【文献】
Biotechnology and Applied Biochemistry,2010年,Vol.56,pp.131-140
【文献】
Galkin, A. et al.,Accession No. AB072394, Definition: Mycobacterium vaccae fdh gene for formate dehydrogenase,complete cds.,Database DDBJ/EMBL/GenBank [online],2001年10月 6日,[retrieved on 2012-06-06],URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/ab072394
【文献】
Appl Microbiol Biotechnol.,1995年,Vol.44, No.3-4,pp.479-483
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、前記222位の変異に加えて、更に少なくとも6位、146位および/または256位のシステイン残基が、システイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む蛋白質であることを特徴とする、請求項1に記載の蛋白質。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、前記222位の変異に加えて、下記(1)〜(13)からなる群から選択されたいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の蛋白質;
(1)6位、146位、および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
(2)6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(3)6位のシステイン残基がバリンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(4)6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(5)6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(6)146位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
(7)256位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
(8)146位および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
(9)256位のシステイン残基がバリンに置換されたアミノ酸配列、
(10)146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(11)6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(12)6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、及び
(13)6位および146位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列。
配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、前記222位の変異に加えて、6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の蛋白質。
前記還元酵素が、トロピノン還元酵素、イミン還元酵素、α−ケト酸還元酵素、エノン還元酵素、およびカルボニル還元酵素からなる群より選択される少なくとも一つ以上の還元酵素であることを特徴とする、請求項7に記載のベクター。
下記の(a)から(c)のいずれかを酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸に接触させる工程を含む、酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸から還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を製造する方法;
(a)請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛋白質、
(b)請求項9または10に記載の形質転換体、および
(c)(b)に記載の形質転換体の処理物。
【背景技術】
【0002】
カルボニル還元酵素を用いて光学活性アルコールを製造する、もしくはイミン還元酵素を用いて光学活性アミンを製造するためには、補酵素として化学量論量の還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)又は還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)を必要とする。これらの補酵素は極めて高価であるため、単純に補酵素を必要量使用する方法は、工業的規模で実施する場合に経済的に不利であり、経済的に有利なプロセスを構築するためには、補酵素酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)をNADHに還元する反応、又は補酵素酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)をNADPHに還元する反応によって、補酵素を繰り返し利用することが重要となる。
【0003】
これまでのところ、補酵素NAD+をNADHに、又は補酵素NADP+をNADPHに還元するために、ギ酸脱水素酵素を使用した例(非特許文献1)や、グルコース脱水素酵素(特許文献3)を使用した例が報告されている。しかしながら、グルコース脱水素酵素はグルコースからグルコン酸への変換を行うために、目的とする光学活性アルコールと等量のグルコン酸が副生されるという問題があった。
【0004】
一方、ギ酸脱水素酵素はギ酸から炭酸への変換を触媒し、生成した炭酸は二酸化炭素として系内から効率的に除去されるために、経済的にも有利なプロセスとなりうる。しかし、ギ酸脱水素酵素を使用することの欠点は、酵素自身の安定性が高くないために、失活が起こりやすいことであった。この失活は、種々のファクター、pH値、温度、機械的負荷、基質溶液のイオン強度およびイオン種、重金属、酸素によるチオール基の酸化などによって影響を及ぼされることが知られている(特許文献4)。このため、以下に挙げた突然変異により安定性をあげる方法が知られている。
【0005】
ティシュコフ(Tishkov)らは、シュードモナス(Pseudomonas)sp.101 からのギ酸脱水素酵素を部位特異的変異により、256位のシステインをセリンやメチオニンに置換し、水銀に対する安定性を増大させたが、熱安定性が減少することを示した(非特許文献2)。同じく131位、160位、168位、184位、228位のセリンをアラニンやバリン、ロイシンに置換し、熱安定性を増大させた変異体に関しても報告している(非特許文献3)。
【0006】
スルザルクジク(Slusarczyk)らは、キャンディダ ボイジニイ(Candida boidinii)からのギ酸脱水素酵素を部位特異的変異により、23位のシステインをセリンに、262位のシステインをバリン、アラニンに置換することにより、銅に対する安定性、弱アルカリ領域での安定性を増大させたが、熱安定性が減少することを示した(非特許文献4)。
【0007】
本発明者らは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来ギ酸脱水素酵素に部位特異的変異を導入することにより、有機溶媒条件下においてβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型の高いギ酸脱水素酵素活性が生じることを示している(特許文献5)。
【0008】
これまで報告が行われてきたギ酸脱水素酵素の多くは、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型のギ酸脱水素酵素であり、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型のギ酸脱水素酵素は数種のみであった。ギ酸脱水素酵素を使用することにより、生成する炭酸が除去されるため有利なプロセスとなり得るが、NADPH依存型還元酵素による還元プロセスにおいて、補酵素再生に利用可能な活性を有するギ酸脱水素酵素は知られておらず、ギ酸脱水素酵素によるNADPHの再生はこれまで困難であるとされてきた。
【0009】
そのため、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型ギ酸脱水素酵素に部位特異的変異を導入することにより、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型ギ酸脱水素酵素へ改変する試みが行われている(非特許文献5〜8)。
【0010】
Hatrongjitらは、バークホルデリア スタビリス(Burkholderia stabilis)からNADP依存型ギ酸脱水素酵素を見出し、223位のグルタミンをグルタミン酸に置換することで補酵素依存性がNAD依存型に改変されることを報告している(非特許文献5)。
【0011】
Hoelschらは、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素221位アスパラギン酸をグリシンに置換したNADP依存型ギ酸脱水素酵素変異体と3-ケトアシル還元酵素の融合タンパク質によるキラルアルコール生産を報告している(非特許文献6)。
【0012】
Andreadeliらは、キャンディダ ボイジニイからのギ酸脱水素酵素の195位アスパラギン酸をグルタミンに、196位チロシンをヒスチジンに置換しNADP依存型ギ酸脱水素酵素に改変されることを報告している(非特許文献7)。
【0013】
また、Wuらは、キャンディダ ボイジニイからのギ酸脱水素酵素の195位アスパラギン酸をグルタミンに、196位チロシンをアルギニンに、197位グルタミンをアスパラギンに置換しNADP依存型ギ酸脱水素酵素に改変されることを報告している(非特許文献8)。
【0014】
しかしながら、工業的に利用可能な、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型の高いギ酸脱水素酵素活性を示す改変体はこれまで得られていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、補酵素NADPHを再生しながら酸化型基質から還元型生成物を製造する過程においても活性の低下しないギ酸脱水素酵素を提供することにある。さらに、本発明は、このような酵素を利用して効率的に酸化型基質から還元型生成物を製造することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を行った。
本発明者らは、これまでの研究において、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来ギ酸脱水素酵素に部位特異的変異を導入することにより、有機溶媒条件下においてβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型の高いギ酸脱水素酵素活性が生じることを明らかにしている(特開2002-223776)。しかしながら、当該変異体酵素は、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存の高いギ酸脱水素酵素活性を生じるものの、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型ギ酸脱水素酵素活性は低いものであった。
【0019】
そこで本発明者らは、当該変異体酵素にさらに部位特異的変異を導入することで、有機溶媒に耐性を示す又は有機溶媒によって活性が増大しつつ、高いβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型ギ酸脱水素酵素活性を示すようなギ酸脱水素酵素の変異体の探索を試みた。
【0020】
当該酵素の変異体を種々構築し、探索した結果、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素変異体(アミノ酸配列、配列番号:4)の222位のアスパラギン酸残基をさらに改変することによって、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型ギ酸脱水素酵素活性を示すギ酸脱水素酵素の変異体を構築することに成功した。
【0021】
本発明者らは上記の如く、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)依存型ギ酸脱水素酵素活性を示すギ酸脱水酵素変異体を構築することにより、効率的に酸化型基質から該基質の還元型生成物を製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0022】
即ち本発明は、以下の蛋白質、並びに該蛋白質を利用して効率的に酸化型基質から還元型生成物を製造する方法に関する。
【0023】
本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔17〕を提供するものである。
〔1〕次の(a)または(b)に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質であって、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸において、少なくとも222位のアスパラギン酸残基が、アスパラギン酸以外のアミノ酸へ置換された変異を含むアミノ酸配列、又は
(b)(a)に記載のアミノ酸配列において、1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列。
〔2〕前記222位の置換アミノ酸が、グルタミン、アスパラギン、またはグリシンであることを特徴とする、〔1〕に記載の蛋白質。
〔3〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、前記222位の変異に加えて、更に少なくとも6位、146位および/または256位のシステイン残基が、システイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む蛋白質であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の蛋白質。
〔4〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、前記222位の変異に加えて、下記(1)〜(13)からなる群から選択されたいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなる、〔1〕または〔2〕に記載の蛋白質;
(1)6位、146位、および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
(2)6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(3)6位のシステイン残基がバリンに、256位のシステイン残基がセリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(4)6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(5)6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(6)146位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
(7)256位のシステイン残基がセリンに置換されたアミノ酸配列、
(8)146位および256位のシステイン残基が共にセリンに置換されたアミノ酸配列、
(9)256位のシステイン残基がバリンに置換されたアミノ酸配列、
(10)146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(11)6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、
(12)6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列、及び
(13)6位および146位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列。
〔5〕配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、前記222位の変異に加えて、6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンにそれぞれ置換されたアミノ酸配列からなる、〔1〕または〔2〕に記載の蛋白質。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の蛋白質をコードするDNA。
〔7〕〔6〕に記載のDNAが挿入されたベクター。
〔8〕更に還元酵素をコードするDNAが挿入された〔7〕に記載のベクター。
〔9〕前記還元酵素が、トロピノン還元酵素、イミン還元酵素、α−ケト酸還元酵素、エノン還元酵素、およびカルボニル還元酵素からなる群より選択される少なくとも一つ以上の還元酵素であることを特徴とする、〔8〕に記載のベクター。
〔10〕〔7〕〜〔9〕のいずれかに記載のベクターを保持する形質転換体。
〔11〕宿主細胞が微生物である〔10〕に記載の形質転換体。
〔12〕〔10〕または〔11〕に記載の形質転換体を培養する工程を含む、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の蛋白質を製造する方法。
〔13〕〔8〕または〔9〕に記載のベクターを保持する形質転換体を培養する工程を含む、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の蛋白質、および還元酵素を製造する方法。
〔14〕下記の(a)から(c)のいずれかを酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸に接触させる工程を含む、酸化型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸から還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を製造する方法;
(a)〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の蛋白質、
(b)〔10〕または〔11〕に記載の形質転換体、および
(c)(b)に記載の形質転換体の処理物。
〔15〕次の工程を含む酸化型基質から該基質の還元型生成物を製造する方法;
(1)〔14〕に記載の方法によって還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を製造する工程、および
(2)工程(1)の還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、酸化型基質、および還元型β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の存在下で前記酸化型基質から還元型生成物を生成し得る還元酵素とを接触させ、生成する還元型生成物を回収する工程。
〔16〕酸化型基質がケトンもしくはイミンであり、該基質の還元型生成物がアルコールもしくはアミンである〔15〕に記載の方法。
〔17〕還元酵素が、〔13〕に記載の方法によって製造されたものである〔15〕に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素の変異体を提供する。
【0025】
本発明の該変異体の一つの好ましい態様は、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素変異体(配列番号:2)において、少なくとも222位のアスパラギン酸残基がアスパラギン酸以外のアミノ酸へ置換された変異を含む変異体(以下、「222変異体」と称する)である。222位の置換アミノ酸は、好ましくはグルタミン、アスパラギン、またはグリシンである。222変異体は、222位のアスパラギン酸残基がアスパラギン酸以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、222位以外のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などの変異を有していてもよい。このような変異は、人為的に導入することもできるし、自然界において生じることもある。本発明の変異体には、これら双方の変異体が含まれる。222変異体における変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0026】
本発明の蛋白質において、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素変異体(配列番号:2)の222位以外の位置にアミノ酸の欠失、付加、あるいは挿入などの変異を伴うときには、N末端からカウントしたアスパラギン酸残基の位置が変動する場合がある。このような場合には、変動後のアミノ酸配列における、配列番号:2において、少なくとも222位に相同な位置にあるアスパラギン酸を他のアミノ酸配列に置換して、本発明による蛋白質とする。すなわち本発明の蛋白質には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、222位に相同な位置のアミノ酸を、アスパラギン酸以外のアミノ酸に置換した蛋白質であって、高いβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素活性を有する蛋白質が含まれる。
【0027】
相同な位置は、アスパラギン酸の周辺のアミノ酸配列を配列番号:2における222位のアスパラギン酸周辺のアミノ酸配列と整列させることによって明らかにすることができる。このような操作は、アミノ酸配列のアライメントと呼ばれる。アライメントのためのアルゴリズムとして、たとえばBLASTを示すことができる。当業者は、異なる長さのアミノ酸配列の間で、アライメントにより相同なアミノ酸の位置を明らかにすることができる。
【0028】
222変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、高いβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素活性を示す変異体である。
【0029】
本発明において、「β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素活性が高い」とは、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を補酵素とした場合の酵素活性が、少なくとも20mU/mL-br以上、たとえば30mU/mL-br以上、好ましくは35mU/mL-br以上、より好ましくは40mU/mL-br以上の酵素活性を有することを言う。天然のギ酸脱水素酵素は、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸を補酵素とした場合ではわずかな酵素活性(多くとも15mU/mL-br以下)しか認めることができない。
【0030】
222変異体は、高いβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸依存型ギ酸脱水素酵素活性を示すものである。ギ酸脱水素酵素活性は、当業者によって一般的に行われる方法によって測定することができる。例えば、以下の方法を例示することができる。リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、NADP+ 2.5mM、ギ酸ナトリウム 100mM および酵素を含む反応液中 30℃で反応させ、NADPHの増加にともなう 340nmの吸光度の増加を測定する。1U は、1分間に1μmolのNADPHの増加を触媒する酵素量とする。また、タンパク質の定量は、バイオラッド製タンパク質アッセイキットを用いた色素結合法により行う。
【0031】
本発明の変異体の他の態様は、上述のマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の222位の変異に加えて、少なくとも146位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を含む変異体(以下、「222−146変異体」と称する)である。146位の置換アミノ酸は、好ましくはセリンまたはバリンである。146変異体は、146位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、146位以外のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などの変異を有していてもよい。このような変異は、人為的に導入することもできるし、自然界において生じることもある。本発明の変異体には、これら双方の変異体が含まれる。222−146変異体における変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0032】
本発明の変異体の他の態様は、上述のマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の222位の変異に加えて、256位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を少なくとも含む変異体(以下、「222−256変異体」と称する)である。256位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、アラニン、またはバリンである。222−256変異体は、256位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、256位以外のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入などの変異を有していてもよい。このような変異は、人為的に導入することもできるが、自然界において生じることもある。本発明の変異体には、これら双方の変異体が含まれる。222−256変異体における変異するアミノ酸数は、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。
【0033】
222−256変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒に対し高い耐性を示す。有機溶媒としては、例えば、4−クロロアセト酢酸エチルエステル、4−ブロモアセト酢酸エチルエステル、4−ヨードアセト酢酸エチルエステル、4−クロロアセト酢酸メチル、4−クロロアセト酢酸プロピル等の4−ハロ−3−オキソ酪酸エステル類、クロロアセトフェノン、ブロモアセトフェノン等のハロアセトフェノン、また3−クロロ−1−フェニル−2−プロパノン、3−ブロモ−1−フェニル−2−プロパノン等の、3−ハロ−1−フェニル−2−プロパノン誘導体等を挙げることができるが、これらの有機溶媒に限定されない。222−256変異体は、少なくとも一つの有機溶媒において高い耐性を示すものである。ギ酸脱水素酵素の有機溶媒耐性、例えば4−クロロアセト酢酸エチル耐性は、次のようにして測定することができる。
【0034】
リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、4−クロロアセト酢酸エチル 20mM、ギ酸脱水素酵素を含む反応液中 25℃、20分保持後、NADP+ を 2.5mM、ギ酸ナトリウムを 100mMになるように加え、反応液中 25℃で反応させ、NADPHの増加にともなう 340nmの吸光度の増加を測定する。対照実験としては、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、ギ酸脱水素酵素を含む反応液中 25℃、20分保持後、NADP+を 2.5mM、ギ酸ナトリウムを100mM、4−クロロアセト酢酸エチルを20mMになるように加え、反応液中 30℃で反応させ、NADPHの増加にともなう340nmの吸光度の増加を測定する。
【0035】
本発明の変異体のさらなる好ましい態様は、上述のマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の222位の変異に加えて、上記146位および256位の両システイン残基が共にシステイン以外のアミノ酸へ置換された変異を少なくとも含むような変異体(以下、「222−146−256変異体」と称する)である。146位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリンまたはバリンであり、256位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、アラニン、またはバリンである。146位および256位の両システイン残基が共にシステイン以外のアミノ酸へ置換されたものであれば、146位および256位以外のアミノ酸の変異については特に制限されない。
【0036】
222−146−256変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水酵素活性を示し、かつ、有機溶媒に対して高い耐性を示す。
【0037】
本発明の変異体の他の態様は、上述のマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の222位並びに146位および/または256位の変異に加えて、6位のシステイン残基がシステイン以外のアミノ酸に置換した変異を含むギ酸脱水酵素の変異体である。6位の置換アミノ酸は、好ましくは、セリン、アラニン、またはバリンである。該変異体は、好ましくは、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)由来のギ酸脱水素酵素(配列番号:2)と比較して、有機溶媒存在下における高いギ酸脱水酵素活性および/または有機溶媒に対する高い耐性を示す。
【0038】
本発明の好ましい変異体の具体例は、前記222位の変異に加えて、以下の(a)〜(n)からなる群から選択されたいずれかの変異を有するアミノ酸配列からなる変異体である。
(a)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において、146位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(b)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(c)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(d)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(e)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(f)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(g)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がセリンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(h)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(i)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がバリンに、256位のシステイン残基がセリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(j)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がアラニンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(k)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(l)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がセリンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(m)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
(n)配列番号:2に記載したアミノ酸配列において6位のシステイン残基がアラニンに、146位のシステイン残基がアラニンに、256位のシステイン残基がバリンに置換されているマイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水素酵素の変異体
【0039】
上記(a)から(n)の変異体のうち、(a)で示した変異体は、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水酵素活性を示す。(b)、(c)、(h)、(i)、(j)、(k)および(m)で示した変異体は、有機溶媒に対して高い耐性を示す。(d)、(f)、(g)、(l)および(n)で示した変異体は、有機溶媒存在下において高いギ酸脱水素酵素活性を示し、かつ有機溶媒に対して高い耐性を示す。
【0040】
本発明の上記変異体は、例えば、マイコバクテリウム バッカエ由来のギ酸脱水酵素のアミノ酸配列を改変することにより得ることができる。これらのタンパク質は、当業者によって一般的に行われる方法、例えば部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T. et al. (1995) Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Methods Enzymol. 100, 468-500)等を用いて作製することができる。具体的には特開2002-223776の実施例で示される方法によって取得することができる。本願出願人は特開2002-223776に示すpSFR415を有する大腸菌(JM109(pSFR415))、およびpSFR426を有する大腸菌(JM109(pSFR426))を寄託している。該プラスミドに挿入されたDNAは、本発明の変異体の作製において好適に利用することができる。
【0041】
なお、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素における256位システイン残基周辺は、他のギ酸脱水素酵素においても保存された領域であり、256位システインは、例えばアスペルギルス ニデュランス(現エメリセラ ニデュランス)由来では224位システインに、ハンセヌラ ポリモルファ(現ピキア アングスタ)由来(SWISS:P33677)では228位システインに、ニューロスポラ クラッサ由来(SWISS:NEUFDHA)では228位システインに、シュードモナスsp. 101由来(SWISS:P33160)では255位システインに相当する。
【0042】
また、同じくマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素における146位システイン残基周辺は、他のギ酸脱水素酵素においても保存された領域であり、例えばシュードモナス(Pseudomonas)sp. 101由来(SWISS:P33160)では145位システインに相当する(Appl. Microbiol. Biotechnol. 44, 479-483, 1995)。これら既知酵素においても部位特異的変異による改変によって、有機溶媒耐性を向上させる効果、および/または有機溶媒による活性化効果が期待できる。
【0043】
また本発明は、ギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNAに関する。本発明のギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNAは、例えば配列番号:1に記載されたマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素をコードするDNAに、当業者によって一般的に行われる部位特異的変異導入法を用いて塩基置換を導入することによって得ることができる。
【0044】
本発明は、このようにして得られた本発明のギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNAを、公知の発現ベクターに挿入することによって作製されるギ酸脱水素酵素変異体発現ベクターを提供する。該発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体を、組換え体タンパク質として得ることができる。
【0045】
さらに本発明は、本発明のギ酸脱水酵素の変異体をコードするDNA、および還元酵素をコードするDNAを、公知の発現ベクターに挿入することによって作製されるギ酸脱水酵素変異体および還元酵素の発現ベクターを提供する。該発現ベクターで形質転換した形質転換体を培養することにより、本発明のギ酸脱水酵素変異体および還元酵素を、組換えタンパク質として得ることができる。該還元酵素としては、好ましくはトロピノン還元酵素、イミン還元酵素、α−ケト酸還元酵素、エノン還元酵素、およびカルボニル還元酵素からなる群より選択される少なくとも一つ以上の還元酵素を挙げることができる。具体的には、例えば下記の微生物由来の還元酵素を挙げることができる。
トロピノン還元酵素(特開2003−230398)
・ダチュラ ストラモニウム(Datura stramonium)由来トロピノン還元酵素-I
イミン還元酵素(WO2010−024445、WO2010−024444、特願2010-041378)
・ストレプトマイセス(Streptomyces)sp. 由来 (S)-イミン還元酵素
・ストレプトマイセス(Streptomyces)sp. 由来 (R)-イミン還元酵素
・ストレプトマイセス カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)由来 (R)-イミン還元酵素
・ストレプトマイセス ロゼウム(Streptomyces roseum)由来 (S)-イミン還元酵素
α-ケト酸還元酵素(特開2001−238682)
・リゥコノストック エノス(Leuconostoc oenos)由来 α-ケト酸還元酵素
エノン還元酵素(特開2002−247987)
・クリヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)由来 エノン還元酵素
カルボニル還元酵素(特開2005−000002)
・トルラスポラ デルブリュッキイ(Torulaspora delbrueckii)由来カルボニル還元酵素
【0046】
本発明においてギ酸脱水素酵素の変異体、および/または還元酵素を発現させるために、形質転換の対象となる微生物は、ギ酸脱水素酵素の変異体をコードするDNA、および/または還元酵素をコードするDNAを含む組み換えベクターにより形質転換され、ギ酸脱水素酵素の変異体、および/または還元酵素を発現することができる生物であれば特に制限されない。このような形質転換体および該形質転換体を培養する工程を含む本発明のギ酸脱水酵素変異体、および/または還元酵素を製造する方法も本発明に包含される。形質転換体の宿主生物として利用可能な微生物は、例えば以下のような微生物を示すことができる。
・エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリイウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属等の宿主ベクター系の開発されている細菌
・ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属等の宿主ベクター系の開発されている放線菌
・サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属等の宿主ベクター系の開発されている酵母
・ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属等の宿主ベクター系の開発されているカビ
【0047】
形質転換体の作製のための手順および宿主に適合した組み換えベクターの構築は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Sambrookら、モレキュラー・クローニング、Cold Spring Harbor Laboratories)。微生物菌体内などにおいて、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体遺伝子、および/または還元酵素遺伝子を発現させるためには、まず微生物中で安定に存在するプラスミドベクターまたはファージベクターへ本発明のDNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる。そのためには、転写・翻訳を制御するユニットにあたるプロモーターを本発明のDNA鎖の5'-側上流に、より好ましくはターミネーターを3'-側下流に、それぞれ組み込めばよい。このプロモーター、ターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーター、ターミネーターを用いる。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネータ−等に関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」、特に酵母に関しては、Adv. Biochem. Eng. 43, 75-102 (1990)、Yeast 8, 423-488 (1992)、等に詳細に記載されている。
【0048】
エシェリヒア属、特に大腸菌エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとして、例えばpBR、pUC系プラスミドを利用でき、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc (lac、trpの融合)、λファージ PL、PR等に由来するプロモーター等が利用できる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーター等を用いることができる。
【0049】
バチルス属においては、ベクターとしてpUB110系プラスミド、pC194系プラスミド等が利用可能であり、染色体にインテグレートさせることも可能である。また、プロモーターまたはターミネーターとしてapr(アルカリプロテアーゼ)、 npr(中性プロテアーゼ)、またはamy(α−アミラーゼ)等が利用できる。
【0050】
シュードモナス属においては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)等の宿主ベクター系が開発されている。トルエン化合物の分解に関与するプラスミドTOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010等に由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240等が利用可能である。プロモーターまたはターミネーターとしては、リパーゼ(特開平5-284973)遺伝子等が利用できる。
【0051】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、pAJ43(Gene 39, 281 (1985))等のプラスミドベクターが利用可能である。プロモーターまたはターミネーターとしては、大腸菌で使用されているプロモーター、ターミネーターがそのまま利用可能である。
【0052】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、pCS11(特開昭57-183799)、pCB101(Mol. Gen. Genet. 196, 175 (1984)等のプラスミドベクターが利用可能である。
【0053】
ストレプトコッカス(Streptococcus)属においては、pHV1301(FEMS Microbiol. Lett. 26, 239 (1985)、pGK1(Appl. Environ. Microbiol. 50, 94 (1985))等がプラスミドベクターとして利用可能である。
【0054】
ラクトバチルス(Lactobacillus)属においては、ストレプトコッカス属用に開発されたpAMβ1(J. Bacteriol. 137, 614 (1979))等が利用可能であり、プロモーターとして大腸菌で利用されているものが利用可能である。
【0055】
ロドコッカス(Rhodococcus)属においては、ロドコッカス・ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)から単離されたプラスミドベクター等が利用可能である (J. Gen. Microbiol. 138,1003 (1992) )。
【0056】
ストレプトマイセス(Streptomyces)属においては、HopwoodらのGenetic Manipulation of Streptomyces: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Laboratories (1985)に記載の方法に従って、プラスミドを構築することができる。特に、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)においては、pIJ486 (Mol. Gen. Genet. 203, 468-478, 1986)、pKC1064(Gene 103,97-99 (1991) )、pUWL-KS (Gene 165,149-150 (1995) )等が使用できる。また、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginiae)においても、同様のプラスミドを使用することができる(Actinomycetol. 11, 46-53 (1997) )。
【0057】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae) においては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミド等が利用可能であり、染色体内に多コピー存在するリボソームDNAとの相同組み換えを利用したインテグレーションベクター(EP 537456など)は、多コピーで遺伝子を導入でき、かつ安定に遺伝子を保持できるため極めて有用である。また、ADH(アルコール脱水素酵素)、GAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)、PHO(酸性フォスファターゼ)、GAL(β−ガラクトシダーゼ)、PGK(ホスホグリセレートキナーゼ)、ENO(エノラーゼ)等のプロモーターおよびターミネーターが利用可能である。
【0058】
クライベロマイセス(Kluyveromyces)属、特にクライベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)においては、サッカロマイセス・セレビジアエ由来2μm系プラスミド、pKD1系プラスミド(J. Bacteriol. 145, 382-390 (1981))、キラー活性に関与するpGKl1由来プラスミド、クライベロマイセス属における自律増殖遺伝子KARS系プラスミド、リボソームDNA等との相同組み換えにより染色体中にインテグレート可能なベクタープラスミド(EP 537456など)などが利用可能である。また、ADH、PGK等に由来するプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0059】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)由来のARS (自律複製に関与する遺伝子)、およびサッカロマイセス・セレビジアエ由来の栄養要求性を相補する選択マーカーを含むプラスミドベクター等が利用可能である(Mol. Cell. Biol. 6, 80 (1986))。また、シゾサッカロマイセス・ポンベ由来のADHプロモーターなどが利用できる(EMBO J. 6, 729 (1987))。特に、pAUR224は、宝酒造から市販されており容易に利用できる。
【0060】
チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属においては、チゴサッカロマイセス・ロウキシ (Zygosaccharomyces rouxii)由来の pSB3(Nucleic Acids Res. 13, 4267 (1985))などに由来するプラスミドベクター等が利用可能であり、サッカロマイセス・セレビジアエ由来 PHO5 プロモーター、およびチゴサッカロマイセス・ロウキシ由来 GAP-Zr(グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素)のプロモーター(Agri. Biol. Chem. 54, 2521 (1990))等が利用可能である。
【0061】
ピキア(Pichia)属においては、ピキア・アンガスタ(Pichia angusta、旧名:ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha))において宿主ベクター系が開発されている。ベクターとしては、ピキア・アンガスタ由来自律複製に関与する遺伝子(HARS1、HARS2)も利用可能であるが、比較的不安定であるため、染色体への多コピーインテグレーションが有効である(Yeast 7, 431-443 (1991))。また、メタノールなどで誘導されるAOX(アルコールオキシダーゼ)、FDH(ギ酸脱水素酵素)のプロモーター等が利用可能である。また、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などにピキア由来自律複製に関与する遺伝子 (PARS1、PARS2)等を利用した宿主ベクター系が開発されており(Mol. Cell. Biol. 5, 3376 (1985))、高濃度培養とメタノールで誘導可能なAOXなど強いプロモーターが利用できる(Nucleic Acids Res. 15, 3859 (1987))。
【0062】
キャンディダ(Candida)属においては、キャンディダ・マルトーサ(Candida maltosa)、キャンディダ・アルビカンス(Candida albicans)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・ウチルス (Candida utilis) 等において宿主ベクター系が開発されている。キャンディダ・マルトーサにおいてはキャンディダ・マルトーサ由来ARSがクローニングされ(Agri. Biol. Chem. 51, 51, 1587 (1987))、これを利用したベクターが開発されている。また、キャンディダ・ウチルスにおいては、染色体インテグレートタイプのベクターの強力なプロモーターが開発されている(特開平08-173170)。
【0063】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー (Aspergillus niger) 、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae) 等がカビの中で最もよく研究されており、プラスミド、および染色体へのインテグレーションの利用が可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trends in Biotechnology 7, 283-287 (1989))。
【0064】
トリコデルマ(Trichoderma)属においては、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)を利用したホストベクター系が開発され、菌体外セルラーゼ遺伝子由来プロモーター等が利用できる(Biotechnology 7, 596-603 (1989))。
【0065】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が開発されており、特に蚕等の昆虫(Nature 315, 592-594 (1985))、菜種、トウモロコシ、またはジャガイモ等の植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系が開発されており好適に利用できる。
【0066】
本発明において使用するギ酸脱水素酵素変異体の生産能を有する微生物は、ギ酸脱水素酵素の変異体生産能を有するマイコバクテリウム バッカエの突然変異株、変種、および遺伝子操作技術の利用により作成された本発明の酵素生産能を獲得した形質転換体を含む。
【0067】
また本発明は、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体、本発明の形質転換体、または該形質転換体の処理物を用いた補酵素NADP+(酸化型β-ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸)からNADPH(還元型β-ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸)を生産する方法を提供する。補酵素NADPHは、各種カルボニル還元酵素、アルコール脱水素酵素、アルデヒド脱水素酵素、ヒドロキシ酸脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素の還元型の補酵素として有用であり、これらの酵素がその還元能を発揮するためには必須の補酵素である。
【0068】
さらに本発明は、NADPH依存性の還元酵素によって酸化型基質から該基質の還元型生成物の製造を行う際に生じるNADP+を、本発明のギ酸脱水素酵素の変異体を用いてギ酸から炭酸への変換反応によりNADPHへと再生させ、効率的に該還元型生成物を製造する方法を提供する。このNADPH依存性還元酵素とは、NADPHを補酵素として還元反応を行う酵素を指し、例えばアルコール脱水素酵素のように、還元反応、酸化反応ともに触媒しうる酵素であってもよい。また、上記方法において本発明のギ酸脱水酵素変異体の替わりに、本発明の形質転換体または該形質転換体の処理物を利用することも可能である。
【0069】
上記NADPH依存性還元酵素、その酸化型基質、該基質の還元型生成物としては、例えば、以下の組み合わせを挙げることができるが、これらに制限されない。
・カルボニル基を基質としてアルコールを生成する酵素(E.C. 1.1.1.−)によるケトンからアルコールの生産
・カルボン酸を基質としてアルデヒドを生成する酵素(E.C. 1.2.1.−)によるカルボン酸からのアルデヒドの生産
・炭素炭素二重結合を還元し炭素炭素一重結合を生成する酵素(E.C. 1.3.1.−)による炭素炭素二重結合体から炭素炭素一重結合体の生産
・カルボニル基を基質として還元的アミノ化によりアミノ基を生成する酵素(E.C. 1.4.1.−)によるケト酸からアミノ酸の生産
・炭素炭素二重結合に酸素を付加することによりジオールを生成する酵素(E.C. 1.14.12.−)によるアルケンからジオールの生産
【0070】
ここで、E.C. 1.1.1.- に分類される酵素としては、例えばアルコール脱水素酵素、D-ヒドロキシイソカプロン酸脱水素酵素、L-ヒドロキシイソカプロン酸脱水素酵素、D-マンデル酸脱水素酵素、L-マンデル酸脱水素酵素、D-乳酸脱水素酵素、およびL-乳酸脱水素酵素等が挙げられる。E.C.1.2.1.- に分類される酵素としては、例えばアルデヒド脱水素酵素等が挙げられる。E.C.1.3.1.- に分類される酵素としては、例えばエノイル-CoA 還元酵素およびフマル酸還元酵素等が挙げられる。E.C.1.4.1.- に分類される酵素としては、例えばフェニルアラニン脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ロイシン脱水素酵素、およびアラニン脱水素酵素等が挙げられる。E.C.1.14.2.- に分類される酵素としては、例えばベンゼンジオキシゲナーゼ等が挙げられる。
【0071】
これら酵素を作用させる場合の基質としては、その酵素が作用しうる化合物であれば特に制限はなく、基質分子内に、ハロゲン、硫黄、および/またはリン等を有しているもの、水酸基、アミノ基等を有しているもの、炭素鎖が分枝状であるもの、炭素鎖が不飽和であるもの、複素環を含む芳香環を有しているものを例示することができる。
【0072】
本発明のギ酸脱水素酵素の変異体は、有機溶媒に耐性を持つ、および/または有機溶媒により活性化されるため、例えばケトンおよびアルコールの存在下であっても活性を長く、および/または高く保持することができ、工業的なアルコール製造において有利である。また、カルボニル還元酵素はNADPHを補酵素とし、ケトンからアルコールを生成するものであれば、特に限定されない。酵素分子、その処理物、酵素分子を含む培養物、または酵素を生成する微生物等の形質転換体を反応溶液と接触させることにより、目的とする酵素反応を行わせることができる。なお、酵素と反応溶液の接触形態はこれらの具体例に限定されるものではない。反応溶液は、基質および酵素反応に必要な補酵素のNADPHを、酵素活性の発現に適した溶媒に溶解させたものである。本発明におけるギ酸脱水素酵素の変異体を含む微生物の処理物、またはカルボニル還元酵素を含む微生物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエン等の有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた微生物、ガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した無細胞抽出液、および該抽出液を部分精製したもの等が含まれる。
【0073】
本発明によるアルコールの製造の原料となるケトンとしては、使用されるカルボニル還元酵素が還元しうるケトンであれば特に制限はない。
【0074】
本発明の酵素を用いた反応は、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、シクロヘキサン、1-オクタノール、n-ヘキサン、n-オクタン等の有機溶媒中、もしくは水性媒体との2相系により行うことができる。また、緩衝液等の水系にメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、アセトンなどの水溶性溶媒を加えた混合溶媒系においても行うことが可能である。また、逆ミセル系での反応も行うことができ、界面活性剤としては、例えばエーロゾルOT(Aerosol OT)を用いたイソオクタン/水逆ミセル系等を挙げることができる。
【0075】
本発明の反応は、例えば、固定化酵素、膜リアクター等を利用して行うことも可能である。本発明の酵素、その処理物、酵素分子を含む培養物、あるいは酵素を生成する微生物等の形質転換体を固定化する場合には、含硫多糖、例えばκ-カラギーナンやアルギン酸カルシウム、寒天ゲル法、ポリアクリルアミドゲル法等の公知の方法により固定化することができる。
【0076】
また、本発明の反応は、本発明の酵素が反応できる条件であれば良く、反応温度 4−60℃、好ましくは10−37℃、pH3−11、好ましくはpH5−8、基質濃度0.01−90%、好ましくは0.1−30%で行うことができる。菌体またはその処理物を反応に利用する場合には、反応系に必要に応じて補酵素NADP+もしくはNADPHを0.001mM−100mM、好ましくは、0.01−10mM添加することができる。また、基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなり過ぎないように連続的、もしくは間欠的に添加することが望ましい。
【0077】
本発明のケトンの還元により生成するアルコールの精製は、菌体、タンパク質の遠心分離、膜処理等による分離、溶媒抽出、蒸留、晶析等を適当に組み合わせることにより行うことができる。例えば、3-キヌクリジノールでは、微生物菌体を含む反応液を遠心分離し、微生物菌体を除いた後、限外ろ過によりタンパク質を除去し、そのろ液に1-ブタノール等の溶媒を添加して3-キヌクリジノールを溶媒層に抽出する。これを相分離後、減圧濃縮することにより純度の高い3-キヌクリジノールを精製することができる。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕 マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素変異体へのPCRによるさらなる変異導入
本発明者らが構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素変異体 McFDH-26(塩基配列 配列番号:3、アミノ酸配列 配列番号:4)の発現ベクターpSFR426をもとにして、マイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素の222位のAspをGlnへ変えるためのプライマーとしてMcFDH-37-F01 (5'-CACTACACCCAGCGTCACCGCCTG -3'/配列番号:7)とMcFDH-37-R01 (5'-CGGTGACGCTGGGTGTAGTGCAG -3'/配列番号:8)を、222位のAspをAsnへ変えるためのプライマーとしてMcFDH-38-F01 (5'- CACTACACCAATCGTCACCGCCTG -3'/配列番号:9)とMcFDH-38-R01 (5'- CGGTGACGATTGGTGTAGTGCAG -3'/配列番号:10)、222位のAspをGlyへ変えるためのプライマーとしてMcFDH-39-F01 (5'-CACCGGTCGTCACCGCCTGCCGGAATC -3'/配列番号:11)とMcFDH-39-R01(5'- GGCAGGCGGTGACGACCGGTGTAGTGCAGG -3'/配列番号:12)、を合成した。以後、222位のAspをGlnに置き換えることをD222Qと表記する。
【0079】
McFDH-26のD222Q変異体を得るため、プラスミドpSFR426を鋳型として、プライマーMCF-ATG3 (5'- CTTTCTAGAGGAATTCAACCATGGCAAAAGTTCTGTCTGTTC -3'/配列番号:13)、McFDH-37-R01のセットおよびプライマー McFDH-37-F01、MCF-TAA3 (5'- CAGTCTAGATTAGACCGCTTTTTTGAATTTGGCG -3' /配列番号:14)のセットにより1st PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。続いて、1st PCRにより増幅されたDNA断片を希釈、混合し、プライマーMCF-ATG3 (配列番号:13)、MCF-TAA3 (配列番号:14)を加え、2nd PCR(94℃, 30秒、50℃, 30秒、72℃, 30秒、25サイクル)を行った。得られたPCR増幅断片をNcoI、XbaI の2つの制限酵素で二重消化した。pSE420D(Invitrogen製のプラスミドベクターpSE420のマルチクローニングサイトを改変したプラスミド、特開2000-189170)を NcoI、XbaIの2つの制限酵素で二重消化し、同酵素で消化したPCR増幅断片をTakara Ligation Kitを用いてライゲーションし、D222Qの変異の導入されたギ酸脱水素酵素McFDH-37を発現可能なプラスミドpSU-MF37を得た。得られたプラスミドの塩基配列の解析を行い、変異が導入されていることを確認した。同様に、プラスミドpSFR426を鋳型として、プライマーMCF-ATG3 (5'-CTTTCTAGAGGAATTCAACCATGGCAAAAGTTCTGTCTGTTC -3'/配列番号:13)、McFDH-38-R01のセットおよびプライマー McFDH-38-F01、MCF-TAA3 (5'- CAGTCTAGATTAGACCGCTTTTTTGAATTTGGCG -3'/配列番号:14)のセットを用いてD222Nの変異の導入されたギ酸脱水素酵素McFDH-38を発現可能なプラスミドpSU-MF38を、プライマーMCF-ATG3 (5'- CTTTCTAGAGGAATTCAACCATGGCAAAAGTTCTGTCTGTTC -3'/配列番号:13)、McFDH-39-R01のセットおよびプライマー McFDH-39-F01、MCF-TAA3 (5'- CAGTCTAGATTAGACCGCTTTTTTGAATTTGGCG -3'/配列番号:14)のセットを用いてD222Gの変異の導入されたギ酸脱水素酵素McFDH-39を発現可能なプラスミドpSU-MF39を得た。
【0080】
〔実施例2〕
実施例1で構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素を発現するプラスミドにより、大腸菌JM109株を形質転換した。それぞれの組換え大腸菌を液体培地(1% バクトトリプトン、0.5% バクト- 酵母エキス、1.0% 塩化ナトリウム、以下LB培地)に植菌し、30 ℃で終夜培養した後、イソプロピルチオ-β- ガラクトピラノシド(以下、IPTG )を添加し、さらに培養した。菌体を遠心分離により集菌後、1mM ジチオスレイトールを含む 100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0 )に懸濁し、密閉式超音波破砕装置UCD-200TM (コスモバイオ製)を用いて4 分間処理することで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液として回収、ギ酸脱水素酵素活性を測定した。ギ酸脱水素酵素活性は、リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0、100mM)、NAD+もしくはNADP+ 2.5mM 、ギ酸ナトリウム 100mM および酵素を含む反応液中 30 ℃で反応させ、NADHもしくはNADPHの増加にともなう 340nm の吸光度の増加により測定した。1U は、1 分間に1μmolのNADH もしくはNADPHの増加を触媒する酵素量とした。タンパク質量の測定は、Bio-Rad Protein Assay Kit(Bio-Rad 製)を用いて測定した。標準タンパク質としては、Bovine Plasma Albumin を用いた。各組換え大腸菌から得た粗酵素液の酵素活性を表1に示した。
【0081】
〔参考例〕 バークホールデリア スタビリス由来ギ酸脱水素酵素のギ酸脱水素酵素活性測定
バークホールデリア スタビリス由来ギ酸脱水素酵素(BsFDH)(塩基配列 配列番号:5、アミノ酸配列 配列番号:6)をコードするDNA配列の5'末端にNcoIサイトを、3'末端にXbaIサイトを導入した遺伝子を合成した。 DNA断片をNcoI、XbaIで2重消化し、NcoI、XbaIで2重消化したpSE420D(Invitrogen製のプラスミドベクターpSE420のマルチクローニングサイトを改変したプラスミド、特開2000-189170)とTakara Ligation Kitを用いて、ライゲーションし、大腸菌JM109株を形質転換した。組換え大腸菌をLB培地に植菌し、30 ℃で終夜培養した後、IPTGを添加し、さらに培養した。菌体を遠心分離により集菌後、1mM ジチオスレイトールを含む 100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0 )に懸濁し、密閉式超音波破砕装置UCD-200TM (コスモバイオ製)を用いて4 分間処理することで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液として回収、ギ酸脱水素酵素活性を測定した。組換え大腸菌から得た粗酵素液の酵素活性を表1に示した。
【0082】
【表1】
【0083】
〔実施例3〕
特開2003-230398に記載のダツラ・ストラモニウム(Datura stramonium)由来トロピノン還元酵素-I発現プラスミドpSG-DSR1を、センスプライマーDsTR1-A2(5'- GTCAGAGGAATTCTAAAATGGAAGAATCAAAAGTGTCCATG -3'/配列番号:15)とアンチセンスプライマーDsTR1-T2(5'- GTCCTTAAGTTAAAACCCACCATTAGCTGTG -3'/配列番号:16)のセットによりPCRを行った。PCR反応液の一部をアガロースゲル電気泳動により解析した結果、特異的な約850bpのバンドが検出された。
PCR反応液からDNA断片を回収し、得られたDNA断片を制限酵素EcoRI、AflIIで二重消化した。フェノール−クロロホルム処理後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンド部分を切り出して目的のDNA断片を回収した。プラスミドpSU-MF37を制限酵素EcoRI、AflIIで二重消化し、同様にフェノール−クロロホルム処理後、アガロースゲル電気泳動を行い、目的とするバンド部分を切り出して精製し、T4 DNAリガーゼを用いて目的のDNA断片を連結した。
得られたプラスミドにより大腸菌JM109を形質転換した。形質転換株をアンピシリンを含むLB培地プレート上で生育させ、センスプライマーDsTR1-A2とアンチセンスプライマーDsTR2を用いてコロニーダイレクトPCRを行い、挿入断片のサイズを確認した。約850bpのDNA断片が挿入されていると考えられるコロニーを、アンピシリンを含むLB培地で培養し、菌体から精製することにより、プラスミドpSF-DSR1を得た。
同様に、WO2006/132145に記載のプラスミドpSU-MF26を同様にEcoRI、AflIIで二重消化したものに対して目的のDNA断片を連結し、プラスミドpSF-DSR3を得た。
【0084】
〔実施例4〕
実施例3で構築したマイコバクテリウム バッカエ由来ギ酸脱水素酵素とダツラ・ストラモニウム由来トロピノン還元酵素を共発現する大腸菌を液体培地(1% バクトトリプトン、0.5% バクト- 酵母エキス、1.0% 塩化ナトリウム、以下LB培地)に植菌し、30 ℃で終夜培養した後、イソプロピルチオ-β- ガラクトピラノシド(以下、IPTG)を添加し、さらに培養した。菌体を遠心分離により集菌後、0.01% ジチオスレイトールを含む 100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に懸濁し、密閉式超音波破砕装置を用いて4 分間処理することで、菌体を破砕した。菌体破砕液を遠心分離し、その上清を菌体抽出液として回収、ギ酸脱水素酵素活性及びトロピノン還元酵素活性を測定した。ギ酸脱水素酵素活性は、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)、2.5mM NAD+もしくはNADP+、100mM ギ酸ナトリウム、および酵素を含む反応液中 30 ℃で反応させ、NADHもしくはNADPHの増加に伴う 340nm の吸光度の増加により測定した。1U は、1 分間に1μmolのNADH もしくはNADPHの増加を触媒する酵素量とした。トロピノン還元酵素活性は、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.5)、0.2mM NADPH、4mM 3-キヌクリジノン、および酵素を含む反応液中 30 ℃で反応させ、NADPHの減少に伴う 340nm の吸光度の減少により測定した。1U は、1 分間に1μmolのNADPHの減少を触媒する酵素量とした。タンパク質量の測定は、Bio-Rad Protein Assay Kit(Bio-Rad 製)を用いて測定した。各組換え大腸菌から得た粗酵素液の酵素活性を表2に示した。
【0085】
【表2】
【0086】
〔実施例5〕
実施例3で得たプラスミドpSF-DSR1またはpSF-DSR3で大腸菌HB101株を形質転換し、得られた形質転換体を0.01mM IPTGを含むLB培地を用いて33℃で終夜培養した後、菌体を集菌して、ギ酸脱水素酵素及びトロピノン還元酵素を発現する大腸菌を得た。
200mM リン酸カリウム緩衝液(pH 6.0)、培養液2mL分から調製した菌体、1重量% 3-キヌクリジノン、100mM ギ酸ナトリウムおよびNADP+(1mMまたは添加せず)からなる反応液を調製し、30℃で終夜反応を行った。反応液から400μLをサンプルとして採取し、後述の分析条件で変換率を分析した。反応液にNADPHは添加しなかった。その結果を表3に示す。
【0087】
【表3】
【0088】
分析は以下の通り行った。
反応液から採取したサンプル400μLに1M 水酸化ナトリウム 400μLと1-ブタノール 1mLを加えて懸濁し、遠心分離して得た上清をガスクロマトグラフィーにより分析した。変換率(%)は、(3-キヌクリジノールの面積)÷{(3-キヌクリジノンの面積)+(3-キヌクリジノールの面積)}×100 で定義した。
〔分析条件〕
カラム: Rtx5-Amine (0.32mm×30m(DF 1.5um))(レステック製)
カラム温度: 185℃
インジェクション温度: 250℃
キャリア: ヘリウム 100kPa
注入量: 1uL
スプリット比: 20
検出: FID 250℃(水素圧 50kPa、空気圧 50kPa)
メイクアップ: ヘリウム 40mL/min
セプタムパージ: He 3mL/min
参考保持時間: 1-ブタノール 1.5分、3-キヌクリジノン 4.2分、
3-キヌクリジノール 4.5分