特許第6041675号(P6041675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041675
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】鋳鉄管のブラスト処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/02 20060101AFI20161206BHJP
   B22D 29/00 20060101ALI20161206BHJP
   B24C 3/10 20060101ALI20161206BHJP
   B24C 9/00 20060101ALI20161206BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   C23C4/02
   B22D29/00 G
   B24C3/10
   B24C9/00 B
   B24C11/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-958(P2013-958)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-133908(P2014-133908A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(72)【発明者】
【氏名】明渡 健吾
(72)【発明者】
【氏名】道塚 太
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−277119(JP,A)
【文献】 特開2001−353661(JP,A)
【文献】 特開2002−178263(JP,A)
【文献】 特開平08−003633(JP,A)
【文献】 特開昭55−031533(JP,A)
【文献】 実開昭60−053463(JP,U)
【文献】 実開昭60−084254(JP,U)
【文献】 特開昭61−244463(JP,A)
【文献】 特開2001−234319(JP,A)
【文献】 特開2007−268643(JP,A)
【文献】 特開昭63−283863(JP,A)
【文献】 国際公開第1996/029443(WO,A1)
【文献】 実開昭55−070960(JP,U)
【文献】 米国特許第04338360(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00 − 6/00
B22D 29/00 − 31/00
B24C 1/00 − 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管Dの全体を収容可能な第1のブース11と、
鋳鉄管Dを部分的に収容可能な前記第1のブース11よりも寸法の小さい第2のブース21と、
前記第1のブース11の周囲に配置され第1の硬質粒子を前記第1のブース11へと投射可能な一または複数の第1の投射機12と、
前記第2のブース21の周囲に配置され第2の硬質粒子を前記第2のブース21へと投射可能な一または複数の第2の投射機22と、
前記第1のブース11内の硬質粒子を回収して前記第1の投射機12に供給可能な第1の回収機13と、
前記第2のブース21内の硬質粒子を回収して前記第2の投射機22に供給可能な第2の回収機23と、を備え、
前記第1の硬質粒子の衝突により前記鋳鉄管Dの外面の略全面に第1の粗面が形成可能になっており、
前記第2の硬質粒子の衝突により前記鋳鉄管Dの外面に局部的に前記第1の粗面よりも平均粗さの大きな第2の粗面が形成可能になっている、鋳鉄管のブラスト処理装置。
【請求項2】
前記第2のブース21は前記第1のブース11の外に設置されている、請求項1に記載の鋳鉄管のブラスト処理装置。
【請求項3】
前記第1の投射機12と前記第2の投射機22の出力は同じであり、
前記第2の硬質粒子は前記第1の硬質粒子よりも表面が鋭利であるか、または粒度が大きい請求項1または2に記載の鋳鉄管のブラスト処理装置。
【請求項4】
鋳鉄管Dの外面の略全面に硬質粒子を衝突させてその外面の略全面に第1の粗面を形成するステップと、
鋳鉄管Dの外面に部分的に硬質粒子を衝突させてその外面に局所的に前記第1の粗面よりも平均粗さの大きな第2の粗面を形成するステップと、
前記第1および第2の粗面が形成された鋳鉄管Dの外面に金属を加熱溶融させた溶射材料を吹き付けて溶射皮膜を形成するステップと、を含む溶射処理鋳鉄管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄管のブラスト処理装置および溶射処理鋳鉄管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土中に埋設して水道水の通路などに用いられる鋳鉄管は、その土中の湿気や内部を流通する水道水等による腐食から守るため、その表面(内面および外面)に防食処理が施されるのが一般的である。
このような鋳鉄管の防食処理のひとつとして、亜鉛などの金属を加熱溶融させた溶射材料を、その鋳鉄管の表面に吹き付けて溶射皮膜を形成する方法が知られている。
かかる溶射工程に先行して、鋳鉄管の表面にブラスト処理、すなわち鋳鉄管の表面に多数の硬質粒子を高速で投射し、その衝突により鋳鉄管の外面に不規則な凹凸を形成して粗面化すること、がおこなわれるのが通常である(たとえば特許文献1の発明の詳細な説明の段落0008および0009)。
こうして鋳鉄管の表面が粗面化することで、後続の溶射工程で吹き付けられる溶射材料の鋳鉄管表面への密着性が高まり、形成された溶射皮膜が損傷または剥離するのが抑制される。
【0003】
このような鋳鉄管の表面にブラスト処理をおこなうブラスト処理装置の一例を、図3に示す。
同図のように、従来の鋳鉄管のブラスト処理装置4は、鋳鉄管Dを収容するブース4aと、ブース4aの周囲に沿って配置された複数の投射機4bと、単一の回収機4cと、を備える。
【0004】
鋳鉄管のブラスト処理装置4のブース4a内には、鋳鉄管Dをその軸周りに回転可能に支持する支持ローラ4dが設置されており、この支持ローラ4dの下方には受皿4eが設置されている。受皿4eと回収機4cとは、図中鎖線で示した回収経路により接続されており、さらに回収機4cと各投射機4bとは、図中鎖線で示した供給経路によりそれぞれ接続されている。
そして、ブース4aの各投射機4bとの対向箇所には投射口が開口しており、この投射口を通じて各投射機4bからブース4a内の軸周りに回転している鋳鉄管Dに向けて、多数の硬質粒子が高速で投射される。
鋳鉄管Dに衝突した後の硬質粒子は、受皿4eへと落下し受皿4eから回収経路を通じて吸引等の適宜手段により回収機4cへと回収される。次いで回収された硬質粒子は、回収機4cから供給経路を通じて各投射機4bへと供給され、ふたたび投射機4bから鋳鉄管Dに向けて投射される。
これが繰り返しおこなわれ、鋳鉄管のブラスト処理装置4内をブース4aと投射機4b間で循環する硬質粒子が、連続的に鋳鉄管Dに衝突することで、ブラスト処理が実現される。
【0005】
ブラスト処理が終了した後の鋳鉄管Dは、つぎに図1(b)のような鋳鉄管の溶射処理装置3へと移送され、支持ローラ3bにより支持されて軸周りに高速回転しながら溶射ガン3aから溶射材料が吹き付けられることで表面に溶射皮膜が形成される。
こうして溶射皮膜が形成された鋳鉄管Dは、次いで、図1(c)のようにその内面にモルタルをライニングするが、その処理中に軸回りに高速回転することにより生じる遠心力で、支持ローラ3b´から浮き上がって落下等しないように、その軸方向の中間部の外面に対して、上方に設置された押さえローラ3c´が比較的大きな力で押し付けられている。
【0006】
このように、軸周りに高速回転する鋳鉄管Dの外面に、押さえローラ3c´が強く押し付けられると、鋳鉄管Dと押さえローラ3c´との摩擦力および衝撃により、鋳鉄管D外面の溶射皮膜が局部的に損傷または剥離するおそれがある。
かかる鋳鉄管Dの外面が局部的に損傷剥離等する問題は、モルタルライニング工程において鋳鉄管Dが押さえローラ3c´と接触する場合に限られず、後続する工程や、鋳鉄管Dの設置現場への搬送時、または鋳鉄管Dの現場での設置作業時等において、その鋳鉄管Dの外面に対して局所的に他の部材との大きな力での接触が生じる場合の全般に共通している。
【0007】
ところで、ブラスト処理の際に、使用する硬質粒子をさらに表面の鋭利なもの(鋭角の多いもの)としたり、投射機の出力を上げたりすることで、鋳鉄管の表面の全体をより粗い状態に仕上げて、溶射皮膜の密着性を高め、その剥離や損傷を防止することも考えられる。
しかし硬質粒子は、鋳鉄管のみならずブースやブース内に設置された各種機器にも衝突しているため、このようにブラスト処理装置全体のブラスト力を強化すると、ブラスト処理装置自体の損耗も激しくなり、部品の交換頻度が上がるなどして設備保全のコストが嵩んでしまう。
また表面の鋭利な硬質粒子は、表面粗さの大きな粗面を形成できる反面、鋳鉄管との衝突にともなう摩耗の進行も早く、表面が滑らかになると用をなさないことから、硬質粒子の交換頻度を上げる必要が生じ、ランニングコストも嵩んでしまう。
【0008】
外面に剥離または損傷が生じた鋳鉄管の全体に対し、ブラスト処理や溶射処理をやり直したり、当該損傷等した箇所のみについて、グラインダー処理等して滑らかにしたうえで部分的にブラスト処理や溶射処理をやり直したりすることも無論可能ではあるが、手間がかかり労務コストが嵩んでしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4502622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の解決すべき課題は、簡易かつ安価に、鋳鉄管の外面の特に傷付きやすい箇所における溶射皮膜の密着性を局部的に高めて、溶射皮膜の剥離や損傷を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するため、本発明にかかる鋳鉄管のブラスト処理装置においては、鋳鉄管の外面の略全面に第1の粗面が形成可能な第1の硬質粒子をその鋳鉄管の全体を覆う第1のブースに、同じ鋳鉄管の外面に前記第1の粗面よりも平均粗さの大きな第2の粗面を局部的に形成可能な第2の硬質粒子をその鋳鉄管を部分的に覆う第2のブースに、それぞれ流通させることにしたのである。
なお、以下本明細書における硬質粒子の平均粗さとは、十点平均粗さRz(μm)を意味する。
【0012】
より具体的には、鋳鉄管のブラスト処理装置を、鋳鉄管の全体を収容可能な第1のブースと、鋳鉄管を部分的に収容可能な前記第1のブースよりも寸法の小さい第2のブースと、前記第1のブースの周囲に配置され第1の硬質粒子を前記第1のブースへと投射可能な一または複数の第1の投射機と、前記第2のブースの周囲に配置され第2の硬質粒子を前記第2のブースへと投射可能な一または複数の第2の投射機と、前記第1のブース内の硬質粒子を回収して前記第1の投射機に供給可能な第1の回収機と、前記第2のブース内の硬質粒子を回収して前記第2の投射機に供給可能な第2の回収機と、を備えるものとしたのである。
そして、前記第1の硬質粒子の衝突により前記鋳鉄管の外面の略全面に第1の粗面が形成可能であり、前記第2の硬質粒子の衝突により前記鋳鉄管の外面に局部的に前記第1の粗面よりも平均粗さの大きな第2の粗面が形成可能であるように構成したのである。
【0013】
鋳鉄管のブラスト処理装置を以上のように構成すると、鋳鉄管の外面のうち、押さえローラが押し付けられるなどして特に溶射皮膜の剥離や損傷が生じやすい箇所に、平均粗さの大きな粗面を局部的に形成可能であるため、当該箇所における溶射皮膜の密着性が高まっており、その損傷等の発生を抑制することができる。
また、鋳鉄管のブラスト処理装置全体のブラスト力を強化する場合に比べて、装置自体の硬質粒子との衝突にともなう損耗を低減することができ、設備保全のコストを抑制することができる。
【0014】
さらに本発明にかかる鋳鉄管のブラスト処理装置においては、前記第2のブースは前記第1のブースの外に設置されているのが好ましい。
このように、第1のブースと第2のブースとが分離していると、付属する各機器や配線が入り組むことがなく、構造が簡略化されて故障等の発生を抑制することができる。
【0015】
また、硬質粒子の表面が鋭利であればあるほど、また硬質粒子の投射速度が速ければ速いほど、また硬質粒子の粒度が大きいほど、その衝突箇所における鋳鉄管の外面の平均粗さは大きくなる。
したがって、本発明のように鋳鉄管の第2の粗面の平均粗さを第1の粗面の平均粗さよりも大きくするには、たとえば、前記第1の投射機と前記第2の投射機の出力は同じであり、前記第2の硬質粒子は前記第1の硬質粒子よりも表面が鋭利であるようにするのが好ましい。このようにすると、第1および第2の投射機として同じものを用いることができる。または、前記第2の硬質粒子が前記第1の硬質粒子よりも粒度が大きいほうが好ましい。
あるいは、前記第2の投射機は前記第1の投射機よりも出力が大きく、前記第2の硬質粒子を前記第1の硬質粒子よりも高速で投射できるようになっているようにするのが好ましい。このようにすると、第1および第2の硬質粒子として同じものを用いることができる。
【0016】
さらに、本発明にかかる溶射処理鋳鉄管の製造方法を、鋳鉄管の外面の略全面に硬質粒子を衝突させてその外面の略全面に第1の粗面を形成するステップと、鋳鉄管の外面に部分的に硬質粒子を衝突させてその外面に局所的に前記第1の粗面よりも平均粗さの大きな第2の粗面を形成するステップと、前記第1および第2の粗面が形成された鋳鉄管の外面に、金属を加熱溶融させた溶射材料を吹き付けて溶射皮膜を形成するステップと、を含むものとしたのである。
ここで第1の粗面を形成するステップと、第2の粗面を形成するステップの順番の前後は特に限定されない。すなわち、第1の粗面を形成するステップと、第2の粗面を形成するステップとは、同時におこなっても、第1の粗面を形成するステップを第2の粗面を形成するステップよりも先におこなっても、第1の粗面を形成するステップを第2の粗面を形成するステップよりも後におこなっても、いずれでもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明を以上のように構成したので、簡易かつ安価に鋳鉄管の外面の特に傷付きやすい箇所における溶射皮膜の密着性を局部的に高め、溶射皮膜の剥離や損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1(a)】第1の実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置の概略図
図1(b)】実施形態の鋳鉄管の溶射処理装置の概略図
図1(c)】実施形態の鋳鉄管のモルタルライニング装置の概略図
図2】第2の実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置の概略図
図3】従来の鋳鉄管のブラスト処理装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1(a)および図2に示す実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置1、2は、図1(b)に示す実施形態の鋳鉄管の溶射処理装置3に先立って使用され、溶射処理装置3により形成される鋳鉄管Dの溶射皮膜の密着性を高めるために、鋳鉄管Dの外面に粗面加工(ブラスト加工)するものである。
これら実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置1、2では、鋳鉄管Dの外面の特に傷付きやすい箇所に、他の箇所よりも平均粗さの大きな粗面を形成可能であり、これにより後続の溶射処理で形成される当該箇所の溶射皮膜の密着性を特に高めて、その溶射皮膜の剥離または損傷を抑制することが可能となっている。
【0020】
図1(a)に示す第1実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置1は、第1および第2のブース11、21と、第1および第2の投射機12、22と、第1および第2の回収機13、23と、を備える。
【0021】
同図のように、第1のブース11は、鉄板やゴム板などを用いて鋳鉄管Dの全体が収容可能な寸法に適宜構成されており、その内部に複数のローラからなる支持ローラ11aと、受皿11bとを備える。このような第1のブース11としては、公知のブースが用いられる。
支持ローラ11aは、左右一対のローラが、第1のブース11の長手方向に二組並列することで形成されており、各一対のローラが鋳鉄管Dの軸方向の両端部をそれぞれ支持できるようになっている。鋳鉄管Dは、支持ローラ11aに支持された状態で各ローラが同方向に回転駆動することで、その軸周りに回転可能となっている。
また受皿11bは、第1のブース11内で支持ローラ11aの下方に配置されている。受皿11bは、鉄板等の適宜材料により底の浅い皿形に形成されている。
【0022】
第1の投射機12は、第1のブース11の周囲に沿って複数配置されている。図1(a)では、第1のブース11の上面に三機、側面に一機配置されているが、配置の位置や数は特にこの図には限定されない。このような第1の投射機12としては、公知の投射機が用いられる。
第1のブース11の各第1の投射機12との対向箇所には、それぞれ投射口が形成されており、各第1の投射機は、この投射口を通じて第1のブース11内に多数の第1の硬質粒子を高速で投射可能となっている。
各第1の投射機12は、第1のブース11内で支持ローラ11aに支持されて軸周りに回転する鋳鉄管Dの外面のほぼ全面に対して、第1の硬質粒子が満遍なく衝突するように、適宜調整されているものとする。図1(a)では、第1のブース11の側面に配置された第1の投射機12が、鋳鉄管Dの受口Sに対向しており、構造が比較的複雑でブラスト加工しにくい受口Sに、重点的に第1の硬質粒子が投射されるようになっている。
こうして、鋳鉄管Dに第1の硬質粒子が高速で衝突することで、その外面のほぼ全面に不規則な凹凸からなる第1の粗面が形成される。
第1の硬質粒子は、鋳鉄管Dに衝突した後に落下し、鋳鉄管Dの下方に配置された受皿11bに収容される。
【0023】
第1の回収機13は、第1のブース11の外部に配置されており、この第1の回収機13と第1のブース11内の受皿11bとは、金属パイプなどで適宜構成された第1の回収経路13aにより接続されている。このような第1の回収機13としては、公知の回収機が用いられる。
第1の回収機13には、吸引機構が付属するなどして、受皿11bに収容された第1の硬質粒子を、第1の回収経路13aを通じて回収できるようになっている。
さらに第1の回収機13と各第1の投射機12とは、第1の回収経路13aと同様に構成された第1の供給経路12aにより接続されており、回収された第1の硬質粒子はこの第1の供給経路12aを通じて各第1の投射機12へと供給されるようになっている。
こうして第1の投射機12からの第1の硬質粒子の投射、第1の回収機13による第1の硬質粒子の回収、第1の回収機13から第1の投射機12への第1の硬質粒子の供給、が繰り返されることで、鋳鉄管Dの外面のほぼ全面に対する第1の硬質粒子によるブラスト加工が連続的におこなわれることになる。
【0024】
一方、図1(a)のように、第2のブース21は、鉄板やゴム板などの適宜材料により、第1のブース11よりも寸法が小さく形成されており、第1のブース11の内部に収容された状態に配置されている。
そして、第2のブース21は、その両側面に開口が設けられるなどして鋳鉄管Dを挿通可能に構成され、鋳鉄管Dの全体ではなくその一部分が収容されるようになっている。同図では、第2のブース21は、鋳鉄管Dの軸方向の中間部の比較的狭い範囲を収容しているが、第2のブース21が収容する鋳鉄管Dの位置および範囲はこれに限定されない。
また第2のブース21の底部は、一体の受皿21bとなっている。なお受皿21bは、第2のブース21とは別体に構成してもよい。
【0025】
公知の機構よりなる第2の投射機22は、第2のブース21の周囲に沿って配置されている。図1(a)では、第2のブース21の上面に一機のみ配置されているが、配置の位置や数は特にこの図には限定されない。
第2のブース21の第2の投射機22との対向箇所には、投射口が形成されており、第2の投射機は、この投射口を通じて第2のブース21内に多数の第2の硬質粒子を高速で投射可能となっている。
第2の投射機22は、鋳鉄管Dの第2のブース21に収容された箇所の外面のほぼ全面に対して、第2の硬質粒子が満遍なく衝突するように、適宜調整されているものとする。 こうして、鋳鉄管Dに第2の硬質粒子が高速で衝突することで、その外面の第2のブース21に収容された箇所に局部的に、不規則な凹凸からなる第2の粗面が形成される。同図では、鋳鉄管Dの軸方向の中間部の外面に、第2の粗面が形成される。
第2の硬質粒子は、鋳鉄管Dに衝突した後に落下し、第2のブース21の底部の受皿21bへと収容される。
【0026】
公知の機構よりなる第2の回収機23は、第1および第2のブース11、21の外部に第1の回収機13に対して隣接して配置されており、この第2の回収機23と第2のブース21の底部の受皿21bとは、第2の回収経路23aにより接続されている。
第2の回収機23は、受皿21bに収容された第2の硬質粒子を、第2の回収経路23aを通じて回収できるようになっている。
さらに第2の回収機23と第2の投射機22とは、第2の供給経路22aにより接続されており、回収された第2の硬質粒子はこの第2の供給経路22aを通じて各第2の投射機22へと供給されるようになっている。
こうして第2の投射機22からの第2の硬質粒子の投射、第2の回収機23による第2の硬質粒子の回収および第2の投射機22への供給、が繰り返されることで、鋳鉄管Dの長手方向の中間部に対する第2の硬質粒子による局部的なブラスト加工が連続的におこなわれることになる。
【0027】
ここで第2の硬質粒子により形成される鋳鉄管Dの第2の粗面は、第1の硬質粒子により形成される鋳鉄管Dの第1の粗面よりも平均粗さが大きくなるようにブラスト処理装置は構成されている。その平均粗さ(Rz)の具体的数値は特に限定されないが、第1の粗面は30〜40μm、第2の粗面は50〜60μmであることが例示できる。
【0028】
その一態様としては、第2の硬質粒子として、第1の硬質粒子よりも表面が鋭利なもの(鋭角な箇所が多いもの)を用いる。たとえば、第1の硬質粒子として鋼製の球状粒子であるショットを、第2の硬質粒子として鋼製の多角形状粒子であるグリットを、それぞれ用いることが例示できる。その具体的な製品としては、ショットとして、IKKショット株式会社製のスチールショットが、グリットとして、IKK株式会社製のスチールグリットが挙げられる。また、グリットとショットを混合して、第1の硬質粒子としてグリットの配合割合が少ないものを、第2の硬質粒子としてグリットの配合割合が多いものを、それぞれ用いてもよい。
表面が鋭利な第2の硬質粒子は、表面が丸みを帯びた第1の硬質粒子よりもブラスト処理の対象物である鋳鉄管Dに表面粗さの大きな粗面を形成可能であるが、その反面、鋳鉄管との衝突にともなう摩耗の進行も早く交換頻度が増加してしまう。
実施形態のように、表面が鋭利な第2の硬質粒子を投射して平均粗さの大きな第2の粗面を形成する範囲を、鋳鉄管Dの全体ではなくその一部に限定することで、ランニングコストの増加を抑制することができる。
他の態様として、第2の硬質粒子として、第1の硬質粒子よりも粒度の大きなものを用いてもよい。
【0029】
さらに他の態様としては、第1の硬質粒子と第2の硬質粒子は同じ種類のものを用いるが、第2の投射機22として第1の投射機12よりも出力の大きなものを用い、第2の硬質粒子を第1の硬質粒子よりも高速で投射する。硬質粒子がより高速で鋳鉄管Dに衝突すると、鋳鉄管Dの外面に形成される凹凸はより大きなものとなり、平均粗さが大きくなる。
第2の硬質粒子として、交換頻度の高い表面が鋭利な硬質粒子を用いる必要がないため、ランニングコストを抑えることができる。
また、第1の硬質粒子と第2の硬質粒子が同じ種類であると、その回収機構としては同一のものを用いることができる。すなわち、図1(a)では、受皿11bと受皿21b、第1の回収機13と第2の回収機23を別体に図示しているが、第2のブース21の受皿21bを省略して第2の硬質粒子も第1のブース11の受皿11bに収容されるようにしたり、単一の回収機を第1の回収機13および第2の回収機23として兼用したり、第1の回収経路13aと第2の回収経路23aを単一の回収経路としたり、することができる。これによりブラスト処理装置1全体の構造が簡略化し、その製造コスト等を低減することができる。
なお、第2の投射機22として第1の投射機12よりも出力の大きなものを用い、さらに第2の硬質粒子として、第1の硬質粒子よりも表面が鋭利なものを用いてもよいことは無論である。
【0030】
ブラスト処理された鋳鉄管Dは、次に図1(b)の実施形態の溶射処理装置3へと移送される。このような溶射処理装置3としては、公知の溶射処理装置が用いられる。
溶射処理装置3は、溶射ガン3aと、支持ローラ3bと、を備え、これらが基台3dの上方に配置されている。
溶射ガン3aは、加熱溶融された亜鉛などの溶射材料を下方に向けて噴射できるようになっており、基台3dの長手方向に沿って往復移動可能となっている。
支持ローラ3bは、左右一対のローラが、基台3dの長手方向に二組並列してその基台上に設置されることで形成されており、各一対のローラが鋳鉄管Dの両端部をそれぞれ支持できるようになっている。鋳鉄管Dは、支持ローラ3bに支持された状態で各ローラが同方向に回転駆動することで、その軸周りに回転可能となっている。
【0031】
支持ローラ3bに支持される鋳鉄管Dに対し、溶射ガン3aから溶射材料が吹き付けられ、その外面に付着することで溶射皮膜が形成される。
鋳鉄管Dがその軸周りに回転し、かつ溶射ガン3aは、基台3dの長手方向、すなわち鋳鉄管Dの軸方向に沿って移動しながら溶射材料を下方に噴射することで、鋳鉄管Dの外面のほぼ全面に溶射皮膜が形成されることになる。
ここで、鋳鉄管Dの軸方向の中間部には、第2の粗面が形成されており、鋳鉄管Dの外面の他の箇所に形成された第1の粗面よりも平均粗さが大きくなっている。
このことから、第2の粗面では第1の粗面よりも溶射材料の密着性が高く、溶射皮膜の付着力が向上している。溶射皮膜の付着力は特に限定されないが、第1の粗面では2〜3MPa、第2の粗面では3〜4MPaであることが例示できる。
【0032】
溶射処理された鋳鉄管Dは、次に図1(c)の実施形態の鋳鉄管のモルタルライニング装置3´へと移送される。このようなモルタルライニング装置3´としては、公知のモルタルライニング装置が用いられる。
モルタルライニング装置3´は、ノズル3a´と、支持ローラ3b´と、押さえローラ3c´と、を備え、これらが基台3d´の上方に配置されている。
ノズル3a´は、鋳鉄管Dの開口に対向し、セメントモルタルを鋳鉄管Dの内部に流入できるようになっている。
支持ローラ3b´および基台3d´については、上述した溶射処理装置3における支持ローラ3bおよび基台3dと同様の構造であり、これらにより鋳鉄管Dは、その軸周りに回転可能に支持されている。ノズル3a´から鋳鉄管Dの内部に流入したセメントモルタルには、軸周りに高速回転する鋳鉄管Dの遠心力が加えられ、その管内面には、ほぼ均一の厚みのモルタル層が形成されるようになっている。
押さえローラ3c´は、回転する鋳鉄管Dが支持ローラ3b´から浮き上がって落下等しないように、その鋳鉄管Dの外面に上方から押し付けられている。
鋳鉄管Dの軸方向の中間部には、押さえローラ3c´の押し付けにより大きな摩擦力等が与えられるが、ここには第2の粗面が形成されて溶射皮膜の付着力が向上しているため、その溶射皮膜の剥離や損傷が抑制される。
【0033】
図2に第2の実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置2を示す。
この実施形態では、第1のブース11と第2のブース21とが分離、すなわち第2のブース21が第1のブース11の外部に配置されている。第1のブース11と第2のブース21とは、同一ライン上に並列しているのが好ましい。
その他の構成については、第1の実施形態とほぼ同様であり、詳細な説明は省略するが、第2のブース21には、鋳鉄管Dをその軸周りに回転可能に支持するための支持ローラ21aが付属し、またその受皿21bは第2のブース21とは別体に構成されている。
【0034】
鋳鉄管Dは、まず第1のブース11内でブラスト処理されて、その外面のほぼ全面に第1の粗面が形成される。次いで鋳鉄管Dは、第2のブース21の側へと適宜手段により移送され、第2のブース21内でブラスト処理されて、第2のブース21内に収容された軸方向の中間部に第2の粗面が形成される。
ブラスト処理を終えた鋳鉄管Dは、さらに図1(b)のような実施形態の鋳鉄管の溶射処理装置3へと移送されて溶射処理され、その外面のほぼ全面に溶射皮膜が形成されることになる。また図1(c)のような実施形態の鋳鉄管のモルタルライニング装置3´へと移送されてモルタルライニング処理され、その内面のほぼ全面にモルタル層が形成されることになる。
この実施形態では、第1のブース11と第2のブース21とが分離しているため、付属する各機器や配線が入り組むことがなく、構造が簡略化されて故障等の発生を抑制することができる。
【0035】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【0036】
上記実施形態では、鋳鉄管Dの第2の粗面は、モルタルライニング装置3´の押さえローラ3c´との当接箇所である軸方向の中間部に形成されているが、第2の粗面の形成箇所はこれに限定されない。
すなわち、後続する工程や、鋳鉄管Dの設置現場への搬送時、鋳鉄管Dの現場での設置作業時等において、その鋳鉄管Dの外面に対して局所的に他の部材との大きな力での接触が生じる場合、当該箇所に第2の粗面を形成することで溶射皮膜の密着性を高め、その剥離や損傷を抑制することができる。たとえばこれらの作業時に鋳鉄管Dの受口Sの近辺に工具を係合させるなどして、その箇所に大きな摩擦力が加えられる場合、当該受口Dの近辺に第2の粗面を形成すればよい。
また第2の粗面の形成範囲についても、鋳鉄管Dの外面の全面ではない限りにおいて、広めに形成してもよいし、複数個所形成してもよい。
【0037】
上記第2の実施形態では、第1のブース11におけるブラスト処理を先に、第2のブース21におけるブラスト処理を後におこなっているが、第2のブース21におけるブラスト処理を先に、第1のブース11におけるブラスト処理を後におこなってもよい。
また第1のブース11と第2のブース21を、異なるライン上に設けてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 第1の実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置
2 第2の実施形態の鋳鉄管のブラスト処理装置
11 第1のブース
11a 支持ローラ
11b 受皿
12 第1の投射機
12a 第1の供給経路
13 第1の回収機
13a 第1の回収経路
21 第2のブース
21a 支持ローラ
21b 受皿
22 第2の投射機
22a 第2の供給経路
23 第2の回収機
23a 第2の回収経路
3 実施形態の鋳鉄管の溶射処理装置
3a 溶射ガン
3b 支持ローラ
3d 基台
3´ 実施形態の鋳鉄管のモルタルライニング装置
3a´ ノズル
3b´ 支持ローラ
3c´ 押さえローラ
3d´ 基台
4 従来の鋳鉄管のブラスト処理装置
4a ブース
4b 投射機
4c 回収機
4d 支持ローラ
4e 受皿
D 鋳鉄管
S 鋳鉄管の受口
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図2
図3