特許第6041605号(P6041605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041605インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの清掃方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041605
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの清掃方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
   B41J2/165 303
   B41J2/165 401
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-215146(P2012-215146)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-69351(P2014-69351A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】加藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】原 浩文
【審査官】 牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−066964(JP,A)
【文献】 特開2005−074671(JP,A)
【文献】 特開2004−034702(JP,A)
【文献】 特開2005−059326(JP,A)
【文献】 特開2008−044108(JP,A)
【文献】 特開2007−301824(JP,A)
【文献】 特開2005−205635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面を有するインクジェットヘッドと、
先端が上記インク吐出面に接触することにより、上記吐出口又は上記インク吐出面に付着した付着物を除去するブラシ毛とを備え、
上記先端の径は、上記吐出口の径より細く、
上記先端が上記インク吐出面に接触する際、上記ブラシ毛の列は、上記吐出口の列に対して傾斜していることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
上記ブラシ毛に振動を与える振動付加手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
上記振動付加手段は、超音波を発生させて上記ブラシ毛に振動を与えることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
上記ブラシ毛に洗浄液を供給する洗浄液供給手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
上記吐出口の径に対する上記先端の径の割合は、4%以上、50%以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
上記ブラシ毛は、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレンからなる群より選択される材料から形成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面を有するインクジェットヘッドを、ブラシ毛により清掃する清掃工程を含み、
上記清掃工程では、上記吐出口の径よりも細い先端の径を有する上記ブラシ毛が、上記インク吐出面に接触することにより、上記吐出口又は上記インク吐出面に付着した付着物を除去し、
上記清掃工程では、上記ブラシ毛の列を、上記吐出口の列に対して傾斜させて清掃することを特徴とするインクジェットヘッドの清掃方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの清掃方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク吐出面に付着した付着物を払い落とすブラシ、及び当該ブラシが払い落とした物体を吸引する吸引ユニットを備えることによって、インクジェットヘッドのクリーニングを行う技術が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−301824号公報(2007年11月22日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているように、ブラシによるヘッドクリーニングは従来から提案されている。しかし、通常のブラシ(約φ200μm)ではノズル近傍、又はノズル内の汚れを落とすことができず、インクジェットヘッドからのインクの着弾位置が意図した範囲からずれてしまう現象(飛行曲がり)を改善することができないおそれがある。
【0005】
通常のブラシでは、ブラシとヘッドとの接触によってヘッドの撥水面を損傷するおそれがある。また、ヘッドのクリーニングを行ってもインクの吐出精度が回復しない場合には、ヘッドの交換をする必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、長期間にわたって高画質印刷が可能なインクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの清掃方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記の課題を解決するために、インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面を有するインクジェットヘッドと、先端が上記インク吐出面に接触することにより、上記吐出口又は上記インク吐出面に付着した付着物を除去するブラシ毛とを備え、上記先端の径は、上記吐出口の径より細いことを特徴としている。
【0008】
ブラシ毛の先端の径は吐出口の径よりも細いため、当該先端は容易に吐出口に侵入する。そのため、吐出口近傍、又は吐出口内の汚れを好適に除去することができる。また、ブラシ毛の先端とインクジェットヘッドとが接触しても大きな負担がかからないため、インクジェットヘッドのインク吐出面が損傷することを防止できる。
【0009】
したがって、本発明に係るインクジェット記録装置は、長期間にわたって高画質印刷が可能である。
【0010】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記ブラシ毛に振動を与える振動付加手段をさらに備えることがより好ましい。
【0011】
振動付加手段がブラシ毛に振動を与えることによって、ブラシ毛の先端が吐出口に侵入しやすくなる。よって、吐出口に付着した付着物を好適に除去することができる。
【0012】
本発明に係るインクジェット記録装置では、上記振動付加手段は、超音波を発生させて上記ブラシ毛に振動を与えることがより好ましい。
【0013】
振動付加手段が超音波を発生させることによって、ブラシ毛は微細に振動する。ブラシ毛の微細な振動により吐出口に付着した付着物が離れやすくなるため、当該付着物を除去することが容易である。
【0014】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記ブラシ毛に洗浄液を供給する洗浄液供給手段をさらに備えることがより好ましい。
【0015】
洗浄液供給手段がブラシ毛に洗浄液を供給することによって、ブラシ毛に当該洗浄液が付着する。ブラシ毛に付着した洗浄液によって、吐出口又はインク吐出面に付着した付着物の一部を溶かして除去することが容易である。
【0016】
また、複数のブラシ毛が密集している場合、毛細管現象によってブラシ毛の間に洗浄液が保持される。この場合、吐出口又はインク吐出面に付着した付着物の一部を溶かして除去することがより容易である。
【0017】
超音波によりブラシ毛に振動を与えている場合、ブラシ毛に付着した洗浄液を介して、吐出口又はインク吐出面に付着した付着物に超音波を付与することができる。したがって、上記付着物を容易に除去することができる。
【0018】
本発明に係るインクジェット記録装置は、上記吐出口の径に対する上記先端の径の割合は、4%以上、50%以下であることがより好ましい。
【0019】
先端の径の割合が4%以上であることにより、ブラシ毛は吐出口又はインク吐出面に付着した付着物を好適に除去することができる。先端の径の割合が50%以下であることにより、ブラシ毛の先端はより容易に吐出口に侵入することができ、当該吐出口に付着した付着物を好適に除去することができる。
【0020】
本発明に係るインクジェット記録装置では、上記ブラシ毛は、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレンからなる群より選択される材料から形成されることがより好ましい。
【0021】
上記材料から形成されるブラシ毛は、耐摩耗性及び耐溶剤性に優れている。よって、長期間にわたってインクジェットヘッドの清掃性能を維持することができる。
【0022】
本発明に係るインクジェットヘッドの清掃方法は、インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面を有するインクジェットヘッドを、ブラシ毛により清掃する清掃工程を含み、上記清掃工程では、上記吐出口の径よりも細い先端の径を有する上記ブラシ毛が、上記インク吐出面に接触することにより、上記吐出口又は上記インク吐出面に付着した付着物を除去することを特徴としている。
【0023】
本発明に係るインクジェットヘッドの清掃方法によれば、上記インクジェット記録装置と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るインクジェット記録装置及びインクジェットの清掃方法は、長期間にわたって高画質印刷が可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示す図である。
図2】本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示す図である。
図3】本発明の第1実施形態にて、インク吐出面に形成された吐出口をブラシ毛により清掃することを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示す図である。
【0027】
〔インクジェット記録装置20〕
本実施形態に係るインクジェット記録装置20は、インクジェットヘッド1、ブラシ毛3を支持するブラシ本体4、ブラシ移動手段5、超音波発生手段(振動付加手段、図示せず)、洗浄液供給手段6及び洗浄液受け7を備えている。
【0028】
インクジェット記録装置20は、インクジェットヘッド1から被記録媒体(図示せず)にインクを吐出し、当該被記録媒体に所定の画像を描画するものである。
【0029】
(インクジェットヘッド1)
インクジェットヘッド1は、インク吐出面2に形成されている複数の吐出口(図示せず)からインクを吐出する。
【0030】
インクジェット記録装置20を長期間にわたって使用することにより、インクが付着物として吐出口又はインク吐出面2に付着する。そのため、インクジェットヘッド1をクリーニングして、当該付着物を除去する必要がある。
【0031】
(ブラシ本体4)
ブラシ本体4は、端部にて、密集した複数本のブラシ毛3を支持するものであり、ブラシ移動手段5により、図1中の矢印X方向に往復運動する。
【0032】
ブラシ毛3は、先端がインク吐出面2に接触することにより、上記吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物を除去するものである。ブラシ毛3の先端の径は、吐出口の径より細くなっている。
【0033】
ブラシ毛3の先端の径は、吐出口の径よりも細いため、当該先端は容易に吐出口に侵入する。そのため、吐出口近傍、又は吐出口内の汚れを好適に除去することができる。また、ブラシ毛3とインクジェットヘッド1とが接触しても大きな負担がかからないため、インクジェットヘッド1のインク吐出面2が損傷することを防止できる。
【0034】
吐出口の径に対するブラシ毛の先端の径の割合は、4%以上、50%以下であることが好ましく、8%以上、33%以下であることがより好ましい。先端の径の割合が4%以上であることにより、ブラシ毛は吐出口又はインク吐出面に付着した付着物を好適に除去することができる。先端の径の割合が50%以下であることにより、ブラシ毛の先端はより容易に吐出口に侵入することができ、当該吐出口に付着した付着物を好適に除去することができる。先端の径の割合が8%以上であることにより、ブラシ毛は吐出口又はインク吐出面に付着した付着物をより好適に除去することができる。先端の径の割合が33%以下であることにより、ブラシ毛の先端はより容易に吐出口に侵入することができ、当該吐出口に付着した付着物をより好適に除去することができる。
【0035】
一例として、吐出口の径は、25〜35μmであり、ブラシ毛の径は、先端部において、3μm、先端部と根元部との間に設けられ、先端部に近づくにつれて直径が次第に減少するテーパ部において、20〜37μm、根元部において、200μmである。そして、ブラシ毛の先端1mm程度がインク吐出面と接触するように、調整すればよい。これらにより、ブラシ毛の先端は吐出口に侵入しやすく、吐出口近傍又は吐出口内部の付着物を好適に除去することができる。
【0036】
ブラシ毛は、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレンなどの材料から形成されることがより好ましい。上記材料から形成されているブラシ毛は、耐摩耗性及び耐溶剤性に優れている。よって、長時間にわたってインクジェットヘッドの清掃性能を維持することができる。
【0037】
(ブラシ移動手段5)
ブラシ移動手段5は、ブラシ本体4を支持し、ブラシ本体4を図1中の矢印X方向に往復させるための移動手段である。ブラシ本体4に支持されているブラシ毛3の先端がインク吐出面2に接触しているとき、ブラシ本体4を矢印X方向に往復移動させることにより、ブラシ毛3の先端が、複数の吐出口又はインク吐出面2に接触する。
【0038】
ブラシ移動手段5の移動方向は、矢印X方向に限定されず、インク吐出面2と平行であって、矢印X方向に垂直な方向である矢印Z方向、又は矢印X方向及び矢印Z方向と垂直な方向である矢印Y方向であってもよい。ブラシ移動手段5が矢印Z方向に移動することにより、ブラシ毛3の先端が、複数の吐出口又はインク吐出面2に接触する。
【0039】
さらに、ブラシ移動手段5は、ブラシ本体4を回転させる機構を備えていてもよい。
【0040】
(超音波発生手段)
超音波発生手段は、超音波を発生させることによりブラシ毛3に振動を与える振動付加手段の一形態である。超音波を発生させることによりブラシ毛3は微細に振動するため、ブラシ毛3が吐出口に引っかかることを防止できる。さらに、ブラシ毛3の微細な振動により吐出口に付着した付着物が離れやすくなるため、当該付着物を除去することが容易である。
【0041】
振動付加手段としては、超音波発生手段の他に、例えば、偏芯カムを設けたローラ、ピエゾ素子などが挙げられる。振動付加手段がブラシ毛に振動を与えることによって、ブラシ毛の先端が吐出口に侵入しやすくなる。よって、吐出口に付着した付着物を好適に除去することができる。
【0042】
偏芯カムを設けたローラ、ピエゾ素子などの振動付加手段が付与する振動数としては、1kHz以上であることが好ましく、3.3kHz以上であることがより好ましい。振動数が、1kHz以上であることによりブラシ毛の先端が吐出口に侵入しやすくなる、振動数が、3.3kHz以上であることによりブラシ毛の先端がさらに吐出口に侵入しやすくなる。
【0043】
超音波発生手段などの振動付加手段が付与する振動数としては、3MHz以下であることが好ましく、1.6MHz以下であることがより好ましい。高周波振動は伝播の過程で減衰しやすいが、振動数が、3MHz以下であることにより吐出口近傍、又は吐出口内の汚れまで汚れ除去に有効な振動を伝播させることができ、振動数が、1.6MHz以下であることにより吐出口近傍、又は吐出口内の汚れまでさらに多くの振動を伝播させることができる。
【0044】
振動付加手段は、ブラシ本体のブラシ毛の直下に設けられていることが好ましい。これにより、ブラシ本体にて振動が減衰することなく、ブラシ毛に振動を付与することができる。
【0045】
(洗浄液供給手段6)
洗浄液供給手段6は、ブラシ毛3に洗浄液を供給するためのものである。洗浄液供給手段6がブラシ毛3に洗浄液を供給することによって、ブラシ毛3に当該洗浄液が付着する。複数のブラシ毛3が密集しているため、毛細管現象によってブラシ毛3の間に洗浄液が保持される。よって、吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物の一部を溶かして除去することが容易である。
【0046】
超音波によりブラシ毛3に振動を与えている場合、ブラシ毛3に付着した洗浄液を介して、吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物に超音波を付与することができる。したがって、上記付着物を容易に除去することができる。
【0047】
洗浄液としては、インクから顔料、染料などを除いた液体(インクの溶媒)に溶解する液体を用いればよい。例えば、ソルベントインクなどの有機溶剤を溶媒としたインクでは、洗浄液としてアセトン、メチルエチルケトンなどを用いることが好ましい。これにより、吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物を好適に除去することができる。
【0048】
(洗浄液受け7)
洗浄液受け7は、洗浄液供給手段6と対面するように設けられており、ブラシ毛3に洗浄液を供給するときにブラシ毛3に付着しなかった洗浄液を貯留するためのものである。
【0049】
また、本発明の一形態として、洗浄液供給手段を洗浄液受けに取り付けて洗浄液受けに洗浄液を貯留し、当該洗浄液にブラシ毛を浸漬させることによりブラシ毛に洗浄液を供給してもよい。他には、洗浄液受けに洗浄液を貯留し、吐出口又はインク吐出面の清掃後に付着物が付着したブラシ毛を洗浄液受けの洗浄液に浸漬させてもよい。
【0050】
以上より、本発明に係るインクジェット記録装置は、長期間にわたって高画質印刷が可能である。
【0051】
〔インクジェットヘッド1の清掃方法〕
次に、インクジェットヘッド1の清掃方法について説明する。本実施形態に係るインクジェットヘッド1の清掃方法は、インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面2を有するインクジェットヘッド1を、ブラシ毛3により清掃する清掃工程を含み、上記清掃工程では、上記吐出口の径よりも細い先端の径を有するブラシ毛3が、インク吐出面2に接触することにより、上記吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物を除去する。なお、一実施形態として、インクジェット記録装置20が備えるインクジェットヘッド1の清掃方法を説明する。
【0052】
まず、インクジェットヘッド1をクリーニングしていない待機状態の場合、ブラシ毛3は、洗浄液供給手段6の下に位置している。
【0053】
インクジェットヘッド1の吐出口又はインク吐出面2のクリーニングが必要になったとき、まず、吸引又はパージを行い、その後、インク吐出面2のワイピング(拭き取り)を行う。これにより、インク吐出面2に付着した、大きな付着物又は高粘度化したインクが除去される。
【0054】
ここで「パージ」とは、インクジェットヘッド1を振動させずに、インクジェットヘッド1にインクを供給する際の供給圧を上げることで吐出口からインクを吐出して、吐出口を清掃することをいう。供給圧は、例えば、大気圧以上に上げることによって、パージが適切に行われる。またパージを行なう場合には、インクジェット記録装置20内に、パージによって吐出されるインクを回収する部材を設けてもよい。
【0055】
次に、吐出口のチェックを行い、吐出精度が悪化した吐出口を特定する。特定方法としては、公知の方法を用いればよいが、例えば、チェックパターンを印刷して目視で行ってもよく、光学センサで行ってもよい。
【0056】
洗浄液供給手段6によりブラシ毛3に洗浄液を付着させた後、ブラシ毛3がインクジェットヘッド1を洗浄できるように、インクジェットヘッド1及びブラシ本体4を移動させる。インクジェットヘッド1については、ヘッドを搭載するキャリッジ(図示せず)を移動させ、ブラシ本体4については、ブラシ移動手段5により、ブラシ本体4を水平方向に移動させればよい。これにより、ブラシ毛3の先端とインク吐出面2とが接触できる位置にインクジェットヘッド1及びブラシ本体4がそれぞれ移動する。
【0057】
このとき、ブラシ移動手段5を制御してブラシ本体4を移動させ、ブラシ毛3を特定の吐出口付近に移動させる。特定の吐出口としては、上記吐出口のチェックにより特定した吐出精度が悪化した吐出口であってもよく、予め決めておいた吐出口であってもよい。
【0058】
次に、ブラシ本体4に内蔵されたピエゾ素子、又はブラシ本体4に設けられた偏芯カムを取り付けたモータを用いて、あるいは、超音波発生手段を用いてブラシ本体4及びブラシ毛3に振動を与えてもよい。ブラシ本体4及びブラシ毛3に振動を与えた状態で、ブラシ移動手段5を移動させて、ブラシ本体4を矢印X方向に往復移動させる。
【0059】
このとき、インクジェットヘッド1へのインク供給圧を上昇させて、吐出口からインクを滲み出させてもよい。これにより、インクとともに剥離した付着物を吐出口から排出することができる。
【0060】
特定の吐出口付近をブラシ毛3が往復運動して、吐出口又はインク吐出面2をクリーニングするようにブラシ移動手段5を制御してもよいが、特定の吐出口以外の全吐出口又はインク吐出面2の全体をブラシ毛3がクリーニングするようにブラシ移動手段5を制御してもよい。
【0061】
次に、図3を用いて、インク吐出面2に形成された吐出口の清掃について説明する。図3は、本発明の第1実施形態にて、インク吐出面に形成された吐出口をブラシ毛により清掃することを模式的に示す図である。
【0062】
まず、図3の(a)に示すように、インク吐出面2に形成された複数の吐出口からなる吐出口の列8とブラシ本体4に形成された複数のブラシ毛3からなるブラシ毛の列とが平行な状態を維持したまま、吐出口又はインク吐出面2をクリーニングしてもよい。なお、一般的にブラシ毛は、数百本単位で行列をなしてブラシ本体4に設けられている。
【0063】
図3の(b)に示すように、吐出口の列8に対してブラシ毛の列を傾斜(図中は10度傾斜させている)させてもよい。吐出口の列に対してブラシ毛の列を数十度傾斜させた場合、吐出口の列に対してブラシ毛の列を平行にした場合と比較して、吐出口又はインク吐出面をより好適にクリーニングすることができる。クリーニングを何度も行うことによりブラシ毛の先が寝てきた場合、又はブラシ毛同士が絡み合ってきたりした場合であっても、ブラシ毛の先端を確実に吐出口に当てることができるためである。
【0064】
ブラシ毛3により吐出口又はインク吐出面2のクリーニングが終了したとき、メニスカスが壊れている。メニスカスが壊れている場合、インク速度、着弾精度などに影響を及ぼすおそれがあるため、インクジェットヘッド1の通常のクリーニングを再度行ない、メニスカスを形成する必要がある。通常のクリーニングとは、例えば、インクの吸引又はパージを行ない、必要に応じてワイピングを行なうことである。
【0065】
インクジェットヘッド1のクリーニングが終了した後、ブラシ移動手段5を制御してブラシ本体4を移動させ、ブラシ毛3を洗浄液供給手段6の下に移動させる。
【0066】
ブラシ毛3が洗浄液供給手段6の下に移動した後、洗浄液供給手段6はブラシ毛3に洗浄液を滴下し、ブラシ毛3に付着した付着物を除去する。
【0067】
このとき、ブラシ本体4に内蔵されたピエゾ素子、又はブラシ本体4に設けられた偏芯カムを取り付けたモータを用いてブラシ本体4及びブラシ毛3に振動を与えることにより、ブラシ毛3に付着した汚れを効率的に除去することができる。
【0068】
洗浄液受け7に洗浄液を貯留しておき、ブラシ毛3を浸漬することにより、ブラシ毛3に付着した汚れを除去してもよい。このとき、ブラシ毛3(及びブラシ本体4)を回転させることにより、ブラシ毛3に付着した汚れを効率的に除去することができる。
【0069】
本発明に係るインクジェットヘッドの清掃方法には、インクジェット記録装置が備えるブラシ本体を用いてインクジェットヘッドを自動的に清掃する場合のみならず、ブラシ本体を用いてインクジェットヘッドを手動で清掃する場合も含まれる。
【0070】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について、図2に基づいて説明すれば、以下のとおりである。図2は、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置を模式的に示す図である。なお、説明の便宜上、前記第1実施形態にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0071】
第2実施形態に係るインクジェット記録装置30は、ブラシ移動手段5の代わりにブラシ回転手段11を備えている点、ならびに、洗浄液供給手段6及び洗浄液受け7の代わりに洗浄槽12を備えている点で、第1実施形態に係るインクジェット記録装置20と異なる。
【0072】
〔ブラシ回転手段11〕
ブラシ回転手段11は、ブラシ本体4を支持し、ブラシ本体4を図2中の矢印A方向に回転させるための回転手段である。ブラシ本体4に支持されているブラシ毛3の先端がインク吐出面2に接触しているとき、ブラシ本体4を矢印A方向に回転させることにより、ブラシ毛3の先端が、複数の吐出口又はインク吐出面2に接触する。
【0073】
ブラシ回転手段11は、ブラシ本体4を回転させる機構だけでなく、ブラシ本体4を任意の方向に移動させる機構を備えていてもよい。
【0074】
〔洗浄槽12〕
洗浄槽12は、洗浄液を貯留し、吐出口又はインク吐出面2の清掃後に付着物が付着したブラシ毛3を洗浄液に浸漬するためのものである。また、ブラシ毛3を洗浄槽12に納めることができる。
【0075】
〔インクジェットヘッド1の清掃方法〕
次に、インクジェットヘッド1の清掃方法について簡単に説明する。なお、第1実施形態にて説明した事項については、その説明を省略する。
【0076】
まず、インクジェットヘッド1をクリーニングしていない待機状態の場合、ブラシ毛3は、洗浄槽12に納められている。このとき、洗浄槽12中には洗浄液が貯留されていてもよい。
【0077】
洗浄槽12中に洗浄液を貯留してブラシ毛3に洗浄液を付着させた後、ブラシ回転手段11により、ブラシ本体4を図2中の矢印A方向に移動させる。これにより、ブラシ毛3の先端とインク吐出面2とが接触し、インク吐出面2又は吐出口に付着した付着物を除去することができる。
【0078】
このとき、ブラシ回転手段11を制御してブラシ本体4を回転させながら移動させてもよい。これにより、特定の吐出口以外の全吐出口又はインク吐出面2の全体をブラシ毛3がクリーニングできる。
【0079】
インクジェットヘッド1のクリーニング後に、洗浄液を貯留した洗浄槽12にブラシ毛3を浸漬することにより、ブラシ毛3に付着した汚れを除去してもよい。このとき、振動付加手段によりブラシ毛を振動させてもよい。これにより、ブラシ毛3に付着した汚れを効率的に除去することができる。
【0080】
以上より、本発明に係るインクジェット記録装置及びインクジェットヘッドの清掃方法は、長期間にわたって高画質印刷が可能である。
【0081】
〔付記事項〕
本発明の第1実施形態に係るインクジェット記録装置20は、インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面2を有するインクジェットヘッド1と、先端がインク吐出面2に接触することにより、上記吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物を除去するブラシ毛3とを備え、上記先端の径は、上記吐出口の径より細い。
【0082】
ブラシ毛3の先端の径は、吐出口の径よりも細いため、当該先端は容易に吐出口に侵入する。そのため、吐出口近傍、又は吐出口内の汚れを好適に除去することができる。また、ブラシ毛3の先端とインクジェットヘッド1とが接触しても大きな負担がかからないため、インクジェットヘッド1のインク吐出面2が損傷することを防止できる。
【0083】
したがって、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置20は、長期間にわたって高画質印刷が可能である。
【0084】
インクジェット記録装置20は、ブラシ毛2に振動を与える振動付加手段をさらに備える。
【0085】
振動付加手段がブラシ毛3に振動を与えることによって、ブラシ毛3の先端が吐出口に侵入しやすくなる。よって、吐出口に付着した付着物を好適に除去することができる。
【0086】
インクジェット記録装置20では、上記振動付加手段は、超音波を発生させてブラシ毛3に振動を与える。
【0087】
振動付加手段が超音波を発生させることによって、ブラシ毛3は微細に振動する。ブラシ毛3の微細な振動により吐出口に付着した付着物が離れやすくなるため、当該付着物を除去することが容易である。
【0088】
インクジェット記録装置20は、ブラシ毛3に洗浄液を供給する洗浄液供給手段6をさらに備える。
【0089】
洗浄液供給手段6がブラシ毛3に洗浄液を供給することによって、ブラシ毛3に当該洗浄液が付着する。ブラシ毛3に付着した洗浄液によって、吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物の一部を溶かして除去することが容易である。
【0090】
また、複数のブラシ毛3が密集している場合、毛細管現象によってブラシ毛3の間に洗浄液が保持される。この場合、吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物の一部を溶かして除去することがより容易である。
【0091】
超音波によりブラシ毛3に振動を与えている場合、ブラシ毛3に付着した洗浄液を介して、吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物に超音波を付与することができる。したがって、上記付着物を容易に除去することができる。
【0092】
インクジェット記録装置20は、上記吐出口の径に対する上記先端の径の割合は、4%以上、50%以下である。
【0093】
先端の径の割合が4%以上であることにより、ブラシ毛3は吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物を好適に除去することができる。先端の径の割合が50%以下であることにより、ブラシ毛3の先端はより容易に吐出口に侵入することができ、当該吐出口に付着した付着物を好適に除去することができる。
【0094】
インクジェット記録装置20では、ブラシ毛3は、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレンからなる群より選択される材料から形成される。
【0095】
上記材料から形成されるブラシ毛3は、耐摩耗性及び耐溶剤性に優れている。よって、長期間にわたってインクジェットヘッド1の清掃性能を維持することができる。
【0096】
本発明の第1実施形態に係るインクジェットヘッド1の清掃方法は、インクを吐出する吐出口が形成されたインク吐出面2を有するインクジェットヘッド1を、ブラシ毛3により清掃する清掃工程を含み、上記清掃工程では、上記吐出口の径よりも細い先端の径を有するブラシ毛3が、インク吐出面2に接触することにより、上記吐出口又はインク吐出面2に付着した付着物を除去する。
【0097】
第1実施形態に係るインクジェットヘッド1の清掃方法によれば、上記インクジェット記録装置20と同様の効果を奏する。
【0098】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係るインクジェットヘッドの清掃方法は、インクジェット印刷装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 インクジェットヘッド
2 インク吐出面
3 ブラシ毛
4 ブラシ本体
5 ブラシ移動手段
6 洗浄液供給手段
7 洗浄液受け
8 吐出口の列
11 ブラシ回転手段
12 洗浄槽
20、30 インクジェット記録装置
図1
図2
図3