特許第6041370号(P6041370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041370
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】電子式警音器
(51)【国際特許分類】
   G10K 9/122 20060101AFI20161128BHJP
   B60Q 5/00 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   G10K9/122 172
   B60Q5/00 670B
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-509746(P2016-509746)
(86)(22)【出願日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】JP2014058854
(87)【国際公開番号】WO2015145659
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年6月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514092744
【氏名又は名称】衆智達技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】皆川 一二
(72)【発明者】
【氏名】山田 卓
(72)【発明者】
【氏名】外山 耕一
(72)【発明者】
【氏名】川村 寿彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 悟
(72)【発明者】
【氏名】竹本 博行
【審査官】 下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−207466(JP,A)
【文献】 特開昭59−107648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 9/12 − 9/22
B60Q 5/00 − 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体により振動板を起振して警報音を出力する電子式警音器において、前記警報音の基本周波数の変調矩形波を発生する手段と、前記警報音の基本周波数の高調波の周波数の基本矩形波を発生する手段と、前記基本矩形波を前記変調矩形波で変調する手段と、変調時の周波数偏移を前記基本矩形波の周波数に対して所定の範囲に設定する手段と、前記各手段で変調された変調波で前記圧電体を駆動する手段とを備え、かつ前記変調波で駆動される前記圧電体によって出力される前記警報音が電磁式ホーンから出力される警報音の音色に近似したものになるように、前記基本矩形波の周波数範囲、前記変調矩形波の周波数範囲、および前記変調時の周波数偏移範囲が設定されている電子式警音器。
【請求項2】
前記基本矩形波の周波数として、前記振動板の共振周波数を設定した請求項1に記載の電子式警音器。
【請求項3】
前記基本矩形波の周波数を前記変調矩形波の周波数の4倍〜10倍に設定した請求項1又は2に記載の電子式警音器。
【請求項4】
前記基本矩形波の周波数を1800〜3550Hz、好ましくは2000〜3150Hzの間で設定し、前記変調矩形波の周波数を290〜580Hz、好ましくは310〜440Hzの間で設定し、かつ前記周波数偏移を、前記基本矩形波の周波数に対して−11〜−25dB、好ましくは−15〜−21dBの間で設定した請求項1ないし3のいずれかに記載の電子式警音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両等に使用される電子式警音器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両等に使用される警音器としては、いわゆる電磁式平型ホーンが多用されている。その一例を図6に示す。図6において、警音器は開放容器状の円形ハウジング91を有し、当該ハウジング91の中心に固定鉄心92が設けられている。固定鉄心92と対向して可動鉄心93が設けられている。可動鉄心93は、ハウジング91の開口を閉鎖するように張設された金属製ダイヤフラム板94の裏面中心に固定されて、ダイヤフラム板94のバネ力によって固定鉄心92と一定の間隔をおいて対向して位置させられている。ダイヤフラム板94の前方(図6の上方)には共鳴板95が設けられて、その中心がダイヤフラム板94の表面中心に固定されている。
【0003】
固定鉄心92を囲むハウジング91部分には電磁コイル96が配設されている。電磁コイル96の一端は接点97を介してハウジング91に設けた電源ターミナル98に導通している。また、電磁コイル96の他端はハウジング91に設けたアースターミナル99に導通している。上記接点97は固定接点971と可動接点972で構成されており、固定接点971が電源ターミナル98に導通固定されるとともに、可動接点972はバネ板973上に設けられて固定接点971に接触導通している。バネ板973の先端は可動鉄心93の段付き面に当接している。
【0004】
警音器に通電すると、電源ターミナル98から固定接点971、可動接点972、電磁コイル96、アースターミナル99へと電流が流れて、図7に示すように電磁コイル96によって磁化された可動鉄心93が固定鉄心92へ引きつけられてこれに衝突し、衝突時の衝撃が共鳴板95に伝わって発音される。可動鉄心93が固定鉄心92に向けて移動するとバネ板973が変形して可動接点972が固定接点971から離れ、電流が遮断される。これにより可動鉄心93がダイヤフラム板94のバネ力で図6に示す原位置へ戻され固定鉄心92から離れる。
【0005】
そこで再び電磁コイル96に通電がなされて、可動鉄心93が固定鉄心92に再度引きつけられる。この動作が繰り返されることによって所望の音色(周波数帯)を有する警報音が発生させられる。なお、このような電磁式平型ホーンの一例は特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−25078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、電磁式平型ホーンは機械的作動部が多いために摩耗等による寿命の問題があるとともに、電磁コイルや鉄心を内設していることによって全体が大型化するという問題があった。そこで、振動体として圧電素子を使用した電子式ホーン(警音器)が提案されているが(例えば特開昭59−79294号)、電子式警音器では電磁式平型ホーンと同様の音色を実現することが難しいという理由で、特に車両用警音器では電子式警音器は未だ一般的には採用されていない。
【0008】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、従来の電磁式平型ホーンと同様の音色を実現でき、小型かつ軽量で低コストである上に長寿命な電子式警音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本第1発明では、圧電体(6)により振動板(4)を起振して警報音を出力する電子式警音器において、前記警報音の基本周波数の変調矩形波を発生する手段(84)と、前記基本周波数の高調波の周波数の基本矩形波を発生する手段(83)と、前記基本矩形波を前記変調矩形波で変調する手段(83)と、変調時の周波数偏移を前記基本矩形波の周波数に対して所定の範囲に設定する手段(83)と、前記各手段で変調された変調波で前記圧電体(6)を駆動する手段(81)とを備え、かつ前記変調波で駆動される前記圧電体によって出力される前記警報音が電磁式ホーンから出力される警報音の音色に近似したものになるように、前記基本矩形波の周波数範囲、前記変調矩形波の周波数範囲、および前記変調時の周波数偏移範囲が設定されている。
【0010】
本第1発明において、前記基本周波数を従来の電磁式平型ホーンの警報音の基本周波数と一致ないし近いものに設定すると、電子式警音器の警報音として前記電磁式平型ホーンと同様の音色が得られる。また、本第1発明の電子式警音器は、小型かつ軽量で低コストでもある。
【0011】
本第2発明では、前記基本矩形波の周波数として、前記振動板の共振周波数を設定する。
【0012】
本第2発明によれば、電子式警音器の警報音に十分な音圧を付与することができる。
【0013】
本第3発明では、前記基本矩形波の周波数を前記変調矩形波の周波数の4倍〜10倍に設定する。
【0014】
本第4発明では、前記基本矩形波の周波数を1800〜3550Hz、好ましくは2200〜3150Hzの間で設定し、前記変調矩形波の周波数を290〜580Hz、好ましくは310〜440Hzの間で設定し、かつ前記周波数偏移を、前記基本矩形波の周波数に対して−11〜−25dB、好ましくは−15〜−21dBの間で設定する。
【0015】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の電子式警音器によれば、従来の電磁式平型ホーンと同様の音色を実現でき、小型かつ軽量で低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電子式警音器の全体断面図である。
図2】警音回路の構成を示すブロック図である。
図3】従来の電磁式平型ホーンの、警報音の周波数スペクトラムの一例を示す図である。
図4】圧電体に印加される駆動電圧信号の一例を示す波形図である。
図5】電子式警音器の警報音の周波数スペクトラムの一例を示す図である。
図6】従来の電磁式平型ホーンの全体断面図である。
図7】従来の電磁式平型ホーンの作動時の全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に本発明の電子式警音器の全体断面図を示す。電子式警音器は円形開放容器状の金属板ハウジング1を備えており、ハウジング1の底壁中心には取付用のステー11がボルト結合されている。ハウジング1内にはこれに沿って開放容器状の樹脂製ホルダ2が挿置してあり、ホルダ2の底壁上にはこれと平行に回路基板3が配設されている。回路基板3はホルダ2の底壁に立設されたピン部21に嵌装支持されており、当該回路基板3上には後述する警音回路が設けられている。なお、警音回路の回路部品等は図示を省略してある。
【0019】
ホルダ2の開口を閉鎖して上記回路基板3と平行に振動板としての金属製ダイヤフラム板4が張設されており、ダイヤフラム板4はその外周縁が、ホルダ2の開口縁とホルダ2の開口に覆着された樹脂製共鳴器5の外周縁との間に挟持されている。共鳴器5には外周部の複数個所(本実施形態では周方向等間隔で4箇所)に音出力口51が設けられている。ダイヤフラム板4には裏面(図1の下面)中心部に円形の圧電体6が接合されている。回路基板3からは圧電体6の一方の電極(図示略)と、圧電体6の他方の電極(図示略)へ通じるダイヤフラム板6とへ、それぞれ出力線31,32が延びている。また、回路基板3の一端には、ハウジング1外へ延びる給電コネクタ33の一端が接続されている。なお、共鳴器5の外方は、長穴状の放音口71を形成した金属製カバー体7で覆われている。
【0020】
図2には回路基板3上に設けられた警音回路8の構成を示す。圧電体6の両電極は駆動回路81に接続されており、駆動回路81には電圧発生回路82から駆動用の電圧が供給されている。駆動回路81には周波数変調・偏移回路83が接続されており、周波数変調・偏移回路83には変調矩形波発生回路84および基本矩形波発生回路85が接続されている。基本矩形波発生回路85で発生させられる基本矩形波が、変調波矩形波発生回路84から出力される変調矩形波によって周波数変調・偏移回路83で後述のように所定の周波数偏移で周波数変調され、この変調波に応じた駆動電圧信号が駆動回路81を介して圧電体6に印加されて、当該圧電体6が起振される。なお、周波数変調・偏移回路83、変調矩形波発生回路84、基本矩形波発生回路85をハードウエアではなくソフトウエアで実現しても良い。
【0021】
ここで、従来の電磁式平型ホーンの、警報音の周波数スペクトラムの一例を図3に示す。図3に示す例では、警報音の基本周波数は350Hzであり、当該基本周波数の整数倍の周波数の、複数の高調波a〜kが存在する。そして、基本周波数の8次の高調波g(2800Hz)で共鳴板が共振してその音圧が最も大きくなり、当該音圧は105〜118dBの範囲にあった。
【0022】
そこで、変調される基本矩形波の周波数を2800Hzに設定し、変調矩形波の周波数を350Hz、周波数偏移を440Hz(絶対値)に設定した。この周波数偏移をdBで示すと20log(周波数偏移/基本矩形波の周波数)=20log(440/2800)=−16dBとなる。周波数偏移を−16dBに設定したのは、後述するように警報音の音色を良好にできるからである。
【0023】
上記のように基本矩形波の周波数を2800Hz、変調矩形波の周波数を350Hz、周波数偏移を440Hz(絶対値)に設定した場合の、駆動電圧信号の波形を図4に示す。波形は正負に変化する矩形波で、2800Hzを中心にこれより440Hzだけ上下した2360Hzの領域Xと3240Hzの領域Yを、2.9ms(=1/350(Hz))毎に交互に繰り返すものとなる。
【0024】
このような駆動電圧を印加された圧電体6により起振されたダイヤフラム板4によって発生させられる警報音の周波数スペクトラムを図5に示す。基本周波数が350Hz、その高調波が複数存在しかつ2800Hzの、基本周波数の8次高調波gの音圧が最も大きくなって、一例として示した従来の電磁式平型ホーンから出力される警報音の周波数スぺクトラムと同様のものになる。
【0025】
なお、音圧については、例えばダイヤフラム板4を板厚0.3mmでφ64のSUS板で構成し、振動板として板厚0.3mmでφ40の圧電体6を使用して、当該圧電体6に絶対値62.5Vで正負に変化する上記駆動電圧を印加するようにすれば、駆動周波数をダイヤフラム板4の共振周波数近傍とした時に110dB程度の十分な音圧を得ることができる。なお、ダイヤフラム板4の共振周波数はその板厚と外径を変えることで変更することができる。
【0026】
ここで5人の被験者による官能試験によれば、表1に示すように、基本矩形波の周波数は1800〜3550Hzの範囲(表1の一重丸が付された範囲)に設定すると電磁式平型ホーンから出力される警報音の音色に近い音色が得られ、2000〜3350Hzの範囲が特に好ましい(表1の二重丸が付された範囲)。1600Hzでは電磁式平型ホーンの音色から外れる場合があり、1400Hz以下では十分な音圧が得られない。また、3750Hzでは電磁式平型ホーンの音色よりもやや甲高い音になり、3950Hz以上では甲高い音になる。
【0027】
【表1】
【0028】
変調矩形波の周波数については、表2に示すように、290〜580Hzの範囲(表2の一重丸が付された範囲)に設定すると電磁式平型ホーンから出力される警報音の音色に近い音色が得られ、310〜440Hzの範囲が特に好ましい(表2の二重丸が付された範囲)。270Hzではややうなりが感じられることが有り、250Hz以下ではうなりが感じられるようになる。また、600Hzでは電磁式平型ホーンに対してやや単調な音になり、620Hz以上では完全に単調な音になる。
【0029】
【表2】
【0030】
周波数偏移については、表3に示すように、−11〜−25dBの範囲に設定すると電磁式平型ホーンから出力される警報音の音色に近い音色が得られ(表3の一重丸が付された範囲)、−15〜―21dBの範囲が特に好ましい(表3の二重丸が付された範囲)。−7dBでは少し音が割れ、−3dB以下では音が割れる。また、−29dBでは電磁式平型ホーンに対してやや単調な音になり、−33dB以上では単音に近くなる。
【0031】
【表3】
【符号の説明】
【0032】
1…ハウジング、2…ホルダ、3…回路基板、4…ダイヤフラム板(振動板)、6…圧電体、8…警音回路、81…駆動回路、83…周波数変調・偏移回路、84…変調波発生回路、85…基本矩形波発生回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7