特許第6041841号(P6041841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6041841
(24)【登録日】2016年11月18日
(45)【発行日】2016年12月14日
(54)【発明の名称】エピラム被覆された耐性が高い製品
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20161206BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20161206BHJP
   C10M 105/76 20060101ALI20161206BHJP
   C10M 139/04 20060101ALI20161206BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20161206BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20161206BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20161206BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20161206BHJP
【FI】
   B32B9/00 Z
   B32B9/00 A
   B32B15/04 Z
   C10M105/76
   C10M139/04
   C23C14/08 A
   C23C16/40
   C10N30:00 Z
   C10N40:00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-216893(P2014-216893)
(22)【出願日】2014年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-85692(P2015-85692A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2014年10月24日
(31)【優先権主張番号】13190495.5
(32)【優先日】2013年10月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・リシャール
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ルトンドール
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−511099(JP,A)
【文献】 特開2002−146271(JP,A)
【文献】 特開2009−180664(JP,A)
【文献】 特開平05−341106(JP,A)
【文献】 特開昭63−296002(JP,A)
【文献】 特開平02−061592(JP,A)
【文献】 特開昭62−096665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
B32B 15/04
C10M 105/76
C10M 139/04
C23C 14/08
C23C 16/40
C10N 30/00
C10N 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピラム(30)が堆積される基材(20)を有するエピラム被覆された計時器ムーブメント用の製品(10)であって、
前記基材と前記エピラムの間に位置し、前記エピラムと化学親和性を有する付着層(40)をさらに有し、
これによって、前記エピラムと前記基材が化学結合を介してお互いをフックすることができる
ことを特徴とするエピラム被覆された製品(10)。
【請求項2】
前記エピラム(30)は、アンカー部分(30a)及び機能的部分(30b)を少なくとも有し、
前記付着層は、前記アンカー部分と化学親和性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記化学結合の種類は、共有結合である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製品。
【請求項4】
前記化学結合の種類は、水素結合である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の製品。
【請求項5】
前記アンカーはシラン型であり、前記付着層(40)は酸化物である
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の製品。
【請求項6】
前記付着層(40)の酸化物は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、及びこれらの要素の組み合わせからなる群から選択される酸化物である
ことを特徴とする請求項5に記載の製品。
【請求項7】
前記基材は、前記エピラムとの化学親和性が低い
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の製品。
【請求項8】
前記基材(20)は重合体である
ことを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項9】
前記基材(20)は、ロジウム又は金のメッキ表面を有する
ことを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項10】
前記付着層(40)は、前記基材の美的外観を害さないように、目に見えず、前記基材が下に存在することを見せる
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の製品。
【請求項11】
前記付着層の厚みは1〜500nmである
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の製品。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のエピラム被覆された製品を有する計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピラム膜が堆積された金又はロジウムのような脆弱な基材を有する製品に関する。
【背景技術】
【0002】
計時器ムーブメントの適正な動作は、数ある要因の中でも、潤滑に依存している。潤滑剤の耐久性は、動作領域において潤滑剤が維持されるかどうかに依存する。計時器の製造業者は皆、潤滑剤が少量でもあれば、きれいな部分に迅速に広まることを観測している。潤滑剤の表面張力が、潤滑剤が配置される基材のものよりも高い場合、潤滑剤はそのまま残る。潤滑剤の表面張力が低すぎると、潤滑剤は徐々に動いてその場にとどまらない。
【0003】
これを克服するために、基材がエピラム(epilame)で被覆される。これを達成するために、一般に、目に見えない疎水性で撥油性の分子層の形態であるエピラム膜が堆積され、潤滑剤とその成分のいかなる微小運動をも防ぐ。
【0004】
このエピラムは、基材の見かけの表面張力を変える製品である。実際に、エピラムが潤滑剤を捕捉して潤滑剤がそのまま残るか、又は、エピラムが潤滑剤を追い出して潤滑剤が明確に定められた領域内に維持される。
【0005】
エピラムには、以下の2つのカテゴリーがある。「機械的」なエピラムは、基材に機械的に固定され、「化学的」なエピラムは、一般に、アンカー部分(基材に対する化学的な付着を促進する)及び機能的部分(例えば、フッ化処理された要素によって、エピラムの力を分子に与える)の2つの部分で形成される。
【0006】
現在の1つの欠点は以下の事象に由来する。すなわち、機械的なエピラムは、清浄動作に対する本来的な耐性が低いということである(表面に対しての化学的な付着性が、必ずしもそのために最適化されていないので、貧弱であるということであり、これは、化学的な表面の性質によって金やロジウムに対しては付着性がより弱い)。攪拌、清浄漕、溶液温度などが、機械的なエピラムの劣化に影響を与える。図1では、エピラム3に適さない基材2を有する製品1を示す。この基材2は、潤滑剤5を乗せる必要がある。
【0007】
領域Aでは、基材2上にエピラム3が置かれ、これによって、潤滑剤が基材2上に保持されることが可能になっている。領域Bは、計時器の清浄動作を経た同じ基材2を示している。ここでは、エピラム3が存在しないことに留意されたい。
【0008】
現在使用されている化学的なエピラムは、例えば、シラン(silane)のアンカーを有するエピラムである。このエピラムが鋼製の基材上に堆積されると、自然に存在している表面上の酸化物が、シランアンカーとこの表面の酸化物の間に共有結合ないし強い付着を与える。
【0009】
化学的なエピラムについては、基材が脆弱な場合に欠点が発生する。脆弱な基材の例としては、金、ロジウム又はプラスチックで作られている基材がある。その場合には、表面の酸化物に付着しがちである通常のエピラムアンカー(シランアンカー)は、低い化学親和性のために、金又はロジウム製のメッキ表面に化学的に付着することができない。したがって、基材上の塗料の層のアンカーと同様な機械的なアンカーのみが達成され、この種の基材は、計時器の清浄動作に対して十分な耐性を与えない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術の欠点を克服するエピラム被覆された製品に関する。すなわち、エピラム又は分子エピラムの被覆が基材の性質にかかわらず計時器の清浄動作に耐性があるような製品を提供することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このために、本発明は、エピラムが堆積された基材を有するエピラム被覆された製品に関し、この製品は、基材とエピラムの間に位置し、エピラムと化学親和性を有する付着層をさらに有し、エピラムと基材は、化学結合によって連結することができる。
【0012】
第1の実施形態において、エピラムは、アンカー部分及び機能的部分を有し、付着層は、アンカー部分と化学親和性を有する。
【0013】
第2の実施形態において、アンカーはシラン型であり、付着層は酸化物である。
【0014】
第3の実施形態において、付着層の酸化物は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、及びこれらの要素の組み合わせからなる群から選択される酸化物である。
【0015】
第4の実施形態において、前記基材は、エピラムと化学親和性が低い。
【0016】
別の一実施形態において、基材は重合体である。
【0017】
別の一実施形態において、基材は、ロジウム又は金のめっき基材を有する。
【0018】
別の一実施形態において、付着層は、基材の美的外観が害されないように、目に見えず、基材が下に存在することを見せる。
【0019】
別の一実施形態において、付着層の厚みは1〜500nmである。
【0020】
別の一実施形態において、化学結合の種類は、共有結合である。
【0021】
別の一実施形態において、化学結合の種類は、水素結合である。
【0022】
本発明は、さらに、本発明に係るエピラム被覆された製品を有する計時器に関する。
【0023】
本発明の目的、利点及び特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態(限定されない例としてのみ提供されている)についての以下の詳細な説明及び添付図面において、より明白に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、従来技術に係るエピラム被覆された製品についての概略図である。
図2図2は、本発明に係るエピラム被覆された製品についての概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図2は、本発明に係るエピラム被覆された製品10を示す。この製品10は基材20を有する。この基材20の上にエピラム30又はエピラム分子層が配置されて製品となる。この製品10は、ブリッジ又は主板のような計時器ムーブメントの一部であることである。この製品10は、さらに、オルゴールのような微小機械的な物の一部であることである。もちろん、この製品は、エピラムを使用するすべての用途に適していることでもよい。以下の説明においては、計時器の用途を使用する。
【0026】
基材20は、第1の材料で作られており、これは、鋼又は黄銅のような既知の計時器製造のための材料であることである。
【0027】
化学的なエピラム層30は、基材上に堆積しなければならない。化学的なエピラム30は、一般に、基材20に対する化学的な付着を促進するアンカー30aと呼ばれる部分と、例えば、フッ素で処理される要素によって、分子にエピラムの力を与える機能体30bと呼ばれる部分との2つの部分で形成されている。
【0028】
基材の性質にかかわらず基材20に対するエピラム30の良好な付着を確実にするために、本発明は、図2に示すように、基材20とエピラム30の間に位置する付着層40を設けることを伴う。
【0029】
好ましいことに、この付着層40は、任意の種類の基材との良好な親和性の特性、及びエピラム30との良好な親和性を有し、これによって、付着層40とエピラム30の間の接続が強くなる。このような基材20及びエピラム30に対する付着層40の親和性が、基材20の性質にかかわらず、基材20に対するエピラム30の良好な付着性を与える。図2に示した×印60は、基材20と付着層40の間の親和性が強い付着性を与えることを示している。
【0030】
付着層は、選択されたエピラムに従って選択される。実際に、基材20に対する化学的な付着性を促進するアンカー30aと呼ばれる部分は普遍的ではなく、したがって、すべての基材20と反応するようなアンカーはない。したがって、良好な親和性を達成するために、アンカー30a及び付着層40を構成する必要がある。
【0031】
例えば、通常のアンカーは、以下の構造を有するシランアンカー30aである。
【化1】
【0032】
ここで、R1は、C1−C18アルコキシル基又はC5−C18シクロアルコキシル基であり、好ましくは特にメトキシル基又はエトキシル基であるC1−C4アルコキシル基、水酸基及びハロゲン基から選択される基であり、好ましくは塩素基である。
【0033】
R2とR3は、同じであっても異なっていてもよく、C1−C18アルコキシル基又はC5−C18シクロアルコキシル基であり、好ましくは、特にメトキシル基又はエトキシル基であるC1−C4アルコキシル基、水酸基、好ましくは塩素基であるハロゲン基、水素原子、C1−C10の直鎖型又は分岐型のアルキル基のラジカル、C5−C18シクロアルキル基、及びC6−C18アリル基から選択された基であり、好ましくは、C1−C4アルキル基であり、さらに好ましくは、メチル基又はエチル基のラジカルである。
【0034】
これらのシランアンカー30aは、表面の酸化物との良好な親和性を有する。そして、付着層40を酸化物で形成することができる。これは、例えば、酸化ケイ素SiO2、アルミナ又は酸化アルミニウムAl23、二酸化チタンTiO2、又はこれらの3つの要素の組み合わせである。この種の付着層40のために、リン酸又はカテコール誘導体の種類のアンカー30aを用いることもできる。このことによって、2つの原子がこれらの外側の層の2つの電子(同じ種類の原子のそれぞれからの1つの電子又は2つの電子)を共有するような種類の共有結合をもたらし、これら2つの原子の間に電子対を形成する。
【0035】
もちろん、他の種類の結合も可能であり、水素原子がヘテロ原子(例、アミン類、アルコール類、チオール類)と結合しているものである酸Hを有する化合物のドナーと、及び非共有電子対を有するヘテロ原子(窒素、酸素又はフッ素のみ)を有する受容体とを結合させるのに用いられる水素結合の種類も可能である。
【0036】
したがって、シランアンカーを有するエピラム30に貧弱な付着しか本来与えないような脆弱な基材20を有するエピラム被覆された製品を作ることは可能になる。これは、例えば、重合体のようなプラスチック材料又は金やロジウムでメッキされた材料で作られたものである。これらの基材は、実際に、シランを有するエピラム30を留める表面酸化物をもたない。基材20は、さらに、金又はロジウムのメッキ表面を有する鋼金属型の基材であることができる。
【0037】
このようなエピラム被覆された製品10を作成するために、第1のステップは、基材20を用意することを伴う。すなわち、エピラム30で被覆される部分を作る。
【0038】
基材20を得ると、堆積ステップが実行される。この堆積ステップは、基材20上に付着層40を堆積することを伴う。これを達成するために、いくつかの方法を使用することができる。
【0039】
第1の方法は、真空技術下の蒸発技術を用いることを伴う。この真空技術下の蒸発技術は、以下の2つの基本的なプロセスに依存する。すなわち、加熱された源からの蒸発と、及び基材上の蒸発された物質の固体状態への凝結である。蒸発が真空下で発生する。すなわち、気体環境においては、堆積する蒸気とは別に、非常にわずかな粒子状物質しか含有しない。これらの条件において、材料の粒子状物質は、他の粒子状物質(例、10-4Paの真空では、直径0.4nmである粒子は、60mの平均自由移動距離を有し、これは、すなわち、別の粒子と衝突する前に平均60mを移動することができることを意味する)と衝突せずに、ターゲットまで伝わることができる。実際に、蒸発時の異なる原子の衝突は、要求された析出の性質を変更しがちであるような反応を発生させることがある。例えば、酸素がある状態では、アルミニウムが酸化アルミニウムを形成する。この現象は、さらに、堆積した蒸気の量を減少させることがある。
【0040】
別の方法は、フラッシュ蒸発法を使用することを伴う。フラッシュ蒸発法において、堆積される材料は、ワイヤーの形態にしており、これは、非常に熱いセラミックスの棒との接触によって、絶えず巻きを解かれ堆積される。
【0041】
使用される別の方法として、原子層堆積(ALD)がある。この方法は、薄い原子層を堆積する方法である。その原理は、超薄の層を得るために、一連の異なる化学的な母体物質に表面を露出させることを伴う。
【0042】
このようにして、堆積された付着層が基材に付着する。堆積された層の厚みは、約1〜500nmである。
【0043】
そして、最後のステップは、必要とされる領域上に一滴ほどのエピラム3を堆積させることを伴う。
【0044】
本発明の第1の変形例によれば、付着層40は、目に見える又は透過性を有するように構成する。すなわち、付着層40が存在しても基材を見えるようにする。この特徴によって、基材の外観の質を下げずに、付着層に40を設けることが可能になる。実際に、金又はロジウムをめっきした基材20の利点は、優れた視覚的な効果を有することである。したがって、この効果を、基材20を隠す層を設けて、劣化してはならない。
【0045】
上記の本発明の様々な実施形態に対して、添付した請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱せずに、当業者にとって明らかな様々な変更、及び/又は改善、及び/又は組み合わせを行うことができることは明らかであろう。
図1
図2