(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年では、燃費向上の観点から、種々の内燃機関(例えば、リーンバーンエンジンや直噴エンジン等)の開発が進められている。内燃機関の開発が進むに従って、スパークプラグの耐久性の更なる向上が、望まれている。しかし、スパークプラグの耐久性の向上は、容易ではなかった。
【0005】
本発明の主な利点は、スパークプラグの耐久性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
軸線に沿って貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に配置される中心電極と、
前記中心電極の先端側の部分との間で間隙を形成する棒状の接地電極と、
を有し、
前記中心電極は、軸部と、前記軸部の先端部に接合されるチップ部と、前記軸部と前記チップ部とを接合する接合部と、を含み、
前記接合部の先端側の端は、前記絶縁体の前記チップ部を収容する部分のうち内径が最も小さい部分である径小部の内周面の軸線方向先端側の縁である内側縁よりも前記軸線の方向の後端側に配置され、
前記内側縁と前記中心電極の表面との間の距離は、0.3mm以上である、
スパークプラグ。
【0008】
この構成によれば、火花放電が絶縁体の表面を通ることを抑制できるので、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載のスパークプラグであって、
前記内側縁と前記中心電極の表面との間の前記距離が、0.35mm以上である、スパークプラグ。
【0010】
この構成によれば、火花放電が絶縁体の表面を通ることを、更に抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または2に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極の先端側の端面の縁から、前記軸線と垂直な方向に向かって、5mm離れた位置を、第1位置とし、
前記絶縁体の前記内側縁上の位置を、第2位置とし、
前記軸線を含む断面において、前記第1位置を通り、かつ、前記軸線よりも前記第1位置側の前記絶縁体の輪郭の先端側の部分と一カ所で接する直線と、前記中心電極の表面と、が交わる位置を、第3位置とし、
前記第3位置と前記第2位置との間の前記軸線と平行な方向の距離を、第1距離とし、
前記接合部の前記先端側の端と、前記第2位置と、の間の前記軸線と平行な方向の距離を、第2距離としたときに、
第2距離から第1距離を引いた差分が、ゼロmm以上である、
スパークプラグ
【0012】
この構成によれば、ガス流によって火花放電が移動する場合であっても、火花放電が接合部に到達することを抑制できるので、スパークプラグの耐久性を、向上できる。
【0013】
[適用例4]
軸線に沿って貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に配置される中心電極と、
前記中心電極の先端側の部分との間で間隙を形成する棒状の接地電極と、
を有し、
前記中心電極は、軸部と、前記軸部の先端部に接合されるチップ部と、前記軸部と前記チップ部とを接合する接合部と、を含み、
前記接合部の先端側の端は、前記絶縁体の前記チップ部を収容する部分のうち内径が最も小さい部分である径小部の内周面の軸線方向先端側の縁である内側縁よりも前記軸線の方向の後端側に配置され、
前記中心電極の先端側の端面の縁から、前記軸線と垂直な方向に向かって、5mm離れた位置を、第1位置とし、
前記絶縁体の前記内側縁上の位置を、第2位置とし、
前記軸線を含む断面において、前記第1位置を通り、かつ、前記軸線よりも前記第1位置側の前記絶縁体の輪郭の先端側の部分と一カ所で接する直線と、前記中心電極の表面と、が交わる位置を、第3位置とし、
前記第3位置と前記第2位置との間の前記軸線と平行な方向の距離を、第1距離とし、
前記接合部の前記先端側の端と、前記第2位置と、の間の前記軸線と平行な方向の距離を、第2距離としたときに、
第2距離から第1距離を引いた差分が、ゼロmm以上である、
スパークプラグ。
【0014】
この構成によれば、ガス流によって火花放電が移動する場合であっても、火花放電が接合部に到達することを抑制できるので、スパークプラグの耐久性を、向上できる。
【0015】
[適用例5]
適用例4に記載のスパークプラグであって、
前記差分が、0.3mm以上である、スパークプラグ。
【0016】
この構成によれば、火花放電が接合部に到達することを、更に抑制できる。
【0017】
[適用例6]
適用例4または5に記載のスパークプラグであって、
前記内側縁と前記中心電極の表面との間の距離は、0.3mm以上である、
スパークプラグ
【0018】
この構成によれば、火花放電が絶縁体の表面を通ることを抑制できるので、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0019】
[適用例7]
適用例1から6のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記中心電極のうちの前記絶縁体の先端よりも先端側の部分の前記軸線と平行な方向の長さは、1mm以上である、スパークプラグ。
【0020】
この構成によれば、ガス流によって火花放電が移動する場合であっても、火花放電が接合部に到達することを抑制できる。また、火花放電が絶縁体の表面を通ることを抑制できる。以上により、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0021】
[適用例8]
適用例1から7のいずれか1項に記載のスパークプラグであって、
前記チップ部の形状は、前記軸線に沿って延びる略円柱状であり、
前記チップ部の外径は、0.7mm以上である、スパークプラグ。
【0022】
この構成によれば、チップ部の消耗に起因して間隙が拡がることが抑制されるので、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0023】
[適用例9]
適用例1から8のいずれか1項に記載のスパークプラグと、
前記スパークプラグの前記間隙に電気エネルギーを供給する電源回路と、を備え、
前記電源回路から前記間隙に電気エネルギーが供給されることで、前記間隙において火花放電を生じさせる点火システムであって、
1回の点火行程において火花放電を生じさせる際の前記電源回路の出力エネルギーが100mJ以上である、
点火システム。
【0024】
この構成によれば、スパークプラグの耐久性を向上しつつ、さらに、電源回路からの出力エネルギーを用いることによって着火性を向上できる。
【0025】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火システムを搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
A.第1実施例:
図1は、点火システムの一例の概略図である。図中には、点火システム900と、内燃機関700と、内燃機関700の制御装置500と、バッテリー510と、が示されている。点火システム900は、内燃機関700に取り付けられたスパークプラグ100と、スパークプラグ100に電気エネルギーを供給する電源回路600と、を備えている。図示されたスパークプラグ100の総数は1個であるが、実際には、内燃機関700のN個(Nは1以上の整数)の気筒のそれぞれに1つずつのスパークプラグ100が取り付けられている。また、電源回路600からの電気エネルギーは、図示しないディストリビュータを介して、各スパークプラグ100に供給される。なお、1つの気筒に複数のスパークプラグ100が取り付けられてもよい。また、ディストリビュータを用いずに、電源回路600からスパークプラグ100に電気エネルギーが供給されてもよい(例えば、ダイレクトイグニション)。
【0028】
電源回路600は、スパークプラグ100に電気エネルギーを供給することによって、スパークプラグ100の後述する間隙にて火花放電を生じさせる。電源回路600は、コア640と、コア640に巻かれた一次コイル620と、コア640に巻かれ一次コイル620よりも巻き数が多い二次コイル630と、イグナイタ650と、を備えている。
【0029】
一次コイル620の一端はバッテリー510に接続され、一次コイル620の他端はイグナイタ650に接続されている。また、二次コイル630の一端は、一次コイル620のバッテリー510側の端に接続され、二次コイル630の他端はスパークプラグ100の端子金具40に接続されている。
【0030】
イグナイタ650は、いわゆるスイッチ素子であり、例えば、トランジスタを含む電気回路である。イグナイタ650は、制御装置500からの制御信号に応じて、一次コイル620とバッテリー510との間の導通をオンオフ制御する。イグナイタ650が、導通をオンにすると、バッテリー510から一次コイル620に電流が流れ、コア640の周囲に磁界が形成される。その後、イグナイタ650が、導通をオフにすると、一次コイル620を流れる電流が遮断され、磁界が変化する。この結果、一次コイル620には、自己誘導によって、電圧が生じ、二次コイル630には、相互誘導によって、より高い電圧が生じる。この高電圧(すなわち、電気エネルギー)が、二次コイル630からスパークプラグ100の間隙に供給されて、間隙にて火花放電が生じる。
【0031】
なお、電源回路600は、1回の点火行程において、1個のスパークプラグ100に対して、100mJ以上のエネルギーを出力可能である。ここで、1回の点火行程は、内燃機関700の1個の気筒の1サイクルの動作における点火行程を意味している。1サイクルの動作で1回の火花放電が生じる場合には、1回の火花放電のために出力されるエネルギーが、1回の点火行程の出力エネルギーに対応する。1サイクルの動作で複数回の火花放電が生じる場合には、各火花放電のために出力されるエネルギーの総量が、1回の点火行程の出力エネルギーに対応する。なお、出力エネルギーは、電源回路600から出力されるエネルギーを示している。実際にスパークプラグ100が受けるエネルギーは、電源回路600とスパークプラグ100とを接続するケーブルによる減衰によって、出力エネルギーよりも小さくなり得る。
【0032】
次に、スパークプラグ100の構成について、説明する。
図2は、スパークプラグの一例の断面図である。図示されたラインCLは、スパークプラグ100の中心軸を示している。図示された断面は、中心軸CLを含む断面である。以下、中心軸CLのことを「軸線CL」とも呼び、中心軸CLと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。中心軸CLを中心とする円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、中心軸CLを中心とする円の円周方向を「周方向」とも呼ぶ。中心軸CLと平行な方向のうち、
図1における上方向を先端方向D1と呼び、下方向を後端方向D1rとも呼ぶ。先端方向D1は、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、
図2における先端方向D1側をスパークプラグ100の先端側と呼び、
図2における後端方向D1r側をスパークプラグ100の後端側と呼ぶ。
【0033】
スパークプラグ100は、絶縁体10(以下「絶縁碍子10」とも呼ぶ)と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、導電性の第1シール部60と、抵抗体70と、導電性の第2シール部80と、先端側パッキン8と、タルク9と、第1後端側パッキン6と、第2後端側パッキン7と、を備えている。
【0034】
絶縁体10は、中心軸CLに沿って延びて絶縁体10を貫通する貫通孔12(以下「軸孔12」とも呼ぶ)を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。絶縁体10は、先端側から後端方向D1rに向かって順番に並ぶ、脚部13と、第1縮外径部15と、先端側胴部17と、鍔部19と、第2縮外径部11と、後端側胴部18と、を有している。第1縮外径部15の外径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の第1縮外径部15の近傍(
図1の例では、先端側胴部17)には、後端側から先端側に向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。第2縮外径部11の外径は、先端側から後端側に向かって、徐々に小さくなる。
【0035】
絶縁体10の軸孔12の先端側には、中心軸CLに沿って延びる棒状の中心電極20が挿入されている。中心電極20は、軸部27と、中心軸CLを中心として中心軸CLに沿って延びる略円柱状の第1チップ部28と、を備えている。軸部27は、先端側から後端方向D1rに向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。脚部25の先端(すなわち、軸部27の先端)には、第1チップ部28が接合されている(例えば、レーザ溶接)。第1チップ部28の先端側の部分は、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。鍔部24の先端方向D1側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。また、軸部27は、外層21と芯部22とを有している。外層21は、芯部22よりも耐酸化性に優れる材料、すなわち、内燃機関の燃焼室内で燃焼ガスに曝された場合の消耗が少ない材料(例えば、純ニッケル、ニッケルとクロムとを含む合金、等)で形成されている。芯部22は、芯部22は、外層21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅、銅合金、等)で形成されている。芯部22の後端部は、外層21から露出し、中心電極20の後端部を形成する。芯部22の他の部分は、外層21によって被覆されている。ただし、芯部22の全体が、外層21によって覆われていても良い。また、第1チップ部28は、軸部27よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0036】
絶縁体10の軸孔12の後端側には、端子金具40の一部が挿入されている。端子金具40は、導電性材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。
【0037】
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、電気的なノイズを抑制するための、略円柱形状の抵抗体70が配置されている。抵抗体70は、例えば、導電性材料(例えば、炭素粒子)と、セラミック粒子(例えば、ZrO
2)と、ガラス粒子(例えば、SiO
2−B
2O
3−Li
2O−BaO系のガラス粒子)と、を含む材料を用いて形成されている。抵抗体70と中心電極20との間には、導電性の第1シール部60が配置され、抵抗体70と端子金具40との間には、導電性の第2シール部80が配置されている。シール部60、80は、例えば、抵抗体70の材料に含まれるものと同じガラス粒子と、金属粒子(例えば、Cu)と、を含む材料を用いて、形成されている。中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70とシール部60、80とを介して、電気的に接続される。
【0038】
主体金具50は、中心軸CLに沿って延びて主体金具50を貫通する貫通孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電性材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の貫通孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の外周に固定されている。主体金具50の先端側では、絶縁体10の先端(本実施形態では、脚部13の先端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端(本実施形態では、後端側胴部18の後端側の部分)が、貫通孔59の外に露出している。
【0039】
主体金具50は、先端側から後端側に向かって順番に並ぶ、胴部55と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54は、鍔状の部分である。胴部55の外周面には、内燃機関(例えば、ガソリンエンジン)の取付孔に螺合するためのネジ部52が形成されている。座部54とネジ部52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
【0040】
主体金具50は、変形部58よりも先端方向D1側に配置された縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、後端側から先端側に向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、先端側パッキン8が挟まれている。先端側パッキン8は、鉄製でO字形状のリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。
【0041】
工具係合部51の形状は、スパークプラグレンチが係合する形状(例えば、六角柱)である。また、加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、主体金具50の後端(すなわち、後端方向D1r側の端)を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。加締部53の先端方向D1側では、主体金具50の内周面と、絶縁体10の外周面と、の間に、第1後端側パッキン6と、タルク9と、第2後端側パッキン7とが、先端方向D1に向かってこの順番に、配置されている。本実施形態では、これらの後端側パッキン6、7は、鉄製でC字形状のリングである(他の材料も採用可能である)。
【0042】
スパークプラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端方向D1側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。先端側パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
【0043】
接地電極30は、棒状の軸部37と、中心軸CLを中心とする略円柱状の第2チップ部38と、を備えている。軸部37の一端は、主体金具50の先端57(すなわち、先端方向D1側の端57)に接合されている(例えば、抵抗溶接)。軸部37は、主体金具50の先端57から先端方向D1に向かって延び、中心軸CLに向かって曲がって、先端部31に至る。先端部31の外面のうち中心電極20と対向する部分には、第2チップ部38が接合されている(例えば、レーザ溶接)。第2チップ部38の後端面39(すなわち、後端方向D1r側の面39)は、第1チップ部28の先端面29(すなわち、先端方向D1側の面29)との間で間隙gを形成する。軸部37は、軸部37の表面を形成する母材35と、母材35内に埋設された芯部36と、を有している。母材35は、耐酸化性に優れる材料(例えば、ニッケルとクロムとを含む合金)を用いて形成されている。芯部36は、母材35よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅)を用いて形成されている。第2チップ部38は、軸部37よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、タングステン(W)、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成されている。
【0044】
図3は、絶縁体10と中心電極20と接地電極30とのそれぞれの間隙gの近傍の部分の断面図である。図中には、中心軸CLを含む断面が示されている。本実施例では、中心電極20の脚部25の先端方向D1側に、第1チップ部28が溶接されている。図中の接合部230は、溶接時に溶融した部分である。接合部230は、脚部25と第1チップ部28とに接触しており、脚部25と第1チップ部28とを接合する。本実施例では、脚部25と第1チップ部28との境界が、全周に亘って、レーザ溶接されている。
【0045】
また、接合部230は、絶縁体10の先端面10hよりも後端方向D1r側に配置されている。そして、第1チップ部28が、貫通孔12の中から外に向かって突出している。すなわち、中心電極20のうち、貫通孔12の外(すなわち、絶縁体10の先端面10hよりも先端方向D1側)に配置されている部分は、第1チップ部28の一部分のみである。従って、中心電極20のうちの第1チップ部28以外の部分で火花放電が生じることを抑制できる。
【0046】
また、中心電極20の脚部25の先端部分は、絶縁体10の脚部13における貫通孔12内に配置されている。中心電極20の脚部25の外径は、絶縁体10の脚部13における貫通孔12の内径よりも、わずかに小さい。例えば、絶縁体10の脚部13における貫通孔12の内径から中心電極20の脚部25の外径を引いた差分が0.01mm以上0.2mm以下の範囲内に収まるように、絶縁体10の脚部13と中心電極20の脚部25とが構成される。一方、第1チップ部28の外径は、中心電極20の脚部25の外径よりも、小さい。第1チップ部28の側面28sと貫通孔12の内周面12sとの間には、隙間が形成されている。このように、絶縁体10の先端部分が第1チップ部28から離れているので、第1チップ部28で生じる火花放電が、絶縁体10に接触することを抑制できる。
【0047】
図中の矢印G1は、間隙gの近傍でのガスの流れ(すなわち、内燃機関の気筒内のガスの流れ)を示している(以下、「ガス流G1」と呼ぶ)。このガス流G1は、中心軸CLとおおよそ垂直な方向に沿って間隙gを通り抜ける流れである。このようなガス流G1は、種々の種類の内燃機関の気筒内で、生じ得る。間隙gで生じる火花放電は、このガス流G1によって風下へ吹き流され得る。図中の放電経路P1〜P6は、火花放電の経路の例を示している。第1経路P1は、火花放電がガス流G1に流されない場合の経路の例であり、第2チップ部38の後端面39から第1チップ部28の先端面29に至る中心軸CLと略平行な経路である。第2経路P2〜第6経路P6は、火花放電がガス流G1に流される場合の経路の例である。これらの経路P2〜P6の形状は、いずれも、風下の方向(
図3の右方向)側に向かって突出するアーチ状である。経路の番号(すなわち、経路に付された符号の数字)が大きいほど、その経路は中心軸CLから遠い位置まで流されている。
【0048】
図中の距離DPpは、第6経路P6がガス流G1によって流された度合い、すなわち、第6経路P6が風下の方向に向かって突出する度合いを示している。具体的には、距離DPpは、放電経路(ここでは、第6経路P6)上の位置のうち最も中心軸CLから遠い位置P6xと、中心電極20の先端面29(すなわち、第1チップ部28の先端面29)の縁29eと、の間の中心軸CLと垂直な方向の距離である。この距離DPpが大きいほど、放電経路がガス流G1によって流された度合いが大きい。他の放電経路(例えば、放電経路P1〜P5)についても、同様に、距離DPpを特定可能である。以下、このような距離DPpを、「流れ距離DPp」と呼ぶ。
【0049】
近年では、内燃機関の性能(例えば、燃費)を向上するために、ガス流G1の流速が速い傾向にある。流れ距離DPpは、ガス流G1の流速が速いほど、大きくなりやすい。ところが、ガス流G1の流速が速い場合には、火花放電が途切れやすい。ここで、電源回路600によって1回の点火行程でスパークプラグ100に供給される電気エネルギーを大きくすることによって、火花放電が途切れることを抑制できる。例えば、電源回路600は、上述したように、1回の点火行程において、100mJ以上のエネルギーを出力可能である。これにより、ガス流G1の流速が速い場合であっても、火花放電が途切れることが抑制される。この結果、ガス流G1の流速が速い場合であっても、着火性の低下を抑制できる。また、大きな流れ距離DPpが、実現され得る。例えば、流速が10m/secである場合、流れ距離DPpは、5mmに到達し得る。
【0050】
図3に示す端E1、E2は、放電経路の両端である。第1端E1は、中心電極20の表面上の端であり、第2端E2は、接地電極30の表面上の端である。放電経路が急角度で折れ曲がることは難しいので、流れ距離DPpが大きいほど、第1端E1と第2端E2との間の中心軸CLと平行な方向の距離が、大きくなる。第4経路P4〜第6経路P6が示すように、流れ距離DPpが大きい場合には、第1端E1は、中心電極20の側面(ここでは、第1チップ部28の側面28s)に移動し得る。そして、流れ距離DPpが大きいほど、第1端E1は、後端方向D1r側に移動する。なお、
図3では、全ての放電経路P1〜P6の第2端E2が、第2チップ部38の後端面39の縁39eに位置している。ただし、第2端E2は、第2チップ部38の側面38sに移動し得る。
【0051】
第6経路P6が示すように、流れ距離DPpが特に大きい場合には、放電経路は、絶縁碍子10の先端面10hと接触し得る。この場合、絶縁体10の先端が消耗する可能性がある。従って、放電経路が絶縁体10から離れていることが、好ましい。また、接合部230が
図3の位置よりも先端方向D1側に配置される場合には、放電経路の第1端E1が接合部230上に位置し得る。接合部230は、第1チップ部28と比べて放電に対する耐久性が低い場合が多い。仮に放電経路の第1端E1が接合部230上に位置する場合、中心電極20の消耗が速く進行する可能性がある。従って、接合部230は、放電経路の第1端E1が到達し得る位置よりも、後端方向D1r側に配置されていることが好ましい。
【0052】
B.評価試験
B−1.第1評価試験:
電源回路600(
図1)からの出力エネルギーと、スパークプラグ100(
図3)の構成と、放電経路と、の関係を評価する試験を行った。まず、スパークプラグ100の構成を特定するためのパラメータについて説明する。
図4は、絶縁体10と中心電極20とのそれぞれの先端部分の断面図である。図中には、中心軸CLを含む断面が示されている。
【0053】
図中には、4個の位置P、R、S、Uと直線Lprとが示されている。第1位置Pは、中心電極20の先端面29(すなわち、第1チップ部28の先端面29)の縁29eから、中心軸CLと垂直な方向(径方向の外側)に向かって、所定の距離DP(以下「基準距離DP」と呼ぶ)離れた位置である。第2位置Rは、絶縁体10の軸孔12の先端方向D1側の縁である内側縁10re上の位置である。
図4の実施例では、第2位置Rは、絶縁体10の先端面10hの内周側の縁の位置と、同じである。直線Lprは、第1位置Pを通り、かつ、絶縁体10の輪郭(中心軸CLよりも第1位置P側の輪郭)の先端側の部分と一カ所で接する直線である。すなわち、この直線Lprは、絶縁体10の輪郭と交差せずに接触している。
図4の実施例では、直線Lprは、第1位置Pと第2位置Rとを通る直線である。第3位置Sは、直線Lprと、中心電極20の表面(中心軸CLよりも第1位置P側の表面)とが交わる位置である。
【0054】
このような第1位置Pと第3位置Sと基準距離DPとは、絶縁体10に接触し得る放電経路(例えば、
図3の第6経路P6)を想定して設定されている。第1位置Pは、放電経路上の位置のうち最も中心軸CLから遠い位置(例えば、
図3の第6経路P6上の位置P6x)に対応している。基準距離DPは、流れ距離DPp(
図3)に対応している。第3位置Sは、放電経路の第1端E1(
図3)に対応している。第1位置Pの近傍まで延びる放電経路は、例えば第2位置Rで、絶縁体10と接触し得る。また、そのような放電経路は、例えば第3位置Sで中心電極20と接触し得る。
【0055】
第4位置Uは、接合部230(特に、接合部230の外表面)の先端方向D1側の端の位置である。
図4の例では、第3位置Sは、第4位置Uよりも先端方向D1側、すなわち、第1チップ部28の表面上に配置されている。ただし、中心電極20の構成によっては、第3位置Sは、接合部230、または、脚部25の表面上に配置され得る。
【0056】
以下、基準距離DPとして、5mmを採用する。5mmは、ガス流G1(
図3)の流速が従来の内燃機関と比べて速い10m/secである場合に実現され得る流れ距離DPpである。後述するように、この基準距離DPの下において第3位置Sが第4位置Uよりも先端方向D1側に位置するようにスパークプラグ100を構成することによって、放電経路がガス流G1によって大きく流される場合であっても、接合部230の消耗(すなわち、中心電極20の消耗)を抑制できる。
【0057】
また、
図4中には、突出長Lと、第1距離Daと、第2距離Dbと、離間距離Tと、が示されている。突出長Lは、中心電極20のうち絶縁体10の先端(
図4の例では、先端面10hと同じ)よりも先端方向D1側の部分の中心軸CLと平行な方向の長さである。すなわち、突出長Lは、中心電極20のうち絶縁体10から先端方向D1側に突出している部分の長さである。この突出長Lが長いほど、ガス流G1(
図3)の流速が速い場合であっても、火花放電が絶縁体10に接触することを抑制できる。
【0058】
第1距離Daは、第2位置Rと第3位置Sとの間の中心軸CLと平行な方向の距離である。第2距離Dbは、第2位置Rと第4位置Uとの間の中心軸CLと平行な方向の距離である。
図4の例では、第4位置Uは、第3位置Sよりも後端方向D1r側に配置されている。従って、第2距離Dbから第1距離Daを引いた差分(Db−Da)は、ゼロよりも大きい。なお、後述するように、この場合、火花放電が接合部230と接触することを抑制できる。
【0059】
離間距離Tは、内側縁10reと中心電極20の表面との間の最短距離である。本実施例では、離間距離Tは、中心軸CLと垂直な方向の距離である。
図4の例では、離間距離Tは、内側縁10reと第1チップ部28の側面28sとの間の距離である。後述するように、この離間距離Tが大きいほど、火花放電が絶縁体10の表面を通ることを抑制できる。
【0060】
上記パラメータによって特定される構成が互いに異なる複数種類のスパークプラグ100のサンプルを用いて、評価試験を行った。評価試験は、
図1に示す点火システム900(電源回路600とスパークプラグ100)とバッテリー510とを用いて、行われた。スパークプラグ100のサンプルは、ガス流G1(ここでは、空気の流れ)が間隙gを通り抜ける環境下に、配置された。この状態で、電源回路600は、スパークプラグ100に電気エネルギーを供給し、スパークプラグ100の間隙gにて火花放電を生成した。以下の表1は、試験条件の番号と、電源回路600からの出力エネルギー(単位はmJ)と、絶縁体10に対する接合部230の位置と、離間距離Tと、火花放電の移動が生じたか否かと、接合部230への飛火の可能性の評価結果と、チャンネリングの可能性の評価結果と、距離の差分(Db−Da)と、の対応関係を示している。表に示すように、1番から9番の9種類の条件が評価された。なお、以下のパラメータは、9種類の条件に共通であった。
ガス流G1の流速 :10m/sec
突出長L :1mm
第1チップ部28の外径Dd :0.7mm
基準距離DP :5mm
【0062】
電源回路600からの出力エネルギーは、1回の点火行程で出力されるエネルギーを示している。本評価試験では、1回の点火行程で1回の放電を行うこととした。すなわち、表1のエネルギーが、1回の放電のために出力されるエネルギーである。表1に示すように、1番から9番の出力エネルギーは、それぞれ、80、90、100、100、100、100、150、200、100(mJ)であった。
【0063】
絶縁体10に対する接合部230の位置は、「外側」と「内側」とから選択される。「外側」は、接合部230の少なくとも一部が絶縁体10の先端(ここでは、先端面10h、すなわち、第2位置R)よりも先端方向D1側に位置することを示している。すなわち、「外側」は、第4位置Uが絶縁体10の先端よりも先端方向D1側に位置することを示している。「内側」は、接合部230の全体が、絶縁体10の先端よりも後端方向D1r側に位置することを示している。すなわち、「内側」は、第4位置Uが絶縁体10の先端(ここでは、第2位置R)よりも後端方向D1r側に位置することを示している。
【0064】
離間距離Tは、
図4で説明した離間距離Tである。表1に示すように、1番から9番の離間距離Tは、それぞれ、0.1、0.1、0.1、0.1、0.3、0.45、0.3、0.3、0.3(mm)であった。離間距離Tの調整は、第1チップ部28の外径Ddを変えずに、貫通孔12の内径を調整することによって、行われた。
【0065】
火花放電の移動が生じたか否かは、ガス流G1によって火花放電が移動したか否かを示している。本評価試験では、高速度カメラを用いて所定の試験回数(ここでは、100回)の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像から流れ距離DPpを特定した。ここで、少なくとも1回の放電の流れ距離DPpが5mm以上であった場合に、火花放電の移動が発生したと判定した。全ての放電の流れ距離DPpが5mm未満である場合には、火花放電の移動は無かったと判定した。
【0066】
接合部230への飛火は、火花放電が接合部230に移動することである。接合部230への飛火の可能性は、上記試験回数の放電の後に、スパークプラグを解体し、接合部230の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって、以下のように評価された。すなわち、A評価は、放電痕が観察されなかったことを示している。B評価は、放電痕が観察されたことを示している。
【0067】
チャンネリングは、火花放電が絶縁体10と接触すること、すなわち、火花放電が絶縁体10の表面を通ること、を示している。チャンネリングの可能性は、以下のように評価された。すなわち、A評価は、上記試験回数の放電によって、絶縁体10の表面上に(特に、先端面10h上に)、0.05mm以上の深さの溝が形成されなかったことを示している。B評価は、絶縁体10の表面上に(特に先端面10h上に)、0.05mm以上の深さの溝が形成されたことを示している。
【0068】
距離差分Db−Daは、
図4の第2距離Dbから第1距離Daを引いた差分である。表1に示すように、絶縁体10に対する接合部230の位置が「外側」である1番から3番については、距離差分Db−Daが省略されている。また、4番から8番の距離差分Db−Daは、0mmであった。9番の距離差分Db−Daは、−0.1mmであった。距離差分Db−Daが負値であることは、第3位置Sが第4位置Uよりも後端方向D1r側に位置することを示している。9番の条件では、第3位置Sは、接合部230の表面上に位置していた。
【0069】
なお、表1に示すように、4番から8番の条件の間では、離間距離Tによらず、距離差分Db−Daは、0mmであった。
図4から解るように、第1チップ部28の外径Ddを変えずに離間距離Tが大きくなると、第2位置Rが第1位置Pに近づくので、第3位置Sが後端方向D1r側に移動する。この結果、第1距離Daが大きくなる。本評価試験では、第1距離Daが大きくなる場合には、第1チップ部28を後端方向D1r側に向かって延長することによって第4位置U(すなわち、接合部230)を後端方向D1r側に移動させた。以上により、4番から8番の種々の離間距離Tで、距離差分Db−Da=0mmを実現した。
【0070】
表1の1番と2番とが示すように、出力エネルギーが100mJよりも小さい場合(具体的には、80mJ、90mJ)、ガス流による火花放電の移動は無く、接合部への飛火の可能性はA評価であり、チャンネリングの可能性もA評価であった。この理由は、出力エネルギーが小さいので、流れ距離DPpが大きくなる前に火花放電が途切れたからである。
【0071】
3番から9番が示すように、出力エネルギーが100mJ以上の場合、ガス流による火花放電の移動が発生した。この理由は、大きな出力エネルギーによって火花放電が途切れることが抑制され、この結果、大きな流れ距離DPpが実現されたからである。
【0072】
ガス流による火花放電の移動が発生した3番から9番のうち、接合部230が絶縁体10の外側に配置されている3番では、接合部230への飛火の可能性がB評価であった。一方、接合部230が絶縁体10の内側に配置されている4番から9番では、接合部230への飛火の可能性がA評価であった。このように、接合部230を絶縁体10の貫通孔12の内側に配置することによって、火花放電が接合部230に到達する可能性を低減できた。また、9番が示すように、距離差分Db−Daが負値である場合にも、接合部230への飛火の可能性のA評価を実現できた。このように、接合部230を絶縁体10の内側に配置することによって、種々の距離差分Db−Daで、火花放電が接合部230に到達する可能性を低減できると推定される。
【0073】
また、ガス流による火花放電の移動が発生した3番から9番のうち、離間距離Tが0.1mmである3番と4番とでは、チャンネリングの可能性がB評価であった。また、離間距離Tが0.3mm以上である5番から9番では、チャンネリングの可能性がA評価であった。このように、離間距離Tを大きくすることによって、チャンネリングの可能性を低減できた。なお、チャンネリングの可能性がA評価であった離間距離Tは、0.3、0.45(mm)であった。これらの値から任意に選択された値を、離間距離Tの好ましい範囲(下限以上、上限以下)の下限として採用可能である。例えば、離間距離Tとしては、0.3mm以上の値を採用可能である。そして、これらの値のうち、下限以上の任意の値を上限として採用可能である。例えば、離間距離Tとしては、0.45mm以下の値を採用可能である。なお、評価された離間距離Tに限らず、離間距離Tが大きいほど、チャンネリングの可能性を低減できると推定される。従って、離間距離Tとしては、0.45mmよりも大きい値を採用可能であると推定される。なお、スパークプラグの小型化のためには、離間距離Tが小さいことが好ましい。例えば、離間距離Tが1mm以下であることが好ましい。
【0074】
B−2.第2評価試験:
図5は、第2評価試験の結果を示すグラフである。横軸は、離間距離T(単位はmm)を示し、縦軸は、チャンネリング割合Ra(単位は%)を示している。第2評価試験は、第1評価試験と同じ点火システム900(
図1)を用いて、行われた。スパークプラグ100のサンプルは、第1評価試験と同じくガス流G1が間隙gを通り抜ける環境下に配置された。チャンネリング割合Raは、以下のように算出された。まず、高速度カメラを用いて100回の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像を観察することによって、放電経路が絶縁体10の表面(特に先端面10h)を通った放電の回数をカウントした。100回に対するカウントされた数の割合が、チャンネリング割合Raである。この評価試験では、離間距離Tが異なる6種類のサンプルが用いられた。評価された離間距離Tは、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4(mm)の6個の値であった。なお、以下のパラメータは、6種類のサンプルに共通であった。
ガス流G1の流速 :10m/sec
突出長L :1mm
第1チップ部28の外径Dd(
図4) :0.7mm
電源回路600の出力エネルギー :100mJ
距離差分Db−Da :0mm
基準距離DP :5mm
【0075】
図5に示すように、離間距離Tが0.25mm以下である場合には、比較的にチャンネリング割合Raが高かった(70%以上)。離間距離Tが0.3mm以上である場合には、比較的にチャンネリング割合Raが低かった(20%以下)。このように、離間距離Tが0.3mm以上である場合に、チャンネリング割合Raを大幅に低減できた。また、離間距離Tが0.35mm以上である場合には、チャンネリング割合Raは、ほとんどゼロ%であった。以上により、離間距離Tは、0.3mm以上が好ましく、0.35mm以上が、特に好ましい。
【0076】
B−3.第3評価試験:
図6は、第3評価試験の結果を示すグラフである。横軸は、距離差分Db−Da(単位はmm)を示し、縦軸は、飛火割合Rb(単位は%)を示している。第3評価試験は、第1評価試験と同じ点火システム900(
図1)を用いて、行われた。スパークプラグ100のサンプルは、第1評価試験と同じくガス流G1が間隙gを通り抜ける環境下に配置された。飛火割合Rbは、以下のように算出された。まず、高速度カメラを用いて100回の放電の経路を撮影した。そして、撮影された画像を観察することによって、接合部230への飛火が観測された放電の回数をカウントした。100回に対するカウントされた数の割合が、飛火割合Rbである。この評価試験では、距離差分Db−Daが異なる6種類のサンプルが用いられた。評価された距離差分Db−Daは、−0.3、−0.2、−0.1、0、0.1、0.2、0.3、0.4(mm)の8個の値であった。距離差分Db−Daの調整は、第2距離Dbを調整することによって、行われた。第2距離Dbの調整は、第1チップ部28のうちの絶縁体10の先端(ここでは、先端面10h)よりも後端方向D1r側の部分の長さ、すなわち、第4位置Uを調整することによって、行われた。なお、以下のパラメータは、6種類のサンプルに共通であった。
ガス流G1の流速 :10m/sec
突出長L :1mm
第1チップ部28の外径Dd(
図4) :0.7mm
電源回路600の出力エネルギー :100mJ
離間距離T :0.4mm
基準距離DP :5mm
【0077】
図6に示すように、第2距離Db−Daが−0.1mm以上である場合には、飛火割合Rbを80%以下に抑制することができた。また、第2距離Db−Daが−0.1mm以下である場合には、比較的に飛火割合Rbが高かった(80%以上)。距離差分Db−Daが0mm以上である場合には、比較的に飛火割合Rbが低かった(20%以下)。このように、距離差分Db−Daが0mm以上である場合に、飛火割合Rbを大幅に低減できた。また、距離差分Db−Daが0.3mm以上である場合には、飛火割合Rbは、ほとんどゼロ%であった。以上により、距離差分Db−Daは、0mm以上が好ましく、0.3mm以上が特に好ましい。なお、距離差分Db−Daの上限としては、評価された距離差分Db−Daのうちの上記の好ましい下限値以上の任意の値を採用可能である。例えば、距離差分Db−Daとしては、0.4mm以下の値を採用可能である。なお、評価された値の最大値(すなわち、0.4mm)よりも大きな距離差分Db−Daも、良好な飛火割合Rbを実現できると推定される。なお、第1チップ部28の折損を抑制するためには、第1チップ部28の長さ、ひいては、距離差分Db−Daが小さいことが好ましい。例えば、距離差分Db−Daが3mm以下であることが好ましい。
【0078】
C.第2実施例:
図7は、第2実施例のスパークプラグ100bの概略図である。図中には、スパークプラグ100bのうちの
図4と同じ部分の断面図が示されている。
図4の第1実施例との差異は、絶縁体10bの先端部(脚部13bの先端部)に、内径が先端方向D1側に向かって徐々に大きくなる拡内径部14が形成されている点だけである。スパークプラグ100bの他の構成は、第1実施例のスパークプラグ100の構成と、同じである。以下、スパークプラグ100bの要素のうちスパークプラグ100の要素と同じ要素には、同じ符号を付して、説明を省略する。
【0079】
図7に示すように、第2実施例では、拡内径部14が形成されることにより、絶縁体の先端面10h(
図4)が省略されている。このかわりに、絶縁体10bは、
図7の断面において尖った頂点を形成する先端10pを有している。
図7の例では、絶縁体10bの先端10pは、拡内径部14の先端と同じである。突出長Lは、中心電極20のうち絶縁体10bの先端10pよりも先端方向D1側の部分の中心軸CLと平行な方向の長さである。
【0080】
図中には、4個の位置P、R、S、Uと直線Lprbとが示されている。第1位置Pと第4位置Uとは、
図4の第1位置Pと第4位置Uと、それぞれ同じである。直線Lprbは、第1位置Pを通り、かつ、絶縁体10bの輪郭(中心軸CLよりも第1位置P側の輪郭)の先端側の部分と一カ所で接する直線である。
図7の実施例では、直線Lprbは、第1位置Pと先端10pとを通る直線である。第3位置Sは、直線Lprbと、中心電極20の表面(中心軸CLよりも第1位置P側の表面)とが交わる位置である。なお、中心軸CLに対する拡内径部14の傾きによっては、直線Lprbが拡内径部14の後端(後述する第2位置R)を通る場合もある。
【0081】
第2位置Rについては、以下の通りである。
図7の実施例では、軸孔12bの径は、先端方向D1の位置に応じて変化する(特に、拡内径部14)。ここで、絶縁体10bの第1チップ部28を収容する部分のうちの内径が最も小さい部分を径小部と呼ぶ。絶縁体10bの第1チップ部28を収容する部分は、中心軸CLと垂直な方向に第1チップ部28と絶縁体10bとを投影した場合に、絶縁体10bのうちの第1チップ部28の後端方向D1r側の端28erから先端方向D1側の部分である。また、
図7の例では、絶縁体10bの第1チップ部28を収容する部分のうちの拡内径部14の後端方向D1r側の部分10qが、径小部に対応する(以下、径小部10qと呼ぶ)。
【0082】
第1チップ部28の側面28sで放電が生じる場合には、この径小部10qの内周面の先端方向D1側の縁10qeと中心電極20との間の位置関係が、チャンネリングと接合部230への飛火とに大きな影響を与え得る。例えば、縁10qeが第1チップ部28の側面28sに近い場合には、絶縁体10の縁10qeを通る放電(すなわち、チャンネリング)が生じ易い。逆に、縁10qeが第1チップ部28の側面28sから遠い場合には、チャンネリングが生じ難い。従って、離間距離Tの基準としては、径小部10qの縁10qeを採用可能である。また、縁10qeが、接合部230に近い場合には、接合部230への飛火が生じ易い。従って、距離Da、Dbの基準としては、縁10qeを採用可能である。
【0083】
以上により、絶縁体10bの内径が先端方向D1の位置に応じて変化する場合には、距離T、Da、Dbの基準となる第2位置Rとしては、径小部10qの先端方向D1側の縁である内側縁10qeの位置を採用する。
図7の実施例のように、このような第2位置Rよりも後端方向D1r側に第4位置Uを配置することによって、接合部230への飛火を抑制できる。また、離間距離Tの上記の好ましい範囲と、距離差分Db−Daの上記の好ましい範囲と、のそれぞれを、
図7のような実施例に適用可能と推定される。なお、
図4に示す第1実施例では、絶縁体10の第1チップ部28を収容する部分10rの全体が径小部に対応する。そして、軸孔12を形成する内周面の先端方向D1側の縁(
図4中の第2位置R)が、内側縁に対応する。
【0084】
C.変形例:
(1)チャンネリングの可能性は、主に、離間距離Tから大きな影響を受けると推定される。他のパラメータ(例えば、距離差分Db−Da、外径Dd等)の影響は、離間距離Tの影響と比べて、小さいと推定される。従って、離間距離Tが上記の好ましい範囲内である場合には、他のパラメータに拘わらず、チャンネリングを抑制できると推定される。
【0085】
また、接合部230への飛火の可能性は、主に、距離差分Db−Daから大きな影響を受けると推定される。他のパラメータ(例えば、離間距離T、外径Dd等)の影響は、距離差分Db−Daの影響と比べて、小さいと推定される。従って、距離差分Db−Daが上記の好ましい範囲内である場合には、他のパラメータに拘わらず、接合部230への飛火を抑制できると推定される。
【0086】
なお、離間距離Tが上記の好ましい範囲内である第1条件と、距離差分Db−Daが上記の好ましい範囲内である第2条件と、の両方を満たすようにスパークプラグを構成することによって、スパークプラグの耐久性を更に向上可能である。ただし、スパークプラグが第1条件と第2条件とのいずれか一方を満たさずに他方のみを満たす場合も、両方が満たされない場合と比べて、スパークプラグの耐久性を向上できる。
【0087】
(2)上記の各評価試験では、突出長Lが1mmであったが、突出長Lとしては、1mm以外の種々の値を採用可能である。例えば、1mm未満の値(例えば、0.5mm)を採用してもよい。また、1mmを超える値(例えば、2mm)を採用してもよい。一般には、突出長Lが大きいほど、チャンネリングの可能性と接合部230への飛火の可能性とを低減できる。従って、突出長Lが1mm以上であることが好ましい。また、第1チップ部28の折損を抑制するためには、突出長Lが短いことが好ましい。例えば、突出長Lとしては、5mm以下の値を採用することが好ましい。いずれの場合も、離間距離Tを上記の好ましい範囲内に設定することによって、チャンネリングの可能性を低減できると推定される。また、距離差分Db−Daを上記の好ましい範囲内に設定することによって、接合部230への飛火を抑制できると推定される。
【0088】
(3)上記の各評価試験では、第1チップ部28の外径Ddが0.7mmであったが、外径Ddとしては、0.7mm以外の種々の値を採用可能である。例えば、0.7mm未満の値(例えば、0.3mm)を採用してもよい。また、0.7mmを超える値(例えば、1mm)を採用してもよい。一般には、第1チップ部28の外径Ddが大きいほど、チップ部の消耗に起因して間隙gが拡がることを抑制できる。従って、外径Ddが、0.7mm以上であることが好ましい。また、スパークプラグが大きくなることを抑制するためには、外径Ddが小さいことが好ましい。例えば、外径Ddが4mm以下であることが好ましい。いずれの場合も、離間距離Tを上記の好ましい範囲内に設定することによって、チャンネリングの可能性を低減できると推定される。また、距離差分Db−Daを上記の好ましい範囲内に設定することによって、接合部230への飛火を抑制できると推定される。
【0089】
(4)スパークプラグ100の構成としては、
図2、
図3、
図4、
図7に示す構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。例えば、脚部25と第1チップ部28との境界の全体に亘って、接合部230が形成されていてもよい。また、接地電極30の第2チップ部38が省略されてもよい。
【0090】
(5)電源回路600の構成としては、
図1に示す構成に限らず、スパークプラグに放電用の高電圧を印加可能な他の種々の構成を採用可能である。例えば、いわゆるキャパシター・ディスチャージド・イグニッションを採用してもよい。いずれの場合も、電源回路600からの1個のスパークプラグに対する1回の点火行程における出力エネルギーとしては、内燃機関に適した任意の値を採用可能である。例えば、表1の評価試験で評価された出力エネルギーは、80、90、100、150、200mJであった。これらの出力エネルギーのいずれにおいても、接合部への飛火の可能性のA評価とチャンネリングの可能性のA評価とを実現可能であった。従って、これらの出力エネルギーを含む広い範囲において、適切な着火と、スパークプラグの耐久性の向上とを、実現可能と推定される。ここで、1回の点火行程における1個のスパークプラグに対する出力エネルギーが大きいほど、厳しい条件下(例えば、ガス流G1の流速が速い場合)での着火性を向上できる。例えば、出力エネルギーは、100mJ以上でもよく、150mJ以上でもよく、200mJ以上でもよい。ただし、スパークプラグの寿命を向上するためには、出力エネルギーが小さいことが好ましい。例えば、出力エネルギーが600mJ以下であることが好ましい。また、上記の評価された値から出力エネルギーの上限値を選択してもよい。例えば、出力エネルギーは、200mJ以下でもよく、150mJ以下でもよい。なお、制御装置500は、電源回路600の出力エネルギーを、内燃機関700の運転条件に応じて、変化させてもよい。
【0091】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。