(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者らは、フラジェリンのようなTLR5アゴニストなどのToll様受容体(TLR)アゴニストを提供すると、細胞がTLR5を発現しなくとも、癌細胞の増殖を効果的に抑制し、減少させることができるという驚くべき発見をした。このTLRアゴニストは、原発性または転移性であろうとなかろうと肝癌、膀胱癌、肺癌、および腸癌、ならびに他のTLR5陽性組織に影響を及ぼす癌の治療に特に有用であり得る。このTLRアゴニストを用いて、肝臓、膀胱、肺、腸以外の組織、ならびに他のTLR5陽性組織で生じるが、これらの組織に転移する癌を治療することもできる。これらの転移性癌細胞がTLR5を発現しなくとも、癌が肝臓などのTLR5発現組織に転移した場合に、この癌はTLRアゴニストで治療可能であり得る。理論に縛られることなく、本発明で実効する考えは、TLRアゴニストが、強い自然免疫系を有する組織に影響を及ぼす癌細胞を効果的に減少または死滅させ、それによって、これらの癌細胞においてTLR5が前もって発現している必要がないということである。予想外に、TLRアゴニストを提供することにより、自然免疫系が、TLR5発現を欠いている癌を治療するのに十分に誘導される。したがって、TLRアゴニストが癌細胞を効果的に減少または死滅させるために、TLR5はこれらの癌細胞に供給される必要はない。
【0012】
発明者らは、TLRアゴニストが肝毒性から肝臓を保護することができるという驚くべき発見もした。例えば、FASリガンドおよび抗FASアゴニスト抗体などの細胞死リガンドならびにFAS媒介アポトーシスの活性化因子は、用量依存的肝毒性を誘導することができる。TLRアゴニストの投与は、かかる毒性に対して肝臓を保護することができる。この予想外のTLRアゴニストの性質により、癌治療のためのFASアゴニストまたはTNFとの組み合わせが可能になり、その結果、FASアゴニストまたはTNFの悪影響を減少させるかまたは防止する。
【0013】
1.定義
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明する目的のためにすぎず、限定することを意図するものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形の「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、特に本文が明らかにしない限り、複数の指示対象を含む。
【0014】
本明細書の数値範囲の記載については、その間にあるそれぞれの数も、同じ精度で明確に企図される。例えば、6〜9の範囲では、6および9に加えて、7および8の数が企図され、6.0〜7.0の範囲では、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、および7.0の数が明確に企図される。
【0015】
「投与」とは、1つもしくは複数の薬剤の単回用量または複数回用量を意味し得る。
【0016】
「類似体」とは、ペプチドまたはポリペプチドとの関連で、1つもしくは複数の非標準的アミノ酸または従来のアミノ酸セットとは別の構造変化を含むペプチドまたはポリペプチドを意味し得る。
【0017】
「抗体」とは、Fab、F(ab')2、Fdを含む、IgG、IgM、IgA、IgDもしくはIgEのクラスの抗体、またはその断片もしくは誘導体、ならびに一本鎖抗体、ダイアボディ、2重特異性抗体、2機能性抗体およびそれらの誘導体を意味し得る。抗体は、所望のエピトープまたはそれに由来する配列に十分な結合特異性を示すモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、アフィニティー精製抗体、またはそれらの混合物であり得る。抗体は、キメラ抗体でもあり得る。抗体は、当技術分野で公知の1つまたは複数の化学物質、ペプチド、またはポリペプチド部分の結合によって誘導体化されてもよい。抗体は、化学物質部分と結合させてもよい。
【0018】
「誘導体」とは、1次構造(アミノ酸およびアミノ酸類似体)とは異なるペプチドまたはポリペプチドを意味し得る。誘導体は、翻訳後修飾の一つの形態であるグリコシル化によって異なり得る。例えば、ペプチドまたはポリペプチドは、異種系における発現によってグリコシル化パターンを示し得る。少なくとも1つの生物学的活性が保持される場合、これらのペプチドまたはポリペプチドは、本発明に係る誘導体である。他の誘導体には、共有結合的に修飾されたN−末端もしくはC−末端を有する融合ペプチドまたは融合ポリペプチド、PEG化されたペプチドまたはポリペプチド、脂質部分と結合したペプチドまたはポリペプチド、アルキル化されたペプチドまたはポリペプチド、アミノ酸側鎖官能基によって他のペプチド、ポリペプチドもしくは化学物質に連結されたペプチドまたはポリペプチド、および当技術分野で理解されているようなさらなる修飾物が含まれ得る。
【0019】
「断片」とは、参照ペプチドまたはポリペプチドの部分を意味し得る。
【0020】
「相同体」とは、共通の進化の祖先を共有するペプチドまたはポリペプチドを意味し得る。
【0021】
「リーダー配列」とは、目的のペプチドまたはポリペプチドが、細胞膜からの細胞外分泌の目的で、真核細胞の小胞体およびゴルジ複合体を経由して適切に移動することができるように、目的のペプチドまたはポリペプチドに連結され、翻訳される任意のペプチド配列をコードする核酸であり得る。リーダーペプチド配列は、アルカリホスファターゼに由来し得る。リーダー配列は、atgctgctgctgctgctgctgctgggcctgaggctacagctct
ccctgggcを含むDNA配列を有し得る。
【0022】
「リポソーム」は、細胞膜と同じ材料で作られた小さな泡(小胞)を意味し得る。リポソームは、薬物で充填され、癌および他の疾患のための薬剤を送達するために用いられ得る。リポソームは、ベクターで充填することができる。リポソーム膜は、頭部基および尾部基を有する分子であるリン脂質から作ることができる。リポソームの頭部は水に誘引され得、長い炭化水素鎖で作られている尾部は水にはじかれる。尾部は水ではじかれ、整列して、水から離れて表面を形成することができる。原形質膜の脂質は、主にホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンのようなリン脂質であり得る。リポソームは、(卵のホスファチジルエタノールアミンのような)混合脂質鎖を有する天然由来のリン脂質、またはDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)のような純粋な界面活性剤成分で構成され得る。
【0023】
「ペプチド」または「ポリペプチド」とは、アミノ酸の連結配列を意味し、天然配列であるか、合成配列であるか、または天然配列と合成配列の改変もしくは組み合わせであり得る。
【0024】
「実質的に同一」とは、第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列が、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100個のアミノ酸の領域にわたって、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であることを意味し得る。
【0025】
「治療(treating)」、「治療(treatment)」または「治療すること(to
treat)」はそれぞれ、症状の様子、臨床徴候、または病状もしくは障害の根底にある病理を、一時的または恒久的に軽減するか、抑制するか、抑止するか、除去するか、防止するかまたは遅らせることを意味し得る。病状または障害の防止には、その疾患の発症前に本発明の薬剤を対象に投与することが含まれる。病状または障害の抑制には、症状または障害の誘発後ではあるが、その臨床的所見の前に、本発明の薬剤を対象に投与することが含まれる。病状または障害の抑止には、その疾患の臨床的所見後に本発明の薬剤を対象に投与することが含まれる。
【0026】
「改変体」は、アミノ酸の挿入、欠失または保存的置換によってアミノ酸配列が異なるが、少なくとも1つの生物活性を保持するペプチドまたはポリペプチドを意味し得る。「生物活性」の代表例として、Toll様受容体に結合する能力、および特異的抗体によって結合される能力が挙げられる。改変体は、少なくとも1つの生物活性を保持するアミノ酸配列を有する参照タンパク質と実質的に同一であるアミノ酸配列を有するタンパク質も意味し得る。アミノ酸の保存的置換、すなわち、アミノ酸を類似の性質(例えば、荷電領域の親水性、程度および分布)を有する異なるアミノ酸で置換することは、当技術分野では、一般的に微小変化を含むと認識されている。これらの微小変化は、当技術分野において理解されるとおり、アミノ酸の疎水性親水性指数を考慮することによってある程度確認することができる。Kyte
et al.,J.Mol.Biol.157:105−132(1982)。アミノ酸の疎水性親水性指数は、その疎水性および電荷の考慮に基づく。同様の疎水性親水性指数を有するアミノ酸は、置換しても、なおタンパク質機能を保持できることが当技術分野で知られている。一態様において、疎水性親水性指数±2を有するアミノ酸が置換される。アミノ酸の親水性を用いて、生物学的機能を保持するタンパク質をもたらす置換を明らかにすることもできる。ペプチドとの関連で、アミノ酸の親水性を考慮すると、そのペプチドの最大局所平均親水性を計算することができ、この最大局所平均親水性は、抗原性および免疫原性と良く相関することが報告されている有用な尺度である。米国特許第4,554,101号は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。同様の親水性値を有するアミノ酸の置換は、当技術分野において理解されるとおり、生物活性、例えば、免疫原性を保持するペプチドをもたらすことができる。置換は、互いに±2以内の親水性値を有するアミノ酸を用いて行われ得る。アミノ酸の疎水性指数および親水性値の両方は、そのアミノ酸の特定の側鎖によって影響を受ける。その観察と一致して、生物学的機能に適合するアミノ酸置換は、疎水性、親水性、電荷、サイズおよび他の性質によって明らかにされるように、アミノ酸、特に、それらのアミノ酸の側鎖の相対類似度に依存すると理解されている。
【0027】
「ベクター」とは、複製開始点を含む核酸配列を意味し得る。ベクターは、プラスミド、酵母または乳動類の人工染色体であり得る。ベクターは、RNAベクターまたはDNAベクターであり得る。ベクターは、自己複製染色体外ベクター、または宿主ゲノムに組み込まれるベクターのいずれか一方であり得る。
【0028】
2.Toll様受容体アゴニスト
TLRアゴニストを本明細書に提供する。TLRアゴニストは、病原体に由来する保存された分子産物であり得るPAMPであり得る。病原体は、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、またはウイルスであり得る。TLRアゴニストは損傷関連分子パターン((DAMP)リガンドであり得、これは、損傷した細胞または死細胞から放出される内因性分子であり得る。DAMPまたはPAMPは、TLRシグナルを介して免疫応答を開始し、シグナルを伝えるために、細胞質内でアダプター分子をリクルートし得る。このTLRアゴニストは、以下の表1のリガンドであり得るTLRに対するアゴニストであり得る。
【0030】
TLRアゴニストは、TLRに結合し、NF−κB活性の活性化などのTLR媒介活性を誘導するPAMPまたはDAMPの断片、改変体、類似体、相同体または誘導体であり得る。TLRアゴニストの断片、改変体、類似体、相同体または誘導体は、TLRアゴニストのアミノ酸と少なくとも30〜99%同一であり、TLR媒介活性を誘導することができる。
【0031】
TLRアゴニストは、TLR−5などのTLRを標的にすることができる。TLRアゴニストは、TLR−5のアゴニストであり得、TLR−5活性を刺激することができる。TLRアゴニストは、抗TLR5抗体または他の小分子であり得る。TLRアゴニストは、フラジェリンであり得る。
【0032】
フラジェリンは、フラジェリンまたはフラジェリン関連ポリペプチドでもあり得る。フラジェリンは、様々なグラム陽性菌種およびグラム陰性菌種を含む任意の供給源に由来し得る。フラジェリンは、その内容が参照により本明細書に完全に組み込まれる米国特許公開第2003/000044429号に開示されているフラジェリンポリペプチドを含むがこれに限定されない任意のグラム陽性菌種またはグラム陰性菌種のフラジェリンポリペプチドであり得る。例えば、フラジェリンは、米国特許公開第2003/0044429号の
図7に示される細菌種のアミノ酸配列を有し得る。米国特許公開第2003/0044429号の
図7に列挙されているフラジェリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、NCBI
Genbankデータベースを含む情報源で公的に利用可能である。フラジェリンは、米国特許公開第2003/000044429号の
図25に示されるBLAST結果に列挙されている受託番号に相当するフラジェリンペプチドまたはその改変体でもあり得る。フラジェリンは、その内容が本明細書に完全に組み込まれる米国特許出願公開第2009/0011982号に開示されているフラジェリンポリペプチドでもあり得る。フラジェリンは、本明細書の
図3および
図4に開示されるフラジェリンポリペプチドのいずれか1つであり得る。
【0033】
フラジェリンは、TLR5に結合し、NF−κB活性の活性化などのTLR5媒介活性を誘導するフラジェリンの断片、改変体、類似体、相同体または誘導体であり得る。フラジェリンの断片、改変体、類似体、相同体または誘導体は、TLR5に結合し、TLR5媒介活性を誘導するフラジェリンのアミノ酸と少なくとも30〜99%同一であり得る。
【0034】
フラジェリンは、サルモネラ属の一種に由来し得、その代表例として、(GenBank受託番号M84972によってコードされる)S.dublinが挙げられる。フラジェリン関連ポリペプチドは、TLR5に結合し、NF−kB活性の活性化などのTLR5媒介活性を誘導するM84972の断片、改変体、類似体、相同体もしくは誘導体、またはその組合せであり得る。フラジェリンの断片、改変体、類似体、相同体または誘導体は、フラジェリンのドメイン構造およびTLR5によって認識される保存された構造に基づく合理的設計によって得ることができる。
【0035】
フラジェリンは、
図2に示す13個の保存されたアミノ酸(位置89、90、91、95、98、101、115、422、423、426、431、436および452)のうち少なくとも10個、11個、12個または13個を含み得る。フラジェリンは、M84972のアミノ酸1〜174および418〜505と少なくとも30〜99%同一であり得る。その内容が本明細書に完全に組み込まれる米国特許出願公開第2009/0011982号の
図26は、M84972と比較した、既知のTLR−5刺激活性を有するフラジェリンのアミノ末端およびカルボキシ末端の同一性の割合を示す。
【0036】
フラジェリンは、細菌鞭毛の主成分であり得る。フラジェリンは、3個のドメインで構成され得る(
図1)。ドメイン1(D1)およびドメイン2(D2)は、不連続であり得、アミノ末端およびカルボキシ末端の残基がヘアピン構造の形成によって隣接する時に形成され得る。D1ドメインおよびD2ドメインを含むアミノ末端ならびにカルボキシ末端が最も保存され得るが、真ん中の超可変領域(D3)は大きく変化し得る。大腸菌のヒンジによって分離されるアミノD1およびアミノD2ならびにカルボキシD1およびカルボキシD2(ND1−2/ECH/CD2)を含む組換えタンパク質を用いる研究は、D1およびD2が、ECHエレメントに結合する時に、生理活性を有し得ることを示す。このキメラは、2種類の腸管上皮細胞株において、IkBaの分解、NF−kBの活性化、ならびにNOおよびIL−8の産生を誘導することができるが、ヒンジ単独では誘導できない。保存されていないD3ドメインは、鞭毛繊維の表面に存在し、主要な抗原エピトープを含み得る。フラジェリンの強力な炎症促進性活性は、高度に保存されたNのD1およびD2領域ならびにCのD1およびD2領域に存在し得る(
図1参照)。
【0037】
フラジェリンは、Toll様受容体5(TLR5)に結合することによって、NF−kB活性を誘導することができる。TLRは、フラジェリンに特有の保存された構造を認識することができる。この保存された構造は、アミノ酸含有量の変化にある程度許容的である残基の大きなグループで構成され得る。その内容が参照により本明細書に組み込まれるSmith
et al.,Nat Immunol.4:1247−53(2003)は、TLR5によって認識される保存された構造の一部であるフラジェリン中の13個の保存されたアミノ酸を同定した。TLR5活性に重要であり得るフラジェリンの13個の保存されたアミノ酸を
図2に示す。
【0038】
少なくとも幾分かTLR5刺激活性を保持するフラジェリンの多数の欠失変異体が作製されている。フラジェリンは、かかる欠失変異体であってもよく、本明細書の実施例に開示される欠失変異体であってもよい。フラジェリンは、アミノ酸185〜306もしくは444〜492を欠くGenBank受託番号D13689、もしくはアミノ酸179〜415を欠くGenBank受託番号M84973、またはその改変体から翻訳された配列を含み得る。
【0039】
フラジェリンは、可変D3ドメインへのトランスポゾンの挿入および変化を含んでいてよい。D3ドメインは、改変体がTLR5活性を刺激するように、D1ドメインおよびD2ドメインを適切に折り畳むことを可能にするヒンジまたはリンカーポリペプチドで、部分的または全体的に置換することができる。異なるヒンジエレメントが、大腸菌のMukBタンパク質中に見出され得、2010年10月6日に出願され、その内容が参照より本明細書に組み込まれる国際出願PCT/US10/51646に記載の配列を有し得る。
【0040】
上記のフラジェリンは、さらにリーダー配列を含み得る。リーダー配列をさらに含むフラジェリンは、CBLB502Sであり得る。
【0041】
3.薬剤
本発明は、治療有効量のTLRアゴニストを含む薬剤にも関する。本薬剤は、ポリペプチドであり得る。本薬剤は、ベクターでもあり得る。このベクターは、TLRアゴニストをコードする核酸を含み得る。このベクターは、哺乳類細胞に形質導入することができる。このベクターは、ウイルスまたはリポソームに関連するベクター系によって哺乳類細胞に送達することができる。このウイルスベクター系は、アデノウイルスまたはサイトメガロウイルスであり得る。
【0042】
本薬剤は、ベクターを含むリポソームであり得る。このリポソームは、発現のために哺乳類細胞に形質導入し、ベクターを送達することができる。
【0043】
本薬剤は、TLRを活性化し、それによって、腸壁を通り抜ける大規模侵入の状況を模倣する宿主免疫系に腫瘍または感染細胞を曝露させる製剤であり得る。本薬剤は、筋肉内投与などの投与用の溶液で全身送達することができる。本薬剤は、ナノ粒子の形態でTLRアゴニストを発現する製剤であり得、哺乳類細胞の細胞表面に機能的アゴニストを輸送することができる。
【0044】
本薬剤は、上記製剤を含む薬剤であり得、当技術分野で公知の方法を用いて製造することができる。本薬剤は、共薬剤(coagent)も含み得る。
【0045】
このベクターは、フラジェリンをコードする核酸を含み得る。このベクターは、強力なプロモーターを用いてフラジェリンを発現することができる。この発現ベクターは、さらに、TLRアゴニストをコードする遺伝子の上流にクローニングされたリーダー配列を含み得る。この製剤は、以下のものを発現するアデノウイルスであり得る:
筋肉内投与などの投与用の溶液で全身送達されるTLRアゴニスト;または
CBLB502に由来し得るフラジェリンなどの機能的TLRアゴニストをその表面に保有するナノ粒子の形態で発現されるTLRアゴニスト。
【0046】
このナノ粒子は、バクテリオファージT7に基づくか、またはその生物活性を保持するように完全に形成され得る。このナノ製剤は、用量依存的なNF−κB応答レポーターの活性化を提供し、有効な免疫法のためのエンドサイトーシスによって細胞内部移行をもたらし得る(Mobian
AP−A)。
【0047】
a.投与
本明細書に記載の方法を用いた薬剤の投与は、全身投与、経口投与、非経口投与、舌下投与、経皮投与、経直腸投与、経粘膜投与、局所投与、吸入、口腔投与またはそれらの組合せであり得る。非経口投与には、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、髄腔内投与および関節内投与が挙げられるが、これらに限定されない。投与は、皮下投与、静脈内投与、エアダクト内投与、または腫瘍内投与でもあり得る。獣医学用途の場合、本薬剤は、正常な獣医学診療に従って適切に許容される製剤として投与され得る。獣医師は、特定の動物に最も適切な投与計画および投与経路を容易に決定することができる。本薬剤は、ヒト患者、ネコ、イヌ、大型動物またはトリに投与することができる。
【0048】
本薬剤は、単剤療法として投与されるか、または腫瘍の手術もしくは腫瘍の除去であり得る他の治療と同時にもしくは規則正しく投与され得る。本明細書で使用する「同時の」または「同時に」という用語は、本薬剤および他の治療が、互いに48時間以内、好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内、更により好ましくは6時間以内、最も好ましくは3時間以内またはそれ以下で投与されることを意味する。本明細書で使用する「規則正しく」という用語は、繰り返し投与と比べて、他の治療とは異なる時に、特定の頻度で薬剤を投与することを意味する。
【0049】
本薬剤は、約120時間、118時間、116時間、114時間、112時間、110時間、108時間、106時間、104時間、102時間、100時間、98時間、96時間、94時間、92時間、90時間、88時間、86時間、84時間、82時間、80時間、78時間、76時間、74時間、72時間、70時間、68時間、66時間、64時間、62時間、60時間、58時間、56時間、54時間、52時間、50時間、48時間、46時間、44時間、42時間、40時間、38時間、36時間、34時間、32時間、30時間、28時間、26時間、24時間、22時間、20時間、18時間、16時間、14時間、12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、3時間、2時間、1時間、55分、50分、45分、40分、35分、30分、25分、20分、15分、10分、9分、8分、7分、6分、5分、4分、3分、2分、および1分を含む、別の治療の前の任意の時点で投与され得る。本薬剤は、約120時間、118時間、116時間、114時間、112時間、110時間、108時間、106時間、104時間、102時間、100時間、98時間、96時間、94時間、92時間、90時間、88時間、86時間、84時間、82時間、80時間、78時間、76時間、74時間、72時間、70時間、68時間、66時間、64時間、62時間、60時間、58時間、56時間、54時間、52時間、50時間、48時間、46時間、44時間、42時間、40時間、38時間、36時間、34時間、32時間、30時間、28時間、26時間、24時間、22時間、20時間、18時間、16時間、14時間、12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、3時間、2時間、1時間、55分、50分、45分、40分、35分、30分、25分、20分、15分、10分、9分、8分、7分、6分、5分、4分、3分、2分、および1分を含む、薬剤の第2の治療の前の任意の時点で投与され得る。
【0050】
本薬剤は、約1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、26時間、28時間、30時間、32時間、34時間、36時間、38時間、40時間、42時間、44時間、46時間、48時間、50時間、52時間、54時間、56時間、58時間、60時間、62時間、64時間、66時間、68時間、70時間、72時間、74時間、76時間、78時間、80時間、82時間、84時間、86時間、88時間、90時間、92時間、94時間、96時間、98時間、100時間、102時間、104時間、106時間、108時間、110時間、112時間、114時間、116時間、118時間、および120時間を含む、別の治療の後の任意の時点で投与され得る。本薬剤は、約120時間、118時間、116時間、114時間、112時間、110時間、108時間、106時間、104時間、102時間、100時間、98時間、96時間、94時間、92時間、90時間、88時間、86時間、84時間、82時間、80時間、78時間、76時間、74時間、72時間、70時間、68時間、66時間、64時間、62時間、60時間、58時間、56時間、54時間、52時間、50時間、48時間、46時間、44時間、42時間、40時間、38時間、36時間、34時間、32時間、30時間、28時間、26時間、24時間、22時間、20時間、18時間、16時間、14時間、12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、3時間、2時間、1時間、55分、50分、45分、40分、35分、30分、25分、20分、15分、10分、9分、8分、7分、6分、5分、4分、3分、2分、および1分を含む、薬剤の第2の治療の前後の任意の時点で投与され得る。
【0051】
b.製剤
本方法は、本薬剤の投与を含み得る。本明細書に記載の薬剤は、従来の方法で製剤化される錠剤またはトローチ剤の形態であり得る。例えば、経口投与用の錠剤およびカプセル剤は、結合剤、充填剤、滑剤、崩壊剤および湿潤剤であり得る従来の賦形剤を含み得る。結合剤には、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、デンプン漿剤およびポリビニルピロリドンが含まれるが、これらに限定されない。充填剤は、ラクトース、糖、微結晶セルロース、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、およびソルビトールであり得る。滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、タルク、ポリエチレングリコール、およびシリカが含まれるが、これらに限定されない。崩壊剤は、ジャガイモデンプンおよびナトリウムデンプングリコラートであり得る。湿潤剤は、ラウリル硫酸ナトリウムであり得る。錠剤は、当技術分野で公知の方法に従ってコーティングすることができる。
【0052】
本明細書に提供する薬剤は、水性または油性の懸濁液、液剤、乳剤、シロップ剤、およびエリキシル剤などの液体製剤でもあり得る。本薬剤は、使用前に水または他の適切なビヒクルで構成するための乾燥製品として製剤化することもできる。かかる液体調製物は、懸濁化剤、乳化剤、非水性ビヒクルおよび防腐剤などの添加剤を含み得る。懸濁化剤は、ソルビトールシロップ、メチルセルロース、グルコース/糖シロップ、ゼラチン、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムゲル、および食用の硬化油脂であり得る。乳化剤は、レシチン、ソルビタンモノオレエート、およびアラビアゴムであり得る。非水性ビヒクルは、食用油、アーモンド油、分画ヤシ油、油性エステル、プロピレングリコールおよびエチルアルコールであり得る。防腐剤は、メチルp−ヒドロキシベンゾアートまたはプロピルp−ヒドロキシベンゾアートおよびソルビン酸であり得る。
【0053】
本明細書に提供する薬剤は、カカオバターまたはグリセリドなどの坐剤基剤を含み得る坐剤として製剤化されてもよい。本明細書に提供する薬剤は、吸入用に製剤化することもでき、これは、乾燥粉末として投与され得る液剤、懸濁剤、もしくは乳剤などの形態であり得るか、またはジクロロジフルオロメタンもしくはトリクロロフルオロメタンなどの噴霧剤を用いるエアロゾルの形態であり得る。本明細書に提供する薬剤は、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、ペースト剤、薬用硬膏剤、貼付剤、もしくは膜などの水性または非水性のビヒクルを含む経皮製剤として製剤化されてもよい。
【0054】
本明細書に提供する薬剤は、注射、腫瘍内注射もしくは持続注入などの非経口投与用に製剤化されてもよい。注射用製剤は、油性または水性のビヒクル中の懸濁剤、液剤もしくは乳剤の形態であってよく、懸濁化剤、安定化剤、および分散剤を含むがこれらに限定されない薬剤を含んでもよい。本薬剤は、発熱物質を含まない滅菌水を含むがこれに限定されない適切なビヒクルで再構成するための粉末形態で提供されてもよい。
【0055】
本明細書に提供する薬剤は、移植または筋肉内注射によって投与され得るデポー製剤として製剤化されてもよい。本薬剤は、(例えば、許容される油中の乳剤として)適切なポリマーもしくは疎水性材料、イオン交換樹脂を用いて、またはやや難溶性の誘導体として(例えば、やや難溶性の塩として)製剤化されてもよい。
【0056】
c.投与量
本方法は、治療有効量の薬剤を、それを必要としている患者に投与することを含み得る。治療に使用するのに必要な治療有効量は、治療される病状の性質、TLR活性を活性化するのに求められる時間の長さ、および患者の年齢/病状によって変化する。しかし、一般に、成人の治療に使用される用量は、典型的には、1日あたり0.001mg/kg〜約200mg/kgの範囲である。この用量は、1日あたり約1mg/kg〜約100mg/kgであり得る。所望の用量は、都合よく、単回用量で、または適切な間隔、例えば、1日に2回、3回、4回またはそれ以上のサブ用量で投与される複数回用量として投与され得る。複数回用量は望ましいか、または必要であり得る。
【0057】
投与量は、約0.1mg/kg、0.2mg/kg、0.3mg/kg、0.4mg/kg、0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、1mg/kg、25mg/kg、50mg/kg、75mg/kg、100mg/kg、125mg/kg、150mg/kg、175mg/kg、200mg/kg、225mg/kg、250mg/kg、275mg/kg、300mg/kg、325mg/kg、350mg/kg、375mg/kg、400mg/kg、425mg/kg、450mg/kg、475mg/kg、500mg/kg、525mg/kg、550mg/kg、575mg/kg、600mg/kg、625mg/kg、650mg/kg、675mg/kg、700mg/kg、725mg/kg、750mg/kg、775mg/kg、800mg/kg、825mg/kg、850mg/kg、875mg/kg、900mg/kg、925mg/kg、950mg/kg、975mg/kgまたは1mg/kgなどの任意の投与量であり得る。
【0058】
d.単剤療法
本薬剤は、化学療法、放射線療法、別の生物療法、または他の併用療法などの任意の他のタイプの癌治療と共に投与されないという条件の下、単剤療法として投与されてもよい。ただし、「単剤療法」は、外科治療と共に本薬剤を投与することを含み得る。本薬剤は、腫瘍除去であり得る手術と併用して投与されてもよい。本薬剤は、手術前、手術と共に、または手術後に投与されてよい。本薬剤は、手術中に投与されてもよい。
【0059】
4.癌の治療法
TLR5などのTLRを発現する組織中に存在し得る癌を、薬剤を必要としている哺乳類にその薬剤を投与することによって治療する方法を本明細書に提供する。この癌は、腫瘍または転移癌であり得る。この癌は、肝臓、膀胱、肺または腸組織にも存在し、結腸、乳房、または前立腺などの別のタイプの組織で生じたものでもあり得る。この癌は、黒色腫、またはリンパ腫などの悪性血液疾患でもあり得る。この癌は、肝臓、肺、膀胱、腸などのTLR発現組織、または他のTLR発現組織に転移した任意の癌でもあり得る。この癌は、TLR陰性癌であり得、したがって、Toll様受容体の発現を欠く。この癌は、Toll様受容体の内因性発現および外因性発現の両方を欠いていてもよい。本方法は、Toll様受容体を癌に提供するステップを含まなくてよく、Toll様受容体を外因的にもまたは内因的にも提供することを含まなくてよい。この癌は、Toll様受容体発現を全く欠いていてよい。
【0060】
a.Toll様受容体
Toll様受容体(TLR)は、総称して病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれる、グラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌、およびウイルスを含む病原体由来の保存された分子産物であるが、宿主分子と区別可能な分子を認識することができる。TLRは、総称して損傷関連分子パターン(DAMP)と呼ばれる、損傷した細胞または死細胞から放出される内因性分子を認識することもできる。さらに下記に記載するとおり、PAMPまたはDAMPは、TLRアゴニストであり得る。TLRは、シグナルを伝えるために、細胞質内にアダプター分子をリクルートする断片、変異体、類似体、相同体または誘導体であり得る。TLRは、ヒト、またはアカゲザル、マウス、もしくはラットなどの他の哺乳類種由来であり得る。TLRは、シグナルを伝えるために、細胞質内にアダプター分子をリクルートするTLRと少なくとも30〜99%同一であり得る。
【0061】
TLRは、ほとんどの哺乳類種で存在すると推定される10〜15種類のTLRのうちの1つであり得る。TLRは、ヒトおよびマウスの両方で同定された13種類のTLR(単純に、TLR1〜TLR13と命名される)のうちの1つであり得るか、または他の哺乳類種で見られる同等の形態であり得る。TLRは、ヒトで同定された11種類のメンバー(TLR1〜TLR11)のうちの1つであり得る。
【0062】
通常、異なる種類の免疫細胞がTLRを発現し、TLRは細胞表面上または細胞質内に位置し得る。通常、TLRは、癌細胞上で発現し得る。通常、消化器系の正常な上皮細胞、皮膚の正常なケラチノサイト、肺胞および気管支上皮細胞、および女性生殖器系の上皮細胞がTLRを発現し得る。臓器を覆うこれらの細胞は、微生物の侵入に対する最前線の防御であり得、通常、上皮細胞で発現するTLRは、増殖およびアポトーシスの制御において重要な役割を有し得る。
【0063】
癌細胞は、TLRを発現することができない。TLR陰性癌細胞は、TLRmRNAも、TLRタンパク質も、または機能性TLRタンパク質も全く発現することができない。TLRタンパク質は、TLRリガンドに結合する能力の低下またはリガンド結合によって始動する下流のシグナルを送達する能力の低下により機能することができない。TLR陰性癌細胞は、TLRのmRNA、タンパク質、またはTLR機能のレベルも低下させ得る。この低下は、癌細胞が生ずる組織由来の正常細胞と比較すると、または別の既知のTLR発現細胞型と比較すると、100%、または99.9%、99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、もしくは50%を上回り得る。TLR発現細胞は、腫瘍細胞株もしくは腫瘍異種移植片などの正常細胞または腫瘍細胞であり得る。
【0064】
通常、癌細胞上で発現するTLRは、NF−κΒカスケードを上方制御し、発癌および癌細胞増殖に寄与する抗アポトーシスタンパク質を産生することができる。
【0065】
TLRの4つのアダプター分子は、シグナル伝達に関与することが知られている。これらのタンパク質は、骨髄分化因子88(MyD88)、(Maiとも呼ばれる)Tirap、Trif、およびTramとして知られている。これらのアダプターは、シグナルを増幅し、最終的に炎症反応を調整する遺伝子の誘導または抑制につながる特定のタンパク質キナーゼ(IRAKI、IRAK4、TBK1、およびIKKi)を含む他の分子を細胞内で活性化する。病原体認識中のTLRシグナル伝達経路は、MyD88、活性化B細胞の核因子κ軽鎖エンハンサー(NF−κB)、およびマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)によって媒介される細胞外経路および細胞内経路によって免疫反応を誘導することができる。全部で数千の遺伝子がTLRシグナル伝達によって活性化され、まとめると、TLRは、遺伝子調節のための最も多面的で、さらに厳密に制御された出入口のうちの1つを構成する。
【0066】
インターロイキン1受容体と共に、TLRは、「インターロイキン−1受容体/Toll様受容体スーパーファミリー」として知られる受容体スーパーファミリーを形成する。このファミリーの全メンバーは、いわゆるTIR(Toll−IL−1受容体)ドメインを共通して有する。TIRドメインの3つのサブグループが存在し得る。サブグループIのTIRドメインを有するタンパク質は、マクロファージ、単球および樹状細胞によって産生されるインターロイキンの受容体であり、全ては、細胞外免疫グロブリン(Ig)ドメインを有する。サブグループIIのTIRドメインを有するタンパク質は標準的なTLRであり、微生物起源の分子に直接的または間接的に結合する。TIRドメインを含むタンパク質の第3のサブグループ(III)は、もっぱら細胞質性であり、サブグループ1およびサブグループ2のタンパク質からのシグナル伝達を媒介するアダプタータンパク質から成る。TLRは、サブグループIのTIRドメイン、サブグループIIのTIRドメイン、またはサブグループIIIのTIRドメインのいずれかを保持する断片、変異体、類似体、相同体または誘導体であり得る。
【0067】
TLRは、2量体として機能することができる。例えば、ほとんどのTLRはホモ2量体として機能するように思われるが、TLR2は、TLR1またはTLR6とヘテロ2量体を形成し、それぞれの2量体は異なるリガンド特異性を有する。TLRは、MD−2を必要とするTLR4のLPS認識の場合のように、完全なリガンド感受性については他の共受容体にも依存し得る。CD14およびLPS結合タンパク質(LBP)は、LPSのMD−2への提示を促進することが知られている。
【0068】
(1)TLR1
TLRは、グラム陽性菌に対して特異性を有するPAMPを認識するTLR1であり得る。TLR1は、CD281と命名されてもいる。
【0069】
(2)TLR5
TLRは、Toll様受容体5であり得る。TLR5によってコードされるタンパク質は、病原体認識および自然免疫の活性化に重要な役割を果たすことができる。TLR5は、感染病原体上で発現するPAMPを認識し、有効な免疫の発達に必要なサイトカインの産生を媒介することができる。TLR5は、細菌のフラジェリン、細菌の鞭毛および毒性因子の主成分を認識することができる。TLR5の活性化は、核因子NF−κBを動員し、腫瘍壊死因子−α産生を刺激することができる。
【0070】
(3)癌の種類
癌は、原発性癌または転移性癌であり得る。原発性癌は、臨床的に検出可能である発生部位の癌細胞領域であり、原発性腫瘍であり得る。これとは対照的に、転移性癌は、一臓器または一部分から別の非隣接臓器または別の非隣接部分への疾患の蔓延であり得る。転移性癌は、局部において周囲の正常組織に侵入および浸潤する能力を獲得する癌細胞によって引き起こされ、局所転移であり得る新しい腫瘍を形成することができる。
【0071】
転移性癌は、リンパ管および/または血管の壁を通りぬける能力を獲得する癌細胞によっても引き起こされ、その後、この癌細胞は、血流を介して体内の他の部位および組織に循環することができる(したがって、循環腫瘍細胞である)。転移性癌は、リンパ性転移または血行性転移などのプロセスに起因し得る。転移性癌は、別の部位で静止し、血管または壁を通りぬけて再侵入し、増殖し続け、最終的に別の臨床的に検出可能な腫瘍を形成する腫瘍細胞によっても引き起こされ得る。転移性癌は、転移性(または続発性)腫瘍であり得るこの新しい腫瘍であり得る。
【0072】
転移性癌は、続発性腫瘍または転移性腫瘍であり得る転移した腫瘍細胞によって引き起こされ得る。転移性腫瘍の細胞は、原発性腫瘍中の細胞と類似している。一例として、乳癌または結腸癌が肝臓に転移する場合、続発性腫瘍は、肝臓に存在するが、異常な肝細胞ではなく、異常な乳腺細胞または結腸細胞で構成される。したがって、肝臓の腫瘍は、肝臓癌ではなく、転移性乳癌または転移性結腸癌であり得る。
【0073】
転移性癌は、任意の組織からの起源を有し得る。転移性癌は、黒色腫、結腸、乳房、または前立腺が起源であり得、したがって、本来、皮膚、結腸、乳房、または前立腺であった細胞でそれぞれ構成され得る。転移性癌は、リンパ腫であり得る悪性血液腫瘍でもあり得る。転移性癌は、肝臓、肺、膀胱、または腸などの組織に浸潤することができる。浸潤組織はTLRを発現することができるが、転移性癌は、TLRを発現しても、しなくてもよい。
【0074】
b.組み合わせ
本方法は、抗癌治療とTLRアゴニストの併用投与も含み得る。抗癌治療は、FASリガンド、FASアゴニスト抗体、TNFa、TNFaアゴニスト抗体、TRAIL、またはTRAILアゴニスト抗体であり得る。TLR5アゴニストを用いて、癌を抗癌治療に対して感作させることができる。本方法は、免疫刺激剤、サイトカイン、または化学療法剤の使用を含む、癌を治療するための他の方法と組み合わせてもよい。免疫刺激剤は、成長ホルモン、プロラクチンまたはビタミンDであり得る。
【0075】
5.癌の再発を減少させる方法
癌の再発を減少させる方法であって、TLRアゴニストを、それを必要としている哺乳類に投与することを含む方法も本明細書に提供する。癌は、TLR5などのTLRを発現するかまたは発現しない組織中に存在しても、または存在しなくてもよい。癌、組織、TLR、哺乳類、および薬剤は、上記に記載したとおりであり得る。本方法は、癌の再発を防ぐこともできる。この癌は、腫瘍性疾患であり得る。
【0076】
癌は、癌の転移に起因し得る休眠腫瘍であり得る。この休眠腫瘍は、腫瘍の外科的切除から取り残されたものでもあり得る。癌の再発は、腫瘍再増殖、肺転移、または肝転移であり得る。
【0077】
6.哺乳類
哺乳類は、完全に機能的な免疫系を有しており、免疫不全ではない。哺乳類は、哺乳類を第一ラウンドまたは第二ラウンドの化学療法に適するようにするのに十分なレベルに相当するレベルの免疫も有し得る。哺乳類は、化学療法によって誘発され得る白血球数の低下を有していなくてもよい。この白血球数の低下は、化学療法中の正常細胞の損失によって引き起こされ得る。この損失は、化学療法薬の予想される副作用であり得る。この白血球数の低下は、化学療法によって引き起こされる重篤な免疫抑制であり得る。この白血球数の低下は、薬剤の抗腫瘍効果を損ない得る。この白血球数の低下は、化学療法治療後7〜14日で回復し得る。
【0078】
哺乳類は、正常範囲内である白血球数を有し得る。哺乳類は、軽度の免疫抑制を示す白血球数も有し得る。哺乳類は、7〜14日間、または少なくとも14日間の化学療法治療を受けていなくてよい。哺乳類は、全血1mlあたり少なくとも3000細胞もしくは3500細胞の全白血球数、全血1mlあたり少なくとも1800細胞もしくは2100細胞の顆粒球数、または全血100mlあたり少なくとも3.0gもしくは3.5gのアルブミンレベルも有し得る。白血球数、顆粒球数、またはアルブミンレベルも、これらのレベルの+/−5%、10%、20%、30%、40%、または50%以内に入り得る。
【0079】
7.肝臓を保護する方法
上述したように、細胞死リガンドなどのFAS、TRAIL、およびTNFaの細胞死受容体シグナル伝達を介してアポトーシスを誘発する抗癌治療は、重度の肝毒性を引き起こし得る。したがって、FAS、TRAIL、およびTNFaなどの分子の抗癌治療としての使用は、標的癌細胞におけるこれらの分子の有効性をよそに、制限されている。したがって、哺乳類の肝組織を肝毒性の影響から保護する方法も本明細書に提供する。肝臓は、哺乳類に薬剤を投与することによって保護することができる。この細胞死受容体シグナル伝達のアゴニストは、FAS、TRAIL、またはTNFaであり得る。細胞死リガンドは、肝毒性であり得る。FAS、TRAIL、またはTNFaは、抗癌剤として使用することができる。
【0080】
肝毒性は、ネズミチフス菌由来であり得るサルモネラ感染症でもあり得る。本薬剤を用いて、FAS媒介性であり得る肝毒性から保護することもできる。この毒性は、FASリガンド、FASアゴニスト抗体、TNFa、アセトアミノフェン、アルコール、肝臓のウイルス感染、または化学療法剤でもあり得る。本薬剤は、哺乳類に投与することができる。
【0081】
実施例1 TLR5アゴニストが肝毒性から肝臓を保護する
薬理学的に最適化されたTLR5アゴニストであるCBLB502は、少なくとも部分的に放射線感受性組織におけるアポトーシス阻害による強力な放射線防護剤である。CBLB502を、Fas媒介アポトーシスからの肝臓保護について試験した。以下の実施例は、CBLB502による刺激の際に、TLR5経路が、マウスおよびヒトの肝細胞において活性があり、抗アポトーシスタンパク質をコードする遺伝子のNF−κB依存的誘導をもたらすことを示す。CBLB502でマウスを前治療すると、致死量のFasアゴニスト抗体から肝細胞が保護され、血液中の肝酵素、肝臓抽出物中のカスパーゼ活性のFas誘導性上昇が低下し、肝組織の完全性が維持された。CBLB502は、黒色腫および結腸癌の同系マウスモデルにおいて腫瘍を保護しなかった。これらの観察は、CBLB502などのTLR5アゴニストの保護下で、癌治療のためにFasアゴニストを使用することを支持する。
【0082】
NF−κB応答を、TLR5アゴニストのCBLB502および別の既知のNF−κB活性化因子であるTLR4アゴニストのLPSの投与後に、異なる臓器で比較した。CBLB502は、肝細胞におけるNF−κBの速い直接活性化を誘導することが見出されたが、肝細胞におけるNF−κBのLPS活性化は、異なる種類の細胞を介して媒介された。したがって、以下のデータは、CBLB502による前治療が、マウスの抗癌治療中のFas媒介肝毒性を低減することができることも示す。下記の方法は、ネズミチフス菌のフラジェリン由来のToll様受容体−5(TLR5)アゴニストCBLB502によって、NF−κBシグナル伝達の活性化を介した有害な副作用に対する正常組織の抵抗性の増加に基づく。
【0083】
1.TLR4アゴニストおよびTLR5アゴニストに応答したインビボでのNF−κ活性化の決定
TLR5アゴニストCBLB502に対するNF−κBの応答を、TLR4を介して作用する細菌のLPSと比較して、マウスの異なる臓器で調べた。Xenogen社のNF−kB依存性ルシフェラーゼレポーターマウスモデルにおいて、ルシフェラーゼ導入遺伝子は、IkBa遺伝子のNFkB依存性天然プロモーターの制御下で発現する(Zhang
N,et al,2005)。NFkB活性化剤の投与時に、ルシフェラーゼ活性は、所定の薬剤に応答する細胞および組織で増加した。Xenogen社の非侵襲イメージングシステムおよびエキソビボルシフェラーゼレポーターアッセイを用いて、マウスの肝臓におけるNF−κBの検出された強力な活性化を、CBLB502の皮下注射後2時間に検出した(
図7A)。異なる臓器におけるNF−κB活性化の定量分析により、LPSと比較して、CBLB502が、肝臓におけるNF−κBの非常に強力な活性化を誘導し、腸におけるNF−κB活性レベルは同様に高いが、脾臓、骨髄、腎臓および肺では、NF−κB活性は低いことが明らかになった(
図7B)。NF−κB誘導性ルシフェラーゼレポーター活性の動態は、両方のTLRアゴニストについて同様であり、活性化プロファイルは、注射後約2時間でピークに達し、6時間の時点で減少し、注射後24時間で事実上検出できなくなった(
図10)。
【0084】
核へのp65転座について、マウス肝臓試料を免疫組織化学染色すると、CBLB502は、早くも注射後20分で肝細胞においてNF−κBを直接活性化したが、クッパー細胞および内皮細胞の応答はなかったことが明らかになった(
図7C)。CBLB502の注射後1時間までに、クッパー細胞および内皮細胞を含む全ての肝細胞が、P65の核内蓄積を示し、このことは、1次効果および2次効果と、パラクリン機構によるNF−κBのその後の活性化とが重複することを示唆した。これとは対照的に、その後、肝細胞において、LPSによって活性化されるNF−κBの核移行が著しく生じた。NF−κBの活性化は、クッパー細胞および内皮細胞で最初に観察され、その後、LPS投与後約1時間で肝細胞が結合した。
【0085】
LPSではなく、CBLB502で処理した初代肝細胞培養物(マウスおよびヒト)は、核へのNF−κBの転座を示した(
図7D、
図7E)。CBLB502媒介NF−κB活性化は、マウス肝細胞培養を用いたNF−κB依存性ルシフェラーゼ発現により確認されたが、LPSは、この細胞においてNF−κB活性化を誘導しなかった(
図11)。LPS処理肝細胞で見られたNF−κB活性化のレベルの低さは、他の間質肝細胞による初代肝細胞培養の汚染に起因する可能性が高かった。
【0086】
これらの結果は、肝細胞がTLR4ではなくTLR5を発現し、CBLB502が肝細胞においてNF−κBを直接活性化することを可能にするが、LPSは、最初に他の細胞型(免疫および/または間質)を活性化し、その後に、2次的事象として肝細胞を間接的に活性化する。
【0087】
2.Fas媒介肝毒性からのCBLB502保護
実証されているとおり、抗Fas抗体は、用量依存性肝毒性を誘導し、アポトーシス、肝組織壊死および出血を誘導することによって急速にマウスを殺すことができる(Ogasawara
J et al,Nature 1993,Nishimura et
al 1997)。したがって、肝細胞においてTLR5アゴニストCBLB502によって誘導されるNF−κB活性化が、Fas媒介アポトーシスから肝臓を保護することができる。NIH−Swissマウスに、抗Fas抗体(クローンJo2)4μgを腹腔内注射すると、肝臓で大量のアポトーシス、壊死および出血が誘導され(
図8B、
図8Cおよび
図8D)、抗体注射後最初の1〜2日以内にマウスが死滅した(
図8A)。未治療の対照マウスと比較すると、CBLB502治療マウスの病理形態学的動態試験は、それらのマウスの肝臓が肝細胞の空胞変性を有することを示した(
図12)。抗Fas抗体のサブ致死量(3μg/マウス)を注射したマウスの動態試験により、末端(中心)静脈に隣接した、良好に保存された細胞を有する門脈路の周囲の肝細胞の顕著なアポトーシスが明らかになり、これは5時間の時点で最も顕著になり、時間と共に(注射後12時間および24時間の時点で)減少した。CBLB502および抗Fas抗体で治療したマウスの肝臓における変化は最小限であり、肝細胞は、正常に近いように見えた。すなわち、わずかな空胞形成および単一のアポトーシス細胞が見られた。
【0088】
抗Fas抗体の30分前にCBLB502をマウスに注射した場合、NIH−Swissマウスの約80%における注射後の良好な全生存をゆがめる肝臓への損傷は非常に少なかった(
図8A)。CBLB502を抗体の2時間前に注射した場合には、全てのマウスが生存した。その後、保護レベルは、前処理の6時間の時点まで減少した。
【0089】
抗Fas抗体2μgおよび3μgが、NIH−Swissマウスにおける肝毒性、肝臓におけるカスパーゼ3/7の活性化、および血液中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の分泌を一時的に誘導した(
図8E、
図8F)。両方の試験は、マウスをCBLB502で前処理した場合に、抗Fas抗体により誘導される肝損傷の有意な減少を示した。興味深いことに、Balb/cマウスおよびC57B1/6マウスは、NIH−Swissマウスより抗Fas抗体に対して感受性が低いように思われた。NIH−Swissマウスの致死量である抗Fas抗体4μgは、BALB/cマウスおよびC57B1/6マウスにおいてカスパーゼ3/7活性化を一時的に誘導するが、これは、抗体の30分前のCBLB502注射によって十分に阻止された(
図13)。
【0090】
これらのデータは、肝細胞におけるTLR5媒介NF−κB活性化が、Fas媒介毒性に対する抵抗性の増加の指標であり、尺度となり得ることを支持する。
【0091】
3.肝臓におけるCBLB502によるアポトーシス促進因子の抑制および抗アポトーシス因子の誘導
カスパーゼ3および7は、内因性(ミトコンドリア)および外因性(カスパーゼ)の両方のFas媒介アポトーシスシグナル伝達の下流の標的である。この受容体の活性化の際に、最初にカスパーゼ−8がリン酸化および切断され、アポトーシス促進Bidタンパク質の切断およびチトクローム放出を介して作用するミトコンドリアアポトーシスメカニズムの活性化をもたらす(Lou
et al 1998)。したがって、発明者らは、CBLB502がこのメカニズムを抑制するのか否かを調べた。
【0092】
カスパーゼ−8およびBidの両方についての肝臓タンパク質抽出物のウェスタンブロット分析により、抗Fas抗体の単回注射と比較して、CBLB502および抗Fas抗体を組み合わせて注射したマウスにおいて、これらのタンパク質の切断は非常に少ないことが示された(
図9A、
図9B)。蛍光発生基質アッセイを用いることによって示されるとおり、一貫して、カスパーゼ−8活性化は、バックグラウンドレベルまで減少した(
図8F)。
【0093】
CBLB502によるFas媒介肝毒性からのマウスの保護は、時間とともに増加し、30分〜2時間で最大ピークに達するという事実は、肝細胞内のプレコンディショニング事象の存在を示唆する。多数のサイトカインおよび抗アポトーシス因子の中で、2種類の抗アポトーシスbcl2ファミリーメンバーのbcl2AlBおよびbcl2AlD(Chao
and Korsmeyer,1998,Arikawa et al
2006)の肝臓における上方制御が、CBLB502投与後30分および2時間のRNAアレイハイブリダイゼーションによって明らかとなり、RT−PCRによって確認された(
図9C)。CBLB502は、別の抗アポトーシスタンパク質の前初期応答タンパク質(immediate
early response protein)IER−3(
図9C、IEX−1が別の名前である)のRNA発現も迅速に誘導し、これは、活性酸素種の生成およびミトコンドリアアポトーシス経路を抑制することが示された(Shen
et al 2009)。肝臓試料のRT−PCR分析により、投与後30分で、CBLB502によってIER−3のRNA発現が誘導され、2時間まで著しく増加することが明らかになった。MAPK経路のいくつかのタンパク質が、CBLB502治療マウスの肝臓において上方制御されることが見出された。腫瘍におけるMAPK経路の活性化が、これらの細胞のFas受容体アポトーシス(REF)に対する抵抗性を媒介することが示された。CBLB502での前処理に続く抗Fas抗体注射後に、Jun、Jun−BおよびFosの遺伝子発現の上方制御がマウスの生存率と直接相関することは、Jun、Jun−BおよびFosが、Fas肝毒性からのCBLB502媒介型保護において役割を担う可能性を示唆した。
【0094】
4.Fas媒介抗腫瘍活性に対するCBLB502の効果
LPSは、多くの臓器で強い炎症を誘導し、FADD/カスパーゼ−8アポトーシス経路(REF)を介して直接細胞毒性になり得るので、臨床応用のための良好な候補ではない。CBLB502について、マウス、非ヒト霊長類およびヒト健常ボランティアで試験すると、短時間的な炎症のやや穏やかな誘導物質であることが判明した。組織を保護する化合物を評価する場合、毒性副作用を低減することによって、CBLB502は、腫瘍細胞をより耐性にさせることもでき、抗腫瘍療法の有効性を危うくする可能性が常にある。CBLB502と抗Fas抗体との併用治療のインビボ抗腫瘍効果を、皮下増殖腫瘍および実験的肝転移のCT−26結腸癌マウスモデルにおいて試験した。この腫瘍モデルは、FasLを発現するネズミチフス菌(完全に弱毒化した細菌)を利用する最近発表された研究において、熱帯腫瘍にFasLを送達し、Fas媒介抗腫瘍効果を誘導するために用いられた(Loeffler
et al 2008)。CT−26腫瘍細胞およびA20リンパ腫細胞は、RT−PCRおよびNF−κB依存性ルシフェラーゼレポーターアッセイによって測定されたとおり、TLR5を発現しない(
図14)。本発明では、腫瘍を有するマウスを、抗Fas抗体単独で治療するか、または組換えCBLB502を抗Fas抗体の単回注射(4μg/マウス、
図9D)の24時間前および1時間前の2回与える併用療法で治療した。治療したマウスにおける皮下増殖腫瘍の体積を、未治療のマウスにおいて増殖する腫瘍と比較した。CT−26腫瘍は、毒性に対してかなり抵抗性があるが、致死量の抗Fas抗体には抵抗性がないことが見出された(
図9D)。CBLB502での前処理は、抗Fas抗体に対して腫瘍をわずかに感作させ、これは、腫瘍の増殖阻害応答を反映する。ルシフェラーゼ発現CT−26腫瘍細胞の脾臓内注射により誘導し、その後、脾臓摘出術を行う肝転移の実験モデルにおいて、Fas媒介抗腫瘍効果を試験した。肝臓腫瘍の増殖を、Xenogen社のルシフェラーゼイメージングを用いて、治療後4〜6日ごとに評価した。各撮像手順で、肝腫瘍増殖が依存として存在しないマウスの数を数えた(
図9E)。結果は、抗Fas抗体単独の治療またはCBLB502での前処理後に与えられる抗Fas抗体治療の両方による、肝臓における腫瘍の外観(
図9G)および増殖の大幅な遅延を示す。抗FasとCBLB502との併用治療に対するTLR5陰性CT−26腫瘍の感受性の増加は、CT−26腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答の活性化を示唆する。実際、抗−Fas/CBLB502治療後24時間に取得したCT−26腫瘍を有する肝臓試料の免疫組織化学的分析により、腫瘍小結節の内部および周囲に好中球の蓄積が明らかになった(
図9F)。したがって、CBLB502は、抗Fas抗体の毒性から腫瘍を保護せず、CT−26腫瘍に対するFas媒介抗腫瘍効果をわずかではあるが高めることができる。Fas媒介毒性からの正常な肝組織の同時保護は、肝転移の完全予防に及ぶFasアゴニスト量および皮下増殖腫瘍に対する治療効果の増加を可能にすることができる。
【0095】
材料および方法
マウス
メスのNIH−Swissマウスを、NCI(Frederick社、メリーランド州)から購入し、メスのBALB/cマウスおよびC57B1/6マウスをジャクソン研究所(バーハーバー、メイン州)から購入した。全マウスを、10〜14週齢で実験に使用した。NF−κB誘導性ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するBalb/C−Tg(lKBa−luc)Xenマウスを、最初、Xenogen社(アラメダ、カリフォルニア州)から購入し、発明者らの施設で飼育した。
【0096】
試薬
細菌のフラジェリン誘導体であるCBLB502を、Cleveland BioLabs社から取得した。大腸菌055:B5の細菌リポ多糖(LPS)を、Sigma社から購入した。精製アゴニストのハムスター抗マウスFas抗体、クローンJo2を、BD
Biosciences社から購入した。
【0097】
NF−κBレポーターマウスモデルを用いたインビボでのNF−κΒ活性化の分析
BALB/c−Tg(lKBa−luc)Xenレポーターマウスに、CBLB502(0.2mg/kg)を皮下注射した。CBLB502によるNF−κBの誘導を、治療後2時間の非侵襲インビボイメージングにより検出した(
図1A)。マウスに、D−ルシフェリン(3mg/100μl、腹腔内、プロメガ社)を注射し、イソフルランですぐに麻酔し、Xenogen社のIVISイメージングシステム100シリーズを用いて撮像した。結果を定量化するために、PBS、CBLB502(0.2mg/kg)またはLPS(1mg/kg)のいずれか100μlを皮下注射したNF−κΒレポーターマウスの肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および腸の試料を、注射後2時間、6時間、および24時間の時点で取得した(
図7B、
図10)。組織試料を、プロテアーゼ阻害剤混合物を含む溶解緩衝液(製造者の勧告に従う、Calbiochem社)で覆い、溶解緩衝液1mlあたり組織100mgを得た。その後、これをホモジナイズし、4℃で10分間、14,000rpmで遠心分離した。試料20μl中のルシフェラーゼ活性を、ルシフェリン試薬(Bright−Glo Luciferase Assay System、Promega社)30μlの添加直後に測定した。ルシフェラーゼ活性を、タンパク質抽出物1gあたりに正規化した。ルシフェラーゼの誘導倍率を、TLRリガンド治療マウスの肝臓における平均ルシフェラーゼ単位とPBSを注射した対照マウスの肝臓における平均ルシフェラーゼ単位との間の割合として計算した。
【0098】
p65の転座についての免疫組織化学的染色
p65局在を、CBLB502(0.04mg/kg)またはLPS(1mg/kg)のいずれか一方を皮下注射したNIH−Swissマウスから単離した肝臓で検出した。対照マウスにはPBSを注射した。組織試料を治療後20分、40分および60分に取得し、パラフィンブロックに加工した。全肝組織を、NF−kB
p65に対するウサギポリクローナル抗体およびサイトケラチン8に対するラットモノクローナル抗体、続いて、適切な蛍光標識2次抗体で染色した(p65は緑色、サイトケラチン8は赤色)。NIH−SwissマウスのEGTA(PBS中0.5mM)灌流肝組織から単離し、その後、コラゲナーゼ消化したマウス初代肝細胞を有するプレート、ならびにBD
Biosciences社から購入したヒト肝細胞培養物を有するプレートで同様の染色を行った。両方の種類の肝細胞を、CBLB502(100ng/ml)またはLPS(1μg/ml)で、指定した期間インビトロ処理した。対照の肝細胞は未処理のままにした。20倍の倍率で撮影した(
図7C、
図7D、
図7E)。
【0099】
生存率分析
NIH−Swissマウスに、PBS200μl中抗Fas抗体2μg、3μg、4μg、および5μgを腹腔内注射して、100%致死量を決定し、このマウス系統では4μg/マウスであることが判明した。次いで、CBLB502(0.04mg/kg)を、抗Fas抗体4μgの腹腔内注射の30分前、2時間前および6時間前に皮下注射した(
図8A)。通常、抗Fas肝毒性による死亡は、抗体注射後の最初の1〜2日中に発生する。マウスの生存を30日間観察し、記録した。
【0100】
肝臓におけるアポトーシス細胞のTUNEL染色
抗Fas抗体の30分前に、CBLB502(皮下、0.04mg/kg)またはPBSを注射した5時間後のNIH−Swissマウスの肝臓におけるアポトーシスを、パラフィン包埋検体で検出した。アポトーシス細胞を、TUNEL
PODキット(Roche Applied Science社)を用いて、関節末端デオキシヌクレオチド転移酵素媒介デオキシウリジン3リン酸ニック末端標識(indirect terminal
deoxynucleotidyl transferase mediated deoxyuridine tri−phosphate nick end labeling(TUNEL))法により染色した(
図8B)。
【0101】
肝臓の形態の組織学的評価
肝標本を、抗体の30分前のCBLB502(0.04mg/kg)による前治療がある場合とない場合とで、抗Fas抗体注射後5時間のNIH−Swissマウス(
図2C)から収集し、抗Fas抗体注射後5時間、12時間および26時間の動態を調べた(
図S3)。治療していない(「未治療の」)マウスを対照として用いた。組織検体を、10%緩衝ホルマリンで固定し、パラフィンで包埋し、切片にし、加工して、H&E染色を行った。
【0102】
出血についての肝臓の組織学的染色
パラフィン切片を、Cy5標識抗マウスIgG抗体(Jackson
Immunoresearch社、紫色の疑似カラー)で染色し、DAPI(Invitrogen社、青色核染色)を含むProLong Goldアンチフェード試薬をマウントした。赤血球を、赤色チャネルで、赤色自己蛍光によって可視化した(
図2D)。AxioCam
HRc 13メガピクセルデジタルカメラを備えるAxiolmager Z1蛍光顕微鏡(Zeiss)下で、Axio Visionソフトウェア(rel.4.6.3)を用いて撮像した。
【0103】
カスパーゼ活性化
肝臓を小片にカットし、2mMのDTTを補充した緩衝液(10mM Hepes、0.4mM EDTA、0.2%
CHAPS、2%グリセロール)中で、組織グラインダー(Bullet Blender、NextAdvance社)を用いてホモジナイズした。全ステップを氷上で行った。肝臓ホモジネートを13,000×gで20分間遠心分離し、上清を−20℃で保存した。肝臓ホモジネート(全タンパク質50μgを含む)を、10mM HEPES、0.4mM
EDTA、0.2% CHAPS、2%グリセロールおよび2mM DTTを含む無細胞系の緩衝液200μl中50μMの蛍光発生基質アセチル−Asp(OMe)−Glu(OMe)−Val−Asp(OMe)−アミノメチルクマリン(Ac−DEVD−amc)(ENZO、LifeSciences社)とインキュベーションすることによって、カスパーゼ活性を測定した。蛍光光度計(励起:355、蛍光:485)(Victor3,PerkinElmer社)により、37℃でのインキュベーション後0時間および2時間の時点で、蛍光amcの放出を測定した。twpと0時間との差としてデータを示す(
図8E)。
【0104】
CBLB502注射がある場合とない場合における抗Fas抗体治療マウスの血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の検出
NIH−Swissマウス(1群あたり3匹)に、抗Fas抗体の30分前にCBLB502を1μg皮下注射した。マウスの血清中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の存在を、市販の酵素アッセイを用いて、製造業者(Stanbio
Laboratory社、ベルネ、テキサス州、米国)の取扱説明書に従って決定した。340nmの吸光度を60秒間隔(AA/分)で測定した(
図8F)。
【0105】
ウェスタンブロット解析
プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma−Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州)を補充したRIPA緩衝液(Sigma−Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州)を用いて、治療したマウスの肝臓および治療していないマウスの肝臓から全タンパク質を単離した。タンパク質抽出物を、4〜20%の変性ポリアクリルアミドNovexゲル(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)で電気泳動により分離し、ナイロンポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(Immobilon−P、Millipore社、ビレリカ、マサチューセッツ州)に移した。以下の抗体を用いた:カスパーゼ−8抗体(Calbiochem社、ダルムシュタット、ドイツ)、抗BID(AbCam社、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギ2次抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウス2次抗体を、Santa
Cruz Biotechnology社から購入した(サンタクルーズ、カリフォルニア州)(
図9Aおよび
図9B)。
【0106】
RNA解析
製造業者(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)の取扱説明書に従って、TRIzol試薬を用いて、治療したマウスの肝臓および治療していないマウスの肝臓から全RNAを抽出した。結果として生じるゲノムDNAの混入を除去するために、単離したRNAをDNasel(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)で処理した。cDNAを、製造業者の取扱説明書に従って、SuperScriptTM
II逆転写酵素およびオリゴ(dT)12−18プライマー(Invitrogen社、カールスバッド、カリフォルニア州)を用いて合成した。未治療のマウス、ならびにCBLB502およびLPSで30分間および2時間治療したマウスの肝臓中のBcl2AlB、Bcl2AlD、IER−3、Fos、JunおよびJunBの遺伝子のRNA発現を、RT−PCRによって検出した。GAPDHを、遺伝子発現の誘導を監視するための対照として用いた。プライマーを、LaserGeneソフトウェア(DNASTAR社、マディソン、ウィスコンシン州)を用いて設計し、次いで、UCSCゲノムブラウザインシリコPCRウェブサイト(Genome
Browser In− Silico PCR website)を用いて、プライマーの位置を調べた。IER3遺伝子に特異的なプライマー(GenBank受託番号NM_133662.2)(センス5’−ACTCGCGCAACCATCTCCACAC−3’およびアンチセンス5’−CTCGCACCAGGTACCCATCCAT−3’)、Bcl2AlB遺伝子(GenBank受託番号NM_007534.3)(センス5’−TAGGTGGGCAGCAGCAGTCA−3’およびアンチセンス5’−CTCCATTCCGCCGTATCCAT−3’、Bcl2AlD遺伝子(GenBank受託番号NM_007536.2)(センス5’−TCTAGGTGGGCAGCAGCAGTC−3’およびアンチセンス5’−ATTCCGCCGTATCCATTCTCC−3’、Jun(GenBank受託番号NM_010591.2(センス5’−TGAAGCCAAGGGTACACAAGAT−3’およびアンチセンス5’−GGACACCCAAACAAACAAACAT−3’、Fos(GenBank受託番号NM_010234.2(センス5’−GAGCGCAGAGCATCGGCAGAAG−3’およびアンチセンス5’−TTGAGAAGGGGCAGGGTGAAGG−3’、JunB(GenBank受託番号NM_008416.2(センス5’−AGCCCTGGCAGCCTGTCTCTAC−3’およびアンチセンス5’−GTGATCACGCCGTTGCTGTTGG−3’、GAPDH遺伝子(センス5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’およびアンチセンス5’−TCCACCACCATGTTGCTGTA−3’)を用いた。cDNAの増幅を、各遺伝子の特異的プライマー対を用いて20〜30サイクル行った(
図3C)。
【0107】
CT−26担癌マウスの実験的治療
抗Fas抗体への腫瘍の感受性に対するCBLB502の効果を、結腸腺癌CT−26腫瘍の2つの同系モデル:1)CT−26皮下増殖腫瘍、および2)CT−26腫瘍の実験的肝転移モデルを用いて分析した。CT−26細胞を、ルシフェラーゼの構成的発現のためのCMVプロモーター下でルシフェラーゼ遺伝子を運ぶレンチウイルスベクターで形質導入した。BALB/cマウスの両脇腹に、CT−26腫瘍細胞(2.5×10
5/100μl)を皮下注射することによって腫瘍を誘導した。腫瘍が直径約4〜5mmに達した時に、マウスを無作為に3群に分け、治療を開始した。1群のマウスに、抗Fas抗体(4μg/マウス)を腹腔内注射し、別の群のマウスを、抗Fas抗体(4μg/マウス)注射の24時間前および1時間前にCBLB502(1μg/マウス)で治療した。対照マウス(未治療)には、CBLB502および抗体の代わりにPBSを皮下注射および腹腔内注射した。腫瘍体積を、キャリパーを用いて1日おきに測定し、以下の式により計算した。
【0109】
対照群は2週間生存し、腫瘍が大きくなったために実験を終了した(
図9D)。腫瘍体積の統計的な差を、ANOVAの一方向分散分析を用いて推定した(p<0.05)。肝腫瘍増殖の進行については、CT−26腫瘍細胞(2.5×10
5/50μl)を、直接脾臓に注射し、5分後に脾臓を摘出した。マウスを、皮下腫瘍について記載したのと同じ方法で、腫瘍細胞の接種後5日目に始める抗Fas抗体および抗体とCBLB502の組み合わせで治療した。イソフルランで麻酔し、D−ルシフェリン(3mg/100μl、腹腔内)注射したマウスの非侵襲生物発光イメージングを、腫瘍細胞注射の14日後、17日後、22日後および28日後にXenogen
IVISイメージングシステム100シリーズを用いて行った。肝臓の腫瘍増殖を測定する時に、マウスを屠殺した。腫瘍のない肝臓の曲線の統計比較を、ログランク(マンテルコックス)検定(p<0.05)を用いて行った(
図9G)。
【0110】
実施例2
胸腺欠損マウスの異種モデルにおけるHCT116結腸腺癌の皮下増殖に対するCBLB502の抗腫瘍活性
HCT116(0.5×10
6/PBS100μl)を8匹の胸腺欠損ヌードマウスの両脇腹に皮下注射し、腫瘍を誘導した。腫瘍が直径約3〜5mm(注射後6日まで)になった時に、マウスを、CBLB502治療群については5匹のマウスおよびPBS対照群については3匹のマウスの2群に無作為に分けた。腫瘍増殖の抑制を、CBLB502治療マウスにおいて測定した。データを
図15に示す。
【0111】
実施例3
胸腺欠損マウスの異種モデルにおける293−TLR5皮下腫瘍増殖に対するCBLB502の抗腫瘍活性
腫瘍細胞(2×10
6/PBS100μl)を10匹の胸腺欠損ヌードマウスの両脇腹に皮下注射し、腫瘍を誘導した。腫瘍が直径約3〜5mm(注射後7日まで)になった時に、マウスを、CBLB502治療群については5匹のマウスおよびPBS対照群では5匹のマウスの2群に無作為に分けた。腫瘍増殖の抑制が、CBLB502治療マウスにおいて見られた。データを
図16に示す。
【0112】
実施例4
胸腺欠損マウスの異種モデルにおけるA549腺癌の皮下増殖に対するCBLB502の抗腫瘍活性
初代A549細胞(ATCC、CLL−185)(0.5×10
6/PBS100μl)を8匹の胸腺欠損ヌードマウスの両脇腹に皮下注射し、腫瘍を誘導した。腫瘍が直径約3〜5mm(注射後6日まで)になった時に、マウスを、CBLB502治療群については5匹のマウスおよびPBS対照群では3匹のマウスの2群に無作為に分けた。A549担癌マウスに、CBLB502(1μg/マウス)またはPBSのいずれか一方を、24時間の時間間隔で三回注射した。PBSを注射したマウスの対照群では、腫瘍体積は、徐々に、定期的に増加した。一方で、CBLB502注射マウスは、注射後最初の数日間は腫瘍増殖の抑制を示し、次いで、腫瘍増殖が回復した。最初の治療の2週間後(14日、15日および16日目)の第2ラウンドのCBLB502注射は、腫瘍増殖の再開前の約1〜2週間に、類似の腫瘍増殖抑制を誘導した。その結果、実験の終わりまでにA549腫瘍の大きさは、2群のマウスにおいて著しく異なり、PBS治療マウスと比べてCBLB502治療マウスではるかに小さかった。データを
図17に示す。
【0113】
実施例5
同系の同所性(皮下)増殖扁平上皮癌SCCVII腫瘍に対するCBLB502の抗腫瘍効果
400mm
3腫瘍サイズに達するまでの、CBLB502またはPBS(未治療)治療(0.1mg/kg、皮下、1日、2日、3日)後の同系C3HマウスにおけるSCCVII同所性腫瘍増殖の速度。n=6〜10。
図18のx軸は、CBLB502での治療がある場合とない場合での、腫瘍の体積が400mmに達するのに必要とされる日数を表す。データを
図18に示す。
【0114】
実施例6
皮下に進行性ウォード結腸直腸癌を有するフィッシャーラットにおけるCBLB502の抗腫瘍活性
CBLB502(0.2mg/kg×5用量)を、4匹のラットへの腫瘍移植後5日目に開始して、1日に1回、5日間、腹腔内投与した。対照の4匹のラットに、ビヒクル対照としてPBSを注射した。腫瘍重量を毎日測定した。完全寛解(腫瘍の完全消失)が、CBLB502で治療した3匹のラットにおいて観察された(
図19)。この群の第4のラットは、対照群のラットと同様の腫瘍増殖を有していた。
【0115】
実施例7
TLR5発現の点で異なるA549腫瘍(A549−shTLR5対A549−shV)に対するCBLB502注射の効果
TLR5発現を抑制するために、NF−kBプロモーターの制御下でホタルルシフェラーゼ遺伝子を発現するA549細胞(Cellecta社、マウンテンビュー、カリフォルニア州)を、ヒトTLR5遺伝子に特異的なshRNAを発現するレンチウイルスpLKOl−puroベクター(CCG−GCC−TTG−CCT−ACA−ACA−AGA−TAA−ACT−CGA−GTT−TAT−CTT−GTT−GTA−GGC−AAG−GTT−TTT−G)または対照の空ベクター(shV,Sigma−Aldrich社、セントルイス、ミズーリ州)で形質導入した。ピューロマイシン選択後、A549−shV細胞およびA549−shTLR5細胞を、製造業者のプロトコール(Promega社、カタログ番号E4530、マディソン、ウィスコンシン州)に従って、ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いてCBLB502治療に応答したNF−kB活性化について試験した。次いで、A549−shV細胞およびA549−shTLR5細胞(1×10
6/PBS100μl)を、20匹の胸腺欠損ヌードマウスの両脇腹に皮下注射し、腫瘍を誘導した。A549−shV腫瘍およびA549−shTLR5腫瘍の異種移植片が皮下で増殖しているマウスを、CBLB502または対照として作用するPBSのいずれか一方で治療した。これらの結果は、CBLB502のみを繰り返し投与すると、A549−shV(TLR5発現)腫瘍異種移植片において腫瘍増殖率が低下したことを示し、これはこの薬物の直接的な腫瘍抑制効果を示す。A549由来の腫瘍について示されるとおり、この効果は、ヒトTLR5に対するshRNAのレンチウイルス形質導入によって引き起こされるTLR5ノックダウンにより、A549腫瘍は、CBLB502の直接的な抗腫瘍効果に対してもはや感受性を示さないので、TLR5依存的であった。データを
図20に示す。
【0116】
実施例8
TLR5発現の点で異なるH1299腫瘍(HI299−対照対HI299−TLR5)に対するCBLB502注射の効果
TLR5発現を誘導するために、H1299細胞(本来はTLR5陰性)を、ヒトTLR5遺伝子を発現するレンチウイルスコンストラクトで形質導入した。TLR5の機能活性を、CBLB502治療に応答したIL−8産生によって調べた。次いで、両方の腫瘍細胞型(1×10
6/PBS100μl)を、胸腺欠損ヌードマウスの両脇腹に皮下注射し、腫瘍を誘導した。上記のA549モデルと同様に、担癌マウスを、CBLB502または対照として作用するPBSのいずれか一方で治療した。結果は、CBLB502のみを繰り返し投与すると、H1299−TLR5(TLR5発現)腫瘍異種移植片においてのみ腫瘍増殖率が低下したことを示し、これはこの薬物の直接的な腫瘍抑制効果を示す。対照H1299(TLR5陰性)について示されるとおり、腫瘍増殖はCBLB502治療に影響を与えなかった。データを
図21に示す。
【0117】
実施例9
この実施例は、膀胱組織がCBLB502に強く応答することを示す。上記のとおり、肝組織について実験を行った。PBS、CBLB502(0.2mg/kg)またはLPS(1mg/kg)のいずれか100μlの皮下注射後2時間のレポーターマウスにおいて、肝臓、小腸(回腸部分)、結腸、脾臓、腎臓、肺および心臓におけるNF−kB依存性ルシフェラーゼ発現を評価した。タンパク質抽出物1μgあたりに正規化したルシフェラーゼ活性を、各群3匹のマウスで検出した。データを
図22に示す。
【0118】
実施例10
表2は、マウスの標的臓器においてCBLB502によって転写活性化される遺伝子のスペクトルを示す(膀胱の結果を示す)。CBLB502で治療したマウスの膀胱で、注射後1時間および3時間に強く上方制御される遺伝子を、それらの機能に応じてクラスター化する。最大グループは、自然免疫を動員するメカニズムの活性化を示すケモカイン、サイトカインおよびそれらの受容体からなる。
【0119】
実施例11
TLR5を発現しないCT26腫瘍細胞を、BALB/c同系マウスに皮下注射し、腫瘍を誘導した。腫瘍を有するマウスを、24時間の間隔をあけて2回、CBLB502(0.04mg/kg、皮下)で治療した。治療マウスにおける皮下増殖腫瘍体積を、未治療のマウスで増殖する腫瘍と比較した。CBLB502での前治療は、腫瘍増殖にいかなる影響も与えなかった。その後、ルシフェラーゼ発現CT−26腫瘍細胞(
図23Bおよび23C)およびA20リンパ腫細胞(
図23D)の脾臓内注射により誘導し、その後、脾臓摘出術を行う肝転移の実験モデルにおいて、CT26腫瘍増殖を試験した。肝臓腫瘍増殖を、治療後4〜6日ごとにXenogen社のルシフェラーゼイメージングを用いて評価した。各撮像手順で、肝臓腫瘍増殖の無いマウスの数を数えた。結果は、両方の腫瘍モデルにおいて、CBLB502治療による肝臓の腫瘍増殖の防止および腫瘍の外観の著しい遅延を示す。肝臓腫瘍モデルにおけるCBLB502治療群と対照群との差は有意である(ログランクp<0.05)。データを
図23に示す。
【0120】
実施例12
Fas媒介肝毒性からのCBLB502保護
A.抗Fas抗体4μgを単独で腹腔内注射するか、または抗体の30分前、2時間前および6時間前に注射するCBLB502(1μg/マウス)と組み合わせて腹腔内注射した後のNIH−Swissマウスの生存率。各治療あたりのマウスの数を括弧に示す。B.抗Fas抗体毒性からの肝臓の保護。抗Fas抗体注射後5時間の肝臓におけるアポトーシスを、TUNEL法を用いて検出した。H&E染色による組織形態は、抗Fas抗体注射による肝臓への壊死損傷およびCBLB502による保護を明らかにした。肝臓の出血を、組織中の赤血球浸潤、マウスIgG対照(紫色)およびDAPI核(青色)によって検出した。データを
図24に示す。
【0121】
実施例13
TNFαおよびLPS毒性からの肝臓保護
A.TPS/TNF−aの30分前にCBLB502治療をした場合としない場合のマウスにおいて、カスパーゼ3/7を、TNF−aまたはLPSの注射後5時間で検出し、(炎症損傷を示す)脂質酸化を、注射後24時間で検出した。肺においてTNF(1mg/マウス)によって誘導されるカスパーゼ活性化および脂質酸化を、CBLB502注射によって防止した。LPS(10mg/kg)によって誘導される損傷効果を、LPSの30分前のCBLB502注射によって完全に無効にした。治療後24時間に、データをタンパク質濃度によって正規化した(n=3)。CBLB502をh−TNFの30分前に注射すると、マウスの肝臓において、カスパーゼ活性化は無く(TNF注射後5時間)、脂質酸化は非常に少なかった(炎症性損傷の指標として、TNF注射後24時間)。B.免疫組織化学的分析(H&E染色)により、TNF−a前のCBLB502注射による肝臓の完全性の保存が確認された。未治療の対照と比較して、TNF治療マウスの肝臓は、門脈周囲においてわずかに顕著であり、用量依存的である(TNF0.4mg/マウスでより重症な)肝細胞の空胞化を示した。CBLB502とTNF0.2mg/マウスまたはCBLB502とTNF0.4mg/マウスで治療したマウスの肝臓において、変化は最小であり、わずかな空胞化がまだ見られたが、肝細胞は正常に近かった。データを
図25に示す。
【0122】
実施例14
TNF−aおよびLPSの毒性からの肺保護
未治療の対照と比較して、TNF治療マウスの肺は、気腔の減少につながる肺胞における肺胞細胞の反応性増殖、充血、間質性浮腫および滲出液を示し、変化は用量依存的(TNF400でより深刻)であった。CBLB502とTNF200ngまたはCBLB502とTNF400ngで治療したマウスの肺において、変化は最小であった。肺胞壁のわずかな肥厚がまだ見られたが、形態は正常に近かった(
図26B)。CBLB502を、LPS(10mg/kg)またはh−TNF(0.05mg/kg)の30分前に注射した場合、マウスの肺の脂質酸化(炎症損傷の指標)レベルはほぼ正常であった(
図26A)。データを
図26に示す。
【0123】
実施例15
CBLB502注射による致死的なネズミチフス菌の経口投与からのマウスの保護
実験条件を
図27に示す。
【0124】
実施例16
この実施例は、イリノテカンがフラジェリンの抗腫瘍効果を無効にすることを示す。データを
図28に示す。同系のウォードWard結腸腫瘍が皮下で増殖しているフィッシャーラットを、CBLB502(0.2mg/kg)で治療し、これを3日間、1日に1回、腹腔内投与した。イリノテカン(200mg/kg)を、各CBLB502注射後30分の時点で静脈内注射した。PBSをビヒクル対照として用いた(
図28A)。CBLB502は、イリノテカン抗腫瘍活性と干渉せず、イリノテカン毒性からラットを救出した(
図28B)。しかし、CBLB502の抗腫瘍効果は、イリノテカン治療ラットにおいて観察されなかった(
図28C)。これは、CBLB502の抗腫瘍効果が、十分な自然免疫レベルを必要とすることを示す。
【表2】