(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
図を参照して、本発明の実施形態の変速機を説明する。本実施形態の変速機1は、駆動源たる内燃機関(エンジン等。図示省略。)の動力がフライホイール11及び発進クラッチ12を介して伝達される入力軸2と、入力軸2と平行に配置された出力部材たる出力軸3と、入力軸2と出力軸3に平行に配置された中間軸4と、トロイダル型無段変速機構5と、アイドルギア列6と、差動機構としての遊星歯車機構7と、を備える。
【0011】
トロイダル型無段変速機構5は、入力軸2と同心であって一体に回転する一対の入力側ディスク51と、入力側ディスク51の間であって入力軸2に対して同心且つ回転自在に配置された出力側ディスク52と、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間に配置され、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間で動力を伝達させるパワーローラ53とを備える。
【0012】
パワーローラ53は、入力側ディスク51と出力側ディスク52との間で動力を伝達させるべく回転できるように回転軸53aを備えると共に、回転軸53aと直交し紙面垂直方向に延びる揺動軸53b(トラニオン)に対して揺動自在となっており、パワーローラ53を揺動軸53b周りで揺動させて傾斜角度を変化させることで、トロイダル型無段変速機構5の変速比を変化できるように構成されている。
【0013】
出力側ディスク52の外周には、出力用の外歯52aが設けられている。この外歯52aには、中間軸4に一体回転するように固定された第1伝達ギア81が噛合している。
【0014】
遊星歯車機構7は、中間軸4に同心に固定されたサンギア71と、リングギア72と、サンギア71及びリングギア72に噛合するピニオン73を自転及び公転自在に軸支するキャリア74との3つの要素を備える。この3つの要素は、各要素の相対回転速度を直線で表すことができる共線図において、一方から、本実施形態においては、サンギア71側から、夫々、第1要素、第2要素、第3要素とすると、第1要素はサンギア71、第2要素はキャリア74、第3要素はリングギア72となる。
【0015】
遊星歯車機構7のギア比(リングギア72の歯数/サンギア71の歯数)をiとすると、
図4に示す共線図において、サンギア71とキャリア74との間の間隔と、キャリア74とリングギア72との間の間隔との比は、i:1に設定される。なお、共線図とは、サンギア71とキャリア74とリングギア72との相対回転速度の比を直線で表すことができる図である。
【0016】
アイドルギア列6は、入力軸2に固定された第1中間ギア61と、中間軸4と同心であってキャリア74(第2要素)に連結された第2中間ギア62と、第1中間ギア61と第2中間ギア62とに噛合し、図示省略した変速機ケースに回転自在に軸支された第3中間ギア63とで構成される。
【0017】
中間軸4には、第2伝達ギア82が回転自在に軸支されている。また、変速機1には、第1クラッチ91と、第2クラッチ92とが設けられている。第1クラッチ91は、第2伝達ギア82と第1伝達ギア81とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0018】
第2クラッチ92は、第2伝達ギア82とリングギア72とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第1クラッチ91及び第2クラッチ92は湿式多板クラッチで構成されている。なお、本発明の第1クラッチ及び第2クラッチは湿式多板クラッチに限らず、他のクラッチを用いてもよい。
【0019】
第2伝達ギア82は、出力軸3に固定された第3伝達ギア83と噛合している。出力軸3には、デファレンシャルギア13と噛合する出力ギア3aが固定されている。また、出力ギア3aと第3伝達ギア83との間に位置させてパーキングギア3bが出力軸3に固定されている。
【0020】
本実施形態の変速機1は、低速走行用及び後進用の低速モードたる反比例モードと、高速走行用の高速モードたる比例モードとを備える。反比例モードは、トロイダル型無段変速機構5の速度比と変速機1の速度比が反比例の関係となる状態である。比例モードは、トロイダル型無段変速機構5の速度比と変速機1の速度比とが比例の関係となる状態である。
【0021】
反比例モードと比例モードとは、第1クラッチ91及び第2クラッチ92で切り換えられる。反比例モードは、第1クラッチ91を開放状態とし、第2クラッチ92を連結状態とすることにより確立される。比例モードは、第1クラッチ91を連結状態とし、第2クラッチ92を開放状態とすることにより確立される。即ち、本実施形態においては、第1クラッチ91及び第2クラッチ92が本発明の動力伝達経路切換機構に該当し、第1クラッチ91が高速用クラッチ、第2クラッチ92が低速用クラッチに夫々該当する。
【0022】
ここで、トロイダル型無段変速機構5は、入力されるトルクの方向や大きさに応じて、速度比が変化する。これは、トロイダル型無段変速機構5を構成する部品が、弾性変形や組付けのために不可避な隙間の存在等によって変位するためである。
【0023】
図2は、横軸をトロイダル型無段変速機構5に入力されるトルク、縦軸をトロイダル型無段変速機構5の速度比の逆数である変速比の変化率として、両者の関係を示したグラフである。入力トルクのプラス側は、入力側ディスク51から出力側ディスク52にトルクが伝達される状態を示し、マイナス側は、出力側ディスク52から入力側ディスク51にトルクが伝達される状態を示している。
【0024】
そして、比例モードと反比例モードとを切り換えるときには、トロイダル型無段変速機構5を通過するトルクの方向が変化(逆転)する。このため、従来の変速機では、モードを切り換えるときに変速比が急変動し、変速ショックが生じる虞がある。
【0025】
これを防止すべく、本実施形態の変速機1では、
図3に示す、横軸の変速機1の速度比と、縦軸のトロイダル型無段変速機構5の速度比の関係を示す図において、比例モードと反比例モードとがクロスするようにしている。これを詳説すると、まず、トロイダル型無段変速機構5の
図2のグラフに示したトルクシフト特性を実験により予め求める。そして、得られたトロイダル型無段変速機構5のトルクシフト特性の速度比の変化率の変動幅Xに対応させて、
図3に示すように、比例モードと反比例モードとがクロスするようにする。
【0026】
具体的には、反比例モードにおいて、トロイダル型無段変速機構5の最小速度比のときのサンギア71(第1要素)の回転速度よりも、キャリア74(第2要素)の回転速度が
図2で示した変動幅Xに対応する分だけリングギア72(第3要素)が大きく回転するように、アイドルギア列6のギア比を設定する。
【0027】
図2のトルクシフト特性から、車両が加速しているときには、反比例モード中においては、トロイダル型無段変速機構5に負のトルクが通過する。このため、トロイダル型無段変速機構5の変速比は、基準となる目標の変速比(基準目標変速比)よりも小さくなる。換言すれば、
図7の左側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の速度比は、基準となる目標の速度比(基準目標速度比)よりも大きくなる。
【0028】
そして、比例モード中においては、トロイダル型無段変速機構5には、正のトルクが通過するため、
図2のトルクシフト特性から、トロイダル型無段変速機構5の変速比は、基準目標変速比よりも大きくなる。換言すれば、
図7の右側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の速度比は、基準目標速度比よりも小さくなる。
【0029】
従って、反比例モードから比例モードに移行するときには、基準目標変速比よりも小さい状態から、基準目標変速比よりも大きい状態に、変速機1の変速比が大きく切り替わる。従って、トロイダル型無段変速機構5の変速比を瞬時に切り換えない限り、反比例モードから比例モードへの切り換えによって、変速機1の変速比が大きく変化し、変速ショックを発生させる虞がある。
【0030】
本実施形態の変速機1は、
図7に遷移領域として示すように、反比例モード(L1)から比例モード(L2)に切り換えるときに、第1クラッチ91(高速用クラッチ)と第2クラッチ92(低速用クラッチ)とがともに連結状態となるようにしている。これにより、遷移領域においては、トロイダル型無段変速機構5のトルクシフト特性が相殺され、トルクシフト特性がない状態と同一の状態となる。
【0031】
また、反比例モード中においては、トロイダル型無段変速機構5の速度比は、基準となる目標の速度比(基準目標速度比)よりも大きくなるため、遷移領域に移行する際にも比較的スムーズに反比例モード(L1)から移行することができる。
【0032】
そして、遷移領域を超えて比例モード(L2)に移行するときには、基準となる目標速度比(基準目標速度比)よりもトルクシフト特性による変動分だけ大きな速度比となるように目標速度比を補正する(
図7の一点鎖線)。これにより、
図7に示すように、モードを切り換えた後の比例モード(L2)において、実速度比が基準目標速度比と同一若しくはこれに近づくこととなり、モード切換時に変速機1の変速比が大きく変化することを防ぎ、トロイダル型無段変速機構5の変速比を瞬時に切り換えることなく、変速ショックが発生することを抑制又は防止することができる。
【0033】
変速機1の制御部14は、CPU、メモリ等により構成された電子ユニット(ECU)であり、現在のモードやエンジン回転数、車両の走行速度等の所定の車両情報に基づき、トロイダル型無段変速機構5を通過するトルクの大きさと方向を求めることができる。即ち、本実施形態においては、制御部14が本発明のトルク検出手段に該当する。
【0034】
また、変速機1の制御部14は、予め
図2のトルクシフト特性をマップとして記憶しており、トロイダル型無段変速機構5を通過するトルクの大きさと方向から、トロイダル型無段変速機構5の変速比のずれ量を求めることができる。即ち、本実施形態の制御部14は、記憶手段、及び変速比ずれ量算出手段の機能も兼ね備えている。
【0035】
また、比例モードから反比例モードに移行するときには、車両は通常では減速状態であるため、比例モードでのトロイダル型無段変速機構5の入力トルクは負となり、
図2のトルクシフト特性から変速比の変化率はマイナスとなる。従って、変速比の逆数である速度比はプラスとなり、比例モードの線L2が
図6のように上方に移動する。
【0036】
逆に、反比例モードに移行したときには、動力循環が逆転するため、トロイダル型無段変速機構5の入力トルクは正となり、
図2のトルクシフト特性から変速比の変化率はプラスとなる。従って、変速比の逆数である速度比はマイナスとなり、反比例モードの線L1が
図6のように下方に移動する。
【0037】
従って、仮に
図2のトルクシフト特性を無視して、
図3に示すような、反比例モードにおけるトロイダル型無段変速機構5の速度比が最低である最下点L1aと、比例モードにおけるトロイダル型無段変速機構5の速度比が最低である最下点L2aとを一致させたとすると、比例モードから反比例モードに移行するときに、変速機1の速度比が大きく変化することとなり、変速ショックが生じてしまう。
【0038】
しかしながら、本実施形態の変速機1においては、
図2に示す変動幅X分だけ、両モードをクロスさせているため、
図8に示すように、車両の減速により、比例モードから反比例モードに移行するときにおいても、変速機1の速度比を略同一(同一を含む)に保つことができ、変速ショックを抑制(又は防止)することができる。
【0039】
これを詳説すると、
図2のトルクシフト特性から、車両が減速しているときであって、比例モード中においては、トロイダル型無段変速機構5に負のトルクが通過する。このため、トロイダル型無段変速機構5の変速比は、基準目標変速比よりも小さくなる。換言すれば、
図8の左側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の速度比は、基準目標速度比よりも大きくなる。
【0040】
そして、反比例モード中においては、トロイダル型無段変速機構5には、正のトルクが通過する。このため、
図2のトルクシフト特性から、トロイダル型無段変速機構5の変速比は、基準目標変速比よりも大きくなる。換言すれば、
図8の右側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の速度比は、基準目標速度比よりも小さくなる。
【0041】
従って、比例モードから反比例モードに移行するときには、基準目標変速比よりも小さい状態から、基準目標変速比よりも大きい状態に、変速機の変速比が大きく切り替わる。
【0042】
本実施形態の変速機1では、
図8に遷移領域として示すように、比例モード(L2)から反比例モード(L1)に切り換えるときに、第1クラッチ91(高速用クラッチ)と第2クラッチ92(低速用クラッチ)とがともに連結状態となるようにしている。これにより、遷移領域においては、トロイダル型無段変速機構5のトルクシフト特性が相殺され、トルクシフト特性がない状態と同一の状態となる。
【0043】
また、比例モード中においては、トロイダル型無段変速機構5の速度比は、基準となる目標の速度比(基準目標速度比)よりも大きくなるため、遷移領域に移行する際にも比較的スムーズに比例モード(L2)から移行することができる。
【0044】
そして、遷移領域を超えて反比例モード(L1)に移行するときには、基準目標速度比よりもトルクシフト特性による変動分だけ大きな速度比となるように目標速度比を補正する(
図8の一点鎖線)。これにより、
図8に示すように、モードを切り換えた後の反比例モード(L1)において、実速度比が基準目標速度比と同一若しくはこれに近づくこととなり、モード切換時に変速機1の変速比が大きく変化することを防ぎ、トロイダル型無段変速機構5の変速比を瞬時に切り換えることなく、変速ショックの発生を抑制又は防止できる。
【0045】
次に、
図9を参照して、所謂キックダウンによって、比例モードから反比例モードへ移行する場合について説明する。所謂キックダウンとは、アクセルペダルを大きくあるいは急激に踏み込んだ場合に、より低速な変速比に切り替わることをいう。
【0046】
この所謂キックダウンにより、比例モードから反比例モードに切り替わるときには、比例モードにおいては、トロイダル型無段変速機構5には、正のトルクが入力されるため、
図9の左側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の実際の速度比である実速度比は、基準となる目標の速度比(基準目標速度比)よりも下回ることとなる。
【0047】
従って、変速機1に設けられた制御部14は、実速度比が基準目標速度比となるように、下回る分だけ基準目標速度比に上乗せした目標速度比に補正して、トロイダル型無段変速機構5を制御する。なお、本実施形態においては、所謂キックダウンによる切り換え前の比例モードにおいて、目標速度比を
図2に示したトルクシフト特性に基づいて補正しているが、これに限らず、例えば、切換点のみを補正してもよい。これによっても、変速ショックを抑制することができる。
【0048】
また、比例モードから反比例モードに切り換わるときには、一時的に両クラッチ91、92が何れも連結状態となる。このとき、トロイダル型無段変速機構5は、正と負の両方のトルクが入力されて互いに相殺し合うため、実変速比は目標変速比と一致する。
【0049】
そして、比例モードから反比例モードに切り換わると、トロイダル型無段変速機構5には、負のトルクが入力されるため、
図9の右側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の実速度比は、基準目標速度比よりも上回ることとなる。
【0050】
従って、制御部14は、実速度比が基準目標速度比となるように、上回る分だけ基準目標速度比から低下させた目標速度比に補正して、トロイダル型無段変速機構5を制御する。
【0051】
このように、本実施形態の変速機1によれば、モード切換時にトルクシフト特性によってトロイダル型無段変速機構5の速度比にずれが発生しても、予め求めた最大変動幅Xに対応させて速度線図の速度線を交差させているため、切換時にトロイダル型無段変速機構5へのトルクの入力方向が切り換わるときでも変速機1全体の速度比が大きく切り替わることを防止できる。従って、本実施形態の変速機1によれば、モード切換時の変速ショックを抑えることができる。
【0052】
次に、
図10を参照して、アクセルペダルを戻した後に、変速機1の速度比が増加する場合の反比例モードから比例モードへの切り換わりについて説明する。制御部14は、車両の走行速度とエンジン回転数とから変速比を選択する。ここで、運転者がアクセルペダルを離してエンジン回転数が低下したときに、変速機1の全体としての変速比が高速側に移行する場合がある。
【0053】
このときに、反比例モードから比例モードに移行する場合について説明する。反比例モードから比例モードに切り替わるときには、反比例モードにおいては、トロイダル型無段変速機構5には、正のトルクが入力されるため、
図10の左側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の実際の速度比である実速度比は、基準目標速度比よりも下回ることとなる。
【0054】
従って、変速機1に設けられた制御部14は、実速度比が基準目標速度比となるように、下回る分だけ基準目標速度比に上乗せした目標速度比に補正して、トロイダル型無段変速機構5を制御する。
【0055】
また、反比例モードから比例モードに切り換わるときには、一時的に両クラッチ91、92が何れも連結状態となる。このとき、トロイダル型無段変速機構5は、正と負の両方のトルクが入力されて互いに相殺し合うため、実変速比は目標変速比と一致する。
【0056】
そして、反比例モードから比例モードに切り換わると、トロイダル型無段変速機構5には、負のトルクが入力されるため、
図10の右側に示すように、トロイダル型無段変速機構5の実速度比は、基準目標速度比よりも上回ることとなる。
【0057】
従って、制御部14は、実変速度比が基準目標速度比となるように、上回る分だけ基準目標速度比から低下させた目標速度比に補正して、トロイダル型無段変速機構5を制御する。
【0058】
なお、本実施形態では、駆動源として内燃機関を説明したが、本発明の駆動源はこれに限らず、例えば、モータ・ジェネレータ等の電動機を用いてもよい。
【0060】
図11は、従来の反比例モードと比例モードとのトロイダル型無段変速機構の速度比の最下点同士を一致させた場合における、加速時に反比例モードから比例モードに切り換えるときの速度線の変化を示している。
図11から明らかなように、反比例モードでは、速度線が上方に移動してしまう。また、比例モードでは、速度線が下方に移動する。このため、比例モードに切り換えた瞬間に変速機全体としての速度比が
図11の横矢印で示すように大きく変化してしまうことが分かる。従って、モード切換時に変速ショックが生じ易くなる。