(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041750
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】自動二輪車のサイドスタンド
(51)【国際特許分類】
B62H 1/02 20060101AFI20161206BHJP
【FI】
B62H1/02 E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-90033(P2013-90033)
(22)【出願日】2013年4月23日
(65)【公開番号】特開2014-213623(P2014-213623A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘二
【審査官】
川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−271848(JP,A)
【文献】
特開2010−023685(JP,A)
【文献】
実開平03−047898(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動二輪車に装着されるサイドスタンドであって、
起立したとき地面に接触する脚部と、
前記脚部の基端に連なり一対の対向壁を持つ取付部と、
前記一対の対向壁のうちの一方の対向壁を貫通して他方の対向壁の内側面に当接するカラーと、
前記一方の対向壁の外側方から前記カラーに挿通されて前記他方の対向壁のねじ孔に螺合されるねじ体と、
前記ねじ体の先端部に螺合されて前記他方の対向壁の外側面に締着されるナットとを備えたサイドスタンド。
【請求項2】
請求項1に記載のサイドスタンドにおいて、前記カラーは前記一方の対向壁の外側面に圧接される鍔部を有するサイドスタンド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のサイドスタンドにおいて、前記取付部は前記一対の対向壁を有するU字形の一体物であるサイドスタンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に装着されるサイドスタンドの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車のサイドスタンドとして、例えば
図4に示すような構造のものがある。同図はサイドスタンドの要部を示す。同図に示すように、サイドスタンド70の基端に、一対の対向壁61,62を有するU字形の取付部が形成され、一方の対向壁61にはボルト挿通孔64が形成され、他方の対向壁62にはねじ孔65が形成されている。サイドスタンド70を支持するブラケット67は、その基部67aが図示しない車体フレームに支持され、先端部67bに貫通孔68が形成され、このブラケット67が前記一対の対向壁61,62の間に配置されている。一方の対向壁61の外側方から段付きボルト60がボルト挿通孔64に挿通され、前記ブラケット67の貫通孔68を通過させたのち、他方の対向壁62のねじ孔65に螺合され、前記段付きボルト60の段差部60aが他方の対向壁62の内側面に当接されている。段付きボルト60の先端部に、セルフロックナット69が螺合され、これにより、サイドスタンド70が車体フレームに回動自在に支持される構造となっている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭62−156092号公報の第5図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に自動二輪車のサイドスタンドは、パーキング時には横下向きに突き出して、その先端を地面に接地させることで、前輪、後輪、サイドスタンドの3点を接地点とし、車体をパーキングさせる。また、走行時には地面から蹴り上げてサイドスタンドを収納することで、自動二輪車の走行に障害とならないようにしている。このように、サイドスタンドは頻繁に回動させられるので、その耐久性および安定性が求められる。
【0005】
しかしながら、特許文献1のサイドスタンド70によれば、パーキング時や走行時において、サイドスタンド70が下方あるいは上方に頻繁に回動させられる結果、段付きボルト60が緩むことがある、また、段付きボルト60の軸力(締結力)が付加される軸力部分である伸び代L2が他方の対向壁62の肉厚と同一であって短く、サイドスタンド70の回動時、前記伸び代L2に過大な応力が集中することで、段付きボルト60のへたり、つまり、ねじ山の潰れが発生し易い。さらに、車体の重量が付加されることによるサイドスタンド70の曲げ力が直接、段付きボルト60の頭部にかかる結果、頭部内面が擦れて磨耗損傷を生じやすい。このような複合的要因により、サイドスタンド70をスムースかつ安定的に回動させることが容易とは言えず、耐久性も改善の余地があった。
【0006】
本発明の目的は、サイドスタンドの回動時にボルトが緩んだり、へたることがなく、スムースかつ安定的に回動させることができる耐久性に優れた自動二輪車のサイドスタンドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明にかかる自動二輪車のサイドスタンドは、起立したとき地面に接触する脚部と、前記脚部の基端に連なり一対の対向壁を持つ取付部と、前記一対の対向壁
のうちの一方の対向壁を貫通して他方の対向壁の内側面に当接するカラーと、前記一方の対向壁の外側方から前記カラーに挿通されて前記他方の対向壁のねじ孔に螺合されるねじ体と、前記ねじ体の先端部に螺合されて前記他方の対向壁の外側面に締着されるナットとを備えている。
【0008】
この構成によれば、取付部の一対の対向壁間に車体フレームのブラケットを支持して使用されるサイドスタンドの回動時、その回動に伴う摺動がカラーに作用し、ねじ体には直接作用しないので、ねじ体が緩むのを防止できる。また、ねじ体は段付きボルトではないから、生じる軸力が付加される軸力部分(伸び代)が、従来の軸力部分よりも長くなるので、ねじ体がへたりにくい。さらに、サイドスタンドの曲げ力をカラーとねじ体の両方で受けるので、ねじ体の傾きによるサイドスタンドの回動時のガタつきが抑制され、スムースかつ安定的に回動させることができ、耐久性が向上する。
【0009】
本発明において、前記カラーは前記一方の対向壁の外側面に圧接される鍔部を有することが好ましい。この構成によれば、一方の対向壁が、ねじ体の頭部で擦られて磨耗損傷するのを防止できる。したがって、ねじ体の緩みを効果的に防止できる。特に、鍔部を大きくすることで、一層磨耗損傷の防止効果が大きく、ねじ体の緩みの防止効果が大きい。
【0010】
本発明において、さらに、前記
取付部は前記一対の対向壁を有するU字形の一体物であることが好ましい。サイドスタンドのスムースな回動のためには一対の対向壁間の隙間の寸法精度が重要となる。サイドスタンドの
取付部が一対の対向壁を有するU字形の一体物であることで、一対の対向壁の寸法精度が向上するので、前記一対の対向壁が別部材で形成される場合に起こりがちな隙間の大きな誤差を発生させることがなく、サイドスタンドをスムースに回動させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取付部の一対の対向壁間に車体フレームのブラケットを支持して使用されるサイドスタンドの回動時、その回動に伴う摺動がカラーに作用し、ねじ体には直接作用しないので、ねじ体が緩むのを防止できる。また、ねじ体は段付きボルトではないから、生じる軸力が付加される軸力部分(伸び代)が、従来の軸力部分よりも長くなるので、ねじ体がへたりにくい。さらに、サイドスタンドの曲げ力をカラーとねじ体の両方で受けるので、ねじ体の傾きによるサイドスタンドの回動時のガタつきが抑制され、スムースかつ安定的に回動させることができ、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるサイドスタンドを備えた自動二輪車の側面図である。
【
図3】同サイドスタンドの要部を示す縦断面図である。
【
図4】従来のサイドスタンドの要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかるサイドスタンドを備えた自動二輪車の側面図である。この自動二輪車の車体フレームFRは,前半部を構成するメインフレーム1と、メインフレーム1の後部に連結されて車体フレームFRの後半部を構成するリヤフレーム2とを有する。このメインフレーム1の前端にヘッドパイプ3が取り付けられ、このヘッドパイプ3に回動自在に挿通されたステアリングシャフト(図示せず)にアッパブラケット4およびアンダーブラケット5が取り付けられ、これらアッパブラケット4およびアンダーブラケット5にフロントフォーク8が支持され、フロントフォーク8の下端部に前輪9が支持されている。フロントフォーク8の上端部のアッパブラケット4にハンドル10が取り付けられている。
【0014】
前記メインフレーム1の後端部にはスイングアームブラケット11が設けられ、このスイングアームブラケット11に、スイングアーム12が、その前端部に挿通されたピボット軸13を介して上下揺動自在に支持されている。このスイングアーム12の後端部に後輪14が支持されている。メインフレーム1の中央下部にエンジンEが支持され、このエンジンEが、チェーンのような動力伝達機構16を介して後輪14を駆動する。
【0015】
前記リヤフレーム2にライダー用シート22が支持されており、メインフレーム1の上部、つまり、車体上部で、前記ハンドル10とライダー用シート22との間には、金属製の燃料タンク18が取り付けられている。燃料タンク18の後部の下方およびライダー用シート22の下方は、サイドカバー17により側方から覆われている。車体前部にはエンジンEの側方前方を覆う樹脂製の左右一対のサイドカウル30が装着されている。また、アッパブラケット4およびアンダーブラケット5にヘッドランプユニット32が支持されている。
【0016】
スイングアームブラケット11の下部にボルトのような止め具37によって取り付けられたブラケット39に、サイドスタンド40が回動自在に支持されている。図示の場合、自動二輪車のパーキング時、起立したサイドスタンド40の先端の接地部43が地面Gに接触した状態を示している。自動二輪車の走行時にはサイドスタンド40は走行の障害にならないように車体に平行になるように跳ね上げられて、ほぼ水平姿勢で収納される。
【0017】
図2はサイドスタンド40の拡大正面図を示す。同図に示すように、サイドスタンド40はサイドスタンド40の起立時に地面Gに接触する真直な脚部41と、この脚部41の基端に連なるU字形の取付部42と、脚部41の先端の接地部43とからなる。取付部42は一対の対向壁44,45を有する一体物であり、これら一対の対向壁44,45の間の隙間46に前記ブラケット39を挿入させて、このブラケット39に、ねじ体48およびナット49を介してサイドスタンド40を回動可能に取り付けている。一方の対向壁44は車体外側寄りに位置し、他方の対向壁45は車体内側寄りに位置する。ブラケット39に設けられた第1係止ピン51と脚部41に設けられた第2係止ピン52との間にスプリング53が架け渡されている。
【0018】
図3の要部の縦断面図に示すように、一方の対向壁44には挿通孔44aが形成され、他方の対向壁45には挿通孔44aと同芯のねじ孔45aが形成されている。また、ブラケット39には挿通孔44aとほぼ同径の貫通孔39aが形成されている。挿通孔44aと貫通孔39aとにわたり、筒形のカラー47が介装されている。このカラー47の一端部には、径方向外方に突出して一方の対向壁44の外側面44bに近接ないし接触する鍔部47aが形成され、このカラー47の先端部は他方の対向壁45の内側面45bに当接している。前記鍔部47aは、好ましくは大きめの外径として、一方の対向壁44の外側面44bとの対向面積を大きくする。ねじ体48が一方の対向壁44からカラー47の中空部に挿通され、他方の対向壁45のねじ孔45aに螺合されて、この他方の対向壁45から車体内側へ突出する。ねじ体48の突出した先端部にナット49が螺合されて、他方の対向壁45の外側面45cに圧接されており、これによってねじ体48の回り止めがなされている。このようにして、サイドスタンド40が車体フレームFRのブラケット39に回動可能に取り付けられている。
【0019】
ねじ体48の雄ねじ部は、他方の対向壁45のねじ孔45aに螺合する部分から先端側にわたって形成されていれば十分であるが、この例ではブラケット39の貫通孔39aに挿入される部分にも雄ねじが形成されている。ねじ締結によってねじ体48に生じる軸力は、ねじ体48の頭部48aの下面からナット49の上面、つまり他方の対向壁45の外側面45cまでの部分に付加される。したがって、軸力部分(伸び代L1)は、
図4に示す従来の軸力部分(伸び代L2)よりも長くなるので、ねじ体48がへたりにくくなる。
【0020】
つぎに、上記構成にかかるサイドスタンド40の動作について説明する。例えば、自動二輪車のパーキング時、収納状態にある
図2のサイドスタンド40の脚部41を、スプリング53のスプリング力に抗して足で下方に蹴ることで起立させ、サイドスタンド40の先端の接地部43を地面Gに接地させることでパーキングする。また、パーキング時とは逆に、スプリング53のスプリング力に抗して足で蹴り上げることで、サイドスタンド40を収納し、走行可能状態となる。
【0021】
ここで、サイドスタンド40の回動時、その回動に伴う摺動がカラー47に作用し、ねじ体48には直接作用しないので、ねじ体48が緩むのを防止できる。また、
図3に示したように、ねじ体48における軸力が付加される軸力部分(伸び代L1)が、
図4に示す従来の軸力部分(伸び代L2)よりも長くなるので、
図3のねじ体48がへたりにくくなる。また、サイドスタンド40の回動時の曲げ力がカラー47とねじ体48の両方にかかるので、ねじ体48の傾きによるサイドスタンド40の回動時のガタつきが抑制され、スムースかつ安定的に回動させることができ、耐久性が向上する。
【0022】
また、カラー47に、取付部42の一方の対向壁44の外側面に圧接される鍔部47aが設けられているので、サイドスタンド40の回動時、一方の対向壁44が、ねじ体48の頭部で擦られて磨耗損傷するのを防止できる。したがって、ねじ体48の緩みを効果的に防止できる。特に、カラー47の鍔部47aを大きくすることで、一層磨耗損傷の防止効果が大きく、ねじ体48の緩みの防止効果が大きい。
【0023】
さらに、サイドスタンド40のスムースな回動のためには隙間46の寸法精度が重要、つまり、一対の対向壁44,45の寸法精度が重要となるが、サイドスタンド40の基端部を一対の対向壁44,45を有する、一体物であるU字形の取付部42により構成したことで、一対の対向壁44,45の寸法精度が向上する。これにより、一対の対向壁44,45が別部材で形成される場合に起こりがちな隙間46の寸法の大きな誤差が発生しないから、サイドスタンド40の回動時のガタつきが抑制され、サイドスタンド40をスムースに回動させることができる。
【0024】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
39…車体フレームのブラケット
40…サイドスタンド
41…脚部
42…取付部
43…接地部
44…一方の対向壁
44a…挿通孔
44b…一方の対向壁の外側面
45…他方の対向壁
45a…ねじ孔
45b…他方の対向壁の内側面
46…隙間
47…カラー
47a…鍔部
48…ねじ体
48a…頭部
49…ナット
53…スプリング
L1…伸び代
G…地面