特許第6041685号(P6041685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041685核酸合成用固相担体および核酸の合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041685
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】核酸合成用固相担体および核酸の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 21/00 20060101AFI20161206BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20161206BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   C07H21/00
   C08F212/14
   !C12N15/00 AZNA
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-11247(P2013-11247)
(22)【出願日】2013年1月24日
(65)【公開番号】特開2014-141435(P2014-141435A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】森 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 恵里
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−74979(JP,A)
【文献】 特開2005−97545(JP,A)
【文献】 特開2009−280544(JP,A)
【文献】 特開2006−342245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 1/00− 99/00
C08C 19/00− 19/44
C08F 6/00−246/00
C08F301/00
C12N 15/09
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノビニル単量体単位および架橋性ビニル単量体単位を含み、かつ表面に脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を有する共重合体からなる多孔質樹脂ビーズと、当該カルボキシ基と結合し得る基を介してカルボキシ基を有する開裂性リンカーとが共有結合してなる核酸合成用固相担体であって、該多孔質樹脂ビーズがスルホ基を有することを特徴とする、核酸合成用固相担体。
【請求項2】
モノビニル単量体単位がスチレン系単量体単位を含む、請求項1に記載の核酸合成用固相担体。
【請求項3】
スルホ基の、多孔質樹脂ビーズ重量に対する含有量が0.5〜40μmol/gである、請求項1または2に記載の核酸合成用固相担体。
【請求項4】
開裂性リンカーの、多孔質樹脂ビーズ重量に対する担持量が1〜60μmol/gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の核酸合成用固相担体。
【請求項5】
カルボキシ基と結合し得る基がヒドロキシ基またはアミノ基を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の核酸合成用固相担体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の核酸合成用固相担体を用いて、開裂性リンカーを介しヌクレオシドまたはヌクレオチドを順次結合させてオリゴヌクレオチドを得ることを含む、核酸合成方法。
【請求項7】
モノビニル単量体単位および架橋性ビニル単量体単位を含み、かつ表面に脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を有し、さらにスルホ基を有する共重合体からなる多孔質樹脂ビーズと、カルボキシ基を有する開裂性リンカーとを含む、核酸の固相合成用担体キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質樹脂ビーズに関する。より詳しくは、表面に脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基、および、スルホ基を有する、モノビニル単量体単位およびジビニル単量体単位からなる多孔質樹脂ビーズに開裂性リンカーを担持した核酸合成用固相担体に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAオリゴヌクレオチドまたはRNAオリゴヌクレオチドといった核酸の化学合成に、ホスホロアミダイト法を用いた固相合成法が広く用いられている。この方法は、例えば、先ず合成する核酸の3’末端になるヌクレオシドを、スクシニル基などの開裂性リンカーを介して固相合成用担体にあらかじめ担持させ、この担体を反応カラムに入れ、核酸自動合成装置にセットする。
【0003】
以降は核酸自動合成装置の合成プログラムにしたがって、例えば以下のように反応カラム中に合成用試薬が流される。
(1)トリクロロ酢酸/ジクロロメタン溶液またはジクロロ酢酸/トルエン溶液等による、ヌクレオシド5’−OH基の脱保護、
(2)ヌクレオシドホスホロアミダイト(核酸モノマー)/アセトニトリル溶液、および、活性化剤(テトラゾール等)/アセトニトリル溶液による5’ −OH基へのアミダイトのカップリング反応、
(3)無水酢酸/ピリジン/メチルイミダゾール/THF等による未反応の5’−OH基のキャッピング、および
(4)ヨウ素/水/ピリジン等によるホスファイトの酸化。
【0004】
この合成サイクルを繰り返し、目的の配列を持った核酸が合成される。最終的に合成された核酸は、アンモニアやメチルアミン等により開裂性リンカーを加水分解させることによって、固相合成用担体から切り出される(非特許文献1参照)。
【0005】
核酸の合成に使用される固相合成用担体としては、これまでCPG(Controlled Pore Glass)やシリカゲルのような無機粒子が用いられてきたが、近年、安価に、かつ大量に合成するために、固相合成用担体重量当りの核酸合成量を多くすることができる樹脂ビーズが用いられるようになってきた。このような樹脂ビーズとしては、例えば高架橋・非膨潤性の多孔質ポリスチレンビーズ(特許文献1参照)、低架橋・膨潤牲の多孔質ポリスチレンビーズ(特許文献2および3参照)等が挙げられる。
【0006】
一般に、合成するオリゴヌクレオチドの鎖長が長くなるほど、合成能(合成純度および合成量)が低下するという問題があり、これを解決するには、固相合成用担体の合成の起点となるヌクレオシドリンカーの担持量を少なくする必要がある。例えば、20塩基配列のDNAオリゴヌクレオチドを高純度で合成するには、市販の固相合成用多孔質樹脂ビーズ担体のヌクレオシドリンカー担持量は200μmol/g程度であるが、40塩基配列のDNAオリゴヌクレオチドの場合は80μmol/g以下にする必要がある。また、RNAや修飾オリゴヌクレオチドを合成する場合も、嵩張った保護基や修飾基を含有するアミダイトをカップリングするので、合成能が低下しないようにヌクレオシドリンカー担持量を少なくして合成することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−68593
【特許文献2】特開2005−325272
【特許文献3】特開2008−74979
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry(2000),UNIT 3.6 Synthesis of Unmodified Oligonucleotides
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、固相合成用担体として多孔質樹脂ビーズを用い、ヌクレオシドリンカー担持量を少なくしてオリゴヌクレオチドを合成した場合、予想外なことに予定されるよりも合成能が低くなるという問題があった。本発明は、高合成量かつ高純度で核酸を合成するための核酸合成用固相担体を提供することを目的とする。特に、長鎖オリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチドを低いリンカー担持量で合成するための核酸合成用固相担体を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、核酸合成用固相担体用多孔質樹脂ビーズにスルホ基を含有させることにより、低いリンカー担持量であっても高い合成能(高い合成純度および合成量)で、長鎖オリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチド、修飾オリゴヌクレオチドを合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
〔1〕 モノビニル単量体単位および架橋性ビニル単量体単位を含み、かつ表面に脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を有する共重合体からなる多孔質樹脂ビーズと、当該カルボキシ基と結合し得る基を介してカルボキシ基を有する開裂性リンカーとが共有結合してなる核酸合成用固相担体であって、該多孔質樹脂ビーズがスルホ基を有することを特徴とする、核酸合成用固相担体。
〔2〕 モノビニル単量体単位がスチレン系単量体単位を含む、前記〔1〕に記載の核酸合成用固相担体。
〔3〕 スルホ基の、多孔質樹脂ビーズ重量に対する含有量が0.5〜40μmol/gである、前記〔1〕または〔2〕に記載の核酸合成用固相担体。
〔4〕 開裂性リンカーの、多孔質樹脂ビーズ重量に対する担持量が1〜60μmol/gであることを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の核酸合成用固相担体。
〔5〕 カルボキシ基と結合し得る基がヒドロキシ基またはアミノ基を含む、前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の核酸合成用固相担体。
〔6〕 前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の核酸合成用固相担体を用いて、開裂性リンカーを介しヌクレオシドまたはヌクレオチドを順次結合させてオリゴヌクレオチドを得ることを含む、核酸合成方法。
〔7〕 モノビニル単量体単位および架橋性ビニル単量体単位を含み、かつ表面に脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を有し、さらにスルホ基を有する共重合体からなる多孔質樹脂ビーズと、カルボキシ基を有する開裂性リンカーとを含む、核酸の固相合成用担体キット。
【発明の効果】
【0012】
長鎖オリゴヌクレオチド、RNAオリゴヌクレオチドなどを低いリンカー担持量で合成する場合においても、本発明の核酸合成用固相担体は核酸の合成量および合成純度が高いので、本発明の多孔質樹脂ビーズを使用することで、従来の多孔質樹脂ビーズを用いた核酸合成用固相担体の場合よりも核酸合成を効率的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書において「核酸」とは、ヌクレオチドがホスホジエステル結合により連結された鎖状の化合物(オリゴヌクレオチド)を意味し、DNA、RNAなどが含まれる。核酸は1本鎖、2本鎖のいずれであってもよいが、核酸合成機による効率的な合成が可能であることから、好ましくは1本鎖である。本明細書において「核酸」には、アデニン(A)、グアニン(G)等のプリン塩基及びチミン(T)、シトシン(C)、ウラシル(U)等のピリミジン塩基を含有するオリゴヌクレオチドのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基を含有する修飾オリゴヌクレオチドも含まれる。
【0014】
核酸のヌクレオチド長は特に限定されないが、好ましくは2〜200ヌクレオチドである。一般にヌクレオチド長が長すぎると得られる核酸の収量や純度が低下するが、本発明においては20ヌクレオチド長以上の核酸の合成においても収量や純度が低下しにくい。
【0015】
本明細書において「リンカー」とは、共有結合を介して2つの物質を連結する分子をいう。本発明においては、リンカーは、多孔質樹脂ビーズと核酸とを連結する。
【0016】
本明細書において「多孔質樹脂ビーズ」とは、核酸合成反応を進行させる場として機能する固相担体であって、多数の細孔を有する粒状の樹脂をいう。ここで、粒状とは球状が好ましいが、一定形状(例えば、楕円球状などの略球状、多面体形状、円柱形状、金平糖形状などの異型形状など)を有していればよいことを意味する。
【0017】
(多孔質樹脂ビーズ)
本発明における多孔質樹脂ビーズの構造単位の一つであるモノビニル単量体単位は、芳香族系ビニル単量体と脂肪族系ビニル単量体とに大別される。
【0018】
芳香族系ビニル単量体としては、ビニル基を分子内に1個有する、環構成原子として炭素以外に窒素原子などのヘテロ原子を含有していてもよい環員数5〜6の芳香環が挙げられる。該芳香環はフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、メチル基、エチル基などの炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基(当該アルキル基は、ハロゲン原子、アルコキシ基などで置換されていてもよい)、アセトキシ基などの炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖のアシルオキシ基、アミノ基、アセチルアミノ基などの炭素数2〜10の直鎖又は分岐鎖のアシルアミノ基、シアノ基、ニトロ基などの置換基を有していてもよい。具体的には例えば、スチレン、エチルスチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ブチルスチレン等のアルキルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、フルオロスチレン、ペンタフルオロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン、クロロメチルスチレン、フルオロメチルスチレン等のハロゲン化アルキルスチレン、アミノスチレン、シアノスチレン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、ニトロスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0019】
脂肪族系ビニル単量体の一具体例は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルである。例えばアルキル基の炭素数が1〜20個の直鎖または分岐鎖状の1価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とから得られるエステルなどが挙げられる。当該アルコールは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エポキシ基、フェニル基などで置換されていてもよい。また、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのポリエチレングリコールモノアルキルエーテルなどとアクリル酸またはメタクリル酸とから得られるエステルなども含まれる。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸オクタフルオロペンチルなどが挙げられる。
【0020】
脂肪族系モノビニル単量体の別の具体例は、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル等に代表されるようなシアン化ビニル系モノマーである。
また、脂肪族系モノビニル単量体の別の具体例は、N−イソプロピルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−(メトキシメチル)メタクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等に代表されるような(メタ)アクリルアミド系モノマーである。
【0021】
モノビニル単量体は、単独で用いるほかに、異なるものを混合して用いることもできる。
【0022】
モノビニル単量体は、好ましくはスチレン系単量体、または、スチレン単量体およびそれ以外のモノビニル単量体の混合物である。
【0023】
本発明の多孔質樹脂ビーズの構造単位の一つである架橋性ビニル単量体は、架橋剤として使用されるものであり、ビニル基を分子内に2個以上、好ましくは2〜3個有し、前述のモノビニル単量体と架橋網目構造を形成しうるものである。例えば、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、トリビニルシクロヘキサン、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、それ以上の多価のエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジプロピレンエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリプロピレングリコール、それ以上の多価のプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ノナンジオールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
架橋性ビニル単量体は、単独で用いるほかに、異なるものを混合して用いることもできる。架橋性ビニル単量体は、特に好ましくはp−ジビニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、またはそれらの混合物である。
【0025】
本発明における多孔質樹脂ビーズの架橋性ビニル単量体単位は、多孔質樹脂ビーズ重量当りに占める量として100〜5000μmol/g、好ましくは300〜3000μmol/gである。架橋性ビニル単量体単位が100μmol/g未満では、得られる粒子の耐溶剤性、熱安定性、多孔性が十分でなく、核酸合成用固相担体として用いた時に所望の効果を期待し難い。逆に5000μmol/gを超えると、有機溶剤中での膨潤度が低くなるために、核酸合成用固相担体として使用した時に得られる核酸の合成純度および合成量が低下する傾向にある。
【0026】
多孔質樹脂ビーズの表面に存在する「脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基」は、カルボキシ基と脱水縮合反応して結合を形成しうるものであれば特に限定はなく、好ましくは、ヒドロキシ基またはアミノ基を含む基であり、具体的には、ヒドロキシ基、アミノ基、ヒドロキシメチル基等のヒドロキシ−C1−20アルキル基、アミノメチル等のアミノ−C1−20アルキル基などが挙げられる。
【0027】
脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基は、
(1)脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を含有するビニル単量体を、上記モノビニル単量体および架橋性ビニル単量体に共重合させるか、または
(2)加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基を含有するビニル単量体を、上記モノビニル単量体および架橋性ビニル単量体に共重合させた後に加水分解などの反応に付することによって、多孔質樹脂ビーズの表面に導入することができる。製法については後述する。
【0028】
多孔質樹脂ビーズにスルホ基を含有させるには、スルホ基を有するビニル単量体、例えば、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸を共重合する方法が挙げられる。
【0029】
多孔質樹脂ビーズに含有されるスルホ基は、一旦、懸濁共重合等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、導入することで製造してもよい。例えば、濃硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸等を用いて、ポリスチレン系多孔質樹脂ビーズを室温〜150℃にて数時間、加熱処理することによりベンゼン環にスルホ基を導入することができる。
【0030】
多孔質樹脂ビーズに含有されるスルホ基の多孔質樹脂ビーズ重量当りに占める量としては、0.5〜40μmol/gであり、好ましくは、0.7〜30μmol/gである。スルホ基量が0.5μmol/g未満では、固相合成用担体として用いたときに、ヌクレオシドホスホロアミダイトなどの合成用試薬が多孔質樹脂ビーズに吸着されるために、核酸の合成能が低くなる。スルホ基量が40μmol/gを超える場合、固相合成用担体として用いたときに、理由は分からないが核酸の合成能が低くなる。
【0031】
多孔質樹脂ビーズに含有されるスルホ基量は、多孔質樹脂ビーズを完全燃焼させて発生するガスを吸収液に捕集し、この液についてイオンクロマトグラフを用いてS(イオウ)量を定量することにより求められる。
【0032】
好ましい共重合体としては、スチレン−ヒドロキシスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−ヒドロキシメチルスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−アミノスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−アミノメチルスチレン−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−ヒドロキシスチレン−アクリロニトリル−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−ヒドロキシスチレン−メタクリロニトリル−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−ヒドロキシスチレン−N−イソプロピルアクリルアミド−ジビニルベンゼン系共重合体、スチレン−ヒドロキシスチレン−ジアセトンアクリルアミド−ジビニルベンゼン系共重合体等が挙げられる。
【0033】
多孔質樹脂ビーズの形状は、必ずしも厳密な球状を呈する必要は無く、一定形状の粒状であれば良い。しかしながら、固相合成用反応カラムヘの充填効率を高くでき、また、破損し難いという点から、多孔質樹脂ビーズは好ましくは球状である。
【0034】
多孔質樹脂ビーズのレーザー回折散乱法により測定したメジアン粒子径は、通常1〜1000μm、好ましくは10〜500μm、より好ましくは20〜300μmである。
【0035】
レーザー回折散乱法によるメジアン粒子径は、具体的には、50v/v%エタノール水溶液を分散媒に用いて、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置LA−950(堀場製作所社製)により多孔質樹脂ビーズの粒子径を測定し、そのメジアン粒子径を求める。
【0036】
メジアン粒子径は、多孔質樹脂ビーズを懸濁重合で製造する際の重合開始前の撹拌条件や分散安定剤の種類・濃度に依存する。従ってこれらを調整することで、メジアン粒子径を望ましい範囲に調整することが可能である。
【0037】
多孔質樹脂ビーズの水銀圧入法により測定したメジアン細孔径は、通常1〜1000nm、好ましくは5〜500nm、より好ましくは10〜300nmである。
【0038】
多孔質樹脂ビーズのメジアン細孔径は、水銀圧入法により測定される。具体的には、0.2gの多孔質樹脂ビーズを水銀ポロシメーターPoreMaster60−GT(Quanta Chrome Co.社製)に投入し、水銀接触角140°、水銀表面張力480dyn/cmの条件における水銀圧入法により測定する。
【0039】
メジアン細孔径は、多孔質樹脂ビーズを懸濁重合で製造する際の重合開始前の撹拌条件や多孔質化剤の種類や濃度に依存する。従って、これらを調整することで、メジアン細孔径を望ましい範囲に調整することが可能である。
【0040】
多孔質樹脂ビーズの製造方法は特に限定されず、例えば、
(1)モノビニル単量体、架橋性ビニル単量体、脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を含有するビニル単量体、および、スルホ基を含有する単量体を多孔質化剤および重合開始剤と混合、溶解し、分散安定剤を分散または溶解した水中で懸濁共重合させて、多孔質樹脂ビーズを製造する方法、
(2)モノビニル単量体、架橋性ビニル単量体、および、脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を含有するビニル単量体を多孔質化剤および重合開始剤と混合、溶解し、分散安定剤を溶解した水中で懸濁共重合させて、多孔質樹脂ビーズを合成後、スルホ基を導入して、多孔質樹脂ビーズを製造する方法、
(3)モノビニル単量体、架橋性ビニル単量体、加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基を含有するビニル単量体、および、スルホ基を有する単量体を多孔質化剤および重合開始剤と混合、溶解し、分散安定剤を分散または溶解した水中で懸濁共重合させること等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換して多孔質樹脂ビーズを製造する方法、
(4)モノビニル単量体、架橋性ビニル単量体、および、加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基を含有するビニル単量体を含有するビニル単量体を多孔質化剤および重合開始割と混合、溶解し、分散安定剤を分散または溶解した水中で懸濁共重合させること等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し、さらに硫酸などによってスルホ基を導入して、多孔質樹脂ビーズを製造する方法、
などが挙げられる。
【0041】
懸濁共重合の際の、単量体の総重量に対する架橋性ビニル単量体の仕込み量は、好ましくは0.1〜5mmol/gであり、さらに好ましくは0.3〜3mmol/gである。
【0042】
懸濁共重合の際の、単量体の総重量に対する脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を含有するビニル単量体、または加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基を含有するビニル単量体の仕込み量は、好ましくは0.001〜1mmol/gであり、さらに好ましくは0.005〜0.5mmol/gである。
【0043】
懸濁共重合は、上述の各単量体、多孔質化剤、および重合開始剤との混合溶解物を、分散安定剤を分散または溶解した水中で撹拌乳化することにより行われる。
【0044】
本発明における多孔質化剤とは、懸濁共重合系における水以外の溶媒を意味し、炭化水素およびアルコールが好ましく用いられる。炭化水素として具体的には、脂肪族の飽和または不飽和炭化水素、あるいは芳香族炭化水素を用いることができ、好ましくは炭素数5〜12の脂肪族炭化水素であり、より好ましくは、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、ウンデカン、ドデカン等が挙げられる。またこの際得られるビーズの多孔質度を増すために、アルコールを共存させることが望ましい。本発明におけるアルコールとしては、例えば脂肪族アルコールを挙げることができ、その炭素数は、好ましくは5〜9である。このようなアルコールとして具体的には、2−エチルヘキサノール、t−アミルアルコール、ノニルアルコール、2−オクタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
【0045】
懸濁共重合の際の多孔質化剤に用いられる炭化水素とアルコールの重量比は、炭化水素およびアルコールの具体的な組合せによって適宜変更され、それにより得られる固相合成用担体の比表面積を大きくすることができる。炭化水素とアルコールの好ましい配合割合は、重量比で1:9〜6:4である。
【0046】
懸濁共重合の際の多孔質化剤の重量は、上記各単量体の総重量に対して好ましくは0.5〜2.5倍であり、より好ましくは0.8〜2.2倍であり、さらに好ましくは1.0〜2.0倍である。この値が大小いずれの場合でも、得られる多孔質樹脂ビーズの比表面積が小さくなり、化学反応による合成反応物の量が少なくなる。
【0047】
本発明において、懸濁共重合する際の方法自体は従来公知の方法を援用してもよい。
【0048】
懸濁共重合する際の分散安定剤としては特に限定されず、従来公知のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ゼラチン、デンプン、カルボキシルメチルセルロース等の親水性保護コロイド剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ベントナイト等の難溶性粉末等が用いられる。分散安定剤の添加量は、特に限定されないが、好ましくは懸濁重合系の水の重量に対して0.01〜10重量%である。この値が少ない場合は、懸濁重合の分散安定性が損なわれて多量の凝集物が生成する。この値が多い場合は、微小ビーズが多数生成する。
【0049】
懸濁共重合する際の重合開始剤としては特に限定されず、従来公知のジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が用いられる。重合開始剤の添加量は特に限定されず、当業者であれば適切な量を選択することが可能である。
【0050】
懸濁共重合の際の反応条件は、適宜に設定することができ、例えば60〜90℃における30分間〜48時間の撹拌が挙げられる。撹拌速度は、例えば100rpm〜1000rpm、好ましくは200rpm〜800rpmである。
【0051】
懸濁共重合によって得られた共重合体は適宜、洗浄、乾燥、分級等の処理を施してもよい。さらに、懸濁共重合等によって多孔質樹脂ビーズを合成した後、脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合し得る基、または/および、スルホ基を導入してもよく、導入方法は前述のとおりである。
【0052】
(核酸合成用固相担体)
本発明の核酸合成用固相担体は、多孔質樹脂ビーズ表面の脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を介して、多孔質樹脂ビーズとカルボキシ基を有する開裂性リンカーとが共有結合してなる。すなわち、本発明の核酸合成用固相担体は、多孔質樹脂ビーズにカルボキシ基を有する開裂性リンカーを担持する。
【0053】
開裂性リンカーは、核酸合成反応の起点となる化合物であり、合成した核酸を核酸合成用固相担体から切り離すために、加温下、アルカリ性中などの条件で開裂するものである。
【0054】
本発明の核酸合成用固相担体のカルボキシ基を有する開裂性リンカーとしては、例えば、下記式に示したヌクレオシドスクシニルリンカーが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、様々な修飾基を結合したヌクレオシドリンカーのみならず、ユニバーサルリンカー(例えば、米国第5681945号公報、米国第6653468号公報、国際公開第2005/049621号公報、米国第2005/0182241号公報、米国第2011/0092690号公報に記載のリンカー)のようにヌクレオシドを含有しないリンカーも用いることができる。
【0055】
【化1】
【0056】
式中、Bで表される塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル等の核酸塩基であり、これらの核酸塩基のアミノ基はアセチル基、イソブチリル基、ベンゾイル基等の保護基で保護されていてもよい。
DMTは、ジメトキシトリチル基を示し、トリチル基(Tr)、モノメトキシトリチル基(MMTr)でもよい。
Xは、水素原子、保護基で置換されていてもよいヒドロキシ基、ハロゲン原子(例、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)などを示す。
ヒドロキシ基の保護基としては、炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、−O−メチルピリミジン基、−O−プロパギル基、−O−メトキシエチル基、−O−(メチルチオ)エチル基、−O−[2−(N−メチルアミノ)−2−オキソエチル]基、−O−シアノエチル基などが挙げられる。
フッ素系化合物で脱離できるヒドロキシ基の保護基としては、tert-ブチルジメチルシリル基(TBDMS)、トリイソプロピルシリルオキシメチル基(TOM)、2−シアノエトキシメチル基(CEM)などが挙げられる。
【0057】
本発明の核酸合成用固相担体の開裂性リンカーの担持量は、1〜60μmol/g、好ましくは3〜50μmol/g、さらに好ましくは5〜45μmol/gである。リンカー担持量が1μmol/g未満の時は、合成できる核酸量が少なくなり過ぎる。リンカー担持量が60μmol/gを超える場合は、スルホ基を含有しない核酸合成用固相担体と核酸の合成能に差が見られなくなる。
【0058】
核酸合成用固相担体の開裂性リンカーの担持量は、多孔質樹脂ビーズに対する開裂性リンカーの使用量を調整することによって、適宜設定することができる。
【0059】
本発明の核酸合成用固相担体の開裂牲リンカーの担持方法は、特に限定されるものではなく、例えば、開裂性リンカーのカルボキシ基と、多孔質樹脂ビーズの脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を縮合剤の存在下、脱水縮合反応させて共有結合させる方法が挙げられる。
【0060】
本発明の核酸合成用固相担体の多孔質樹脂ビーズに、このような脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を導入するには、ヒドロキシ基の場合は、ヒドロキシ基を含有するビニル単量体、例えば、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ヒドロキシスチレンなどを共重合する方法が挙げられ、アミノ基の場合は、アミノ基を含有するビニル単量体、例えば、アミノスチレン、アミノメチルスチレンなどをモノビニル単量体および架橋性ビニル単量体に共重合する方法が挙げられる。
【0061】
脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基を含有するビニル単量体がスチレン系単量体である場合は、脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合しうる基はビニル基に対してパラ位に配置することが好ましいが、オルト位またはメタ位であってもよい。
【0062】
本発明の核酸合成用固相担体に含有される脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基は、一旦懸濁共重合等によって加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基を有する多孔質樹脂ビーズを合成した後、加水分解等によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換することで製造してもよい。
【0063】
「加水分解などの反応によって脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基」としては、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素数2〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアシルオキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等の炭素数2〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアシルアミノ基、アセトキシメチル基等の炭素数2〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアシルオキシ−C1−20アルキル基、アセチルアミノメチル基等の炭素数2〜10の直鎖、分岐鎖又は環状のアシルアミノ−C1−20アルキル基、クロロメチル基等のハロ−C1−20アルキル基などが挙げられる。
【0064】
このような製造過程において、本発明の脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基とに変換し得る基を含有するモノビニル単量体としては、例えば、アセチルアミノスチレンなどのアシルアミノスチレン;アセトキシスチレン、エタノイルオキシスチレン、ベンゾイルオキシスチレンなどのアシルオキシスチレン;クロロメチルスチレンなどのハロアルキルスチレンが挙げられる。
【0065】
脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に変換し得る基を含有するモノビニル単量体がスチレン系単量体である場合は、変換して脱水縮合反応によりカルボキシル基と結合しうる基となるアシルオキシ基、アシルアミノ基、ハロアルキル基などは、ビニル基に対してパラ位に配置することが好ましいが、オルト位またはメタ位であってもよい。
【0066】
懸濁共重合等によって合成した多孔質樹脂ビーズ中のアシルオキシ基、アシルアミノ基は、通常の加水分解反応、例えば、水性アルコール(水性エタノール、水性メタノール)中、水酸化ナトリウム等の無機塩基との反応によって、脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基、具体的にはヒドロキシ基、アミノ基に変換することができる。また、ハロアルキル基は、フタルイミドおよびヒドラジン、アンモニアまたは水酸化ナトリウムなどとの反応によって、脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基、具体的にはアミノアルキル基、ヒドロキシアルキル基に変換することができる。
【0067】
多孔質樹脂ビーズとリンカーとの脱水縮合反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことができる。このような溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒が挙げられ、中でもアセトニトリルが好ましい。
【0068】
縮合剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、N−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドまたはその塩酸塩(EDC・HCl)、ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム(PyBop)、o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボレート(TBTU)、1−[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]−5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾリウム−3−オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)、o−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロフォスファート(HBTU)等が挙げられる。中でもHBTU、HCTU、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)が好ましい。
【0069】
反応温度は、反応が進行しさえすれば特に限定されないが、−10℃〜50℃が好ましい。反応時間は、30分〜70時間である。
【0070】
脱水縮合反応の後、好ましくは、未反応の脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基に対してキャッピングを行う。キャッピングは、従来公知の方法で行うことができ、例えば、その未反応の脱水縮合反応によりカルボキシ基と結合し得る基をアセチル化することにより行うことが好ましい。アセチル化反応は限定されるものではないが、例えば、無水酢酸を含む溶液を、塩基性触媒(例えば、1−メチルイミダゾール、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等)を含む溶液と共に固相担体に添加することが好ましい。
【0071】
以上のような処理を経て、本発明の核酸合成用固相担体を得ることができる。
【0072】
本発明の核酸合成用固相担体を用いる核酸合成には、従来から知られている方法を適用することができる。
【0073】
例えば、ヌクレオシドリンカーを担持した核酸合成用固相担体の場合、ヌクレオシドの5’末端から所定の塩基配列となるように、ヌクレオシドホスホロアミダイトを一段ずつ結合する。この合成反応は自動合成装置を用いて行うことができる。例えば、核酸合成用固相担体を充填した反応カラムに、5’−OH脱保護剤溶液、ヌクレオシドホスホロアミダイト溶液、アミダイト活性化剤溶液、酸化剤溶液、キャッピング剤溶液、洗浄溶液としてのアセトニトリルなどが順次送られ、反応が繰り返される。最終的には、開裂性リンカー部分をアルカリ溶液で加水分解するなどして切断し、目的の核酸を得ることができる。
【0074】
本発明の核酸合成用固相担体を用いる核酸合成は、特に、20塩基長以上の長鎖のオリゴヌクレオチド、DNAまたはRNAを、開裂性リンカーの担持量を少なくして(1〜60μmol/g)合成する際に有用である。
【0075】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
多孔質樹脂ビーズの作製
冷却機、撹拌機および窒素導入管を付けた、500mLセパラブルフラスコを恒温水槽に設置し、ポリビニルアルコール(クラレ製)2.6g、p−スチレンスルホン酸ナトリウム(和光純薬製)2.7gおよび蒸留水260gを入れ、300rpmで撹拌してポリビニルアルコールを溶解した。ここにスチレン(和光純薬製)26.4g、p−アセトキシスチレン(アルドリッチ製)3.2g、ジビニルベンゼン(含有量55%、和光純薬製)21.5g、2−エチルヘキサノール(和光純薬製)60.3g、イソオクタン(和光純薬製)25.9gおよびベンゾイルパーオキサイド(25%含水、日油製)1.1gを混合して溶解した溶液を添加して、窒素気流下、室温にて撹拌(500rpm)した後、80℃に昇温して10時間、懸濁共重合を行った。
【0077】
重合生成物を、蒸留水およびアセトン(和光純薬製)を用いて濾過洗浄して、全量約1Lになるようにアセトン中に分散させた。この分散液を、液を傾けても沈澱が乱れない程度になるまで放置した後、上清のアセトンを廃棄した。この沈澱に再びアセトンを加えて全量を約1Lにして、静置、アセトン廃棄の操作を繰り返すことにより分級した。この分散液を濾過し、減圧乾燥することにより、スチレン−ジビニルベンゼン−p−アセトキシスチレン−p−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
【0078】
次いで冷却機、撹拌機および窒素導入管を付けた500mLフラスコに、上記の共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの粉末20g、エタノール80g、蒸留水50gおよび水酸化ナトリウム2gを仕込み、撹拌しながら75℃で5時間反応させた。この分散液を塩酸で中和後、蒸留水およびアセトンを用いて濾過洗浄し、減圧乾燥することにより、スチレン−ジビニルベンゼン−p−ヒドロキシスチレン−p−スチレンスルホン酸ナトリウム共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。得られたビーズのイオンクロマトグラフ(IC)−燃焼法によるスルホ基量は0.7μmol/gだった。
【0079】
多孔質樹脂ビーズヘのDMT−dT−3’−succinateの担持
表1の(実施例1)の配合で、多孔質樹脂ビーズ、DMT−dT−3’−succinate(Beijing OM Chemicals製)、o−(ベンゾトリアゾール-1-イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU,Novabiochem製)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA,アルドリッチ製)、アセトニトリル(和光純薬製)を混合し、撹拌しながら室温で12時間反応させ、アセトニトリルを用いて濾過洗浄した後、減圧乾燥した。
【0080】
これらの多孔質樹脂ビーズに、CapA(20%無水酢酸/80%アセトニトリル)12.5ml、CapB(20%N−メチルイミダゾール/30%ピリジン/50%アセトニトリル)12.5ml、4−ジメチルアミノピリジン(アルドリッチ製)125mg、アセトニトリル25mlを混合し、撹拌しながら室温で12時間反応させ、アセトニトリルを用いて濾過洗浄した後、減圧乾燥してDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを得た。DMT−dT−3’−succinateの担持量は、p−トルエンスルホン酸/アセトニトリル溶液を用いて脱保護したDMT基の吸光度測定(412nm)から求めた。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は15μmol/gだった。
【0081】
20mer RNA+1mer DNAの合成評価
上記で得られたDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを合成スケール1μmolになるように合成カラムに入れ、ABI3400 DNA/RNA合成機(アプライドバイオシステムズ製)にセットして、ヌクレオシドホスホロアミダイト濃度2eq/合成スケール、DMT−Offの条件にて混合配列の20mer RNA+1mer DNA(5’-r(CGAGAAGCGCGAUACCAUGU)dT-3’:配列番号1)を合成した。合成後のカラムを乾燥させた後、多孔質樹脂ビーズからの合成した核酸の切り出しおよび塩基アミノ基の脱保護を行い、フィルター濾過により多孔質樹脂ビーズを分離した濾液のUV吸光度測定(260nm)から核酸のOD収量(異常配列を含む核酸合成量に相等)を求めた。なお、OD収量は、吸光度をリンカー担持量(μmol)で除して、リンカー担持量当りの値(OD/μmol)として表記した。以下の実施例および比較例でも同様であった。次に、濾液を乾燥した後、得られたRNAの2’水酸基の脱保護を行い、濾液をHPLC測定(ウォーターズ製)して、Full−length%(目的の配列長をもつ核酸の割合)を求めた。結果を表2に示した。
【実施例2】
【0082】
表1の(実施例2)の配合を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例1で作製したスルホ化多孔質樹脂ビーズヘのDMT−dT−3’−succinateの担持、および、20mer RNA+1mer DNAの合成評価を行った。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は48μmol/gだった。OD収量およびFull-length%の結果を表2に示した。
【実施例3】
【0083】
重合の配合を、p-スチレンスルホン酸ナトリウムOg、スチレン47.Og、p-アセトキシスチレン4.7g、ジビニルベンゼン(含有量55%)8.3g、2−エチルヘキサノール55.4g、イソオクタン23.7gを用いた以外は実施例1と同様にして、スチレン−ジビニルベンゼン−p−ヒドロキシスチレン共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。
【0084】
上記の共重合体からなる多孔質樹脂ビーズの粉末10g、硫酸(和光純薬製、95%以上)70mlをフラスコに仕込み、ゆっくり撹拌しながら25〜28℃で30分間反応させた。この分散液を蒸留水で希釈後、水酸化ナトリウム水溶液で中和し、蒸留水、アセトン、メタノールを用いて濾過洗浄し、減圧乾燥することにより、スルホ化した多孔質樹脂ビーズを得た。得られたビーズのIC-燃焼法によるスルホ基量は11μmol/gだった。
【0085】
次に、表1の(実施例3)の配合を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例1で作製した多孔質樹脂ビーズにDMT−dT−3’−succinateの担持、および20mer RNA+1mer DNAの合成評価を行った。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は10μmol/gだった。OD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
【実施例4】
【0086】
表1の(実施例4〜6)の配合を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3で作製したスルホ化多孔質樹脂ビーズヘのDMT−dT−3’−succinateの担持、および、20mer RNA+1mer DNAの合成評価を行った。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は56μmol/gだった。OD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
【実施例5】
【0087】
実施例4で得られたDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを合成スケール1μmolになるように合成カラムに入れ、ABI3400 DNA/RNA合成機(アプライドバイオシステムズ製)にセットして、ヌクレオシドホスホロアミダイト濃度2eq/合成スケール、DMT−onの条件にて混合配列の20mer DNA(5’−ATACCGATTAAGCGAAGTTT-3’:配列番号2)を合成した。合成後のカラムを乾燥させた後、多孔質樹脂ビーズからの合成した核酸の切り出しおよび塩基アミノ基の脱保護を行い、フィルター濾過により多孔質樹脂ビーズを分離した濾液のUV吸光度測定(260nm)から核酸のOD収量を求めた。また、濾液をHPLC測定して、Full-length%を求めた。結果を表2に示した。
【実施例6】
【0088】
実施例4で得られたDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを用いて、実施例4と同様にして混合配列の40mer DNA(5’-ATGCATGCATGCATGCATGCATGCATGCATGCATGCATGT-3’:配列番号3)の合成評価を行った。OD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
[比較例1]
【0089】
重合の配合を、p−スチレンスルホン酸ナトリウムOg、スチレン47.Og、p−アセトキシスチレン4.7g、ジビニルベンゼン(含有量55%)8.3g、2−エチルヘキサノール55.4g、イソオクタン23.7gを用いた以外は実施例1と同様にして、スチレン−ジビニルベンゼン−p−ヒドロキシスチレン共重合体からなる多孔質樹脂ビーズを得た。得られたビーズのIC−燃焼法によるスルホ基量は0μmol/g、レーザー回折散乱法によるメジアン粒子径は94μm、水銀圧入法によるメジアン細孔径は66nmだった。
【0090】
得られた多孔質樹脂ビーズに、表1の(比較例1)の配合を用いた以外は実施例1と同様にして、DMT−dT−3’−succinateを担持した。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は11μmol/gだった。
実施例1と同様にして、20mer RNA+1mer DNAの合成評価を行った。核酸のOD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
[比較例2]
【0091】
比較例1で得られた多孔質樹脂ビーズに、表1の(比較例2)の配合を用いた以外は実施例1と同様にして、DMT−dT−3’−succinateを担持した。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は42μmol/gだった。
【0092】
実施例1と同様にして、20mer RNA+1mer DNAの合成評価を行った。核酸のOD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
[比較例3]
【0093】
比較例1で得られた多孔質樹脂ビーズに、表1の(比較例3)の配合を用いた以外は実施例1と同様にして、DMT−dTM3’−succinateを担持した。得られた多孔質樹脂ビーズのDMT−dT−3’−succinate担持量は6μmol/gだった。
【0094】
実施例1と同様にして、20mer RNA+lmer DNAの合成評価を行った。核酸のOD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
[比較例4]
【0095】
比較例2で得られたDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを用いた以外は実施例1と同様にして、20mer RNA+1mer DNAの合成評価を行った。核酸のOD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
[比較例5]
【0096】
比較例2で得られたDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを用いた以外は実施例5と同様にして、20mer DNAの合成評価を行った。核酸のOD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
[比較例6]
【0097】
比較例2で得られたDMT−dT−3’−succinateを担持した多孔質樹脂ビーズを用いて、実施例6と同様にして混合配列の40mer DNAの合成評価を行った。OD収量およびFull−length%の結果を表2に示した。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
得られた核酸のOD収量(A:異常配列を含む核酸合成量に相等)とFull−Length%(B:目的の配列長をもつ核酸の割合)を掛けあわせた植(A)×(B)を求め、核酸合成の評価の指標とした。
【0101】
DMT−dT−3’−succinate担持量が同程度であり、同じ配列の核酸を合成した、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5、実施例6と比較例6について(A)×(B)をそれぞれ比較すると、スルホ基をもつ多孔質樹脂ビーズの方が高い値を示した。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]