特許第6041547号(P6041547)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6041547-追尾装置 図000022
  • 特許6041547-追尾装置 図000023
  • 特許6041547-追尾装置 図000024
  • 特許6041547-追尾装置 図000025
  • 特許6041547-追尾装置 図000026
  • 特許6041547-追尾装置 図000027
  • 特許6041547-追尾装置 図000028
  • 特許6041547-追尾装置 図000029
  • 特許6041547-追尾装置 図000030
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041547
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】追尾装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
   G01S13/66
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-130771(P2012-130771)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-253909(P2013-253909A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123434
【弁理士】
【氏名又は名称】田澤 英昭
(74)【代理人】
【識別番号】100101133
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 初音
(74)【代理人】
【識別番号】100173934
【弁理士】
【氏名又は名称】久米 輝代
(74)【代理人】
【識別番号】100156351
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 秀央
(72)【発明者】
【氏名】丸山 晃佐
(72)【発明者】
【氏名】亀田 洋志
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 祥史
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−040500(JP,A)
【文献】 特開2007−187468(JP,A)
【文献】 特開平09−297176(JP,A)
【文献】 特開平01−263499(JP,A)
【文献】 特開2000−055599(JP,A)
【文献】 特開2003−329771(JP,A)
【文献】 特開2002−174499(JP,A)
【文献】 特開平08−178595(JP,A)
【文献】 特開昭63−101700(JP,A)
【文献】 特開昭62−155498(JP,A)
【文献】 特開昭59−084098(JP,A)
【文献】 特開昭59−044598(JP,A)
【文献】 特開昭58−096999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/78−3/789
7/00−7/51
13/00−13/95
17/00−17/95
F41G 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある時点での位置および速度が既知である無誘導の目標に関して、既知の標準的な条件を想定した微分方程式に基づいて算出した標準軌道と、レーダセンサによって得られる観測値との差を求めるとともに、前記標準軌道と、前記無誘導の目標の真の軌道との差が、前記標準軌道に対する軌道修正量推定値になることに基づき、前記微分方程式を用いて前記軌道修正量推定値の状態遷移を表す状態遷移行列を求め、前記状態遷移行列を用いて予測処理を行い、前記予測処理の結果を予測値とし、前記標準軌道と前記観測値との差を観測値の残差として平滑処理を行い、前記軌道修正量推定値を生成する追尾処理を行う軌道修正量推定部と、
前記軌道修正量推定部によって生成された前記軌道修正量推定値に、前記状態遷移行列を乗算し、前記レーダセンサによる観測が終了した後の軌道修正量予測値を生成し、該軌道修正量予測値を前記標準軌道に加算することによって該標準軌道を修正し、前記レーダセンサによる観測が終了した後の前記無誘導の目標の未来位置および速度を予測する軌道予測部とを備えた追尾装置。
【請求項2】
前記軌道予測部により予測された前記無誘導の目標の未来位置および速度によって、前記標準軌道を更新し、該更新された軌道を新たな標準軌道として使用することを特徴とする請求項1記載の追尾装置。
【請求項3】
ある時点での位置、速度および空気抵抗が既知である無誘導の目標に関して、既知の標準的な条件を想定した微分方程式に基づいて算出した標準軌道と、レーダセンサによって得られる観測値との差を求めるとともに、前記標準軌道と、前記無誘導の目標の真の軌道との差が、前記標準軌道に対する軌道修正量推定値および空気抵抗修正量推定値になることに基づき、前記微分方程式を用いて前記軌道修正量推定値および前記空気抵抗修正量推定値の状態遷移を表す状態遷移行列を求め、前記状態遷移行列を用いて予測処理を行い、前記予測処理の結果を予測値とし、前記標準軌道と前記観測値との差を観測値の残差として平滑処理を行い、前記軌道修正量推定値および前記空気抵抗修正量推定値を生成する追尾処理を行う軌道修正量推定部と、
前記軌道修正量推定部によって生成された前記軌道修正量推定値および前記空気抵抗修正量推定値に、前記状態遷移行列を乗算し、前記レーダセンサによる観測が終了した後の軌道空気抵抗修正量予測値を生成し、該軌道空気抵抗修正量予測値を前記標準軌道に加算することによって該標準軌道を修正し、前記レーダセンサによる観測が終了した後の前記無誘導の目標の未来位置、速度および空気抵抗を予測する軌道予測部とを備えた追尾装置。
【請求項4】
前記軌道予測部により予測された前記無誘導の目標の未来位置、速度および空気抵抗によって、前記標準軌道を更新し、該更新された軌道を新たな標準軌道として使用することを特徴とする請求項3記載の追尾装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある時点での位置および速度が既知である無誘導の目標を、ある時点から一定時間経過した後にレーダセンサによって観測、追尾した結果を用いて、観測終了後の無誘導の目標の未来位置を予測する追尾装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の追尾装置としては、次のような動作を行うものがある(例えば、下記非特許文献1参照)。
図8は、従来技術における追尾装置の構成の一例を示すブロック図である。
この図8における追尾装置は、空気抵抗等の環境要因を複数(例えば、n通り)仮定した運動モデルに基づく追尾処理部201−1〜201−nを有し、目標観測装置101より無誘導の目標の観測値を追尾処理部201−1〜201−nへ入力し、n個の追尾処理部において追尾処理を行う。
【0003】
次に、信頼度算出部301において、n通りの追尾処理出力に基づき、前記n通りの運動モデルのそれぞれに対する信頼度を算出する。
そして、観測が終了した時点で、信頼度が最も高い運動モデルを選択し、選択された運動モデルに基づいて、軌道予測部401において、無誘導の目標の位置および速度を算出することによって、無誘導の目標の観測終了後の未来位置の予測を行っている。
【0004】
このような従来技術では、複数の追尾処理部による追尾処理出力に基づき、最も信頼度の高い運動モデルを選択することにより、無誘導の目標の実際の運動との誤差が最も小さい運動モデルを用いて、無誘導の目標の未来位置を予測することを意図している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ravindra, Bar−Shalom, Willet,“Projectile Identification and Impact Point Prediction,” IEEE, Trans., AES, Vol. 46, No.4, pp.2004−2021, October 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
このような従来技術では、観測終了後の無誘導の目標の軌道の予測に、前記n通りの運動モデルの中で、最も信頼度の高い運動モデルを用いる。
運動モデルは、未知の運動を仮定するものであるため、実際の運動を運動モデルによって厳密に定義することは、実質的に不可能である。
このため、従来技術では、前記信頼度の最も高い運動モデルが、無誘導の目標の実際の運動と一致しない場合には、予測精度が不十分になるという課題がある。
【0007】
また、レーダセンサで観測できる時間が短い場合には、各追尾処理部による最終出力の収束状態が不十分となる。
このため、従来技術では、未来位置を予測する際に用いる位置、速度等に関する初期状態の精度が悪くなり、予測精度が悪くなるという課題もある。
【0008】
ここで、前記課題への対策を施した、従来技術に基づく理想形の一例として、図9のような構成による追尾装置も考えられる。
図9の追尾装置は、複数(例えば、m通り)の追尾初期条件候補500−1〜500−mを仮定した上で、複数(例えば、n通り)の運動モデルに基づく追尾処理部201−1〜201−nを設け、追尾初期条件と追尾処理部を総当りに組み合わせて追尾処理を行う。
そして、総当りの組み合わせによる追尾処理出力の信頼度を計算し、観測が終了した時点で信頼度が最も高い組み合わせに基づいて、無誘導の目標の観測終了後の未来位置を予測する。
【0009】
追尾装置を図9のように構成し、さらに、無限個の追尾初期条件と、無限個の運動モデルを仮定して、最も信頼度の高い組み合わせを探索することにより、目標の実際の運動に合致する追尾初期条件と運動モデルの組み合わせが存在する可能性がある。
【0010】
しかし、無限個の追尾初期条件と無限個の運動モデルを仮定することは、処理の負荷や複雑さの面で、非実用的であるという課題がある。
また、特にレーダセンサで観測できる時間が短い場合には、追尾処理部で推定する要素のうち、空気抵抗等の環境要因を推定することが困難であるという課題もある。
【0011】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、レーダセンサで観測できる時間が短い場合においても、処理負荷を大きくすることなく、観測終了後の無誘導の目標の未来位置を高精度に予測する追尾装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の追尾装置は、ある時点での位置および速度が既知である無誘導の目標に関して、既知の標準的な条件を想定した微分方程式に基づいて算出した標準軌道と、レーダセンサによって得られる観測値との差を求めるとともに、標準軌道と、無誘導の目標の真の軌道との差が、標準軌道に対する軌道修正量推定値になることに基づき、微分方程式を用いて軌道修正量推定値の状態遷移を表す状態遷移行列を求め、状態遷移行列を用いて予測処理を行い、予測処理の結果を予測値とし、標準軌道と観測値との差を観測値の残差として平滑処理を行い、軌道修正量推定値を生成する追尾処理を行う軌道修正量推定部と、軌道修正量推定部によって生成された軌道修正量推定値に、状態遷移行列を乗算し、レーダセンサによる観測が終了した後の軌道修正量予測値を生成し、該軌道修正量予測値を標準軌道に加算することによって該標準軌道を修正し、レーダセンサによる観測が終了した後の無誘導の目標の未来位置および速度を予測する軌道予測部とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レーダセンサで観測できる時間が短い状況においても、処理負荷を大きくすることなく、観測終了後の無誘導の目標の未来位置を高精度に予測する追尾装置を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態1による追尾装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1による追尾装置の追尾処理の流れを示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態1から実施の形態3による追尾装置によって実現される効果を示す概念図である。
図4】本発明の実施の形態2による追尾装置の構成を示すブロック図である。
図5】本発明の実施の形態2による追尾装置の追尾処理の流れを示すフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態3による追尾装置の構成を示すブロック図である。
図7】本発明の実施の形態3による追尾装置の追尾処理の流れを示すフローチャートである。
図8】従来の追尾装置の構成を示すブロック図である。
図9】従来の追尾装置の理想形の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の追尾装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による追尾装置の構成の一例を示すブロック図である。
また、図2は、本発明の実施の形態1による追尾装置の追尾処理の流れを示すフローチャートである。
【0016】
図1に示す本発明の実施の形態1の追尾装置は、目標観測装置101、標準軌道算出部601、軌道修正量推定部700、軌道予測部800を備えている。
また、軌道修正量推定部700は、内部に位置差算出部701、軌道修正量追尾処理部702を備えている。
さらに、軌道予測部800は、内部に軌道修正量予測部801、標準軌道修正部802を備えている。
【0017】
図2に示すフローチャートにおける各動作ステップとして付されている番号は、どの構成要素による処理かを明確にするために、図1の各構成要素の番号と一致させて示している。
【0018】
次に動作について説明する。
標準軌道算出部601は、無誘導の目標のある時点において、既知の位置、速度、および標準的な条件に基づいて、無誘導の目標の標準軌道を、位置および速度に関するデータとして算出する。
【0019】
具体的には、標準軌道算出部601は、無誘導の目標のある時点t0において、既知の位置、速度と、運動に関する標準的な条件を想定した微分方程式を満たす関数f(x)を用い、時刻tkにおける無誘導の目標の標準的な位置および速度xS,kを、式(1)のように算出する。
式(1)における関数f(x)としては、例えば、式(2)のような形の微分方程式を満たすものを使用する。
【0020】
式(2)において、gは重力加速度である。
また、αは空気抵抗に関わる成分である。
なお、関数f(x)が満たす微分方程式は、式(2)の形に限定されるものではない。
【0021】
そして、標準軌道算出部601は、標準軌道のうち、位置に関するデータを位置差算出部701に出力し、位置および速度に関するデータを、標準軌道修正部802に出力する(ステップST601)。
【0022】
目標観測装置101は、アンテナ・受信系(図示せず)より入力される受信信号に対して、公知の方法により信号処理を行う。
具体的には、目標観測装置101は、時刻tkにおいて、信号処理の結果として、無誘導の目標の観測値zkを生成する。
【0023】
そして、目標観測装置101は、信号処理の結果である観測値を、位置差算出部701に出力する(ステップST101)。
【0024】
位置差算出部701は、目標観測装置101より入力した時刻tkにおける観測値と、標準軌道算出部601より入力した標準軌道の時刻tkにおける位置との差を計算する。
【0025】
具体的には、位置差算出部701は、式(3)のようにして、時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukを算出する。
【0026】
そして、位置差算出部701は、時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukを、軌道修正量追尾処理部702に出力する(ステップST701)。
【0027】
軌道修正量追尾処理部702は、本来は式(2)の微分方程式におけるαのずれである空気抵抗等の不一致を標準軌道からのずれと見なし、式(4)のように定義した標準軌道に対する軌道修正量の状態ベクトルyを用いて、位置差算出部701より入力した時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukに対して、追尾処理を行う。
【0028】
具体的には、軌道修正量追尾処理部702は、まず、時刻tk-1における軌道修正量推定値y(ハット)k-1|k-1および平滑誤差共分散行列Pk-1|k-1に基づき、式(5)のように予測処理を行う。

【0029】

また、Qk-1は駆動雑音ベクトルの共分散行列である。
【0030】
次に、軌道修正量追尾処理部702は、時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukと、式(5)の予測処理の結果に基づき、式(7)のように平滑処理を行い、軌道修正量推定値y(ハット)k|kを生成する(ステップST702−1)。
式(7)のRkは、観測雑音共分散行列である。
【0031】
軌道修正量追尾処理部702は、レーダセンサによる観測が行われ、観測値が得られている間、前記式(5)および式(7)による追尾処理を行う(ステップST702−2のNoの側のフロー)。
【0032】
レーダセンサによる観測が終了した時点tkにおいて、軌道修正量追尾処理部702は、時刻tjにおける軌道修正量推定値y(ハット)k|kを、軌道修正量予測部801に出力する(ステップST702−2のYesの側のフロー)。
【0033】
軌道修正量予測部801は、レーダセンサによる観測が終了した後の軌道修正量を予測する。
具体的には、軌道修正量予測部801は、軌道修正量追尾処理部702から入力された時刻tkにおける軌道修正量推定値y(ハット)k|kを軌道修正量予測値yP,jの初期値として、式(8)のように時刻毎の軌道修正量予測値yP,jを算出する。
【0034】
そして、軌道修正量予測部801は、式(8)のようにして算出した時刻毎の軌道修正量予測値yP,jを、標準軌道修正部802に出力する(ステップST801)。
【0035】
標準軌道修正部802は、軌道修正量予測部801より入力された軌道修正量予測値を、標準軌道算出部601より入力された標準軌道の位置および速度に加算し、無誘導の目標の未来位置および速度を算出する。
具体的には、式(9)のように、標準軌道の位置および速度xs,iに軌道修正量予測値yP,iを加算することにより、無誘導の目標の未来位置および速度xP,iを算出する。
【0036】
そして、標準軌道修正部802は、無誘導の目標の未来位置および速度xP,iを表示装置(図示せず)に出力する(ステップST802)。
【0037】
以上のように、実施の形態1によれば、レーダセンサによる観測値と標準軌道の差に基づいて、標準軌道に対する軌道修正量を推定、および予測し、予測によって算出した軌道修正量予測値を標準軌道の位置および速度に加算することで、無誘導の目標の未来位置を予測している。
【0038】
この結果、空気抵抗等の不一致により、レーダセンサによる観測が終了した後の目標の未来位置予測に用いる初期状態と、標準軌道が一致しない状況においても、図3のように、軌道修正量予測値を標準軌道に加算することによって、標準軌道と真の軌道の差異が縮小される。
このため、レーダセンサで観測できる時間が短い状況においても、処理負荷を大きくすることなく、レーダセンサによる観測が観測終了した後に、無誘導の目標の軌道を高精度に予測することが可能となる。
【0039】
また、空気抵抗の不一致だけでなく、例えば、揚力、風等の他の外力の影響によって、目標の未来位置予測に用いる初期状態と、標準軌道が一致しない状況における目標の未来位置予測にも対応可能である。これは、以降の実施の形態でも同様である。
さらに、考慮する外力の種類が多いほど、従来技術によって予測した未来位置は、真の未来位置に近くなるが、パラメータ探索範囲が広くなる。
これに対して、実施の形態1で考慮している外力は重力のみであるが、重力以外の外力を観測値と標準軌道の差分に集約して、予測した未来位置を真の未来位置に近づけることが可能である。これは、以降の実施の形態でも同様である。
【0040】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2による追尾装置の構成の一例を示すブロック図である。
また、図5は、本発明の実施の形態2による追尾装置の追尾処理の流れを示すフローチャートである。
【0041】
図4に示す本発明の実施の形態2の追尾装置は、実施の形態1における追尾装置の構成要素に加えて、軌道修正量推定部700内に空気抵抗修正量追尾処理部703を備えている。
また、標準軌道算出部601a、軌道修正量予測部801a、および標準軌道修正部802aは、実施の形態1における標準軌道算出部601、軌道修正量予測部801、および標準軌道修正部802に、新たな機能を加えている。
【0042】
また、図5に示すフローチャートにおける各動作ステップとして付されている番号は、どの構成要素による処理かを明確にするために、図4の各構成要素の番号と一致させて示している。
【0043】
次に動作について説明する。
標準軌道算出部601aは、無誘導の目標のある時点において、既知の位置、速度、空気抵抗、および標準的な条件に基づいて、無誘導の目標の標準軌道を、位置、速度および空気抵抗に関するデータとして算出する。
具体的には、標準軌道算出部601aは、無誘導の目標のある時点t0において既知の位置、速度および空気抵抗と、運動に関する標準的な条件を想定した微分方程式を満たす関数f2(x)を用い、時刻tkにおける無誘導の目標の標準的な位置、速度および空気抵抗x2,S,kを、式(10)のように算出する。
【0044】
式(10)における関数f2(x)としては、例えば、式(11)のような形の微分方程式を満たすものを使用する。
なお、関数f2(x)が満たす微分方程式は、式(11)の形に限定されるものではない。
目標観測装置101は、実施の形態1における目標観測装置101と同一の機能を有し、時刻tkにおいて、信号処理の結果として観測値zkを生成する。
【0045】
そして、目標観測装置101は、信号処理の結果である観測値を、位置差算出部701に出力する(ステップST101)。
【0046】
位置差算出部701は、実施の形態1における位置差算出部701と同一の機能を有し、目標観測装置101より入力した時刻tkにおける観測値と、標準軌道算出部601aより入力した標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukを、前記式(3)のようにして計算する。
【0047】
そして、位置差算出部701は、時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukを、軌道修正量追尾処理部702と空気抵抗修正量追尾処理部703に出力する(ステップST701)。
【0048】
軌道修正量追尾処理部702は、実施の形態1における軌道修正量追尾処理部702と同一の機能を有し、前記式(4)のように定義した標準軌道に対する軌道修正量の状態ベクトルyを用いて、位置差算出部701より入力した時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukに対して、前記式(5)および式(7)による追尾処理を行い、軌道修正量推定値y(ハット)k|kを生成する(ステップST702−1)。
【0049】
軌道修正量追尾処理部702は、レーダセンサによる観測が行われ、観測値が得られている間、前記式(5)および式(7)による追尾処理を行う(ステップST702−2のNoの側のフロー)。
【0050】
レーダセンサによる観測が終了した時点tkにおいて、軌道修正量追尾処理部702は、時刻tjにおける軌道修正量推定値y(ハット)k|kを軌道修正量予測部801aに出力する(ステップST702−2のYesの側のフロー)。
【0051】
空気抵抗修正量追尾処理部703は、標準軌道に対する空気抵抗修正量cを用いて、位置差算出部701より入力した時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukに対して、追尾処理を行う。
【0052】
具体的には、空気抵抗修正量追尾処理部703は、まず、時刻tk-1における空気抵抗修正量推定値c(ハット)k-1|k-1および平滑誤差分散pk-1|k-1に基づき、式(12)のように予測処理を行う。
【0053】
式(12)において、φk-1は、関数f2(x)を考慮した状態遷移行列である。
具体的には、φk-1は、無誘導の目標の真の軌道xT,2、標準軌道xS,2、関数f2(x)および空気抵抗修正量cに対して、式(13)を満たす関数G(c)を考慮した状態遷移行列である。
また、qk-1は駆動雑音の分散である。
【0054】
次に、空気抵抗修正量追尾処理部703は、時刻tkにおける観測値と標準軌道の時刻tkにおける位置との差ukと、式(12)の予測処理の結果に基づき、式(14)のように平滑処理を行い、空気抵抗修正量推定値c(ハット)k|kを生成する(ステップST703−1)。
【0055】
空気抵抗修正量追尾処理部703は、レーダセンサによる観測が行われ、観測値が得られている間、前記式(5)および式(7)による追尾処理を行う(ステップST703−2のNoの側のフロー)。
【0056】
レーダセンサによる観測が終了した時点tkにおいて、空気抵抗修正量追尾処理部703は、時刻tjにおける空気抵抗修正量推定値c(ハット)k|kを、軌道修正量予測部801aに出力する(ステップST703−2のYesの側のフロー)。
【0057】
軌道修正量予測部801aは、レーダセンサによる観測が終了した後の軌道修正量を予測する。
具体的には、軌道修正量予測部801aは、軌道修正量追尾処理部702から入力された時刻tkにおける軌道修正量推定値y(ハット)k|kおよび空気抵抗修正量追尾処理部703から入力された時刻tkにおける空気抵抗修正量推定値c(ハット)k|kを軌道空気抵抗修正量予測値y2,P,jの初期値として、式(15)のように時刻毎の軌道空気抵抗修正量予測値yP,2,jを算出する。
【0058】

【0059】
そして、軌道修正量予測部801aは、算出した時刻毎の軌道空気抵抗修正量予測値y2,P,jを、標準軌道修正部802aに出力する(ステップST801a)。
【0060】
標準軌道修正部802aは、軌道修正量予測部801aより入力された軌道空気抵抗修正量予測値を標準軌道の位置、速度および空気抵抗に加算し、無誘導の目標の未来位置、速度および空気抵抗を算出する。
具体的には、式(17)のように、標準軌道の位置、速度および空気抵抗x2,s,iに軌道空気抵抗修正量予測値y2,P,iを加算することにより、無誘導の目標の未来位置、速度および空気抵抗x2,P,iを算出する。
【0061】
そして、標準軌道修正部802aは、無誘導の目標の未来位置、速度および空気抵抗x2,P,iを表示装置(図示せず)に出力する(ステップST802a)。
【0062】
以上のように、実施の形態2によれば、レーダセンサによる観測値と標準軌道の差に基づいて、標準軌道に対する軌道修正量と空気抵抗修正量を推定、および予測し、予測によって算出した軌道空気抵抗修正量予測値を標準軌道の位置、速度および空気抵抗に加算することで、無誘導の目標の未来位置を予測している。
【0063】
この結果、空気抵抗等の不一致により、レーダセンサによる観測が終了した後の目標の未来位置予測に用いる初期状態と、標準軌道が一致しない状況においても、図3のように、軌道空気抵抗修正量予測値を標準軌道に加算することによって、標準軌道と真の軌道の差異がさらに縮小される。
このため、レーダセンサで観測できる時間が短い状況においても、処理負荷を大きくすることなく、レーダセンサによる観測が観測終了した後に、無誘導の目標の軌道をさらに高精度に予測することが可能となる。
【0064】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3による追尾装置の構成の一例を示すブロック図である。
また、図7は、本発明の実施の形態3による追尾装置の追尾処理の流れを示すフローチャートである。
【0065】
図6に示す本発明の実施の形態3の追尾装置は、実施の形態1における追尾装置の構成要素に加えて、標準軌道メモリ602を備えたものである。
また、標準軌道修正部802bから標準軌道メモリ602への出力が加わっている。
【0066】
なお、図6に示す本発明の実施の形態3の追尾装置は、実施の形態1における追尾装置の構成要素に標準軌道メモリ602を加えたものであるが、実施の形態2における追尾装置の構成要素に標準軌道メモリ602を加えて構成しても良い。
【0067】
次に動作について説明する。
以下では、実施の形態1における追尾装置の構成要素に標準軌道メモリ602を加えた構成として、各構成要素の機能を説明する。
標準軌道算出部601は、実施の形態1における標準軌道算出部601と同様の機能を有し、無誘導の目標のある時点において既知の位置、速度、および標準的な条件に基づいて、無誘導の目標の標準軌道を、位置および速度に関するデータxS,kとして算出する。
【0068】
そして、標準軌道算出部601は、標準軌道のデータxS,kを、標準軌道メモリ602に出力する(ステップST601)。
【0069】
標準軌道メモリ602は、標準軌道算出部601から入力された標準軌道のデータxS,kを記憶する。
【0070】
また、標準軌道メモリ602は、時刻tkにおいて、標準軌道の位置および速度を位置差算出部701へ出力する(ステップST602)。
【0071】
位置差算出部701は、2つの入力元の一方が標準軌道メモリ602に変更されている以外、実施の形態1における位置差算出部701と同様の機能を有している(ステップST701)。
【0072】
軌道修正量追尾処理部702は、実施の形態1における軌道修正量追尾処理部702と同様の機能を有している(ステップST702)。
【0073】
軌道修正量予測部801は、実施の形態1における軌道修正量予測部801と同様の機能を有している(ステップST801)。
【0074】
標準軌道修正部802bは、実施の形態1における標準軌道修正部802と同様に、軌道修正量予測部801より入力された軌道修正量予測値を標準軌道の位置および速度に加算し、無誘導の目標の未来位置および速度xP,iを算出する。
【0075】
そして、標準軌道修正部802bは、無誘導の目標の未来位置および速度xP,iを、標準軌道メモリ602に出力して、標準軌道メモリ602に記憶されている標準軌道データを更新する。
このように、標準軌道メモリ602において更新された標準軌道データを、新たな標準軌道の位置および速度として用いる。
【0076】
また、標準軌道修正部802bは、無誘導の目標の未来位置および速度xP,iを、表示装置(図示せず)に出力する(ステップST802b)。
【0077】
以上のように、実施の形態3によれば、レーダセンサによる観測値と標準軌道の差に基づいて、標準軌道に対する軌道修正量を推定、および予測し、予測によって算出した軌道修正量予測値を標準軌道の位置および速度に加算することで得られた目標の位置および速度を新たな標準軌道としている。
【0078】
また、実施の形態3において、複数の無誘導の目標が連続して、ほぼ同条件で運動する場合を想定すれば、1番目の目標に関して図6の標準軌道修正部802bにて得られた修正量を初期の標準軌道に加算することで、標準軌道メモリ602内の標準軌道が図3の破線から実線のように修正される。
これにより、2番目の目標に対する観測、未来位置予測を行う際の標準軌道が、より真の軌道に近くなる。
この結果、ある無誘導の目標を観測した後に、無誘導の目標とほぼ同様の軌道で別の無誘導の目標を観測し、かつ空気抵抗等の不一致により、レーダセンサによる観測が終了した後の目標の未来位置予測に用いる初期状態と、標準軌道が一致しない状況において、図3のように、軌道修正量予測値を標準軌道に加算して得られた位置および速度を新たな標準軌道とすることによって、2番目以降の無誘導の目標に対する標準軌道と真の軌道の差異が縮小される。
このため、レーダセンサで観測できる時間が短い状況においても、処理負荷を大きくすることなく、レーダセンサによる観測が観測終了した後に、2番目以降の無誘導の目標の軌道を高精度に予測することが可能となる。
【0079】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0080】
101 目標観測装置、601,601a 標準軌道算出部、602 標準軌道メモリ、700 軌道修正量推定部、701 位置差算出部、702 軌道修正量追尾処理部、703 空気抵抗修正量追尾処理部、800 軌道予測部、801,801a 軌道修正量予測部、802,802a,802b、標準軌道修正部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9