(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041743
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】鋳片支持装置及び連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/128 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
B22D11/128 320Z
B22D11/128 J
B22D11/128 340F
B22D11/128 340A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-82439(P2013-82439)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-205150(P2014-205150A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2015年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390022873
【氏名又は名称】NSプラント設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】東 博文
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 敏史
(72)【発明者】
【氏名】松岡 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】前川 浩規
(72)【発明者】
【氏名】葉山 正信
【審査官】
藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−240058(JP,A)
【文献】
特開平03−285704(JP,A)
【文献】
特開昭53−113251(JP,A)
【文献】
特開平03−221201(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0257521(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
B21B 27/00−35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片を挟むように対向して設けられ、前記鋳片の幅方向に沿って延在する回転軸を有し、外周面で前記鋳片に接しながら回転する鋳片支持ロールと、
前記鋳片及び前記鋳片支持ロールを挟むように対向して設けられ、前記鋳片の幅方向に沿って延在する回転軸を有し、外周面で前記鋳片支持ロールの前記外周面と接しながら、前記鋳片支持ロールとともに回転するバックアップロールと、を備える連続鋳造設備用の鋳片支持装置であって、
前記バックアップロールの外周面の方が、前記鋳片支持ロールの外周面よりも高い硬度を有する鋳片支持装置。
【請求項2】
前記鋳片支持ロールは、前記鋳片の引抜き方向に沿って、第1の鋳片支持ロールと、該第1の鋳片支持ロールよりも下流側に第2の鋳片支持ロールと、を有し、
前記第2の鋳片支持ロールの外周面の方が、前記第1の鋳片支持ロールの外周面よりも高い硬度を有する、請求項1に記載の鋳片支持装置。
【請求項3】
前記第1の鋳片支持ロールは、前記鋳片の幅方向及び厚み方向に平行な断面において、溶融部を有する鋳片を挟むように配置され、
前記第2の鋳片支持ロールは、前記鋳片の幅方向及び厚み方向に平行な断面において、溶融部を有しない鋳片を挟むように配置されている、請求項2に記載の鋳片支持装置。
【請求項4】
前記バックアップロールは、回転軸方向に沿って3個以上に分割され、
前記回転軸方向の中央部に配置される第1のバックアップロールと、
該第1のバックアップロールよりも前記回転軸方向の両端部側に配置される第2のバックアップロールと、を有しており、
前記第1のバックアップロールの外周面の方が、前記第2のバックアップロールの外周面よりも高い硬度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳片支持装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の鋳片支持装置を用いて、鋳片を製造する連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造方法、及びそれに用いられる鋳片支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造設備は、タンディッシュからノズルを介して注湯された溶湯を冷却し、所定の寸法の鋳片とする鋳型と、表面が凝固した鋳片を支持し、連続して鋳型から引抜く鋳片支持装置を有している。
【0003】
この鋳片支持装置としては、鋳片に沿って並べて配置され、鋳込まれた鋳片を加圧しながら支持する鋳片支持ロールと、該鋳片支持ロールを回転可能に支持するバックアップロールを、連続鋳造の鋳型の下方に配設したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、鉄板の圧延を行う製鉄設備などにおいても、通板材と直接接触するワークロールとともにバックアップロールが用いられる。ホットレベラーやスキンパスミル等においては、ワークロールに疵があると、通板材にその疵が転写されるため、ワークロールの外周面の硬度をバックアップロールの外周面よりも高くして、通板材に疵が入るのを抑制する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−291007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
連続鋳造設備の鋳片支持ロールは、高温の鋳片との接触による表面の摩耗、及び、高温の鋳片と低温である鋳片の冷却水との繰り返し接触に伴う熱衝撃によって、表面にクラックが発生する。このため、鋳片支持ロールは、比較的短い周期で補修又は交換をする必要がある。一方、バックアップロールは、高温の鋳片と直接には接触しないため、鋳片支持ロールに比べて使用環境は過酷ではない。例えば、鋳片支持ロールの表面は、600〜800℃に到達する場合もあるのに対し、バックアップロールの表面の最高温度は、高々100〜300℃に過ぎない。
【0007】
このように両者の使用環境は大きく異なるにも関わらず、鋳片支持ロールと同様に、バックアップロールの交換周期が短いため、ランニングコストが高く保守性が低下する傾向にあった。そこで、本発明者らは、バックアップロールの表面が摩耗する要因を種々検討したところ、鋳片支持ロールの方がバックアップロールよりも高い硬度を有することが要因であることを見出した。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、バックアップロールの長寿命化を図ることによってバックアップロールの交換又は補修の周期を長くし、従来よりも保守性に優れた鋳片支持装置、及び鋳片の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鋳片を挟むように対向して設けられ、鋳片の幅方向に沿って延在する回転軸を有し、外周面で上記鋳片に接しながら回転する鋳片支持ロールと、鋳片及び鋳片支持ロールを挟むように対向して設けられ、鋳片の幅方向に沿って延在する回転軸を有し、外周面で上記鋳片支持ロールの外周面と接しながら、鋳片支持ロールとともに回転するバックアップロールと、を備える連続鋳造設備用の鋳片支持装置であって、バックアップロールの外周面の方が、鋳片支持ロールの外周面よりも高い硬度を有する鋳片支持装置を提供する。
【0010】
上記本発明の鋳片支持装置では、バックアップロールの外周面の方が、鋳片支持ロールの外周面よりも高い硬度を有するように構成されていることから、バックアップロールと鋳片支持ロールとの接触によるバックアップロールの摩耗が抑制されて、バックアップロールの長寿命化を図ることができる。また、互いに接触するバックアップロールの外周面と鋳片支持ロールの外周面とが異なる硬度を有することによって、両ロール間の焼き付けも抑制することができる。これらの要因によって、バックアップロールの交換及び補修の周期が長くなり、従来よりも保守性に優れた鋳片支持装置を提供することができる。
【0011】
なお、鋳片支持ロールは、バックアップロールよりも表面硬度が低くなることから、バックアップロールよりも表面に疵が入りやすくなる。しかしながら、鋳片は、最終製品となるホットラベラー及びスキンパスミル等の通板材とは異なり、中間製品として用いられる鋳片を製造するものであることから、鋳片支持ロールの表面に疵が生じたとしても特に支障はない。すなわち、本発明は、連続鋳造設備の用途に特に適した鋳片支持装置である。
【0012】
本発明の鋳片支持装置における鋳片支持ロールは、鋳片の引抜き方向に沿って、第1の鋳片支持ロールと、該第1の鋳片支持ロールよりも下流側に第2の鋳片支持ロールと、を有し、第2の鋳片支持ロールの外周面の方が、第1の鋳片支持ロールの外周面よりも高い硬度を有することが好ましい。
【0013】
これによって、鋳片支持ロールの摩耗を抑制して、鋳片支持ロールの交換周期を長くすることができる。この理由は次のとおりである。すなわち、鋳片は、下流側への移動に伴って、冷却が進行して溶融部が縮小して凝固シェルの厚みが大きくなる。凝固シェルの厚みが増すほど、鋳片から鋳片支持ロールの受ける反力は大きくなる傾向にあるため、鋳片の引抜き方向の下流側に配置された第2の鋳片支持ロールの方が、上流側に配置された第1の鋳片支持ロールよりも、摩耗しやすい環境にある。このため、下流側に配置された第2の鋳片支持ロールの外周面の硬度を、上流側に配置された第1の鋳片支持ロールの外周面の硬度よりも高くすることによって、鋳片支持ロールの交換及び補修の周期をも長くすることができる。
【0014】
ここで、上記第1の鋳片支持ロールは、鋳片の幅方向及び厚み方向に平行な断面で見たときに、溶融部を有する鋳片を挟むように配置され、上記第2の鋳片支持ロールは、鋳片の幅方向及び厚み方向に平行な断面で見たときに、溶融部を有しない、すなわち完全凝固した鋳片を挟むように配置されることが好ましい。鋳片の幅方向及び厚み方向に平行な断面において、内部に溶融部を有さず完全凝固した鋳片を挟む第2の鋳片支持ロールには、溶融部を有する鋳片を挟む第1の鋳片支持ロールよりも大きな負荷がかかる。これは、鋳片の完全凝固した部分の方が、溶融部を有する部分よりも高い硬度を有するためである。
【0015】
本発明の鋳片支持装置のバックアップロールは、回転軸方向に沿って3個以上に分割され、回転軸方向の中央部に配置される第1のバックアップロールと、該第1のバックアップロールよりも回転軸方向の両端部側に配置される第2のバックアップロールと、を有しており、第1のバックアップロールの外周面の方が、第2のバックアップロールの外周面よりも高い硬度を有することが好ましい。
【0016】
バックアップロールに作用する鋳片圧下反力は、鋳片の幅方向における両端部に比べて中央部の方が大きくなる傾向にある。このため、端部側よりも中央部のバックアップロールの方が、負荷が大きく、摩耗しやすい環境にある。そこで、バックアップロールを、回転軸方向に3個以上に分割し、両端部側に配置される第2のバックアップロールの外周面の硬度よりも、中央部に配置される第1のバックアップロールの外周面の硬度の方を高くすることによって、中央部に配置される第1のバックロールの摩耗を抑制することができる。これによって、バックアップロールの交換周期を一層長くすることが可能となり、保守性に一層優れた鋳片支持装置とすることができる。
【0017】
本発明は、また、上述の鋳片支持装置を用いて鋳片を製造する連続鋳造方法を提供する。本発明の連続鋳造方法は、上述の特徴を有する鋳片支持装置を用いていることから、経済性に優れるともに、装置の保守性を向上することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、バックアップロールの長寿命化を図ることによって、バックアップロールの交換周期を長くし、従来よりも保守性に優れた鋳片支持装置及び鋳片の連続鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の鋳片支持装置を備える連続鋳造設備の一実施形態を示す図である。
【
図2】本発明の鋳片支持装置の一実施形態の内部構造を示す図である。
【
図3】
図2の鋳片支持装置のIII−III線に沿った断面を模式的に示す一部断面図である。
【
図4】本発明の鋳片支持装置の一実施形態における水平帯を上から見た平面図である。
【
図5】本発明の鋳片支持装置の別の実施形態における水平帯を上から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。なお、同一又は同等の要素には同一の番号を付し、場合により重複する説明は省略する。
【0021】
図1は、本実施形態の鋳片支持装置を備える連続鋳造設備の一実施形態を示す側面図である。連続鋳造設備100は、溶鋼101が満たされる取鍋102と、取鍋102の下方に設けられ、取鍋102の底部から取鍋ノズル103の筒孔を通過する溶鋼101を貯留するタンディッシュ105と、タンディッシュ105の下方に設けられる鋳型104と、鋳片支持装置110を備える。
【0022】
鋳片支持装置110は、鋳型104から引き抜かれた鋳片10を下方に流通させる垂直帯14と、鋳片10を湾曲させる湾曲帯15と、湾曲させた鋳片10を曲げ戻す矯正帯16と、鋳片10を水平方向へ搬送する水平帯17を有する。垂直帯14、湾曲帯15、矯正帯16及び水平帯17には、それぞれ、鋳片10を厚み方向に挟むように対向して、鋳片10と外周面において接触する鋳片支持ロール50が設けられている。鋳片支持ロール50は、鋳片10の幅方向に沿って延在する回転軸を有しており、回転しながら鋳片10を下流側に流通させるように構成されている。すなわち、鋳片支持ロール50は、その回転軸が鋳片10の流通方向(引抜き方向)に対して直角になるように、円周方向に回転可能に固定されている。
【0023】
垂直帯14において、鋳片10には、表面部のみが凝固することによって所謂凝固シェル11が形成されている。一方、鋳片10は、内部に溶融部(未凝固部)12を有している。そして、鋳片10は垂直帯14、湾曲帯15、矯正帯16及び水平帯17へ順次引き抜かれるに伴って、冷却されて凝固シェル11が成長する。凝固シェル11の成長に伴って、溶融部12が縮小し、凝固シェル11の厚みが増加する。このため、鋳片支持ロール50が鋳片10から受ける反力は、最も下流側に配置される水平帯17において最も大きくなる。このため、水平帯17において、鋳片支持ロール50は、鋳片10から受ける反力によって撓みやすい傾向にある。
【0024】
そこで、水平帯17では、鋳片支持ロール50と同様に鋳片10の幅方向に沿って回転軸を有し、鋳片支持ロール50の外周面と接しながら、鋳片支持ロール50とは反対方向に回転するバックアップロール60が設けられている。このバックアップロール60は、鋳片10及び鋳片支持ロール50を厚さ方向に挟むように対向して、鋳片10から離れて配置される。バックアップロール60の回転軸と鋳片支持ロール50との回転軸は互いに平行であり、バックアップロール60は、鋳片10の幅方向(
図2中、z軸方向)に沿って延在している。バックアップロール60は、その回転軸が鋳片10の流通方向に対して直角になるように、鋳片10から離れた位置に回転可能に固定されている。
【0025】
図2は、鋳片支持装置110の水平帯17の概略図である。すなわち、
図2は、
図1の鋳片支持装置110の水平帯17をx方向から見たときの断面構造の概略を示す図である。
図2に示すように、水平帯17における鋳片支持装置110は、鋳片10を上下方向に挟むように一対の鋳片支持ロール50と、それぞれの鋳片支持ロール50の鋳片10側とは反対側に一対のバックアップロール60を有する。すなわち、鋳片10の上方及び下方には、鋳片10を挟むようにして、鋳片10側から順に、一対の鋳片支持ロール50と一対のバックアップロール60とが設けられている。
【0026】
円筒状の鋳片支持ロール50は、中心部を貫通する回転軸51を有しており、該回転軸51の両端部を回転可能に保持する軸受52によって、ユニットフレーム70に固定されている。ユニットフレーム70は、鋳片10、及び一対の鋳片支持ロール50を上下方向(
図1中、y軸方向)に挟むようにして、鋳片10の上方及び下方にそれぞれ設けられている。ユニットフレーム70は、軸受52を介して、複数の鋳片支持ロール50の回転軸51を固定する機能を有している。
【0027】
鋳片10の上下方向のそれぞれにおいて、鋳片支持ロール50とユニットフレーム70との間には、バックアップロール60が設けられている。すなわち、バックアップロール60は、鋳片10及び一対の鋳片支持ロール50を上下方向(
図2中、y軸方向)に挟むように設けられる。バックアップロール60は、中心部を貫通し、鋳片10の幅方向(
図2中、z軸方向)に延在する回転軸61を有しており、該回転軸61の両端部を回転可能に保持する回転軸61と、該回転軸61を回転可能に保持する軸受62によって、ユニットフレーム70に固定されている。ユニットフレーム70は、軸受62を介して、複数のバックアップロール60の回転軸61を固定する機能を有している。
【0028】
バックアップロール60は、回転軸61の軸方向に3個に分割されており、中央部の第1のバックアップロール60Aと、第1のバックアップロール60Aを軸方向に挟む両端部の第2のバックアップロール60B,60Bとから構成される。第1のバックアップロール60A,第2のバックアップロール60B,60Bの間には、3本の回転軸61をユニットフレーム70に固定する6つの軸受62が設けられる。バックアップロール60の上下に設けられるユニットフレーム70は、鋳片10を幅方向(
図2中、z軸方向)に挟むように設けられる油圧シリンダ80によって連結されている。ユニットフレーム70は、油圧シリンダ80以外の部材によって連結されていてもよい。そのような部材としては、ウォームジャッキ等が挙げられる。なお、
図1では、ユニットフレーム70、油圧シリンダ80及び軸受52,62等は、連続鋳造設備100の構造の理解を容易にするため省略している。
【0029】
鋳片支持ロール50は、円周方向に回転することによって、鋳片10を押圧しながら鋳片10を下流側に流通させる。これによって、バルジング変形を抑制しながら、鋳片10を引き抜くことができる。ここで、鋳片支持ロール50が上下方向に変形することを抑制し、鋳片支持ロール50の剛性を十分に大きくするために、鋳片支持ロール50の鋳片10とは反対側に、鋳片支持ロール50と外周面が互いに接し、鋳片支持ロール50と反対方向に回転するバックアップロール60が設けられる。
【0030】
鋳片支持ロール50の外周面の硬度をHW、バックアップロール60の外周面の硬度をHBとしたときに、下記式(1)を満たすような硬度となるように、それぞれのロールの材質を選定する。鋳片支持ロール50とバックアップロール60の外周面は、それぞれ接触しながら回転することから、式(1)を満足するような硬度とすることによって、鋳片支持ロール50とバックアップロール60の焼き付けを抑制しつつ、鋳片支持ロール50とバックアップロール60との接触によるバックアップロールの摩耗を抑制することができる。これによって、バックアップロール60の補修又は交換の周期を長くすることができる。なお、本明細書におけるロールの外周面の硬度は、JIS Z 2246に準拠して測定されるショア硬さである。
【0032】
HWは、鋳片支持ロール50とバックアップロール60の両者の摩耗を十分に抑制する観点から、例えばHS30〜HS70である。同様の観点から、HBは、例えばHS35〜HS100である。これらの硬度は、市販の測定装置を用いて測定することができる。HBとHWの差は、バックアップロール60の交換周期と鋳片支持ロール50の交換又は補修の周期を長くしてメンテナンスの頻度を低減する観点から、例えば、HS5〜HS30である。
【0033】
バックアップロール60の外周面の硬度は、第1のバックアップロール60A及び第2のバックアップロール60Bの外周面の硬度を、それぞれHB1及びHB2としたとき、下記式(2)を満たすことが好ましい。このように、バックアップロール60の回転軸方向の中央部に配置される第1のバックアップロール60Aの外周面の硬度を、回転軸方向の両端部に配置される第2のバックアップロール60Bの外周面の硬度よりも高くすることによって、第2のバックアップロール60Bよりも負荷が大きい第1のバックアップロール60Aの摩耗を十分に抑制し、バックアップロール60の交換頻度を低減することができる。
【0035】
HB1は、例えば、HS50〜HS90であり、HB2は、例えば、HS35〜HS50である。これらの硬度は、市販の測定装置を用いて測定することができる。HB1とHB2との差は、バックアップロール60の交換周期を十分に長くしてメンテナンスの頻度を低減する観点から、好ましくは、HS15〜HS40である。
【0036】
本実施形態のようにバックアップロール60が回転軸61の軸方向に沿って3個以上に分割されている場合、軸方向の両端部に配置される第2のバックアップロール60Bの外周面の硬度よりも、鋳片支持ロール50の外周面の硬度の方が低い方が好ましい。すなわち、下記式(3)が成立するように、鋳片支持ロール50、第1のバックアップロール60A及び第2のバックアップロール60Bの円周面の硬度を設定することが好ましい。
【0038】
HB2とHWの差は、バックアップロール60の交換周期を十分に長くしてメンテナンスの頻度を低減する観点から、好ましくは、HS5〜HS30である。
【0039】
図3は、
図2におけるIII−III線に沿った断面を示す模式断面図である。すなわち、
図3は、本実施形態の連続鋳造設備の鋳片支持装置110における水平帯17の鋳片10の長手方向(
図3中、x軸方向)に沿った断面を示している。
図3中、鋳片10はx方向に向かって引き抜かれる。鋳片10は、水平帯17を流通しながら冷却されて、凝固シェルが徐々に成長する。そして、
図3の位置Pまで流通した時点において、鋳片10は完全に凝固する。鋳片10が完全凝固する位置Pよりも上流側に配置される鋳片支持ロール50aの外周面の硬度をHW1、位置Pよりも下流側に配置される鋳片支持ロール50bの外周面の硬度をHW2としたときに、下記式(4)を満たすことが好ましい。これによって、完全に凝固した硬度の高い鋳片10と接触する鋳片支持ロール50bの外周面の摩耗を十分に抑制することができる。
【0041】
図4は、
図3に示す鋳片支持装置110における水平帯17を上からみた平面図である。なお、説明のため、
図4では、ユニットフレーム70を省略している。
図4において、鋳片10は、x方向に引き抜かれる。鋳片支持ロール50aの外周面の硬度HW1、鋳片支持ロール50bの外周面の硬度HW2、第1のバックアップロール60Aの硬度HB1、第2のバックアップロール60Bの硬度HB2は、例えば、下記式(5)及び(6)の関係を満たす。これによって、バックアップロール60のみならず、鋳片支持ロール50の補修及び交換の周期を十分に長くすることが可能となる。なお、複数の第1のバックアップロール60Aの外周面及び複数の第2のバックアップロール60Bの外周面は、それぞれ、同一の硬度を有している。
【0042】
HW1<HW2 (5)
HB1>HB2>HW1 (6)
【0043】
図5は、別の実施形態の鋳片支持装置における水平帯を上からみた平面図である。なお、説明のため、
図5では、ユニットフレーム70を省略している。
図5に示す水平帯17は、鋳片10が完全に凝固する位置Pを境界として、バックアップロール60の外周面の硬度が変わっている点で、
図4の鋳片支持装置と異なっている。
図5に示すように、第1のバックアップロール60A,60C及び第2のバックアップロール60B,60Dは、位置Pを境界として、外周面の硬度が異なっている。
【0044】
位置Pよりも上流側にある第1のバックアップロール60Aの外周面の硬度をHB1U、位置Pよりも下流側にある第1のバックアップロール60Cの外周面の硬度をHB1D、位置Pよりも上流側にある第2のバックアップロール60Bの外周面の硬度をHB2U、位置Pよりも下流側にある第2のバックアップロール60Dの外周面の硬度をHB2Dとしたときに、下記式(7)、式(8)、式(9)、式(10)及び式(11)を満たす。このように、位置Pよりも下流側にある第1のバックアップロール60C及び第2のバックアップロール60Dの外周面の硬度を、それぞれ、位置Pよりも上流側にある第1のバックアップロール60A及び第2のバックアップロール60Bの外周面の硬度よりも高くすることによって、鋳片支持ロール50b及び50aとの接触による摩耗を十分に抑制することができる。
【0045】
HB1U<HB1D (7)
HB2U<HB2D (8)
HW1<HB2U<HB1U (9)
HW2<HB2D<HB1D (10)
HW1<HW2 (11)
【0046】
更に別の実施形態においては、第1のバックアップロール60Aと第2のバックアップロール60Bの外周面の硬度、及び、第1のバックアップロール60Cと第2のバックアップロール60Dの外周面の硬度を、それぞれ同一としてもよい。この場合、上記式(7)、式(8)及び式(11)とともに、下記の関係式(12)及び式(13)が成立する。
【0047】
HW1<HB2U=HB1U (12)
HW2<HB2D=HB1D (13)
【0048】
以上、本発明の好適な形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、鋳片支持装置110は、水平帯17のみにバックアップロール60を有していたが、水平帯よりも上流側にある垂直帯14、湾曲帯15又は矯正帯16にバックアップロールを設けてもよい。
【0049】
また、鋳片支持装置110は、回転軸方向に3個に分割されたバックアップロール60を有していたが、他の実施形態では、バックアップロール60は、分割されていなくてもよく、また、4つ以上に分割されていてもよい。
【0050】
バックアップロール60が回転軸方向に(n+2)個に分割される場合には、両端部のバックアップロール(第2のバックアップロール)の外周面の硬度をHB2とし、両端部に挟まれたn個のバックアップロール(第1のバックアップロール)の外周面の硬度をHB1としてもよい。この場合、第1のバックアップロールは、例えば、回転軸方向の中央部に近接するにつれて、高くなるような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、バックアップロールの長寿命化を図ることによって、バックアップロールの交換周期を長くし、従来よりも保守性に優れた鋳片支持装置、及び鋳片の連続鋳造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
10…鋳片、11…凝固シェル、12…溶融部、14…垂直帯、15…湾曲帯、16…矯正帯、17…水平帯、50…鋳片支持ロール、50a…第1の鋳片支持ロール、50b…第2の鋳片支持ロール、51,61…回転軸、52,62…軸受、60…バックアップロール、60A,60C…第1のバックアップロール、60B,60D…第2のバックアップロール、70…ユニットフレーム、80…油圧シリンダ、100…連続鋳造設備、101…溶鋼、102…取鍋、103…取鍋ノズル、104…鋳型、105…タンディッシュ、110…鋳片支持装置。