特許第6041374号(P6041374)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041374
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】板厚の異なる鋼板のスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20161128BHJP
   B23K 11/16 20060101ALI20161128BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   B23K11/30
   B23K11/16
   B23K11/11 540
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-38093(P2012-38093)
(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2013-173155(P2013-173155A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年1月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里
(72)【発明者】
【氏名】桜田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】家成 徹
(72)【発明者】
【氏名】朝田 博
(72)【発明者】
【氏名】向江信悟
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−154880(JP,A)
【文献】 特開2006−102775(JP,A)
【文献】 特開平11−342477(JP,A)
【文献】 特開2009−220168(JP,A)
【文献】 特開平07−214337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 − 11/30
B23K 35/00 − 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚の異なる複数の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、同一の形状を有し、薄板側にタングステン又はモリブデン若しくはそれらを基材とする合金からなる電極を、厚板側に銅合金からなる電極を用いることを特徴とする板厚の異なる鋼板のスポット溶接方法。
【請求項2】
板厚の異なる複数の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、同一の形状を有し、薄板側にタングステン又はモリブデン若しくはそれらを基材とする合金からなる芯材を先端に埋設した銅製の電極を、厚板側に銅合金からなる電極を用いることを特徴とする板厚の異なる鋼板のスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みのスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨近、住宅建材分野や自動車分野などでは、重ね合わせた2枚の鋼板を接合する際、高効率性などの観点から、スポット溶接法が多用されている。接合する2枚の鋼板の板厚が同等であれば、ほとんど問題なくスポット溶接される(図1(a)参照)が、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接すると、所望の接合強度が得られないなどの不具合が発生することがある。
通常の同厚の溶接で用いられるような上下とも同一形状、同一材質の電極で溶接を行うと、水冷された電極から受ける冷却効果は上下とも等しいことから、差厚であっても電極間の中央から発熱してナゲットが形成されるため、鋼板界面へのナゲットの成長が遅れることに起因すると考えられている(図1(b)参照)。
【0003】
所望の接合強度を発現させるためには、重ね合わせた鋼板の接合界面でナゲットを形成させることが必要となる。
このため、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、図1(c)に見られるように、用いる電極の先端径を異ならせ、厚板側には先端径を大きくした電極を、薄板側には先端径を小さくした電極を用いている。これにより、電極の接触面積を異ならせ、電極からの冷却条件を変化させて、鋼板界面寄りにナゲット形成位置をずらしている(例えば非特許文献1)。
【0004】
また、特許文献1には高剛性の2枚の厚板材と低剛性の1枚の薄板材を重ね合わせた板組みを、一対の電極チップにより挟んでスポット溶接する際に、剛性が最も小さい薄板材側に接する電極チップの先端径を厚板材側に接する電極チップの先端よりも小さくすることで、薄板材と電極チップが接する面積が厚板材と電極チップが接する面積よりも小さくなり、低剛性の板材と他の板材間の接触部にナゲットが形成され、溶接強度を向上させることができる手法が提案されている。
【0005】
さらに、特許文献2には重ね合わせた2枚以上の厚板の一方に薄板を重ね合わせた板組みを一対の電極チップで挟み、スポット溶接する際に、薄板側の電極チップの先端が所定の曲率半径を有する曲面である電極チップとし、他方の厚板側の電極チップを先端が平面または薄板側に接する電極チップの先端の曲率半径より大きな曲率半径を有する曲面である電極チップとし、スポット溶接を第一段および第二段の二段階からなる溶接とし、第二段の溶接が第一段の溶接に比べて高加圧力の溶接とし、且つ、第二段の溶接電流値を第一段の溶接の電流値以下とすることを特徴とするスポット溶接方法が提案されている。
【0006】
さらにまた、特許文献3には重ね合わされた2枚の厚板の少なくとも一方に薄板をさらに重ね合わせた板厚比の大きな板組をスポット溶接する際に、薄板の溶接すべき部位に部分的に一般部より一段高い座面を形成するとともに、薄板に対向する電極の先端を球面に形成し、溶接初期は低下圧で薄板の座面を球面の電極によって球面状に押しつぶすよう変形させて、薄板と隣り合う厚板と溶接し、その後、高加圧力で2枚の厚板同士を溶接することを特徴とするスポット溶接方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】(社)溶接学会抵抗溶接研究委員会「抵抗溶接現象とその応用(第1編)」昭和57年8月10日、(社)溶接学会、P.142‐146
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3894544号
【特許文献2】特許第4543823号
【特許文献3】特許第3794300号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1や特許文献1、特許文献2のように先端径や先端形状の異なる2種類の電極を準備することは、電極の管理が2倍になるばかりでなく、電極研磨用の工具も2種類必要となって、結果的にコスト高となってしまう。
また、特許文献2では溶接途中に加圧力や電流を変更させる制御を必須とするものであるため、制御の設定に手間が掛かる上、設備費用の増大も招く。
【0010】
さらに、特許文献3では薄板の溶接する部分に予め一般部よりも一段高い座面をプレス加工などで形成する工程が必要となり、生産性が低下するという問題がある。
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、先端径や先端形状が同一の電極を用いても、ナゲットの形成位置が溶接しようとする鋼板の界面付近になるようにして接合強度の高いスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の板厚の異なる鋼板のスポット溶接方法は、その目的を達成するため、板厚の異なる複数の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、同一の形状を有し、薄板側にタングステン又はモリブデン若しくはそれらを基材とする合金からなる電極を、厚板側に銅合金からなる電極厚板側に銅合金からなる電極を用いることを特徴とする。
また、薄板側に配する電極としては、タングステン又はモリブデン若しくはそれらを基材とする合金からなる芯材を先端に埋設した銅製の電極を用いることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、板厚の異なる複数の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、薄板側電極からの冷却効果を小さくすることができている。このため、薄板側において板厚方向へのナゲット成長を促進させて、鋼板界面でのナゲット形成を得易くすることができている。その結果、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板組みであっても、所望の接合強度が発現できるスポット溶接を、上下電極の先端径や先端形状を異ならせたり、加圧力や電流値を複雑に制御することなく、一般的な溶接条件で、かつ高効率で安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来例における、電極先端径とナゲット形成位置の関係を説明する図
図2】本発明における、電極先端径とナゲット形成位置の関係を説明する図
図3】実施例で用いた試験片形状を示す図
図4】実施例で用いた電極形状を示す図
図5】実施例で作製した接合体を評価する際のナゲット寸法測定位置を示す図
図6】実施例で作製した接合体の引張剪断試験結果を示す図
図7】実施例で作製した接合体のナゲット厚みの測定結果を示す図
図8】実施例で作製した接合体の鋼板界面ナゲット径の測定結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、ナゲット形成位置が溶接しようとする2枚の鋼板の界面になるように調整する手段について鋭意検討した。
前記したように、従来技術では、板厚の異なる2枚の鋼板を重ね合わせた板厚比のある板組みをスポット溶接する際に、厚板側には先端径を大きくした電極を、薄板側には先端径を小さくした電極を用いていることにより、薄板側の電極からの冷却速度を遅らせて鋼板界面寄りにナゲット形成位置をずらしている。
そこで、電極の先端形状が同じであっても、薄板側の電極からの冷却速度が遅ければ、鋼板界面近傍の残存熱が均等になって当該部位近傍にナゲットが形成されると推測し、本発明に到達した。
【0015】
以下、本発明について詳述する。
通常のスポット溶接法では、電極として銅系の素材を用いる場合が多い。そこで、本発明でも、一方の電極として銅材を、具体的には安価で数多く流通している1%程度のCrを含有したCr−Cu合金を用いる。他方の電極としては、Cr−Cu合金よりも熱伝導率が低い材料からなるものを、具体的にはタングステン(W)を用いる。
【0016】
そして、薄板側には熱伝導率が低い材質からなる電極、すなわちタングステン製電極を配し、厚板側には熱伝導率が高い材質からなる電極、すなわちCr−Cu合金製電極を配してスポット溶接する。
なお、1%のCrを含有したCr−Cu合金と、タングステン(W)の熱伝導率を表1に示しておく。
【0017】
【0018】
熱伝導率が高い材質からなる電極としては、例えば全体をタングステン製としてもよいが、電極自体の冷却性を考慮すると、タングステンからなる芯材を先端に埋設した銅製のものであることが好ましい。
厚板側電極の方が薄板側電極よりも熱伝導率が高いので、図2に見られるように、スポット溶接電流を流した後、薄板側電極からよりも厚板側電極を通しての冷却が進んでナゲット形成位置が2枚の鋼板を重ねた中心位置から薄板側である接合界面付近に移動するため、所望の接合強度が低電流で得られる。
【実施例】
【0019】
0.6mmの厚さの亜鉛めっき鋼板と、1.6mmの厚さの普通鋼板を、図3に示す形状に裁断して試料とし、図4に示す形状を有する電極を用い、表2に示す条件でスポット溶接を行なった。なお、薄板側にφ6mmのタングステン製芯材を先端に埋設したCu製の電極を、厚板側にCr−Cu合金製の電極を配してスポット溶接した。比較として、薄板側と厚板側の両方ともCr−Cu合金製の電極を配してスポット溶接も行った。
その後、溶接接合体について、溶接部断面の観察を行ってナゲットの図5に示すサイズを測定するとともに、引張剪断試験を行った。
【0020】
【0021】
その結果を図6,7,8に示す。
図6には引張剪断試験結果を、図7にはナゲット厚みの測定結果、図8には鋼板界面ナゲット径の測定結果を示す。
図6より、溶接電流を増加させると、いずれの電極組合せにおいても引張剪断荷重は同一荷重域に飽和しているが、ナゲット形成初期段階である低電流域(6〜7.5kA)では薄板側に低熱伝導率材質であるタングステン(W)製芯材を先端に埋設したCu製電極を、厚板側に高熱伝導率材質のCr−Cu合金製電極を用いた組合せの方が、高い引張剪断荷重が得られており、さらに引張剪断試験における破断形態についても母材破断となっている。
【0022】
これは、図7および図8からわかるように、薄板側に低熱伝導率材質であるタングステン(W)製芯材を先端に埋設したCu製電極を、厚板側に高熱伝導率材質のCr−Cu合金製電極を用いた組合せの方が、薄板側において電極から受ける冷却効果が小さくなるため、薄板側のナゲットの板厚方向への成長が速くなり、それに伴って鋼板界面に形成されるナゲット径が大きくなっていることに起因していると考えられる。
板厚の異なる鋼板を重ね合わせたスポット溶接の連続溶接における電極寿命は、同一材質、同一形状の電極で溶接した場合、ナゲット外周部近傍に鋼板界面が位置する(図1(b)参照)ため、連続溶接によって電極が損耗し、先端径が拡大することにより電流密度が低下した際、ジュール発熱量が低下しナゲットが縮小してしまい、早期に鋼板界面にナゲットが形成されなくなるため、鋼板界面がナゲット中央部に位置する同厚の鋼板を重ね合わせた場合よりも電極寿命は短くなる。また、ナゲットを鋼板界面に形成しようとすると溶接電流を高くしなければならない(図7参照)ため、電極の損耗が進み電極寿命が短くなる。
【0023】
これに対して、本発明では板厚の異なる鋼板を重ね合わせたスポット溶接時に熱伝導率が異なる電極を用いることにより、薄板側において板厚方向へのナゲット成長が促進されるため、連続溶接時における電極損耗によるジュール発熱量低下に伴うナゲット縮小時においても鋼板界面にナゲットが形成されなくなる時期が遅くなる。また、同一材質、同一形状の電極で溶接した場合と比較して、溶接電流を低く設定することができる(図7参照)。ゆえに、本発明を用いることで、板厚が異なる鋼板を重ね合わせたスポット溶接時の電極寿命を改善することができる。
【0024】
なお、本実施例は亜鉛めっき鋼板と普通鋼板の組合せで行ったが、本発明はこれに限られることはなく、あらゆるめっき種、材質、板組み合わせに適用できる。
また、重ね合わせる鋼板の枚数も2枚に限らず、例えば、重ね合わせた2枚の厚板に1枚の薄板を重ね合わせるなど複数枚の板組み合わせにも適用してもよい。
さらに、熱伝導率が低い材質としてタングステン(W)を用いたが、モリブデンもタングステンとほとんど同じ挙動を示す金属であるため、タングステンで得られた結果はモリブデンにも当てはまると予測できる。よって、その他、モリブテン、タングステンやモリブデンを基材とする合金など低熱伝導率を有し、導電性がある材質を適用してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8