特許第6041720号(P6041720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本除蟲菊株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6041720-衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041720
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】衣料害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/10 20060101AFI20161206BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20161206BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A01N37/10
   A01N25/18 102B
   A01P17/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-59303(P2013-59303)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-185087(P2014-185087A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 彩華
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−236136(JP,A)
【文献】 特開2013−14524(JP,A)
【文献】 特開平11−236302(JP,A)
【文献】 特開2013−6823(JP,A)
【文献】 実開平7−15701(JP,U)
【文献】 特開昭58−213703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェニル酢酸p−クレジルを含有し、幼虫に対して使用することを特徴とする衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載の衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤を、常温揮散により環境中に放出させて害虫に適用させる衣類の防虫方法。
【請求項3】
請求項1に記載の衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤が処理されたシート状担体により形成され、かつ一部に開放部を有してもよい略閉塞状の袋体に衣類を保管させる衣類の防虫方法。
【請求項4】
請求項1に記載の衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤を衣類に噴霧することを特徴とする衣類の防虫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類の害虫被害、特に幼虫による食害から衣類を保護するのに有用な害虫防除剤、および該害虫防除剤を用いる衣類の防虫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、イガ、コイガ等の衣類害虫による衣類の食害被害を防ぐために、各種の薬剤が用いられており、古くより樟脳、ナフタリンやパラジクロロベンゼンが、近年ではピレスロイド化合物であるエンペントリンなどが用いられている。しかし、これら薬剤は、衣類害虫に対する殺虫効果により衣類の被害を防ぐものであるが、使用により、鋭い薬剤臭が衣類に残ることや、場合によっては繊維の一部の素材に対して変色を及ぼす可能性があるといった欠点があった。
【0003】
そこで最近では、殺虫以外の作用により幼虫の発生を防ぎ、衣類害虫による被害の主な原因である幼虫の食害を防止する技術が検討されている。
例えば、幼虫の前段階である卵を殺す殺卵剤(孵化阻害剤)や、衣類に着いた成虫の産卵行動を抑制する産卵抑制剤(産卵阻害剤)が開発されている。
例えば、パラフィン系炭化水素を有効成分とした殺卵剤、(特許文献1)、トランスフルスリンとエンペントリンを有効成分とした孵化阻害剤(特許文献2)、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−(メトキシメチル)ベンジル(EZ)−(1RS,3RS;1RS,3SR)−2,2−ジメチル−3−(プロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシレートおよび/又は2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル(EZ)−(1RS,3RS;1RS,3SR)−2,2−ジメチル−3−(プロプ−1−エニル)シクロプロパンカルボキシレートを有効成分とした孵化阻害材(特許文献3)、カラン−3,4−ジオールを有効成分とした産卵抑制剤(特許文献4)、界面活性剤を有効成分とする産卵阻害剤(特許文献5)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−26777号公報
【特許文献2】特開2007−186526号公報
【特許文献3】特開2010−155809号公報
【特許文献4】特開平11−209203号公報
【特許文献5】特開2009−40714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらに記載の薬剤や方法でも、幼虫の発生を抑制する効果は必ずしも満足のいくものとは言えず、依然として検討の余地があった。
したがって、衣類の害虫被害を防ぐには、幼虫を完全に駆除する、幼虫の発生を完全に抑えることが重要ではあるが、衣類の害虫被害、特に幼虫による食害から衣類を保護するには、必ずしもそれらは必須ではなく、要は衣類に害虫を寄せ付けず侵入させなければ、あるいは僅かに侵入したとしても摂食活動を阻害できれば被害は防ぐことができると考えた。
【0006】
そこで、本発明は、衣類害虫を効果的に衣類に寄せ付けさせない、すなわち衣類への侵入を阻害し、さらには摂食活動を阻害することにより、衣類害虫による被害、特に幼虫による食害から衣類を保護することができる衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤と、該侵入阻害剤および該摂食阻害剤を用いて衣類の害虫被害を防止する方法とを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ある種のエステル化合物が、衣類害虫の幼虫に対して優れた侵入阻害および摂食阻害作用を発揮し、食害から衣類を保護しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の(1)〜()によって達成されるものである。
(1)フェニル酢酸p−クレジルを含有し、幼虫に対して使用することを特徴とする衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤。
(2) (1)に記載の衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤を、常温揮散により環境中に放出させて害虫に適用させる衣類の防虫方法。
(3) (1)に記載の衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤が処理されたシート状担体により形成され、かつ一部に開放部を有してもよい略閉塞状の袋体に衣類を保管させる衣類の防虫方法。
(4) (1)に記載の衣料害虫の侵入阻害剤又は摂食阻害剤を衣類に噴霧することを特徴とする衣類の防虫方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、幼虫の衣類への侵入を阻害し、たとえ侵入したとしても摂食活性を低下させ、幼虫から衣類を食害される機会を防ぐことができる。また、本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤は、揮散性の香料成分でもあり、使用に際しては加熱等の特別な揮散手段を必要とせず、常温揮散により環境中に放出させて効果を発揮させることが可能であり、使用に際して衣類に著しい薬品臭が染み付くといった悪影響を及ぼすこともなく、逆に適度に心地よい香りを衣類に賦香することができ、消費者の嗜好にも安全性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】侵入阻害および摂食阻害試験を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤は、ベンゼン環を有するある種のエステル化合物を有効成分として用い、様々な衣類の保管場所に処理することにより、または処理した担体を衣類の保管場所に設置し、常温揮散させることにより、さらには衣類に直接処理することにより効果的に幼虫から衣類の食害被害を防ぐことができる。
【0012】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤における有効成分としては、次一般式 化3で表されるものを挙げることができる。
【化3】
この式で表されるエステル化合物のうち好ましいのは、式中のRはフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ベンジル基、スチリル基、フェノキシメチル基であり、
はフェニル基、ベンジル基、炭素数1ないし6のアルキル基または炭素数3ないし6のアルケニル基のものであり、特に好ましくは、Rがフェニル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、tert−ブチル基、ビニル基、プロペニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基またはヘキセニル基のものである。
【0013】
これらの具体例としては、例えば、シス−3−ヘキセニルサリチレート、サリチル酸メチル、サリチル酸プロピル、サリチル酸ヘキシル、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、安息香酸エチル、安息香酸イソアミル、安息香酸イソブチル、安息香酸オクチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸イソプロピル、ケイ皮酸オクチル、フェノキシ酢酸アリル、フェニル酢酸p−クレジル、2−(シクロヘキシルオキシ)酢酸アリル等を挙げることができ、中でも、シス−3−ヘキセニルサリチレート、サリチル酸ヘキシル、安息香酸ベンジル、サリチル酸ベンジル、安息香酸イソアミル、安息香酸イソブチル、ケイ皮酸エチル、フェノキシ酢酸アリル、フェニル酢酸p−クレジルが特に好ましい。
これらの化合物には、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらの単独ならびに任意の混合物も本発明に包含されるものとする。
【0014】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤には、上記活性成分ほかに、常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分や別の防虫活性のある香料成分を配合し、防虫効果を高めると共に、香りの調香に供することもできる。
常温揮散性ピレスロイド系殺虫成分としては、エンペントリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等が挙げられる。
そして、別の防虫活性のある香料成分としては、テルピネオール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール等のテルペン系アルコール、シトロネラール、シトラール、ジメチルオクタナール等のテルペン系アルデヒド、カルボン、ジヒドロカルボン、プレゴン、メントン等のテルペン系ケトン等があげられるが、これらに限定されない。また、これらの成分を含有する植物精油、例えば、シトロネラ油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油、ラベンダー油、オレンジ油、グレープフルーツ油、シダーウッド油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、ハッカ油等を配合してもよい。
【0015】
さらに防虫効果に加えて、湿気が高くなったタンスや引き出し内でのカビ発生の防止のため必要に応じて、2−フェニルフェノール(OPP)、4−イソプロピル−3−メチルフェノール(IPMP)、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等の防黴成分を適宜配合してもよい。また、抗菌成分、除菌成分、消臭成分、BHT等の安定化剤、pH調整剤、着色剤などを適宜配合してもよく、あるいは、例えば、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を添加して、収納を開けた時などに、リラックス効果を付与することもできる。
【0016】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤では、使用場面のニーズに合わせて活性成分を調製した、液状、ゲル状、固形状、シート状等の素材が、種々形態の衣料用防虫剤として適用される。
液状の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を調製するにあたっては、水のほか、エタノール、イソプロパノールのようなアルコール系溶剤、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールのようなグリコール系溶剤、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤等の各種溶剤や、界面活性剤(可溶化剤)などが適宜用いられる。
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル)、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤や、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤などを例示できる。
【0017】
本発明の液状防虫剤を、衣類へ直接、噴霧処理することも有効であるが、タンスやクローゼットの壁面や内部空間、あるいは防虫カバーのシートや衣類を収納した防虫カバー内の空間に噴霧処理することも可能である。この際、処理した後に乾きやすいという点からは、エタノールもしくはエタノール水溶液を用いることがより好ましい。
【0018】
噴霧による蒸散は、噴霧器を用い、液剤をスプレーする方法や、適当な噴射剤を用いたエアゾールを使用して行うことができる。
例えば、スプレー製剤とするには、前記液剤を、1回あたり0.05〜5mLの吐出量で噴霧できるトリガースプレーのような噴霧装置に充填すればよい。
また、エアゾール製剤とするには、例えば、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス、圧縮ガス等の噴射剤を、前記液剤とともに、噴霧装置を備えたエアゾール缶に加圧充填すればよい。
【0019】
また得られた液剤を、水溶性多糖類及び/又は吸水性樹脂を用いてゲル状体にして、常温により揮散させ使用することができる。
水溶性多糖類の代表例は、グァーガム、キサンタンガム、ラムダカラギーナン、ジュランガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ソーダ等であり、これらの中では、誘引効果や製造性等の点で、グァーガム、キサンタンガム、及びラムダカラギーナンから選ばれた1種又は2種が好ましい。
また、吸水性樹脂としては、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸塩系ポリマー、澱粉−ポリアクリル酸塩系ポリマー、PVA−ポリアクリル酸塩系ポリマー、PVA系ポリマー、カルボキシメチルセルロース系ポリマー等があげられる。
中でも、ポリアクリル酸塩系ポリマーのうち、アクリル酸/アクリル酸塩共重合体(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム塩共重合体やアクリル酸/アクリル酸カリウム塩共重合体など)やアクリルアミド/アクリル酸又はその塩の共重合体から選ばれた1種又は2種が好ましい。
【0020】
上記液状やゲル状の形状に加えて、衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を固形担体に含浸又は保持させた場合は、通気性ケースもしくは袋に収納して製することができる。そして、かかる防虫剤を、タンス、引き出し、クローゼットや衣類収納箱用に設置し、固形担体から有効成分を常温により揮散させればよい。固形担体としては、パルプ、リンター、レーヨン等の繊維質担体や各種不織布、セルロース(再生セルロース)製ビーズもしくは発泡体、ケイ酸塩、シリカ、ゼオライト等の無機多孔質担体、トリオキサン、アダマンタン等の昇華性担体等があげられる。セルロース製ビーズの場合、これに炭を配合することによって消臭効果を付与することもできる。
【0021】
その際の通気性ケースとしては、例えば、開孔部を有するプラスチック製容器等があげられ、通気性袋としては、不織布袋、綿袋、ネットケース等を例示できる。後者の不織布袋の場合、不織布の材質は特に限定されず、例えば、ポリエステル(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド、ポリ乳酸、レーヨン等があげられ、これらは単一の繊維であってもよいし、あるいは紙を積層したポリエステルやポリプロピレン/レーヨンのような積層品(有効成分を一部吸着してその揮散量を二次的に調節可能)や混紡品を用いても構わない。また、不織布袋の形状や構成も適宜決定することができ、例えば、両面を前記材質の通気性不織布で構成してもよいし、あるいは、片面が前記材質の通気性不織布で、他面が小孔を多数有してもよいプラスチックフィルムを貼り合わせたものであってもよい。
【0022】
上述した各種製剤形態に加え、様々な本発明の製剤形態の中でも、本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を含有させたシートを、一部に開放部を有してもよい略閉塞状の袋体に形成し、衣類を保管する防虫カバーの形態として利用することは本発明の用途としては極めて有効である。
この際、防虫カバーで使用されるシートは、プラスチック製もしくは不織布製であり、前面片及び後面片が重なり部を有する前部シートはプラスチック製が好ましい。プラスチック製シートの材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニルコポリマーなどがあげられるが、これらに限定されるものでなく、単体に更に不織布製シートを積層させたシートを用いてもよい。一方、不織布製シートとしては、ポリプロピレンスパンボンドや、ポリエステル・レーヨン混成シートなどを例示でき、薬剤を含有させるにあたってはグラビア印刷塗工法など適宜採用しうる。また、防虫カバー全体を薬剤処理しなくとも、この薬剤処理済のシート製剤をカバーの一部に貼付したり、カバーに設けたポケットに収納したりして用いることもできる。さらには完全な袋体に加工せずとも、薬剤処理済のシート製剤をシート状の形態のままで使用し、風呂敷のようにして衣類を直接包んだり、あるいはタンスの引き出しなどに敷きつめたりして使用することも可能であり、有効である。
【0023】
本発明の衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤における有効成分の含有量は、製剤の形態によっても異なり、剤型などに応じて適宜設定すればよいのであるが、例えば、本発明の侵入阻害剤を(後述する)液剤の形態とする場合には、液剤中に0.5〜5質量%とするのがよい。設置型の衣料用防虫剤では、一個当たり0.001g〜1g程度に設定するのが適当である。例えば、タンスやクローゼットの場合、衣料用防虫剤を1ないし3個施用とするのが使いやすく、引き出しや衣類収納箱のような場合も、必要に応じて適宜施用個数を設定すればよい。前記配合量の下限値未満であると所望の防虫効果が不足する可能性があり、一方、必要以上に配合した場合、ベタつき感が出るなどの支障を生じ実用的でない。
【0024】
このようにして得られた衣類害虫の侵入阻害剤および摂食阻害剤を用いた各種剤型の製剤は、タンス、引き出し、クローゼットや衣類収納箱のような密閉に近い空間に設置された場合や、衣料に直接処理した場合において、各種含浸担体や処理済の衣類から有効成分が揮散し、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミ類等の衣料害虫への侵入阻害および摂食阻害効果はもちろん、コナダニ、ヒョウヒダニ、ホコリダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類、チャタテムシ、シバンムシ、ゴキブリ、アリ類等、蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類などの各種害虫に対して実用的な防虫効果を奏するものであり、実用性は極めて高い。
【実施例】
【0025】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
(侵入阻害および摂食阻害試験)
図1に示したように約20cm四方の濾紙1をA区、B区、C区に分け、中央7×20cmのB区を供試薬剤処理部とした。表1に示した供試薬剤の5%エタノール溶液を、B区に2mL含浸させた後、エタノールを風乾させた。A区に供試虫2であるコイガ幼虫約20匹置き、C区には4cm四方のウールモスリン生地3を置いた。直径20cm高さ20cmの円筒状のガラスリング4を図1のように濾紙1の上に置き、試験を開始した。この際、ガラスリング4の上面は通気孔5を設けたビニールで蓋をした。B区を薬剤処理していないものをコントロールとし、24時間後の時点でA区からB区を通過してC区へ侵入している供試虫の数をカウントし侵入率を計算した。
同様にして、各薬剤の処理区での侵入率を計算し、下記式に基づき侵入阻害率を算出した。

侵入率(%)=C区にいる虫数/供試虫数 ×100
侵入阻害率(%)=(無処理区での侵入率−薬剤処理区での侵入率)/無処理区での侵入率 ×100
結果を表1に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
試験の結果、薬剤を処理しないコントロールに比べ、本発明化合物を処理したB区は、幼虫が、餌であるウールモスリン生地3のあるC区に侵入するのを顕著に防いでおり、本発明化合物の侵入阻害率はいずれも60%以上の高い活性を示した。
この侵入阻止効果は、香料成分であれば発揮されるわけではなく、比較例とした香料成分では実施例と比べて効果は低いことから、本発明化合物が極めて有効であることを示している。
また本発明化合物を処理した場合、ウールモスリン生地3には侵入した幼虫による食害痕が認められなかったことから、摂食阻害効果も認められた。
【0029】
〔実施例:防虫カバーの調製〕
幅約35cm、高さ約140cmのポリプロピレン製前面片及び同形のポリプロピレン製後面片を、重なり部の幅が約10cmとなるように重ねて、幅約60cm、高さ約140cmの前部シートを形成した。一方、前部シートと同形で、侵入阻害活性成分としてシス−3−ヘキセニルサリチレートを、2g/mの割合で含有させたポリプロピレンスパンボンド(不織布)製後部シートを作成した。両シートを重ね合わせ、両シートの側辺周縁部と下辺周縁部を融着し、一方、重なり部上端を含む上辺周縁部(約12cm)を開放状態として本発明防虫カバーを得た。同様にして薬剤無処理の防虫カバーも作製しコントロールとした。いずれの防虫カバーにも、幅40cm、高さ80cmのウールモスリン生地を収納した後、横方向に約半分の長さに二つ折りし、ポリプロピレン製のフタ付衣装ケース(幅約45cm×奥行約72.5cm×高さ約16.5cm)内に収納した。防虫カバーの開放部の有る上辺周縁部前に、供試虫であるコイガ幼虫40匹置いた後に蓋を閉め、コイガ幼虫の防虫カバー内への24時間後の侵入数を計数し、下記式に基づき侵入阻害率を算出し、さらには下記基準でウール布の食害の程度を観察、評価した。

侵入率(%)=防虫カバー内にいる虫数/供試虫数 ×100
侵入阻害率(%)=(無処理品での侵入率−薬剤処理品での侵入率)/無処理品での侵入率 ×100

(食害程度の評価基準)
−:食害なし
+:ウールモスリン生地の毛足が削がれたような食害が認められるが貫通してはいない
++:食害が認められ貫通孔がある
+++:甚大な食害が認められ、複数または大きな貫通孔がある

結果を表2に示した。
【0030】
【表2】
【0031】
試験の結果、薬剤を処理しないコントロールに比べ、本発明化合物を処理した不織布にて製造した防虫剤カバーは、幼虫がカバー内に侵入するのを顕著に防いでおり、高い侵入阻害活性を示した。また侵入した幼虫による食害痕が認められなかったことから、摂食阻害効果も認められた。
【0032】
〔実施例:スプレー剤の調製〕
以下の処方のスプレー剤を、市販の150mLトリガー製容器に収納してスプレー剤を調整した。
重量%
有効成分:安息香酸イソアミル 5
溶剤:エタノール 95
合計 100
【0033】
〔実施例:防虫ビーズの調製〕
平均粒径が3mmの炭配合セルロース製ビーズ(炭の配合量:50質量%)約4gに、有効成分としてサリチル酸ベンジルを300mg、緑茶エキスを6mg、及びプロピレングリコールを100mg含有させ、このビーズを両面が通気性の紙積層ポリエステル不織布からなる袋(6×9cm)に収納して、本発明の防虫ビーズを調製した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、衣料用防虫剤だけでなく、広範な害虫忌避分野においても利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 濾紙
2 供試虫(コイガ幼虫)
3 ウールモスリン生地
4 ガラスリング
5 通気孔
図1