(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リードが形成されたプランジャと、前記プランジャを摺動自在に収容するプランジャバレルと、を具備し、前記プランジャの摺動運動によって燃料を圧送する燃料噴射ポンプにおいて、
前記リードは、前記プランジャの中心軸を中心として環状に設けられたリング部を有し、
前記プランジャは、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分の外径が等しくなるように加工された後にコーティング処理が施され、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分でコーティング皮膜の厚さが異なり、
前記リードは、前記プランジャの中心軸に沿うように直線状に設けられたストレート部を有し、
前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の互いに対向する側壁面と前記プランジャの外周面によって構成される角部に面取加工が施され、
前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の近傍にのみコーティング処理が施される、
ことを特徴とする燃料噴射ポンプ。
リードが形成されたプランジャと、前記プランジャを摺動自在に収容するプランジャバレルと、を具備し、前記プランジャの摺動運動によって燃料を圧送する燃料噴射ポンプにおいて、
前記リードは、前記プランジャの中心軸を中心として環状に設けられたリング部を有し、
前記プランジャは、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分の外径が異なるように加工された後にコーティング処理が施され、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分でコーティング皮膜の厚さが等しく、
前記リードは、前記プランジャの中心軸に沿うように直線状に設けられたストレート部を有し、
前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の互いに対向する側壁面と前記プランジャの外周面によって構成される角部に面取加工が施され、
前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の近傍にのみコーティング処理が施される、
ことを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【背景技術】
【0002】
従来、リードが形成されたプランジャと、プランジャを摺動自在に収容するプランジャバレルと、を具備し、プランジャの摺動運動によって燃料を圧送する燃料噴射ポンプが公知となっている。
【0003】
特許文献1に記載の燃料噴射ポンプでは、プランジャの外周全体にコーティング処理が施されている。これにより、プランジャとプランジャバレルの摩擦抵抗を低減させ、摩耗や焼付きを抑制しているのである。しかし、上記の技術を従前の燃料噴射ポンプにそのまま適用した場合、コーティング皮膜の厚さによってプランジャの外径が大きくなるので、プランジャとプランジャバレルのクリアランス(隙間)が狭くなる。すると、プランジャの摺動運動によって燃料を圧送する際に、溢流する燃料量が少なくなり、圧送特性が変わってしまうという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献2に記載の燃料噴射ポンプでは、プランジャにリング部を有するリードを形成し、該リング部よりも下側にのみコーティング処理を施している。これにより、リング部よりも上側では、プランジャとプランジャバレルのクリアランス(隙間)が変わらないので、圧送特性に変化が生じることはない。しかし、プランジャの耐久性を改善するには、かかる部分にもコーティング処理を施すことが有効である。そこで、外周全体にコーティング皮膜が形成されていながら、リング部よりも下側にのみコーティング処理を施した仕様と外形が等しいプランジャを備えることで、燃料の圧送特性を維持しつつ耐久性を向上させた燃料噴射ポンプが求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、外周全体にコーティング皮膜が形成されていながら、リング部よりも下側にのみコーティング処理を施した仕様と外形が等しいプランジャを備えることで、燃料の圧送特性を維持しつつ、耐久性を向上させた燃料噴射ポンプを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
請求項1においては、リードが形成されたプランジャと、前記プランジャを摺動自在に収容するプランジャバレルと、を具備し、前記プランジャの摺動運動によって燃料を圧送する燃料噴射ポンプにおいて、前記リードは、前記プランジャの中心軸を中心として環状に設けられたリング部を有し、前記プランジャは、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分の外径が等しくなるように加工された後にコーティング処理が施され、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分でコーティング皮膜の厚さが異なり、前記リードは、前記プランジャの中心軸に沿うように直線状に設けられたストレート部を有し、前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の互いに対向する側壁面と前記プランジャの外周面によって構成される角部に面取加工が施され
、前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の近傍にのみコーティング処理が施されるものである。
【0009】
請求項2においては、リードが形成されたプランジャと、前記プランジャを摺動自在に収容するプランジャバレルと、を具備し、前記プランジャの摺動運動によって燃料を圧送する燃料噴射ポンプにおいて、前記リードは、前記プランジャの中心軸を中心として環状に設けられたリング部を有し、前記プランジャは、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分の外径が異なるように加工された後にコーティング処理が施され、前記リング部よりも上側の部分と下側の部分でコーティング皮膜の厚さが等しく、前記リードは、前記プランジャの中心軸に沿うように直線状に設けられたストレート部を有し、前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の互いに対向する側壁面と前記プランジャの外周面によって構成される角部に面取加工が施され
、前記リング部よりも上側の部分では、前記ストレート部の近傍にのみコーティング処理が施されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
本発明によれば、リング部よりも上側の部分では、ストレート部の互いに対向する側壁面とプランジャの外周面によって構成される角部に面取加工が施される。これにより、油膜切れが起こりやすい角部の接触圧力を低減できるので、耐久性を更に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、燃料噴射ポンプ1について簡単に説明する。
【0014】
図1は、燃料噴射ポンプ1の構成を示す図である。なお、図中には、燃料噴射ポンプ1の上下方向を示している。
【0015】
燃料噴射ポンプ1は、燃料噴射ノズルへ燃料を圧送するものである。燃料噴射ポンプ1は、上部構造体2と下部構造体3を上下に組み合わせて構成される。
【0016】
上部構造体2及び下部構造体3は、主に、プランジャ21と、プランジャバレル22と、プランジャスプリング23と、コントロールスリーブ24と、コントロールラック25と、デリベリバルブ26と、で構成されている。
【0017】
プランジャ21は、プランジャバレル22に摺動自在に収容されている。プランジャ21は、プランジャスプリング23によってカムシャフト4側へ付勢されており、該カムシャフト4の回転によって摺動される。プランジャ21の上下方向の中途部には、該プランジャ21と一体となって回転するコントロールスリーブ24が外嵌されている。そして、コントロールスリーブ24の外周に設けられたピニオンギヤは、リンク機構を構成するコントロールラック25のラックギヤと噛合されている。
【0018】
燃料の圧送は、ギャラリーGからプランジャバレル22の内部に燃料が供給された後に、プランジャ21が上方向へ摺動してポート穴Pを塞ぐと開始される。詳細には、プランジャ21が下方向へ摺動すると、ギャラリーGからポート穴Pを介してプランジャバレル22の内部に燃料が供給される。その後、プランジャ21が上方向へ摺動してポート穴Pを塞ぐと燃料がギャラリーGへ逃げることができなくなり、燃料室Fc内の圧力が上昇する。そして、燃料室Fc内の圧力が所定の値を超えると、デリベリバルブ26が開弁して燃料の圧送が開始される。
【0019】
また、燃料の圧送は、プランジャ21に設けられたリードRとポート穴Pが連通することで終了する。詳細には、プランジャ21が上方向へ摺動してリードRとポート穴Pが連通すると、燃料がポート穴PからギャラリーGへ逃げて燃料室Fc内の圧力が低下する。そして、燃料室Fc内の圧力が所定の値よりも下がると、デリベリバルブ26が閉弁して燃料の圧送が終了する。
【0020】
なお、燃料の圧送量の調節は、「リードRとポート穴Pが連通する時期」を変更することで実現される。リードRは、プランジャ21の中心軸Lに対して所定の角度となるように斜めに設けられたスロープ溝Raを有している。従って、プランジャ21を回転させることで「リードRとポート穴Pが連通する時期」を変更できるのである。このように、燃料噴射ポンプ1は、プランジャ21の摺動運動によって燃料を圧送する際に、プランジャバレル22の内部からギャラリーGに逃げる燃料量を調節することができ、燃料の圧送量を変更可能としているのである。
【0021】
次に、第一実施形態に係るプランジャ21(以降「プランジャ121」とする)について詳細に説明する。
【0022】
図2は、第一実施形態に係るプランジャ121を示す図である。
図2(a)は、プランジャ121を示す模式図であり、
図2(b)は、プランジャバレル22に収容された状態のプランジャ121を示す拡大図である。
【0023】
上述したように、プランジャ121には、リードRが形成されている。リードRは、該リードRとポート穴Pが連通した際に、燃料室FcからギャラリーGへの燃料通路となる。つまり、リードRは、該リードRとポート穴Pが連通した際に、燃料室Fc内の圧力を低下させ、燃料の圧送を停止させる役割を有する。
【0024】
リードRは、プランジャ121の中心軸Lに対して所定の角度となるように斜めに設けられたスロープ溝Raを有している。また、リードRは、スロープ溝Raから中心軸Lを中心として環状に設けられたリング部Rbを有している。更に、リードRは、スロープ溝Raから中心軸Lに沿うように直線状に設けられたストレート部Rcを有している。ここで、「リング部Rbよりも上側の部分」とは、リング部Rbで仕切られた上側のステム部分を意味し、かかる部分をリード部21Rと定義する。また、「リング部Rbよりも下側の部分」とは、リング部Rbで仕切られた下側のステム部分を意味し、かかる部分をスカート部21Sと定義する。
【0025】
プランジャ121は、リード部21Rとスカート部21Sの外周にコーティング処理が施されている。つまり、プランジャ121は、該プランジャ121の外周全体にコーティング皮膜21Cが形成されている。本実施形態におけるコーティング皮膜21Cは、高周波プラズマCVD(化学気相蒸着)やスパッタリングなどの方法によって形成されるDLC(ダイアモンドライクカーボンの略称)被膜である。但し、固体皮膜潤滑剤であれば良く、これに限定するものではない。例えば、二硫化モリブデンや窒化ホウ素などでコーティング皮膜を形成することが挙げられる。
【0026】
プランジャ121は、リング部Rbよりも上側の部分と下側の部分の外径が等しくなるように加工された後に、コーティング処理が施されて完成される。つまり、プランジャ121は、リード部21Rの外径d1とスカート部21Sの外径d2が等しくなるように加工された後に、コーティング処理が施されるのである。なお、本実施形態におけるプランジャ121は、リード部21Rとスカート部21Sでコーティング皮膜21Cの厚さが異なっている。
【0027】
本プランジャ121の特徴は、リード部21Rとスカート部21Sでコーティング皮膜21Cの厚さが異なるようにコーティング処理を施す点にある。具体的に説明すると、リード部21Rの厚さc1に対して、スカート部21Sの厚さc2のほうが厚くなっている。そして、コーティング処理が施された後のリード部21Rの外径D1は、コーティング皮膜21Cの厚さc1を考慮すれば、従前のプランジャ210の寸法と同じとなっている(
図6参照)。従って、プランジャ121のリード部21Rとプランジャバレル22のクリアランス(隙間)S1は、従前と一切変わらない。また、コーティング処理が施された後のスカート部21Sの外径D2も、コーティング皮膜21Cの厚さc2を考慮すれば、従前のプランジャ210の寸法と同じとなっている(
図6参照)。従って、プランジャ121のスカート部21Sとプランジャバレル22のクリアランス(隙間)S2も、従前と一切変わらない。以上より、本プランジャ121では、以下の数式が成り立つ。
数式:d1=d2
数式:c1<c2
数式:D1=2c1+d1
数式:D2=2c2+d2
【0028】
このような構成により、本プランジャ121は、外周全体にコーティング皮膜21Cが形成されていながら、リング部Rbよりも下側にのみコーティング処理を施した仕様(従前のプランジャ210:
図6参照)と外形が等しい。従って、本プランジャ121を用いることにより、燃料の圧送特性を維持しつつ耐久性を向上させた燃料噴射ポンプ1を提供することが可能となる。
【0029】
次に、第二実施形態に係るプランジャ21(以降「プランジャ221」とする)について詳細に説明する。
【0030】
図3は、第二実施形態に係るプランジャ221を示す図である。
図3(a)は、プランジャ221を示す模式図であり、
図3(b)は、プランジャバレル22に収容された状態のプランジャ221を示す拡大図である。
【0031】
プランジャ221は、第一実施形態に係るプランジャ121とほぼ同様である。ここでは、プランジャ121と異なる点について説明する。
【0032】
プランジャ221は、リング部Rbよりも上側の部分と下側の部分の外径が異なるように加工された後に、コーティング処理が施されて完成される。つまり、プランジャ221は、リード部21Rの外径d1とスカート部21Sの外径d2が異なるように加工された後に、コーティング処理が施されるのである。なお、本実施形態におけるプランジャ221は、リード部21Rとスカート部21Sでコーティング皮膜21Cの厚さが等しくなっている。
【0033】
本プランジャ221の特徴は、リード部21Rとスカート部21Sの外径が異なるように加工する点にある。具体的に説明すると、リード部21Rの外径d1に対して、スカート部21Sの外径d2のほうが大きくなっている。そして、コーティング処理が施された後のリード部21Rの外径D1は、コーティング皮膜21Cの厚さc1を考慮すれば、従前のプランジャ210の寸法と同じとなっている(
図6参照)。従って、プランジャ221のリード部21Rとプランジャバレル22のクリアランス(隙間)S1は、従前と一切変わらない。また、コーティング処理が施された後のスカート部21Sの外径D2も、コーティング皮膜21Cの厚さc2を考慮すれば、従前のプランジャ210の寸法と同じとなっている(
図6参照)。従って、プランジャ221のスカート部21Sとプランジャバレル22のクリアランス(隙間)S2も、従前と一切変わらない。以上より、本プランジャ221では、以下の数式が成り立つ。
数式:d1<d2
数式:c1=c2
数式:D1=2c1+d1
数式:D2=2c2+d2
【0034】
このような構成により、本プランジャ221は、外周全体にコーティング皮膜21Cが形成されていながら、リング部Rbよりも下側にのみコーティング処理を施した仕様(従前のプランジャ210:
図6参照)と外形が等しい。従って、本プランジャ221を用いることにより、燃料の圧送特性を維持しつつ耐久性を向上させた燃料噴射ポンプ1を提供することが可能となる。
【0035】
次に、第三実施形態に係るプランジャ21(以降「プランジャ321」とする)について詳細に説明する。
【0036】
図4は、第三実施形態に係るプランジャ321を示す図である。
図4(a)は、プランジャ321を示す模式図であり、
図4(b)は、プランジャ321のリードRの近傍を示す斜視図である。
【0037】
プランジャ321は、上述したプランジャ121・221とほぼ同様である。ここでは、プランジャ121と異なる点について説明する。
【0038】
プランジャ321は、リング部Rbよりも上側の部分と下側の部分の外径が等しくなるように加工された後に、コーティング処理が施されて完成される。但し、リング部Rbよりも上側の部分では、ストレート部Rcの近傍にのみコーティング処理が施される。つまり、プランジャ321は、リード部21Rの外径d1とスカート部21Sの外径d2が等しくなるように加工された後に、リング部Rbよりも下側の部分とリング部Rbよりも上側の部分におけるストレート部Rcの近傍にコーティング処理が施されるのである。なお、本実施形態におけるプランジャ321は、リード部21Rとスカート部21Sでコーティング皮膜21Cの厚さが異なっている。しかし、リード部21Rとスカート部21Sでコーティング皮膜21Cの厚さが等しいとしても良い。
【0039】
本プランジャ321の特徴は、リング部Rbよりも上側の部分ではストレート部Rcの近傍にのみコーティング処理が施される点にある。具体的に説明すると、リング部Rbよりも上側の部分ではストレート部Rcの近傍であって該ストレート部Rcに沿うようにコーティング処理が施されている。本プランジャ321では、ストレート部Rcの右側に該ストレート部Rcに沿ってコーティング処理が施されているが、ストレート部Rcの左側若しくは両側にコーティング処理が施されていても良い。そして、リード部21Rの外径D1は、コーティング皮膜21Cが形成されている部分を除き、従前のプランジャ210の寸法と同じとなっている(
図6参照)。従って、プランジャ321のリード部21Rとプランジャバレル22のクリアランス(隙間)S1は、一部分を除いて変わらない。また、コーティング処理が施された後のスカート部21Sの外径D2も、コーティング皮膜21Cの厚さc2を考慮すれば、従前のプランジャ210の寸法と同じとなっている(
図6参照)。従って、プランジャ321のスカート部21Sとプランジャバレル22のクリアランス(隙間)S2も、従前と一切変わらない。以上より、本プランジャ321では、以下の数式が成り立つ。
数式:d1=d2
数式:c1<c2
数式:D1=d1
数式:D2=2c2+d2
【0040】
このような構成により、本プランジャ321は、リング部Rbよりも下側にのみコーティング処理を施した仕様(従前のプランジャ210:
図6参照)に対して変更点が少なく、信頼性を確保することが可能となる。
【0041】
次に、第四実施形態に係るプランジャ21(以降「プランジャ421」とする)について詳細に説明する。
【0042】
図5は、第四実施形態に係るプランジャ421を示す図である。
図5(a)は、プランジャ421を示す模式図であり、
図5(b)は、プランジャ421のリードRの近傍を示す斜視図である。
【0043】
プランジャ421は、上述したプランジャ121・221・321とほぼ同様である。ここでは、プランジャ321と異なる点について説明する。
【0044】
本プランジャ421の特徴は、ストレート部Rcの側壁面とプランジャ421の外周面によって構成される角部Eに面取加工が施される点にある。本プランジャ421では、互いに対向する側壁面とプランジャ421の外周面によって構成される二つの角部Eに面取加工が施されているが、更にスロープ溝Raの側壁面とプランジャ421の外周面によって構成される角部に面取加工が施されていても良い。
【0045】
このような構成により、本プランジャ421は、油膜切れが起こりやすい角部の接触圧力を低減できるので、耐久性を更に向上させることが可能となる。