特許第6041770号(P6041770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041770
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20161206BHJP
   H02M 1/00 20070101ALI20161206BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20161206BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   H02M7/48 Z
   H02M1/00 M
   H01L25/04 C
   H01L21/60 301A
   H01L21/60 321V
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-174130(P2013-174130)
(22)【出願日】2013年8月26日
(65)【公開番号】特開2015-43645(P2015-43645A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 文洋
【審査官】 松尾 俊介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−191130(JP,A)
【文献】 特開2002−153079(JP,A)
【文献】 特開2013−106384(JP,A)
【文献】 特開2008−187151(JP,A)
【文献】 特開平07−099275(JP,A)
【文献】 特開2012−235081(JP,A)
【文献】 特開2003−142689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 − 7/48
H02M 1/00 − 1/44
H01L 21/60
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源正極端子(P)と出力端子(O)との間に複数のスイッチ素子(Q1〜Q3)と複数のフライホイールダイオード(FWD1〜FWD3)とを並列に接続して構成した1アームの素子群と前記出力端子と電源負極端子(N)との間に複数のスイッチ素子(Q4〜Q6)と複数のフライホイールダイオード(FWD4〜FWD6)とを並列に接続して構成した1アームの素子群を直列に接続して一相分の上下アームを構成した半導体装置において、
各並列フライホイールダイオード(FWD1〜FWD3)における各フライホイールダイオードに対する反対側のアームの並列接続された前記複数のスイッチ素子(Q1〜Q3)の前記出力端子における分岐点から、各フライホイールダイオードを通り前記電源正極端子又は前記電源負極端子に対する合流点に至るそれぞれの電流経路のインダクタンスを同等になるように調整するワイヤーからなるインダクタンス調整部材(1)を前記フライホイールダイオード毎に前記電流経路上に設け、
前記出力端子と前記ワイヤーと前記フライホイールダイオードと前記電源正極端子との経路のインダクタンスが前記フライホイールダイオード毎に異なることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置において、
前記上下アームの各々は、
前記電源正極端子用の第1の導体パターン(PT1)と、
出力端子用の第2の導体パターン(PT2)と、
一端が前記第1の導体パターンに接続され、他端が前記第2の導体パターンに接続され、前記複数のフライホイールダイオード(FWD1〜FWD3)を備えた複数のダイオードチップと、
一端が前記第1の導体パターンに接続され、他端が前記第2の導体パターンに接続され、前記複数のスイッチ素子(Q1〜Q3)を備えた複数のスイッチ素子チップとを備え、
前記インダクタンス調整部材(1)は、前記第1の導体パターンと前記複数のダイオードチップの一端との間及び前記第2の導体パターンと前記複数のダイオードチップの他端との間の少なくとも一方に配置されることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の半導体装置において、
前記インダクタンス調整部材(1)は、前記電流経路上において配置されたワイヤー(WR1,WR2,WR3)の本数、長さの少なくとも一方を変えることによりインダクタンスを調整することを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項2記載の半導体装置において、
前記インダクタンス調整部材(1)は、前記第1の導体パターン(PT1)及び前記第2の導体パターン(PT2)の少なくとも一方の導体パターンの厚さ、幅、長さの少なくとも1つを変えることによりインダクタンスを調整することを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項4記載の半導体装置において、
前記インダクタンス調整部材(1)は、前記第1の導体パターン(PT1)及び前記第2の導体パターン(PT2)の少なくとも一方の導体パターンに切欠部(11a,11b)が形成され、前記少なくとも一方の導体パターンの幅を変えることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の半導体装置において、
前記インダクタンス調整部材(1)は、前記電流経路上において配置されたビームリード(BL1,BL2,BL3)の厚さ、断面積、長さの少なくとも1つを変えることによりインダクタンスを調整することを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータやコンバータなどに用いられる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリ等の直流電源からモータを駆動する交流を得るために、大電流を高速スイッチングする半導体装置が用いられている。従来のこの種の半導体装置としては、特許文献1に記載された半導体装置が知られている。この半導体装置は、複数のスイッチ素子と複数のフライホイールダイオードとを並列に接続して構成した1アームの素子群を2個直列に接続して一相分の上下アームを構成している。
【0003】
上アームの複数のスイッチ素子と下アームの複数のスイッチ素子とが、交互にオンオフすることによりインバータとして動作する。特許文献1では、インバータのフライホイールダイオードとして、複数のフライホイールダイオードが並列に接続されている(特許文献1の図1に示すダイオードチップ40A,40B、ダイオードチップ42A,42B)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許362922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、例えば、下アームの複数のスイッチ素子がオンからオフになったときには、モータに流れ続けている電流が、上アームの複数のフライホイールダイオードに転流する。
【0006】
この場合、複数のフライホイールダイオードが並列に接続されているので、各々のフライホイールダイオードを通って流れる電流は、その経路、即ち、導体パターンや配線等のインダクタンスの影響により流れ易さが異なるため、電流値にアンバランスが発生する。
【0007】
特に、3つ以上のダイオードチップを並列に配置した場合、3つ以上のダイオードチップを対称に配置することができず、各ダイオードチップを通る各電流経路のインダクタンスが異なり、電流値にアンバランスが発生する。このため、フライホイールダイオードの電流定格を大きい電流値に合わせなければならなかった。その結果、フライホイールダイオードのコストが高くなっていた。
【0008】
本発明の課題は、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、各並列フライホイールダイオードにおける各フライホイールダイオードに対する反対側のアームの並列接続された複数のスイッチ素子の出力端子における分岐点から、各フライホイールダイオードを通り電源正極端子又は電源負極端子に対する合流点に至るそれぞれの電流経路のインダクタンスを同等になるように調整するワイヤーからなるインダクタンス調整部材をフライホイールダイオード毎に電流経路に設け、出力端子とワイヤーとフライホイールダイオードと電源正極端子との経路のインダクタンスがフライホイールダイオード毎に異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、出力端子とワイヤーとフライホイールダイオードと電源正極端子との経路のインダクタンスがフライホイールダイオード毎に異なる。このため、ワイヤーにより、各並列フライホイールダイオードにおける各フライホイールダイオードに対する反対側のアームの並列接続された複数のスイッチ素子の出力端子における分岐点から、各フライホイールダイオードを通り電源正極端子又は電源負極端子に対する合流点に至るそれぞれの電流経路のインダクタンスを同等になるように調整される。従って、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の半導体装置の各フライホイールダイオードに対する並列接続されたスイッチ素子の分岐点及び電源端子側の合流点の例を示す図である。
図2】本発明の半導体装置の各フライホイールダイオードに対する並列接続されたスイッチ素子の分岐点及び電源端子側の合流点の他の例を示す図である。
図3】本発明の半導体装置に設けられたインダクタンス調整部材の実施例1を示す図である。
図4】本発明の半導体装置に設けられたインダクタンス調整部材の実施例2を示す図である。
図5】本発明の半導体装置に設けられたインダクタンス調整部材の実施例3を示す図である。
図6】本発明の半導体装置に設けられたインダクタンス調整部材の実施例4を示す図である。
図7】本発明の半導体装置に設けられたインダクタンス調整部材の実施例5を示す図である。
図8】本発明の半導体装置に設けられたインダクタンス調整部材の実施例6を示す図である。
図9】インダクタンスを調整する前の従来の半導体装置とインダクタンスを調整した実施例の半導体装置との比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の半導体装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の半導体装置は、各並列フライホイールダイオードにおける各フライホイールダイオードに対する並列接続されたスイッチ素子の分岐点から、各フライホイールダイオードを通り電源端子側合流点に至るそれぞれの電流経路のインダクタンスを同等になるように調整するインダクタンス調整部材を電流経路に設ける。
【0014】
まず、複数のスイッチ素子と複数のフライホイールダイオードとを並列に接続して構成した1アームの素子群を2個直列に接続して一相分の上下アームを絶縁基板上に構成した場合、図1図2に示すような複数のスイッチ素子Q1〜Q4の配置と複数のダイオードD1〜D4の配置が考えられる。これらの部品配置により、各フライホイールダイオードに対する並列接続されたスイッチ素子の分岐点及び電源端子側合流点の位置が変わるので、以下、図1図2に示す例の分岐点及び電源端子側合流点を決定する。
【0015】
(分岐点及び合流点)
図1(a)に示す例1では、直流正極端子Pと直流負極端子Nとの間に、スイッチ素子Q1とスイッチ素子Q3との直列回路と、スイッチ素子Q2とスイッチ素子Q4との直列回路とが接続される。直流正極端子Pと出力端子O(中性点端子)との間には、スイッチ素子Q1とスイッチ素子Q2とが並列に接続されている。出力端子Oと直流負極端子Nとの間には、スイッチ素子Q3とスイッチ素子Q4とが並列に接続されている。出力端子Oは、図示しないモータなどの負荷に接続される。
【0016】
例1では、スイッチ素子Q1、スイッチ素子Q2、フライホイールダイオードD1、フライホイールダイオードD2の順番に配置されている。なお、スイッチ素子Q1〜Q4は、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)からなる。
【0017】
スイッチ素子Q3,Q4がオンからオフすると、フライホイールダイオードD1の経路RT1と、フライホイールダイオードD2の経路RT2とに電流が流れる。電源端子側の合流点は、B1である。フライホイールダイオードD1に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q3,Q4の分岐点は、A1である。フライホイールダイオードD2に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q3,Q4の分岐点は、A1である。
図1(b)に示す例2では、スイッチ素子Q1、フライホイールダイオードD1、スイッチ素子Q2、フライホイールダイオードD2の順番に配置されている。電源端子側の合流点は、B2である。フライホイールダイオードD1に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q3,Q4の分岐点は、A2である。フライホイールダイオードD2に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q3,Q4の分岐点は、A3である。
図1(c)に示す例3では、フライホイールダイオードD1、スイッチ素子Q1、スイッチ素子Q2、フライホイールダイオードD2の順番に配置されている。電源端子側の合流点は、B3である。フライホイールダイオードD1に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A4である。フライホイールダイオードD2に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A5である。
【0018】
図2(a)に示す例4では、スイッチ素子Q3、スイッチ素子Q4、フライホイールダイオードD3、フライホイールダイオードD4の順番に配置されている。スイッチ素子Q1,Q2がオンからオフすると、フライホイールダイオードD3の経路RT3と、フライホイールダイオードD4の経路RT4とに電流が流れる。電源端子側の合流点は、B4である。フライホイールダイオードD3に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A6である。フライホイールダイオードD4に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A6である。
【0019】
図2(b)に示す例では、スイッチ素子Q3、フライホイールダイオードD3、スイッチ素子Q4、フライホイールダイオードD4の順番に配置されている。電源端子側の合流点は、B5である。フライホイールダイオードD3に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A7である。フライホイールダイオードD4に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A8である。
図2(c)に示す例では、フライホイールダイオードD3、スイッチ素子Q3、スイッチ素子Q3、フライホイールダイオードD4の順番に配置されている。電源端子側の合流点は、B6である。フライホイールダイオードD3に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A9である。フライホイールダイオードD3に対する反対側のアームの並列接続されたスイッチ素子Q1,Q2の分岐点は、A10である。
【0020】
(インダクタンス調整部材の例)
次に、各並列フライホイールダイオードにおける各フライホイールダイオードに対する並列接続されたスイッチ素子の分岐点から、各フライホイールダイオードを通り電源端子側合流点に至るそれぞれの電流経路のインダクタンスを同等になるように調整するインダクタンス調整部材の具体例を例示して説明する。
【0021】
図3(a)に3つのスイッチ素子Q1,Q2,Q3(Q4,Q5,Q6)に3つのフライホイールダイオードFWD1,FWD2,FWD3(FWD4,FWD5,FWD6)が並列に配置されている場合の1相分の半導体装置の構成を示す。3つのフライホイールダイオードFWD1,FWD2,FWD3(FWD4,FWD5,FWD6)の電流経路にインダクタンス調整部材1が接続されている。
【0022】
インダクタンス調整部材1は、あるフライホイールダイオードの電流経路のインダクタンスよりも残りのフライホイールダイオードの電流経路のインダクタンスが大きい場合には、残りのフライホイールダイオードの電流経路のインダクタンスを減らすように調整して、各電流経路のインダクタンスを同等に調整する。あるいは、インダクタンス調整部材1は、あるフライホイールダイオードの電流経路のインダクタンスよりも残りのフライホイールダイオードの電流経路のインダクタンスが大きい場合には、あるフライホイールダイオードの電流経路のインダクタンスを増やすように調整して、各電流経路のインダクタンスを同等に調整する。
【0023】
以下の図3図8の例では、基板に3つのフライホイールダイオード(以下、ダイオードチップ)が並列に配置されている場合を説明する。ダイオードチップの並列数は、3個に限定されることなく、2個又は4個以上でも良い。また、図3図8では、直流正極端子Pを含む銅箔パターンからかなる導体パターンPT1(第1の導体パターン)上に、3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3が等間隔に並べて配置された場合を示している。3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3の各々の下面は、直流正極端子Pを含む導体パターンPT1に接続されている。
【0024】
なお、図示しないが、直流負極端子Nを含む導体パターン上に、3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3が等間隔に並べて配置される場合についても図3図8に示す例と同様である。
【0025】
(インダクタンス調整の実施例1)
図3(b)に示すインダクタンス調整部材の実施例1では、導体パターンPT1上に、3つのスイッチ素子チップQ1,Q2,Q3が等間隔に並べて配置され、3つのスイッチ素子チップQ1,Q2,Q3の各々の下面は、直流正極端子Pを含む導体パターンPT1に接続されている。3つのスイッチ素子チップQ1,Q2,Q3の各々の上面と出力端子Oの導体パターンPT2(第2の導体パターン)とには、それぞれワイヤーWRが接続されている。
【0026】
3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3の各々の上面と出力端子Oの導体パターンPT2とには、ワイヤーWR1,WR2,WR3(本発明のインダクタンス調整部材)が接続されている。即ち、ワイヤーボンディングされている。ワイヤーWR1,WR2,WR3は、アルミニウム、銅などからなり、ワイヤーWR2に対して、ワイヤーWR1とワイヤーWR3とが対称に配置され、ワイヤーWR1とワイヤーWR3とは、ワイヤーWR2よりも長い。ワイヤーWR1,WR3の本数は、ワイヤーWR2の本数よりも多い。
【0027】
ワイヤーの本数を増やすと、並列されたワイヤーのインダクタンスがより小さくなる。従って、ワイヤーWR1,WR3のインダクタンスは、ワイヤーWR2のインダクタンスよりも小さくなる。これにより、出力端子O−ワイヤーWR1−ダイオードチップFWD1−直流正極端子Pの経路のインダクタンスと、出力端子O−ワイヤーWR2−ダイオードチップFWD2−直流正極端子Pの経路のインダクタンスと、出力端子O−ワイヤーWR3−ダイオードチップFWD3−直流正極端子Pの経路のインダクタンスとを同等に調整することができる。
【0028】
従って、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる。また、ワイヤーWR1,WR3を用いているので、インダクタンスの調整が容易になる。
【0029】
なお、実施例1では、ワイヤーWR1,WR3の本数を変化させてインダクタンスを調整したが、例えば、直線状のワイヤーの長さを変化させることにより、インダクタンスを調整するようにしても良い。例えば、ワイヤーWR2を曲線状に形成してインダクタンスを大きくすることにより各電流経路のインダクタンスを同等に調整することもできる。
【0030】
(インダクタンス調整の実施例2)
以下、図4図8については、簡単のため、スイッチ素子チップQ1〜Q3の図示を省略した。図4に示すインダクタンス調整部材の実施例2では、3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3にはそれぞれ同本数のワイヤーWR1a,WR2,WR3aが接続されている。ワイヤーWR1a,WR3aは、ワイヤーWR2よりも長く、ワイヤーWR1a,WR3aのインダクタンスは、ワイヤーWR2のインダクタンスよりも大きい。
【0031】
このため、導体パターンPT1上で且つ直流正極端子PとダイオードチップFWD2とを繋ぐ経路を除く領域に、直流正極端子PからダイオードチップFWD1に向かって貼付けて配置されたワイヤーWR4と、直流正極端子PからダイオードチップFWD3に向かって貼付けて配置されたワイヤーWR5とが設けられている。
【0032】
導体パターンPT1上にワイヤーWR4とワイヤーWR5が貼付けて配置されるので、直流正極端子P−ワイヤーWR4−ダイオードチップFWD1の経路のインダクタンスと、直流正極端子P−ワイヤーWR5−ダイオードチップFWD3の経路のインダクタンスとの各々のインダクタンスは、直流正極端子P−導体パターンPT1−ダイオードチップFWD2の経路のインダクタンスよりも小さくなる。
【0033】
従って、ワイヤーWR4,WR5の本数を調整することにより、直流正極端子P−ワイヤーWR4−ダイオードチップFWD1−ワイヤーWR1a−出力端子Oの経路のインダクタンスと、直流正極端子P−ワイヤーWR5−ダイオードチップFWD3−ワイヤーWR3a−出力端子Oの経路のインダクタンスと、直流正極端子P−導体パターンPT1−ダイオードチップFWD2−ワイヤーWR2−出力端子Oの経路のインダクタンスとを同等に調整することができる。
【0034】
従って、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる。また、ワイヤーWR4,WR5を用いているので、インダクタンスの調整が容易になる。
【0035】
なお、実施例2では、ワイヤーWR4,WR5の本数を変化させてインダクタンスを調整したが、例えば、直線状のワイヤーWR4,WR5の長さを変化させることにより、インダクタンスを調整するようにしても、実施例2の効果と同様な効果が得られる。
【0036】
(インダクタンス調整の実施例3)
図5に示すインダクタンス調整部材の実施例3では、3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3にワイヤーWR6,WR2,WR7が接続され、ワイヤーWR6,WR7の本数は、同数であり、ワイヤーWR2の本数よりも多い。ワイヤーWR6,WR7は、ワイヤーWR2よりも長く、ワイヤーWR6,WR2,WR7の各々の接続点は、出力端子Oの合流点Mにおいて重ね合わされて、ワイヤーボンディングされている。
【0037】
図5に示す構成によれば、ワイヤーWR6,WR2,WR7の各々の接続点が重ね合わされているので、出力端子Oの導体パターンPT2上でインダクタンスを同じにすることができる。従って、インダクタンスの調整が容易になる。
【0038】
なお、ダイオードチップFWDの並列数が2個の場合には、図5に示す例と同様に、2個のダイオードチップFWDを対称に配置し、各々のダイオードチップFWDに各々のワイヤーの一端を接続し、各々のワイヤーの他端を出力端子Oの合流点Mにおいて重ね合わせることで、インダクタンスを同じにすることができる。従って、インダクタンスの調整が容易になる。
【0039】
(インダクタンス調整の実施例4)
図6(a)に示すインダクタンス調整部材の実施例4では、3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3に同本数のワイヤーWR1a,WR2,WR3aが接続されている。ワイヤーWR1a,WR3aは、ワイヤーWR2よりも長く、ワイヤーWR1a,WR3aのインダクタンスは、ワイヤーWR2のインダクタンスよりも大きい。
【0040】
このため、導体パターンPT1に、ダイオードチップFWD2と直流正極端子Pとの間で且つダイオードチップFWD2に近い側に矩形状の切欠部11a,11bが形成されている。この切欠部11a,11bにより、ダイオードチップFWD2と直流正極端子Pとの間のインダクタンスが増加して、ダイオードチップFWD2から直流正極端子Pへの電流が流れにくくなる。
【0041】
従って、切欠部11a,11bにより、直流正極端子P−ダイオードチップFWD1−ワイヤーWR1a−出力端子Oの経路のインダクタンスと、直流正極端子P−ダイオードチップFWD3−ワイヤーWR3a−出力端子Oの経路のインダクタンスと、直流正極端子P−切欠部11a,11b−ダイオードチップFWD2−ワイヤーWR2−出力端子Oの経路のインダクタンスとを同等に調整することができる。
【0042】
従って、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる。また、切欠部11a,11bを形成しているので、インダクタンスの調整が容易になる。
【0043】
なお、図6(a)に示す実施例4では、導体パターンPT1上に矩形状の切欠部11a,11bを形成したが、図6(b)に示す例では、導体パターンPT1上に三角形状あるいは楔状の切欠部12a,12bを形成したものである。図6(b)に示す例についても、図6(a)に示す例と同様に作用し、同様な効果が得られる。
【0044】
また、実施例4では、導体パターンPT1に、ダイオードチップFWD2と直流正極端子Pとの間で且つダイオードチップFWD2に近い側に切欠部11a,11bを形成したが、例えば、出力端子Oの導体パターンPT2上で且つダイオードチップFWD2に近い側に切欠部11a,11bを形成しても、インダクタンスを大きくしてインダクタンスを調整することもできる。
【0045】
(インダクタンス調整の実施例5)
図7に示すインダクタンス調整部材の実施例5では、3つのダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3に同本数のワイヤーWR1a,WR2,WR3aが接続されている。ワイヤーWR1a,WR3aは、ワイヤーWR2よりも長く、ワイヤーWR1a,WR3aのインダクタンスは、ワイヤーWR2のインダクタンスよりも大きい。
【0046】
このため、導体パターンPT1の厚さよりも厚い導体パターンPT3が、斜線部分で示すように直流正極端子PからダイオードチップFWD1を取り囲むように配置されるとともに直流正極端子PからダイオードチップFWD3を取り囲むように配置されている。導体パターンPT1は、ダイオードチップFWD2を取り囲むように配置されている。
【0047】
このような構成によれば、導体パターンPT3は、導体パターンPT1の厚さよりも厚いので、インダクタンスをより小さくすることができる。従って、直流正極端子P−導体パターンPT3−ダイオードチップFWD1−ワイヤーWR1a−直流負極端子Oの経路のインダクタンスと、直流正極端子P−導体パターンPT3−導体パターンPT1−ダイオードチップFWD2−ワイヤーWR2−直流負極端子Oの経路のインダクタンスと、直流正極端子P−導体パターンPT3−ダイオードチップFWD3−ワイヤーWR3a−直流負極端子Oの経路のインダクタンスとを同等に調整することができる。従って、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる。また、インダクタンスの調整が容易になる。
【0048】
また、実施例5では、導体パターンPT3の厚さを変えて、インダクタンスを調整したが、例えば、導体パターンの幅、長さを変えることにより、インダクタンスを調整するようにしても良い。例えば、直流正極端子PからダイオードチップFWD1への経路の導体パターンの幅と、直流正極端子PからダイオードチップFWD3への経路の導体パターンの幅とを大きくすることにより、インダクタンスを小さくすることができる。
【0049】
また、実施例5では、直流正極端子Pの導体パターンPT3の厚さを厚くするようにしてインダクタンスを小さくしたが、これに代えて、出力端子Oの導体パターンPT2の内、ダイオードチップFWD1及びダイオードチップFWD3が接続される導体パターンの厚さを、ダイオードチップFWD1が接続される導体パターンの厚さよりも厚くすることにより、インダクタンスを小さくすることができる。
【0050】
(インダクタンス調整の実施例6)
図8に示すインダクタンス調整部材の例6では、図3に示すワイヤーWR1,WR2,WR3に代えて、ビームリードBL1,BL2,BL3を用いている。ビームリードBL1,BL2,BL3の一端T1〜T3は、ダイオードチップFWD1,FWD2,FWD3に半田付けされ、ビームリードBL1,BL2,BL3の他端T4〜T6は、出力端子Oの導体パターンPT2に半田付けされている。
【0051】
ビームリードBL1,BL2,BL3の各々は、銅又は合金などの導体からなり、図8(b)の側面図に示すように半田付けされるビームリード両端以外の部分に傾斜された突起部3が形成されている。
【0052】
また、ビームリードBL1,BL3の厚さは、ビームリードBL2の厚さよりも厚い。このため、ビームリードBL1,BL3のインダクタンスは、ビームリードBL2のインダクタンスよりも小さい。
【0053】
これにより、出力端子O−ビームリードBL1−ダイオードチップFWD1−直流正極端子Pの経路のインダクタンスと、出力端子O−ビームリードBL2−ダイオードチップFWD2−直流正極端子Pの経路のインダクタンスと、出力端子O−ビームリードBL3−ダイオードチップFWD3−直流正極端子Pの経路のインダクタンスとを同等に調整することができる。
【0054】
従って、大きな電流定格のフライホイールダイオードを使用することなく、転流時に各フライホイールダイオードに流れる電流の大きさを揃えることができる。また、インダクタンスの調整が容易になる。さらに、ワイヤーの場合には、複数本ワイヤーボンディングしなければならないが、ビームリードは、1個だけ半田付けすれば良いので、作業が簡単になる。
【0055】
なお、実施例6では、ビームリードBL1,BL3の厚さをビームリードBL2の厚さよりも厚くしてインダクタンスを小さくしたが、例えば、ビームリードBL1,BL3の断面積を、ビームリードBL2の断面積よりも大きくしても、インダクタンスを小さくすることができる。あるいは、ビームリードの長さを変えることにより、インダクタンスを変えることもできる。
【0056】
また、図4図7に示す実施例2〜5のワイヤーWRに代えて、図8に示すビームリードBL1〜BL3を用いても良い。ビームリードBL1〜BL3を用いることで、作業が簡単になる。また、図4図7に示す実施例2〜5のワイヤーWRに代えて、図8に示すビームリードBL1〜BL3を用い、このビームリードBL1〜BL3の厚さ、断面積、あるいは長さを変えることにより、インダクタンスを変えるようにすれば、図4図7に示す実施例2〜5の効果と図8に示す実施例6の効果とが得られる。
【0057】
さらに、図3図8に示す実施例1〜6の2つ以上の実施例を組み合わせても良い。このようにすれば、インダクタンスの調整がさらに容易になる。
【0058】
(インダクタンスの調整前後の電流バランスの比較結果)
図9は、インダクタンスを調整する前の従来の半導体装置とインダクタンスを調整した実施例の半導体装置との比較結果を示す図である。図9では、図9(a)に示す例、即ち図1(b)に示す例について各電流経路の電流を測定した。
【0059】
まず、図9(b)に示す従来の半導体装置において、経路RT1は、分岐点A2−インダクタンスL15(5nH)−ダイオードD1−インダクタンスL13(5nH)−合流点B2である。経路RT2は、分岐点A3−インダクタンスL3(5nH)−インダクタンスL5(5nH)−ダイオードD2−インダクタンスL7(5nH)−インダクタンスL8(5nH)−インダクタンスL2(5nH)−合流点B2である。即ち、経路RT1の合計のインダクタンスは、10nHであり、経路RT2の合計のインダクタンスは、25nHである。このため、図9(c)に示すように、経路RT1の電流と経路RT2の電流とにアンバランスが発生する。
【0060】
これに対して、実施例の半導体装置においては、前述したインダクタンス調整部材1を設けて各経路のインダクタンスを調整している。図9(d)に示す例では、経路の短い経路RT1のインダクタンスを増加するように調整している。この例は、図9(d)に示すダイオードD1のカソードと合流点B2との間に、例えば、図6(a)に示す切欠部11a,11bを設け、図9(d)に示すダイオードD1のアノードと分岐点A2との間に、例えば、図6(a)に示すワイヤーWR2を設け、ワイヤーWR2の本数を減らすことでインダクタンスを増やし、切欠部11a,11bによりインダクタンスを増やすことができる。
【0061】
図9(d)に示す例では、経路RT1は、分岐点A2−インダクタンスL15(10nH)−ダイオードD1−インダクタンスL13(15nH)−合流点B2である。即ち、インダクタンスL15を10nHに増加させ、インダクタンスL13を15nHに増加させ、経路RT1の合計のインダクタンスを25nHとすることで、経路RT2のインダクタンスと同等に調整している。従って、図9(e)に示すように、経路RT1の電流と経路RT2との電流とを同等にすることができる。
【0062】
なお、本発明の半導体装置は、上述した実施例1乃至実施例6の半導体装置に限定されるものでない。実施例1乃至実施例6の半導体装置では、上下アームの1相分の構成について説明したが、本発明は、例えば、上下アームの1相分の構成を3相分備えて構成される3相交流インバータに適用することもできる。また、本発明の半導体装置は、インバータやコンバータなどにも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
Q1〜Q4 スイッチ素子
D1〜D4 フライホイールダイオード
FWD1〜FWD3 ダイオードチップ
PT1,PT2,PT3 導体パターン
WR1〜WR7 ワイヤー
BL1〜BL3 ビームリード
11a,11b,12a,12b 切欠部
P 直流正極端子
O 出力端子
N 直流負極端子
T1〜T6 端子
1 インダクタンス調整部材
3 突起部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9