特許第6041435号(P6041435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041435タングおよびこれを用いたシートベルト装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041435
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】タングおよびこれを用いたシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/12 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   B60R22/12
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-17073(P2013-17073)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-148213(P2014-148213A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】306009581
【氏名又は名称】タカタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094787
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100088041
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 龍吉
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【弁理士】
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(72)【発明者】
【氏名】市田 善之
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−113532(JP,A)
【文献】 特開2009−006745(JP,A)
【文献】 特開2005−011978(JP,A)
【文献】 特開2012−054323(JP,A)
【文献】 特開2007−229350(JP,A)
【文献】 特開2001−080459(JP,A)
【文献】 特開2001−146145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00−22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属プレートで形成されてバックルに係止可能な係止部と、前記金属プレートで形成されて前記係止部と一体に形成された把持部対応部を樹脂モールドして把持部を形成するとともにシートベルトが貫通されるベルト貫通孔を有する樹脂モールド部とを少なくとも備え、前記把持部を把持して係止操作することで前記係止部が前記バックルに係止されるタングにおいて、
前記樹脂モールド部が、前記金属プレートの前記把持部対応部の所定箇所を硬い樹脂でモールドされて形成された硬樹脂モールド部と、硬樹脂モールド部の所定箇所に前記硬い樹脂より柔らかい樹脂でモールドされて前記硬樹脂モールド部に接着または融着されることで形成された柔樹脂モールド部とからなり、
前記硬樹脂モールド部の前記柔樹脂モールド部との接着または融着部位に、エッジ部を有する突条が設けられ、
前記柔樹脂モールド部は、前記柔らかい樹脂で前記硬樹脂モールド部の前記突条のエッジ部少なくとも覆うようにモールドされかつ前記柔樹脂モールド部のモールド成形時の成形温度により前記突条のエッジ部が溶融することで前記硬樹脂モールド部に接着または融着された柔樹脂モールド部であることを特徴とするタング。
【請求項2】
前記突条の両側面にそれぞれ係止突起が設けられ、
前記柔樹脂モールド部は前記柔らかい樹脂で前記係止突起を覆うようにモールドすることで形成されているとともに、前記係止突起は前記柔樹脂モールド部が前記硬樹脂モールド部から剥がれるのを抑制す係止突起であることを特徴とする請求項1に記載のタング。
【請求項3】
前記硬樹脂モールド部の前記突条の先端面は微細な凹凸面とされており、
前記柔樹脂モールド部は、微細な凹凸面に接着または融着されることを特徴とする請求項1または2に記載のタング。
【請求項4】
前記係止部のバックル係止方向に沿う方向の前記把持部の外周面における前記硬樹脂モールド部の端に、前記柔樹脂モールド部の方へ突出する突部が設けられており、
前記硬樹脂モールド部と前記柔樹脂モールド部との境界の一部が前記突部により形成されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載のタング。
【請求項5】
シートベルトと、前記シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、前記タングが挿入係止されるバックルとを少なくとも備え、前記タングを前記バックルに挿入係止することで前記シートベルトが乗員に装着されるシートベルト装置において、
前記タングが請求項1ないし4のいずれか1記載のタングであることを特徴とするシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトに摺動可能に支持されるとともに、車体等に固定されたバックルに係止されるタングおよびこれを用いたシートベルト装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両シートに付設されているシートベルト装置においては、衝突時等の車両に通常時より大きな減速度が作用した緊急時(以下、単に緊急時という)に、乗員がシートベルトにより拘束される。この種のシートベルト装置として、一般に3点式シートベルト装置が広く知られ、多用されている。周知の一般的な3点式シートベルト装置では、シートベルトリトラクタから引き出されたシートベルトはベルトガイドアンカーでガイドされ、その先端が車体に固定される。ベルトガイドアンカーでガイドされたシートベルトには、タングが摺動可能に支持されている。その場合、シートベルトはタングの細長いシートベルト貫通孔に摺動可能に貫通される。そして、タングが車体に固定されたバックルに係止されることで、シートベルトが乗員に装着されるようになっている。
【0003】
ところで、シートベルトの非装着時には、通常、シートベルトはシートベルトリトラクタに最大限に巻き取られていることから、シートベルトがセンターピラー等の車両の内側壁に沿って位置する。したがって、タングストッパによって位置決めされたタングもこの内側壁の近傍に位置している。このため、乗員が車両に乗降する際にこのタングに当たるとタングは車両の内側壁のトリムに接触することがある。また、シートベルトを装着した乗員が降車するためにタングをバックルから解離してタングから手を離すと、シートベルトがシートベルトリトラクタに巻き取られるが、その際にタングがシートベルトの巻取りに伴って引き上げられて、同様に車両の内側壁のトリムに接触することがある。更に、車両走行時に、乗員が車両シートに着座していなくシートベルトが非装着状態であるシートベルト装置のタングが車両走行の振動によって、同様に車両の内側壁のトリムに接触することがある。その場合、タングはタングストッパによって係止部が車室内方に向くようにガイドされるため、車両の内側壁のトリムに接触する部分はほとんど把持部である。このようにタングが車両の内側壁のトリムに接触すると、異音が発生することがあるばかりでなく、このトリムに小傷や打痕が生じるおそれがあり、車室内が不快になることがある。
【0004】
そこで、このような異音の発生およびトリムの小傷や打痕の発生を防止するために、車両の内側壁のトリムに接触する可能性の高いタングの把持部において、芯部となる金属プレートのシートベルトが貫通される部分に比較的硬い樹脂をモールドするとともに、車両の内側壁との接触の可能性の高い金属プレートの部分にこの硬い樹脂より柔らかい樹脂をモールドしたタングが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に記載のタングによれば、柔樹脂モールド部の端面の一部を硬い樹脂でモールドしてカバーすることで、柔樹脂モールド部の端面の先端縁と金属プレートの芯部との密着を堅固に保持することができ、柔樹脂モールド部の端面の先端縁が芯部から剥がれるのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−229350号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来、金属プレートをモールドする硬い樹脂には6ナイロン等のポリアミド樹脂が用いられるとともに柔らかい樹脂には熱可塑性エラストマー(TPE)が用いられることが多い。
【0008】
しかしながら、6ナイロン等のポリアミド樹脂と熱可塑性エラストマー(TPE)とを接着(あるいは、融着)することは、それらの材料の成形温度が異なることおよび材料の物性上の問題で難しい。このため、異なる2つの樹脂が剥がれ易く、耐久性に更なる考慮する余地がある。そこで、前述の特許文献1に記載のタングのように熱可塑性エラストマー(TPE)によるポリアミド樹脂モールド部の端面をカバーすることで、柔樹脂モールド部の端面の先端縁を芯部から剥がれるのを防止可能であるものの、熱可塑性エラストマー(TPE)とポリアミド樹脂モールド部との接着(融着)は難しく、熱可塑性エラストマー(TPE)とポリアミド樹脂モールド部とをより堅固に接着(融着)することが求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、周囲にある部材への接触時に異音の発生およびこの部材の小傷や打痕の発生の抑制しつつ、金属プレートの樹脂モールド部の異なる2つの樹脂の剥がれを抑制して耐久性をより一層向上させることのできるタングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するために、本発明に係るタングは、金属プレートで形成されてバックルに係止可能な係止部と、前記金属プレートで形成されて前記係止部と一体に形成された把持部対応部を樹脂モールドして把持部を形成するとともにシートベルトが貫通されるベルト貫通孔を有する樹脂モールド部とを少なくとも備え、前記把持部を把持して係止操作することで前記係止部が前記バックルに係止されるタングにおいて、前記樹脂モールド部が、前記金属プレートの前記把持部対応部の所定箇所を硬い樹脂でモールドされて形成された硬樹脂モールド部と、硬樹脂モールド部の所定箇所に前記硬い樹脂より柔らかい樹脂でモールドされて前記硬樹脂モールド部に接着または融着されることで形成された柔樹脂モールド部とからなり、前記硬樹脂モールド部の前記柔樹脂モールド部との接着または融着部位に、エッジ部を有する突条が設けられ、前記柔樹脂モールド部が、前記柔らかい樹脂で前記硬樹脂モールド部の前記突条のエッジ部少なくとも覆うようにモールドされかつ前記柔樹脂モールド部のモールド成形時の成形温度により前記突条のエッジ部が溶融することで前記硬樹脂モールド部に接着または融着された柔樹脂モールド部であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係るタングは、前記突条の両側面にそれぞれ係止突起が設けられ、前記柔樹脂モールド部が前記柔らかい樹脂で前記係止突起を覆うようにモールドすることで形成されているとともに、前記係止突起が前記柔樹脂モールド部が前記硬樹脂モールド部から剥がれるのを抑制す係止突起であることを特徴としている。
【0012】
更に、本発明に係るタングは、前記硬樹脂モールド部の前記突条の先端面が微細な凹凸面とされており、前記柔樹脂モールド部が微細な凹凸面に接着または融着されることを特徴としている。
【0013】
更に、本発明に係るタングは、前記係止部のバックル係止方向に沿う方向の前記把持部の外周面における前記硬樹脂モールド部の端に、前記柔樹脂モールド部の方へ突出する突部が設けられており、前記硬樹脂モールド部と前記柔樹脂モールド部との境界の一部が前記突部により形成されることを特徴としている。
【0014】
一方、本発明に係るシートベルト装置は、シートベルトと、前記シートベルトを巻き取るシートベルトリトラクタと、前記シートベルトに摺動可能に支持されたタングと、前記タングが挿入係止されるバックルとを少なくとも備え、前記タングを前記バックルに挿入
係止することで前記シートベルトが乗員に装着されるシートベルト装置において、前記タングが前述の本発明のタングのいずれか1つであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
このように構成された本発明に係るタングおよびシートベルト装置によれば、柔樹脂モールド部が硬樹脂モールド部の所定箇所に接着または融着される。したがって、柔樹脂モールド部がタングの近傍にあるセンターピラー等の車体部材に接触しがちな硬樹脂モールド部の部位に設けられるようにすることで、柔樹脂モールド部を車体部材に接触させることができるようになる。これにより、柔樹脂モールド部が緩衝材として機能することで車体部材に発生する小傷や打痕を効果的に抑制することができるとともに、タングと車体部材との接触により発生する音を効果的に抑制することができる。
【0016】
また、硬樹脂モールド部の柔樹脂モールド部との接着または融着部位に、エッジ部を有する突条が設けられ、柔樹脂モールド部が柔らかい樹脂でこの突条のエッジ部少なくとも覆うようにモールドすることで形成される。これにより、柔樹脂モールド部のモールド成形時の成形温度により突条のエッジ部での硬い樹脂が溶融することで、硬樹脂モールド部と柔樹脂モールド部とがより一層堅固に接着することができるようになる。したがって、タングの樹脂モールド部の耐久性(つまり、タングの把持部の耐久性)をより一層向上させることができる。しかも、この突条により、硬樹脂モールド部と柔樹脂モールド部との接着面積(融着面積)が大きくなるので、硬樹脂モールド部と柔樹脂モールド部との接着強度(融着強度)をより効果的に高くすることが可能となる。これにより、異なる2種類のモールド樹脂が用いられても、突条により柔樹脂モールド部が硬樹脂モールド部から剥がれ難い構造とすることができ、硬樹脂モールド部からの柔樹脂モールド部の剥離が抑制される。したがって、タングの樹脂モールド部の耐久性(つまり、タングの把持部の耐久性)をより一層向上させることができる。
【0017】
更に、タングの金属プレートにおける把持部対応部のほぼ全体がポリアミド樹脂等の比較的硬い樹脂でモールドされて硬樹脂モールド部が形成されることにより、タングの把持部の強度がより一層高めることが可能となる。
【0018】
更に、突条の両側面にそれぞれ係止突起が設けられるとともに、柔樹脂モールド部が柔らかい樹脂でこれらの係止突起を覆うようにモールドすることで形成される。これらの係止突起が柔樹脂モールド部に対してアンカー効果を発揮することで、柔樹脂モールド部を硬樹脂モールド部から更に一層剥がれ難くすることが可能となる。特に、柔樹脂モールド部が剥離しやすい柔樹脂モールド部と硬樹脂モールド部との境界の近傍位置に係止突起を設けることで、硬樹脂モールド部からの柔樹脂モールド部の剥離を更に一層効果的に抑制することが可能となる。
【0019】
更に、硬樹脂モールド部の突条の先端面が微細な凹凸面とされるとともに、柔樹脂モールド部がこの微細な凹凸面に接着または融着されることで、樹脂モールド時にこの凹凸面における硬樹脂モールド部の比較的硬い樹脂と柔樹脂モールド部の比較的柔らかい樹脂とが溶け易くなり、硬樹脂モールド部と柔樹脂モールド部との接着強度(融着強度)を大きく高めることが可能となる。これにより、柔樹脂モールド部は硬樹脂モールド部との所定の接着強度(融着強度)を有する平面結合が可能となり、柔樹脂モールド部を硬樹脂モールド部から更に一層剥がれ難くすることができる。
【0020】
更に、係止部のバックル係止方向に沿う方向の把持部の外周面における硬樹脂モールド部の端に、柔樹脂モールド部の方へ突出する突部が設けられるとともに、この突部により、硬樹脂モールド部と柔樹脂モールド部との境界の一部が形成される。係止部のバックル係止方向に沿う方向の把持部の外周面における硬樹脂モールド部と柔樹脂モールド部との境界領域はシートベルト装着者の指の爪の先端が引っ掛かりがちな領域であるが、この突部により柔樹脂モールド部の端におけるシートベルト装着者の指の爪の先端が引っ掛かる部分をより一層短くすることができる。したがって、爪の先端が柔樹脂モールド部の端に引っ掛かり難くなるため、柔樹脂モールド部を硬樹脂モールド部から剥がれ難くすること
が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の一例を模式的に示す図である。
図2図2(A)はこの例のシートベルト装置に用いられている本発明のタングの実施の形態の一例で、芯材である金属プレートの把持部を硬い樹脂でモールドされかつ柔らかい樹脂でモールドされない状態のタングを示す斜視図、図2(B)は図2(A)に示す状態のタングの硬い樹脂の一部を柔らかい樹脂でモールドされた状態のタングを示す斜視図である。
図3図2(B)におけるIII−III線に沿う部分拡大断面図である。
図4図4(A)は図2(B)に示す例のタングの平面図、図4(B)は図4(A)におけるIVB−IVB線に沿う断面図、図4(C)は図4(A)におけるIVC−IVC線に沿う断面図、図4(D)は図4(A)におけるIVD−IVD線に沿う断面図、図4(E)は図4(A)におけるIVE−IVE線に沿う断面図である。
図5図2(A)におけるV部の部分拡大斜視図である。
図6図6(A)は図4(A)の右側面図に相当する図、図6(B)は図6(A)におけるIVB−IVB線に沿う断面図、図6(C)は図6(A)と比較するための図である。
図7図7(A)は本発明のタングの実施の形態の他の例を示す平面図、図7(B)は図7(A)におけるVIIB−VIIB線に沿う断面図、図7(C)は図7(A)におけるVIIC−VIIC線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明にかかるシートベルト装置の実施の形態の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、この例のシートベルト装置は、基本的には従来公知の三点式シートベルト装置と同じである。図中、1はシートベルト装置、2は車両シート、3は車両シート2の近傍の車体に配設されたシートベルトリトラクタ、4はシートベルトリトラクタ3に引き出し可能に巻き取られかつ先端のベルトアンカー4aが車体の床あるいは車両シート2に固定されるシートベルト、5はシートベルトリトラクタ3から引き出されたシートベルト4を乗員のショルダーの方へガイドするベルトガイドアンカー、6はこのベルトガイドアンカー5からガイドされてきたシートベルト4に摺動自在に支持されたタング、7は車体の床あるいは車両シート2に固定されかつタング6が係脱可能に挿入係止されるバックルである。このシートベルト装置1におけるシートベルト4の装着操作および装着解除操作も、従来公知のシートベルト装置と同じである。
【0023】
そして、シートベルト3の非装着時では、タング6がバックル7に係止されず、シートベルト4はその全量(具体的には、シートベルトリトラクタ3がシートベルト4を何らの支障もなく巻取り可能な量)をシートベルトリトラクタ3に巻き取られている。また、シートベルト4の乗員への装着時では、図1に示すようにシートベルト4はシートベルトリトラクタ3から所定量引き出される。そして、タング6がバックル7に係止されるとともにシートベルト4の弛みが除去されることで、シートベルト4が乗員に装着される。
【0024】
図2(A)はこの例のシートベルト装置に用いられている本発明のタングの実施の形態の一例で、芯材である金属プレートの把持部を硬い樹脂でモールドされかつ柔らかい樹脂でモールドされない状態のタングを示す斜視図、図2(B)は図2(A)に示す状態のタングの硬い樹脂の一部を柔らかい樹脂でモールドされた状態のタングを示す斜視図である。また、図3図2(B)におけるIII−III線に沿う部分拡大断面図である。
【0025】
図2(A),(B)および図3に示すように、この例のタング6は、従来のタングと同
様に係止部6aと把持部6bとを備える。その場合、係止部6aはバックル7に係止可能であるとともに、把持部6bはシートベルト装着者が係止部6aをバックル7に係止させる際に把持する部分である。把持部6bにはシートベルト4が貫通されるベルト貫通孔6cが設けられている。
【0026】
また、タング6は金属プレート6dと樹脂モールド部6eとで構成される。金属プレート6dは係止部6aと把持部6bに対応する把持部対応部6fとを有してT字状に形成される。また、金属プレート6dはベルト貫通孔6c用の貫通孔6tを有している。樹脂モールド部6eは把持部対応部6fを樹脂でモールドされた部分である。その場合、樹脂モールド部6eは、比較的硬い樹脂によってモールドされた硬樹脂モールド部6gとこの硬樹脂モールド部6gより柔らかい樹脂によってモールドされた柔樹脂モールド部6hとを有している。硬樹脂モールド部6gには、例えば6ナイロン等のポリアミド樹脂が用いられるとともに、柔樹脂モールド部6hには、熱可塑性エラストマー(TPE)が用いられる。
【0027】
図2(A)、図3、および図4(A)に示すように、硬樹脂モールド部6gは金属プレート6dの把持部対応部6fの全面またはほぼ全面をポリアミド樹脂でモールドされた部分である。その場合、硬樹脂モールド部6gには、金属プレート6dの貫通孔6tの内周縁をポリアミド樹脂でモールドして形成されてベルト貫通孔6cが形成されている。このように、金属プレート6dの把持部対応部6fの全面またはほぼ全面がポリアミド樹脂でモールドされて硬樹脂モールド部6gとすることで、把持部6bの強度が高められている。そして、硬樹脂モールド部6gは、タング6の図2(A)において左右両側端面(図4(A)において上下両側端面;つまり係止部6aのバックル7との係止方向とほぼ沿う方向の側端面)および係止部6aと反対側の側端面に対応しかつ把持部6bの外周縁に沿う領域をモールドした部分が他の部分より厚みの薄い薄肉部6iとされている。薄肉部6iの両端の位置は、ほぼ、タング6の左右両側端面の係止部6a側端の位置にされている。また、柔樹脂モールド部6hはこの硬樹脂モールド部6gの薄肉部6iの表面をTPEでモールドしている部分である。その場合、ポリアミド樹脂とTPEとは接着(あるいは、融着)により接合される。
【0028】
ところで、前述のようにポリアミド樹脂とTPEとは、一般に堅固に接着することが難しく、比較的容易に剥がれやすい。そこで、この例のタング6では、ポリアミド樹脂とTPEとの接着構造が、これらのポリアミド樹脂による硬樹脂モールド部6gとTPEによる柔樹脂モールド部6hとが堅固に接着して容易に剥がれ難い構造とされている。以下に、この硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの剥がれ難い構造について説明する。
【0029】
図2(A)、図3、および図4(B)ないし(E)に示すように、まず硬樹脂モールド部6gの薄肉部6iの表面に突条6jが設けられている。その場合、突条6jは硬樹脂モールド部6gの薄肉部6i内でタング6の左右両側端面および係止部6aと反対側の側端面にわたって把持部6bの外周縁に沿って略U字状のリブとして延設されている。突条6jの先端面6kは、突条6jの長手方向と直交する方向の横断面で直線状に形成されている。また、突条6jは、突条6jの長手方向と直交する方向の横断面の形状が、把持部6bの位置によって異なるように形成されている。
【0030】
すなわち、図3および図4(B),(C)に示すように、係止部6aと反対側の側端面の領域、およびタング6の係止部6aと反対側の側端面と左右両側端面との角の領域では、この突条6jの横断面形状は短辺が金属プレート6dと略平行な略平行四辺形に形成されている。そして、柔樹脂モールド部6hは、TPEが硬樹脂モールド部6gの薄肉部6i内で略平行四辺形に形成された突条6jの全体を覆うようにしてモールドされることで形成される。その場合、TPEのモールド成形時に成形温度を高くすることで、突条6jの両エッジ部6j1,6j2のポリアミド樹脂(例えば、6ナイロン等)が溶融するで、ポリアミド樹脂(例えば、6ナイロン等)とTPEとがより一層堅固に接着(溶着)するようになる。また、硬樹脂モールド部6gの表面と柔樹脂モールド部6hの表面とが略面一となるようにされている。これにより、タング6の把持部6bに硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの異なる2種類のモールド部が設けられても、シートベルト装着者が違和感を抱くことを防止可能にしている。
【0031】
また、図4(D)に示すようにタング6の左右両側端面の領域では、突条6jの横断面形状は略矩形状に形成されている。金属プレート6dと略平行な略矩形状の辺には、係止突起6m,6nが設けられている。これらの係止突起6m,6nは左右両側端面の領域内で突条6jの長手方向に延設されており、その横断面形状は略90度の扇形状(略4分の1円の形状)に形成されている。この扇形状の円弧の部分は把持部6bの外周側端面側に対向するようにされている。そして、柔樹脂モールド部6hは、TPEが硬樹脂モールド部6gの薄肉部6i内で係止突起6m,6nを含む略矩形状の突条6jの全体を覆うように
してモールドされることで形成される。その場合、前述と同様にTPEのモールド成形時に成形温度を高くすることで、係止突起6m,6nの両エッジ部6j3,6j4のポリアミド樹脂(例えば、6ナイロン等)が溶融することで、ポリアミド樹脂(例えば、6ナイロン等)とTPEとがより一層堅固に接着(溶着)するようになる。また、前述と同様に硬樹脂モールド部6gの表面と柔樹脂モールド部6hの表面とが略面一となるようにされている。これにより、タング6の把持部6bに硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの異なる2種類のモールド部が設けられても、シートベルト装着者が違和感を抱くことを防止可能にしている。
【0032】
更に、図4(E)に示すようにタング6の左右両側端面で薄肉部6iの両端の領域では、突条6jの横断面形状は外周端側の辺が若干長い略台形状に形成されている。金属プレート6dと略平行な略台形状の辺(略台形状の高さと略直交する方向に位置する辺)には、前述の図4(D)に示す係止突起6m,6nと同じ係止突起6m,6nが設けられている。そして、柔樹脂モールド部6hは、TPEが硬樹脂モールド部6gの薄肉部6i内で係止突起6m,6nを含む略矩形状の突条6jの金属プレート6dと略平行な略台形状の辺
を覆うようにしてモールドされることで形成される。その場合、前述と同様にTPEのモールド成形時に成形温度を高くすることで、係止突起6m,6nの両エッジ部6j3,6j4のポリアミド樹脂(例えば、6ナイロン等)が溶融することで、ポリアミド樹脂(例えば、6ナイロン等)とTPEとがより一層堅固に接着(溶着)するようになる。前述と同様に硬樹脂モールド部6gの表面と柔樹脂モールド部6hの表面とが略面一となるようにされている。そして、この領域では、把持部6bの外周側端の一部で硬樹脂モールド部6gが露出して把持部6bの外周側端を形成している。
【0033】
このように、タング6の左右両側端面の領域では、突条6jにより硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの境界におけるこれらのモールド部の接触面積が突条6jの設けられない略平面形状の前述の境界に比べて増大される。これにより、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hはより堅固に接着(融着)されるようになり、互いに剥がれ難くなる。
【0034】
特に、タング6の左右両側端面の領域では、突条6jの側面に係止突起6m,6nが設
けられてアンカー形状にされることにより、柔樹脂モールド部6hが硬樹脂モールド部6gから剥がれようとしても係止突起6m,6nにより係止されてアンカー効果が発揮され
るため、柔樹脂モールド部6hは硬樹脂モールド部6gから更に一層剥がれ難くなる。このようにして、突条6jおよび係止突起6m,6nは、それぞれ、硬樹脂モールド部6g
と柔樹脂モールド部6hとの剥がれ難い構造を構成している。
【0035】
更に図5に示すように、突条6jの先端面6kはエッチング等のシボ加工により微細な凹凸面(なし地面、ローレット加工面等の所定の表面粗さを有する面)6oとされている。この微細な凹凸面6oにより、樹脂モールド時にこの凹凸面6oにおける硬樹脂モールド部6gのポリアミド樹脂と柔樹脂モールド部6hのTPEが溶け易くなり、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの接着強度(融着強度)が大きく高められる。これにより、柔樹脂モールド部6hは硬樹脂モールド部6gとの所定の接着強度(融着強度)を有する平面結合が可能となり、柔樹脂モールド部6hは硬樹脂モールド部6gから更に一層剥がれ難くなる。したがって、この微細な凹凸面6oも硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの剥がれ難い構造を構成している。
【0036】
更に図6(A)および(B)に示すように、タング6の左右両側端面の領域において、硬樹脂モールド部6gに柔樹脂モールド部6hの方へ突出する略U字状の突部6pが形成されている。タング6の左右両側端面の領域で硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの境界における柔樹脂モールド部6hの端6qは、シートベルト装着者等のタングを取り扱う者の指の爪の先端が引っ掛かることによって柔樹脂モールド部6hの剥がれ易い。そこで、この突部6pが設けられることで、柔樹脂モールド部6hの端6qにおける爪の先端の引っ掛かり部分(突部6pを除く直線状部)6q1が、図6(C)に示す突部
6pのない比較的長い直線状の端6q1より短くなる。すなわち、突部6pにより、柔樹
脂モールド部6hの端6qにおける爪の先端が引っ掛かる領域が小さくなる。これにより、爪の先端が柔樹脂モールド部6hの端6qに引っ掛かり難くなり、その結果、柔樹脂モールド部6hが硬樹脂モールド部6gから剥がれ難くなる。したがって、この突部6qも硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの剥がれ難い構造を構成している。
【0037】
この例のタング6およびシートベルト装置1によれば、柔樹脂モールド部6hがタング6の把持部6bの左右両端部および係止部6aと反対側の端部に設けられることで、この柔樹脂モールド部6がタング6の近傍にあるセンターピラー8(図1に図示)等の車体部材に接触しがちな硬樹脂モールド部6gの部位に設けられるようになる。したがって、柔樹脂モールド部6hを車体部材に接触させることができるようになる。すなわち、柔樹脂モールド部6hが車体部材に接触することが多くなる。これにより、柔樹脂モールド部6が緩衝材として機能することで車両の内側壁のトリム等の車体部材に発生する小傷や打痕を効果的に抑制することができるとともに、タング6と車体部材との接触により発生する音を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、硬樹脂モールド部6gの柔樹脂モールド部6hとの接着または融着部位に突条6jが設けられ、柔樹脂モールド部6hが柔らかい樹脂でこの突条6jを覆うようにモールドすることで形成される。この突条6jにより、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの接着面積(融着面積)が大きくなるので、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの接着強度(融着強度)をより効果的に高くすることが可能となる。これにより、異なる2種類のモールド樹脂が用いられても、突条6jにより柔樹脂モールド部6hが硬樹脂モールド部6gから剥がれ難い構造とすることができ、硬樹脂モールド部6gからの柔樹脂モールド部6hの剥離が抑制される。したがって、タング6の樹脂モールド部6eの耐久性(つまり、タング6の把持部6bの耐久性)をより一層向上させることができる。
【0039】
更に、タング6の金属プレート6dにおける把持部対応部6fのほぼ全体がポリアミド樹脂でモールドされることで、硬樹脂モールド部6gが形成される。これにより、タング6の把持部6bの強度がより一層高めることが可能となる。
【0040】
更に、タング6の左右両側端面の領域では、硬樹脂モールド部6gの突条6jの両側辺
にそれぞれ係止突起6m,6nが設けられるとともに、突条6jおよび係止突起6m,6nを覆うようにしてTPEでモールドされることで柔樹脂モールド部6hが形成される。これにより、タング6の左右両側端面の領域では係止突起6m,6nが柔樹脂モールド部6
hに対してアンカー効果を発揮するようになるため、柔樹脂モールド部6hを硬樹脂モールド部6gから更に一層剥がれ難くすることが可能となる。特に、柔樹脂モールド部6hが剥離しやすい柔樹脂モールド部6hと硬樹脂モールド部6gとの境界の近傍位置に係止突起6m,6nを設けることで、硬樹脂モールド部6gからの柔樹脂モールド部6hの剥
離を更に一層効果的に抑制することが可能となる。
【0041】
更に、前述の突条6jの先端面6kがシボ加工により微細な凹凸面6oとされるとともに、柔樹脂モールド部6hがこの微細な凹凸面6oに接着または融着される。この微細な凹凸面6oにより、樹脂モールド時にこの凹凸面6oにおける硬樹脂モールド部6gのポリアミド樹脂と柔樹脂モールド部6hのTPEが溶け易くなり、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの接着強度(融着強度)を大きく高めることが可能となる。これにより、柔樹脂モールド部6hは硬樹脂モールド部6gとの所定の接着強度(融着強度)を有する平面結合が可能となり、柔樹脂モールド部6hを硬樹脂モールド部6gから更に一層剥がれ難くすることができる。
【0042】
更に、タング6の左右両側端面の領域において、硬樹脂モールド部6gに柔樹脂モールド部6hの方へ突出する略U字状の突部6pが形成される。この突部6pにより、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの境界の一部が形成される。係止部6aのバックル係止方向に沿う方向の把持部6bの外周面における硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの境界領域はシートベルト装着者の指の爪の先端が引っ掛かりがちな領域であるが、この突部6pにより、柔樹脂モールド部6hの端6qにおけるシートベルト装着者の指の爪の先端が引っ掛かる部分(突部6pを除く直線状部)6q1をより一層短く
することが可能となる。したがって、爪の先端が柔樹脂モールド部6hの端6qに引っ掛かり難くなるため、柔樹脂モールド部6hを硬樹脂モールド部6gから剥がれ難くすることが可能となる。
【0043】
図7(A)は本発明のタングの実施の形態の他の例を示す平面図、図7(B)は図7(A)におけるVIIB−VIIB線に沿う断面図、図7(C)は図7(A)におけるVIIC−VIIC線に沿う断面図である。なお、前述の例のタング6の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付すことで、その詳細な説明は省略する。
【0044】
図7(A)ないし(C)に示すように、この例のタング6では、前述の例と同様に金属プレート6dの把持部対応部6fが6ナイロン等のポリアミド樹脂でモールドされて硬樹脂モールド部6gが設けられている。また、この例のタング6では、シートベルト装着に使用されていないシートベルト装置1におけるタング6がトリム等の車体に接触しがちな硬樹脂モールド部6gの部位に柔樹脂モールド部6hが設けられている。具体的には、把持部6bの平面部における硬樹脂モールド部6gの領域でかつベルト貫通孔6cの左右両端(図7(A)の上下両端)近傍に比較的平坦な底面を有する凹部6r,6sが形成され
るとともに、これらの凹部6r,6sにTPEをモールドして柔樹脂モールド部6hが設
けられる。その場合、前述の例と同様に凹部6r,6sのほぼ平坦な底面をシボ加工で微
細な凹凸面6oとすることで、硬樹脂モールド部6gと柔樹脂モールド部6hとの接着強度(融着強度)が高められ、柔樹脂モールド部6hが硬樹脂モールド部6gから剥がれ難くされている。
この例のタング6の他の構成および他の作用効果は、前述の例のタング6と同じである。
【0045】
なお、本発明は、前述の各例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載されてい
る技術事項内で種々の設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のタングは、シートベルト装置に用いられかつシートベルトに摺動可能に支持されるとともに、車体等に固定されたバックルに係止されるタングに好適に利用可能であり、また、本発明のシートベルト装置は、このようなタングを用いたシートベルト装置に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…シートベルト装置、3…シートベルトリトラクタ、4…シートベルト、6…タング、6a…係止部、6b…把持部、6c…貫通孔、6d…金属プレート、6e…樹脂モールド部、6f…把持部対応部、6g…硬樹脂モールド部、6h…柔樹脂モールド部、6i…薄肉部、6j…突条、6j1,6j2,6j3,6j4…エッジ部、6k…突条6jの先端面、6
m,6n…係止突起、6o…微細な凹凸面、6p…突部、6q…柔樹脂モールド部6hの
端、6q1…爪の先端の引っ掛かり部分(突部6pを除く直線状部)、6r,6s…凹部、7…バックル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7