特許第6041601号(P6041601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041601
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】高所作業車
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/24 20060101AFI20161206BHJP
   B66F 9/06 20060101ALI20161206BHJP
   B66F 17/00 20060101ALI20161206BHJP
   B66F 11/04 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   B66F9/24 K
   B66F9/24 W
   B66F9/06 N
   B66F17/00 F
   B66F11/04
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-213480(P2012-213480)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-65592(P2014-65592A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116644
【氏名又は名称】株式会社アイチコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100157417
【弁理士】
【氏名又は名称】並木 敏章
(72)【発明者】
【氏名】古荘 弘志
(72)【発明者】
【氏名】森山 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮本 拓
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−045985(JP,U)
【文献】 特開2010−208778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 7/00−19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行可能な車体と、前記車体上に設けられ、電動モータにより駆動されて作業装置を昇降移動させる昇降装置とを有する高所作業車であって、
前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持する複数のブレーキ手段と、
少なくとも停止時における前記昇降装置の昇降移動を検出する昇降検出手段と、
前記電動モータおよび前記ブレーキ手段の作動制御を行う制御手段と、
前記ブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断する制動能力判断手段とを備え、
前記制御手段は、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持するときに、前記複数のブレーキ手段のうちのいずれか所定のブレーキ手段を作動させる制御を行い且つ前記電動モータによる駆動を停止する第1制御を行った後、他のブレーキ手段を作動させる第2制御を行うように構成され、
前記制動能力判断手段は、前記第1制御が行われた後前記第2制御が行われるまでの間に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され
前記制動能力判断手段は、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有していないと判断したときに、前記第2制御が行われた後に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記他のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され、
前記制御手段は、前記制動能力判断手段において前記他のブレーキ手段も前記所定の制動能力を有していないと判断されたときに、前記電動モータによる駆動制御を行って前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持させるように構成されたことを特徴とする高所作業車。
【請求項2】
走行可能な車体と、前記車体上に設けられ、電動モータにより駆動されて作業装置を昇降移動させる昇降装置とを有する高所作業車であって、
前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持する複数のブレーキ手段と、
少なくとも停止時における前記昇降装置の昇降移動を検出する昇降検出手段と、
前記電動モータおよび前記ブレーキ手段の作動制御を行う制御手段と、
前記ブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断する制動能力判断手段とを備え、
前記制御手段は、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持するときに、前記複数のブレーキ手段のうちのいずれか所定のブレーキ手段を作動させる制御を行い且つ前記電動モータによる駆動を停止する第1制御を行った後、他のブレーキ手段を作動させる第2制御を行うように構成され、
前記制動能力判断手段は、前記第1制御が行われた後前記第2制御が行われるまでの間に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され、
前記制動能力判断手段は、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有していないと判断したときに、前記第2制御が行われた後に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記他のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され、
前記制御手段は、前記制動能力判断手段において前記他のブレーキ手段も前記所定の制動能力を有していないと判断されたときに、前記電動モータによる駆動制御を行って前記昇降装置の安全性を確保できる緩やかな降下速度で前記昇降装置を降下させるように構成されたことを特徴とする高所作業車。
【請求項3】
前記制御手段は、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持する毎にもしくは累積停止回数が所定停止回数に達する毎に、前記複数のブレーキ手段のうち前記第1制御において作動させる前記ブレーキ手段を変更するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の高所作業車。
【請求項4】
前記制御手段は、前記昇降装置を上昇移動させるように前記電動モータによる駆動を行わせ且つ前記複数のブレーキ手段のうちのいずれか所定のブレーキ手段を作動させる第3制御を行うように構成され、
前記制動能力判断手段は、前記第3制御が行われた後に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高所作業車。
【請求項5】
前記制御手段は、前記作業台が所定昇降位置に位置したときに前記第3制御を行うように構成されており、前記作業台が前記所定昇降位置に位置する毎にもしくは前記作業台が前記所定昇降位置に位置する累積回数が所定回数に達する毎に、前記複数のブレーキ手段のうち前記第3制御において作動させる前記ブレーキ手段を変更するように構成されたことを特徴とする請求項に記載の高所作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降装置により作業装置を昇降させるように構成された高所作業車に関し、さらに詳細には、昇降装置の昇降を停止させて作業装置を停止保持するためのブレーキ手段に関する。
【背景技術】
【0002】
高所作業車の一例として、複数のマスト部材を入れ子式に且つ伸縮自在に組み合わせて構成された垂直マスト式の昇降装置により、作業者が搭乗可能に構成された作業装置としての作業台を垂直昇降させるタイプの高所作業車が知られている。このように構成される高所作業車は、屋内作業に使用されることが多いため排気ガスを排出しない電動式のものが多い。この電動式の高所作業車として、例えばチェーン駆動により昇降マストを伸縮させる構成とし、電動モータによりチェーンが巻き掛けられたスプロケットを回転駆動して、作業台を昇降させるように構成されるものがある。この高所作業車を用いて高所作業を行う場合、作業台に搭乗した作業者は、高所作業車を走行させて作業場所の下方に移動させた後、昇降マストを伸長させて作業台を作業場所近傍まで上昇させて所望の高所作業を行う。
【0003】
ところで、高所作業は、作業台を所望高所に停止保持させた状態で行うことが多く、昇降された作業台を確実に停止保持させることが、作業上特に重要である。電動式の高所作業車において、作業台を所望高所で停止保持するには、例えばスプロケットを電磁ブレーキで制動保持することが考えられる。このとき、例えば非通電時に作動するように構成されたいわゆる無励磁作動型(ネガティブ作動型)の電磁ブレーキにより昇降マストの昇降を停止させて、作業台を停止保持させる構成が知られている。この無励磁作動型の電磁ブレーキは、非通電時(非励磁時)にはバネ力等によりブレーキが作動し、通電励磁することによりブレーキを解除する構成である。このため、例えば電磁ブレーキに駆動電流を供給する電気回路に故障が生じて駆動電流の供給が停止する場合であっても、昇降マストの昇降が防止されて作業台が停止保持される。例えば特許文献1には、マスト昇降用の電動モータが作動時には電磁ブレーキを励磁してブレーキを解除し、一方、電動モータが非作動時には電磁ブレーキを非励磁状態にしてブレーキを作動させる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−45999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高所作業のために昇降マストの昇降および停止を繰り返している間に、電磁ブレーキが故障したり電磁ブレーキの制動能力が低下したりすると、作業台は自重により降下するという問題がある。従来から、このような問題の発生を事前に予防することが求められている。しかし、特許文献1の構成では、作業台が実際に自重により降下して初めて、電磁ブレーキの制動能力が、昇降マストの昇降を防止できる所定の制動能力を下回ることが分かるので、作業台の自重降下を事前に予防することが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、作業台の自重降下を事前に予防できるように構成された高所作業車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的達成のため、第1の本発明に係る高所作業車は、走行可能な車体(例えば、実施形態における走行台車2)と、前記車体上に設けられ、電動モータ(例えば、実施形態における昇降モータ16)により駆動されて作業装置(例えば、実施形態における作業台4)を昇降移動させる昇降装置(例えば、実施形態における昇降マスト3)とを有する高所作業車であって、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持する複数のブレーキ手段(例えば、実施形態における第1および第2保持ブレーキ18,19)と、少なくとも停止時における前記昇降装置の昇降移動を検出する昇降検出手段(例えば、実施形態における昇降モータ回転検出器21)と、前記電動モータおよび前記ブレーキ手段の作動制御を行う制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ12)と、前記ブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断する制動能力判断手段(例えば、実施形態におけるコントローラ12)とを備え、前記制御手段は、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持するときに、前記複数のブレーキ手段のうちのいずれか所定のブレーキ手段を作動させる制御を行い且つ前記電動モータによる駆動を停止する第1制御(例えば、実施形態におけるフローチャート60のステップS62,S63)を行った後、他のブレーキ手段を作動させる第2制御(例えば、実施形態におけるフローチャート60のステップS65,S68)を行うように構成され、前記制動能力判断手段は、前記第1制御が行われた後前記第2制御が行われるまでの間に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され
【0008】
上述の第1の本発明において、前記制動能力判断手段は、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有していないと判断したときに、前記第2制御が行われた後に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記他のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され、前記制御手段は、前記制動能力判断手段において前記他のブレーキ手段も前記所定の制動能力を有していないと判断されたときに、前記電動モータによる駆動制御を行って前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持させるように構成されたことを特徴とする
【0009】
第2の本発明に係る高所作業車は、走行可能な車体(例えば、実施形態における走行台車2)と、前記車体上に設けられ、電動モータ(例えば、実施形態における昇降モータ16)により駆動されて作業装置(例えば、実施形態における作業台4)を昇降移動させる昇降装置(例えば、実施形態における昇降マスト3)とを有する高所作業車であって、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持する複数のブレーキ手段(例えば、実施形態における第1および第2保持ブレーキ18,19)と、少なくとも停止時における前記昇降装置の昇降移動を検出する昇降検出手段(例えば、実施形態における昇降モータ回転検出器21)と、前記電動モータおよび前記ブレーキ手段の作動制御を行う制御手段(例えば、実施形態におけるコントローラ12)と、前記ブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断する制動能力判断手段(例えば、実施形態におけるコントローラ12)とを備え、前記制御手段は、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持するときに、前記複数のブレーキ手段のうちのいずれか所定のブレーキ手段を作動させる制御を行い且つ前記電動モータによる駆動を停止する第1制御(例えば、実施形態におけるフローチャート60のステップS62,S63)を行った後、他のブレーキ手段を作動させる第2制御(例えば、実施形態におけるフローチャート60のステップS65,S68)を行うように構成され、前記制動能力判断手段は、前記第1制御が行われた後前記第2制御が行われるまでの間に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され、前記制動能力判断手段は、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有していないと判断したときに、前記第2制御が行われた後に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記他のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成され、前記制御手段は、前記制動能力判断手段において前記他のブレーキ手段も前記所定の制動能力を有していないと判断されたときに、前記電動モータによる駆動制御を行って前記昇降装置の安全性を確保できる緩やかな降下速度で前記昇降装置を降下させるように構成されたことを特徴とする
【0010】
なお、前記制御手段は、前記昇降装置の昇降移動を停止させて前記作業装置を停止保持する毎にもしくは累積停止回数が所定停止回数に達する毎に、前記複数のブレーキ手段のうち前記第1制御において作動させる前記ブレーキ手段を変更する構成が好ましい。
【0011】
上述の高所作業車において、前記制御手段は、前記昇降装置を上昇移動させるように前記電動モータによる駆動を行わせ且つ前記複数のブレーキ手段のうちのいずれか所定のブレーキ手段を作動させる第3制御(例えば、実施形態におけるフローチャート40のステップS43,S44)を行うように構成され、前記制動能力判断手段は、前記第3制御が行われた後に前記昇降検出手段により検出される検出結果に基づいて、前記いずれか所定のブレーキ手段が前記所定の制動能力を有しているか否かを判断する構成が好ましい。
【0012】
また、前記制御手段は、前記作業台が所定昇降位置に位置したときに前記第3制御を行うように構成されており、前記作業台が前記所定昇降位置に位置する毎にもしくは前記作業台が前記所定昇降位置に位置する累積回数が所定回数に達する毎に、前記複数のブレーキ手段のうち前記第3制御において作動させる前記ブレーキ手段を変更する構成が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
第1及び第2の本発明に係る高所作業車は、いずれか所定のブレーキ手段を作動させ且つ電動モータによる駆動を停止する第1制御を行った後、他のブレーキ手段を作動させる第2制御を行い、第1制御と第2制御との間における昇降装置の昇降移動に基づいていずれか所定のブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断するように構成される。このため、いずれか所定のブレーキ手段が所定の制動能力を有していなくても、他のブレーキ手段により停止保持することができるので、故障診断やブレーキ性能の低下診断を的確に行うことが可能になる。このような的確な診断に基づいてブレーキ手段の修理・交換等を行えば、作業台の自重降下を事前に予防できる。
【0014】
そして、第1の本発明に係る高所作業車では、他のブレーキ手段も所定の制動能力を有していないと判断されたときに、電動モータにより昇降装置の昇降移動を停止させる構成であるため、たとえ複数のブレーキ手段の全てが所定の制動能力を有していない場合であっても、電動モータを一時的に作動させることにより、作業装置の自重降下を事前に予防することができる。
【0015】
また、第2の本発明に係る高所作業車では、他のブレーキ手段も所定の制動能力を有していないと判断されたときに、電動モータにより、昇降装置の安全性を確保できる緩やかな降下速度で昇降装置を降下させる構成であるため、複数のブレーキ手段の全てが所定の制動能力を有していない場合には、直ちに高所作業を中断して、ブレーキ手段の点検・修理を行う必要があるが、緩やかな降下速度で強制的に昇降装置を降下させることで、ブレーキ手段の点検・修理を促すことができる。
【0016】
なお、作業装置を停止保持する毎にもしくは累積停止回数が所定停止回数に達する毎に、第1制御において作動させるブレーキ手段を変更する構成が好ましい。このように構成すれば、所定の制動能力を有しているか否かの判断を、複数のブレーキ手段について偏りなく行うことができるので、ブレーキ手段の異常を速やかに見つけ出すことが可能になる。
【0017】
上述の高所作業車において、昇降装置を上昇移動させ且ついずれか所定のブレーキ手段を作動させる第3制御を行い、第3制御が行われた後の昇降装置の昇降移動に基づいていずれか所定のブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断する構成が好ましい。この構成によれば、例えば高所作業車を用いた作業を開始する始動時に、複数のブレーキ手段が所定の制動能力を有しているか否かを判断することが可能になり、ブレーキ手段に異常がある状態で高所作業が開始されることを防止できる。
【0018】
また、作業台が所定昇降位置に位置する毎にもしくは所定昇降位置に位置する累積回数が所定回数に達する毎に、第3制御において作動させるブレーキ手段を変更する構成が好ましい。このように構成すれば、所定の制動能力を有しているか否かの判断を、複数のブレーキ手段について偏りなく行うことができるので、ブレーキ手段の異常を速やかに見つけ出すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明を適用した一例としての高所作業車を示す側面図である。
図2】昇降マストの内部構造、および昇降マストを昇降させる伸縮機構を示す概略図である。
図3】上記高所作業車の制御系統を示すブロック図である。
図4】始動時の作動を示すフローチャートである。
図5】停止保持時の作動を示すフローチャートである。
図6】別の実施例に係る停止保持時の作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態においては、本発明を、複数のマスト部材を入れ子式に組み合わせて構成された昇降マスト3により作業者搭乗用の作業台4を昇降させる、垂直昇降式の高所作業車1に適用した例について説明する。まず、図1図3を参照しながら、高所作業車1の概略構成について説明する。なお、以下においては説明の便宜のため、図1に付記する矢印方向を前後および上下と定義して説明を行なう。
【0021】
図1に高所作業車1の側面を示しており、この図1に示すように、高所作業車1は、走行可能な走行台車2と、走行台車2から上方に突出する伸縮式昇降マスト(以下、「昇降マスト」と称する)3と、昇降マスト3の上部から後方に突出する作業者搭乗用の作業台4と、昇降マスト3を伸縮作動させる伸縮機構5(図2参照)と、高所作業車1の作動を制御する制御ユニット6(図3参照)とを有して構成される。走行台車2は、台車本体10と、台車本体10の前後左右に設けられた走行車輪11と、走行車輪11を駆動して台車本体10を走行させる電動式の走行モータ20(図3参照)とを有して構成される。なお、走行モータ20には、走行モータ20の出力軸の回転速度を検出する走行モータ回転検出器22が設けられている(図3参照)。
【0022】
図2に昇降マスト3の内部構造を示しており、この図2に示すように、昇降マスト3は、走行台車2に立設された第1マスト部材23と、第1マスト部材23の外側に上下に移動可能に配置された第2マスト部材24と、第2マスト部材24の外側に上下に移動可能に配置された第3マスト部材25と、第3マスト部材25の外側に上下に移動可能に配置された第4マスト部材26とを有し、上下に伸縮可能に構成される。第1マスト部材23の上部には回転自在な上部スプロケット27が軸支されており、第2マスト部材24の下部に固着された無端状のチェーン28が、この上部スプロケット27と駆動軸17aに取り付けられた下部スプロケット17bとに掛け回されている。第2マスト部材24の上部には回転自在なシーブ29が軸支され、第1マスト部材23の上部に一端が固着されたワイヤ30がシーブ29に掛け回され、このワイヤ30の他端は第3マスト部材25の下部に固着されている。第3マスト部材25の上部には回転自在なシーブ31が軸支され、第2マスト部材24の上部に一端が固着されたワイヤ32がシーブ31に掛け回され、このワイヤ32の他端は第4マスト部材26の下部に固着されている。
【0023】
図2には昇降マスト3を昇降させる伸縮機構5も示しており、この図2に示すように、伸縮機構5は、電動式の昇降モータ16と、昇降モータ16の出力軸の回転駆動を減速して駆動軸17aに出力する減速機17と、昇降モータ16に一体に取り付けられた第1保持ブレーキ18、第2保持ブレーキ19とから構成される。第1および第2保持ブレーキ18,19は、それぞれソレノイド(図示せず)を内蔵するいわゆる無励磁作動型の電磁ブレーキである。駆動電流が供給されずソレノイドが励磁されないときにはバネ力等によりブレーキが作動して制動力により昇降モータ16の出力軸の回転を防止する。一方、駆動電流の供給を受けてソレノイドが励磁されると、その励磁力により上記バネ等の力に抗してブレーキを解除して昇降モータ16の出力軸の回転を許容する。上述したように、駆動軸17aには、チェーン28と噛合する下部スプロケット17bが取り付けられている。また、昇降モータ16には、昇降モータ16の出力軸の回転速度を検出する昇降モータ回転検出器21が設けられている(図3参照)。
【0024】
作業台4は、図1および図2に示すように、第4マスト部材26の後側壁部に後方に突出して設けられ、作業者が操作する操作装置35を備える。操作装置35は、図3に示すように、例えば前後に傾動操作可能に設けられて昇降マスト3を昇降させる操作を行う昇降操作レバー36と、例えば前後に傾動操作可能に設けられて走行台車2を走行させる操作を行う走行操作レバー37と、例えば左右に回動操作可能に設けられて走行車輪11を転舵させる操作を行う操舵ダイヤル38とを備えて構成される。
【0025】
図3に高所作業車1の制御系統に関するブロック図を示しており、この図3に示すように、制御ユニット6は、制御ユニット6の中枢としてのコントローラ12と、直流電力を交流電力に変換可能な昇降インバータ13a,走行インバータ13bと、複数の電源バッテリが直列に接続された直流電源であるバッテリ14とから構成される。
【0026】
コントローラ12には、昇降操作レバー36、走行操作レバー37および操舵ダイヤル38から出力された操作信号が入力されるとともに、昇降モータ回転検出器21で検出された検出信号が昇降インバータ13aを介して入力される。また、コントローラ12には、バッテリ14からの第1および第2保持ブレーキ18,19を励磁するための駆動電流が昇降インバータ13aまたは走行インバータ13bを介して入力されるとともに、昇降モータ回転検出器21からの検出信号が昇降インバータ13aを介して入力される。コントローラ12は、入力された上記操作信号および検出信号に基づいて、バッテリ14からの駆動電流を第1および第2保持ブレーキ18,19に供給する制御や、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かの判断等を行う(詳しくは後述)。なお、コントローラ12は、図3に示すように、判断順序決定部12aおよびメモリ12bとを備える(これらの作動は後述)。
【0027】
昇降インバータ13aには、昇降操作レバー36の操作に対応した操作信号(目標とする昇降モータ回転速度)がコントローラ12を介して入力されるとともに、昇降モータ回転検出器21からの検出信号(実際の昇降モータ回転速度)が入力される。また、昇降インバータ13aには、バッテリ14からの直流電力が入力される。昇降インバータ13aは、実際の昇降モータ回転速度が目標とする昇降モータ回転速度となるように、バッテリ14からの直流電力を交流電力に変換して昇降モータ16に供給する制御を行う。
【0028】
走行インバータ13bには、走行操作レバー37の操作に対応した操作信号(目標とする走行モータ回転速度)がコントローラ12を介して入力されるとともに、走行モータ回転検出器22からの検出信号(実際の走行モータ回転速度)が入力される。また、走行インバータ13bには、バッテリ14からの直流電力が入力される。走行インバータ13bは、実際の走行モータ回転速度が目標とする走行モータ回転速度となるように、バッテリ14からの直流電力を交流電力に変換して走行モータ20に供給する制御を行う。
【0029】
このように構成される高所作業車1においては、作業者が作業台4に搭乗して、昇降操作レバー36および走行操作レバー37を前後に傾動操作したり、操舵ダイヤル38を左右に回動操作することにより、走行台車2により高所作業車1を前後に走行させたり、昇降マスト3を昇降作動させて、作業者が搭乗する作業台4を所望の高所に移動させることができる。例えば、走行操作レバー37を中立位置から前後に傾動操作することにより、走行モータ20を正逆回転させて走行台車2を前進走行および後進走行させることができる。また、操舵ダイヤル38を中立位置から左右に回動操作することにより、走行車輪11を左旋回側および右旋回側に転舵させることができる。このため、走行操作レバー37の傾動操作および操舵ダイヤル38の回動操作を組み合わせて行い、高所作業車1を所望の場所に移動させることができる。
【0030】
また、例えば昇降操作レバー36が中立位置から前方に傾動操作されると、正回転する昇降モータ16によりチェーン28が回転駆動され、第1マスト部材23に対して第2マスト部材24が引き上げられる。第2マスト部材24が引き上げられて、第2マスト部材24に軸支されたシーブ29が上昇すると、シーブ29に掛け回されたワイヤ30によって第3マスト部材25が引き上げられる。第3マスト部材25が引き上げられて、第3マスト部材25に軸支されたシーブ31が上昇すると、シーブ31に掛け回されたワイヤ32によって第4マスト部材26が引き上げられる。このようにして昇降マスト3全体を伸長させることができ、作業者は、作業台4とともに所望の高所に移動することができる。
【0031】
一方、昇降操作レバー36が中立位置から後方に傾動操作されると、逆回転する昇降モータ16によりチェーン28が回転駆動され、第1マスト部材23に対して第2マスト部材24が引き下げられる。第2マスト部材24が引き下げられて、第2マスト部材24に軸支されたシーブ29が降下すると、シーブ29に掛け回されたワイヤ30によって第3マスト部材25が引き下げられる。第3マスト部材25が引き下げられて、第3マスト部材25に軸支されたシーブ31が降下すると、シーブ31に掛け回されたワイヤ32によって第4マスト部材26が引き下げられる。このようにして昇降マスト3を縮小させることができ、作業者は、作業台4とともに高所から下方に移動することができる。
【0032】
図2から分かるように、作業台4を停止保持するためには、第2マスト部材24、第3マスト部材25および第4マスト部材26自体の重量や、作業台4の重量(搭乗する作業者の体重を含む)により、駆動軸17aおよび減速機17を介して、昇降モータ16が自由回転するのを防止する必要がある。そこで、第1および第2保持ブレーキ18,19として、このような昇降モータ16の自由回転を防止可能な無励磁作動型のブレーキを用いている。なお、以下においては、第1および第2保持ブレーキ18,19が、昇降モータ16の自由回転を防止して昇降マスト3の昇降を防止して、作業台4を停止保持できる状態であることを、「第1保持ブレーキ18(第2保持ブレーキ19)は、所定の制動能力を有している」と表現し、このことは特許請求の範囲においても同様である。
【0033】
以上ここまでは、高所作業車1の概略構成について説明した。次に、高所作業車1の作動について説明する。
【0034】
高所作業車1は、走行台車2上の格納位置に作業台4が格納された状態でメイン電源(図示せず)がオフ操作されて、高所作業を終了するように構成されている。このため、以下においては、高所作業車1による高所作業を開始するために格納位置に格納された作業台4に作業者が搭乗し、昇降マスト3を昇降させて作業台4を所望高所に停止保持させる場合の作動について、図4および図5を参照しながら説明する。図4には、格納位置に格納された作業台4を上昇させるときの作動(以下、「始動時の作動」と称する)に関するフローチャート40を示す。図5には、昇降マスト3の昇降を停止させて、作業台4を停止保持するときの作動(以下、「停止保持時の作動」と称する)に関するフローチャート60を示す。
【0035】
まず、図4を参照しながら、始動時の作動について説明する。この図4では、作業台4が格納位置に格納された状態でメイン電源がオフ操作された場合を例示している。このため、高所作業開始前には作業台4が格納位置に位置するとともに、第1および第2保持ブレーキ18,19に駆動電流が供給されず、両保持ブレーキ18,19は作動している(ステップS41)。このように作業台4が格納位置に格納された状態で、メイン電源がオン操作されて昇降操作レバー36が中立位置から前方に傾動操作されると、昇降操作レバー36からコントローラ12にこの操作に対応した上昇操作信号が入力され、コントローラ12において上昇操作信号が検出される(ステップS42)。
【0036】
上昇操作信号が検出されるとステップS43に進み、コントローラ12は、昇降モータ16に正回転(昇降マスト31を上昇)させる交流電力を供給して昇降モータ16を励磁する。ここで、昇降モータ16に供給される交流電力は、昇降マスト3の自重、作業台4の自重および作業台4の最大積載荷重により昇降モータ16の出力軸に作用する回転駆動力、もしくはそれを上回る回転駆動力を発生可能な交流電力である。
【0037】
昇降モータ16を励磁するとステップS44に進み、コントローラ12は、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有しているか否かを判断するために、ここでの判断対象ではない第2保持ブレーキ19に駆動電流を供給して第2保持ブレーキ19を解放する。すなわち、ここでの判断対象である第1保持ブレーキ18のみを作動させる。これにより、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ16に交流電力を供給しても第1保持ブレーキ18により昇降モータ16の回転が防止されるので、昇降マスト3は上昇することなく停止保持される。一方、第1保持ブレーキ18が故障したり制動能力が低下したりして、所定の制動能力を有していないと、第1保持ブレーキ18により昇降モータ16の回転を防止できないため、昇降モータ16が回転し昇降マスト3は上昇する。
【0038】
第2保持ブレーキ19を解放した後ステップS45において、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち上記ステップS44が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の上昇の有無を判断する。上述したように、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば昇降モータ16の回転が防止されるので、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇なし」と判断し、ステップS46に進む。一方、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと昇降モータ16の回転が許容されるので、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇あり」と判断し、ステップS49に進む。
【0039】
ステップS45からステップS46に進む場合、すなわち、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していると判断した場合、ステップS46において、残りの第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有しているか否かの判断を行うための準備を行う。具体的には、ここでの判断対象である第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して第2保持ブレーキ19を作動させるとともに、第1保持ブレーキ18に駆動電流を供給して第1保持ブレーキ18のブレーキを解放する。ここで、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ16に交流電力を供給しても第2保持ブレーキ19により昇降モータ16の回転が防止されるので、作業台4は上昇することなく停止保持される。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、第2保持ブレーキ19により昇降モータ16の回転を防止できないため、昇降モータ16が回転し昇降マスト3は上昇する。
【0040】
ステップS46で判定準備を行った後ステップS47に進み、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち、上記ステップS46が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の上昇の有無を判断する。上述したように、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」の検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇なし」と判断し、ステップS48に進む。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」の検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇あり」と判断し、ステップS50に進む。
【0041】
ステップS47からステップS48に進む場合、すなわち、第1および第2保持ブレーキ18,19が共に所定の制動能力を有していると判断した場合には、第2保持ブレーキ19に駆動電流を供給する制御を行って第2保持ブレーキ19を解放し、昇降操作レバー36の操作に応じた上昇作動を許容して、このフローを終了する。
【0042】
ところで、ステップS45からステップS49に進む場合、すなわち、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと判断した場合には、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないことを報知して、ステップS51に進む。ここでの報知は、例えば操作装置35に設けられた警告ランプ(図示せず)を点灯させたり、スピーカー(図示せず)から警告音を発することにより行われ、作業者に第1保持ブレーキ18の点検や修理を促すものである。また、ステップS47からステップS50に進む場合、すなわち、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと判断した場合には、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないことを報知し、作業者に第2保持ブレーキ19の点検や修理を促してステップS51に進む。なお、このステップS50での報知は、ステップS49と同様にして行われる。
【0043】
保持ブレーキの異常を報知した後ステップS51に進み、第1保持ブレーキ18または第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、以降の昇降マスト3の停止保持作動に影響を及ぼす可能性があるので、昇降操作レバー36の操作に拘らず昇降マスト3の上昇作動を規制し、このフローを終了する。なお、ステップS49およびステップS50において事前に報知が行われるので、作業者は、第1保持ブレーキ18または第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないために上昇作動が規制されていると分かる。
【0044】
以上のように、作業台4を高所に移動させる前に、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かを自動で判断し、両保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有している場合に、昇降操作レバー36の操作に応じて昇降マスト3の上昇が許容される。このため、高所作業車1においては、常に第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有している状態で高所作業を開始させることができる。
【0045】
以上、始動時の作動について説明した。上述のフローチャート40が実行されて、第1および第2保持ブレーキ18,19が共に所定の制動能力を有していると判断した場合に、昇降操作レバー36の操作に応じた昇降マスト3の昇降作動が許容される。ここで、昇降マスト3の昇降作動は、昇降モータ16へ交流電力の供給を行い、この状態で第1および第2保持ブレーキ18,19によるブレーキを解除して行われる。また、高所作業車1のような垂直昇降式の作業車は、作業者が搭乗する作業台4を所望高所に移動させ、その位置に停止保持させて作業が行われることが多い。ここで、作業台4の停止保持は、原則として昇降モータ16への交流電力の供給を停止した上で、第1および第2保持ブレーキ18,19を作動させて、昇降マスト3を停止保持(昇降モータ16の回転を防止)することにより行われる。
【0046】
このため、高所作業車1を用いて高所作業を行い、昇降マスト3の昇降および停止保持を繰り返して行うと、第1および第2保持ブレーキ18,19の制動能力が低下して、所定の制動能力を下回る場合がある。このように所定の制動能力を下回る保持ブレーキを使用すると、昇降マスト3を確実に停止保持させることが困難になり、昇降マスト3が自重により降下する事態が発生し得る。そこで、このような事態の発生を事前に防止するために高所作業車1では、昇降操作レバー36が前後に傾動操作された状態から中立位置に操作される毎に、図5に示すフローチャート60が実行される。
【0047】
図5を参照しながら、停止保持時の作動について説明する。昇降操作レバー36が前後に傾動操作された状態から中立位置に操作されると、コントローラ12には、その中立位置に対応した操作信号が入力される。コントローラ12はその操作信号を検出すると、昇降モータ16に、昇降マスト3の自重降下を防止して停止保持可能な回転駆動力を発生させる交流電力を供給する(ステップS61)。これにより、昇降マスト3は、昇降モータ16の回転駆動力によって停止保持される。なお、このステップS61では、引き続き第1および第2保持ブレーキ18,19に駆動電流を供給し、両保持ブレーキは共に解除されている。上記ステップS61が実行されて昇降マスト3が停止保持されるとステップS62に進み、ここでの判断対象である第1保持ブレーキ18への駆動電流の供給を停止して、第1保持ブレーキ18を作動させる。
【0048】
続くステップS63においては、第1保持ブレーキ18を作動させた状態で昇降モータ16への交流電流の供給を停止し、昇降モータ16を自由回転可能な状態にする。ここで、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば、昇降マスト3の自重、作業台4の自重および作業台4の積載荷重(以下、「昇降マスト3等の荷重」と称する)により昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗して、昇降モータ16の回転は停止されたままで昇降マスト3は降下せず停止保持される。一方、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと、昇降マスト3等の荷重によって昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗することができず、この回転駆動力により昇降モータ16が回転駆動されて昇降マスト3が降下する。
【0049】
続くステップS64においては、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち、上記ステップS63が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の降下の有無を判断する。上述したように、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下なし」と判断し、ステップS65に進む。一方、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下あり」と判断し、ステップS66に進む。
【0050】
なお、ステップS64における昇降マスト3の降下判断は、短い判断サイクルで繰り返して行うので、「出力軸の回転あり」に対応した検出信号を検出すると、即座に後述するステップS66およびステップS67が実行される。このため、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していない場合であっても、高所作業に影響を及ぼす程昇降マスト3が降下することはない。
【0051】
ステップS64からステップS65に進むと、第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して、第1保持ブレーキ18に加えて第2保持ブレーキ19も作動させることにより昇降マスト3を停止保持させて、このフローを終了する。このとき、第2保持ブレーキ19については、所定の制動能力を有しているか否かの判断を行っていないが、仮に第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないとしても第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有しているため、昇降マスト3を確実に停止保持できる。また、このように第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止すると、その分だけ電力消費を抑えることができる。
【0052】
ステップS64からステップS66に進む場合、すなわち、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していない場合には、上述のステップS49およびステップS50と同様の方法により、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないことを報知し、ステップS67に進む。ステップS67においては、残りの第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有しているか否かの判断を行うために、上述のステップS61と同様に、昇降モータ16に交流電力を供給して昇降マスト3を停止保持させる。続いてステップS68に進み、判断対象である第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して第2保持ブレーキ19を作動させ、ステップS69に進む。
【0053】
続くステップS69においては、昇降モータ16への交流電流の供給を停止し、昇降モータ16を自由回転可能な状態にする。ここで、上述したように第1保持ブレーキ18は所定の制動能力を有していないが、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降マスト3等の荷重により昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗して、昇降モータ16の回転は停止されたままで昇降マスト3は降下せず停止保持される。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、昇降マスト3等の荷重により昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗することができず、この回転駆動力により昇降モータ16が回転駆動されて昇降マスト3が降下する。
【0054】
ステップS70に進むと、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち、上記ステップS69が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の降下の有無を判断する。上述したように、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下なし」と判断し、第2保持ブレーキ19により昇降マスト3を停止保持させて、このフローを終了する。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下あり」と判断し、ステップS71に進む。
【0055】
ステップS70からステップS71に進む場合、すなわち、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと判断した場合には、上述のステップS49およびステップS50と同様の方法により、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないことを報知し、ステップS72に進む。ステップS71からステップS72に進む場合、すなわち、第1および第2保持ブレーキ18,19の両方が所定の制動能力を有していない場合には、上述のステップS61と同様に、昇降モータ16に交流電力を供給して昇降マスト3を停止保持させて、このフローを終了する。なお、このステップS72において行われる昇降マスト3の停止保持は、第1および第2保持ブレーキ18,19のどちらを用いても昇降マスト3を停止保持することが困難なために行われる一時的なものである。
【0056】
以上説明したように高所作業車1は、昇降マスト3が昇降されて停止保持される毎に、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かの判断を行い、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有していない場合にはその旨の報知を行って修理等を促しつつ、他の手段により確実に停止保持させる構成になっている。このため、高所作業車1においては、作業台4(昇降マスト3)の自重降下を事前に予防することができる。
【0057】
上述の実施形態では、フローチャート40に示す「始動時の作動」制御において、まず第1保持ブレーキ18について判断を行った後に、第2保持ブレーキ19について判断を行う例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、作業台4を格納位置に格納した状態で昇降マスト3を上昇させる操作が行われる毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。また、コントローラ12のメモリ12bに所定格納回数を予め設定しておき、コントローラ12の判断順序決定部12aでカウントされる作業台4の累積格納回数が上記の所定格納回数に達する毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。
【0058】
上述のフローチャート40のステップ43において、昇降モータ16に供給する交流電力を制御して昇降モータ16の出力軸に作用する回転駆動力を制御すれば、第1および第2保持ブレーキ18,19が有する制動能力(制動能力の低下の程度)を測定することが可能になる。
【0059】
上述の実施形態では、フローチャート60に示す「停止保持時の作動」制御において、まず第1保持ブレーキ18について判断を行った後、次に第2保持ブレーキ19について判断を行う例について説明したが、例えば昇降マスト3が停止保持される毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。また、コントローラ12のメモリ12bに所定停止回数を予め設定しておき、コントローラ12の判断順序決定部12aでカウントされる作業台4の累積停止回数が上記の所定停止回数に達する毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。
【0060】
上述の実施形態では、フローチャート60のステップS72において、第1および第2保持ブレーキ18,19の両方が所定の制動能力を有していない場合に、昇降モータ16に交流電力を供給して昇降マスト3を停止保持させる制御を例示して説明したが、この制御以外にも以下のような制御が可能である。すなわち、ステップS72において、昇降モータ16に交流電力を供給する制御を行って、昇降マスト3の安全性を確保できる緩やかな降下速度で昇降マスト3を降下させることも可能である。このように、昇降マスト3を停止保持させるレバー操作に拘らず昇降マスト3を降下させる場合、ステップS66およびステップS71において事前にブレーキの異常を報知しておくことにより、使い勝手の良い高所作業車1を構成できる。なお、通常であれば、作業台4の下方に作業台4を移動させるためのスペースが確保されているので、昇降マスト3を停止保持させるレバー操作に拘らず昇降マスト3を降下させても支障はない。
【0061】
上述の実施形態で説明した図5に示すフローチャート60に代えて、図6に示すフローチャート80を実行して、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有するか否かを判断するようにしても良い。フローチャート80においては、フローチャート60と同一内容のステップには同一番号を付している。以下においては、フローチャート80について、フローチャート60とは異なるステップを中心に説明する。
【0062】
フローチャート80においては、フローチャート60と同様に、ステップS64において昇降マスト3の降下があると判断すると、ステップS66進んで第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないことの報知を行う。このステップS66が実行された後にステップS81に進み、第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して、第2保持ブレーキ19を作動させる。すなわち、このステップS81においては、昇降モータ16への交流電力の供給を停止したままで、第2保持ブレーキ19を作動させる。このフローチャート80によれば、フローチャート60のステップS67およびステップS69を省略して、制御内容をシンプルにすることができる。
【0063】
上述の実施形態においては、垂直昇降式の昇降マスト3を備えた高所作業車1に本発明を適用した例について説明したが、例えば電動モータにより駆動される垂直昇降式のシザースリンク機構を備えた高所作業車や、ベースレールが左右に一定間隔をおいて配設されたラダー機構を備えた高所作業車にも、本発明を適用することができる。また、電動シリンダにより昇降マスト、シザースリンク機構またはラダー機構を駆動させる構成の高所作業車にも、本発明を適用できる。
【0064】
上述の実施形態では、昇降モータ回転検出器21により昇降モータ16の出力軸の回転を検出して、昇降マスト3の昇降を判断する構成を例示して説明したが、昇降モータ回転検出器21に代えて、例えば減速機17の回転を検出する検出器を用いても良い。
【0065】
上述の実施形態において説明したように複数(2つ)の保持ブレーキを用いることにより、例えば1つの保持ブレーキを用いる場合と比較して、それぞれ容量が小さくコンパクトな保持ブレーキを用いて伸縮機構5を構成できるので、伸縮機構5の小型化が図れる。
【0066】
上述の実施形態においては、2つの保持ブレーキ(第1および第2保持ブレーキ18,19)を用いた構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定して適用されるものではなく、例えば3つ以上の保持ブレーキを用いた構成にも適用できる。
【0067】
上述の実施形態では、フローチャート40に示す「始動時の作動」制御において、第1および第2保持ブレーキ18,19の両方について所定の制動能力の有無を検査する構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されるものではない。例えば、第1保持ブレーキ18を主に作動させるメインブレーキとするとともに、第2保持ブレーキ19を第1保持ブレーキ18が故障した場合に作動させるサブブレーキとし、始動時の作動制御において、第1保持ブレーキ18(メインブレーキ)を点検して所定の制動能力の有すると判断した場合には、第2保持ブレーキ19(サブブレーキ)の点検を省略する構成にしても良い。
【0068】
上述の実施形態においては、作業台4が格納位置に格納された状態から上昇させるときに、始動時の作動(第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かの判断)を行う構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されない。例えば、格納位置以外の昇降位置に作業台4が位置したときに、始動時の作動を行うように構成しても良い。
【0069】
上述の実施形態においては、第3マスト部材25および第4マスト部材26の昇降を、シーブ29,31に掛け回されたワイヤ30,32により行う構成を例示して説明したが、本発明はこの構成に限定して適用されるものではない。例えばシーブに代えてスプロケットを設け、このスプロケットにチェーンを掛け回して構成された昇降マストにも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 高所作業車
2 走行台車(車体)
3 昇降マスト(昇降装置)
4 作業台(作業装置)
12 コントローラ(制御手段、制動能力判断手段)
16 昇降モータ(電動モータ)
18 第1保持ブレーキ(ブレーキ手段)
19 第2保持ブレーキ(ブレーキ手段)
21 昇降モータ回転検出器(昇降検出手段)
S43 (第3制御)
S44 (第3制御)
S62 (第1制御)
S63 (第1制御)
S65 (第2制御)
S68 (第2制御)
図1
図2
図3
図4
図5
図6