特許第6041621号(P6041621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041621
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】センサ及びロボット装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/16 20060101AFI20161206BHJP
   B25J 19/02 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   G01L5/16
   B25J19/02
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-236796(P2012-236796)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-85310(P2014-85310A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100124442
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 創吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修一
【審査官】 濱本 禎広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−145286(JP,A)
【文献】 特開2004−325328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00− 5/28
B25J 19/00−19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束発生源と、第1の磁電変換素子と第2の磁電変換素子とを有するセンサであり、
前記磁束発生源は、第1の磁石と第2の磁石とを少なくとも有しており、
前記第1の磁石の磁極面の第1の磁極と、前記第2の磁石の磁極面の第2の磁極とは、隣り合っており、
前記第1の磁極と、前記第2の磁極とは逆極性であり、
前記第1の磁電変換素子は、前記第1の磁石の前記磁極面の中央部に対向して配置され、
前記第2の磁電変換素子は、前記第1の磁石と前記第2の磁石との境界部に配置され、
前記センサは記憶部と演算部を有し、
前記記憶部には、予め設定された閾値と、前記第2の磁電変換素子の、前記センサに負荷が加わっていない状態で且つ前記センサに外力を受けていない状態での出力値である参照値が記憶され、
前記演算部は、前記第2の磁電変換素子から出力された検出値と、前記参照値と、の差と、前記閾値とを比較することを特徴とするセンサ。
【請求項2】
前記検出値が前記閾値を超えた場合、アラートを表示することを特徴とする請求項1記載のセンサ。
【請求項3】
センサを搭載したロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御部とを有するロボット装置であって、
前記センサは、
磁束発生源と、第1の磁電変換素子と第2の磁電変換素子とを有するセンサであり、
前記磁束発生源は、第1の磁石と第2の磁石とを少なくとも有しており、
前記第1の磁石の磁極面の第1の磁極と、前記第2の磁石の磁極面の第2の磁極とは、隣り合っており、
前記第1の磁極と、前記第2の磁極とは逆極性であり、
前記第1の磁電変換素子は、前記第1の磁石の前記磁極面の中央部に対向して配置され、
前記第2の磁電変換素子は、前記第1の磁石と前記第2の磁石との境界部に配置され、
前記制御部には、予め設定された閾値と、前記ロボットアームの所定の姿勢の時の前記第2の磁電変換素子の出力値である参照値が記憶され、
前記制御部は、前記第2の磁電変換素子から出力された検出値と、前記参照値と、の差と、前記閾値とを比較することを特徴とするロボット装置。
【請求項4】
前記検出値が前記閾値を超えた場合、アラートを表示することを特徴とする請求項記載のロボット装置。
【請求項5】
前記ロボットアームと、前記センサと、ロボットハンドとが直列に連結されており、前記センサの垂直方向を、前記ロボットアームの自由端と前記ロボットハンドとを結ぶ方向としたとき、前記所定の姿勢は、前記センサに水平方向の負荷が加わらない姿勢とする請求項3または4に記載のロボット装置。
【請求項6】
前記制御部には、ロボットアームの姿勢もしくはロボットアームの移動によって生じる前記センサに加わる力を減算する補正値を算出する請求項に記載のロボット装置。
【請求項7】
前記補正値によって前記参照値を補正することを特徴とする請求項に記載のロボット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X軸,Y軸,Z軸方向に作用する力及びこれらの各軸まわりのモーメントにより、磁束発生源と磁電変換素子とが、相対に変位し、その変位によって生じる磁束変化を検出し、各軸方向に作用した力及び各軸まわりのモーメントを検出するための磁気式力覚センサ及びそれを有するロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
力覚センサは、X軸,Y軸,Z軸の3次元座標空間における各軸の並進方向の力Fx,力Fy,力Fzを検出し、さらに、X軸,Y軸,Z軸の回転方向のモーメントMx,モーメントMy,モーメントMzの最大6軸の力およびモーメントを検出するセンサである。この力覚センサは、例えば産業用ロボットハンドの手首部分に取り付けられて、組付け作業に生じる力とモーメントを検出し、その検出値に応じて組付け作業動作を修正することが可能である。
【0003】
力覚センサは、歪ゲージ式センサ、静電容量式センサ、磁気式センサがあり、用途に応じてさまざまな方式の力覚センサがある。このうち、磁気式の力覚センサは、構成がシンプルで安価に製造することができるため、各種用途での活用が期待されている。しかしながら、一般の磁気式のセンサは、その検出原理上、多軸干渉という現象(すなわち、水平方向のみに変位する外力を受けたにもかかわらず、磁場の勾配の影響により垂直方向に変位した際に生じる出力変化も現れる現象)があったため、各軸の出力を独立に精度良く検知することが困難であった。
【0004】
そこで、この他軸干渉という現象を解決するための磁気式力覚センサが、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の磁気式力覚センサは、特定の方位に対して隣り合う磁石の磁極面が互いに逆となるように配された2つ以上の磁石から構成された磁束発生源を備えている。
【0005】
外力が作用する作用部には、磁極面が互いに逆となるように磁石の磁極面に対して対向した位置にそれぞれ設けられた第1磁電変換素子と、第1磁電変換素子の間に第2磁電変換素子とを設けられている。そして、第1磁電変換素子の出力に基づき垂直方向(Z方向)の力の成分を検出し、第2磁電変換素子の出力に基づき水平方向(X方向)の力の成分を検出する。
【0006】
このように垂直方向の力の成分と水平方向の力の成分を独立に検出することで、磁気式の力覚センサの課題であった他軸干渉の現象を解決している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−145286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、磁気式力覚センサはそもそも、磁石もしくは電磁石の如き磁束発生源から生じた磁場の強弱を検知することで、力及びモーメントを検出している。
【0009】
したがって、環境温度の変化によって磁束発生源の出力が変化すると、基準となる磁場の大きさが変化してしまう。例えば、磁石は温度上昇に伴い磁力が減少する「減磁」という現象が生じる。一方で、磁気式力覚センサが、強い外力により変形してしまった場合にも、磁束発生源と磁電変換素子との配置が変化し、基準となる磁場の出力が変化する。
【0010】
したがって、基準となる磁場の変動が、環境の温度変化によるものなのか、磁気式力覚センサの変形(=故障)によるものなのか、区別できない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のセンサは、磁束発生源と、第1の磁電変換素子と第2の磁電変換素子とを有するセンサであり、前記磁束発生源は、第1の磁石と第2の磁石とを少なくとも有しており、前記第1の磁石の磁極面の第1の磁極と、前記第2の磁石の磁極面の第2の磁極とは、隣り合っており、前記第1の磁極と、前記第2の磁極とは逆極性であり、前記第1の磁電変換素子は、前記第1の磁石の前記磁極面の中央部に対向して配置され、前記第2の磁電変換素子は、前記第1の磁石と前記第2の磁石との境界部に配置され、前記センサは記憶部と演算部を有し、前記記憶部には、予め設定された閾値と、前記第2の磁電変換素子の、前記センサに負荷が加わっていない状態で且つ前記センサに外力を受けていない状態での出力値である参照値が記憶され、前記演算部は、前記第2の磁電変換素子から出力された検出値と、前記参照値と、の差と、前記閾値とを比較することを特徴とする。
【0014】
本発明のロボット装置は、センサを搭載したロボットアームと、前記ロボットアームを制御する制御部とを有するロボット装置であって、前記センサは、磁束発生源と、第1の磁電変換素子と第2の磁電変換素子とを有するセンサであり、前記磁束発生源は、第1の磁石と第2の磁石とを少なくとも有しており、前記第1の磁石の磁極面の第1の磁極と、前記第2の磁石の磁極面の第2の磁極とは、隣り合っており、前記第1の磁極と、前記第2の磁極とは逆極性であり、前記第1の磁電変換素子は、前記第1の磁石の前記磁極面の中央部に対向して配置され、前記第2の磁電変換素子は、前記第1の磁石と前記第2の磁石との境界部に配置され、前記制御部には、予め設定された閾値と、前記ロボットアームの所定の姿勢の時の前記第2の磁電変換素子の出力値である参照値が記憶され、前記制御部は、前記第2の磁電変換素子から出力された検出値と、前記参照値と、の差と、前記閾値とを比較することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁気式力覚センサは、上述の構成をとることにより、環境の温度変化による磁場の変動を、磁気式力覚センサの変形による磁場の変動と独立して検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、磁気式力覚センサの概略的な図である。(b)は、磁気式力覚センサのセンシング部の概略的な斜視図である。(c)は、磁気式力覚センサのセンシング部の概略的な説明図である。
図2】4個の同形状の磁石3a〜3dを配置した場合における3次元静磁界モデルで磁場シミュレーションを行った結果を示す図である。
図3】本発明に係る6軸磁気式力覚センサの出力の流れを示したブロック図である。
図4】磁気式力覚センサに負荷が加えられていない状態のとき、環境温度(℃)の変化に応じて変化する、第1磁電変換素子及び第2磁電変換素子の出力を示した図である。
図5】本発明に係る第2磁電変換素子の出力、参照値、を説明する図である。
図6】本発明に係るロボット装置を表す図である。
図7】本発明に係るロボット装置を表す図である。
図8】時間にともなって第2磁電変換素子の出力がさまざまに変化する様子を示した図である。
図9】参照値を再設定する例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を用いて、磁気式力覚センサを説明する。以下、力とモーメントとを併せて“力”と称する場合がある。
【0018】
図1(a)は、磁気式力覚センサの概略的な断面図である。センシング部は筒状の筐体12の内部に収められている。
【0019】
磁気式力覚センサは、外部からの力が作用する作用部4、作用部の力を変位に変換する弾性体5、第1の磁電変換素子1,第2の磁電変換素子2が実装される基板6、複数の磁石から構成される磁束発生源7を有している。基板6に実装された磁電変換素子1,2は十字形の作用部4に固定され、作用部4は環状の弾性体5を介して柱状体を、間隔をあけて環状部材に配置した支持部材12に変位可能に支持されている。さらに、基板6に配された磁電変換素子1,2の出力は不図示の配線を介して出力をA/D変換する変換部9に送信される。加えて、磁気式力覚センサは演算部10および記憶部11を有している。また、磁束発生源を構成する第1の磁石に対向する位置に第1の磁電変換素子が配置され、磁束発生源を構成する第1の磁石及び前記第2の磁石との境界に近い側に第2の磁電変換素子が配置されている。
【0020】
作用部4と弾性体5及び支持部材12は互いに一体に形成されていてもよいし、図1のように各部材ごとに構成されていてもよい。また、支持部材12は円筒状部材など様々な形状が取りえるが、作用部4を支持できるものであればどのような構成でもよい。
つまり外力に対して磁電変換素子と磁束発生源との相対位置を変化できる構成であればどのような構成を採用してもよい。また、以下ではSUS等の高剛性の部材で弾性体5や筐体12を形成した場合について説明する。SUSを用いた場合は、産業用途のロボット等に搭載されて強い力が加わっても故障することなく力をセンシングできる磁気式力覚センサとなる。
【0021】
図1(b)は、磁気式力覚センサのセンシング部(検出部)の斜視図である。本発明においては、力のセンシングに関係する第1磁電変換素子1と第2磁電変換素子と磁束発生源7とを併せてセンシング部と称する。センシング部は以下で説明する作用部4と磁束発生源7との相対位置を、検知した磁場を電気信号に変換して検出する機能を果たす。センシング部は、磁石の磁極面に対向して配置された第1磁電変換素子1a〜1dと、第1磁電変換素子の間に配置された第2磁電変換素子2a〜2dと、磁束発生源(磁石)3a〜3dを有する。磁石3a〜3dは、磁極面に対して法線方向であるZ軸方向に対してそれぞれN極とS極とが互いに逆となるように配されている。
【0022】
磁束発生源7は、隣り合う磁石、すなわち第1の磁石と第2の磁石の磁極面が互いに逆となるように配された2つ以上の磁石から構成されていればよく、磁束発生源7を構成する磁石は4つであることが好ましい。
【0023】
第1の磁石の磁極面の第1の磁極と、第2の磁石の磁極面の第2の磁極とは、隣り合っており、かつ第1の磁極と、第2の磁極とは逆極性である。
【0024】
また、センシング部は一つである必要はなく、一つのセンサに複数のセンシング部が設けられていてもよい。
【0025】
また、本発明の力覚センサにおいて、配置された磁電変換素子の個数は、所望の精度に応じて適宜選択してよい。
【0026】
磁束発生源7は、N極とS極を一対有する2つ以上の磁石3から構成されている。磁束発生源7は、複数の磁石を連接してなるパターンを形成してもよい。すなわち、隣りあう磁石の境界を境にして、磁石から発生する磁場の向きが逆転するように構成されていれば良い。
【0027】
また、磁石3および磁束発生源7はNd−Fe−B磁石、Sm−Co磁石、Sm−Fe−N磁石、フェライト磁石に代表されるような永久磁石であってもよく、磁性体まわりにコイルを巻き、通電することによって磁力を発生させる電磁石であってもよい。磁電変換素子1,2は、ホール素子、MR素子、磁気インピーダンス素子、フラックスゲート素子、巻き線コイルである。
【0028】
作用部4にX軸方向の力Fx、Y軸方向の力Fy、Z軸方向のモーメントMzを受けると、磁電変換素子1,2は、水平方向(X軸−Y軸平面上)に磁束発生源7に対して相対的に変位する。一方で、作用部4にX軸方向のモーメントMx、Y軸方向のモーメントMy、Z軸方向の力Fzを受けると、磁電変換素子1,2は、垂直方向(Z軸−X軸またはZ軸−Y軸平面上)に相対的に変位することになる。「水平方向」とは、磁気式力覚センサにおける磁束発生源7の磁極面に対して平行な平面上の方向を示している。「X軸−Y軸平面」も同じ意味で使用する。また、「垂直方向」とは、磁極面に対して垂直なZ軸方向を示している。磁電変換素子1,2は、この変位によって生じる磁電変換素子を通過する磁束密度の変化を検出して、力及びモーメントに変換する。
【0029】
図1(c)は、センシング部の平面図であり、発生する磁力線も併せて描いている。図1(c)は、磁石3を4個配置し、隣り合う磁石3はZ軸方向に対して磁極を逆極性としている。磁電変換素子1,2は、磁石3の磁極面と対向するように配置し、それぞれ磁場のZ軸方向成分を検出するように配置してある。第1磁電変換素子1は、Z軸方向の変位に対しては流入する磁場のZ軸方向成分の磁束密度の変化は大きいが、X軸方向の変位に対しては、流入する磁場のZ軸方向成分の磁束密度の変化は小さい。一方、第2磁電変換素子2は、X軸方向の変位に対しては流入する磁場のZ方向成分の磁束密度の変化は大きいが、Z軸方向の変位に対しては流入する磁場のZ方向成分の磁束密度の変化は小さいことが分かる。
【0030】
図2(a)、(b)は、上述した4個の同形状の磁石3a〜3dを配置した場合における3次元静磁界モデルで磁場シミュレーションを行った結果を示している。図2(a)、(b)のデータは、空気中にZ軸方向に5mmの厚み、X軸方向に5mmの厚み、Y軸方向に5mmの厚みを有する磁石3a〜3dを4個配置した場合のデータである。また、隣り合う磁石3a〜3dは磁極が逆極性としている。ここで、磁石3a〜3dには残留磁束密度が1.4Tであり、保磁力が1000kA/mであるNd−Fe−B磁石の特性を設定している。
【0031】
4つの第1の磁電変換素子1a〜1dと、4つの第2の磁電変換素子2a〜2dとは、磁石3a〜3dと対向するように配置して磁束のZ方向成分を検出するようにしている。図2(a)は、磁石3a〜3dの磁極面の中心に対向して配置された第1磁電変換素子1a周辺(磁極面からZ軸方向へ0.7mm離れた位置を基準にしている)における磁束密度Z軸成分の様子と、Z軸方向およびX軸方向にそれぞれ変位させた時の磁束密度の変化を示している。Z軸方向の変位に対しては磁束密度の変化は大きいが、X軸方向の変位に対しては磁束密度の変化は小さい。
【0032】
また、発生した磁場の対称性から、磁石の磁極面の中心に対向して配置された第1の磁電変換素子1b〜1dにおいても同様な特性を示す。
【0033】
図2(b)は、隣り合う磁石3a〜3dの境界に対向して配置された第2磁電変換素子2a周辺(磁極面からZ方向へ0.7mm離れた位置を基準にしている)における磁束密度Z軸成分の様子と、Z軸方向およびX軸方向にそれぞれ変位させた時の磁束密度の変化を示している。X軸方向の変位に対しては磁束密度の変化は大きいが、Z軸方向の変位に対しては磁束密度の変化は小さい。
【0034】
また、発生した磁場の対称性から、磁石の境界に対向して配置された第2の磁電変換素子2b〜2dにおいても同様の特性を示す。
【0035】
以上、説明したように、磁束発生源7が2×2個の磁石で構成することにより、X軸,Y軸,Z軸全ての方向の変位に対して他軸干渉の低減効果を得ることが可能となる。次に、2×2個の磁石3a〜3dで構成された磁束発生源7により6軸の力およびモーメントを検出する原理について、本発明に係る6軸力覚センサの出力の流れを示したブロック図である図3を参照しながら説明する。
【0036】
[垂直方向成分Fz,Mx,Myの検出]
垂直方向成分Fz,Mx,Myを算出するためには、磁石の磁極面の中心に対向して配置された第1の磁電変換素子1a〜1dによって検出された垂直方向成分の磁場を用いる。第1の磁電変換素子1aの変位によって生じる出力変化を信号増幅部8で増幅し、A/D変換器等を有する変換器9を用いてV1aとして検出する。同様に、第1の磁電変換素子1b〜1dについてもV1b〜V1dとする。
Fz=V1a+V1b+V1c+V1d
Mx=(V1a+V1b)−(V1c+V1d)
My=(V1b+V1c)−(V1a+V1d)
Fz, Mx, My は、演算部10で以上のように計算される。Fzは4つの素子の総変化量により算出し、MxはX軸方向に対して平行に配置した素子2組のペアの変化量によって算出し、MyはY軸方向に対して平行に配置した素子2組のペアの変化量により算出することができる。
【0037】
[水平方向成分Fx,Fy,Mzの検出]
水平方向成分Fx,Fy,Mzを算出するためには、第1の磁電変換素子の間にそれぞれ配置された第2の磁電変換素子2a〜2dによって検出された水平方向成分の磁場を用いる。第2の磁電変換素子2aの変位によって生じる出力変化を信号増幅部8で増幅し、A/D変換器等からなる変換器9を用いてV2aとして検出する。同様に、第2の磁電変換素子2b〜2dについてもV2b〜V2dとする。
Fx=V2b−V2d
Fy=V2a−V2c
Mz=V1a+V1b+V1c+V1d
Fx, Fy, Mz は、演算部10で以上のように計算される。FxはX軸方向に対して垂直に配置した素子のペアの変化量によって算出し、FyはY軸方向に対して垂直に配置した素子のペアの変化量によって算出し、Mzは4つの素子の総変化量により算出することができる。
【0038】
以上説明したように、2×2個の磁石の磁極面に対向してそれぞれ配置された4個の第1の磁電変換素子が垂直方向成分の力を検出し、第1の磁電変換素子の間にそれぞれ配置された4個の第2の磁電変換素子により水平方向成分の力を検出する。これにより、水平方向成分と垂直方向成分の他軸干渉を低減する6軸の磁気式力覚センサを提供することができる。
【0039】
本発明では、図3に示すように演算部に加えて、記憶部11を有している。記憶部11は、磁電変換素子に流入する磁場に対応した出力の値を記憶する。この記憶された値と、その後に測定された磁気式力覚センサの出力の値とを比較し、その値の変化が、環境温度の変化によるものなのか、変形(故障)によるものなのかを検知する方法を以下説明する。
【0040】
[環境温度の変化と各磁電変換素子の出力について]
図4は、磁気式力覚センサに負荷が加えられていない状態の時、環境温度(℃)の変化に応じて変化する第1の磁電変換素子の出力及び第2の磁電変換素子の出力を示したものである。
【0041】
第1の磁電変換素子1は、図1(a)および図1(b)に記載されているように、N極とS極とが互いに逆となるように配された複数の磁石で構成されている磁束発生源7に対して、磁石の磁極面の中央部に対向した位置に配置してある。一方、第2の磁電変換素子2は、第1の磁電変換素子1の間に配置してある。ここでは、第1の磁電変換素子1及び第2の磁電変換素子2は、共に垂直方向の磁場を検知するように配置されているものとして説明する。初期の温度を27℃として出力電圧が規格化されているとき、無負荷の状態のときには第1の磁電変換素子1及び第2の磁電変換素子2は共に出力電圧はゼロである。徐々に環境温度が上昇すると、磁場の強さの絶対値が低下し磁石が減磁するため第1の磁電変換素子1の出力電圧は変化する。図4では、説明のため減磁に伴い出力電圧が上昇するような変化をするグラフを記載した。このような、出力電圧は反転増幅回路を用いた際にしばしば生じる。
【0042】
一方で、第2の磁電変換素子2の出力電圧の変化は、ゼロ付近のまま、ほとんど変化が無い。
【0043】
以下、図1を参照しつつ具体的な数値を交えて説明する。磁気式力覚センサが無負荷の状態にあるとき、第1の磁電変換素子1の位置における垂直方向の磁束密度は、450mTであった。一方、第2の磁電変換素子2の位置における同じく垂直方向の磁束密度は0mTであった。複数の磁石で構成されている磁束発生源7の磁束密度の温度係数を−0.1%/℃とすると、磁束発生源7が配置されている環境温度が例えば20℃変化しただけで、磁束密度の強さが2%も変化するため、磁気式力覚センサを搭載した装置における装置側の仕様に応じて様々な不都合が起こる場合がある。
【0044】
磁気式力覚センサを搭載した装置の一例を挙げる。一般に、ロボット装置、特に産業用途に利用されるロボットアームは、余分な振動を極力低減するために高剛性に設計されている。また、力を検出するセンサも同じく高剛性に設計される必要がある。したがって、力を検出するために許容される力覚センサの変形の度合いが非常に小さくなり、結果的に磁電変換素子に流入する磁場の変化も小さい。したがって、温度変化によって2%もの磁束密度の大きさの変動が生じると、故障なのか環境温度の変化による出力の変動なのか区別がつかず力の検出そのものが困難となる怖れがある。
【0045】
[参照値と、磁気式力覚センサの検査について]
あらかじめ磁気式力覚センサに外力が加わっていない状態で第2の磁電変換素子2の出力を参照値として記憶部11に記憶しておく。そして、記憶部11に記憶された参照値(値P1)と、磁気式力覚センサを無負荷の状態にした上で現在の第2の磁電変換素子2とを、所望のシーンで〔=磁気式力覚センサの出力が適正かどうかを検査したいタイミング(シーン)で〕比較する処理を行う。第2の磁電変換素子2は、磁気式力覚センサに対して水平方向に力が加わった場合には、その出力が大きく変化をする一方で、環境温度の変化による出力の変化は比較的小さい。したがって、磁気式力覚センサが無負荷の状態にもかかわらず出力(値P2)が参照値と比べて変化している場合は、温度による出力の変化ではなく、磁束発生源7と第2の磁電変換素子2の距離が変化していることに起因することがわかる。このことから磁気式力覚センサが変形、もしくは故障している可能性を検査することが可能である。
【0046】
力が加わっていないにも関わらず磁気式力覚センサの出力が変化しているということは、磁気式力覚センサの筺体やセンシング部を構成する部材が屈曲している可能性があり、センサが故障している可能性がある。
【0047】
図5に第2の磁電変換素子2の出力を利用して磁気式力覚センサの使用可否を判断する方法を示す。前述の記憶部11に記憶された参照値と、無負荷の状態にある磁気式力覚センサの第2の磁電変換素子2の出力を比較することで磁気式力覚センサの故障を、温度変化と区別して判断することができる。演算部10にて参照値と無負荷時の第2の磁電変換素子2の出力との差を計算し、その差が所定の閾値より小さければ、その磁気式力覚センサを引き続き使用してもよいことがわかる。一方で、参照値と無負荷時の第2の磁電変換素子2の出力との差が設定した閾値より大きければ、その磁気式力覚センサは故障の怖れがあると判断される。
【0048】
無負荷の状態にある第2磁電変換素子の出力、参照値、閾値を、大小関係を用いて表せば、
(1)出力−参照値 <閾値
この場合は設定された閾値に対して適正な範囲の出力が生じているため、磁気式力覚センサは引き続き使用可能であることが分かる。
【0049】
(2)出力−参照値 >閾値
一方、無負荷状態の磁気式力覚センサの第2の磁電変換素子2の出力が異常に大きい場合はこのような関係となる場合がある。この場合、環境温度の変化ではなく、無負荷状態における磁気式力覚センサの歪(=故障)が原因である可能性が高いので、使用不可の判断をすることができる。閾値の大きさに関して、その設定は任意だが、高い検出精度が要求される場合は閾値をより小さくするとよい。また、磁気式力覚センサを接触の有無を検知する場合に用いる場合は、検出精度を低くし、閾値をより高く設定するとよい。第2の磁電変換素子2の出力は、磁気式力覚センサにて力を検出する際に必ず用いられるものであり、ユーザーは所望の通知方法で磁気式力覚センサの使用可否を通知する方法をとることができる。PCに連結されたシステムの一部として磁気式力覚センサをモニタリングしながら用いるのであれば、ユーザーが利用しているPCのディスプレイに、故障のおそれがある磁気式力覚センサが存在していることを通知するアラートを表示しても良い。また、磁気式力覚センサを単体で用いる場合は、上述した故障の怖れがあると判断された場合に磁気式力覚センサに連結された発光素子が点灯する構成をとってもよい。上述の例では参照値と閾値とをそれぞれ設定して比較する例を説明したが、参照値と閾値の和に相当する設定値を定めておいて、検出された出力に対して直接比較して、磁気式力覚センサの使用可否判断を行ってももちろん良い。
【0050】
[ロボット装置に搭載した場合の実施例]
以下では磁気式力覚センサをロボット装置に搭載して用いる場合に関して、図面を用いつつ説明する。
【0051】
図6は、ロボット装置を表す図であり、架台に設置された複数の関節を有するロボットアーム、ロボットアームの自由端に連結された磁気式力覚センサ、ロボットハンドとが直列に連結された構成を示す。図6に示したロボットアームの姿勢の場合は、ロボットアームの自由端を基準にロボットハンドの方向、すなわち、X軸方向が磁気式力覚センサの垂直方向である。垂直方向と90°の角度で交差する方向(すなわち図中Z軸方向)が磁気式力覚センサの水平方向となる。つまり、磁気式力覚センサの姿勢に基づいて垂直方向、水平方向が決まる。また、ロボットアームの位置や姿勢を制御するロボット制御部、及び電力を供給する電源を備えている。
【0052】
このような構成をとることで、磁気式力覚センサの故障を迅速に判断し、不具合をつき止めることができる。特に、産業用途で用いられるロボットアームは、長時間休むことなく稼働するため、磁気式力覚センサに不具合が生じた場合であっても、容易には不具合を検知することができない場合が多い。また、ロボット装置のメンテナンス時にも、環境温度の変化による出力が変化したのか、センサを構成する部材の屈曲などに起因する故障が原因なのか区別して判断することは難しかった。したがって、上述した磁気式力覚センサを搭載したロボット装置を採用することによってこの課題は解消される。
【0053】
[ロボットアームに搭載した場合の参照値の設定例]
図7を用いて、磁気式力覚センサをロボットアームに搭載した場合に好適な参照値の設定例及びセンサの使用可否の判断方法について以下に説明する。前述したようにロボットアーム、磁気式力覚センサ、ロボットハンドを直列に連結したロボット装置の場合、磁気式力覚センサにかならず他の部材の自重が加わるため無負荷の状態とすることは難しい。
【0054】
一方で、磁気式力覚センサの構造上、磁気式力覚センサの垂直方向にのみ力が負荷されている場合には、水平方向には実質的には力が加わっていない無負荷の状態だと考えてよい。したがって、図7に示したようにロボットアームを制御して移動させ、ロボットアームの自由端、磁気式力覚センサ、ロボットハンドを結ぶ線が鉛直方向となる姿勢をとるときがそのような状況に相当する。
【0055】
したがって、磁気式力覚センサの垂直方向をロボットアームの自由端とロボットハンドとを結ぶ線を磁気式力覚センサの垂直方向としたとき、磁気式力覚センサの水平方向の負荷が加わっていないときの出力を参照値とすると良い。ロボットアームに対して磁気式力覚センサをどのような姿勢で取り付けるのかで、磁気式力覚センサの垂直方向は変わるので、ユーザーは所望の取り付け位置に対応した参照値の取得を行うことができる。
【0056】
[ロボット装置の自重の影響を考慮した実施例]
ロボットアームの姿勢によってさまざまな方向と大きさの力が磁気式力覚センサに加わり、出力に影響する。図8は、時間にともなって第2の磁電変換素子2の出力がさまざまに変化する様子を示したものである。産業用途のロボット装置の場合、プログラムされた動作に伴ってロボット装置は駆動するため、時間の経過にそって磁気式力覚センサの出力が規則的に変動する。そして、同じ姿勢での動作を反復して繰り返すことが多い。
【0057】
そのため、ユーザーは所望のタイミング(シーン)におけるロボットアームの姿勢によって生じる第1の磁電変換素子1及び第2の磁電変換素子2に生じる出力分をあらかじめ算出して、そのデータをロボット制御部にストックしておくことができる。ロボットの姿勢によって加わる出力に対して、あらかじめ算出され、ストックされたデータを減算いて、もしくは加算して、その影響を取り除く補正を行う演算をロボット制御部で行うことができる。図8(b)には静止状態で使用する場合の磁気式力覚センサの閾値を“旧閾値”として描いてある。ロボットアームに搭載して磁気式力覚センサを用いる場合はこの旧閾値に、例えばストックされたデータ値の最大値を加算して新閾値として用いる。再設定された閾値の利用は前述したものと同じなので、説明を省略する。
【0058】
図9は、閾値ではなく参照値を再設定する例を説明する図である。本例ではロボットアームが特定の姿勢を取った際の第2の磁電変換素子2の出力自体を新たな参照値として記憶部へ記憶する。すなわち、ある特定の姿勢での出力を利用して”新参照値”を作成する点に特徴がある。産業用途のロボットアームは繰り返し作業が多いため、特定の姿勢を維持して作業を行うことがしばしばある。したがって、その姿勢に対応して参照値を作成して記憶しておけば、その参照値を基準に容易に力覚センサの使用可否を判断することができる。
【0059】
参照値もしくは閾値を再設定するにあたり、さらに以下の2つの方法のいずれかを用いることができる。ユーザーはロボット装置に求める機能に応じて適宜選択するとよい。
【0060】
(1)リアルタイムに磁気式力覚センサの使用可否を判断する方法
例えば、先に説明したロボット装置の姿勢(図6)では、ロボットハンドの自重がそのまま磁気式力覚センサの水平方向(X軸の方位)に加わる。ロボット装置はプログラムに従って動作しているため、ある時刻にどのような姿勢をしていることはロボット制御部による演算結果から判断できるので、リアルタイムに計算して新参照値もしくは新閾値とする。
【0061】
ただし、リアルタイムで使用可否を判断できるがプログラムされた所定のタイミングのロボット姿勢に基づいた自重計算のため、精度が悪い。
【0062】
(2)毎回決められた姿勢で磁気式力覚センサの使用可否を判断する方法
使用可否を判断する姿勢をあらかじめ設定しておき、その姿勢をとるタイミングにおける力覚センサの値を新参照値、新閾値とする。決められた姿勢でしか使用可否を判断できないが、精度は高い。
【符号の説明】
【0063】
1(1a〜1d) 第1磁電変換素子
2(2a〜2d) 第2磁電変換素子
3(3a〜3d) 磁石
4 作用部
5 弾性体
6 磁電変換素子実装基板
7 磁束発生源
8 信号増幅部
9 変換部
10 演算部
11 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9