(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記レンズ本体が、入射瞳が6mmのとき眼に0.4マイクロメートルの球面収差を付与し、かつ入射瞳が4mmのとき眼に0.1マイクロメートルの球面収差を付与する20ディオプターの単焦点非球面レンズ本体を具備する、請求項1に記載の眼内レンズ。
【実施例】
【0016】
以下は、本発明を実施する、現在公知のベスト・モードの詳細な説明である。この説明は、限定的に解釈すべきものではなく、単に本発明の一般的原理を例示することだけを目的として行われる。例示的な実施例が、眼に正の球面収差を付与するIOLに関連して後述されるが、本発明はまだ開発途中のものも含め、その他の高次収差(例えば、トレフォイル収差、他のフォイル収差およびコマ収差)に対するものだけでなく、(自然の球面収差を除去するのに必要とされる量を超えて)負の球面収差を導入するIOLおよび眼インプラントにも応用可能である。
【0017】
以下に詳述するように、本発明には、IOLを用いて球面収差(もしくはその他の高次収差)を一方の眼もしくは両眼に付与して眼の焦点深度を改善する、様々な矯正技術が含まれる。本明細書において、このような改善を拡張焦点深度と称し、例えば焦点距離が等しい球面IOLよりも多くの球面収差を眼に付与するIOLをEDF IOLと称することとする。また、本発明には、そのようなEDF IOLおよびそれらの製造方法も含まれる。
【0018】
最初に、コントラスト(視力に関連する)とデフォーカスの例示的な関係を示すグラフである
図2A〜
図2Cを参照すると、焦点深度が増加するにつれてコントラストは低下し、球面収差が増加するにつれて焦点深度は増加する。そのため、コントラスト値0.1を、画像を解像するのに十分なコントラストであるとみなすこととする。
図2Aに示すように、眼の球面収差を除去する非球面IOLを使用すると、その結果として近傍焦点のコントラストは非常に高くなり(0.0ディオプターにおけるコントラストは0.8を超える)、焦点深度は狭くなる(約1.0ディオプター未満)。
図2Bに示すように、球面IOLを使用すると、その結果として近傍焦点におけるコントラストはわずかに低下し(0.0ディオプターにおけるコントラストは0.8未満)、焦点深度はわずかに大きくなる(約1.0ディオプター)。
図2Cを参照すると、眼に球面収差を付与する非球面IOLを使用した場合には、その結果として近傍焦点におけるコントラストはさらに低くなり(0.0ディオプターにおいてコントラスト約0.2、なおかつ最高コントラストは0.5ディオプターにおける0.6へとシフトしている)、焦点深度はわずかに深くなる(約1.25ディオプター)。同様の関係が、
図3A〜
図3Cに示すランドルド環視力表に示されている。
【0019】
少なくとも本発明のいくつかによる偽水晶体モノビジョン手技には、一方の正常視眼(すなわち、遠方視力眼)および他方の近視眼(すなわち、近方視力眼)における視力の設定が含まれる。多くの例において、しかし必ずしもそうとは定められてはいないが、優位眼は遠方視力眼となり、非優位眼は近方視力眼となる。
図4Aを参照すると、1つの例示的手法において、球面収差を除去する(少なくとも実質的に除去する)非球面IOLが遠方視力眼に挿入されている。
図1Aおよび
図1Bに例示されている従来式の手技と同様に、近方視力眼に挿入されるIOLは、遠方視力眼用のIOLよりも度数が2.0〜2.5ディオプター大きい(図示されている例では2.0ディオプター)。しかしながら、ここで近方視力眼に挿入されているIOLは、眼に球面収差を付与するEDF IOLである。
図1Aの近方視力眼と比較すると、
図4AのEDF IOLが挿入された近方視力眼では周辺焦点が近軸焦点から移動しており、なおかつ最良焦点位置における視力が、おそらく臨床的に有意とはならないわずかな程度低下している。また、焦点深度も臨床的に有意に増大している。この臨床的に有意な増大は、近距離の視力表における視力の向上よりも、遠方視力眼の視力を示す線と合成した線に現れる場合がある。近方視力眼が持てる可能性のある最高視力は遠方視力眼の視力未満であるが、近方視力眼の焦点深度は遠方視力眼の焦点深度より大きくなる。
図1Aおよび
図1Bに示した方法と比較して、増大した焦点深度により約0.3ディオプター分の許容可能な近方視力が付与されている。その結果として、さらに
図4Bを参照すると、遠方視力眼における高い視力が維持されたまま、
図1Aおよび
図1Bに示した方法と比較して中間視力が改善されている。換言すると、近方視力眼にEDF IOLを使用した場合には、手法の他の状況は同じままで、中間および近方の両眼視力が改善される。
【0020】
いくつかの実施例において、遠方視力眼における非球面IOLを、球面収差を低減または除去することに加えて色収差を低減する色消しIOLとすることもできる。例えば、回析−屈折複合型IOLを使用することができる。このようなレンズは、遠方視力眼の視力の可能性をさらに向上させる。
【0021】
図4Aおよび
図4Bを参照しつつ上記で説明したものに類似した他の例示的実施形態において、EDF IOLを遠方視力眼および近方視力眼の両方に使用することにより、両眼の焦点深度を増加させることもできる。
【0022】
例えば
図5Aおよび
図5Bに示すように、少なくとも本発明のいくつかによる例示的な偽水晶体モノビジョン手法には、一方の眼を遠方視力用に設定すると共に、他方の眼を(上記で論じた近方視力の代わりに)中間視力用に設定することが含まれる。球面収差を除去する(または少なくとも実質的に除去する)非球面IOLが、遠方視力眼に挿入される。
図1Aおよび
図1Bに示した従来式の例とは異なり、遠方視力眼と他方の眼との間の差はそれほど大きくない(modest)ので、したがって、この手法を適度な(modest)偽水晶体モノビジョン手法と称し、この他方の眼を中間視力眼と称することとする。中間視力眼に挿入されるIOLは、遠方視力眼用のIOLより約1.0〜1.5ディオプター大きいものとすることができる(図示した例では、遠方視力眼用IOLよび1.5ディオプター大きい、もしくはデルタ(δ)=+1.5ディオプター)。その結果として、さらに
図5Bを参照すると、改善された視力が維持されたまま、
図1Aおよび
図1Bに示した手法(デルタ(δ)=+2.0D)と比較して中間視力および立体視力が著しく改善されている。近方視力はそれほど良好ではないが、近方視力については必要に応じて眼鏡を使用することができる。
【0023】
いくつかの実施例において、遠方視力眼における非球面IOLを、球面収差を低減または除去するのに加えて色収差を低減する色消しIOLとすることもできる。例えば、回析−屈折複合型IOLを使用することもできる。このようなレンズは、遠方視力眼の視力をさらに向上させる。
【0024】
図6Aおよび
図6Bを参照すると、例えば
図5Aおよび
図5Bに示した適度なモノビジョン手法における中間視力眼に、EDF IOLを使用することもできる。この手法には、球面収差を除去する(または少なくとも実質的に除去する)非球面IOLの遠方視力眼への挿入、および遠方視力眼用IOLよりも約1.0〜1.5ディオプター大きなIOLの中間視力眼への挿入(図示されている例では、デルタ(δ)=+1.5ディオプター)が含まれる。しかしながら、ここで中間視力眼に挿入されているIOLは、眼に球面収差を付与するEDF IOLである。
図5Aの中間視力眼と比較すると、
図6AのEDF IOLを備えた近方視力眼の周縁焦点が近軸焦点から移動しており、なおかつ最良焦点位置におけるコントラストが低下している。また、焦点深度も増大している。中間視力眼の視力は遠方視力眼の視力よりもわずかに低下することになるが、中間視力眼の焦点深度は遠方視力眼の焦点深度よりも大きくなる。増大した焦点深度により、近方視力眼には約0.3ディオプター分の許容可能な近方視力が付与される。その結果として、さらに
図6Bを参照すると、遠方視力眼における高い両眼視力が維持されたまま、
図5Aおよび
図5Bに図示した手法と比較して中間視力がさらに改善されると共に近方視力もよりいっそう良好になっている。換言すると、適度なモノビジョン手法において中間視力眼にEDF IOLを使用した場合には、手法の他の状況は同じままで、中間および近方の両眼視力が改善される。
【0025】
また、EDF IOLを用いる適度なモノビジョン手法は、例えば
図1Aおよび
図1Bに示した手法(デルタ(δ)=+2.0ディオプター、EDFではない)のような従来式のモノビジョン手法の、実質的な改良であるという点にも留意されたい。
図6Cを参照すると、中間視力眼にEDF IOLを用いる適度なモノビジョン手法の中間視力は実質的に改善されており、近方視力は比較的軽度の視力の低下を伴うが同程度の視力である。
【0026】
いくつかの実施例において、
図6Aおよび
図6Bの遠方視力眼における非球面IOLを、球面収差を低減または除去するのに加えて色収差を低減する色消しIOLとすることもできる。例えば、回析−屈折複合型IOLを使用することもできる。このようなレンズは、遠方視力眼の視力をさらに向上させる。
【0027】
図6Aおよび
図6Bを参照しながら上記で説明したものに類似した他の例示的実施形態において、EDF IOLを遠方視力眼および中間視力眼の両方に使用することにより、両眼の焦点深度を増加させることもできる。
【0028】
EDF IOLは、他の方法にも使用することができる。例えば、遠方視力眼用に設定されるIOLの一方を、最良の視力を提供するために球面収差を除去する非球面IOLとすると共に、他方を、焦点深度を増大させるために眼に球面収差を付与するEDF IOLとして、両眼の各々に挿入することもできる。ここでも同様に、球面収差を除去する非球面IOLを、色収差も除去する色消しIOLとすることもできる。あるいは、近方視力用に設定されるIOLの一方を、最良の視力を提供するために球面収差を除去する非球面IOLとすると共に、他方を、焦点深度を増大させるために眼に球面収差を付与するEDF IOLとして、両眼の各々に挿入することもできる。球面収差を除去する非球面IOLを、色収差も除去する色消しIOLとすることもできる。
【0029】
患者が上記した手技の結果に満足できない場合には、IOLの影響を相殺または変更する眼鏡を使用することもできる。これには、EDF IOLによって付与される球面収差が最良の夜間視力には役立たない、夜間に運転するときのような状況が含まれることもある。その場合には、眼の全体的な球面収差を元に戻すかまたは低減する眼鏡またはコンタクトレンズを着用することもできる。あるいは、低光量条件における球面(またはその他の高次)収差を低減するよう構成されたEDF IOLを使用することもできる。このようなEDF IOLについて、以下で
図11A〜
図14を参照しながら説明する。
【0030】
EDF IOL自体に関して説明すると、上記の通り、このEDF IOLは眼の球面収差の量を制御することにより焦点深度を改善する。
図6Dの参照符号10で特定される、係るEDF IOLの一例は、レンズ本体11、および所望の焦点深度を達成するのに必要とされる制御された球面収差を提供する非球面レンズ面12を有している。支持部(図示せず)が提供されることもある。例示されている実施例においては非球面12が前面となり、後面は球面になっているが、前面の代わりに、または前面に加えて、後面を非球面にすることもできる。EDF IOL 10は、角膜16および網膜18を備える眼14も含む、光学系の一部として示されている。このようなIOLを設計するプロセス、およびその結果として生じる例示的なEDF IOLについては後述する。円環IOLおよびコンタクトレンズは、本発明にしたがい眼に高次収差を付与するために使用することのできる、適切な光学装置の別の例である。
【0031】
EDF IOLの適切な材料には、これに限定されないが、HOYA AF−1黄色疎水性アクリル樹脂材料が含まれ、下記の考察(該当する場合)はこの材料の使用を想定している。別の例示的な物質には、これに限定されないが、ヒドロゲルおよびPMMAが含まれる。本発明はこれに限定されるものではないが、例示的な1組のIOL設計仕様書(または「要求仕様」)を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
平均的な人間と同様の光学特性(例えば、角膜形状および軸上性能)を有する仮定的な眼モデルを用い、水晶体をEDF IOLで置き換えることにより、EDF IOLのin−situ性能を評価することができる。適切な眼モデルの一例が、表2に記載されているLion and Brennanのモデル眼である。瞳孔半径は変化することがあり、灰色の部分の値はIOLの度数に依存するという点に留意されたい。
【0034】
【表2】
【0035】
後述する性能シミュレーションは、ZEMAX(登録商標)光学設計プログラム(ZEMAX Development Corporation)を用いて行った。光学構成要素の屈折率は、e光線(波長0.546074マイクロメートル)に対して選択した。
単純なレンズ方程式を用いて、非球面の前面の頂点半径および球面の後面の半径を導出した:
【0036】
【数1】
形状係数は、次式により算出した:
【0037】
【数2】
【0038】
上記(表2)のモデル眼における光学素子前面の非球面性を、ZEMAX(登録商標)光学設計プログラムを使用して最適化した。レンズ設計を最適化するために使用したメリット関数は、縦収差である。表3は、度数20.0ディオプターのIOLの焦点深度を改善するための所定の縦球面収差を記載しており、ここでZoneはNRDであり(後述)、Targetは単位mmで示される縦球面収差(LSA)である。
【0039】
【表3】
度数が20.0ディオプター以外のIOLの縦球面収差は、次の方程式により算出される:
【0040】
【数3】
【0041】
仮定的モデル眼を使用し、角膜収差の分布範囲をカバーする3つの異なる角膜シミュレーションを行うことにより、焦点深度を評価した。
【0042】
単純なレンズの公式を用いて、非球面である前面の頂点半径および球面である後面の半径を導出した。10.0から30.0ディオプターまでの全度数範囲を、10.0〜12.5ディオプター、13.0〜15.0ディオプター、15.5〜17.5ディオプター、18.0〜20.0ディオプター、20.5〜22.5ディオプター、23.0〜25.0ディオプター、25.5〜27.5ディオプター、および28.0〜30.0ディオプターの、8つの帯域に分割した。前方頂点半径を1つの帯域内に固定し、次いで公知のレンズの度数、縁部の厚みまたは中心の厚み、材料の屈折率、および水の屈折率を用いて後方半径を算出した。形状係数に関する設計上の要求条件を満たすために、固定された前方頂点半径を最初に推定し、次に8つの各帯域内で調整を行った。形状係数分布の結果を
図7に示す。
【0043】
半径および形状係数の設計結果を、レンズ度数範囲10.0ディオプターから30.0ディオプターまで0.5ディオプターごとに表4に示す。非球面部分の設計については、前方頂点半径を固定してから円錐定数を最適化し、次に各帯域に対する収差要件が満たされるよう4次および6次の高次非球面係数を最適化した。それに応じて非球面性が組み込まれた前面を変更して中心の厚みまたは縁部の厚みを再計算した。前面の非球面性の設計にはZEMAX(登録商標)光学設計プログラムを使用した。光学系の入射瞳直径を、IOL前面における約5.1mmに相当する6.0mmに設定した。光学系の焦点を近軸焦点に拘束しながら、IOL前面の非球面パラメータを唯一の変数として調整を行った。縦収差を最適化のメリット関数とした。ZEMAX(登録商標)の最適化サイクルにおいて、メリット関数が到達する可能性のある最も低い値に到達するまで非球面係数が系統的に調整された。最適化を実行する手順は、ZEMAX(登録商標)ユーザ・ガイドに記載されている。
【0044】
【表4】
【0045】
表5(下記)は、最適化に使用した、21.5ディオプターのIOLを備えるモデル眼の処方の一例である。各帯域で使用できたのは1つの汎用前方非球面設計のみだったので、最適化は各帯域の中間度数、すなわち11.5ディオプター、14.0ディオプター、16.5ディオプター、19.0ディオプター、21.5ディオプター、24.0ディオプター、26.5ディオプター、および29.0についてのみ行った。基準が常に維持されていることを確実なものとするために、帯域の両極値で光学性能を確認した。
【0046】
【表5】
【0047】
非球面プロファイル設計により、最終的に高次偶数次非球面係数を有する放物面が生成された。偶数次非球面性表面のサグ値は、次式で表される:
【0048】
【数4】
各帯域に対する円錐定数および高次係数を表6(下記)に示す。
【0049】
【表6】
【0050】
焦点深度が改善されたEDF IOLにより、光学系は設計した度数範囲全体にわたって、少なくともデフォーカス量が1.0ディオプターの性能に到達できるようになる。
図8、9Aおよび
図9Bは、10.0ディオプターから30.0ディオプターまでのIOL度数に対する、光学系の焦点深度および総球面収差のプロットである。これらのプロットの数量データを表7(下記)に示す。前方プラットフォームを段階的に区分して設計したので区分外側限界におけるレンズ性能が帯域中央のレンズと比較して低下することが懸念されたにもかかわらず、データは性能低下が重大でないことを示した。これは、狭い段階的区分幅を使用することのおそらく利点である。
図8に示した度数範囲全体を通しての最小焦点深度は瞳孔サイズ3.0mmにおける1.18ディオプター(平均1.29ディオプター、標準偏差0.07ディオプター)であり、この値は球面IOLによる最小焦点深度0.81ディオプターよりも非常に良好である。
図9Aおよび
図9Bを参照すると、平均球面収差は、入射瞳4.0mmのとき0.1143マイクロメートル(最低0.1099マイクロメートル、最高0.1221マイクロメートル、標準偏差0.0034マイクロメートル)、入射瞳6.0mmのとき0.6215マイクロメートル(最低0.5993マイクロメートル、最高0.6497マイクロメートル、標準偏差0.0129マイクロメートル)であり、この値は球面IOLを用いた場合の平均球面収差である、入射瞳4.0mmのときの0.0683マイクロメートルおよび入射瞳6.0mmのときの0.3517マイクロメートルと比較して、著しく高い値であった。
【0051】
【表7】
【0052】
仮定的眼モデルを用い、コンピュータ・シミュレーションによりEDF IOLの焦点深度を典型的な球面IOLの焦点深度と比較して、角膜収差分布の影響を調べた。
【0053】
人間の眼には生得的に角膜の球面収差不全を伴う母集団が広く分布していることを考慮し、収差範囲を有する角膜を備えた仮定的モデル眼を使用してEDF IOLの像質を評価した。仮定的モデル眼とプラス・マイナス0.1マイクロメートルの球面収差を用いてレンズの変調伝達関数(MTF)デフォーカス性能を評価した。角膜の球面収差は、前方角膜面の円錐定数を調整することによってモデル化した。これらのモデル角膜に使用したパラメータを表8に示す。
【0054】
【表8】
【0055】
シミュレーションに使用したEDF IOLおよび球面IOLは度数21.5ディオプターのIOLであり、EDF IOLの前方側に非球面プロファイルが付与されていることを除き、どちらも同じ前方頂点半径および後方頂点半径を有していた。瞳孔サイズ3.0mmで空間周波数50c/mmにおけるMTFデフォーカス特性を評価し、コントラスト値0.1の主ローブ幅から焦点深度の量を算出した。
【0056】
EDF IOLおよび球面IOLは平均的な仮定的角膜から逸脱した2種類の球面収差(SA)角膜を備えているが、性能に著しい変化は見られなかった。EDF IOLの偽調節値は、1.306ディオプター(平均SA)から1.202(平均SA−0.1マイクロメートル)および1.351(平均SA+0.1マイクロメートル)までの範囲であった。一方、球面IOLの偽調節値は0.981(平均SA)から0.927(平均SA−0.1マイクロメートル)および1.120(平均SA+0.1マイクロメートル)までの範囲であった。EDF IOLの偽調節値は全ての状況に対して依然として1.0ディオプターを超えていた。
【0057】
傾きおよび偏心を含む、評価すべきレンズ配置エラーについては、ISO規格の評価方法を採用した。ZEMAX(登録商標)モデルを設定して、IOLが傾きおよび偏心すると、どのように像質が低下するかをシミュレートした。3.0mmの瞳孔の50c/mmにおけるMTF値を、傾きおよび偏心の値の関数として算出した。傾き角の増加と共に系の像質は低下したが、しかしながら、EDF IOLは特定の範囲内、例えば最大6度までは、コントラストが0.1未満に低下しない性能を示した。偏心の増加と共に系の像質は低下したが、しかしながら、やはりEDF IOLは特定の範囲内、例えば最大0.5mmまでは、コントラストが0.1未満に低下しない性能を示した。
【0058】
色収差補正に関して説明すると、遠方視力眼にとっての最良の視力は、角膜の分散性に起因した色収差を含む、全ての角膜異常を矯正することにより達成することができる。回析−屈折複合型設計による偽水晶体IOLを使用して、色収差を矯正することができる。
【0059】
符号の正負が逆のアッベ数を用いた回折設計および屈折設計を利用することにより、回析−屈折複合型色消しIOL設計を容易に実現することができる。複合型IOLの総度数は、次式のように定義することができる。
【0060】
【数5】
所与のアッベ数の色収差は、下記の条件で消滅することになる:
【0061】
【数6】
【0062】
回析−屈折複合型色消しレンズは、ZEMAX(登録商標)光学設計プログラムによって最適化することができる。
図10は、回析−屈折複合型色消しIOLをZEMAXで最適化した結果としての、4.0mmにおける眼系の多色変調伝達関数(MTF)を示す。回析−屈折複合型色消しIOLのMTFは回折限界に到達しなかったが、MTFは従来式の非球面のIOLよりも著しく良好であることは明確であった。
【0063】
EDF IOLを挿入した眼の焦点深度をより改善するためには、および、中間視力と近方両眼視力とをさらに改善するためには、EDF IOLまたは他の光学素子を用いて眼に付与した高次収差(例えば、球面収差、トレフォイル収差、またはコマ収差)のレベルを、上述したEDF IOLおよび光学素子よりも増加させることが望ましいと本発明者らは判断した。例えば、いくつかの実施例において、非球面EDF IOLを眼(例えば、モノビジョンまたは適度なモノビジョン手法における近方視力眼)に挿入して上述した球面収差よりもさらに大きな球面収差を眼に付与することにより、その眼の焦点深度をさらに増大させることができる。本発明者らはまた、特に明るい日光条件および屋内照明条件における焦点深度の増大は有益であるが、球面収差(または、その他の高次収差)の増加は低光量条件(例えば、夜間の運転)における像質低下に結びつく、という判断も下した。適度なモノビジョン手法における近方視力眼への、付加的な球面収差の使用がその例証である。明るい日光条件においては、瞳孔直径は比較的小さくなり(例えば、3mm未満)、かつ焦点は一般的に遠くの対象物上にあるので、焦点深度は拡張されるが近方視力眼における付加的な球面収差は最小限に抑えられる。屋内光条件においては、瞳孔直径が少し大きくなり(例えば、約3mm)、かつ人々は一般的に読書をするか中間距離にある対象物に焦点を合わせるので、眼とIOLとによって画定される光学系はIOLの中央部分における付加的な球面収差の利点を十分に利用することができる。上述したEDF IOLに関連する視力および焦点深度と比較すると、近方視力眼の視力はわずかに低下し、かつ焦点深度は増加することになる。低光量条件においては、瞳孔直径は比較的大きくなり(例えば、3mmより大きく)、かつ一般的に遠方視力および中間視力がより重要になるが、IOLの外側領域が著しい量の付加的な縦球面収差を生じるため視力は低下する。換言すれば、付加的な球面収差に関連した利点が存在する一方で、低光量条件に対する通常の生理反応と組み合わされた場合には一定の不利益も存在する。後述するIOLは、低光量条件における瞳孔の通常の生理反応に適応することにより、球面収差が増加しているにもかかわらず低光量条件における視力を改善できるよう構成されている。
【0064】
例えば
図6Aおよび
図6Bに関して上述したIOLとは非球面性の量の増加以外が同一のIOLを本願明細書においてEDF+IOLと称し、増加した非球面性および低光量条件に対する瞳孔の通常の生理反応に適応する能力の両方を有するIOLを本願明細書においてDF+A IOLと称することとする。
【0065】
EDF+A IOLの一例が、
図11Aの参照符号10aで特定されている。EDF+A IOL 10aは、レンズ本体11aと、所望の焦点深度を達成し、さらに低光量条件に対する瞳孔の通常の生理反応に適応するのに必要とされる制御された球面収差を提供する非球面レンズ面12aとを有している。支持部(図示せず)が提供されることもある。例示した実施例においては非球面12aが前面で、後面は球面であるが、前面の代わりに、またはこれに加えて、後面を非球面とすることもできる。EDF+A IOL 10aを、同じく瞳孔16および網膜18を備える眼14を含む光学系の一部として示す。また、後述する縦球面収差値は、
図11Aにおける「LSA」によって特定される領域内で、網膜18からIOLに向かって測定される値であり、したがってその数値は負の値であるという点にも留意されたい。したがって、例えば−1.0mmのLSAは−0.5mmのLSAより大きなLSAである。このようなIOLの設計プロセス、およびその結果として生じる例示的なEDF+A IOLについては後述する。円環IOLおよびコンタクトレンズは、本発明にしたがい眼に高次収差を付与するのに適した光学素子の別の例である。
【0066】
このようなIOLを設計するプロセスは、上述されているプロセスと同様である。例えば、例示的なIOL設計明細書(表1)、モデル眼(表2)、および材料を、上述されているIOLと同様のものとすることができる。上記のEDF IOLと、EDF+IOLならびにEDF+A IOLとの違いについては後述する。
【0067】
光学素子前面の非球面性は、上記(表2)のモデル眼において、ZEMAX(登録商標)光学設計プログラムを使用して最適化した。レンズ設計の最適化に使用したメリット関数は、縦収差である。表9は、IOL度数が20.0ディオプターの例示的EDF+A IOLについての、所定の縦球面収差を記載している:
【0068】
【表9】
20.0ディオプター以外のIOL度数の縦球面収差は、上述した方程式で算出することができる。表4に関して上述した方法で導出した半径および形状係数の設計結果を、レンズ度数範囲10.0ディオプターから30.0ディオプターまで0.5ディオプターごとに表10に示す。
【0069】
【表10】
【0070】
非球面プロファイル設計により、最終的に高次偶数次非球面係数を有する放物面が生成された。偶数次非球面性表面のサグ値は、上記のz(r)方程式で表される。各帯域ごとの円錐定数および高次係数を、表11に示す。
【0071】
【表11】
【0072】
上述したEDF+A IOLの性能について説明すると、
図11Bは、正規化された半径方向距離(NRD)の関数としての光学系、すなわち、上記のEDF IOL(すなわち、表1〜表7)、上記のEDF+A IOL(すなわち、表9〜表11)、およびEDF+IOL(付加的な非球面性を備えるEDF IOL)における縦球面収差を示す。また、比較を行う目的で、従来式の球面IOLを備えた光学系も
図11Bに示す。NRDの数値は瞳孔直径と共に増加するので、したがって、数値がゼロに近ければ明るい光条件でIOLの中心部が作用することを示し、数値が1.0に近ければ低光量条件でIOLの直径全体が寄与することを示す。球面IOL、EDF IOL、およびEDF+IOLのLSAの大きさはNRDスケールの下端では比較的小さく(例えば、0.3)、3種類のIOL間のLSAの差異も比較的小さい。LSA/NRD曲線(もしくは「プロファイル」)の傾きの大きさ、すなわち曲線に沿った点における接線の傾きの大きさは、3種類全てのIOLにおいて、0から1.0まで連続的に増加する。ここでもやはり、−1.0のLSAは−0.5のLSAより大きなLSAであるという点に留意されたい。EDF+ IOLのLSA/NRD曲線の傾きの大きさは、球面IOLおよびEDF IOLの傾きの大きさよりも急激に増加する。このため、NRDスケールの上端において、各曲線(および関連するLSA値)は大きく離れることになる。このように、EDF+IOLにおける付加的な非球面性はNRDスケールの比較的下(「高光量」)端ではLASを著しく増加させないが、EDF+IOLにおける付加的な非球面性はNRDスケールの比較的上(「低光量」)端においてはEDF IOLと比較して著しい量のLSAを付与する。
【0073】
EDF+IOLと同様に、NRDスケールの下端におけるEDF+A IOLのLSAの大きさは比較的小さく、EDF IOLとEDF+A IOLのLSAの差も比較的小さい。また、EDF+A IOLのLSA/NRD曲線の傾きの大きさも、EDF IOLの傾きの大きさよりも急激に増加する。しかしながら、EDF+IOLとは対照的に、LSA/NRD曲線の傾きの大きさは、0NRDから1.0NRDまで連続的に増加しない。むしろ、NRDが増加するにつれてLSA/NRD曲線の傾きの大きさが減少し始める変曲点が存在する(例えば、0.4と0.8NRD間の点)。
図11Bに示すように、EDF IOLおよびEDF+IOLの曲線はNRDスケールの比較的上端で離れているが、EDF IOLおよびEDF+A IOLの曲線はNRDスケールのさらに上端で収束する(さらに、全ての実施例でそうなるわけではないが、例示的な実施例においては2つの曲線は接触する)。このように、EDF+A IOLの付加的な非球面性はNRDスケールの比較的高(「低光量」)端においてEDF IOLより幾分大きなLSAを付与するが、その増加はEDF+IOLに関連するLSAよりもはるかに小さい。
【0074】
EDF IOLおよびEDF+IOLと比較したEDF+A IOLの利点を
図12A〜
図13Bに示す。
図12Aおよび
図12Bは、
図6Aおよび
図6Bに示したものに類似した適度なモノビジョン手法におけるEDF+IOLの使用例を示す。この手法には、球面収差を除去する(または、少なくとも実質的に除去する)非球面IOLを遠方視力眼に挿入し、遠方視力眼用のIOLよりも約1.0〜1.5ディオプター大きいIOLを中間視力眼に挿入すること(図示した例ではデルタ(δ)=+1.5ディオプター)が含まれる。しかしながら、ここで中間視力眼に挿入されるIOLは、EDF IOLよりも多くの球面収差を眼に付与するEDF+IOLである。
図12Aを参照すると、屋内/読書光条件で比較した場合、EDF IOLを備えた中間視力眼に比べてEDF+IOLを備えた中間視力眼の視力はわずかに低下しているが、焦点深度はより大きくなっている。しかしながら、低光量条件では、EDF+IOLを備えた中間視力眼の視力は著しく低下している。したがって、
図12Bに示す通り、中間視力眼におけるEDF+IOLの付加的な非球面性は、屋内光においては付加的な焦点深度と改善された近方視力をもたらすが、低光量条件においては中間視力および近方視力を著しく低下させる。
【0075】
上記EDF+A IOLを用いた適度なモノビジョン手法を示す
図13Aおよび
図13Bを参照すると、低光量条件に対する瞳孔の生理反応への対応能力により、低光量条件における視力はEDF+IOLに関連した視力よりも良好である。また、この手法には、球面収差を除去する(または実質的に除去する)非球面IOLを遠方視力眼に挿入し、遠方視力眼のIOLよりも1.0〜1.5ディオプター大きな(図示した例では、デルタ(δ)=+1.5ディオプター)IOLを中間視力眼に挿入することも含まれる。しかしながら、ここで中間視力眼に挿入されるIOLは、EDF+IOLと同じ非球面性を眼に付与するが、低光量条件における瞳孔サイズの拡大に対する適応能力も有するEDF+A IOLである。
図13Aを参照すると、屋内/読書光条件で比較した場合、EDF IOLを備えた中間視力眼に比べてEDF+A IOLを備えた中間視力眼の視力はわずかに低下するが、焦点深度はより大きくなる。また、低光量条件においてEDF+A IOLを備えた中間視力眼の視力低下はわずかに大きくなるが、この低下はEDF+IOLに関連する低下よりも著しく小さい。したがって、
図13Bに示す通り、中間視力眼におけるEDF+A IOLの付加的な非球面性は、低光量条件における中間視力および近方視力の著しい低下を伴うことなく、屋内光における付加的な焦点深度とより良好な近方視力をもたらす。
【0076】
色収差補正に関して、遠方視力眼にとっての最良の視力は、角膜の分散性に起因した色収差を含む、全ての角膜異常を矯正することにより達成することができる。上記の方法で近方視力眼にEDF+IOLおよびEDF+A IOLを使用する場合、回折・屈折複合型設計による偽水晶体IOLを使用して色収差を矯正することができる。
【0077】
また、球面IOLよりも大きな球面収差を眼に付与すること、および低光量条件で生じる縦球面収差の量を減らすことの両方を行う、表9〜表11に関して上述したEDF+A IOLは、IOLの単なる一例に過ぎないという点も強調されるべきである。そのため、別の例を表12〜表14に示す。上述した説明は、この例にも適用可能である。ここで、EDF++A IOLは、EDF+A IOLよりも大きな球面収差を眼に付与する。表12は、IOL度数が20.0ディオプターの例示的EDF++A IOLの、所定の縦球面収差の一覧を示す。
【0078】
【表12】
20.0ディオプター以外のIOL度数の縦球面収差は、上記の方程式により算出することができる。上記で表4を参照して説明した方法により導出される半径設計および形状係数を、10.0から30.0ディオプターまで0.5ディオプターごとに表13に示す。
【0079】
【表13】
【0080】
非球面プロファイル設計により、最終的に高次偶数次非球面係数を有する放物面が生成された。偶数次非球面性表面のサッグ数は、上記のz(r)方程式によって記載される。各帯域ごとの円錐定数および高次係数は、表14に示されている。
【0081】
【表14】
【0082】
表12〜表14に概要を示したEDF++A IOLの性能について説明すると、
図14は、上記のEDF IOL(すなわち、表1〜表7)、上記のDF++A IOL(すなわち、表12〜表14)、およびEDF++IOL(すなわち、EDF++A IOLと同じ量の付加的な非球面性を備えるEDF IOL)の、正規化された半径距離、すなわち、正規化された、個々のレイトレースの光学軸からの半径方向距離の関数としての光学系における縦球面収差を例示する。EDF IOLおよびEDF++IOLは、どちらもNRDスケールの下端におけるLSAの大きさは比較的小さく、2つのIOL間のLSAの差異も比較的小さい。両IOLのLSA/NRD曲線(または「プロファイル」)の傾きの大きさは0NRDから1.0NRDまで増加するが、LSA/NRD曲線の傾きの大きさはEDF++IOLがより急激に増加する。このため、2つの曲線(および関連するLSA値)大きく離れることになり、NRDスケールの上域端におけるその差は、EDF+IOLに関連する差よりも大きい。このように、EDF++IOLにおける付加的な非球面性は、NRDスケールの下(「高光量」)端においてはEDF IOLと比較してLSAを著しく増加させないが、EDF++ IOLにおける付加的な非球面性は、MRDスケールの上(「低光量」)端においてはEDFおよびEDF+IOLと比較と比較して著しく大きな量のLSAを付与する。
【0083】
EDF++A IOLのLSAの大きさは、NRDスケールの下端では比較的小さく、EDF IOLとEDF++A IOLのLSAの差も比較的小さい。EDF++A IOLのLSA/NRD曲線の傾きの大きさも、EDF IOLの傾きの大きさよりも急激に増加する。しかしながら、EDF++IOLとは対照的に、LSA/NRD曲線の傾きの大きさは、0NRDから1.0NRDまで連続的に増加しない。むしろ、LSA/NRDの傾きの大きさがNRDの増加と共に減少し始める変曲点が存在する(例えば、0.4と0.8NRDとの間の点)。さらに、1.0NRD付近には、傾きがゼロに到達して符号が変化する部分も存在する。
図14に示すように、EDF IOLおよびEDF++IOLの曲線はNRDスケールの比較的上端で離れているが、EDF IOLおよびEDF++A IOLの曲線はNRDスケールのさらに上端で収束する(さらに、全ての実施例でそうなるわけではないが、例示的な実施例においては2つの曲線は接触する)。このように、EDF++A IOLにおける付加的な非球面性は、NRDスケールの比較的上(「低光量」)端ではEDF IOLと比較してある程度のLSAを付与するが、その増加はEDF++IOLに関連する増加よりも、はるかに少ない。
【0084】
最後に、下記の表15は、20ディオプターで設計した場合の、入射瞳4mmおよび6mmにおける角膜、モデル眼、およびIOLの波面非球面収差(単位マイクロメートル)設計モデルを要約したものである。
【0085】
【表15】
【0086】
また、本発明には、曲線がEDF+A IOL曲線の上およびEDF++A IOL曲線の下に位置するIOLだけでなく、RDスケールの上端におけるLSA量の増加に減少傾向が見られる限り、LSA対NRD曲線がEDF+A IOL(
図11B)とEDF++A IOL(
図14)との間に位置するようになるIOLも含まれる。
【0087】
本発明は、上記の例示的実施形態には限定されない。多数の他の変更態様、および/または、上記の好ましい実施例への追加物が、当業者にとって直ちに明らかとなるであろう。あくまで一例であり、限定するものではないが、矯正を超えて非球面性を導入する、負の非球面性を付与するIOLも使用することができる。本発明の適用範囲は、係る変更態様、および/または、付加物の全てにまで拡張される。