特許第6041812号(P6041812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6041812結合組織の損傷および障害の治癒を促進する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041812
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】結合組織の損傷および障害の治癒を促進する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20161206BHJP
   A61K 35/50 20150101ALI20161206BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20161206BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161206BHJP
   A61P 19/04 20060101ALI20161206BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161206BHJP
【FI】
   A61K37/02
   A61K35/50
   A61K9/08
   A61K45/00
   A61P19/04
   A61P43/00 121
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-548446(P2013-548446)
(86)(22)【出願日】2012年1月7日
(65)【公表番号】特表2014-501778(P2014-501778A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】US2012000017
(87)【国際公開番号】WO2012096796
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2014年11月5日
(31)【優先権主張番号】61/460,913
(32)【優先日】2011年1月10日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507324186
【氏名又は名称】ステムニオン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170221
【弁理士】
【氏名又は名称】小瀬村 暁子
(72)【発明者】
【氏名】シング,ジョージ,エル.
(72)【発明者】
【氏名】スティード,デーヴィッド,エル.
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0080779(US,A1)
【文献】 米国特許第05612028(US,A)
【文献】 国際公開第2010/012025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00 − 38/58
A61K 35/00 − 35/768
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要がある患者の腱および靭帯の損傷または障害の治癒を促進するための方法において使用するための医薬組成物であって、羊膜由来細胞性サイトカイン溶液(ACCS)またはプールされたACCSの治療上有効量を含み、該方法が、該医薬組成物を該患者に投与することを含む、前記医薬組成物。
【請求項2】
腱および靭帯の損傷および障害が、裂傷、断裂、捻挫、ストレイン、挫傷、腱炎/腱症、剥離、滑液包炎、腱鞘炎および手術からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
続放出用に製剤化されている、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
記医薬組成物を、他の物質または治療法と組み合わせて投与する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
他の物質が活性物質である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
活性物質が、成長因子、サイトカイン、免疫抑制剤、ステロイド、ケモカイン、抗体、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、マイトマイシンC、および他の細胞タイプからなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
他の治療法が、安静、氷冷、圧迫、拳上、運動および理学療法からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2011年1月10日出願の米国仮出願No. 61/460,913に対する35 USC§119(e)に基づく優先権を主張する。該仮出願の全体は参照によりここに組み入れられる。
【0002】
発明の属する分野
本発明の分野は、結合組織の損傷および障害の治癒を促進する方法に向けられている。特に本発明の分野は、腱および靭帯の損傷および障害の治癒の促進に向けられている。そのような方法は、非限定的に、胚外サイトカイン分泌細胞(本明細書においてECS細胞と称される)、例えば、非限定的に、羊膜由来多能性前駆細胞(本明細書においてAMP細胞と称される)およびそれに由来するならし培地(本明細書において羊膜由来細胞性サイトカイン溶液またはACCS、例えばプールされたACCSと称される)、および生理的サイトカイン溶液(本明細書においてPCSと称される)を、それぞれ単独で、または互いに組み合わせてかつ/または他の物質と組み合わせて含む新規組成物を利用する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
Sharma, P.およびMaffulli, N. (Disability and Rehabilitation, 2008; 30(20-22): 1733-1745)は、腱障害および腱損傷の新たな治療について論じている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
本発明の目的は、結合組織の損傷および障害、特に腱および靭帯の損傷および疾患の治癒を促進するための新規な方法を提供することである。結合組織の損傷および障害の治癒を促進するためのそのような方法は、胚外サイトカイン分泌細胞(extraembryonic cytokine-secreting cells)(本明細書においてECS細胞と称する)、例えば羊膜由来多能性前駆(AMP)細胞、それに由来するならし培地および/またはそれに由来する細胞産物(本明細書において羊膜由来細胞性サイトカイン溶液またはACCS、例えばプールされたACCSと称する)、ならびに生理的サイトカイン溶液(本明細書においてPCSと称する)を、それぞれ単独でかつ/または互いに組み合わせてかつ/または、活性および/もしくは不活性物質を含む他の物質と組み合わせて含む新規組成物を利用する。
【0005】
したがって、本発明の第1の態様は、その必要がある患者の結合組織の損傷または疾患の治癒を促進するための方法であって、胚外サイトカイン分泌(ECS)細胞、それに由来するならし培地、それに由来する細胞溶解物、それに由来する細胞産物、および生理的サイトカイン溶液(PCS)からなる群から選択される1種以上の組成物の治療上有効量を患者に投与することを含む方法である。
【0006】
態様1の方法の一実施形態では、結合組織の損傷および疾患は、捻挫、ストレイン、挫傷、腱炎/腱症、剥離、滑液包炎、腱鞘炎、疲労骨折および手術からなる群から選択される。
【0007】
態様1の方法の別の実施形態では、ECS細胞は、羊膜由来多能性前駆(AMP)細胞である。
【0008】
態様1の方法の具体的実施形態では、ならし培地は、羊膜由来細胞性サイトカイン溶液(ACCS)、例えばプールされたACCSである。より特定の実施形態では、ACCS、プールされたACCSおよびPCSは、持続放出用に製剤化される。
【0009】
態様1の別の実施形態では、ECS細胞、それに由来するならし培地、それに由来する細胞溶解物またはそれに由来する細胞産物を他の物質または治療法と組み合わせて投与する。
【0010】
態様1の具体的実施形態は、他の物質が活性物質である実施形態である。 特定の実施形態では、活性物質は、成長因子、サイトカイン、インヒビター、免疫抑制剤、ステロイド、ケモカイン、抗体、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、マイトマイシンC、および他の細胞タイプからなる群から選択される。
【0011】
態様1の別の実施形態は、他の治療法が、安静、氷冷、圧迫、拳上、理学療法および運動からなる群から選択されるものである。
本発明はまた以下に関する。
[項目1]
その必要がある患者の結合組織の損傷または障害の治癒を促進するための方法であって、胚外サイトカイン分泌(ECS)細胞、それに由来するならし培地、それに由来する細胞溶解物、それに由来する細胞産物、および生理的サイトカイン溶液(PCS)からなる群から選択される1種以上の組成物の治療上有効量を患者に投与することを含む方法。
[項目2]
結合組織の損傷および障害が、裂傷、断裂、捻挫、ストレイン、挫傷、腱炎/腱症、剥離、滑液包炎、腱鞘炎、疲労骨折および手術からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
[項目3]
ECS細胞が羊膜由来多能性前駆(AMP)細胞である、項目1に記載の方法。
[項目4]
ならし培地が羊膜由来細胞性サイトカイン溶液(ACCS)またはプールされたACCSである、項目1に記載の方法。
[項目5]
ACCSおよびプールされたACCSが持続放出用に製剤化されている、項目4に記載の方法。
[項目6]
ECS細胞、それに由来するならし培地、それに由来する細胞溶解物、またはそれに由来する細胞産物を他の物質または治療法と組み合わせて投与する、項目1に記載の方法。
[項目7]
他の物質が活性物質である、項目6に記載の方法。
[項目8]
活性物質が、成長因子、サイトカイン、インヒビター、免疫抑制剤、ステロイド、ケモカイン、抗体、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、マイトマイシンC、および他の細胞タイプからなる群から選択される、項目7に記載の方法。
[項目9]
他の治療法が、安静、氷冷、圧迫、拳上、運動および理学療法からなる群から選択される、項目6に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の他の特徴および利点は添付の説明、実施例および特許請求の範囲から明らかになる。本出願を通じて引用されるすべての参考文献、係属中の特許出願および登録済み特許の開示内容は参照によりここに明示的に組み入れられる。不一致の場合は、定義を含めて本明細書が統制する。
【0013】
定義
本明細書中で定義される「単離された」とは、その元の環境から取り出され、したがってその天然状態から「ヒトの手によって」改変された物質を表す。
【0014】
本明細書において定義される「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の生産に関与するDNAのセグメントである; それは、コード領域の前および後ろの領域、ならびに個別のコードセグメント(エキソン)の間の介在配列(イントロン)を含む。
【0015】
本明細書中で使用される用語「タンパク質マーカー」とは、細胞または細胞集団に特徴的な任意のタンパク質分子を意味する。タンパク質マーカーは細胞の細胞膜上に位置するか、または、一部の場合では、分泌タンパク質である。
【0016】
本明細書中で使用される「濃縮された(enriched)」とは、混合物から望ましくない物質を除去するかまたは所望の物質を選択しかつ分離することによって1種以上の物質の量を選択的に濃縮するかまたは増加させる(すなわち、特定の細胞マーカーを用いて、集団中のすべての細胞が該マーカーを発現するわけではない不均質な細胞集団から細胞を分離する)ことを意味する。
【0017】
本明細書中で使用される用語「実質的に精製された」とは、特定のマーカーまたはマーカーの組み合わせに関して実質的に均質の細胞集団を意味する。実質的に均質とは、特定のマーカーまたはマーカーの組み合わせに関する、少なくとも90%、および好ましくは95%均質を意味する。
【0018】
本明細書中で使用される用語「胎盤」とは、早産および満期胎盤の両者を意味する。
【0019】
本明細書中で使用される用語「全能細胞」とは、以下の意義を有するものとする。哺乳類では、全能細胞は成体中で任意の細胞タイプ;胚外膜の任意の細胞タイプ(群)(例えば胎盤)になる潜在能力を有する。全能細胞は受精卵およびその卵割によって生じるおよそ最初の4細胞である。
【0020】
本明細書中で使用される用語「万能性(pluripotent)幹細胞」とは、以下の意義を有するものとする。万能性幹細胞は、身体中の任意の分化細胞を作製する潜在能力を有する真の幹細胞であるが、栄養膜に由来する胚外膜の成分の作製に寄与できない。羊膜は、栄養膜ではなく胚盤葉上層から発生する。3タイプの万能性幹細胞:胚性幹(ES)細胞(霊長類では全能性でもある)、胚性生殖(EG)細胞、および胚性癌腫(EC)細胞が今日までに確認されている。EC細胞は、胎児の生殖腺で時折生じる腫瘍である奇形癌腫から単離することができる。他の2種と異なり、それらは通常異数体である。
【0021】
本明細書中で使用される用語「多能性(multipotent)幹細胞」とは真の幹細胞であるが、限られた数のタイプにしか分化することができない。例えば、骨髄は、すべての血液細胞を生じさせる多能性幹細胞を含むが、他の細胞タイプに分化することはできない。
【0022】
本明細書中で使用される用語「胚外組織」とは、胚の保護、栄養補給、老廃物除去、などに関与する胚体の外側に位置する組織を意味する。胚外組織は、出生時に廃棄される。胚外組織には、非限定的に、羊膜、絨毛膜(栄養膜および胚外中胚葉、例えば臍帯および血管)、卵黄嚢、尿膜および羊水(それに含まれるすべての成分を含む)が含まれる。胚外組織およびそれに由来する細胞は発生中の胚と同一の遺伝子型を有する。
【0023】
本明細書中で使用される用語「胚外細胞」または「EE細胞」とは、胚外組織に由来する細胞の集団を意味する。
【0024】
本明細書中で使用される用語「胚外サイトカイン分泌細胞」または「ECS細胞」とは、細胞外間隙または周囲の培地中に生理的に適切な時間的様式で生理的に適切なレベルのVEGF、アンジオゲニン、PDGFおよびTGFβ2およびMMPインヒビターTIMP-1および/またはTIMP-2を分泌する特徴を有する胚外組織に由来する細胞の集団を意味する。ECS細胞は、いかなる非ヒト動物材料の存在下でも培養されたことがなく、それにより、それらおよびそれらに由来する細胞産物はヒト臨床使用に好適である。それらは異種に汚染されていないからである。ECS細胞は、本出願およびUS2003/0235563、US2004/0161419、US2005/0124003、米国仮出願Nos. 60/666,949、60/699,257、60/742,067、60/813,759、米国出願No. 11/333,849、米国出願No. 11/392,892、PCTUS06/011392、US2006/0078993、PCT/US00/40052、米国特許No. 7,045,148、US2004/0048372、およびUS2003/0032179、これら文献の開示内容は参照によりその全体がここに組み入れられる、に記載の細胞集団および組成物から選択してよい。以前、ECS細胞は栄養因子分泌(trophic factor-secreting (TSE))細胞と称されていた。
【0025】
本明細書中で使用される用語「羊膜由来多能性前駆細胞」または「AMP細胞」とは、羊膜に由来する上皮細胞である特定の細胞集団を意味する。AMP細胞は以下の特徴を有する。それらは、いかなる非ヒト動物材料の存在下でも培養されたことがなく、それにより、それらおよびそれらに由来する細胞産物はヒト臨床使用に好適である。 それらは異種に汚染されていないからである。AMP細胞は、ヒト血清アルブミンを補充した基本培地で培養される。好ましい実施形態では、AMP細胞は、サイトカインVEGF、アンジオゲニン、PDGFおよびTGFβ2およびMMPインヒビターTIMP-1および/またはTIMP-2を分泌する。サイトカインまたは固有の組み合わせのサイトカイン群の生理的範囲は、以下の通りである:VEGFの場合はほぼ5〜16ng/mL、アンジオゲニンの場合はほぼ3.5〜4.5ng/mL、PDGFの場合はほぼ100〜165pg/mL、TGFβ2の場合はほぼ2.5〜2.7ng/mL、TIMP-1の場合はほぼ0.68μg/mLおよびTIMP-2の場合はほぼ1.04μg/mL。AMP細胞は支持細胞層なしで生育し、タンパク質テロメラーゼを発現せず、非腫瘍原性である。AMP細胞は造血幹細胞マーカーCD34タンパク質を発現しない。この集団でのCD34陽性細胞の不存在は、単離物に造血幹細胞、例えば臍帯血または胚性線維芽細胞が混入していないことを示す。細胞の実質的に100%が低分子量サイトケラチンに対する抗体と反応し、その上皮性の性質を裏づける。AMP細胞の単離元である、新たに単離された羊膜由来細胞は、幹/前駆細胞マーカーc-kit(CD117)およびThy-1(CD90)に対する抗体と反応しない。満期または早産期胎盤から細胞を取得するために使用されるいくつかの手法は当技術分野において公知である(例えば、US 2004/0110287; Anker et al., 2005, Stem Cell 22:1338-1345; Ramkumar et al., 1995, Am. J. Ob. Gyn. 172:493-500を参照のこと)。しかし、本明細書中で使用される方法は改善された組成物および細胞集団を提供する。
【0026】
本明細書中に記載の特定の組成物、増殖条件、培地、などに言及する場合の用語「アニマルフリー」とは、非ヒト動物由来材料、例えばウシの血清、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸、ビタミン、などが特定の組成物または方法の調製、増殖、培養、増殖、保存または製剤化に使用されないことを意味する。「非ヒト動物由来材料を含まない」とは、材料が非ヒト動物の身体もしくは物質中に存在したか、または非ヒト動物の身体もしくは物質と接触したことが一度もなく、ゆえにそれらが異種に汚染されていないことを意味する。そのような組成物および/または方法の調製、増殖、培養、増殖、保存および/または製剤化では、組み換え生産ヒトタンパク質などの臨床等級の材料しか使用されない。
【0027】
細胞組成物に関する用語「増殖させた(expanded)」とは、細胞集団が、以前の方法を使用して得られるより、顕著に高い細胞濃度を構成することを意味する。例えば、AMP細胞の増殖組成物中の羊膜組織1グラムあたりの細胞レベルは、以前の方法を使用するそのような細胞中の約20倍増加と比較して、5回の継代後、初代培養物中の羊膜上皮細胞の数より少なくとも50〜150倍高い。別の例では、AMP細胞の増殖組成物中の羊膜組織1グラムあたりの細胞レベルは、3回の継代後、初代培養物中の羊膜上皮細胞の数より少なくとも30〜100倍高い。したがって、「増殖させた」集団は、以前の方法と比べて、少なくとも2倍、最高10倍の、羊膜組織1グラムあたりの細胞数の向上を有する。用語「増殖させた」とは、ヒトが介入して細胞数を増加させた状況のみを含むことが意図される。
【0028】
本明細書中で使用される用語「継代」とは、組織培養容器中で集密に到達したかまたは集密に近い培養物中で増殖する細胞を容器から取り出し、新鮮な培地で希釈し(すなわち1:5希釈し)、かつ新しい組織培養容器に入れてその継続した増殖および生存を可能にする細胞培養技術を意味する。例えば、羊膜から単離された細胞は初代細胞と称される。そのような細胞を本明細書中に記載の増殖培地中で増殖させることによって培養物中で増殖させる。そのような初代細胞を二次培養する場合、二次培養の各ラウンドは継代と称される。本明細書において使用される「初代培養」とは、新たに単離された細胞集団を意味する。
【0029】
本明細書中で使用される用語「分化」とは、細胞が、進行的に、より特殊化される過程を意味する。
【0030】
本明細書中で使用される用語「分化効率」とは、分化しているかまたは分化することができる、集団中の細胞のパーセンテージを意味する。
【0031】
本明細書中で使用される「ならし培地」とは、特定の細胞または細胞集団が培養され、その後細胞が取り出された培地である。細胞が培地中で培養されると、それらは、他の細胞の挙動を支援するかまたは他の細胞の挙動に影響しうる細胞因子を分泌する。そのような因子には、非限定的に、ホルモン、サイトカイン、細胞外基質(ECM)、タンパク質、小胞、抗体、ケモカイン、受容体、インヒビターおよび顆粒が含まれる。そのような細胞因子を含む培地はならし培地である。ならし培地を調製する方法の例は、米国特許No. 6,372,494号に記載されており、参照によりその全体がここに組み入れられる。
【0032】
本明細書中で使用される用語「羊膜由来細胞性サイトカイン溶液」または「ACCS」、例えばプールされたACCSは、ヒト血清アルブミンを補充した基本培地で培養されたAMP細胞に由来するならし培地を意味する。以前、ACCSは「羊膜由来細胞性サイトカイン懸濁液」と称されていた。
【0033】
本明細書中で使用される用語「生理的レベル」とは、生物系において物質が見出されるレベルかつ生化学的および/または生物学的過程の適正な機能にとって適切なレベルを意味する。
【0034】
本明細書中で使用される用語「生理的サイトカイン溶液」または「PCS」組成物とは、細胞に由来しない組成物でかつ生理的濃度の、VEGF、アンジオゲニン、PDGFおよびTGFβ2から選択される1種以上の因子および少なくとも1種のMMPインヒビターを有する組成物を意味する。好適なMMPインヒビターの例には、非限定的に、TIMP-1およびTIMP-2が含まれる。PCSに関する詳細は米国公開No. US-2009-0054339-A1に見出せる。これらの文献の内容は参照によりここに組み入れられる。
【0035】
本明細書中で使用される用語「プールされた」とは、プールされない組成物と比べて、より一定であるかまたは一貫した特徴を有する新規組成物を創出するように混合された複数の組成物を意味する。
【0036】
用語「治療上有効量」とは、所望の生理的効果を達成(すなわち結合組織の損傷または疾患を治療)するために必要な治療物質の量を意味する。
【0037】
本明細書中で使用される用語「溶解物」とは、細胞、例えばAMP細胞を溶解し、場合により、細胞片(例えば細胞膜)を除去した場合に得られる組成物を表す。これは、機械的手段によって、凍結および解凍によって、超音波処理によって、EDTAなどの界面活性剤の使用によって、または、例えばヒアルロニダーゼ、ディスパーゼ、プロテアーゼ、およびヌクレアーゼを使用する酵素消化によって達成することができる。一部の例では、細胞を溶解し、細胞膜部分を保持し、かつ可溶化細胞の残りの部分を廃棄することが望ましい。他の例では、両方の部分を保持することが望ましい。
【0038】
本明細書中で使用される用語「製薬的に許容される」とは、治療物質に加えて、製剤を構成する成分が、本発明にしたがって治療される患者への投与に好適であることを意味する。
【0039】
本明細書中で使用される用語「組織」とは、特定の機能の実施において結束した、同じように特殊化した細胞の集合をいう。
【0040】
本明細書において使用される用語「治療タンパク質」には、広範囲の生物活性タンパク質が含まれ、それには、非限定的に、成長因子、酵素、ホルモン、サイトカイン、サイトカインのインヒビター、血液凝固因子、ペプチド成長因子および分化因子が含まれる。
【0041】
本明細書において使用される用語「移植」とは、未分化、部分的分化、または完全分化型の細胞、例えば細胞懸濁液または基質もしくは組織に組み込まれた細胞を含む組成物をヒトまたは他の動物に投与することをいう。
【0042】
本明細書において使用される用語「a」または「an」は、1以上;少なくとも1を意味する。
【0043】
本明細書において使用される用語「付属的な(adjunctive)」とは、共同して(jointly)、〜と一緒に(together with)、〜に加えて(in addition to)、〜と併せて(in conjunction with)、などを意味する。
【0044】
本明細書において使用される用語「共投与する」は、2以上の物質の同時投与または逐次投与を含んでよい。
【0045】
本明細書において使用される「治療(Treatment)」、「治療する(treat)」、または「治療すること(treating)」とは、哺乳類、特にヒトの疾患または状態の任意の治療を含み、かつ:(a) 疾患または状態が、該疾患または状態にかかりやすいかもしれないが、まだそれを有すると診断されていない被験体で発生することを予防すること;(b) 疾患または状態を阻害する、すなわちその発症を阻止すること;(c) 疾患または状態を軽減させかつまたは改善する、すなわち疾患または状態の退行を生じさせること;または(d) 疾患または状態を治す、すなわちその発症または進行を停止させることを含む。本発明の方法によって治療される被験体集団には、望ましくない状態または疾患を患う被験体、ならびに該状態または疾患を発症する危険性がある被験体が含まれる。
【0046】
本明細書中で使用される用語「促進された治癒」は、治療された被験体において、損傷または創傷が治癒する速度が、未治療の被験体と比較して速いことを意味する。
【0047】
詳細な説明
本発明では、当技術分野の技術の範囲内の慣用の分子生物学、微生物学、および組み換えDNA技術を用いてよい。そのような技術は文献で完全に説明される。例えば、Sambrook et al, 2001, "Molecular Cloning: A Laboratory Manual"; Ausubel, ed., 1994, "Current Protocols in Molecular Biology" Volumes I-III; Celis, ed., 1994, "Cell Biology: A Laboratory Handbook" Volumes I-III; Coligan, ed., 1994, "Current Protocols in Immunology" Volumes I-III; Gait ed., 1984, "Oligonucleotide Synthesis"; Hames & Higgins eds., 1985, "Nucleic Acid Hybridization"; Hames & Higgins, eds., 1984,"Transcription And Translation"; Freshney, ed., 1986, "Animal Cell Culture"; IRL Press, 1986, "Immobilized Cell And Enzymes"; Perbal, 1984, "A Practical Guide To Molecular Cloning"を参照のこと。
【0048】
ある範囲の値が指定される場合、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除いて下限の単位の10分の1までの、該範囲の上限と下限の間に入るそれぞれの値および該指定範囲の任意の他の指定値または間に入る値は本発明の範囲内に包含されることが理解される。指定範囲において特に除外される任意の境界値がある場合、より小さい範囲の上限および下限は、そのより小さい範囲に単独で含まれてよく、これもまた本発明の範囲内に包含される。指定範囲が一方または両方の境界値を含む場合、その含まれる境界値の一方または両方を除外する範囲もまた本発明に含まれる。
【0049】
特に指定されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意義と同一の意義を有する。本明細書中に記載の方法および材料と類似または等価の任意の方法および材料を本発明の実施および試験において使用することもできるが、好ましい方法および材料をここに記載する。
【0050】
文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、本明細書および特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「and」および「the」は複数への言及を含むことに留意する必要がある。
【0051】
治療上の使用 - 本発明の組成物は、結合組織の損傷および障害を治療する方法において有用であり、結合組織の損傷および障害としては、非限定的に以下が挙げられる。
【0052】
裂傷(tear)および断裂(rupture) - 腱および靭帯は、裂傷および断裂しやすい。裂傷または断裂をより生じやすい条件として、腱または靭帯へのステロイド注射、特定の疾患(痛風または副甲状腺機能亢進症など)、および血液型がO型であることが挙げられる。裂傷または断裂は深刻な問題となる可能性があり、治療しない場合、非常に激しい痛みおよび永続的な身体障害をもたらし得る。裂傷または断裂は、通常は、損傷の重症度に応じて外科的または内科的に治療される。
【0053】
捻挫(sprain) - 身体の関節は靭帯によって支持されている。靭帯とは、骨を別の骨と結合している結合組織の強靭な帯である。捻挫は、靭帯の単純な伸張または裂傷である。最も捻挫しやすい領域は、足首、膝および手首である。最も軽度の捻挫は、安静、氷冷、圧迫、拳上および運動ならびに/または理学療法によって治癒する。中程度の捻挫はまた、固定期間を必要とし得る。重度の捻挫では、裂傷した靭帯を修復するために手術が必要となる場合がある。
【0054】
ストレイン(strain; 肉離れ及び筋断裂) - 骨は、筋肉と腱との組み合わせによって支持されている。腱は、筋肉を骨に結合させている。ストレインは、筋肉または腱の損傷の結果である。ストレインは、筋肉もしくは腱の単純な伸張であり得、またはストレインは、筋肉と腱との組み合わせにおける部分的なもしくは完全な裂傷であり得る。ストレインに対して推奨される治療は、捻挫に対する治療と同様であり、安静、氷冷、圧迫および拳上、その後の、痛みを緩和し可動性を回復させるための単純な運動および/または理学療法である。重度の裂傷については、組織を外科的に修復する必要がある場合がある。
【0055】
挫傷(contusion) - 挫傷は、筋肉、腱、または靭帯への打撃によって生じる打撲傷である。大部分の挫傷は軽度であり、損傷領域の安静、氷冷および圧迫、ならびに拳上に良好に応答する。症状が持続する場合、軟部組織への永続的損傷を防ぐため、医療的ケアが求められる。
【0056】
腱炎/腱症(tendonitis/tendinosis) - 腱または腱の被膜における炎症は腱炎と呼ばれ、これは腱の炎症である。腱炎は、腱を繰り返し悪化させる一連のわずかな圧力によって引き起こされる。腱炎は、安静にして圧力を取り除くこと、抗炎症薬、ステロイド注射、添え木、ならびに筋肉の不均衡を修正し、柔軟性を高めるための運動および/または理学療法によって治療することができる。持続性の炎症は腱への損傷を引き起こし、外科的矯正が必要となる場合がある。
【0057】
滑液包炎(bursitis) - 滑液包は、骨と腱または筋肉との間に位置している、体液で満たされた嚢である。滑液包によって、腱は骨上を滑らかに動くことができる。繰り返し加えられるわずかな圧力や酷使は、滑液包を腫れさせ得る。この腫脹および刺激が滑液包炎と呼ばれる。腱炎に伴って滑液包炎を経験する人が多い。滑液包炎は、通常、安静にすることによって緩和され、また抗炎症薬によって軽減される場合もある。また医師は、炎症を低減するため滑液包に追加の薬剤を注射することもある。
【0058】
疲労骨折(stress fracture) - 酷使によって1本の骨に圧力が加えられると、この骨中に極めて小さな破損が生じる場合がある。この損傷が疲労骨折と呼ばれる。初期症状は、疲労骨折領域の痛みと腫れである。下腿および足の骨は、特に疲労骨折しやすい。この骨折は、最初の日常的なX線では見ることができず、診断を得るために骨のスキャンを行うことが必要となる。これらの損傷は、安静、行動修正、ギプス固定、また稀に手術によって治療される。
【0059】
腱鞘炎(tenosynovitis) -慢性的な酷使による別の腱疾患は腱鞘炎であり、これは腱とその周囲の滑液鞘(エピテノン(epitenon))との間の炎症および/または刺激である。この鞘は、腱と、腱を関節の近くに結び付ける支帯(あるいは、まれに靭帯と呼ばれる)との間の摩擦を低下させる。腱は鞘の中で自由に滑ることができなければならない。
【0060】
剥離(avulsion) - 剥離は、高い引張荷重によって生じる急性の腱損傷であり、腱がその骨上の付着部位から強制的に引きはがされる。筋腱単位の引張応力損傷の大部分においては、筋腱接合部で起こる線維裂傷がストレインを生じさせる。他の幾つかの例においては、これらの線維は無傷のままで、腱が骨付着部位から引き離される。剥離損傷は、大きな筋肉が骨上に比較的小さな部位で付着している領域で起こる。
【0061】
手術(surgery) - 腱および靭帯の修復は、局部麻酔、局所麻酔または全身麻酔を用いて行われる。外科医は、損傷した腱または靭帯上の皮膚を切開し、腱または靭帯の損傷を受けた端あるいは裂傷した端を縫合する。腱または靭帯が重度に損傷してしまった場合、移植が必要となることがある。この場合、身体の別の部分から得た腱または靭帯の一部がしばしば用いられる。必要であれば、腱および靭帯を周囲組織に再付着させる。修復の目標は、損傷後に関節または周囲組織の正常機能を回復させることである。可能性のあるリスクとしては、円滑な動きを妨げる瘢痕組織形成、患部関節の使用の部分的喪失、および関節の強張りが挙げられる。
【0062】
細胞の取得および培養
ECS細胞 - 本発明のECS細胞の生産に後に使用することができる細胞を胚外組織から単離するための種々の方法が当技術分野で報告されている(例えば、US2003/0235563, US2004/0161419, US2005/0124003, 米国仮出願Nos. 60/666,949, 60/699,257, 60/742,067, 60/813,759, 米国出願No. 11/333,849, 米国出願No. 11/392,892, PCTUS06/011392, US2006/0078993, PCT/US00/40052, 米国特許No. 7,045,148, US2004/0048372, およびUS2003/0032179を参照のこと)。
【0063】
ECS細胞の特定 - 胚外組織を単離したら、組織中のどの細胞がECS細胞に関連する特徴(上記定義を参照のこと)を有するかを特定することが必要である。例えば、VEGF、アンジオゲニン、PDGFおよびTGFβ2およびMMPインヒビターTIMP-1および/またはTIMP-2を細胞外間隙または周囲の培地に分泌するその能力に関して細胞をアッセイする。一部の例では、標準アッセイを使用して特定の因子を検出することが困難であるかまたは不可能である。その理由は、アッセイ方法による検出レベル未満の生理的レベルで細胞が特定の因子を分泌するからであるかもしれない。因子(群)がECS細胞および/または他の局所細胞によって利用されており、ゆえに標準アッセイを使用して検出可能なレベルでの蓄積が妨げられることもあるかもしれない。因子が分泌される時間的様式がサンプリングのタイミングと一致しないこともありうる。
【0064】
AMP細胞組成物 - (a) 胎盤から羊膜を回収するステップ、(b) プロテアーゼを使用して羊膜から上皮細胞を解離させるステップ、(c) 天然由来または組み換え生産ヒトタンパク質(すなわちヒト血清アルブミン)を加えた、非ヒト動物タンパク質を含まない基本培地中で細胞を培養するステップ;(d) 上皮細胞培養物からAMP細胞を選択するステップ、および場合により(e) 場合により追加の添加物および/または成長因子(すなわち組み換えヒトEGF)を使用して、細胞をさらに増殖させるステップを使用してAMP細胞組成物を製造する。詳細は米国公開No. 2006-0222634-A1に含まれる。 該文献は参照によりここに組み入れられる。
【0065】
AMP細胞の培養 - 基本培地で細胞を培養する。そのような培地には、非限定的に、上皮細胞用のEPILIFE(登録商標)培地(Cascade Biologicals)、OPTI-PROTM無血清培地、VP-SFM無血清培地、IMDM高濃縮基本培地、KNOCKOUTTM DMEM低浸透圧培地、293 SFM II限定無血清培地(すべてGibco; Invitrogen製)、HPGM造血前駆細胞増殖培地、Pro 293S-CDM無血清培地、Pro 293A-CDM無血清培地、UltraMDCKTM無血清培地(すべてCambrex製)、STEMLINE(登録商標) T細胞増殖培地およびSTEMLINE(登録商標) II造血幹細胞増殖培地(ともにSigma-Aldrich製)、DMEM培地、DMEM/F-12栄養混合物増殖培地(ともにGibco製)、Ham F-12栄養混合物増殖培地、M199基本培地(ともにSigma-Aldrich製)、および他の同等の基本培地が含まれる。そのような培地には、ヒトタンパク質が含まれるか、またはヒトタンパク質を補充すべきである。本明細書中で使用される「ヒトタンパク質」とは、天然に生産されるヒトタンパク質または組み換え技術を使用して生産されるヒトタンパク質であり、例えばヒト血清アルブミンである。特定の実施形態では、基本培地はIMDM高濃縮基本培地、STEMLINE(登録商標) T細胞増殖培地またはSTEMLINE(登録商標) II造血幹細胞増殖培地、またはOPTI-PROTM無血清培地、またはその組み合わせであり、ヒトタンパク質は、少なくとも0.5%〜10%までの濃度で添加されるヒト血清アルブミンである。特定の実施形態では、ヒト血清アルブミンは約0.5%〜約2%である。特定の実施形態では、ヒト血清アルブミンは0.5%である。ヒト血清アルブミンは液体または乾燥(粉末)形態に由来してよく、それには、非限定的に、組み換えヒト血清アルブミン、PLASBUMIN(登録商標)正常ヒト血清アルブミンおよびPLASMANATE(登録商標)ヒト血液画分(ともにTalecris Biotherapeutics製)が含まれる。
【0066】
最も好ましい実施形態では、異種コンタミネーションを回避するために非ヒト動物産物を含まない系を使用して細胞を培養する。この実施形態では、培地は、IMDM高濃縮基本培地、STEMLINE(登録商標) T細胞増殖培地またはSTEMLINE(登録商標) II造血幹細胞増殖培地、OPTI-PROTM無血清培地、またはDMEM培地であり、10%の量までのヒトアルブミン(PLASBUMIN(登録商標)正常ヒト血清アルブミン)を加える。
【0067】
本発明は、さらに、動物由来タンパク質が組み換えヒトタンパク質で置換され、かつBSAなどの動物由来血清がヒト血清アルブミンで置換されている上記基本培地のいずれかの使用を想定する。好ましい実施形態では、培地はアニマルフリーであることに加えて無血清である。
【0068】
場合により、他の因子を使用する。一実施形態では、0〜1μg/mLの範囲の濃度の上皮細胞成長因子(EGF)を使用する。好ましい実施形態では、EGF濃度は約10〜20ng/mLである。使用し得る別の成長因子としては、非限定的に、TGFαまたはTGFβ2 (5ng/mL;範囲0.1〜100ng/mL)、アクチビンA、コレラ毒素(好ましくは濃度約0.1μg/mL;範囲0〜10μg/mL)、トランスフェリン(5μg/mL;範囲0.1〜100μg/mL)、線維芽細胞増殖因子(bFGF 40ng/mL(範囲0〜200ng/mL)、aFGF、FGF-4、FGF-8;(全て範囲0〜200ng/mL)、骨形態形成タンパク質(すなわちBMP-4)または細胞増殖を増強することが知られている他の成長因子が挙げられる。添加剤は全て臨床等級である。
【0069】
ならし培地の調製
ECS細胞のならし培地 - ECS細胞を使用することを除き、ACCSに関して以下に記載されるようにしてECS細胞のならし培地を得る。
【0070】
ACCSの調製 - 本発明のAMP細胞を使用してACCSを調製することができる。一実施形態では、本明細書中に記載されるようにAMP細胞を単離し、5〜30mLの範囲の培地、好ましくは10〜25mLの範囲の培地、および最も好ましくは約10mLの培地を含むT75フラスコ中に1 x106細胞/mLを播種する。細胞を集密まで培養し、培地を交換し、一実施形態では、集密化の1日後にACCSを回収する。別の実施形態では、培地を交換し、集密化の2日後にACCSを回収する。別の実施形態では、培地を交換し、集密化の3日後にACCSを回収する。別の実施形態では、培地を交換し、集密化の4日後にACCSを回収する。別の実施形態では、培地を交換し、集密化の5日後にACCSを回収する。別の実施形態では、培地を交換し、集密化の3日後にACCSを回収する。別の好ましい実施形態では、培地を交換し、集密化の3、4、5、6日またはそれ以上の後にACCSを回収する。当業者は、非限定的にセルファクトリー、フラスコ、ホローファイバー、または懸濁培養装置を含む他の組織培養容器の使用、または集密に満たないかつ/または活発に増殖中の培養物からのACCSの回収などの、AMP細胞培養物からACCSを回収するための他の実施形態もまた、本発明の方法によって想定されることを認識する。ACCSを回収後に冷凍保存することも本発明によって想定される。ACCSを回収後に凍結乾燥することも本発明によって想定される。ACCSを回収後に持続放出用に製剤化することも想定される。
【0071】
組成物の使用目的に応じて種々の方法で本発明の組成物を製造することができる。例えば、本発明の実施に有用な組成物は、本発明の物質、すなわちECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCSまたはPCSを、溶液、懸濁液、または両者(溶液/懸濁液)中に含む液体であってよい。用語「溶液/懸濁液」とは、活性物質の第1の部分が溶液中に存在し、かつ活性物質の第2の部分が、液体マトリックス中の懸濁液中に、微粒子型で存在する液体組成物を表す。液体組成物には、ゲルも含まれる。液体組成物は水性であるか、または軟膏、ろう膏(salve)、クリーム、などの剤形であってよい。
【0072】
本発明の方法の実施に有用な水性懸濁液または溶液/懸濁液は1種以上のポリマーを懸濁化剤として含んでよい。有用なポリマーには、水溶性ポリマー、例えばセルロースポリマーおよび水不溶性ポリマー、例えば架橋カルボキシル含有ポリマーが含まれる。本発明の水性懸濁液または溶液/懸濁液は好ましくは粘性もしくは粘膜付着性であるか、またはさらにより好ましくは、粘性でかつ粘膜付着性である。
【0073】
医薬組成物 - 本発明は、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCSまたはPCSおよび製薬的に許容される担体の医薬組成物を提供する。用語「製薬的に許容される」とは、動物、および特にヒトでの使用に関して、連邦または州政府の規制当局または米国薬局方もしくは他の一般に認識される薬局方に列挙される規制当局によって認可されることを意味する。用語「担体」とは、組成物とともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを表す。そのような医薬用担体は、滅菌液体、例えば水および、石油、動物、植物または合成起源の油を含む油、例えばピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などであってよい。好適な医薬用賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、穀粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアラート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。組成物は、所望であれば、微量の湿潤剤または乳化剤、またはpH緩衝剤を含むこともできる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、持続放出製剤などの剤形をとりうる。好適な医薬用担体の例はE. W. Martinの「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載され、さらに他の担体は当業者によく知られている。
【0074】
本発明の医薬組成物を中性または塩の形式で製剤化することができる。製薬的に許容される塩には、遊離アミノ基と形成される塩、例えば塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、などから生じる塩、および遊離カルボキシル基と形成される塩、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、第二鉄の水酸化物、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン、などから生じる塩が含まれる。
【0075】
治療キット - 本発明はまた、パッケージング材料、および、該パッケージング材料内に含まれる本発明の医薬組成物を含む製品を提供し、ここで、該医薬組成物は、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSの組成物を含む。パッケージング材料は、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCSまたはPCSを、結合組織の損傷および障害を治療するために使用できることを示すラベルまたは添付文書を含む。
【0076】
製剤化、用量および投与
ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSを含む組成物を被験体に投与して、種々の細胞または組織の機能を提供し、例えば、結合組織の損傷および障害を治療することができる。本明細書中で使用される「被験体」とは、ヒトまたは非ヒト動物を意味する。
【0077】
そのような組成物を、賦形剤および助剤を場合により含む1種以上の生理学的に許容される担体を使用して任意の慣用の様式で製剤化することができる。適正な製剤は、選択される投与経路に依存する。組成物を、結合組織の損傷および障害を治療するか、または治療上重要な代謝機能を回復させるためのその使用に関する説明書とともにパッケージングすることができる。組成物を1種以上の生理学的に許容される担体中でレシピエントに投与してもよい。細胞用の担体には、非限定的に、生理的濃度の塩の混合物を含むリン酸緩衝食塩水(PBS)または乳酸加リンゲル液の溶液が含まれる。
【0078】
本発明の特定の実施形態の実施に有用な医薬組成物(すなわち局所投与を利用する医薬組成物)は、製薬的に許容される担体とともに治療上有効量の活性物質を含む。そのような医薬組成物は、液体、ゲル、軟膏、ろう膏、徐放製剤、または結合組織、例えば腱および靭帯への投与に好適な他の製剤であってよい。組成物は本発明の組成物(すなわちECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCSまたはPCS)および、場合により、少なくとも1種の製薬的に許容される賦形剤を含む。
【0079】
種々の実施形態では、本発明の組成物は、溶液、懸濁液、または両者中に活性物質を含む液体を含むことができる。本明細書中の用語「懸濁液」とは、活性物質の第1の部分が溶液中に存在し、かつ活性物質の第2の部分が、液体マトリックス中の懸濁液中に、微粒子型で存在する液体組成物を含む。本明細書において使用されるように、液体組成物には、ゲルが含まれる。
【0080】
好ましくは、液体組成物は水性である。あるいは、該組成物は軟膏の剤形をとることができる。好ましい実施形態では、組成物はin situでゲル化できる水性組成物、より好ましくはin situでゲル化できる水溶液である。そのような組成物は、身体との接触時にゲル化を促すために有効な濃度のゲル化剤を含んでよい。好適なゲル化剤には、非限定的に、熱硬化性ポリマー、例えばエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのテトラ置換エチレンジアミンブロックコポリマー(例えば、ポロキサミン1307); ポリカルボフィル; および多糖、例えばゲラン、カラゲナン(例えば、カッパ-カラゲナンおよびイオタ-カラゲナン)、キトサンおよびアルギナートガムが含まれる。フレーズ「in situでゲル化できる」には、ゲルを形成できる低い粘性の液体だけでなく、投与時に実質的に高い粘性またはゲルの硬さを示す粘性の液体、例えば半液体およびチキソトロピックゲル(thixotropic gels)も含まれる。
【0081】
本発明の水性組成物は生理的に適合したpHおよび重量オスモル濃度を有する。好ましくはこれらの組成物は、例えば滅菌条件下での製造およびパッケージングによる、および/または許容される保存剤の抗菌有効量を含ませることによる、微生物の増殖を阻害する手段を含む。好適な保存剤には、非限定的に、水銀含有物質、例えばフェニル水銀塩(例えば、フェニル水銀の酢酸塩、ホウ酸塩および硝酸塩)およびチメロサール; 安定化二酸化塩素; 四級アンモニウム化合物、例えば塩化ベンザルコニウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミドおよびセチルピリジニウムクロライド; イミダゾリジニル尿素; パラベン、例えばメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベン、およびそれらの塩; フェノキシエタノール; クロロフェノキシエタノール; フェノキシプロパノール; クロロブタノール; クロロクレゾール; フェニルエチルアルコール; EDTA二ナトリウム; およびソルビン酸およびその塩が含まれる。
【0082】
組成物は、投与用の活性物質を含むデポー製剤を包含しうる。デポー製剤は本発明の組成物(すなわち、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCS)を含む。組成物を含む微粒子を生体適合性の製薬的に許容されるポリマーまたは脂質カプセル化剤に埋め込むことができる。すべてまたは実質的にすべての活性物質を長期間にわたって放出するようにデポー製剤を構成することができる。ポリマーまたは脂質マトリックスは、存在すれば、すべてのまたは実質的にすべての活性物質の放出後、投与部位から輸送されるように十分に分解するように構成することができる。デポー製剤は、製薬的に許容されるポリマーおよび溶解または分散させた活性物質を含む液体製剤であってよい。注入時に、ポリマーは、例えばゲル化するかまたは沈殿することによって注入部位でデポーを形成する。
【0083】
組成物は、疾患または損傷部位の好適な位置に挿入することができる固形物を構成してよく、該位置で固形物は活性物質を放出する。該固形物からの放出は、好ましくは、固形物が概して密接に接触している腱および/または靭帯に対する放出である。移植に好適な固形物は、一般に、ポリマーを含み、生物分解性(bioerodible)または非生物分解性(non-bioerodible)であってよい。本発明の組成物を含む移植片の調製に使用できる生物分解性ポリマーには、非限定的に、脂肪族ポリエステル、例えばポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド)、ポリ(.イプシロン.-カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)およびポリ(ヒドロキシ吉草酸)のポリマーおよびコポリマー、ポリアミノ酸、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、脂肪族ポリカーボナートおよびポリエーテルラクトースが含まれる。好適な非生物分解性ポリマーの例はシリコーンエラストマーである。
【0084】
当業者は、特定の目的のために、ECS細胞、例えばAMP細胞および/もしくはACCS、またはPCSの適切な濃度、すなわち用量を容易に決定することができる。当業者は、好ましい用量が、その必要がある患者の結合組織の損傷および障害の治療などの治療効果を生じさせる用量であることを認識する。当然、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSの適正な用量は、いくつかの変動要素に基づく使用時点での経験的な決定を必要とする。 該変動要素には、非限定的に、治療対象の疾患、損傷、障害または状態の重症度およびタイプ;患者の年齢、体重、性別、健康; 患者に投与されている他の投薬および治療;などが含まれる。当業者はまた、投与回数(投与計画)もまた、例えば治療対象の疾患、損傷、障害または状態の重症度およびタイプに基づいて経験的に決定する必要があることを認識する。好ましい実施形態では、1回の投与で十分である。他の好ましい実施形態は、2、3、4回、またはそれ以上の投与を想定する。
【0085】
本発明は、被験体にECS細胞、例えばAMP細胞および/もしくはACCS、またはPCSを治療上有効量で投与することにより、結合組織の損傷および障害を治療する方法を提供する。「治療上有効量」という用語により、治療効果を生じさせるのに十分な、ECS細胞、例えばAMP細胞および/もしくはACCS、プールされたACCS、またはPCSの用量が表される。従って、本発明により投与される用量単位中の、ECS細胞、例えばAMP細胞および/もしくはACCS、プールされたACCS、またはPCSの濃度は、例えば、結合組織の損傷および障害の治療において有効である。
【0086】
本発明の別の実施形態では、結合組織の損傷および障害を治療するために、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSとともに、他の物質、例えば活性物質および/または不活性物質を共投与することが望ましい。活性物質には、非限定的に、サイトカイン、ケモカイン、抗体、インヒビター、抗生物質、抗真菌剤、抗ウイルス剤、免疫抑制剤、他の細胞タイプ、などが含まれる。不活性物質には、担体、希釈剤、安定剤、ゲル化剤、送達ビヒクル、ECM (天然および合成)、支持体(scaffolds)、などが含まれる。ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCSまたはPCSを他の医薬活性物質とともに投与する場合、より少ないECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSさえ治療上有効でありうる。
【0087】
ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSは、好ましくはチューブ、例えばカテーテルなどの送達デバイス経由での被験体の標的部位への注入によって投与することができる。好ましい実施形態では、チューブは、針、例えばシリンジをさらに含み、それを通して、細胞および/またはACCSを所望の位置で被験体に導入することができる。
【0088】
ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSの投与のタイミングは治療対象の結合組織の損傷または疾患のタイプおよび重症度に依存する。好ましい実施形態では、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSを結合組織の損傷の発生または疾患の診断後できる限り速やかに投与する。他の好ましい実施形態では、ECS細胞、例えばAMP細胞および/またはACCS、プールされたACCS、またはPCSを損傷または診断後2回以上投与する。
【0089】
ECS細胞、例えばAMP細胞から部分的にまたは完全に分化した細胞を含む組成物も本発明の方法によって想定される。そのような部分的にまたは完全に分化した細胞の組成物は、ECS細胞、例えばAMP細胞を適切な試薬で、かつ細胞が部分的または完全分化を受けて、例えば結合組織になる適切な条件下で処理することによって得られる。当業者はそのような部分的または完全分化を生じさせることができる条件に精通している。使用前(すなわち移植前、投与前、など)に、または使用と同時に、細胞を分化条件下で処理することができる。特定の実施形態では、使用前および使用中に細胞を分化条件下で処理する。
【0090】
持続放出組成物
ACCS、プールされたACCSまたはPCSを持続放出組成物として製剤化することができる。当業者は、ACCS、プールされたACCSまたはPCSなどのタンパク質ベースの治療物質などの治療物質の持続放出組成物を作製するための方法論に精通している。
【0091】
持続放出組成物は、本明細書中に記載の任意の方法によって作製することができる。例えば、多小胞性リポソーム製剤(multivesicular liposome formulation)技術はタンパク質およびペプチド治療物質の持続放出に有用である。Qui, J., et al, (ACTA Pharmacol Sin, 2005, 26(11):1395-401)は、持続放出インターフェロンアルファ-2bの製剤化に関するこの方法論を記載する。Vyas, S.P., et al, (Drug Dev Ind Pharm, 2006, 32(6):699-707)は、多小胞性リポソーム中のペグ化インターフェロンアルファのカプセル化を記載する。ACCS、例えばプールされたACCS、およびPCSは多小胞性リポソーム持続放出製剤での使用に好適である。
【0092】
ナノ粒子技術もまた、持続放出組成物の作製に有用である。例えば、Packhaeuser, C.B., et al, (J Control Release, 2007, 123(2):131-40)は、インスリン負荷ジアルキルアミノアルキル-アミン-ポリ(ビニルアルコール)-g-ポリ(ラクチド-co-グリコリド)ナノ粒子に基づく生分解性非経口デポー系を記載し、ナノ粒子ベースのデポーは生物活性高分子(すなわちタンパク質)のための徐放デバイスの設計に好適な候補であると結論する。Dailey, L.A., et al, (Pharm Res 2003, 20(12):2011-20)は、分岐ポリマーDEAPA-PVAL-g-PLGAに基づくエアロゾル治療のための、界面活性剤を含まない、生分解性ナノ粒子を記載し、DEAPA-PVAL-g-PLGAは多用途の薬物送達系であると結論する。ACCS、例えばプールされたACCS、およびPCSはナノ粒子ベースの持続放出製剤での使用に好適である。
【0093】
ポリマーベースの持続放出製剤もまた、非常に有用である。Chan, Y.P., et al, (Expert Opin Drug Deliv, 2007, 4(4):441-51)は、タンパク質およびペプチド治療物質の持続放出に使用されるMedusaシステム(Flamel Technologies)のレビューを記載する。これまで、Medusaシステムは、動物モデル(ラット、イヌ、サル)および腎癌(IL-2)およびC型肝炎(IFN-アルファ(2b))患者での臨床試験においてIL-2およびIFN-アルファ(2b)の皮下注射に適用されてきた。Chavanpatil, M.D., et al, (Pharm Res, 2007, 24(4):803-10)は、水溶性分子の持続的かつ増強された細胞送達のための新規プラットフォームとして界面活性剤-ポリマーナノ粒子を記載する。Takeuchi, H., et al, (Adv Drug Deliv Res, 2001, 47(1):39-54)は、リポソームおよびポリマー性ナノ粒子を含む、ペプチド薬物送達のための粘膜付着性ナノ粒子系を記載する。Wong, H.L., et al, (Pharm Res, 2006, 23(7):1574-85)は、新規ポリマー-脂質ハイブリッド系を記載するが、これは多剤耐性乳癌細胞に対するドキソルビシンの細胞傷害性を高めることが示されている。ACCS、例えばプールされたACCS、およびPCSは上記持続放出製剤方法論での使用に好適である。
【0094】
さらに、本明細書において特に記載されないが、当業者によく知られている他の持続放出方法論もまた、使用に好適である。
【0095】
当業者は、現在、臨床実施および臨床開発されている、結合組織の損傷および障害を治療するための任意のおよびすべての標準的方法および様式が本発明の方法の実施に好適であることを認識する。投与経路、製剤化、他の物質との共投与(適切な場合)などは本明細書中の他の箇所で詳細に考察される。
【0096】
実施例
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の製造方法および使用方法についての完全な開示および説明を当業者に提供するために記載され、発明者らが自らの発明とみなすものの範囲を限定することは意図されていない。使用される数字(例えば、量、温度、など)に関する精度を保証するよう努めたが、いくらかの実験誤差および偏差が考慮されるべきである。特に指定しない限り、割合は重量に基づく割合であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧であるか、またはほぼ大気圧である。
【実施例1】
【0097】
実施例1:AMP細胞組成物の調製
解離剤PXXIIIを使用して羊膜上皮細胞を出発羊膜から解離させた。羊膜の平均重量範囲は、18〜27gであった。PXXIIIで解離させた場合、羊膜1gあたりの回収された細胞数は約10〜15 x 106であった。
【0098】
選択AMP細胞を取得する方法 - 羊膜上皮細胞を羊膜からの単離直後にプレーティングした。培養してほぼ2日後、非接着細胞を除去し、接着細胞を維持した。プラスチック組織培養容器へのこの接着は、所望のAMP細胞集団を取得するために使用される選択方法である。接着および非接着AMP細胞は類似の細胞表面マーカー発現プロファイルを有するようであるが、接着細胞の方が高い生存度を有し、ゆえに所望の細胞集団である。ヒト血清アルブミンを補充した基本培地中で接着AMP細胞を、ほぼ120,000〜150,000細胞/cm2に達するまで培養した。この時点で、培養物は集密になっていた。好適な細胞培養物はほぼ5〜14日の範囲でこの細胞数に達する。この基準の達成はAMP細胞の増殖能の指標であり、この基準を達成しない細胞はその後の分析および使用のために選択されない。AMP細胞がほぼ120,000〜150,000細胞/cm2に達したら、それらを回収し、凍結保存した。この回収時点をp0と称する。
【実施例2】
【0099】
実施例2:ACCSの作製
本発明のAMP細胞を使用して、プールされたACCSなどのACCSを作製することができる。上記のようにAMP細胞を単離し、ほぼ10mLの上記培地を含むT75フラスコ中にほぼ1 x 106細胞/mLを播種した。細胞を集密まで培養し、培地を交換し、集密化の3日後にACCSを回収した。場合により3日後に再びACCSを回収し、場合により3日後に再び回収する。当業者は、集密培養からACCSを回収するための他の実施形態、例えば他の組織培養容器、例えば、非限定的に、セルファクトリー、フラスコ、ホローファイバー、または懸濁培養装置、などを使用する実施形態もまた、本発明の方法によって想定されることを認識する(上記「詳細な説明」を参照のこと)。ACCSを、回収後に、冷凍保存し、凍結乾燥し、放射線照射し、または持続放出用に製剤化することもまた、本発明によって想定される。異なる時点でACCSを回収することもまた、想定される(詳細に関しては「詳細な説明」を参照のこと)。
【実施例3】
【0100】
実施例3:PCS組成物の作製
担体中で生理的レベルの指定サイトカインまたは因子を組み合わせることによって以下のPCS組成物を製造する。
【0101】
組成物A:VEGFおよびTIMP-1;組成物B:VEGF、アンジオゲニンおよびTIMP-1;組成物C:VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BBおよびTIMP-1;組成物D:VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2およびTIMP-1;組成物E:VEGFおよびTIMP-2;組成物F:VEGF、アンジオゲニンおよびTIMP-2;組成物G:VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BBおよびTIMP-2;組成物H:VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2およびTIMP-2;組成物I:VEGF、TIMP-1およびTIMP-2;組成物J:VEGF、アンジオゲニン、TIMP-1およびTIMP-2;組成物K:VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BB、TIMP-1およびTIMP-2;組成物L:VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2、TIMP-1およびTIMP-2;組成物M:アンジオゲニンおよびTIMP-1;組成物N:アンジオゲニン、PDGF-BBおよびTIMP-1;組成物O:アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2およびTIMP-1;組成物P:アンジオゲニンおよびTIMP-2;組成物Q:アンジオゲニン、PDGF-BBおよびTIMP-2;組成物R:アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2およびTIMP-2;組成物S:アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2、TIMP-1およびTIMP-2;組成物T:PDGF-BBおよびTIMP-1;組成物U:PDGF-BB、TGFβ2およびTIMP-1;組成物V:PDGF-BBおよびTIMP-2;組成物W:PDGF-BB、TGFβ2およびTIMP-2;組成物X:PDGF-BB、TIMP-1およびTIMP-2;組成物Y:PDGF-BB、TGFβ2、TIMP-1およびTIMP-2。好ましい組成物は組成物Lである。
【0102】
組成物A-Yは場合によりチモシンβ4を含有する。当業者は、特定の実施形態で、他のMMPインヒビター(すなわちTIMP-3、TIMP-4または合成MMPインヒビター)が好適でありうることを認識する(J. Frederick Woessner, Jr., J. Clin. Invest. 108(6): 799-800 (2001); Brew, K., et al, Biochim Biophys Acta. 2000 Mar 7;1477(1-2):267-83)。
【0103】
VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2、TIMP-1およびTIMP-2は以下の生理的レベルで添加される:VEGFについてほぼ5〜16ng/mL、アンジオゲニンについてほぼ3.5〜4.5 ng/mL、 PDGFについてほぼ100〜165pg/mL、TGFβ2についてほぼ2.5〜2.7ng/mL、TIMP-1についてほぼ0.68μg mL、およびTIMP-2についてほぼ1.04μg/mL。VEGFはInvitrogen, カタログ#PHG0144, PHG0145, PHG0146, PHG0141またはPHG0143から入手することができ;アンジオゲニンはR&D Systems, カタログ#265-AN-050または265-AN-250から入手することができ;PDGF-BBはInvitrogen, カタログ#PHG0044, #PHG0045, #PHG0046, #PHG0041, #PHG0043から入手することができ;TGFβ2はInvitrogen, カタログ#PHG9114から入手することができ;TIMP-1はR&D Systems, カタログ#970-TM-010から入手することができ;TIMP-2はR&D Systems, カタログ#971-TM-010から入手することができる。VEGF、アンジオゲニン、PDGF-BB、TGFβ2、TIMP-1およびTIMP-2を、生理食塩水、PBS、乳酸加リンゲル液、細胞培養培地、水または当業者に公知の他の好適な水溶液などの担体に加える。
【実施例4】
【0104】
実施例4:持続放出組成物の作製
ACCS、例えばプールされたACCS、またはPCSの組成物を、本明細書中に記載されている(「詳細な説明」を参照のこと)かまたはそうでなければ当業者によく知られている持続放出製剤技術のいずれかと組み合わせることによって、ACCS、例えばプールされたACCS、またはPCSの持続放出組成物を製造する。
【実施例5】
【0105】
実施例5:結合組織損傷の動物モデルにおけるAMP細胞およびACCSの使用
この研究の目的は、ラットモデルを用いてAMP細胞およびACCSがアキレス腱の治癒に与える影響を評価することである。
【0106】
材料および方法
動物:この実験では、126匹の雌のSprague-Dawleyラット(Charles River, Cambridge, MA)(体重約300g、10週齢)を使用した。動物を1つのケージにつき2匹ずつ入れ、食物と水を自由摂取させた。 各ケージ(n =63)を無作為に3つの異なるグループに割り当てた:グループA - 生理食塩水、グループB - ACCS、およびグループC - AMP細胞。この研究は、動物に関するHMA常任委員会(HMA Standing Committee on Animals)によって承認され、実験動物の世話および取扱いに関する全ての施設内ガイドラインを順守した。
【0107】
外科手術:ラットをケタミン(60mg/kg、腹腔内投与)およびキシラジン(10 mg/kg、腹腔内投与)で麻酔し、ノーズコーンを介してイソフルランガス(1〜2%)を用いて麻酔を維持した。その後、バリカンで右後肢を剃り、70%アルコール、ベタジン、および70%アルコールを順に用いて殺菌消毒した。鋭的剥離によりアキレス腱を剥き出しにし、その中点で横に切断した。次いで、両方の自由端に、100 μl の生理食塩水、ACCS、または100μlのPBSに希釈した100,000個のAMP細胞のいずれかを注射した。その後、改良ケスラー技術を用いて、6-0エチレン編糸縫合糸(Ethicon, Somerville, NJ)を使用して腱を縫合した。皮膚は、6-0ナイロン縫合糸(Ethicon)を使用して閉じた。その後、肢を石油系ガーゼでくるみ、次いでつま先から腹部まで当てたギプス包帯を用いて固定し、3点固定(踵-膝-臀部)を達成した(Scotchcast, 3M)。その後、ラットをケージに戻し、1週間、2週間または4週間治癒させた。食欲、痛み、感染、腫脹および筋麻痺の兆候についてラットを毎日観察した。ギプス包帯は全て、1週間で外した。イソフルラン過量投与(10%)によって動物を屠殺し、アキレス腱を外部軟組織から切り離し、踵骨および腓腹筋ヒラメ筋複合体の一部と一緒に採取した。機械的試験試料を直ちに-70℃で凍結させた。同様の方法で、組織学用の試料を踵骨を含まずに切り出した。各動物から、反対側の無傷の腱を対照として摘出した。
【0108】
機械的試験:評価の当日、試料を室温まで解凍し、引張試験の準備をした。固定するため鈍的剥離によって筋肉から近位腱を注意深く削り取って扇形の腱線維を生じさせ、次いでこれを大型ペニントン鉗子(Johnson & Johnson, New Brunswick, NJ)および1200グリットの湿った紙やすり(Home Depot, Boston, MA)を用いて掴んだ。その後、別のペニントン鉗子を使用して、この腱の遠位端を踵骨付着部の直近位で掴んだ。次いで、2つのペニントン鉗子を、順に、材料試験機(Instron 5565, Norwood, MA)中に、鋸歯状の顎面(jaw-faces)を有する空気圧グリップを垂直方向に使用して固定した。その後、腱の幅、厚さおよび長さ(ペニントン鉗子端からの距離)を、ノギスを使用して記録した。矩形形状であると仮定して断面積を計算した。組織を調製して材料試験機へマウントする際、腱は、生理食塩水を含んだガーゼで湿らせておいた。最初に、腱を2%伸張の前処理サイクルに3回かけてあらゆるヒステリシスを除去した。材料試験機は、その後直ぐに試料を2mm/秒(s)の一定速度で破断するまで引張した。試料にかかった力は、100Nロードセル(Instron)を使用して測定され、全てのデータをBlue- Hill 2ソフトウェア(Instron)から収集した。次いで、データをExcelシートに移し、破壊強度(裂傷力(N)として規定される)、最大抗張力(単位面積当たりの最大応力または最大力、MPaとして規定される)、ストレイン%(初期長を上回る長さの変化(mm/mm)として規定される)およびヤング率(Young’s Modulus)(材料の弾性の評価基準、MPa)について分析した。機械的試験の後、さらなる評価のために試料を-70℃で再凍結させた。
【0109】
組織学:腱をホルマリンに24時間浸し、次いでPBS中ですすいだ。その後、組織学評価のために腱を矢状面で切断した。パラフィン包埋切片をスライド上に載せて、標準的な方法を用いて、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)およびマッソン・トリクローム(Masson's Trichrome)で染色した。
【0110】
統計的分析:データはパラメトリックであると仮定し、処置群と時間を独立因子とした二元分散分析(ANOVA)を用いて分析した。ボンフェローニ事後検定(Bonferroni post-test)を用いてp値を補正し、I型誤差を最小化した。0.05未満のp値は、統計的に有意であると考えられる。分析は全て(GraphPad Prism 5 for Windows(登録商標))を使用して行った。
【0111】
結果:
ヤング率(Young's Modulus)は、材料の剛性/弾性比の尺度である。治癒した腱のヤング率が、正常な未損傷の腱のヤング率に近いほど、治癒した腱は、機械的応力を下回って正常な未損傷の腱と同様に挙動する。正常な腱を上回る過度(2桁以上)の剛性は、治癒した腱がエネルギーを消散する能力の低下を示し、脆くなって裂傷する可能性があるため、望ましくない。この実験において、AMP細胞で処理して4週間治癒させた腱は、同時点において生理食塩水で処理した腱とACCSで処理した腱の両方を上回る統計的に有意な(p = 0.1%)改善を示した。実際、AMPで処理した腱は、この測定で未処理の腱と極めて近かった。2週目時点においても、同方向の傾向が観察された。1週目時点では、何の傾向も現れなかった。
【0112】
最大抗張力は、伸張または引張される間に材料が耐え得る最大応力の尺度である。この実験では、AMP細胞で処理した腱について、2週目時点から始まり4週目時点で向上し続けている強度の向上の明らかな傾向が観察された。しかしながら、この正の傾向は統計的に有意ではなかった。
【0113】
断面積(Cross-sectional Area)は、腱が治癒する際の腱の横断面積の尺度となる。腱領域が大きいほど、生成される新たな組織の量も大きい。このことは、それがより高い質の治癒をもたらし腱により大きな強度を与えることから、特に治癒過程の初期段階における肯定的知見である。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色によるおよびトリクローム(Trichrome)染色による腱の組織学は、4週目時点において、AMP細胞で処理した腱が、生理食塩水またはACCSで処理した腱よりかなり大きな横断面積を有していたことを明らかにした。
【0114】
破壊強度は、材料が張力による破壊または断裂に抵抗する能力の尺度となる。これらの実験では、破壊強度は、識別可能な差異を全く示さなかった。しかし2週間目に、ACCSグループおよびAMPグループの両方において、より多くの組織が張力による分析を受け得るまで治癒し、このことは、生理食塩水で処理した場合と比較して、ACCSおよびAMPで処理した場合に、治癒がより早く改善されたことを示唆していた。
【0115】
一次的結論は以下のとおりである:1) 1週時点は時期尚早であり、利用される方法のいずれによっても採用すべき意義あるどの測定についても、十分な治癒が起こっていないと考えられる; 2) ACCSとAMPSの両方で処理した組織は、2週間でより良好に治癒した。; 3) AMP細胞は、特に4週時点において最も大きな効果をもたらすと考えられる。これは、ACCSは基本的には単回投与であるけれどもAMP細胞が必須の分泌因子の持続的供給をもたらすためであると理論付けられる。将来の実験は、ACCSの持続放出送達について試験するであろう。;3) 将来の実験には、治癒の改善が4週間より後もより長く持続するか否かを決定するために、6週間または8週間などのより後の時点を含めるべきである; 4) AMP細胞で処理した腱は、より速い治癒速度、および特にヤング率に関して正常な材料特性の回復を示した。
【0116】
本発明は、その思想または本質的な特性から逸脱することなく、他の特定の形態で具現化されうる。任意の等価の実施形態は本発明の範囲内であるものとする。実際、本明細書中で示されるものおよび説明されるものに加えて、本発明の種々の改変が前記説明から当業者に明らかになる。そのような改変もまた、特許請求の範囲の範囲内に入るものとする。
【0117】
本明細書を通して、種々の刊行物が参照されている。各刊行物は参照によりその全体が本明細書中に組み入れられるものとする。