個のディスクに等分する。そして、容積情報算出部17bは、A4C像のi番目のディスクが内膜面と交差する2点の位置と、A3C像のi番目のディスクが内膜面と交差する2点の位置と、A2C像のi番目のディスクが内膜面と交差する2点の位置とを取得する。そして、容積情報算出部17bは、取得した6つの点の位置から、i番目のディスクの内腔形状を、例えば、「Spline補間」により決定する(
図16Bに示す点線の閉曲線を参照)。そして、容積情報算出部17bは、i番目のディスクにおける内腔の3次元形状を、Spline閉曲線を上面及び下面とする柱体のスライスとして近似する。容積情報算出部17bは、20個の柱体の体積の総和を、内腔容積を近似した容積情報として算出する。これにより、容積情報算出部17bは、容積情報の時系列データを算出する。そして、時間変化率算出部17dは、容積情報の時系列データの時間微分を行なうことで、第1時系列データを算出し、極値検出部17eは、第1時系列データから第1極値「(dV/dt)e」を検出する。なお、極値検出部17eは、第1極値を検出するためのES時相の推定を、第1の実施形態で説明した方法により行なう。
【0139】
第3の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、各断面で、壁運動情報の時系列データを生成する。なお、第3の実施形態における各種壁運動情報の種別と、壁運動情報の定義領域とは、第2の実施形態と基本的に同様である。
【0140】
ここで、第2関心領域における壁運動情報として、1つの断面で定義される壁運動情報が設定されている場合、第3の実施形態に係る壁運動情報算出部17cは、該当する1断面の壁運動情報の時系列データを生成する。例えば、壁運動情報算出部17cは、A4C面の壁運動情報(例えば、2箇所の壁運動情報の平均値)の時系列データを生成する。かかる場合、時間変化率算出部17dは、壁運動情報算出部17cから出力された1つの壁運動情報の時系列データの時間微分を行なうことで、第2時系列データを算出し、極値検出部17eは、第2時系列データから第2極値「SRe」を検出する。なお、極値検出部17eは、第1極値が検出された時相を用いて、第2極値を検出する。そして、指標値算出部17fは、第1極値を第2極値で除算することで、指標値を算出する。
【0141】
一方、第2関心領域における壁運動情報として、複数断面それぞれで定義される壁運動情報が設定されている場合、第3の実施形態において、壁運動情報算出部17cから時間変化率算出部17dに出力されるデータの出力形態は、以下の2つの出力形態に大別される。
【0142】
第1の出力形態を行なう場合、壁運動情報算出部17cは、複数の2次元超音波画像データ群それぞれの壁運動情報の時系列データを平均した時系列データを、壁運動情報の時系列データとして算出する。例えば、第1の出力形態では、壁運動情報算出部17cは、A4C面のLSの時系列データ(例えば、A4C面の2箇所のLSの平均値の時系列データ)とA2C面のLSの時系列データ(例えば、A2C面の2箇所のLSの平均値の時系列データ)とを算出する。そして、壁運動情報算出部17cは、A4C面のLSの時系列データとA2C面のLSの時系列データとの平均値(S’)の時系列データを算出する。
【0143】
壁運動情報算出部17cから平均壁運動情報の時系列データを受信した時間変化率算出部17dは、「S’の時系列データ」の時間微分を行なうことで、第2時系列データ(SR’の時系列データ)を算出し、極値検出部17eは、第2時系列データ(SR’の時系列データ)から第2極値「SR’e」を検出する。なお、極値検出部17eは、第1極値が検出された時相を用いて、第2極値を検出する。そして、指標値算出部17fは、第1極値を第2極値で除算することで、指標値を算出する。
【0144】
一方、第2の出力形態を行なう場合、壁運動情報算出部17cは、複数の2次元超音波画像データ群それぞれに対応する複数の壁運動情報の時系列データを算出する。そして、時間変化率算出部17dは、複数の壁運動情報の時系列データそれぞれから、複数の第2時系列データを算出する。そして、極値検出部17eは、複数の第2時系列データそれぞれで検出した拡張早期における極値を平均した値を、第2極値として算出する。例えば、第2の出力形態では、壁運動情報算出部17cは、A4C面のLSの時系列データとA2C面のLSの時系列データとを算出する。そして、時間変化率算出部17dは、例えば、第2時系列データとして、A4C面の第2時系列データとA2C面の第2時系列データ時系列データとを算出する。
【0145】
そして、極値検出部17eは、例えば、A4C面の第2時系列データの拡張早期における極値と、A2C面の第2時系列データの拡張早期における極値とを検出する。なお、極値検出部17eは、第1極値が検出された時相を用いて、例えば、A4C面の第2時系列データ及びA2C面の第2時系列データそれぞれの極値を検出する。そして、極値検出部17eは、A4C面の第2時系列データの極値とA2C面の第2時系列データの極値とを平均することで、第2極値「SR’e」を算出する。そして、指標値算出部17fは、第1極値を第2極値で除算することで、指標値を算出する。
【0146】
第1の出力形態は、心筋梗塞症例の様に、局所的に心臓の動きが極端に悪い場合に、動きが極端に悪い領域の影響が軽減された平均的なピーク値を得るのに適していると考えられる。一方、第2の出力形態は、局所の壁運動情報の値の大きさに変動があり、かつ、ピーク時間に領域間のばらつきがある左脚ブロックなどの非同期症例において、領域間の差異を含んだ全体的なピーク値を得るのに適していると考えられる。
【0147】
指標値算出部17fが算出した指標値は、制御部18の制御により、モニタ2に表示されたり、外部装置に出力されたりする。
【0148】
なお、第3の実施形態に係る容積情報算出部17bは、更に、近似により算出した内腔容積の時系列データから、左室駆出率を算出しても良い。また、第3の実施形態に係る容積情報算出部17bは、更に、2DTの処理結果から、外膜内部の容積の近似値を算出することで、心筋容積や、心筋重量、Mass−Indexの近似値を算出しても良い。容積情報算出部17bが算出した左室駆出率や心筋容積、心筋重量、Mass−Index近似値等は、指標値と共に、制御部18の制御により、モニタ2に表示されたり、外部装置に出力されたりする。
【0149】
次に、
図17を用いて、第3の実施形態に係る超音波診断装置の処理について説明する。
図17は、第3の実施形態に係る超音波診断装置の処理の一例を説明するためのフローチャートである。なお、
図17に示すフローチャートは、第1の出力形態が実行される場合の処理の一例を示している。
【0150】
図17に示すように、第3の実施形態に係る超音波診断装置は、処理対象となる複数断面それぞれの2次元超音波画像データ群が指定され、指標値の算出要求を受け付けたか否かを判定する(ステップS301)。ここで、指標値の算出要求を受け付けない場合(ステップS301否定)、超音波診断装置は、指標値の算出要求を受け付けるまで待機する。
【0151】
一方、指標値の算出要求を受け付けた場合(ステップS301肯定)、画像取得部17aは、指定された複数断面それぞれの2次元超音波画像データ群を取得する(ステップS302)。そして、容積情報算出部17bは、複数の2次元超音波画像データ群それぞれに対して2次元スペックルトラッキング処理を行なう(ステップS303)。
【0152】
そして、容積情報算出部17bは、近似により、内腔容積(V)の時系列データを算出し(ステップS304)、時間変化率算出部17dは、内腔容積(V)の時系列データに対して時間微分による変換を行なうことで、内腔容積の時間変化率(dV/dt)の時系列データ(第1時系列データ)を算出する(ステップS305)。そして、極値検出部17eは、dV/dtの拡張早期におけるピーク値「(dV/dt)e」を第1極値として算出する(ステップS306)。なお、極値検出部17eは、ステップS306において、内腔容積が最小となる時相を用いて第1時系列データにおける拡張早期の時相を推定する。
【0153】
また、ステップS304〜ステップS306の処理と並行して、壁運動情報算出部17cは、複数の断面それぞれの壁運動情報の時系列データを算出し、複数の壁運動情報の時系列データを平均することで、平均壁運動情報(S’)の時系列データを算出する。(ステップS307)。そして、時間変化率算出部17dは、平均壁運動情報の時系列データに対して時間微分による変換を行なうことで、平均壁運動情報の時間変化率(SR’)の時系列データ(第2時系列データ)を算出する(ステップS308)。そして、極値検出部17eは、SRの拡張早期におけるピーク値「SRe」を第2極値として算出する(ステップS309)。なお、極値検出部17eは、ステップS306を行なった後、検出した第1極値の時相を用いて、ステップS309の処理を行なう。
【0154】
そして、指標値算出部17fは、指標値「(dV/dt)e/SRe」を算出し(ステップS310)、制御部18の制御により、指標値を出力し(ステップS311)、処理を終了する。
【0155】
上述したように、第3の実施形態では、時間分解能及び空間分解能が確保された複数の2次元動画データを用いることで、第2の実施形態と比較して、「e’」に相当する値をより「全体的な値」とすることができ、「e’」に相当する値に誤差が含まれる可能性を低減することができる。また、第3の実施形態では、複数の2次元動画データを用いることで、第2の実施形態と比較して、内腔容積の近似精度を向上させることができる。
【0156】
第3の実施形態で説明した方法は、「E」及び「e’」に対応する値の同時性よりも、「e’」に対応する値の全体性が重要である場合に適用することが好適である。例えば、心拍期間が一定である症例の場合、「E」及び「e’」に対応する値の同時性は、ある程度担保されている。そこで、心筋梗塞のように心拍期間は一定だが、局所的な形状異変があって1断面のみの結果からVを推定すると精度が低下する場合に、第3の実施形態で説明した方法は効果的に機能し得る。
【0157】
なお、第3の実施形態においても、第1の実施形態に係る第2の変形例と同様に、2DT処理の代わりに、自動輪郭検出技術を適用しても良い。本変形例で行なわれる処理では、
図17に示すステップS302の処理が自動輪郭検出処理に置き換えられる。
【0158】
また、第3の実施形態は、複数の長軸像でなく、複数の短軸像を用いて2DTを行い、内腔の輪郭位置を補間して合成することで容積情報を取得すると共に、短軸像から定義される壁運動情報(CSやRSが好適)も複数断面から取得する場合であっても良い。この変形例では、容積の推定精度を高めるために、長軸に対してレベルの異なる3断面から7断面程度の短軸像を合成するのが望ましい。
【0159】
なお、上述した第1〜第3の実施形態では、超音波診断装置において超音波画像データ群に対する処理が行なわれる場合について説明した。しかし、上述した第1〜第3の実施形態で説明した画像処理方法は、超音波診断装置とは独立に設置された画像処理装置で行なわれる場合であってもよい。かかる場合、画像処理装置は、超音波診断装置、又は、PACSのデータベースや、電子カルテシステムのデータベースから受信した超音波画像データ群を受信して上述した画像処理方法を実行する。
【0160】
また、上述した第1〜第3の実施形態で説明した画像処理方法は、あらかじめ用意された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現することができる。この画像処理プログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、この画像処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD、USBメモリ及びSDカードメモリ等のFlashメモリ等のコンピュータで読み取り可能な非一時的な記録媒体に記録され、コンピュータによって非一時的な記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0161】
以上、説明したとおり、第1の実施形態〜第3の実施形態によれば、左室拡張末期圧を正確に反映した指標値を算出することができる。
【0162】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。