特許第6041408号(P6041408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041408核酸素子候補分子、および、これを用いたターゲット分析用核酸素子のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041408
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】核酸素子候補分子、および、これを用いたターゲット分析用核酸素子のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20161128BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20161128BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N15/00 H
   !C12Q1/68 A
【請求項の数】21
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-504226(P2015-504226)
(86)(22)【出願日】2014年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2014053664
(87)【国際公開番号】WO2014136560
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-47341(P2013-47341)
(32)【優先日】2013年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232092
【氏名又は名称】NECソリューションイノベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】秋冨 穣
(72)【発明者】
【氏名】金子 直人
(72)【発明者】
【氏名】堀井 克紀
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/016565(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)および(II)のいずれか一方の一本鎖核酸であるターゲット分析用核酸素子候補分子について、ターゲットの存在下および非存在下で、前記核酸素子候補分子における前記触媒核酸配列(D)に由来する触媒活性を測定する工程と、
前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と、前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)とを比較して、前記非存在下での触媒活性(N)に対して前記ターゲット存在下での触媒活性(S)が有意差を示す前記核酸素子候補分子を、ターゲット分析用核酸素子として選択する工程とを含むことを特徴とする、ターゲット分析用核酸素子のスクリーニング方法
(I) 触媒機能を生起する触媒核酸配列(D)、ブロッキング核酸配列(B)、およびターゲットに結合する結合核酸配列(A)が、この順序で連結し、
前記ブロッキング核酸配列(B)が、前記触媒核酸配列(D)における部分領域(Dp)に対して相補的であり、
前記結合核酸配列(A)における前記ブロッキング核酸配列(B)側の末端領域(Ab)が、前記触媒核酸配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域(Df)に相補的であり、且つ、前記結合核酸配列(A)における前記ブロッキング核酸配列(B)側とは反対側の末端領域(Af)に相補的である、一本鎖核酸。
(II) 触媒機能を生起する触媒核酸配列(D)、ブロッキング核酸配列(B)、ターゲットに結合する結合核酸配列(A)、および安定化核酸配列(S)が、この順序で連結し、
前記ブロッキング核酸配列(B)が、前記触媒核酸配列(D)の部分領域(Dp)に対して相補的であり、
前記ブロッキング核酸配列(B)の前記結合核酸配列(A)側の末端領域(Ba)が、前記安定化核酸配列(S)に対して相補的である、一本鎖核酸。
【請求項2】
前記触媒核酸配列(D)、前記ブロッキング核酸配列(B)、および前記結合核酸配列(A)が、5’側からこの順序で連結している、請求項1記載のスクリーニング方法
【請求項3】
前記触媒核酸素子(D)の触媒機能が、酸化還元反応の触媒機能である、請求項1または2記載のスクリーニング方法
【請求項4】
前記触媒核酸配列(D)の長さが、12〜40塩基長である、請求項1から3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項5】
前記触媒核酸配列(D)が、配列番号110〜115からなる群から選択された少なくとも1つの塩基配列またはその部分配列である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
EAD2(配列番号110)
CTGGGAGGGAGGGAGGGA
c−Myc(配列番号111)
TGAGGGTGGGGAGGGTGGGGAA
PS2.M(配列番号112)
GTGGGTAGGGCGGGTTGG
VEGF(配列番号113)
GGGCGGGCCGGGGGCGGG
TA2(配列番号114)
GGGGTTGGGGTGTGGGGTTGGGG
NECO0584(配列番号115)
GGGTGGGAGGGTCGGG
【請求項6】
前記ブロッキング核酸配列(B)の長さが、1〜20塩基長であり、前記触媒核酸配列(D)における前記部分領域(Dp)の長さが、1〜20塩基長である、請求項1から5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項7】
前記触媒核酸配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域であって、
前記触媒核酸配列(D)における前記部分領域(Dp)のブロッキング核酸配列(B)側末端と前記ブロッキング核酸配列(B)における前記触媒核酸配列(D)側末端との間の領域(Db)の長さが、3〜40塩基長である、請求項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項8】
前記触媒核酸配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域であって、
前記ブロッキング核酸配列(B)側とは反対側の領域(Df)の長さが、0〜40塩基長である、請求項1から7のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項9】
前記結合核酸配列(A)の長さが、12〜140塩基長である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項10】
前記一本鎖核酸が、前記一本鎖核酸(I)であり、
さらに、安定化核酸配列(S)を有し、
前記触媒核酸配列(D)、前記ブロッキング核酸配列(B)、前記結合核酸配列(A)、および前記安定化核酸配列(S)が、この順序で連結されている、請求項1から9のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項11】
前記安定化核酸配列(S)が、前記ブロッキング核酸配列(B)における前記結合核酸配列(A)側の末端領域(Ba)と相補的である、請求項10記載のスクリーニング方法
【請求項12】
前記安定化核酸配列(S)の長さが、1〜10塩基長である、請求項10または11記載のスクリーニング方法
【請求項13】
前記一本鎖核酸が、前記一本鎖核酸(I)であり、
ターゲットの非存在下、
前記触媒核酸配列(D)の前記部分領域(Dp)と前記ブロッキング核酸配列(B)とのステム形成および前記触媒核酸配列(D)の前記隣接領域(Df)と前記結合核酸配列(A)の末端領域(Af)とのステム形成により、前記触媒核酸配列(D)の触媒機能が阻害され、
ターゲットの存在下、
前記結合核酸配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記触媒核酸配列(D)の前記部分領域(Dp)と前記ブロッキング核酸配列(B)とのステム形成および前記触媒核酸配列(D)の前記隣接領域(Df)と前記結合核酸配列(A)の末端領域(Af)とのステム形成が解除され、前記触媒核酸配列(D)の触媒機能が生起される、請求項1から12のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項14】
前記一本鎖核酸が、前記一本鎖核酸(II)であり、
前記安定化核酸配列(S)の長さが、1〜10塩基長である、請求項1から9のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項15】
前記一本鎖核酸が、前記一本鎖核酸(II)であり、
ターゲットの非存在下、
前記触媒核酸配列(D)の前記部分領域(Dp)と前記ブロッキング核酸配列(B)とのステム形成および前記触媒核酸配列(D)の前記隣接領域(Df)と前記ブロッキング核酸配列(B)の末端領域(Ba)とのステム形成により、前記触媒核酸配列(D)の触媒機能が阻害され、
ターゲットの存在下、
前記結合核酸配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記触媒核酸配列(D)の前記部分領域(Dp)と前記ブロッキング核酸配列(B)とのステム形成および前記触媒核酸配列(D)の前記隣接領域(Df)と前記ブロッキング核酸配列(B)の末端領域(Ba)とのステム形成が解除され、前記触媒核酸配列(D)の触媒機能が生起される、請求項1から9および14のいずれか一項に記載のスクリーニング方法
【請求項16】
前記選択工程において、前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)との比較が、前記触媒活性(S)と前記触媒活性(N)との比(S/N)の算出であり、
設定した前記比(S/N)の基準値よりも高い比(S/N)を示す前記核酸素子候補分子を、前記ターゲット分析用核酸素子として選択する、請求項1から15のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記測定工程において、配列が異なる複数の前記核酸素子候補分子について、触媒活性の測定を行い、
前記選択工程において、前記各核酸素子候補分子について、前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)との比(S/N)を算出し、相対的に前記比が高い前記核酸素子候補分子を、前記ターゲットの分析核酸素子として選択する、請求項16記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
前記触媒核酸配列(D)の触媒機能が、酸化還元反応の触媒機能であり、
前記測定工程において、前記触媒核酸配列(D)に由来する触媒活性を、前記触媒核酸配列(D)の触媒機能により生成されるシグナルとして測定する、請求項から17のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項19】
前記シグナルが、光学的シグナルまたは電気化学的シグナルである、請求項18記載のスクリーニング方法。
【請求項20】
前記触媒核酸素子(D)の触媒機能に対する基質の存在下、前記触媒活性を測定する、請求項から19のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項21】
請求項から20のいずれか一項に記載のスクリーニング方法により、核酸素子候補分子から、ターゲット分析用核酸素子を選択する工程を含むことを特徴とする、分析用核酸素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸素子候補分子、および、これを用いたターゲット分析用核酸素子のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床医療、食品、環境等の様々な分野において、ターゲットの検出が必要とされている。前記ターゲットの検出は、一般的に、前記ターゲットとの相互作用が利用されており、中でも、前記ターゲットに特異的に結合する抗体を用いた手法が汎用されている。この方法では、例えば、ペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素で標識化した抗体にターゲットを結合させる。そして、発色基質を用いて、前記標識化抗体における前記酵素により発色反応を行い、その発色を検出する。前記発色の検出により、間接的に、前記ターゲットの分析、例えば、定性分析および定量分析が行われている。
【0003】
しかしながら、前記抗体は、動物への免疫によって取得されるため、毒性のターゲットおよび低分子のターゲットに対して特異的な抗原を取得することが極めて困難である。そこで、近年、ターゲットに結合する核酸分子、いわゆる核酸アプタマー(以下、「アプタマー」ともいう)が注目されている。前記アプタマーは、試験管内で取得できることから、例えば、毒性のターゲットおよび低分子のターゲットに対しても、アプタマーを取得可能である。
【0004】
そして、このようなアプタマーを、前記抗体に代えて、ターゲットの検出に使用するにあたって、ペルオキシダーゼと同様の触媒活性を示すDNAzymeの併用が試みられている。前記DNAzymeは、一般に、グアニンリッチな構造モチーフを有し、G−quadruplex構造をとり、ヘミンと結合して複合体を形成することによって、ペルオキシダーゼの触媒機能を生起するDNAである。
【0005】
前記ターゲットの検出においては、具体的に、一本鎖のアプタマーと一本鎖のDNAzymeとを連結した一本鎖核酸素子が利用されている(非特許文献1)。前記一本鎖核酸素子は、ターゲット非存在下、自己アニーリングによりステム構造を形成しており、前記ステム構造によって、前記DNAzymeは、G−quadruplexをとることができない構造となっている。このため、ターゲット非存在下、前記一本鎖核酸素子における前記DNAzymeは、ヘミンと結合できず、触媒機能を生起できない。他方、前記一本鎖核酸素子は、ターゲット存在下、前記アプタマーに前記ターゲットが結合することにより、前記ステム構造が解消される。このため、ターゲット存在下、前記一本鎖核酸素子における前記DNAzymeは、G−quadruplexを形成し、ヘミンと結合することによって、前記触媒機能を生起する。したがって、酸化還元活性に対する発色基質を共存させることで、前記ターゲットが存在すれば発色反応が生じ、前記ターゲットが存在しなければ発色反応が生じないこととなる。このため、発色反応の検出によって、ターゲットの分析が可能となる。さらに、ターゲットを標識する必要がないため、低分子を含む幅広いターゲットを対象にした直接検出が可能となる。
【0006】
そこで、触媒機能に優れるDNAzymeと、ターゲットに対して優れた結合力または優れた特異性を示すアプタマーとを、それぞれ選択した上で、両者を連結して一本鎖核酸素子を作製するという方法がとられている。しかしながら、実際に、選択されたDNAzymeとアプタマーとを連結しても、実用化に適した核酸素子、例えば、ターゲット存在下での活性(S)とターゲット非存在下での活性(N)との比(S/N比)が十分な核酸素子を得ることは、極めて困難であった。このため、DNAzymeとアプタマーの両方について、様々な配列への改変を行った上で、これらを組み合わせ、大量の核酸素子候補分子を作製しても、十分なS/N比を示す素子が得られるか否かは不明であった。
【0007】
このため、核酸素子候補分子から、簡便且つ効率的に、S/N比に優れる一本鎖核酸素子をスクリーニングする方法の確立が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tellerら, Anal.Chem., 2009年, vol.81, p.9114−9119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ターゲット分析用核酸素子のスクリーニングに使用する新たな核酸素子候補分子、およびこれを用いたターゲット分析用核酸素子の新たなスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の核酸素子候補分子は、ターゲット分析用核酸素子のスクリーニングに使用する核酸素子候補分子であって、
下記(I)および(II)のいずれか一方の一本鎖核酸であることを特徴とする。
【0011】
(I)触媒機能を生起する触媒核酸配列(D)、ブロッキング核酸配列(B)、およびターゲットに結合する結合核酸配列(A)が、この順序で連結し、
前記ブロッキング核酸配列(B)が、前記触媒核酸配列(D)における部分領域(Dp)に対して相補的であり、
前記結合核酸配列(A)における前記ブロッキング核酸配列(B)側の末端領域(Ab)が、前記触媒核酸配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域(Df)に相補的であり、且つ、前記結合核酸配列(A)における前記ブロッキング核酸配列(B)側とは反対側の末端領域(Af)に相補的である、一本鎖核酸。
【0012】
(II)触媒機能を生起する触媒核酸配列(D)、ブロッキング核酸配列(B)、ターゲットに結合する結合核酸配列(A)、および安定化核酸配列(S)が、この順序で連結し、
前記ブロッキング核酸配列(B)が、前記触媒核酸配列(D)の部分領域(Dp)に対して相補的であり、
前記ブロッキング核酸配列(B)の前記結合核酸配列(A)側の末端領域(Ba)が、前記安定化核酸配列(S)に対して相補的である、一本鎖核酸。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、分析用核酸素子のスクリーニング方法であって、前記本発明の候補分子について、前記候補分子における前記結合核酸配列(A)に対するターゲットの存在下および非存在下で、前記候補分子における前記触媒核酸配列(D)に由来する触媒活性を測定する工程と、
前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と、前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)とを比較して、前記非存在下での触媒活性(N)に対して前記ターゲット存在下での触媒活性(S)が有意差を示す前記候補分子を、前記ターゲット分析用核酸素子として選択する工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の製造方法は、分析用核酸素子の製造方法であって、前記本発明のスクリーニング方法により、候補分子から、ターゲット分析用核酸素子を選択する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の候補分子によれば、簡便且つ効率的に、S/N比に優れる一本鎖核酸素子をスクリーニングすることができる。このようにしてスクリーニングされたターゲット分析用核酸素子は、例えば、臨床医療、食品、環境等の様々な分野における研究および検査に、極めて有用な技術といえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の候補分子の一例を示す模式図であり、(A)が、前記候補分子における各配列の順序を示した模式図であり、(B)が、ターゲット非存在下での前記候補分子を示した模式図であり、(C)が、ターゲット存在下での前記候補分子を示した模式図である。
図2図2は、本発明の候補分子の一例を示す模式図であり、(A)が、前記候補分子における各配列の順序を示した模式図であり、(B)が、ターゲット非存在下での前記候補分子を示した模式図であり、(C)が、ターゲット存在下での前記候補分子を示した模式図である。
図3図3は、本発明の実施例において、スクリーニングにより得られた核酸素子の配列を示す表である。
図4図4は、本発明の実施例において、スクリーニングにより得られた核酸素子の配列を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.核酸素子候補分子
本発明の候補分子は、前述のように、ターゲット分析用核酸素子のスクリーニングに使用する核酸素子候補分子であって、前記(I)および(II)のいずれか一方の一本鎖核酸であることを特徴とする。以下、本発明の核酸素子候補分子を「候補分子」、核酸配列を「配列」ともいう。
【0018】
本発明の候補分子は、以下のメカニズムが推測されるが、本発明は、このメカニズムには制限されない。一般的に、核酸配列は、形成し得る構造の間で熱力学的に揺らいでおり、相対的に安定性の高いものの存在比率が高くなると考えられている。そして、DNAzyme等の核酸分子は、一般的に、分子内アニーリングによってより安定な立体構造をとり、前記立体構造によって、触媒活性を生起することが知られている。また、アプタマー等の核酸分子に関しても、一般的に、ターゲットの存在下では、分子内アニーリングによってより安定な立体構造をとり、前記立体構造によって、ターゲットに結合することが知られている。本発明の候補分子は、前述のように、前記触媒配列(D)の一部および前記結合配列(A)の一部が、それぞれ、他の配列と相補的な関係を有し、ステム形成が可能である。このため、ターゲットの非存在下では、前記触媒配列(D)におけるステム形成により、前記より安定な立体構造の形成がブロックされ、結果的に、前記触媒配列(D)の触媒機能の生起が阻害され(スイッチOFF)、且つ、前記結合配列(A)におけるステム形成により、前記より安定な立体構造の形成がブロックされ、ターゲットと結合していない状態の構造が維持される。以下、この状態の構造を、「ブロッキング型」ともいう。一方、ターゲットの存在下では、前記結合配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記結合配列(A)がより安定な立体構造に変化していき、前記結合配列(A)におけるステム形成が解除され、前記立体構造をとった前記結合配列(A)に前記ターゲットが結合する。そして、前記結合配列(A)におけるステム形成の解除に伴う前記結合配列(A)のより安定な立体構造化により、前記触媒配列(D)におけるステム形成も解除され、前記触媒配列(D)が前記立体構造をとることによって、結果的に、前記触媒配列(D)の触媒機能が生起される(スイッチON)と考えられる。以下、この状態の構造を、「活性型」ともいう。このため、本発明の候補分子を、特定のターゲットを分析するための核酸素子のスクリーニング用の候補分子として用いることによって、より効率的に、ターゲット存在下と非存在下での触媒活性の差が大きい、高精度分析が可能となる核酸素子の選択が可能になると考えられる。
【0019】
本発明において、ある配列に対して他の配列が相補的であるとは、例えば、前記一本鎖核酸において、両者間でアニーリングが生じ得る配列であることを意味する。前記アニーリングを、「ステム形成」ともいう。
【0020】
本発明において、相補的とは、例えば、2種類の配列をアラインメントした際の相補性が、例えば、90%以上であること、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上であり、より好ましくは99%以上であり、特に好ましくは100%、すなわち完全相補である。
【0021】
本発明の候補分子は、例えば、前記一本鎖核酸を有する分子でもよいし、前記一本鎖核酸からなる分子でもよい。本発明の候補分子において、前記一本鎖核酸は、例えば、前記(I)および前記(II)の少なくとも一方であり、両方でもよいし、いずれか一方のみでもよい。
【0022】
本発明の候補分子について、以下、前記一本鎖核酸(I)および前記一本鎖核酸(II)をそれぞれ示す。なお、特に示さない限り、それぞれの形態は、他方における記載を援用できる。
【0023】
(1)一本鎖核酸(I)
前記一本鎖核酸(I)は、前述のように、触媒機能を生起する触媒配列(D)、ブロッキング配列(B)、およびターゲットに結合する結合配列(A)が、この順序で連結し、
前記ブロッキング配列(B)が、前記触媒配列(D)における部分領域(Dp)に対して相補的であり、
前記結合配列(A)における前記ブロッキング配列(B)側の末端領域(Ab)が、前記触媒配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域(Df)に相補的であり、且つ、前記結合配列(A)における前記ブロッキング配列(B)側とは反対側の末端領域(Af)に相補的な一本鎖核酸である。
【0024】
前記一本鎖核酸(I)は、以下のメカニズムが推測されるが、本発明は、このメカニズムには制限されない。前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)が、前記ブロッキング配列(B)と相補的であり、且つ、前記触媒配列(D)における隣接領域(Df)が、前記結合配列(A)の前記末端領域(Ab)と相補的であるため、これらの相補関係において、ステム形成が可能である。このため、ターゲットの非存在下では、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)と前記ブロッキング配列(B)とのステム形成および前記触媒配列(D)の隣接領域(Df)と前記結合配列(A)の前記末端領域(Ab)とのステム形成により、前記触媒配列(D)の前記より安定な立体構造の形成がブロックされ、結果的に、前記触媒配列(D)の触媒機能の生起が阻害され(スイッチOFF)、且つ、前記結合配列(A)におけるステム形成により、前記より安定な立体構造の形成がブロックされ、ターゲットと結合していない状態のブロッキング型構造が維持される。一方、ターゲットの存在下では、前記結合配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記結合配列(A)がより安定な立体構造に変化していき、前記結合配列(A)におけるステム形成が解除され、分子内アニーリングにより前記より安定な立体構造に変化した前記結合配列(A)に、前記ターゲットが結合する。そして、前記結合配列(A)におけるステム形成の解除に伴う前記結合配列(A)の前記立体構造化により、前記触媒配列(D)のステム形成も解除され、前記触媒配列(D)が分子内アニーリングによってより安定な立体構造に変化し、結果的に、前記触媒配列(D)の触媒機能が生起される(スイッチON)と考えられる。
【0025】
前記一本鎖核酸(I)は、前記一本鎖核酸が、さらに、安定化配列(S)を有してもよく、この場合、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、前記結合配列(A)、および前記安定化配列(S)が、この順序で連結されていることが好ましい。以下、本発明の候補分子として、前記安定化配列(S)を有する一本鎖核酸の形態を示す場合、前記安定化配列(S)は、任意であり、含まない形態でもよい。
【0026】
前記安定化配列(S)は、例えば、前記結合配列(A)がターゲットと結合する際の構造を安定化するための配列である。前記安定化配列(S)は、例えば、ブロッキング配列(B)に相補的またはその一部に相補的であり、具体的には、前記ブロッキング配列(B)における前記結合配列(A)側の末端領域(Ba)に相補的であることが好ましい。この場合、例えば、ターゲット存在下、分子内アニーリングによる前記結合配列(A)の立体構造が形成された際、前記結合配列(A)に連結する前記安定化配列(S)と、前記結合配列(A)に連結する前記ブロッキング配列(B)の末端領域(Ba)との間でも、ステムが形成される。前記結合配列(A)に連結する領域において、このようなステムが形成されることによって、ターゲットと結合する前記結合配列(A)の立体構造が、より安定化される。
【0027】
前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、および前記結合配列(A)、ならびに任意の前記安定化配列(S)の順序は、特に制限されず、例えば、5’側からこの順序で連結してもよいし、3’側からこの順序で連結してもよく、好ましくは前者である。図1に、本発明の候補分子の一例として、5’側から前記各配列が連結している状態の一本鎖核酸(I)の模式図を示す。図1において、(A)が、各配列の順序を示した模式図であり、(B)が、ターゲット非存在下におけるブロッキング型の模式図であり、(C)は、ターゲット存在下における活性型の模式図である。図1において、Dは、前記触媒配列(D)の構成単位(ヌクレオチド)、Bは、前記ブロッキング配列(B)の構成単位、Aは、前記結合配列(A)の構成単位、Sは、前記安定化配列(S)の構成単位を、それぞれ示し、各構成単位間の線は、結合を示す。なお、図1は、各配列を模式的に示したものであり、各配列の構成単位の数(配列の長さ)は、何ら制限されず、また、前記安定化配列(S)は、任意である(以下、同様)。
【0028】
図1(A)に示すように、前記一本鎖核酸(I)の一例は、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、前記結合配列(A)、および任意で前記安定化配列(S)を、この順序で有する。前記一本鎖核酸(I)は、例えば、図1(B)に示すように、ターゲット非存在下では、前記触媒配列(D)の一部が、前記ブロッキング配列(B)および前記結合配列(A)の一部と結合して、ステムを形成し、ブロッキング型の一本鎖核酸となる。他方、前記一本鎖核酸(I)は、例えば、図1(C)に示すように、ターゲットの存在下では、前記結合配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記結合配列(A)は、その分子内アニーリングにより立体構造を形成し、それに伴い、前記触媒配列(D)におけるステム形成も解除され、前記触媒配列(D)は、その分子内アニーリングにより立体構造を形成し、触媒機能を生起する。また、図1(C)に示すように、例えば、前記ブロッキング配列(B)と前記安定化配列(S)とが結合することによって、前記結合配列(A)の立体構造が、より安定化される。
【0029】
前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、および前記結合配列(A)、ならびに任意で前記安定化配列(S)は、例えば、それぞれの間が、スペーサー配列が介在することにより間接的に連結してもよいが、前記スペーサー配列が介在することなく直接的に連結していることが好ましい。
【0030】
前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)は、触媒機能を生起する配列であればよい。前記触媒機能は、特に制限されず、例えば、酸化還元反応の触媒機能である。前記酸化還元反応は、例えば、基質から生成物が生成される過程において、二つの基質の間に電子の授受を生じる反応であればよい。前記酸化還元反応の種類は、特に制限されない。前記酸化還元反応の触媒機能は、例えば、酵素と同様の活性があげられ、具体的には、例えば、ペルオキシダーゼと同様の活性(以下、「ペルオキシダーゼ様活性」という)等があげられる。前記ペルオキシダーゼ活性は、例えば、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)活性があげられる。前記触媒配列(D)は、DNA配列の場合、DNAエンザイムまたはDNAzymeと呼ぶことができ、また、RNA配列の場合、RNAエンザイムまたはRNAzymeと呼ぶことができる。
【0031】
前記触媒配列(D)は、G−カルテット(または「G−tetrad」という)の構造を形成する配列が好ましく、より好ましくはグアニン四重鎖(または「G−quadruplex」という)の構造を形成する配列である。前記G−tetradは、例えば、グアニンが四量体となった面の構造であり、G−quadruplexは、例えば、前記G−tetradが複数面重なった構造をいう。前記G−tetradおよび前記G−quadruplexは、例えば、反復してGリッチの構造モチーフを有する核酸において、形成される。前記G−tetradは、例えば、パラレル型およびアンチパラレル型があげられるが、パラレル型が好ましい。
【0032】
前記触媒配列(D)は、ポルフィリンと結合可能な配列が好ましく、具体的には、前記G−tetradを形成し且つ前記ポルフィリンと結合可能な配列が好ましい。前記G−tetradを有する配列は、例えば、前記ポルフィリンと結合して複合体を形成することによって、前記酸化還元反応の触媒機能を生起することが知られている。
【0033】
前記ポルフィリンは、特に制限されず、例えば、無置換体のポルフィリン、その誘導体があげられる。前記誘導体は、例えば、置換体のポルフィリンおよび金属元素と錯体を形成した金属ポルフィリン等があげられる。前記置換体のポルフィリンは、例えば、N−メチルメソポルフィリン等があげられる。前記金属ポルフィリンは、例えば、三価鉄錯体であるヘミン等があげられる。前記ポルフィリンは、例えば、前記金属ポルフィリンが好ましく、より好ましくはヘミンである。
【0034】
前記触媒配列(D)は、特に制限されず、任意の配列が設定できる。具体例としては、例えば、触媒機能を生起する公知の触媒核酸分子の配列、前記触媒核酸分子の部分配列等を採用できる。ペルオキシダーゼ活性を有する触媒核酸分子としては、例えば、下記論文(1)〜(4)等に開示されているDNAzymeが例示できる。
(1)Travascioら, Chem. Biol., 1998年, vol.5, p.505-517
(2)Chengら, Biochimistry, 2009年, vol.48, p.7817-7823
(3)Tellerら, Anal. Chem., 2009年, vol.81, p.9114-9119
(4)Taoら, Anal. Chem., 2009年, vol.81, p.2144-2149
【0035】
前記DNAzymeの具体例としては、例えば、配列番号110〜115の塩基配列からなる分子があげられる。前記触媒配列(D)は、例えば、配列番号110〜115からなる群から選択された少なくとも一つの塩基配列、または、前記塩基配列の部分配列が例示できる。
EAD2(配列番号110)
CTGGGAGGGAGGGAGGGA
c−Myc(配列番号111)
TGAGGGTGGGGAGGGTGGGGAA
PS2.M(配列番号112)
GTGGGTAGGGCGGGTTGG
VEGF(配列番号113)
GGGCGGGCCGGGGGCGGG
TA2(配列番号114)
GGGGTTGGGGTGTGGGGTTGGGG
NECO0584(配列番号115)
GGGTGGGAGGGTCGGG
【0036】
前記触媒配列(D)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、12塩基長であり、好ましくは14塩基長であり、より好ましくは15塩基長であり、上限は、例えば、40塩基長であり、好ましくは30塩基長であり、より好ましくは20塩基長であり、その範囲は、例えば、12〜40塩基長であり、好ましくは14〜30塩基長であり、より好ましくは15〜20塩基長である。
【0037】
前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)と前記ブロッキング配列(B)とが相補的とは、前記ブロッキング配列(B)と前記部分領域(Dp)との間で、例えば、90%以上の相補性であることが好ましく、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、特に好ましくは100%、すなわち完全相補である。
【0038】
前記触媒配列(D)は、前述のように、前記ブロッキング配列(B)に相補的な配列を有し、且つ、前記結合配列(A)の一部にも相補的な配列を有する。また、前記ブロッキング配列(B)は、前述のように、前記触媒配列(D)の一部と相補的であり、また、前記安定化配列(S)を有する場合は、前記安定化配列(S)にも相補的である。
【0039】
前記ブロッキング配列(B)の配列および長さは、特に制限されず、例えば、前記触媒配列(D)の配列および長さ等に応じて、適宜設定できる。
【0040】
前記ブロッキング配列(B)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、1塩基長であり、好ましくは2塩基長であり、より好ましくは3塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長であり、好ましくは15塩基長であり、より好ましくは10塩基長であり、その範囲は、例えば、1〜20塩基長であり、好ましくは2〜15塩基長であり、より好ましくは3〜10塩基長である。
【0041】
これに対して、前記触媒配列(D)の前記部分領域(Dp)の長さは、例えば、下限は、例えば、1塩基長であり、好ましくは2塩基長であり、より好ましくは3塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長であり、好ましくは15塩基長であり、より好ましくは10塩基長であり、その範囲は、例えば、1〜20塩基長であり、好ましくは2〜15塩基長であり、より好ましくは3〜10塩基長である。前記ブロッキング配列(B)の長さと前記触媒配列(D)の前記部分領域(Dp)の長さは、例えば、同じであることが好ましい。
【0042】
前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)における前記部分領域(Dp)の位置、すなわち、前記触媒配列(D)における前記ブロッキング配列(B)のアニール領域は、特に制限されない。前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、および前記結合配列(A)、ならびに任意で前記安定化配列(S)が、この順序で連結している場合、前記部分領域(Dp)は、例えば、以下の条件で設定できる。
【0043】
前記触媒配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域であって、前記部分領域(Dp)のブロッキング配列(B)側末端と前記ブロッキング配列(B)における前記触媒配列(D)側末端との間の領域(Db)の長さは、下限が、例えば、3塩基長であり、好ましくは4塩基長であり、より好ましくは5塩基長であり、上限が、例えば、40塩基長であり、好ましくは30塩基長であり、より好ましくは20塩基長であり、その範囲が、例えば、3〜40塩基長であり、好ましくは4〜30塩基長であり、より好ましくは5〜20塩基長である。
【0044】
前記触媒配列(D)における前記部分領域(Dp)の隣接領域であって、前記ブロッキング配列(B)側とは反対側の領域(Df)の長さは、下限が、例えば、0塩基長であり、好ましくは1塩基長であり、より好ましくは2塩基長であり、上限は、例えば、40塩基長であり、好ましくは30塩基長であり、より好ましくは20塩基長であり、その範囲は、例えば、0〜40塩基長であり、好ましくは1〜30塩基長であり、より好ましくは2〜20塩基長である。
【0045】
後述するように、本発明においてターゲットは限定されず、所望のターゲットを選択できる。このため、前記ターゲットに応じて、前記結合配列(A)を設計できる。本発明の候補分子に設定される前記結合配列(A)は、ターゲット存在下、前記結合配列(A)単独の状態で、分子内アニーリングにより立体構造が変化する配列が好ましい。
【0046】
前記結合配列(A)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、12塩基長であり、好ましくは15塩基長であり、より好ましくは18塩基長であり、上限は、例えば、140塩基長であり、好ましくは80塩基長であり、より好ましくは60塩基長であり、その範囲は、例えば、12〜140塩基長であり、好ましくは15〜80塩基長であり、より好ましくは18〜60塩基長である。
【0047】
前記結合配列(A)における前記ブロッキング配列(B)側の末端領域(Ab)は、前述のように、前記触媒配列(D)の隣接領域(Df)に相補的である。ここで、前記結合配列(A)の末端領域(Ab)は、前記触媒配列(D)の隣接領域(Df)の全領域に対して相補的でもよいし、前記隣接領域(Df)の部分領域に対して相補的でもよい。後者の場合、前記結合配列(A)の末端領域(Ab)は、前記隣接領域(Df)における、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)側の末端領域に対して相補的であることが好ましい。
【0048】
前記触媒配列(D)の隣接領域(Df)に相補的な、前記結合配列(A)における末端領域(Ab)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、1塩基長であり、好ましくは1塩基長であり、より好ましくは1塩基長であり、上限は、例えば、20塩基長であり、好ましくは8塩基長であり、より好ましくは3塩基長であり、その範囲は、例えば、1〜20塩基長であり、好ましくは1〜8塩基長であり、より好ましくは1〜3塩基長である。
【0049】
前記安定化配列(S)は、前述のように、例えば、ブロッキング配列(B)に相補的またはその一部に相補的であり、具体的には、前記ブロッキング配列(B)における前記結合配列(A)側の末端領域(Ba)に相補的であることが好ましい。
【0050】
前記安定化配列(S)の配列および長さは、特に制限されず、例えば、前記ブロッキング配列(B)の配列および長さ、前記結合配列(A)の配列および長さ等に応じて適宜決定できる。前記安定化配列(S)の長さは、下限が、例えば、0塩基長であり、好ましくは1塩基長であり、より好ましくは1塩基長であり、上限が、例えば、10塩基長であり、好ましくは5塩基長であり、より好ましくは3塩基長であり、その範囲は、例えば、0〜10塩基長であり、好ましくは1〜5塩基長であり、より好ましくは1〜3塩基長である。これに対して、例えば、前記安定化配列(S)が前記ブロッキング配列(B)の全体と相補的な場合、前記ブロッキング配列(B)は、前記安定化配列(S)と同じ長さであり、例えば、前記安定化配列(S)が前記ブロッキング配列(B)の一部と相補的な場合、前記ブロッキング配列(B)の一部、例えば、前記末端領域(Ba)は、前記安定化配列(S)と同じ長さである。
【0051】
前記一本鎖核酸(I)の全長の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、25塩基長であり、好ましくは35塩基長であり、より好ましくは40塩基長であり、上限は、例えば、200塩基長であり、好ましくは120塩基長であり、より好ましくは80塩基長であり、その範囲は、例えば、25〜200塩基長であり、好ましくは35〜120塩基長であり、より好ましくは40〜80塩基長である。
【0052】
(2)一本鎖核酸(II)
前記一本鎖核酸(II)は、前述のように、触媒機能を生起する触媒配列(D)、ブロッキング配列(B)、ターゲットに結合する結合配列(A)、および安定化配列(S)が、この順序で連結し、
前記ブロッキング配列(B)が、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)に対して相補的であり、
前記ブロッキング配列(B)の前記結合配列(A)側の末端領域(Ba)が、前記安定化配列(S)に対して相補的な一本鎖核酸である。
【0053】
前記一本鎖核酸(II)において、前記結合配列(A)は、それ単独では、ターゲットとの結合に必要な分子内アニーリングが形成されない配列であることが好ましい。そして、前記一本鎖核酸(II)は、ターゲット存在下、前記結合配列(A)に隣接する前記ブロッキング配列(B)の末端領域(Ba)と前記安定化配列(S)とのアニーリングによって、前記結合配列(A)と前記末端領域(Ba)と前記安定化配列(S)との全体から、前記立体構造が形成されることが好ましい。
【0054】
前記一本鎖核酸(II)は、以下のメカニズムが推測されるが、本発明は、このメカニズムには制限されない。前記一本鎖核酸(II)において、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)が、前記ブロッキング配列(B)と相補的であるため、この相補関係において、ステム形成が可能である。このため、ターゲットの非存在下では、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)と前記ブロッキング配列(B)とのステム形成により、前記触媒配列(D)のより安定な立体構造の形成がブロックされ、結果的に、前記触媒配列(D)の触媒機能の生起が阻害される(スイッチOFF)。また、前記結合配列(A)は、それ単独ではターゲットとの結合に必要な分子内アニーリングが形成されない配列であるため、ターゲットと結合するための、より安定な前記立体構造の形成がブロックされ、ターゲットと結合していない状態が維持される。つまり、ターゲット非存在下において、前記一本鎖核酸(II)は、ブロッキング型構造が維持される。一方、ターゲットの存在下では、前記結合配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記結合配列(A)の立体構造が変化する過程で、前記ブロッキング配列(B)の末端領域(Ba)と前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)とのステム形成が解除され、新たに、前記ブロッキング配列(B)の末端領域(Ba)と前記安定化配列(S)とのアニーリングにより、ステムが形成され、このステムが、前記結合配列(A)がターゲットに結合するために必要な分子内アニーリングの役目を担い、前記ステムと前記結合配列(A)との全体から、前記立体構造が形成され、前記結合配列(A)に前記ターゲットが結合する。そして、前記ブロッキング配列(B)と前記触媒配列(D)とのステム形成の解除により、新たに前記触媒配列(D)が分子内アニーリングによってより安定な立体構造に変化し、結果的に、前記触媒配列(D)の触媒機能が生起される(スイッチON)と考えられる。
【0055】
前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、前記結合配列(A)、および前記安定化配列(S)の順序は、特に制限されず、例えば、5’側からこの順序で連結してもよいし、3’側からこの順序で連結してもよく、好ましくは前者である。図2に、本発明の候補分子の一例として、5’側から前記各配列が連結している状態の一本鎖核酸(II)の模式図を示す。図2において、(A)が、各配列の順序を示した模式図であり、(B)が、ターゲット非存在下におけるブロッキング型の模式図であり、(C)は、ターゲット存在下における活性型の模式図である。図2において、Dは、前記触媒配列(D)の構成単位(ヌクレオチド)、Bは、前記ブロッキング配列(B)の構成単位、Aは、前記結合配列(A)の構成単位、Sは、前記安定化配列(S)の構成単位を、それぞれ示し、各構成単位間の線は、結合を示す。なお、図2は、各配列を模式的に示したものであり、各配列の構成単位の数(配列の長さ)は、何ら制限されない(以下、同様)。
【0056】
図2(A)に示すように、前記一本鎖核酸(II)の一例は、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、前記結合配列(A)、および前記安定化配列(S)を、この順序で有する。前記一本鎖核酸(II)は、例えば、図2(B)に示すように、ターゲット非存在下では、前記触媒配列(D)の一部が、前記ブロッキング配列(B)と結合して、ステムを形成し、ブロッキング型の一本鎖核酸となる。この際、前記結合配列(A)は、前記立体構造を形成していない。他方、前記一本鎖核酸(II)は、例えば、図2(C)に示すように、ターゲットの存在下では、前記結合配列(A)への前記ターゲットの接触により、前記ブロッキング配列(B)と前記触媒配列(D)とのステム形成が解除され、新たに、前記ブロッキング配列(B)と前記安定化配列(S)との間でステムが形成され、前記結合配列(A)と前記ブロッキング配列(B)と前記安定化配列(S)とから、立体構造が形成される。そして、例えば、前記ブロッキング配列(B)と前記触媒配列(D)とのステム形成の解除に伴い、前記触媒配列(D)は、その分子内アニーリングにより立体構造を形成し、触媒機能を生起する。また、図2(C)に示すように、例えば、前記ブロッキング配列(B)と前記安定化配列(S)との結合によって、前記結合配列(A)と前記ブロッキング配列(B)と前記安定化配列(S)とから形成された立体構造が、より安定化される。
【0057】
前記一本鎖核酸(II)において、特に示さない限り、前記一本鎖核酸(I)の記載を援用できる。前記一本鎖核酸(I)において、前記触媒配列(D)、前記ブロッキング配列(B)、および前記安定化配列(S)は、例えば、前記一本鎖核酸(I)と同様である。
【0058】
前記結合配列(A)は、例えば、前述のように、単独で、ターゲットとの結合に必要な分子内アニーリングが生じない配列、つまり、分子内でステム形成しない配列である。前記結合配列(A)の配列および長さは、特に制限されず、例えば、ターゲットとの結合に必要な分子内アニーリングが生じない条件である以外は、前記一本鎖核酸(I)と同様である。
【0059】
前記ブロッキング配列(B)は、前述のように、前記触媒配列(D)と前記安定化配列(S)のそれぞれに対して、相補的な配列を有している。具体的には、前記ブロッキング配列(B)は、前記触媒配列(D)の部分領域(Dp)に相補的であり、前記ブロッキング配列(B)の前記結合配列(A)側の末端領域(Ba)は、前記安定化配列(S)に対しても相補的である。
【0060】
前記ブロッキング配列(B)において、前記安定化配列(S)と相補的な末端領域(Ba)の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、1塩基長であり、好ましくは1塩基長であり、より好ましくは1塩基長であり、上限は、例えば、15塩基長であり、好ましくは10塩基長であり、より好ましくは3塩基長であり、その範囲は、例えば、1〜15塩基長、1〜10塩基長であり、好ましくは1〜5塩基長であり、より好ましくは1〜3塩基長である。
【0061】
前記一本鎖核酸(II)の全長の長さは、特に制限されず、下限は、例えば、25塩基長であり、好ましくは35塩基長であり、より好ましくは40塩基長であり、上限は、例えば、200塩基長であり、好ましくは120塩基長であり、より好ましくは80塩基長であり、その範囲は、例えば、25〜200塩基長であり、好ましくは35〜120塩基長であり、より好ましくは40〜80塩基長である。
【0062】
本発明の候補分子において、ターゲットは、特に制限されず、任意のターゲットが選択できる。そして、前記任意のターゲットに応じて、前記ターゲットに結合する核酸配列を、前記候補分子における結合配列(A)として使用すればよい。前記ターゲットは、例えば、低分子化合物、微生物、ウイルス、食物アレルゲン、農薬、カビ毒等が例示できる。前記微生物は、例えば、サルモネラ菌、リステリア菌、大腸菌、カビ等があげられ、前記ウイルスは、例えば、ノロウイルス等があげられる。
【0063】
本発明の候補分子は、ヌクレオチド残基を含む分子であり、例えば、ヌクレオチド残基のみからなる分子でもよいし、ヌクレオチド残基を含む分子でもよい。前記ヌクレオチドは、例えば、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドおよびそれらの誘導体である。具体的に、前記候補分子は、例えば、デオキシリボヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むDNAでもよいし、リボヌクレオチドおよび/またはその誘導体を含むRNAでもよいし、前者と後者とを含むキメラ(DNA/RNA)でもよい。
【0064】
前記ヌクレオチドは、塩基として、例えば、天然塩基(非人工塩基)および非天然塩基(人工塩基)のいずれを含んでもよい。前記天然塩基は、例えば、A、C、G、T、Uおよびこれらの修飾塩基があげられる。前記修飾は、例えば、メチル化、フルオロ化、アミノ化、チオ化等があげられる。前記非天然塩基は、例えば、2’−フルオロピリミジン、2’−O−メチルピリミジン等があげられ、具体例としては、2’−フルオロウラシル、2’−アミノウラシル、2’−O−メチルウラシル、2−チオウラシル等があげられる。前記ヌクレオチドは、例えば、修飾されたヌクレオチドでもよく、前記修飾ヌクレオチドは、例えば、2’−メチル化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−メチル化−シトシンヌクレオチド残基、2’−フルオロ化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−フルオロ化−シトシンヌクレオチド残基、2’−アミノ化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−アミノ化−シトシンヌクレオチド残基、2’−チオ化−ウラシルヌクレオチド残基、2’−チオ化−シトシンヌクレオチド残基等があげられる。前記候補分子は、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)等の非ヌクレオチドを含んでもよい。
【0065】
本発明の候補分子は、例えば、いずれか一方の末端に、リンカー配列が結合されてもよい。本発明の候補分子を、後述するスクリーニング方法に使用する場合、前記候補分子は、例えば、固定化した状態で使用してもよいし、非固定化した状態(遊離状態)で使用してもよい。前者の場合、本発明の候補分子を、前記リンカー配列を介して、基材に固定化してもよい。前記基材(以下、「担体」ともいう)は、例えば、基板、ビーズ、チューブ等の容器等があげられる。前記リンカーは、例えば、前述のようなヌクレオチドおよび/または非ヌクレオチドで構成される一本鎖の核酸配列があげられる。
【0066】
前記候補分子の固定化方法は、特に制限されない。前記リンカー配列を介する他に、例えば、公知の核酸固定化方法が採用できる。前記方法は、例えば、フォトリソグラフィーを利用する方法があげられ、具体例として、米国特許5,424,186号明細書等を参照できる。また、前記固定化方法は、例えば、前記基材上で前記候補分子を合成する方法があげられる。この方法は、例えば、いわゆるスポット法があげられ、具体例として、米国特許5,807,522号明細書、特表平10−503841号公報等を参照できる。
【0067】
2.スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、前述のように、ターゲット分析用核酸素子のスクリーニング方法であって、
前記本発明の核酸素子候補分子について、前記候補分子における前記結合配列(A)に対するターゲットの存在下および非存在下で、前記候補分子における前記触媒配列(D)に由来する触媒活性を測定する工程、
前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と、前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)とを比較して、前記非存在下での触媒活性(N)に対して前記ターゲット存在下での触媒活性(S)が有意差を示す前記候補分子を、前記ターゲット分析用核酸素子として選択する工程を含むことを特徴とする。
【0068】
本発明のスクリーニング方法は、前記本発明の候補分子を使用することが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。
【0069】
前記測定工程は、例えば、前記触媒配列(D)に由来する触媒活性を、前記触媒配列(D)の触媒機能により生成されるシグナルとして測定することが好ましい。前記シグナルは、特に制限されず、例えば、光学的シグナルまたは電気化学的シグナルがあげられる。前記光学的シグナルは、例えば、発色シグナル、発光シグナル、蛍光シグナル等があげられる。
【0070】
前記シグナルは、例えば、前記触媒配列(D)の触媒機能により、基質から生成されることが好ましい。そこで、前記測定工程は、例えば、前記触媒配列(D)の触媒機能に応じた基質の存在下で、行うことが好ましい。
【0071】
前記基質は、例えば、触媒機能によって発色、発光もしくは蛍光の生成物を生成する基質、発色、発光もしくは蛍光の基質であり且つ前記触媒機能によって発色、発光もしくは蛍光が消失する生成物を生成する基質、また、前記触媒機能によって異なる発色、発光もしくは蛍光の生成物を生成する基質等があげられる。このような基質によれば、例えば、発色、発光もしくは蛍光の有無、または、発色、発光もしくは蛍光の変化または強度等をシグナルとして、目視で確認することにより、前記触媒機能を検出できる。また、例えば、吸光度、反射率、蛍光強度等をシグナルとして、光学的な手法で測定することにより、前記触媒機能を検出することもできる。前記触媒機能は、例えば、前述のような酸化還元反応の触媒機能があげられる。
【0072】
また、前記触媒配列(D)が、前記酸化還元反応の触媒機能を有する場合、例えば、電子の授受が可能な基質があげられる。この場合、前記触媒配列(D)により、例えば、前記基質から生成物が生成され、その過程において、電子の授受が生じる。この電子授受は、例えば、電極への印加により、電気シグナルとして、電気化学的に検出できる。前記電気シグナルの検出は、例えば、電流等のような、前記電気シグナルの強度を測定することにより行える。
【0073】
前記基質は、特に制限されず、例えば、過酸化水素、3,3’,5,5’−Tetramethylbenzidine(TMB)、1,2−Phenylenediamine(OPD)、2,2’−Azinobis(3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonic Acid Ammonium Salt(ABTS)、3,3’−Diaminobenzidine (DAB)、3,3’−Diaminobenzidine Tetrahydrochloride Hydrate(DAB4HCl)、3−Amino−9−ethylcarbazole(AEC)、4−Chloro−1−naphthol(4C1N)、2,4,6−Tribromo−3−hydroxybenzoic Acid、2,4−Dichlorophenol、4−Aminoantipyrine、4−Aminoantipyrine Hydrochloride、ルミノール等があげられる。
【0074】
前記測定工程において、前記候補分子への前記基質の供給は、例えば、前記候補分子にターゲットを接触させる前でもよいし、前記ターゲットの接触と同時またはその後でもよい。前記基質は、例えば、溶媒に混合した基質液として、前記候補分子に供給することが好ましい。前記溶媒は、例えば、Tris−HCl等の緩衝液が好ましい。前記基質液における前記基質の濃度は、特に制限されず、例えば、0.1〜5mmol/Lであり、好ましくは0.5〜2mmol/Lである。また、前記基質液のpHは、例えば、6〜9であり、好ましくは6.8〜9である。
【0075】
前記測定工程において、前記触媒配列(D)による反応条件は、特に制限されない。温度は、例えば、15〜37℃であり、時間は、例えば、10〜900秒である。
【0076】
前記測定工程において、前記基質の他に、例えば、ポルフィリンを共存させてもよい。公知のDNAzymeには、例えば、ポルフィリンと複合体を形成することによって、さらに高い酸化還元活性を示すものがある。そこで、本発明のスクリーニング方法においても、例えば、ポルフィリンを共存させて、前記触媒配列(D)とポルフィリンとの複合体として、酸化還元活性を検出してもよい。前記ポルフェリンの供給は、特に制限されず、前記基質と同様に行うことができる。
【0077】
前記ポルフィリンは、特に制限されず、例えば、無置換体のポルフィリン、その誘導体があげられる。前記誘導体は、例えば、置換体のポルフィリンおよび金属元素と錯体を形成した金属ポルフィリン等があげられる。前記置換体のポルフィリンは、例えば、N−メチルメソポルフィリン等があげられる。前記金属ポルフィリンは、例えば、三価鉄錯体であるヘミン等があげられる。前記ポルフィリンは、例えば、前記金属ポルフィリンが好ましく、より好ましくはヘミンである。
【0078】
本発明のスクリーニング方法において、前記選択工程は、例えば、前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)との比較が、前記触媒活性(S)と前記触媒活性(N)との比(S/N)の算出であることが好ましい。そして、例えば、予め、評価基準となるS/N比を設定しておき、設定した前記比(S/N)の基準値よりも高い比(S/N)を示す前記核酸素子候補分子を、前記ターゲット分析用核酸素子として選択することが好ましい。
【0079】
また、本発明のスクリーニング方法においては、例えば、前記測定工程において、配列が異なる複数の前記核酸素子候補分子について、触媒活性の測定を行ってもよい。この場合、前記候補分子は、同じターゲットに対する異なる前記結合配列(A)を有することが好ましい。そして、前記選択工程では、前記各核酸素子候補分子について、前記ターゲット存在下での触媒活性(S)と前記ターゲット非存在下での触媒活性(N)との比(S/N)を算出し、相対的に前記比が高い前記核酸素子候補分子を、前記ターゲットの分析核酸素子として選択することが好ましい。これによって、所定のターゲットに対する複数の候補分子から、前記ターゲットの分析に適した分析用核酸素子を、容易に選択できる。
【0080】
本発明のスクリーニング方法において、前記候補分子は、例えば、固定化状態で使用しても、遊離状態で使用してもよい。前者の場合、例えば、前記容器等の基材に前記候補分子を固定化した状態で使用すればよく、後者の場合、例えば、容器内に前記候補分子を入れた状態で使用すればよい。
【0081】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記候補分子が配置されたスクリーニング用デバイスを使用して行うこともできる。前記スクリーニング用デバイスは、例えば、前記基材、前記本発明の候補分子および検出部を含み、前記基材に、前記候補分子および前記検出部が配置され、前記検出部は、前記候補分子における前記触媒配列(D)の触媒機能を検出する検出部である。
【0082】
前記スクリーニング用デバイスにおいて、前記候補分子の配置方法は、特に制限されず、前記候補分子は、例えば、前記基材に固定化されてもよいし、固定化されていなくてもよい。前者の場合、前記候補分子は、例えば、前記基材に直接的に固定化されてもよいし、間接的に固定化されてもよい。前記固定化は、特に制限されず、前述の記載が援用できる。
【0083】
前記基材における前記候補分子の配置部位は、特に制限されず、例えば、前記検出部に配置されている形態があげられる。
【0084】
前記スクリーニング用デバイスは、例えば、さらに、試薬部を有してもよい。前記試薬部は、例えば、前記検出部に配置してもよい。前記試薬部は、例えば、予め試薬が配置されてもよいし、使用時に試薬を供給してもよい。前記試薬としては、例えば、前述のような基質、前記ポルフィリン等があげられる。
【0085】
前記スクリーニング用デバイスにおいて、前記検出部は、前述のように、前記触媒配列(D)の触媒機能を検出する検出部である。前記検出部は、前記触媒配列(D)の触媒機能として、前記触媒配列(D)の触媒機能により生成されるシグナルを検出する検出部であることが好ましい。前記シグナルは、前述のように、例えば、前記触媒配列(D)の触媒機能による、基質からのシグナルがあげられる。前記シグナルは、例えば、前述のような、光学的シグナルまたは電気化学的シグナルがあげられる。
【0086】
前記シグナルが光学的シグナルの場合、前記検出部は、例えば、光学的シグナルの検出部であり、吸光度、反射率、蛍光強度等の検出部が例示できる。
【0087】
前記シグナルが前記電気化学的シグナルの場合、前記検出部は、例えば、電極系を有する。この場合、前記検出部は、例えば、前記基材の表面に、前記電極系を配置することによって形成できる。前記電極の配置方法は、特に制限されず、例えば、公知の方法が採用でき、具体例は、蒸着法、スパッタリング法、スクリーン印刷法、メッキ法等の薄膜形成方法があげられる。前記電極は、例えば、前記基材に、直接配置してもよいし、間接的に配置してもよい。間接的な配置は、例えば、他の部材を介した配置があげられる。
【0088】
前記電極系は、例えば、作用極および対極を含んでもよいし、作用極、対極および参照極を含んでもよい。前記電極の材料は、特に制限されず、例えば、白金、銀、金、カーボン等があげられる。前記作用極および前記対極は、例えば、白金電極、銀電極、金電極、カーボン電極等があげられ、前記参照極は、例えば、銀/塩化銀の電極があげられる。前記銀/塩化銀の電極は、例えば、銀電極への塩化銀電極の積層により形成できる。
【0089】
前記スクリーニング用デバイスが、前記電極系を有する場合、前記候補分子は、例えば、前記電極系に配置すること好ましく、前記電極の中でも前記作用極に配置することが好ましい。前記スクリーニング用デバイスが、前記電極系と前記試薬部とを有する場合、例えば、前記電極系の上に、前記試薬部を配置することが好ましい。
【0090】
前記スクリーニング用デバイスは、例えば、複数の検出部を備えてもよい。この場合、前記スクリーニング用デバイスは、例えば、前記基材の表面をマトリックスに分画し、各分画領域に、前述のような検出部を備えることが好ましい。前記スクリーニング用デバイスにおいて、1つの検出部に配置する前記候補分子の数は、特に制限されない。
【0091】
前記基材は、特に制限されない。前記基材は、例えば、表面が絶縁性の基板が好ましい。前記基材は、例えば、絶縁材料からなる基板でもよいし、表面に絶縁材料からなる絶縁層を有する基材でもよい。前記絶縁材料は、特に制限されず、例えば、ガラス、セラミック、絶縁性プラスチック、紙等の公知の材料があげられる。前記絶縁性プラスチックは、特に制限されず、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等があげられる。
【0092】
3.分析用核酸素子の製造方法
本発明の製造方法は、前述のように、分析用核酸素子の製造方法であって、前記本発明のスクリーニング方法により、核酸素子候補分子から、ターゲット分析用核酸素子を選択する工程を含むことを特徴とする。本発明の製造方法は、前記本発明のスクリーニング方法により前記候補分子から目的の分析用核酸素子を選択することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。
【0093】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0094】
(実施例1)
複数の核酸素子候補分子を作製し、公知の核酸素子よりもS/N比が高い、メラニン分析用核酸素子のスクリーニングを行った。
【0095】
公知の核酸素子(K)は、触媒配列(D)としてDNAzymeであるNECO 0584(配列番号115)と、結合配列(A)としてメラミンアプタマー(配列番号116)とを備える一本鎖の核酸素子(K)を使用した。
メラミンアプタマー(配列番号116)
CGCTTTTTTTTTTTTGCG
NECO 0584(配列番号115)
GGGTGGGAGGGTCGGG
核酸素子(K)(配列番号117)
TGGGTGGGAGGGTCGGGCCCTCCCGCTTTTTTTTTTTTGCGG
【0096】
前記核酸素子の候補分子は、以下の条件を満たす591種類を準備した。触媒配列(D)として、前記公知核酸素子におけるDNAzymeに基づき、16塩基長の2種類の配列を設計した。結合配列(A)として、前記公知核酸素子におけるメラミンアプタマーに基づき、19塩基長の3種類の配列を設計した。また、ブロッキング配列(B)の長さおよび前記触媒配列(D)における前記部分領域(Dp)の長さは、それぞれ、同じ長さの0〜7塩基長とし、前記触媒配列(D)の前記部分領域(Dp)の3’末端と前記ブロッキング配列(B)との間(Db)の長さは、0〜16塩基長とし、前記触媒配列(D)の前記部分領域(Dp)の上流領域(Df)の長さは、0〜16塩基長とし、前記安定化配列(S)の長さは、0〜3塩基長とした。
【0097】
コントロールは、ポジティブコントロール(PC)のDNAzymeである前記NECO 0584(配列番号115)と、ネガティブコントロール(NC)であるDNAzymeの逆鎖NC1(配列番号118)の2種類を使用した。
ポジティブコントロールNECO 0584(配列番号115)
GGGTGGGAGGGTCGGG
ネガティブコントロール NC1(配列番号118)
CCCACCCTCCCAGCCC
【0098】
マイクロアレイチップ(商品名ElectraSense 12K microarray chip、CustomArray社)上に、前記候補分子、前記公知の核酸素子(K)および前記コントロール(PC、NC)を、それぞれ、10スポットずつランダムに固定化し、前記アレイチップの合成を行った。そして、前記アレイチップに対し、下記組成の試薬A 130μLを添加し、メラミン存在下または非存在下、室温で1時間反応させた。そして、反応後、前記アレイチップから、前記試薬Aを除去し、さらに、基質である過酸化水素(和光純薬)と酸化還元反応のメディエータであるフェロセンメチルアルコール(FMA、東京化成工業)とを含む下記組成の試薬B 130μLを添加した。そして、前記アレイチップについて、酸化還元反応により生じる電気シグナルを、電流として測定した。測定は、測定装置(製品名ElectraSense Reader、CombiMatrix社)を使用した。下記試薬AおよびBにおいて、DNAzymeバッファーの組成は、Tris−HCl(pH7.4)、20mmol/L KCl、0.05% Triton X−100とした。
【0099】
【表1】
【0100】
そして、メラミン存在下の電流値(S)とメラミン非存在下の電流値(N)の比(S/N比)を算出した。その結果、コントロールは、全て、前記公知の核酸素子(K)のS/N比よりも低いS/N比(0.88〜1.05)を示した。これに対して、前記候補分子は、図3および4に示す109個が、前記公知の核酸素子(K)のS/N比(1.289)よりも高いS/N比を示した。なお、図3および図4の配列において、5’側から、大文字の配列がDNAzyme(D)、小文字の配列がブロッキング配列(B)、大文字の配列がアプタマー(A)、小文字の配列が安定化配列(S)である。
【0101】
590種の候補分子のうち109個が、公知の核酸素子(K)よりも高いS/N比を示したことから、本発明の候補分子のデザインを採用することにより、約1/5の確率で、公知の核酸素子よりも優れたS/N比の核酸素子をスクリーニングできることがわかった。
【0102】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0103】
この出願は、2013年3月8日に出願された日本出願特願2013−47341を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の候補分子によれば、簡便且つ効率的に、S/N比に優れる一本鎖核酸素子をスクリーニングすることができる。このようにしてスクリーニングされたターゲット分析用核酸素子は、例えば、臨床医療、食品、環境等の様々な分野における研究および検査に、極めて有用な技術といえる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]