(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041664
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】油焚きボイラ及び燃料油の噴霧化方法
(51)【国際特許分類】
F23D 11/10 20060101AFI20161206BHJP
F23C 99/00 20060101ALI20161206BHJP
F23D 11/38 20060101ALI20161206BHJP
F23D 11/44 20060101ALI20161206BHJP
F23K 5/10 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
F23D11/10 B
F23C99/00 332
F23D11/38 E
F23D11/44 Z
F23K5/10
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-280285(P2012-280285)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122775(P2014-122775A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橋口 和明
【審査官】
礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−021749(JP,A)
【文献】
特開2002−061807(JP,A)
【文献】
特開2010−107166(JP,A)
【文献】
特開昭56−142321(JP,A)
【文献】
特開昭49−121233(JP,A)
【文献】
再公表特許第01/066998(JP,A1)
【文献】
特開昭54−161126(JP,A)
【文献】
特開平10−008919(JP,A)
【文献】
特開2002−156102(JP,A)
【文献】
特開2002−115811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23D 11/00 − 11/02
F23D 11/10 − 11/22
F23D 11/36 − 11/46
F23C 99/00
F23K 5/00 − 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質油及び軽質油を含む燃料油と蒸気とを混合して炉内へ供給するバーナを備えた油焚きボイラであって、
前記軽質油の沸点範囲のうち最も高い温度以上に前記蒸気を加熱する加熱手段と、
前記バーナの前記炉内側先端に設けられ、前記加熱手段により加熱された前記蒸気と前記燃料油とを混合して前記炉内へ噴霧するバーナチップと、を備えることを特徴とする油焚きボイラ。
【請求項2】
前記燃料油に対する前記重質油の比率は、重量%で75%以上95%以下であり、
前記燃料油に対する前記軽質油の比率は、重量%で5%以上25%以下であることを特徴とする請求項1に記載の油焚きボイラ。
【請求項3】
重質油及び軽質油を含む燃料油と蒸気とを油焚きボイラのバーナ内で混合して噴霧化させる燃料油の噴霧化方法であって、
前記軽質油の沸点範囲のうち最も高い温度以上に前記蒸気を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程により加熱された前記蒸気と前記燃料油とを、前記バーナの前記油焚きボイラ側先端に設けられたバーナチップ内で混合して噴霧化する噴霧化工程と、を備えることを特徴とする燃料油の噴霧化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油と軽質油が混合された燃料油及び蒸気を炉内へ供給するバーナを備えた油焚きボイラ及び燃料油の噴霧化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
油焚きボイラのバーナには、蒸気や空気等の噴霧媒体と燃料油とを混合するためのバーナチップが装着されている。
バーナチップに供給された噴霧媒体及び燃料油は、バーナチップの混合室内で混合され、その後、油焚きボイラの炉内へ噴霧される(例えば、特許文献1参照)。
噴霧媒体と燃料油とを混合させて、燃料油を噴霧媒体によって微粒化することにより、効率良く着火及び燃焼を確立させることができる。
【0003】
ところで、油焚きボイラの燃料油として一般的に用いられている重質油は粘度が高いため、バーナに供給する際のハンドリングが困難である。そこで、重質油を油過熱器で加熱して低粘度化し、バーナに供給している。しかしながら、油加熱器を用いるとランニングコストがかかるため、近年は高粘度の重質油と低粘度の軽質油とを混合することにより、全体としての燃料油の粘度を低下させてバーナに供給する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−61609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高粘度の重質油に低粘度の軽質油を混合して燃料油の粘度を低下させる方法では、
図9に示すように、高粘度の重質油の沸点範囲と低粘度の軽質油の沸点範囲とが異なっているため、高粘度の重質油の一部が燃焼されずに固体化して排ガス中に含まれてしまい、燃焼排ガス中の煤塵濃度が増加するという問題点があった。
【0006】
そこで本発明は、上述したような従来技術の状況の下になされた発明であって、高粘度の重質油と低粘度の軽質油とを混合させた燃料油を燃焼させた場合に、燃焼排ガス中の煤塵濃度を低下させることが可能な油焚きボイラ及び燃料油の噴霧化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述したような従来技術における課題を解決するために発明されたものであって、本発明の油焚きボイラは、重質油及び軽質油を含む燃料油と蒸気とを混合して炉内へ供給するバーナを備えた油焚きボイラであって、
前記軽質油の沸点範囲のうち最も高い温度以上に前記蒸気を加熱する加熱手段と、
前記バーナの前記炉内側先端に設けられ、前記加熱手段により加熱された前記蒸気と前記燃料油とを混合して前記炉内へ噴霧するバーナチップと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の油焚きボイラによれば、軽質油の沸点範囲のうち最も高い温度以上に加熱された蒸気と燃料油とをバーナチップ内で混合することで、燃料油に含まれる軽質油を揮発させることができる。これにより、揮発した軽質油の気泡が液体状の重質油内に混入される。そして、液体状の重質油内に混入された軽質油の気泡は、バーナチップから炉内に噴射される際に急激に膨張する。軽質油の気泡の膨張によって重質油は微粒化されて重質油の揮発が促進される。したがって、重質油の燃焼性を向上させることができる。これにより、残留炭素分が減少して煤塵の発生を低減することができる。
なお、本明細書中では、重質油とは原油の減圧蒸留残渣物(例えば、ビチューメン等)とし、軽質油とは原油の蒸留物等(例えば、ガソリン基材、灯油、軽油等)又は常圧蒸留残渣物等(例えば、ヘビーオイル)とする。
【0009】
また、前記燃料油に対する前記重質油の比率は、重量%で75%以上95%以下であり、前記燃料油に対する前記軽質油の比率は、重量%で5%以上25%以下であることとしてもよい。
【0010】
このように、重質油及び軽質油の比率をそれぞれ重量%で75%以上95%以下、5%以上25%以下とすることで、煤塵の発生を低減しつつ、燃料油のコストを低減することができる。
例えば、軽質油の比率を5%未満とすると、バーナチップ内での揮発量が少なくなり、重質油を十分に微粒化することができなくなるため、煤塵の発生を低減できなくなる。また、軽質油の比率を25%よりも多くすると、燃料油のコストが高くなってしまう。このため、軽質油の配合を5%以上25%以下とすることが好ましい。
【0011】
また、本発明の燃料油の噴霧化方法は、重質油及び軽質油を含む燃料油と蒸気とを油焚きボイラのバーナ内で混合して噴霧化させる燃料油の噴霧化方法であって、
前記軽質油の沸点範囲のうち最も高い温度以上に前記蒸気を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程により加熱された前記蒸気と前記燃料油とを、前記バーナの前記油焚きボイラ側先端に設けられたバーナチップ内で混合して噴霧化する噴霧化工程と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の燃料油の噴霧化方法によれば、軽質油の沸点範囲のうち最も高い温度以上に加熱された蒸気と燃料油とをバーナチップ内で混合することで、燃料油に含まれる軽質油を揮発させることができる。これにより、揮発した軽質油の気泡が液体状の重質油内に混入される。そして、液体状の重質油内に混入された軽質油の気泡は、バーナチップから炉内に噴射される際に急激に膨張する。軽質油の気泡の膨張によって重質油は微粒化されて重質油の揮発が促進される。したがって、重質油の燃焼性を向上させることができる。したがって、残留炭素分が減少して煤塵の発生を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高粘度の重質油と低粘度の軽質油とを混合させた燃料油を燃焼させた場合に、燃焼排ガス中の煤塵濃度を低下させることが可能な油焚きボイラ及び燃料油の噴霧化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るバーナの構造を示す側断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るバーナの構造を示す正面図である。
【
図3】本実施形態に係る油焚きボイラの概略構成図である。
【
図4】ガソリン基材とビチューメンとを混合した燃料油の揮発特性を示す図である。
【
図5】軽油とビチューメンとを混合した燃料油の揮発特性を示す図である。
【
図6】ヘビーオイルとビチューメンとを混合した燃料油の揮発特性を示す図である。
【
図7】
図1のA部を拡大して、バーナチップから燃料油を油焚きボイラ内に噴霧する状態を示す概念図である。
【
図8】所定温度以上に加熱された蒸気を用いた場合における煤塵の低減効果を示す図である。
【
図9】高粘度の重質油と低粘度の燃料油とを混合した燃料油の沸点分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいてより詳細に説明する。
ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限り、本発明の範囲をそれにのみ限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1及び
図2は、それぞれ本発明の実施形態に係るバーナの構造を示す側断面図、正面図である。
【0017】
図1及び
図2に示すように、バーナ1は、バーナ本体10と、バックプレート20と、バーナチップ30とを備えている。バーナ本体10の先端側にバックプレート20及びバーナチップ30が先端に向けて順に配設され、締付部材40によって固定されている。
【0018】
バーナ本体10は、内管12と外管14とから構成され、内管12の内部は蒸気通路16となり、内管12と外管14との間の環状空間は燃料油通路18となっている。
【0019】
バックプレート20は、バーナ本体10とバーナチップ30を連結するものである。このバックプレート20には、その中央部を貫通した蒸気用孔22が穿孔されており、当該蒸気用孔22は蒸気通路16に連通している。また、蒸気用孔22の外方の円周に沿って複数の燃料用孔24が貫通して穿孔されている。
【0020】
バーナチップ30の中央には蒸気室31が形成され、当該蒸気室31のバーナ本体10側は蒸気用孔22に連通している。
また、この蒸気室31から放射状に複数の蒸気噴出孔32が延出している。当該蒸気噴出孔32の先端延長線上には、混合孔34が設けられており、当該混合孔34はバーナチップ30の前側面に開口している。
【0021】
さらに、蒸気室31の外方の円周に沿って複数の燃料室36が設けられ、当該燃料室36のバーナ本体10側は燃料用孔24に連通している。
そして、これらの燃料室36からそれぞれ複数の燃料噴出孔38が延出しており、当該燃料噴出孔38の先端側は、それぞれ混合孔34の側部に開口している。
上記構成からなるバーナ1を有する油焚きボイラについて以下で説明する。
【0022】
図3は、本実施形態に係る油焚きボイラの概略構成図である。
図3に示すように、燃料油は燃料タンク4内に貯留されている。燃料油は、高粘度の重質油と低粘度の軽質油とを混合したものである。
重質油と軽質油との配合は、燃料油に対する軽質油の比率を重量%で5%以上25%以下とする。また、燃料油に対する重質油の比率を重量%で75%以上95%以下とする。
例えば、軽質油の比率を5%未満とすると、詳細は後述するが、バーナチップ30内での揮発量が少なくなり、重質油を十分に微粒化することができなくなるため、煤塵の発生を低減できなくなる。また、軽質油の比率を25%よりも多くすると、燃料油のコストが高くなってしまう。このため、軽質油の配合を5%以上25%以下とすることが好ましい。
特に、燃料油に対する重質油及び軽質油の比率をそれぞれ80%、20%とした場合に、煤塵の発生を効率良く低減し、且つ燃料油のコストを最も低減することができる。さらに、燃料油のハンドリングが容易となり、ポンプ等の燃料圧送装置6によって燃料油を供給することが可能となる。
【0023】
燃料タンク4内の燃料油は、燃料圧送装置6によりバーナ1へ供給される。そして、バーナ1へ供給された燃料油は、
図1に示すように、バーナ本体10の燃料油通路18、バックプレート20の燃料用孔24及びバーナチップ30の燃料噴出孔38を通過して、バーナチップ30内の混合孔34へ達する。
【0024】
また、
図3に示すように、蒸気を加熱する加熱手段8が設けられている。油焚きボイラ2内のボイラ水を加熱して生じた蒸気のうち、燃料油を微粒化するために必要な最小限の蒸気量が油焚きボイラ2から供給される。
【0025】
加熱手段8は、供給された蒸気を、軽質油の沸点範囲のうち最も高い所定温度以上に加熱する。所定温度は、燃料油に含まれる軽質油によって異なるため、軽質油の揮発特性を予め分析し、当該結果に基づいて設定される。
【0026】
例えば、軽質油、重質油としてそれぞれガソリン基材、ビチューメンを用いた場合には、
図4に示すように、ガソリン基材の沸点温度のうち最も高い温度である220℃以上に設定する。
【0027】
また、軽質油、重質油としてそれぞれ軽油(ガスオイル)、ビチューメンを用いた場合には、
図5に示すように、軽油の沸点温度のうち最も高い温度である370℃以上に設定する。
【0028】
さらに、軽質油、重質油としてそれぞれヘビーオイル、ビチューメンを用いた場合には、
図6に示すように、ヘビーオイルの沸点温度のうち最も高い所定温度である450℃以上に設定する。
【0029】
加熱手段8により加熱された蒸気は、バーナ1へ供給され、
図1に示すように、バーナ本体10の蒸気通路16、バックプレート20の蒸気用孔22及びバーナチップ30の蒸気室31へ達する。
蒸気室31内の蒸気は、蒸気噴出孔32を通って混合孔34へ噴出する。当該混合孔34へ噴出した蒸気は、混合孔34へ噴出した燃料油と混合される。
【0030】
図7は、
図1のA部を拡大して、バーナチップ30から燃料油を油焚きボイラ2内に噴霧する状態を示す概念図である。
図7に示すように、混合孔34内で蒸気と燃料油とが混合すると、蒸気の温度は軽質油の沸点以上なので、軽質油が揮発する。そして、混合孔34内は、揮発した軽質油の気泡が液体の重質油内に混入して、気液二相状態となる。
続いて、燃料油が混合孔34の開口部より噴出する。その際、蒸気及び揮発された軽質油は、急激に体積が膨張し、この膨張力によって重質油が微粒化され、図示しない着火源によって着火し、火炎を形成する。
重質油が微粒化されることで、重質油の燃焼性を向上させることができる。これにより、残留炭素分が減少して煤塵の発生を低減することができる。
【0031】
燃料油に含まれる軽質油の沸点範囲のうち最も高い所定温度以上に加熱した蒸気を燃料油と混合させた効果について検討した結果を以下で示す。
【0032】
軽油(ガスオイル)及びビチューメンを含む燃料油に温度の異なる蒸気を混合した場合の煤塵濃度をそれぞれ計測し、比較した。
具体的には、軽油(ガスオイル)及びビチューメンを含む燃料油と一般的にボイラから供給される蒸気(温度:160℃〜180℃)とを混合して燃焼させた場合の煤塵濃度と、軽油(ガスオイル)とビチューメンとを含む燃料油と上記所定温度以上に加熱した蒸気とを混合して燃焼させた場合の煤塵濃度と、を計測し、比較した。なお、煤塵濃度は、節炭器の出口で計測した。
【0033】
図8は、所定温度以上に加熱された蒸気を用いた場合における煤塵の低減効果を示す図である。
図8に示すように、一般的にボイラから供給される蒸気(温度:160℃〜180℃)と燃料油とを混合して燃焼させた場合(図中の従来の燃焼に対応)の煤塵濃度を100とすると、上記所定温度以上の蒸気と燃料油とを混合して燃焼させた場合(図中の本発明の燃焼に対応)の煤塵濃度は80となった。これにより、上記所定温度以上の蒸気を供給することで、重質油の燃焼性が向上して煤塵の発生を低減できることが確認された。
【0034】
上述した本実施形態に係る油焚きボイラ2及び燃料油の噴霧方法によれば、軽質油の沸点範囲のうち最も高い所定温度以上に加熱された蒸気と燃料油とをバーナチップ30内で混合することで、燃料油に含まれる軽質油を揮発させることができる。これにより、揮発した軽質油の気泡が液体状の重質油内に混入される。そして、液体状の重質油内に混入された軽質油の気泡は、バーナチップ30から油焚きボイラ2の炉内に噴射される際に急激に膨張する。軽質油の気泡の膨張によって重質油は微粒化されて重質油の揮発が促進される。これにより、重質油の燃焼性を向上させることができる。したがって、残留炭素分が減少して煤塵の発生を低減することができる。
【0035】
また、重質油及び軽質油の比率をそれぞれ重量%で75%以上95%以下、5%以上25%以下とすることで、煤塵の発生を低減しつつ、燃料油のコストを低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
重質油と軽質油が混合された燃料油及び蒸気を炉内へ供給するバーナを備えた油焚きボイラに適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 バーナ
2 油焚きボイラ
4 燃料タンク
6 燃料圧送装置
8 加熱手段
10 バーナ本体
12 内管
14 外管
16 蒸気通路
18 燃料油通路
20 バックプレート
22 蒸気用孔
24 燃料用孔
30 バーナチップ
31 蒸気室
32 蒸気噴出孔
34 混合孔
36 燃料室
38 燃料噴出孔
40 締付部材