特許第6041497号(P6041497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041497
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】燃料電池システム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04225 20160101AFI20161128BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20161128BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20161128BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20161128BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20161128BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20161128BHJP
【FI】
   H01M8/04 X
   H01M8/06 G
   H01M8/06 B
   H01M8/04 G
   !H01M8/12
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-19963(P2012-19963)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-161533(P2013-161533A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【弁理士】
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】栗林 誠
(72)【発明者】
【氏名】臼井 淑隆
(72)【発明者】
【氏名】中西 敏郎
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−096635(JP,A)
【文献】 特開2002−087801(JP,A)
【文献】 特開2009−205996(JP,A)
【文献】 特開2011−210650(JP,A)
【文献】 特開2005−170784(JP,A)
【文献】 特開2005−085504(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/145321(WO,A1)
【文献】 特開2004−288562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて発電する燃料電池と、
原燃料を水蒸気により改質して前記燃料ガスを吸熱反応により生成する改質器と、
前記燃料電池の電気化学反応後の余剰の前記燃料ガスの燃焼により前記改質器を加熱する加熱手段と、
前記改質器に前記原燃料を送り出す燃料ポンプと、
前記燃料電池の動作状態に応じて前記燃料ポンプにおける前記原燃料の流量を制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記燃料電池の運転開始の際、前記改質器の温度を上昇させるべき第1の時間帯において前記原燃料の流量を所定の流量値より増加させ、前記第1の時間帯とは異なる第2の時間帯において前記原燃料の流量を前記所定の流量値より減少させ、前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返すことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1の時間帯には前記原燃料の流量を前記所定の流量値より大きい第1の流量値とし、前記第2の時間帯には前記原燃料の流量を前記所定の流量値より少ない第2の流量値とすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記改質器の温度を検知する温度検知手段を更に備え、
前記制御手段は、前記温度検知手段で検知した温度が所定温度を超えてから、前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記改質器の温度が所定の上限温度を超えたとき、前記原燃料の流量を前記第2の流量値より小さい第3の流量値に設定することを特徴とする請求項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記制御手段は、前記改質器の温度が所定の下限温度に達しないとき、前記原燃料の流量を前記第1の流量値より小さく前記第2の流量値より大きい第4の流量値に設定することを特徴とする請求項2又は4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池の活性状態を検知する燃料電池活性検知手段を更に備えていることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記燃料電池活性検知手段により前記燃料電池の活性状態を検知したとき、前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返す制御を終了して、前記燃料電池の発電を開始することを特徴とする請求項6に記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記第1の時間帯は予め設定された第1の時間間隔であり、前記第2の時間帯は予め設定された第2の時間間隔であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項9】
酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて発電する燃料電池と、
原燃料を水蒸気により改質して前記燃料ガスを吸熱反応により生成する改質器と、
前記燃料電池の電気化学反応後の余剰の前記燃料ガスの燃焼により前記改質器を加熱する加熱手段と、
前記改質器に前記原燃料を送り出す燃料ポンプと、
を備えた燃料電池システムの制御方法において、
前記燃料電池の運転開始の際、前記改質器の温度を上昇させるべき第1の時間帯と、前記第1の時間帯とは異なる第2の時間帯とをそれぞれ判定し、
前記第1の時間帯に切替時は前記原燃料の流量を所定の流量値より増加させ、
前記第2の時間帯に切替時は前記原燃料の流量を前記所定の流量値より減少させ、
前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返した後に前記燃料電池の運転を開始することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項10】
前記第1の時間帯及び前記第2の時間帯をそれぞれ判定するデータと、前記第1の時間帯及び前記第2の時間帯のそれぞれの前記原燃料の流量を設定するデータとを予め保持するデータテーブルを参照して制御を行うことを特徴とする請求項9に記載の燃料電池システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて発電する燃料電池と、原燃料を水蒸気により改質して燃料ガスを生成する改質器を具備する燃料電池システム及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池システムにおいては、改質器により原燃料を水蒸気により改質し、改質された燃料ガスを燃料電池に供給することにより発電が行われるので、改質器により安定な改質反応を行うことが重要である。改質器による改質反応は吸熱反応であるため、改質器を十分に加熱する加熱手段を設ける必要がある。例えば、燃料ガスを燃料電池の燃料極に供給したときの残ガスを空気とともに燃焼させ、その燃焼熱を利用して改質器を加熱する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この場合、燃料電池システムの断熱容器内に燃料電池、改質器、加熱手段を一体的に収容するのが通常の構成であるため、燃料電池システムの起動時には、加熱手段の燃焼熱によって燃料電池を発電可能な温度まで昇温させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−179149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の燃料電池システムにおいては、上述したように改質器の改質反応が吸熱反応であることから、定常運転時に加熱手段に送られる少量の残ガスを用いて改質器に十分な燃焼熱を供給する構造にする必要がある。しかし、燃料電池の運転開始時には、改質器で改質された燃料ガスが燃料電池に過剰に送られるため、発電に寄与しない残ガスが増加し、加熱手段によって改質器に対し必要以上の熱量が付与される恐れがある。この場合、改質器に送られる原燃料を減らせば加熱手段の熱量は低減するが、燃料電池の昇温時間が長くなるという問題がある。一方、改質器には許容上限温度があり、過剰な燃焼熱が供給される場合、熱劣化を生じて改質反応に悪影響を与えることや、改質器の破損を招くことなどの懸念がある。また、改質器に用いられるステンレスや改質触媒の担持体に用いられるセラミックは一般に熱伝導性が悪いため、改質器の表面近傍から中心近傍まで燃焼熱が伝わりにくく、温度分布を有する傾向がある。そのため、改質器の表面近傍が加熱されたとしても、中心近傍が十分に加熱されていない場合、改質反応が不十分となる恐れがあり、燃料電池の昇温時間の増加や電極材の劣化などの要因となる。以上のように、上記従来の燃料電池システムにおいては、燃料電池の運転を開始する際、その昇温速度を十分に高く維持しつつ、改質器が許容上限温度を超えない範囲で確実かつ信頼性の高い改質反応を行うことは容易でなかった。
【0005】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、燃料電池の運転開始時に、燃料電池の十分な昇温速度を維持しつつ、改質器が許容上限温度を超えない範囲内で信頼性の高い改質反応を行うことが可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池システムは、酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて発電する燃料電池と、原燃料を水蒸気により改質して前記燃料ガスを吸熱反応により生成する改質器と、前記燃料電池の電気化学反応後の余剰の前記燃料ガスの燃焼により前記改質器を加熱する加熱手段と、前記改質器に前記原燃料を送り出す燃料ポンプと、前記燃料電池の動作状態に応じて前記燃料ポンプにおける前記原燃料の流量を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記燃料電池の運転開始の際、前記改質器の温度を上昇させるべき第1の時間帯において前記原燃料の流量を所定の流量値より増加させ、前記第1の時間帯とは異なる第2の時間帯において前記原燃料の流量を前記所定の流量値より減少させ、前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返すことを特徴としている。
【0007】
本発明の燃料電池システムによれば、燃料電池と改質器を備える燃料電池システムにおいて、燃料電池の運転を開始した際、燃料ポンプから改質器に送られる原燃料の流量を一定値に制御するのではなく、所定の流量値を基準に増減制御するように間欠的な制御が行われる。すなわち、第1の時間帯には原燃料の流量を増加方向に制御して改質器の温度を上昇させ、第2の時間帯には原燃料の流量を減少方向に制御して改質器の温度を低下させ、両方の時間帯を交互に繰り返すように制御するものである。これにより、加熱手段に送られる余剰の燃焼ガスの量を適切に制御し、改質器の温度分布を緩和しつつ、上限温度を超えない範囲内で改質器を適切に加熱して良好な改質反応を維持することができる。
【0008】
第1及び第2の時間帯における原燃料の流量は、2つの流量値を用いて制御することができる。例えば、第1の時間帯は所定の流量値より大きい第1の流量値に設定し、第2の時間帯は所定の流量値より小さい第2の流量値に設定してもよい。この場合、第1及び第2の時間帯のそれぞれの時間間隔と、第1及び第2の流量値のそれぞれの値を適切に設定することにより、改質器の昇温速度を適切に制御することができる。なお、第1の時間帯は予め設定された第1の時間間隔とし、第2の時間帯は予め設定された第2の時間間隔としてもよい。
【0009】
本発明の燃料電池システムにおいて、改質器の温度を検知する温度検知手段を設け、温度検知手段で検知した温度が所定温度を超えてから、第1及び第2の時間帯を交互に繰り返すようにしてもよい。この場合、制御手段は、改質器の温度が所定温度を超えたとき、原燃料の流量を前記第2の流量値より小さい第3の流量値に設定する制御や、改質器の温度が所定の下限温度に達しないとき、原燃料の流量を第1の流量値より小さく第2の流量値より大きい第4の流量値に設定する制御を行ってもよい。
【0010】
本発明の燃料電池システムにおいて、燃料電池の活性状態を検知する燃料電池活性検知手段を設けてもよい。この場合、制御手段は、燃料電池活性検知手段により燃料電池の活性状態を検知したとき、前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返す制御を終了して燃料電池の発電を開始することが望ましい。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の燃料電池システムの運転方法は、酸化剤ガスと燃料ガスとを電気化学的に反応させて発電する燃料電池と、原燃料を水蒸気により改質して前記燃料ガスを吸熱反応により生成する改質器と、前記燃料電池の電気化学反応後の余剰の前記燃料ガスの燃焼により前記改質器を加熱する加熱手段と、前記改質器に前記原燃料を送り出す燃料ポンプと、を備えた燃料電池システムの制御方法において、前記燃料電池の運転開始の際、前記改質器の温度を上昇させるべき第1の時間帯と、前記第1の時間帯とは異なる第2の時間帯とをそれぞれ判定し、前記第1の時間帯に切替時は前記原燃料の流量を所定の流量値より増加させ、前記第2の時間帯に切替時は前記原燃料の流量を前記所定の流量値より減少させ、前記第1の時間帯と前記第2の時間帯とを交互に繰り返した後に前記燃料電池の運転を開始することを特徴としている。
【0012】
本発明の燃料電池システムの運転方法において、第1及び第2の時間帯をそれぞれ判定するデータと、第1及び第2の時間帯のそれぞれの原燃料の流量を設定するデータとを予め保持するデータテーブルを参照して制御を行ってもよい。これにより、改質器の温度を検知する温度手段を設けることなく、燃料電池の運転開始時に改質器の温度を適切に制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料電池システムにおいて、燃料電池の運転開始時に、第1及び第2の時間帯を繰り返して原燃料の流量を増減制御するようにしたので、加熱手段に送られる余剰の燃焼ガスの量を適切に制御するとともに、改質器の温度分布を緩和することができる。これにより、燃料電池の昇温速度を低下させることなく、改質器が上限温度を超えることによる破損を防止し、信頼性の高い改質反応を保ち得る燃料電池システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の燃料電池システムの構成例を示す図である。
図2】本実施形態の燃料電池システムの運転開始時に実行される第1の制御フローを示す図である。
図3】第1の制御フローを適用した場合の動作例を示す図である。
図4】本実施形態の燃料電池システムの運転開始時に実行される第2の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した燃料電池システムの形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0016】
図1は、本実施形態の燃料電池システム1の構成例を示している。図1に示すように、燃料電池システム1に設けられた断熱容器C内には、燃料電池スタック10、改質器11、上部燃焼層12、下部燃焼層13、温度センサ14が一体的に収容されている。また、燃料電池システム1において、断熱容器Cの周囲には、制御部20、水ポンプ21、水管路22、燃料ポンプ23、原燃料管路24、空気ポンプ25、空気管路26、パワーコントローラ27が設けられている。なお、実際の燃料電池システム1には、他にも多くの構成要素が含まれるが、図1では省略している。
【0017】
燃料電池スタック10は、燃料電池の構成単位である燃料電池セルを複数個積層して形成される。燃料電池セルは、燃料ガス中の水素と空気中の酸化剤ガス(酸素)の電気化学反応を利用して、燃料極であるアノードと空気極であるカソードとの間に電力を発生する。燃料電池スタック10としては、コジェネレーションシステムに導入可能な多様な方式を採用可能であるが、一例として、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を用いることができる。なお、図1において、燃料電池スタック10に代え、単位の燃料電池セルのみを設ける場合であっても本発明の適用が可能である。
【0018】
改質器11は、炭化水素を含む原燃料を水蒸気により改質し、改質後の燃料ガスを燃料電池スタック10に送り出す。図1には示されないが、改質器11には、燃料ポンプ23から原燃料管路24を介して供給される原燃料を脱硫する脱硫器と、水ポンプ21から水管路22を経由して供給される水を気化して改質に用いる水蒸気を生成する気化器が付随している。燃料電池スタック10では、改質器11から送られる改質後の燃料ガスが各燃料極に導入されるとともに、空気ポンプ25及び空気管路26から送られる空気(酸化剤ガス)が各空気極に導入される。そして、燃料電池スタック10の各単位セルにおける燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応に基づく発電出力は、パワーコントローラ27に送られる。また、燃料電池スタック10に送られた改質後の燃料ガスのうち、発電に寄与しなかった余剰の燃料ガス(残ガス)が流路P1を経由して上部燃焼層12に送られる。一方、燃料電池スタック10に供給された空気の一部は流路P2を経由して上部燃焼層12に送られる。
【0019】
ここで、改質器11による水蒸気改質は吸熱反応であって十分に加熱する必要があるため、そのための加熱手段として上部燃焼層12及び下部燃焼層13を設けたものである。よって、改質触媒が充填された改質器11(改質層)を燃焼触媒が充填された上部燃焼層12及び下部燃焼層13により上下から挟んだ3層構造とすることで、改質器11を十分に加熱することができる。上部燃焼層12において上記残ガスが空気とともに燃焼することにより燃焼熱が発生し、さらに下部燃焼層13において同様の燃焼による燃焼熱が発生する。これにより、上部燃焼層12及び下部燃焼層13により燃焼熱が上下から改質器11に伝達され、その温度が次第に上昇する。燃料電池スタック10から上部燃焼層12及び下部燃焼層13を経由して外部に排出される排気ガスは、熱交換器(不図示)に送られて湯水との間で熱交換が行われる。なお、上部燃焼層12の燃焼熱により、その近傍に位置する燃料電池スタック10を加熱可能な構造になっている。
【0020】
なお、図1の構成例では、改質器11の上下に加熱手段としての上部燃焼層12及び下部燃焼層13を配置する構造を示したが、この構造には限られず、改質器11の上側又は下側に加熱手段としての1層の燃焼層を配置してもよい。
【0021】
温度センサ14は、燃料電池スタック10の温度と改質器11の温度をそれぞれ計測し、それぞれの計測値を制御部20に送出する。なお、図1では簡略化のため、1つの温度センサ14を示しているが、実際には燃料電池スタック10と改質器11のそれぞれの近傍に温度センサが設けられる。本実施形態では、温度センサ14の計測値を用いて、燃料電池スタック10の運転開始時に改質器11の温度上昇を制御する処理を特徴としているが、その詳細は後述する。なお、かかる処理において、温度センサ14の計測値に代えて、燃料電池スタック10の内部抵抗の計測値を用いて同様の制御を行う場合は、温度センサ14を設けなくてもよい。
【0022】
制御部20は、燃料電池システム1全体の動作を制御する制御手段として機能し、例えば、本実施形態の処理を実現するプログラムを実行可能なマイクロプロセッサや処理に必要なデータを記憶するメモリ等により構成される。制御部20は、燃料電池スタック10の動作状態に応じて、水ポンプ21、燃料ポンプ23、空気ポンプ25に対し、それぞれの流量を制御する制御信号を送出する。水ポンプ21は、水タンク(不図示)に蓄えられている水を水管路22に送り出す。燃料ポンプ23は、外部から取り込まれた原燃料を原燃料管路24に送り出す。空気ポンプ25は、外部から取り込まれた空気を空気管路26に送り出す。なお、水管路22及び原燃料管路24は改質器11に接続され、空気管路26は燃料電池スタック10に接続されている点は上述した通りである。本実施形態では、上述したように、改質器11の温度上昇を制御する処理に際し、燃料ポンプ23の原燃料流量を間欠制御する点に特徴があるが、詳しくは後述する。さらに、制御部20は、パワーコントローラ27による外部の負荷への電力供給量を制御する。
【0023】
次に、本実施形態の燃料電池システム1における制御手法の具体例に関し、代表的な2つの制御フローについて図2図4を参照して説明する。図2は、本実施形態の燃料電池システム1の運転開始時に実行される第1の制御フローを示すとともに、図3は、第1の制御フローを適用した場合の動作例を示している。第1の制御フローが開始されると、制御部20の制御により、燃料電池システム1が起動した際に燃料電池スタック10の発電に先立って、燃料ポンプ23、水ポンプ21、空気ポンプ25のそれぞれの制御が開始されるとともに、燃料電池スタック10及び改質器11の昇温が開始される(ステップS10)。このとき、制御部20のタイマー機能に基づいて更新される経過時間のカウントを開始する(ステップS11)。これ以降、改質器11により改質された燃料ガスが燃料電池スタック10に供給され、図1の流路P1に沿って残ガスが上部燃焼層12に流れることにより加熱が進んでいく。ステップS10は、図3におけるタイミングt0に対応する。このとき、燃料ポンプ23に対する原燃料流量は、初期時点の流量値F0に設定されるものとする。
【0024】
次いで、温度センサ14の計測値を取得し、改質器11における改質器温度を更新する(ステップS12)。そして、ステップS12で更新された改質器温度と改質器11の上限温度Tmaxとの大小関係を判定する(ステップS13)。この上限温度Tmaxは、改質器11の加熱による破損を確実に防止し得る温度に設定する必要がある。例えば、Tmax=1000℃に設定される。ステップS13の判定の結果、改質器温度が上限温度Tmaxを超えているときは、上述の経過時間をリセットする(ステップS14)。続いて、燃料ポンプ23に対する原燃料流量を流量値F1に設定する(ステップS15)。この流量値F1は、改質器11の温度を下げて保護するために、上述の初期時点の流量値F0より十分に低い値に設定する必要がある。例えば、F1=0.8L/minに設定される。
【0025】
一方、ステップS13の判定の結果、改質器温度が上限温度Tmax以下であるときは、続いて、改質器温度と、原燃料流量の後述の間欠制御を開始すべき下限温度Tminとの大小関係を判定する(ステップS16)。この下限温度Tminは、上述の上限温度Tmaxより低い温度であり、例えば、Tmin=700℃に設定される。ステップS16の判定の結果、改質器温度が下限温度Tminを超えているときは、改質器温度の上昇を緩やかにするために原燃料流量の間欠制御(ステップS17〜S21)が開始される。まず、ステップS11でカウントが開始された経過時間と、予め設定された期間Pa(図3)との大小関係を判定する(ステップS17)。その結果、経過時間が期間Paに満たないときは、燃料ポンプ23に対する原燃料流量を流量値Faに設定する(ステップS18)。ステップS18では、改質器11表面の熱を内部に伝導させるべき第2の時間帯に移行し、原燃料流量を初期時点の流量値F0よりも小さい流量値Faに減少させるものである。例えば、Fa=1L/minに設定される。例えば、図3においては、タイミングt1において原燃料流量が流量値F0から流量値Faに減少していることがわかる。
【0026】
さらに、ステップS17の判定の結果、経過時間が期間Paに達したときは、続いて、ステップS11でカウントが開始された経過時間と、予め設定された期間Pabとの大小関係を判定する(ステップS19)。その結果、経過時間が期間Pabに満たないときは、燃料ポンプ23に対する原燃料流量を流量値Fbに設定する(ステップS20)。ステップS20では、改質器11の温度を上昇させるべき第1の時間帯に移行し、原燃料流量を初期時点の流量値F0よりも大きい流量値Fbに増加させるものである。例えば、Fb=2L/minに設定される。
【0027】
ここで、期間Pabは、本実施形態の原燃料流量の間欠制御における1周期であり、図3に示す1周期内の原燃料流量の大小に対応する各期間Pa、Pbの和(Pab=Pa+Pb)に相当する。例えば、Pa=2秒、Pab=12秒(Pb=Pab−Pa=10秒)に設定される。よって、ステップS19の判定の結果、経過時間が期間Pabに達したときは、間欠制御の1周期が完了するので、経過時間をリセットする(ステップS21)。つまり、ステップS11でカウントが開始された経過時間は、間欠制御の1周期を規定するために用いられる。
【0028】
一方、ステップS16の判定の結果、改質器温度が下限温度Tmin以下であるときは、ステップS21と同様、経過時間をリセットする(ステップS22)。すなわち、改質器11はまだ温度が十分に低い状態にあるため、原燃料流量の間欠制御を行わないものである。続いて、燃料ポンプ23に対する原燃料流量を流量値F0に設定する(ステップS23)。この流量値F0は、上述したように初期時点における流量値であり、例えば、F0=1.8L/minに設定される。
【0029】
次に、ステップS15、S18、S20、S21、S23のいずれかに続いて、温度センサ14の計測値を取得し、燃料電池スタック10におけるスタック温度を更新する(ステップS24)。そして、ステップS24で更新されたスタック温度と、予め設定された発電開始温度Teとの大小関係を判定する(ステップS25)。この発電開始温度Teは、加熱により燃料電池スタック10の安定的な発電動作が可能となる温度に設定する必要がある。例えば、Te=650℃に設定される。ステップS25の判定の結果、スタック温度が発電開始温度Te以下のときは、ステップS11に戻って再び図2の処理を繰り返す。一方。ステップS25の判定の結果、スタック温度が発電開始温度Teを超えたときは、図2の処理を完了して、燃料電池スタック10の発電動作を開始する(ステップS26)。ステップS26は、図3におけるタイミングt2に対応する。
【0030】
なお、図2の制御フローには示されないが、水ポンプ21に対する水流量に関しても、燃料ポンプ23に対する原燃料流量の変化に追随させて制御することが望ましい。これは、改質器11の改質反応に用いる原燃料と水蒸気の比率が変動し、S/C(スチームカーボン比)が適正な範囲内に保てなくなることを防止するためである。よって、制御部20では、原燃料流量を増加させるときは水流量も増加させ、原燃料流量を減少させるときは水流量も増加させるような制御を行うことが前提である。
【0031】
ここで、図3の動作例においては、改質器温度及びスタック温度に関し、図2の処理を適用した場合の推移を実線で示すとともに、図2の処理を適用しなかった場合の推移を点線で重ねて示している。図3から明らかなように、改質器温度及びスタック温度は、タイミングt1を過ぎると、間欠制御の有無に応じた推移の違いが現れる。図3に示すように原燃料流量は、初期時点の流量値F0から、タイミングt1以降の期間Paには流量値Faに減少し、タイミングt1以降の期間Pbには流量値Fbに増加し、これを交互に繰り返す。このような制御は図3における実線と点線の乖離に反映され、期間Paには改質器温度及びスタック温度が上昇し、期間Pbには改質器温度及びスタック温度が低下する。
【0032】
まず、スタック温度に着目すると、各期間Pa、Pbを交互に繰り返す際、間欠制御の適用の有無に応じて実線と点線が大きく乖離することはない。これは、1周期内の各期間Pa、Pbにおける温度上昇と温度低下が適度なバランスとなるように各パラメータ(Pa、Pb、Fa、Fb)が調整されているためである。これに対し、改質器温度に着目すると、各期間Pa、Pbが交互に繰り返す際、間欠制御を適用しない場合(点線)に比べて間欠制御を適用する場合(実線)は下方に乖離していることがわかる。これにより、間欠制御を適用しない場合には改質器温度が上限温度Tmaxを超えるのに対し、間欠制御を適用することにより改質器温度を上限温度Tmaxより低い範囲内に保つことができる。
【0033】
本来、改質器11は、上部燃焼層12及び下部燃焼層13からの燃焼熱を受けやすい構造であるため、燃料電池スタック10に比べても昇温速度が大きくなる。しかし、改質器11は熱伝導率の小さい材料により形成されるため、加熱時の温度分布が不均一になる。すなわち、改質器11のうち、上部燃焼層12と下部燃焼層13からの距離に応じた温度分布が生じ、中心近傍の部分に比べて表面近傍の部分が高温になっている。そして、上述の間欠制御のうち、改質器11の温度を期間Pbにて急激に上昇させつつ、改質器11内の温度分布を期間Paにて緩和させることができる。そのため、本実施形態によれば、間欠制御を適用しない場合に比べ、各期間Pa、Pbを交互に繰り返すことで改質器11の温度分布が比較的小さい状態に保ち、改質器温度が上限温度Tmaxを超えないような制御が可能となる。
【0034】
以上のように、本実施形態の燃料電池システム1の運転開始時に第1の制御フローを実行することにより、燃料電池スタック10の昇温速度を低下させることなく、改質器11の温度が上限温度Tmaxを超えない範囲で動作させ、改質器11の改質反応を安定化させることができる。この場合、原燃料流量は、初期時点の流量値F0(所定の流量値)を基準に、期間Pa(第2の時間帯)には原燃料流量を流量値Fa(第2の流量値)に減少させ、期間Pb(第1の時間帯)には原燃料流量を流量値Fb(第1の流量値)に増加させることで、期間Pbには改質器11の温度を急峻に上昇させ、期間Paには改質器11の表面の熱を内部に伝導させることで温度分布を緩和させることができる。よって、改質器11の温度分布が大きくなって内部に燃焼熱が伝わらない場合の改質反応の信頼性の低下や燃料電池スタック10の電極材の劣化を防止することができる。また、改質器11の温度が上限温度Tmaxを超えたときに原燃料流量を流量値F1(第3の流量値)に設定し、改質器11の温度が下限温度Tmin以下であるときに原燃料流量を流量値F0(第4の流量値)に設定する制御により、改質器11の温度の一層の安定化を図ることができる。
【0035】
本実施形態においては、燃料電池スタック10の温度に対応して期間Pa、Pbを最適化させたとしても、改質器11の温度上昇を抑制することできる。なお、第1の制御フローにおいては期間Paに加えて期間Pab(Pa+Pb)が予め設定されているが、これは期間Pa、Pbが予め設定されていることと等価である。この場合、期間Pa、Pb(期間Pa、Pab)は制御部20により読み出し可能なメモリ内に構成したデータテーブルに保持しておくことができる。このデータテーブルの内容は、燃料電池スタック10及び改質器11の動作を事前に解析しておくことで作成することができる。そして、第1の制御フローの実行時に、制御部20がデータテーブルを適宜参照して、期間Pa、Pb(期間Pa、Pab)に対応する経過時間をカウントすればよい。
【0036】
次に図4は、本実施形態の燃料電池システム1の運転開始時に実行される第2の制御フローを示している。第2の制御フローが開始されると、初期時点のステップS30、S31の制御は、図2のステップS10、S12と同様である。次いで、ステップS31における改質器温度の更新に続いて、温度センサ14の計測値によりスタック温度を更新する(ステップS32)。そして、ステップS32で更新する直前のスタック温度を前回のスタック温度としたとき、更新後のスタック温度と前回のスタック温度に基づき、変動スタック温度を算出する(ステップS33)すなわち、変動スタック温度は次式によって求めることができる。
変動スタック温度=現在のスタック温度−前回のスタック温度
【0037】
次いで、ステップS31で更新された改質器温度と上述の上限温度Tmax(図3)との大小関係を判定する(ステップS34)。その結果、改質器温度が上限温度Tmaxを超えているときは、図2のステップS15と同様、原燃料流量を流量値F1に設定する(ステップS35)。一方、ステップS34の判定の結果、改質器温度が上限温度Tmax以下であるときは、続いて、改質器温度と、本実施形態の間欠制御を開始すべき下限温度Tminとの大小関係を判定する(ステップS36)。ステップS36の判定の結果、改質器温度が下限温度Tmin以下であるときは、図2のステップS23と同様、原燃料流量を初期時点の流量値F0に設定する(ステップS37)。なお、ステップS35、S37で設定される各流量値F1、F0は、第1の制御フローと共通の値を用いてもよいが、異なる値を用いることも可能である。
【0038】
一方、ステップS36の判定の結果、改質器温度が下限温度Tminを超えたときは、ステップS33で算出した変動スタック温度が0℃より大きいか否かを判定する(ステップS38)。その結果、変動スタック温度が0℃より大きいときは、図2のステップS20と同様、原燃料流量を流量値Fbに設定し(ステップS39)、変動スタック温度が0℃以下のときは、図2のステップS18と同様、原燃料流量を流量値Faに設定する(ステップS40)。ステップS38〜S40では、スタック温度が増加しているときは原燃料流量を大きい流量値Fbに設定し、スタック温度が減少しているときは原燃料流量を小さい流量値Faに設定するものである。
【0039】
次いで、ステップS35、S37、S39、S40のいずれかに続いて、ステップS32で更新されたスタック温度と、予め設定された発電開始温度Teとの大小関係を判定する(ステップS41)。なお、発電開始温度Teの意味は、図2で説明した通りである。ステップS41の判定の結果、スタック温度が発電開始温度Te以下のときは、ステップS31に戻って再び図4の処理を繰り返す。一方。ステップS41の判定の結果、スタック温度が発電開始温度Teを超えたときは、図4の処理を完了して、燃料電池スタック10の発電動作を開始する(ステップS42)。
【0040】
以上のように、本実施形態の燃料電池システム1の運転開始時に第2の制御フローを実行することにより、基本的には第1の制御フローと同様の効果を得ることができる。この場合、第1の制御フローの図2では期間Pa、Pb(期間Pa、Pab)が予め設定された時間間隔であるのに対し、第2の制御フローでは期間Pa、Pbに相当する各期間が燃料電池システム1の動作状態に応じて変化する点が異なるため、第1の制御フローで説明したデータテーブルは不要である。
【0041】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。例えば、本実施形態では、温度センサ14により計測した燃料電池スタック10の温度計測値に基づいて、燃料電池スタック10の発電動作の開始を判断する例を示しているが(ステップS25、S26、S41、S42)、これには限定されず、他の手段により燃料電池スタック10の活性状態を検知したときに、発電動作を開始してもよい。例えば、燃料電池スタック10の内部抵抗を検知し、内部抵抗が所定の抵抗値以下となったとき、活性状態であると判断することができる。本実施形態において、図1に示す燃料電池システム1の構成例や、図2及び図4に示す制御フローは、いずれも一例であるので、同様の目的を達成できる限り適宜に変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
1…燃料電池システム
10…燃料電池スタック
11…改質器
12…上部燃焼層
13…下部燃焼層
14…温度センサ
20…制御部
21…水ポンプ
22…水管路
23…燃料ポンプ
24…原燃料管路
25…空気ポンプ
26…空気管路
27…パワーコントローラ
C…断熱容器
図1
図2
図3
図4