(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤは、樹脂材料で形成され且つ環状のタイヤ骨格体を有し、前記樹脂材料の損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下である。
【0012】
本発明のタイヤによれば、タイヤ骨格体に含まれる樹脂材料の損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下であるため、低温(例えば、0℃以下)での優れた耐衝撃性を発揮することができる。さらに、タイヤが樹脂材料で形成されているため、従来のゴム製タイヤで必須工程であった加硫工程を必須とせず、例えば、射出成形等でタイヤ骨格体を成形することができる。更に、樹脂材料をタイヤ骨格体に用いると、従来のゴム製タイヤに比してタイヤの構造を簡素化でき、その結果、タイヤの軽量化を実現することが可能となる。
また、一般に樹脂材料を用いたタイヤは、外部からの衝撃によって表面に微少な気泡が生じ、衝撃を受けた箇所が白化する場合がある。このようにタイヤ表面に衝撃による白化が発生するとタイヤの美観が損なわれてしまう。これに対し、本発明のタイヤは、衝撃による白化の発生に対する抑制効果が高い。
【0013】
前記樹脂材料の「損失係数(tanδ)」とは、20Hz,せん断歪み1%における損失係数を意味する(以下、単に「tanδ」と称する場合がある。)。損失係数(tanδ)は、貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G”)との比(G”/G‘)から算出される値であり、材料が変形する際にその材料がどの程度のエネルギーを吸収するか(熱に変わるか)を示す値である。tanδは、値が大きい程エネルギーを吸収するため、タイヤとしての転がり抵抗が増大し、結果としてタイヤの燃費性能低下の要因となる。尚、樹脂材料のtanδは、動的粘弾性測定装置(Dynamic−Mechanical Analysis:DMA)等で測定することができる。
【0014】
また、「損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下」とは、上述のようにして測定される樹脂材料の20Hz,せん断歪み1%における損失係数のピークが30℃以下の温度範囲において発生していることを意味する。本明細書を通じて損失係数(tanδ)の「ピーク温度」と称した場合には、損失係数(tanδ)のピークが発生している温度のことを指す。また、前記樹脂材料が、複数種類の熱可塑性エラストマーや、更にエラストマーではない熱可塑性樹脂を含む場合などにおいては、損失係数(tanδ)のピーク複数生じる場合がある。この場合においては、少なくとも一つの損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下であればよい。
損失係数(tanδ)のピーク温度の測定条件としては、例えば、測定温度範囲:−100℃〜150℃、昇温速度:6℃/min、周波数:20Hz、歪:1%に設定し、測定値に基づき温度カーブを描いて損失係数(tanδ)がピークとなる温度をピーク温度とすることができる。
【0015】
前記樹脂材料の損失係数(tanδ)のピーク温度は、0℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることが更に好ましい。前記ピーク温度がこれらの範囲にあると、低温環境下において十分な耐衝撃性を発生できると共に、白化の発生抑制効果を効果的に奏することができる。また、前記ピーク温度の下限については特に問題はないが、通常使用域(30℃プラスマイナス20℃の範囲)における剛性を担保する観点から、−80℃以上が好ましく、−60℃以上が更に好ましい。
【0016】
また、前記タイヤ骨格体に含まれる樹脂材料の下記式(X)から導き出せるΔtanδは小さい方が好ましく、0<Δtanδ≦5.2×10
−4であることが更に好ましい。
【0017】
式(X):Δtanδ=(tanδ
max(T)−tanδ
max−10℃(T))/(T
maxtanδ−T
maxtanδ−10℃)=(tanδ
max(T)−tanδ
max−10℃(T))/10
【0018】
上記式(X)において、tanδ
max(T)は前記ピーク温度における損失係数(tanδ);tanδ
max−10℃(T)は{前記ピーク温度−10℃}における損失係数(tanδ):T
maxtanδは前記ピーク温度;T
maxtanδ−10℃は{前記ピーク温度−10℃}を表す。
【0019】
前記Δtanδは、温度の上昇に対する損失係数(tanδ)を示したグラフにおいて、{前記ピーク温度−10℃}から前記ピーク温度における2点間の損失係数(tanδ)の傾き(勾配)を意味する。Δtanδが大きいと、樹脂材料のガラス転移温度(Tg)(前記グラフにおけるtanδのカーブの頂点(ピーク))において樹脂材料の物性(固さ)が急激に変化してしまう場合がある。通常タイヤの内圧や車体の構成は温度によって普遍であるため、路面からの衝撃吸収等の関係から、樹脂材料のガラス転移温度以下でタイヤを使用した場合にタイヤの物性は急激に変化しないことが好ましい。このため、上述のように、<Δtanδ≦5.2×10
−4を満たすと、低温状況下における衝撃吸収性の急激な変化を少なくすることができ、更に衝撃による白化の発生に対する抑制効果を向上させることができる。
上述のΔtanδの測定は、動的粘弾性測定装置(Dynamic−Mechanical Analysis:DMA)等を用いることができる。具体的には、損失係数(tanδ)のピーク温度の測定条件を、測定温度範囲:−100℃〜150℃、昇温速度:6℃/min、周波数:20Hz、歪:1%に設定し、測定値に基づき温度カーブを描いて損失係数(tanδ)のピーク温度を測定することでΔtanδを算出することができる。
【0020】
以下、本発明におけるタイヤ骨格体に含まれる樹脂材料について説明し、続いて本発明のタイヤの具体的な実施形態について図を用いて説明する。
【0021】
[樹脂材料]
本発明における樹脂材料は樹脂を含むものであるが、当該樹脂は前記樹脂材料の損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下になるように選択される。
本発明において、「樹脂材料」は、樹脂(樹脂成分)を少なくとも含み、添加剤など他の成分を含んでいてもよい。前記樹脂材料が樹脂成分以外の成分を含有しない場合、樹脂材料は樹脂のみで構成されることとなる。
【0022】
また、本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含む概念であるが、天然ゴムは含まない。さらに、熱可塑性樹脂には、熱可塑性エラストマーが含まれる。
ここで、「エラストマー」とは、結晶性で融点の高いハードセグメント若しくは高い凝集力のハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる樹脂を意味する。
【0023】
〔樹脂〕
前記樹脂としては、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)及び熱硬化性樹脂等が挙げられる。前記樹脂材料は、例えば、後述の熱可塑性エラストマーを単独で用いてもよいし、これらを複数組み合わせて含んでいてもよいし、熱可塑性エラストマーとエラストマーではない熱可塑性樹脂との組合せを含んでいてもよい。樹脂材料が単一の樹脂のみを含む場合は、その樹脂の損失係数(tanδ)のピーク温度が樹脂材料のピーク温度となる。特に、前記樹脂が熱可塑性エラストマーの場合には、樹脂材料の損失係数(tanδ)のピーク温度は、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントの損失係数(tanδ)に依存しやすい。前記樹脂は前記樹脂材料の損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下になるように選択されるが、複数の樹脂を組み合わせて用いた結果樹脂材料が複数のピーク温度を示す場合には、これらを含む樹脂材料の損失係数(tanδ)の少なくとも1つのピーク温度が30℃以下となるように各種樹脂が選択される。
【0024】
前記タイヤ骨格体を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂が好ましく、熱可塑性エラストマーであることが更に好ましい。以下、熱可塑性樹脂を中心に、前記タイヤ骨格を形成する樹脂材料に用いられる樹脂について説明する。
【0025】
−熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)−
熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)とは、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になる高分子化合物をいう。
本明細書では、このうち、前記熱可塑性樹脂の中で、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有する高分子化合物を熱可塑性エラストマーとする。これに対し、前記熱可塑性樹脂の中で、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になるが、ゴム状弾性有しない高分子化合物をエラストマーでない熱可塑性樹脂として、区別する。
【0026】
熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)としては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、及び、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)、並びに、エラストマーでないポリオレフィン系熱可塑性樹脂、エラストマーでないポリスチレン系熱可塑性樹脂、エラストマーでないポリアミド系熱可塑性樹脂、及び、エラストマーでないポリエステル系熱可塑性樹脂等が挙げられる。前記樹脂材料に含まれる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリアミド系熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0027】
(ポリエステル系熱可塑性エラストマー)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリエステルが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル又はポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーを「TPC」(ThermoPlastic polyester elastomer)と称することもある。
【0028】
前記ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、芳香族ポリエステルを用いることができる。芳香族ポリエステルは、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。前記芳香族ポリエステルとしては、好ましくは、テレフタル酸及び又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートであり、更に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、或いはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールなどから誘導されるポリエステル、或いはこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分及び多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
前記ハードセグメントを形成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、プリブチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0029】
また、前記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリエーテルが挙げられる。
前記脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体等が挙げられる。
前記脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
これらの脂肪族ポリエーテル及び脂肪族ポリエステルのなかでも、得られるポリエステルブロック共重合体の弾性特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが好ましい。
【0030】
また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、300〜6000が好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、99:1〜20:80が好ましく、98:2〜30:70が更に好ましい。
【0031】
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でもハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメント脂肪族ポリエーテルの組み合わせが好ましく、ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントがポリ(エチレンオキシド)グリコールが更に好ましい。
【0032】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の東レ・デュポン製の「ハイトレル」シリーズ(例えば、3046、5557、6347、4047、4767、7247等)、東洋紡社製「ペルプレン」シリーズ(P30B、P40B、P40H、P55B、P70B、P150B、P280B、P450B、P150M、S1001、S2001、S5001、S6001、S9001等))を用いることができる。
【0033】
(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)
本発明において、「ポリアミド系熱可塑性エラストマー」とは、結晶性で融点の高いハードセグメントを構成するポリマーと非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成するポリマーとを有する共重合体からなる熱可塑性樹脂材料であって、ハードセグメントを構成するポリマーの主鎖にアミド結合(−CONH−)を有するものを意味する。
ポリアミド系熱可塑性エラストマーを、単に「TPA」(ThermoPlastic Amid elastomer)と称することもある。
【0034】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリアミドが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリエステル又はポリエーテル等)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。また、ポリアミド系熱可塑性エラストマーはハードセグメント及びソフトセグメントの他に、ジカルボン酸等の鎖長延長剤を用いてもよい。前記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、例えば、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーによって生成されるポリアミドを挙げることができる。
【0036】
一般式(1)中、R
1は、炭素数2〜20の炭化水素の分子鎖、又は、炭素数2〜20のアルキレン基を表す。
【0038】
一般式(2)中、R
2は、炭素数3〜20の炭化水素の分子鎖、又は、炭素数3〜20のアルキレン基を表す。
【0039】
一般式(1)中、R
1としては、炭素数3〜18の炭化水素の分子鎖又は炭素数3〜18のアルキレン基が好ましく、炭素数4〜15の炭化水素の分子鎖又は炭素数4〜15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10〜15の炭化水素の分子鎖又は炭素数10〜15のアルキレン基が特に好ましい。また、一般式(2)中、R
2としては、炭素数3〜18の炭化水素の分子鎖又は炭素数3〜18のアルキレン基が好ましく、炭素数4〜15の炭化水素の分子鎖又は炭素数4〜15のアルキレン基が更に好ましく、炭素数10〜15の炭化水素の分子鎖又は炭素数10〜15のアルキレン基が特に好ましい。
前記一般式(1)又は一般式(2)で表されるモノマーとしては、ω−アミノカルボン酸やラクタムが挙げられる。また、前記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、これらω−アミノカルボン酸やラクタムの重縮合体や、ジアミンとジカルボン酸との共縮重合体等が挙げられる。
【0040】
前記ω−アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、10−アミノカプリン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などの炭素数5〜20の脂肪族ω−アミノカルボン酸等を挙げることができる。また、ラクタムとしては、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタム、ウデカンラクタム、ω−エナントラクタム、2−ピロリドンなどの炭素数5〜20の脂肪族ラクタムなどを挙げることができる。
前記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、3−メチルペンタメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどの炭素数2〜20の脂肪族ジアミンなどのジアミン化合物を挙げることができる。また、ジカルボン酸は、HOOC−(R
3)m−COOH(R
3:炭素数3〜20の炭化水素の分子鎖、m:0又は1)で表すことができ、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
前記ハードセグメントを形成するポリアミドとしては、ラウリルラクタム、ε−カプロラクタム又はウデカンラクタムを開環重縮合したポリアミドを好ましく用いることができる。
【0041】
また、前記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリエーテルが挙げられ、例えば、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ABA型トリブロックポリエーテル等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を用いることができる。また、ポリエーテルの末端にアニモニア等を反応させることによって得られるポリエーテルジアミン等を用いることができる。
ここで、「ABA型トリブロックポリエーテル」とは、下記一般式(3)に示されるポリエーテルを意味する。
【0043】
一般式(3)中、x及びzは、1〜20の整数を表す。yは、4〜50の整数を表す。
【0044】
前記一般式(3)において、x及びzとしては、それぞれ、1〜18の整数が好ましく、1〜16の整数が更に好ましく、1〜14の整数が特に好ましく、1〜12の整数が最も好ましい。また、前記一般式(3)において、yとしては、それぞれ、5〜45の整数が好ましく、6〜40の整数が更に好ましく、7〜35の整数が特に好ましく、8〜30の整数が最も好ましい。
【0045】
前記ハードセグメントと前記ソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でも、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリエチレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリプロピレングリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ポリテトラメチレンエーテルグリコールの組合せ、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せ、が好ましく、ラウリルラクタムの開環重縮合体/ABA型トリブロックポリエーテルの組合せが特に好ましい。
【0046】
前記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリアミド)の数平均分子量としては、溶融成形性の観点から、300〜15000が好ましい。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200〜6000が好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50〜90:10が好ましく、50:50〜80:20が更に好ましい。
【0047】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0048】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の宇部興産(株)の「UBESTA XPA」シリーズ(例えば、XPA9063X1、XPA9055X1、XPA9048X2、XPA9048X1、XPA9040X1、XPA9040X2XPA9044等)、ダイセル・エポニック(株)の「ベスタミド」シリーズ(例えば、E40−S3、E47−S1、E47−S3、E55−S1、E55−S3、EX9200、E50−R2)等を用いることができる。
【0049】
(ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー)
「ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー」とは、少なくともポリオレフィンが結晶性で融点の高いハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、前記ポリオレフィンないし他のポリオレフィン)が非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。前記ハードセグメントを形成するポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを、単に「TPO」(ThermoPlastic Olefin elastomer)と称することもある。
【0050】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、結晶性のポリオレフィンが融点の高いハードセグメントを構成し、非晶性のポリマーがガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している共重合体が挙げられる。
【0051】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン−α−オレフィンランダム共重合体、オレフィンブロック共重合体等が挙げられ、例えば、プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、1−ブテン−1−ヘキセン共重合体、1−ブテン−4−メチル−ペンテン、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0052】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、プロピレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−4−メチル−1ペンテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、プロピレン−メタクリル酸共重合体、プロピレン−メタクリル酸メチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エチル共重合体、プロピレン−メタクリル酸ブチル共重合体、プロピレン−メチルアクリレート共重合体、プロピレン−エチルアクリレート共重合体、プロピレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体が更に好ましい。
また、エチレンとプロピレンといったように2種以上のポリオレフィン樹脂を組み合わせて使用してもよい。また、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー中のポリオレフィン含率は、50質量%以上100質量%以下が好ましい。
【0053】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量としては、5,000〜10,000,000であることが好ましい。ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーの数平均分子量が5,000〜10,000,000にあると、樹脂材料の機械的物性が十分であり、加工性にも優れる。同様の観点から、7,000〜1,000,000であることが更に好ましく、10,000〜1,000,000が特に好ましい。これにより、樹脂材料の機械的物性及び加工性を更に向上させることができる。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200〜6000が好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)の質量比(x:y)は、成形性の観点から、50:50〜95:5が好ましく、50:50〜90:10が更に好ましい。
【0054】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0055】
また、前記ポリオレフィン熱可塑性エラストマーとしては、熱可塑性エラストマーを酸変性してなるものを用いてもよい。
前記「ポリオレフィン熱可塑性エラストマーを酸変性してなるもの」とは、ポリオレフィン熱可塑性エラストマーに、カルボン酸基、硫酸基、燐酸基等の酸性基を有する不飽和化合物を結合させることをいう。例えば、酸性基を有する不飽和化合物として、不飽和カルボン酸(一般的には、無水マレイン酸)を用いるとき、オレフィン系熱可塑性エラストマーに、不飽和カルボン酸の不飽和結合部位を結合(例えば、グラフト重合)させることが挙げられる。
【0056】
酸性基を有する化合物は、ポリオレフィン熱可塑性エラストマーの劣化抑制の観点からは、弱酸基であるカルボン酸基を有する化合物が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0057】
前記のようなポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の三井化学社製の「タフマー」シリーズ(例えば、A0550S、A1050S、A4050S、A1070S、A4070S,A35070S、A1085S、A4085S、A7090、A70090、MH7007、MH7010、XM−7070,XM−7080、BL4000、BL2481、BL3110、BL3450、P−0275、P−0375、P−0775、P−0180、P−0280、P−0480、P−0680)、三井・デュポンポリケミカル(株)「ニュクレル」シリーズ(例えば、AN4214C、AN4225C、AN42115C、N0903HC、N0908C、AN42012C、N410、N1050H、N1108C、N1110H、N1207C、N1214、AN4221C、N1525、N1560、N0200H、AN4228C、AN4213C、N035C、「エルバロイAC」シリーズ(例えば、1125AC、1209AC、1218AC、1609AC、1820AC、1913AC、2112AC、2116AC、2615AC、2715AC、3117AC、3427AC、3717AC)、住友化学(株)「アクリフト」シリーズ、「エバテート」シリーズ、東ソー(株)「ウルトラセン」シリーズ等を用いることができる。
更に、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品のプライムポリマー製の「プライムTPO」シリーズ(例えば、E−2900H、F-3900H、E−2900、F−3900、J−5900、E−2910、F−3910、J−5910、E−2710、F−3710、J−5710、E−2740、F−3740、R110MP、R110E、T310E、M142E等)等も用いることができる。
【0058】
(ポリスチレン系熱可塑性エラストマー)
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリスチレンがハードセグメントを構成し、他のポリマー(例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリエチレン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン等)がガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。また、ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、加硫されたSBR樹脂等の合成ゴムを用いてもよい。
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーを「TPS」(ThermoPlastic Styrene elastomer)と称することもある。
【0059】
ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、酸基によって変性されている酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、又は、未変性のポリスチレン系熱可塑性エラストマーのいずれをも用いることができる。
【0060】
前記ハードセグメントを形成するポリスチレンとしては、例えば、公知のラジカル重合法、イオン性重合法で得られるものが好適に使用でき、例えばアニオンリビング重合を持つポリスチレンが挙げられる。また、前記ソフトセグメントを形成するポリマーとしては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(2,3−ジメチル−ブタジエン)等が挙げられる。また、酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、後述するように未変性のポリスチレン系熱可塑性エラストマーを酸変性することで得られる。
【0061】
上述のハードセグメントとソフトセグメントとの組合せとしては、上述で挙げたハードセグメントとソフトセグメントとのそれぞれの組合せを挙げることができる。この中でもポリスチレン/ポリブタジエンの組合せ、ポリスチレン/ポリイソプレンの組合せが好ましい。また、熱可塑性エラストマーの意図しない架橋反応を抑制するため、ソフトセグメントは水素添加されていることが好ましい。
【0062】
前記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリスチレン)の数平均分子量としては、5000〜500000が好ましく、10000〜200000が好ましい。
また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、5000〜1000000が好ましく、10000〜800000が更に好ましく、30000〜500000が特に好ましい。更に、前記ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との体積比(x:y)は、成形性の観点から、5:95〜80:20が好ましく、10:90〜70:30が更に好ましい。
【0063】
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン系共重合体[SBS(ポリスチレン−ポリ(ブチレン)ブロック−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン)]、スチレン−イソプレン共重合体[ポリスチレン−ポリイソプレンブロック−ポリスチレン)、スチレン−プロピレン系共重合体[SEP(ポリスチレン−(エチレン/プロピレン)ブロック)、SEPS(ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、SEEPS(ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン)、SEB(ポリスチレン(エチレン/ブチレン)ブロック)等が挙げられ、SEBSが特に好ましい。
【0064】
前記未変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品の旭化成社製の「タフテック」シリーズ(例えば、H1031、H1041、H1043、H1051、H1052、H1053、H1062、H1082、H1141、H1221、H1272)、(株)クラレ製のSEBS(「ハイブラー」5127、5125等)、SEPS(「セプトン」2002、2063、S2004、S2006等)等を用いることができる。
【0065】
−酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマー−
「酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマー」は、未変性のポリスチレン系熱可塑性エラストマーに、カルボン酸基、硫酸基、燐酸基等の酸性基を有する不飽和化合物を結合させて酸変性させたポリスチレン系熱可塑性エラストマーを意味する。酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、例えば、不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸無水物の不飽和結合部位をポリスチレン系熱可塑性エラストマーに結合(例えば、グラフト重合)させることで得ることができる。
【0066】
酸性基を有する(不飽和)化合物としては、ポリアミド系熱可塑性エラストマーの劣化抑制の観点からは、弱酸基であるカルボン酸基を有する化合物が好ましく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等が挙げられる。
【0067】
前記酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、旭化成社製、タフテック、例えば、M1943、M1911、M1913、Kraton社製、FG19181G等が挙げられる。
【0068】
酸変性ポリスチレン系熱可塑性エラストマーの酸価は、0mg(CH
3ONa)/gを超え20mg(CH
3ONa)/g以下であることが好ましく、0mg(CH
3ONa)/gを超え17mg(CH
3ONa)/g以下であることがさらに好ましく、0mg(CH
3ONa)/gを超え15mg(CH
3ONa)/g以下であることが特に好ましい。
【0069】
(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー)
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、少なくともポリウレタンが物理的な凝集によって疑似架橋を形成しているハードセグメントを構成し、他のポリマーが非晶性でガラス転移温度の低いソフトセグメントを構成している材料が挙げられる。
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーを、単に「TPU」(ThermoPlastic Urethan elastomer)と称することもある。
【0070】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、下記構成単位(U−1)で表される単位構造を含むソフトセグメントと、下記構成単位(U−2)で表される単位構造を含むハードセグメントとを含む共重合体として表すことができる。
【0072】
前記構成単位(U−1)及び構成単位(U−2)中、Pは、長鎖脂肪族ポリエーテル又は長鎖脂肪族ポリエステルを表す。Rは、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素を表す。P’は、短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は、芳香族炭化水素を表す。
【0073】
前記構成単位(U−1)中、Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテル及び長鎖脂肪族ポリエステルとしては、例えば、分子量500〜5000のものを使用することができる。前記Pは、前記Pで表される長鎖脂肪族ポリエーテル及び長鎖脂肪族ポリエステルを含むジオール化合物に由来する。このようなジオール化合物としては、例えば、分子量が前記範囲内にある、ポリエチレングリコール、プリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(ブチレンアジベート)ジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、前記ABA型トリブロックポリエーテル〔前記一般式(3)に示されるポリエーテル〕等が挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0074】
前記構成単位(U−1)及び構成単位(U−2)中、前記Rは、前記Rで表される脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素を含むジイソシアネート化合物に由来する。前記Rで表される脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,2−エチレンジイソシアネート、1,3−プロピレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
また、前記Rで表される脂環族炭化水素を含むジイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート及び4,4−シクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。更に、前記Rで表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジイソシアネート化合物としては例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートが挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0075】
前記構成単位(U−2)中、P’ で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、又は、芳香族炭化水素としては、例えば、分子量500未満のものを使用することができる。また、前記P’は、前記P’ で表される短鎖脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素又は芳香族炭化水素を含むジオール化合物に由来する。前記P’で表される短鎖脂肪族炭化水素を含む脂肪族ジオール化合物としては、グリコール及びポリアルキレングリコールが挙げられ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール及び1,10−デカンジオールが挙げられる。
また、前記P’で表される脂環族炭化水素を含む脂環族ジオール化合物としては、例えば、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、及びシクロヘキサン−1,4−ジメタノール等が挙げられる。
更に、前記P’で表される芳香族炭化水素を含む芳香族ジオール化合物としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシン、クロロヒドロキノン、ブロモヒドロキノン、メチルヒドロキノン、フェニルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、フェノキシヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルサルファイド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、1,1−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)エタン、1,4−ジヒドロキシナフタリン、及び2,6−ジヒドロキシナフタリン等が挙げられる。
これらは単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
【0076】
前記ハードセグメントを構成するポリマー(ポリウレタン)の数平均分子量としては、溶融成形性の観点から、300〜1500が好ましい。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの柔軟性及び熱安定性の観点から、500〜20000が好ましく、500〜5000が更に好ましく、特に好ましくは500〜3000である。また、前記ハードセグメント(x)及びソフトセグメント(y)との質量比(x:y)は、成形性の観点から、15:85〜90:10が好ましく、30:70〜90:10が更に好ましい。
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、特開平5−331256に記載の熱可塑性ポリウレタンを用いることができる。
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとして、具体的には、芳香族ジオールと芳香族ジイソシアネートとからなるハードセグメントと、ポリ炭酸エステルからなるソフトセグメントの組合せが好ましく、トリレンジイソシアネート(TDI)/ポリエステル系ポリオール共重合体、TDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、TDI/カプロラクトン系ポリオール共重合体、TDI/ポリカーボネート系ポリオール共重合体、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)/ポリエステル系ポリオール共重合体、MDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI/カプロラクトン系ポリオール共重合体、MDI/ポリカーボネート系ポリオール共重合体、MDI+ヒドロキノン/ポリヘキサメチレンカーボネート共重合体が好ましく、TDI/ポリエステル系ポリオール共重合体、TDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI/ポリエステルポリオール共重合体、MDI/ポリエーテル系ポリオール共重合体、MDI+ヒドロキノン/ポリヘキサメチレンカーボネート共重合体が更に好ましい。
【0077】
また、前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、市販品のBASF社製の「エラストラン」シリーズ(例えば、ET680、ET880、ET690、ET890等)、(株)クラレ社製「クラミロンU」シリーズ(例えば、2000番台、3000番台、8000番台、9000番台)、日本ミラクトラン(株)製の「ミラクトラン」シリーズ(例えば、XN−2001、XN−2004、P390RSUP、P480RSUI、P26MRNAT、E490、E590、P890)等を用いることができる。
【0078】
上述の熱可塑性エラストマーは、前記ハードセグメントを形成するポリマー及びソフトセグメントを形成するポリマーを公知の方法によって共重合することで合成することができる。
【0079】
次に、エラストマーでない各種熱可塑性樹脂について説明する。
【0080】
(エラストマーでないポリオレフィン系熱可塑性樹脂)
エラストマーでないポリオレフィン系樹脂は、既述のポリオレフィン系熱可塑性エラストマーよりも弾性率の高いポリオレフィン系樹脂である。
エラストマーでないポリオレフィン系熱可塑性樹脂としては、プロピレン、エチレン等のα−オレフィン、シクロオレフィン等の環状オレフィンの単独重合体、ランダム共重合体、ブロックコポリマー等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン系熱可塑性樹脂、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂、ポリブタジエン系熱可塑性樹脂などが挙げられ、特に、耐熱性、加工性の点から、ポリプロピレン系熱可塑性樹脂が好ましい。
前記のエラストマーでないポリプロピレン系熱可塑性樹脂の具体例としては、プロピレンホモ重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体などが挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1―ペンテン、3―メチル−1―ブテン、1―ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1―オクテン、1―デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数3〜20程度のα−オレフィン等が挙げられる。
【0081】
なお、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂は、分子中の水素原子の一部ないし全部が塩素原子に置き換えられた塩素化ポリオレフィン系樹脂であってもよい。塩素化ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、塩素化ポリエチレン系樹脂が挙げられる。
【0082】
(エラストマーでないポリスチレン系熱可塑性樹脂)
エラストマーでないポリスチレン系熱可塑性樹脂は、既述のポリスチレン系熱可塑性エラストマーよりも弾性率の高いポリスチレン系熱可塑性樹脂である。
前記ポリスチレン系熱可塑性樹脂としては、例えば、公知のラジカル重合法、イオン性重合法で得られるものが好適に使用でき、例えばアニオンリビング重合を持つポリスチレンが挙げられる。また、前記ポリスチレン系熱可塑性樹脂としては、スチレン分子骨格を含む重合体や、スチレンとアクリロニトリルとの共重合体等を挙げることができる。
この中でもアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体及びその水素添加物;アクリロニトリル/スチレン共重合体とポリブタジエンとのブレンド体又はその水素添加物が好ましい。前記ポリスチレン系熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリスチレン(所謂PS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(所謂AS樹脂)、アクリル−スチレン−アクリロニトリル樹脂(所謂ASA樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(所謂ABS樹脂(ブレンド系及び共重合系を含む)、ABS樹脂の水素添加物(所謂AES樹脂)、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体(所謂ACS樹脂)等が挙げられる。
【0083】
AS樹脂は、既述のように、アクリロニトリル/スチレン樹脂であり、スチレンとアクリロニトリルを主成分とする共重合体であるが、αーメチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物、シメタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸nーブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸nーブチル、アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド、Nーメチルマレイミド、Nーエチルマレイミド、Nーフェニルマレイミド、Nーシクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体、ジエン化合物、マレイン酸ジアルキルエステル、アリルアルキルエーテル、不飽和アミノ化合物、ビニルアルキルエーテルなどをさらに共重合してもよい。
【0084】
また、AS樹脂としては、さらに不飽和モノカルボン酸類、不飽和ジカルボン酸類、不飽和酸無水物或いはエポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合若しくは共重合したものが好ましく、不飽和酸無水物或いはエポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合若しくは共重合したものがさらに好ましい。
【0085】
かかるエポキシ基含有ビニル系単量体は、一分子中にラジカル重合可能なビニル基とエポキシ基の両者を共有する化合物であり、具体例としてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジルなどの不飽和有機酸のグリシジルエステル類、アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類及び2−メチルグリシジルメタクリレートなどの前記の誘導体類が挙げられ、なかでもアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルが好ましく使用できる。またこれらは単独ないし2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0086】
また、不飽和酸無水物類は、一分子中にラジカル重合可能なビニル基と酸無水物の両者を共有する化合物であり、具体例としては無水マレイン酸等が好ましく挙げられる。
【0087】
ASA樹脂は、アクリレートモノマー、スチレンモノマー及びアクリロニトリルモノマーからなるものであり、ゴム的性質及び熱可塑性を有する。
【0088】
ABS樹脂としては、例えば、アクリロニトリル−スチレン系樹脂にオレフィン系ゴム(例えば、ポリブタジエンゴム)を40質量%以下程度にグラフト重合した樹脂が挙げられる。また、AES樹脂としては、例えば、アクリロニトリル−スチレン系樹脂にエチレン−プロピレン共重合体ゴム(例えば、EPゴム)を40質量%以下程度グラフト重合した樹脂が挙げられる。
【0089】
(エラストマーでないポリアミド系熱可塑性樹脂)
エラストマーでないポリアミド系樹脂は、既述のポリアミド系熱可塑性エラストマーよりも弾性率の高いポリアミド系樹脂である。
ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、既述のポリアミド系熱可塑性エラストマーのハードセグメントを構成するポリアミドを挙げることができる。前記ポリアミド系熱可塑性樹脂としては、例えば、ε-カプロラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド6)、ウンデカンラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド11)、ラウリルラクタムを開環重縮合したポリアミド(アミド12)、ジアミンと二塩基酸とを重縮合ポリアミド(アミド66)又はメタキシレンジアミンを構成単位として有するポリアミド(アミドMX)等を挙げることができる。
【0090】
前記アミド6は、例えば、{CO−(CH
2)
5−NH}
n(nは繰り返し単位数を表す)で表すことができる。
前記アミド11は、例えば、{CO−(CH
2)
10−NH}
n(nは繰り返し単位数を表す)で表すことができる。
前記アミド12は、例えば、{CO−(CH
2)
11−NH}
n(nは繰り返し単位数を表す)で表すことができる。
前記アミド66は、例えば、{CO(CH
2)
4CONH(CH
2)
6NH}
n(nは繰り返し単位数を表す)で表すことができる。
【0091】
また、メタキシレンジアミンを構成単位として有するアミドMXは、例えば、下記構成単位(A−1)〔(A−1)中、nは繰り返し単位数を表す〕で表わすことができる。
【0093】
前記ポリアミド系熱可塑性樹脂は、前記構成単位のみで構成されるホモポリマーであってもよく、前記構成単位(A−1)と他のモノマーとのコポリマーであってもよい。コポリマーの場合、各ポリアミド系熱可塑性樹脂において、前記構成単位(A−1)の含有率が60質量%以上であることが好ましい。
【0094】
ポリアミド系熱可塑性樹脂の数平均分子量としては、300〜30000が好ましい。また、前記ソフトセグメントを構成するポリマーの数平均分子量としては、強靱性及び低温柔軟性の観点から、200〜20000が好ましい。
【0095】
エラストマーでないポリアミド系樹脂は、市販の製品を用いてもよい。
前記アミド6としては、例えば、市販品の宇部興産社製「UBEナイロン」1022B、1011FB等を用いることができる。
前記アミド12としては、宇部興産社製「UBEナイロン」、例えば、3024U等を用いることができる。前記アミド66としては、「UBEナイロン 2020B」等を用いることができる。また、前記アミドMXとしては、例えば、市販品の三菱ガス化学社製のMXナイロン(S6001、S6021,S6011)等を用いることができる。
【0096】
(エラストマーでないポリエステル系熱可塑性樹脂)
エラストマーでないポリエステル系樹脂は、既述のポリエステル系熱可塑性エラストマーよりも弾性率が高く、主鎖にエステル結合を有する樹脂である。
ポリエステル系熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、既述のポリエステル系熱可塑性エラストマーにおけるハードセグメントが含むポリエステル系熱可塑性樹脂と同種の樹脂であることが好ましい。また、エラストマーでないポリエステル系樹脂は、結晶性でも非晶性でもよく、脂肪族系ポリエステル、芳香族ポリエステル等が挙げられる。脂肪族系ポリエステルは、飽和脂肪族系ポリエステルであっても、不飽和脂肪族系ポリエステルであってもよい。
【0097】
芳香族ポリエステルは、通常、結晶性であり、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールとから形成することができる。
芳香族ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0098】
芳香族ポリエステルの一つとしては、テレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレートが挙げられ、更に、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、或いはこれらのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分と、分子量300以下のジオール〔例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4'−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4'−ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオール〕などから誘導されるポリエステル、或いはこれらのジカルボン酸成分及びジオール成分を2種以上併用した共重合ポリエステルであってもよい。また、3官能以上の多官能カルボン酸成分、多官能オキシ酸成分及び多官能ヒドロキシ成分などを5モル%以下の範囲で共重合することも可能である。
【0099】
前記のようなエラストマーでないポリエステル系熱可塑性樹脂としては、市販品を用いることもでき、例えば、ポリプラスチック(株)製の「ジュラネックス」シリーズ(例えば、2000、2002等)、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製のノバデュランシリーズ(例えば、5010R5、5010R3−2等)、東レ(株)製の「トレコン」シリーズ(例えば、1401X06、1401X31等)が挙げられる。
【0100】
脂肪族ポリエステルとしては、ジカルボン酸/ジオール縮合系、及びヒドロキシカルボン酸縮合系の何れも用いられる。例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ−3−ブチル酪酸、ポリヒドロキシ−3−ヘキシル酪酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。なお、ポリ乳酸は、生分解性プラスチックとして代表的な樹脂であり、ポリ乳酸の好ましい態様は後述する。
【0101】
(動的架橋型熱可塑性エラストマー)
また、樹脂材料として、動的架橋型熱可塑性エラストマーを用いてもよい。
動的架橋型熱可塑性エラストマーとは、溶融状態にある熱可塑性樹脂にゴムを混入し、架橋剤を加えて混練り条件下、ゴム成分の架橋反応を行い作製した熱可塑性エラストマーである。
以下、動的架橋型熱可塑性エラストマーを、単に「TPV」(ThermoPlastic Vulcanizates elastomer)と称することもある。
【0102】
TPVの製造に用い得る熱可塑性樹脂としては、既述の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)が挙げられる。
TPVの製造に用い得るゴム成分としては、ジエン系ゴム及びその水添物(例えば、NR,IR、エポキシ化天然ゴム、SBR,BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR)、オレフィン系ゴム(例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM,EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、IIR、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー)、含ハロゲンゴム(例えば、Br−IIR,Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)、シリコーンゴム(例えば、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えば、ポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えば、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)等が用いられ、特に、変性ポリイソブチレン系ゴムとしての、ハロゲン基を導入したイソブチレン−イソプレン共重合ゴム、及び/又はハロゲン基を導入したイソブチレン−パラメチルスチレン共重合ゴムのようなイソモノオレフィンとp−アルキルスチレンのハロゲン含有共重合ゴムが有効に用いられる。後者には、エクソン社製の“Exxpro”が好適に用いられる。
【0103】
前記樹脂材料には、所望に応じて、ゴム、各種充填剤(例えば、シリカ、炭酸カルシウム、クレイ)、老化防止剤、オイル、可塑剤、着色剤、耐候剤、補強材等の各種添加剤を含有させてもよい。前記添加剤の樹脂材料(タイヤ骨格体)中の含有量は特に限定はなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜用いることができる。前記樹脂材料に添加剤など樹脂以外の成分を加える場合、前記樹脂材料中の樹脂成分の含有量は、樹脂材料の総量に対して、50質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましい。尚、樹脂材料中の樹脂成分の含有量は、前記樹脂成分の総量から各種添加剤の総含有量を差し引いた残部となる。
【0104】
(樹脂材料の物性)
次に、タイヤ骨格を構成する樹脂材料の好ましい物性について説明する。
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体の融点(又は軟化点)としては、通常100℃〜350℃、好ましくは100℃〜250℃程度であるが、タイヤの生産性の観点から120℃℃〜250℃程度が好ましく、120℃〜200℃が更に好ましい。
このように、融点が120℃〜250℃の樹脂材料を用いることで、例えばタイヤの骨格体を、その分割体(骨格片)を融着して形成する場合に、120℃〜250℃の周辺温度範囲で融着された骨格体であってもタイヤ骨格片同士の接着強度が十分である。このため、本発明のタイヤは耐パンク性や耐摩耗性など走行時における耐久性に優れる。尚、前記加熱温度は、タイヤ骨格片を形成する樹脂材料の融点(又は軟化点)よりも10℃〜150℃高い温度が好ましく、10℃〜100℃高い温度が更に好ましい。
【0105】
前記樹脂材料は、必要に応じて各種添加剤を添加して、公知の方法(例えば、溶融混合)で適宜混合することにより得ることができる。
溶融混合して得られた樹脂材料は、必要に応じてペレット状にして用いることができる。
【0106】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張弾性率としては、100MPa〜1000MPaが好ましく、100MPa〜800MPaがさらに好ましく、100MPa〜700MPaが特に好ましい。樹脂材料の引張弾性率が、100MPa〜700MPaであると、タイヤ骨格の形状を保持しつつリム組みを効率的におこなうことができる。
【0107】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張降伏強さは、5MPa以上が好ましく、5MPa〜20MPaが好ましく、5MPa〜17MPaがさらに好ましい。樹脂材料の引張降伏強さが、5MPa以上であると、走行時などにタイヤにかかる荷重に対する変形に耐えることができる。
【0108】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張降伏伸びは、10%以上が好ましく、10%〜70%が好ましく、15%〜60%がさらに好ましい。樹脂材料の引張降伏伸びが、10%以上であると、弾性領域が大きく、リム組み性をよくすることができる。
【0109】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のJIS K7113:1995に規定される引張破断伸びとしては、50%以上が好ましく、100%以上が好ましく、150%以上がさらに好ましく、200%以上が特に好ましい。樹脂材料の引張破断伸びが、50%以上であると、リム組み性がよく、衝突に対して破壊しにくくすることができる。
【0110】
前記樹脂材料(タイヤ骨格体)自体のISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)としては、50℃以上が好ましく、50℃〜150℃が好ましく、50℃〜130℃がさらに好ましい。樹脂材料の荷重たわみ温度が、50℃以上であると、タイヤの製造において加硫を行う場合であってもタイヤ骨格体の変形を抑制することができる。
【0111】
[第1の実施形態]
以下に、図面に従って本発明のタイヤの第1の実施形態に係るタイヤを説明する。
本実施形態のタイヤ10について説明する。
図1Aは、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部の断面を示す斜視図である。
図1Bは、リムに装着したビード部の断面図である。
図1に示すように、本実施形態のタイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。
【0112】
図1Aに示すように、タイヤ10は、
図1Bに示すリム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する1対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14と、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16(外周部)と、からなるタイヤケース17を備えている。
【0113】
ここで、本実施形態のタイヤケース17は、樹脂材料として、ポリエステル系熱可塑性樹脂(例えば、東レ・デュポン社製「ハイトレル4767」)を単一で含む樹脂材料を用いて構成されている。この際、タイヤケース17(樹脂材料)の損失係数(tanδ)のピーク温度は一つであり、約−41℃である。
【0114】
本実施形態においてタイヤケース17は、単一の樹脂材料(ポリエステル系熱可塑性樹脂)で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(サイド部14、クラウン部16、ビード部12など)に異なる特徴を有する熱可塑性樹脂材料を用いてもよい。また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
【0115】
本実施形態のタイヤケース17は、樹脂材料で形成された一対のタイヤケース半体(タイヤ骨格片)17A同士を接合させたものである。タイヤケース半体17Aは、一つのビード部12と一つのサイド部14と半幅のクラウン部16とを一体として射出成形等で成形された同一形状の円環状のタイヤケース半体17Aを互いに向かい合わせてタイヤ赤道面部分で接合することで形成されている。なお、タイヤケース17は、2つの部材を接合して形成するものに限らず、3以上の部材を接合して形成してもよい。
【0116】
前記樹脂材料で形成されるタイヤケース半体17Aは、例えば、真空成形、圧空成形、インジェクション成形、メルトキャスティング等で成形することができる。このため、従来のようにゴムでタイヤケースを成形する場合に比較して、加硫を行う必要がなく、製造工程を大幅に簡略化でき、成形時間を省略することができる。
また、本実施形態では、タイヤケース半体17Aは左右対称形状、即ち、一方のタイヤケース半体17Aと他方のタイヤケース半体17Aとが同一形状とされているので、タイヤケース半体17Aを成形する金型が1種類で済むメリットもある。
【0117】
本実施形態において、
図1Bに示すようにビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、スチールコードからなる円環状のビードコア18が埋設されている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略することもできる。なお、スチールコード以外に、有機繊維コード、樹脂被覆した有機繊維コード、又は硬質樹脂などで形成されていてもよい。
【0118】
本実施形態では、ビード部12のリム20と接触する部分や、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分に、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料、例えば、ゴムからなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はタイヤケース17(ビード部12)とビードシート21とが接触する部分にも形成されていてもよい。タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性に優れた材料としては、タイヤケース17を構成する樹脂材料に比して軟質な材料を用いることができる。シール層24に用いることのできるゴムとしては、従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料のみでリム20との間のシール性が確保できれば、ゴムのシール層24は省略してもよく、前記樹脂材料よりもシール性に優れる他の熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマー)を用いてもよい。このような他の熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系熱可塑性樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂やこれら樹脂とゴム若しくはエラストマーとのブレンド物等が挙げられる。また、熱可塑性エラストマーを用いることもでき、例えば、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、或いは、これらエラストマー同士の組み合わせや、ゴムとのブレンド物等が挙げられる。
【0119】
図1Aに示すように、クラウン部16には、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26がタイヤケース17の周方向に巻回されている。補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、補強コード層28を形成している。補強コード層28のタイヤ径方向外周側には、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が配置されている。
【0120】
図2を用いて補強コード26によって形成される補強コード層28について説明する。
図2は、第1実施形態のタイヤのタイヤケースのクラウン部に補強コードが埋設された状態を示すタイヤ回転軸に沿った断面図である。
図2に示されるように、補強コード26は、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視で、少なくとも一部がクラウン部16に埋設された状態で螺旋状に巻回されており、タイヤケース17の外周部の一部と共に
図2において破線部で示される補強コード層28を形成している。補強コード26のクラウン部16に埋設された部分は、クラウン部16(タイヤケース17)を構成する樹脂材料と密着した状態となっている。補強コード26としては、金属繊維や有機繊維等のモノフィラメント(単線)、又は、スチール繊維を撚ったスチールコードなどこれら繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いることができる。なお、本実施形態において補強コード26としては、スチールコードが用いられている。
【0121】
また、
図2において埋設量Lは、タイヤケース17(クラウン部16)に対する補強コード26のタイヤ回転軸方向への埋設量を示す。補強コード26のクラウン部16に対する埋設量Lは、補強コード26の直径Dの1/5以上であれば好ましく、1/2を超えることがさらに好ましい。そして、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されることが最も好ましい。補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/2を超えると、補強コード26の寸法上、埋設部から飛び出し難くなる。また、補強コード26全体がクラウン部16に埋設されると、表面(外周面)がフラットになり、補強コード26が埋設されたクラウン部16上に部材が載置されても補強コード周辺部に空気が入るのを抑制することができる。なお、補強コード層28は、従来のゴム製の空気入りタイヤのカーカスの外周面に配置されるベルトに相当するものである。
【0122】
上述のように補強コード層28のタイヤ径方向外周側にはトレッド30が配置されている。このトレッド30に用いるゴムは、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターンが形成されている。
以下、本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
【0123】
(タイヤケース成形工程)
まず、薄い金属の支持リングに支持されたタイヤケース半体同士を互いに向かい合わせる。次いで、タイヤケース半体の突き当て部分の外周面と接するように図を省略する接合金型を設置する。ここで、前記接合金型はタイヤケース半体Aの接合部(突き当て部分)周辺を所定の圧力で押圧するように構成されている。次いで、タイヤケース半体の接合部周辺を、タイヤケースを構成する樹脂材料の融点(又は軟化点)以上で押圧する。タイヤケース半体の接合部が接合金型によって加熱・加圧されると、前記接合部が溶融しタイヤケース半体同士が融着しこれら部材が一体となってタイヤケース17が形成される。尚、本実施形態においては接合金型を用いてタイヤケース半体の接合部を加熱したが、本発明はこれに限定されず、例えば、別に設けた高周波加熱機等によって前記接合部を加熱したり、予め熱風、赤外線の照射等によって軟化又は溶融させ、接合金型によって加圧して。タイヤケース半体を接合させてもよい。
【0124】
(補強コード部材巻回工程)
次に、補強コード巻回工程について
図3を用いて説明する。
図3は、コード加熱装置、及びローラ類を用いてタイヤケースのクラウン部に補強コードを埋設する動作を説明するための説明図である。
図3において、コード供給装置56は、補強コード26を巻き付けたリール58と、リール58のコード搬送方向下流側に配置されたコード加熱装置59と、補強コード26の搬送方向下流側に配置された第1のローラ60と、第1のローラ60をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第1のシリンダ装置62と、第1のローラ60の補強コード26の搬送方向下流側に配置される第2のローラ64と、及び第2のローラ64をタイヤ外周面に対して接離する方向に移動する第2のシリンダ装置66と、を備えている。第2のローラ64は、金属製の冷却用ローラとして利用することができる。また、本実施形態において、第1のローラ60又は第2のローラ64の表面は、溶融又は軟化した樹脂材料の付着を抑制するためにフッ素樹脂(本実施形態では、テフロン(登録商標))でコーティングされている。なお、本実施形態では、コード供給装置56は、第1のローラ60又は第2のローラ64の2つのローラを有する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、何れか一方のローラのみ(即ち、ローラ1個)を有している構成でもよい。
【0125】
また、コード加熱装置59は、熱風を生じさせるヒーター70及びファン72を備えている。また、コード加熱装置59は、内部に熱風が供給される、内部空間を補強コード26が通過する加熱ボックス74と、加熱された補強コード26を排出する排出口76とを備えている。
【0126】
本工程においては、まず、コード加熱装置59のヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。次に、リール58から巻き出した補強コード26を、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、補強コード26の温度を100〜200℃程度に加熱)する。加熱された補強コード26は、排出口76を通り、
図3の矢印R方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻きつけられる。ここで、加熱された補強コード26がクラウン部16の外周面に接触すると、接触部分の樹脂材料が溶融又は軟化し、加熱された補強コード26の少なくとも一部がクラウン部16の外周面に埋設される。このとき、溶融又は軟化した樹脂材料に加熱された補強コード26が埋設されるため、樹脂材料と補強コード26とが隙間がない状態、つまり密着した状態となる。これにより、補強コード26を埋設した部分へのエア入りが抑制される。なお、補強コード26をタイヤケース17の樹脂材料の融点(又は軟化点)よりも高温に加熱することで、補強コード26が接触した部分の樹脂材料の溶融又は軟化が促進される。このようにすることで、クラウン部16の外周面に補強コード26を埋設しやすくなると共に、効果的にエア入りを抑制することができる。
【0127】
また、補強コード26の埋設量Lは、補強コード26の加熱温度、補強コード26に作用させるテンション、及び第1のローラ60による押圧力等によって調整することができる。そして、本実施形態では、補強コード26の埋設量Lが、補強コード26の直径Dの1/5以上となるように設定されている。なお、補強コード26の埋設量Lとしては、直径Dの1/2を超えることがさらに好ましく、補強コード26全体が埋設されることが最も好ましい。
【0128】
このようにして、加熱した補強コード26をクラウン部16の外周面に埋設しながら巻き付けることで、タイヤケース17のクラウン部16の外周側に補強コード層28が形成される。
【0129】
次に、タイヤケース17の外周面に加硫済みの帯状のトレッド30を1周分巻き付けてタイヤケース17の外周面にトレッド30を、接着剤などを用いて接着する。なお、トレッド30は、例えば、従来知られている更生タイヤに用いられるプレキュアトレッドを用いることができる。本工程は、更生タイヤの台タイヤの外周面にプレキュアトレッドを接着する工程と同様の工程である。
【0130】
そして、タイヤケース17のビード部12に、加硫済みのゴムからなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ10の完成となる。
【0131】
(作用)
本実施形態のタイヤ10では、タイヤケース17が、損失係数(tanδ)のピーク温度が−41℃であるポリエステル系熱可塑性樹脂を含む樹脂材料によって形成されているため、低温時に脆化することがなく、低温時において優れた耐衝撃性を発揮できる。また、タイヤ10は、衝撃時におけるタイヤ10表面への白化の発生を抑制することができる。また、タイヤ10は従来のゴム製のタイヤに比して構造が簡易であるため重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ10は、耐摩擦性及び耐久性が高い。
【0132】
また、本実施形態のタイヤ10では、樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に前記樹脂材料よりも剛性が高い補強コード26が周方向へ螺旋状に巻回されていることから耐パンク性、耐カット性、及びタイヤ10の周方向剛性が向上する。なお、タイヤ10の周方向剛性が向上することで、樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクリープが防止される。
【0133】
また、タイヤケース17の軸方向に沿った断面視(
図1に示される断面)で、樹脂材料で形成されたタイヤケース17のクラウン部16の外周面に補強コード26の少なくとも一部が埋設され且つ樹脂材料に密着していることから、製造時のエア入りが抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのが抑制される。これにより、補強コード26、タイヤケース17、及びトレッド30に剥離などが生じるのが抑制され、タイヤ10の耐久性が向上する。
【0134】
このように補強コード層28が、樹脂材料を含んで構成されていると、補強コード26をクッションゴムで固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に補強コード26をタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、補強コード26がスチールコードの場合に、タイヤ処分時に補強コード26を加熱によって樹脂材料から容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ10のリサイクル性の点で有利である。また、樹脂材料は加硫ゴムに比して損失係数(tanδ)が低いため、補強コード層28が樹脂材料を多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。更には、樹脂材料は加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
【0135】
そして、
図2に示すように、補強コード26の埋設量Lが直径Dの1/5以上となっていることから、製造時のエア入りが効果的に抑制されており、走行時の入力などによって補強コード26が動くのがさらに抑制される。
【0136】
また、路面と接触するトレッド30を、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりも耐摩耗性のあるゴム材で構成していることから、タイヤ10の耐摩耗性が向上する。
さらに、ビード部12には、金属材料からなる環状のビードコア18が埋設されていることから、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、リム20に対してタイヤケース17、すなわちタイヤ10が強固に保持される。
【0137】
またさらに、ビード部12のリム20と接触する部分に、タイヤケース17を構成する樹脂材料よりもシール性のあるゴム材からなるシール層24が設けられていることから、タイヤ10とリム20との間のシール性が向上する。このため、リム20とタイヤケース17を構成する樹脂材料のみとでシールする場合と比較して、タイヤ内の空気漏れがより一層抑制される。また、シール層24を設けることでリムフィット性も向上する。
【0138】
上述の実施形態では、補強コード26を加熱し、加熱した補強コード26が接触する部分のタイヤケース17の表面を溶融又は軟化させる構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を加熱せずに熱風生成装置を用い、補強コード26が埋設されるクラウン部16の外周面を加熱した後、補強コード26をクラウン部16に埋設するようにしてもよい。
【0139】
また、第1実施形態では、コード加熱装置59の熱源をヒーター及びファンとしているが、本発明はこの構成に限定されず、補強コード26を輻射熱(例えば、赤外線など)で直接加熱する構成としてもよい。
【0140】
さらに、第1実施形態では、補強コード26を埋設した樹脂材料が溶融又は軟化した部分を金属製の第2のローラ64で強制的に冷却する構成としたが、本発明はこの構成に限定されず、樹脂材料が溶融又は軟化した部分に冷風を直接吹きかけて、樹脂材料の溶融又は軟化した部分を強制的に冷却固化する構成としてもよい。
【0141】
また、第1実施形態では、補強コード26を加熱する構成としたが、例えば、補強コード26の外周をタイヤケース17と同じ樹脂材料で被覆する構成としてもよく、この場合には、被覆補強コードをタイヤケース17のクラウン部16に巻き付ける際に、補強コード26と共に被覆した樹脂材料も加熱することで、クラウン部16への埋設時におけるエア入りを効果的に抑制することができる。
【0142】
また、補強コード26は螺旋巻きするのが製造上は容易だが、幅方向で補強コード26を不連続とする方法等も考えられる。
【0143】
第1実施形態のタイヤ10は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ10とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、完全なチューブ形状であってもよい。
【0144】
[第2の実施形態]
次に、図面に従って本発明のタイヤの製造方法及びタイヤの第2実施形態について説明する。本実施形態のタイヤは、上述の第1実施形態と同様に、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。このため、以下の図において、前記第1実施形態と同様の構成については同様の番号が付される。
図4Aは、第2実施形態のタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図であり、
図4Bは第2実施形態のタイヤにリムを嵌合させた状態のビード部のタイヤ幅方向に沿った断面の拡大図である。また、
図5は、第2実施形態のタイヤの補強層の周囲を示すタイヤ幅方向に沿った断面図である。
【0145】
第2実施形態のタイヤは、上述の第1実施形態と同様に、タイヤケース17が、ポリアミド系熱可塑性樹脂(例えば、宇部興産者製、UBESTA XPA9040X1を含む樹脂材料を用いて構成されている。この際、タイヤケース17(樹脂材料)の損失係数(tanδ)のピーク温度は一つであり、約−41℃である。
【0146】
本実施形態においてタイヤ200は、
図4及び
図5に示すように、クラウン部16に、被覆コード部材26Bが周方向に巻回されて構成された補強コード層28(
図5では破線で示されている)が積層されている。この補強コード層28は、タイヤケース17の外周部を構成し、クラウン部16の周方向剛性を補強している。なお、補強コード層28の外周面は、タイヤケース17の外周面17Sに含まれる。
【0147】
この被覆コード部材26Bは、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも剛性が高いコード部材26Aにタイヤケース17を形成する樹脂材料とは別体の被覆用樹脂材料27を被覆して形成されている。また、被覆コード部材26Bはクラウン部16との接触部分において、被覆コード部材26Bとクラウン部16とが接合(例えば、溶接、又は接着剤で接着)されている。
【0148】
また、被覆用樹脂材料27の引張弾性率は、タイヤケース17を形成する樹脂材料の引張弾性率の0.1倍から20倍の範囲内に設定することが好ましい。被覆用樹脂材料27の引張弾性率がタイヤケース17を形成する樹脂材料の引張弾性率の20倍以下の場合は、クラウン部が硬くなり過ぎずリム組み性が容易になる。また、被覆用樹脂材料27の引張弾性率がタイヤケース17を形成する樹脂材料の引張弾性率の0.1倍以上の場合には、補強コード層28を構成する樹脂が柔らかすぎず、ベルト面内せん断剛性に優れコーナリング力が向上する。なお、本実施形態では、被覆用樹脂材料27としてタイヤ骨格体を形成する樹脂材料と同様の材料が用いられている。
【0149】
また、
図5に示すように、被覆コード部材26Bは、断面形状が略台形状とされている。なお、以下では、被覆コード部材26Bの上面(タイヤ径方向外側の面)を符号26Uで示し、下面(タイヤ径方向内側の面)を符号26Dで示す。また、本実施形態では、被覆コード部材26Bの断面形状を略台形状とする構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、断面形状が下面26D側(タイヤ径方向内側)から上面26U側(タイヤ径方向外側)へ向かって幅広となる形状を除いた形状であれば、いずれの形状でもよい。
【0150】
図5に示すように、被覆コード部材26Bは、周方向に間隔をあけて配置されていることから、隣接する被覆コード部材26Bの間に隙間28Aが形成されている。このため、補強コード層28の外周面は、凹凸とされ、この補強コード層28が外周部を構成するタイヤケース17の外周面17Sも凹凸となっている。
【0151】
タイヤケース17の外周面17S(凹凸含む)には、微細な粗化凹凸が均一に形成され、その上に接合剤を介して、クッションゴム29が接合されている。このクッションゴム29は、径方向内側のゴム部分が粗化凹凸に流れ込んでいる。
【0152】
また、クッションゴム29の上(外周面)にはタイヤケース17を形成している樹脂材料よりも耐摩耗性に優れた材料、例えばゴムからなるトレッド30が接合されている。
【0153】
なお、トレッド30に用いるゴム(トレッドゴム30A)は、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターン(図示省略)が形成されている。
次に本実施形態のタイヤの製造方法について説明する。
【0154】
(タイヤケース成形工程)
まず、上述の第1実施形態と同様にして、タイヤケース半体17Aを形成し、これを接合金型によって加熱・押圧し、タイヤケース17を形成する。
【0155】
(補強コード部材巻回工程)
本実施形態におけるタイヤの製造装置は、上述の第1実施形態と同様であり、上述の第1実施形態の
図3に示すコード供給装置56において、リール58にコード部材26Aを被覆用樹脂材料27(本実施形態ではタイヤケースと同じ樹脂材料)で被覆した断面形状が略台形状の被覆コード部材26Bを巻き付けたものが用いられる。
【0156】
まず、ヒーター70の温度を上昇させ、ヒーター70で加熱された周囲の空気をファン72の回転によって生じる風で加熱ボックス74へ送る。リール58から巻き出した被覆コード部材26Bを、熱風で内部空間が加熱された加熱ボックス74内へ送り加熱(例えば、被覆コード部材26Bの外周面の温度を、被覆用樹脂材料27の融点(又は軟化点)以上)とする。ここで、被覆コード部材26Bが加熱されることにより、被覆用樹脂材料27が溶融又は軟化した状態となる。
【0157】
そして被覆コード部材26Bは、排出口76を通り、紙面手前方向に回転するタイヤケース17のクラウン部16の外周面に一定のテンションをもって螺旋状に巻回される。このとき、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bの下面26Dが接触する。そして、接触した部分の溶融又は軟化状態の被覆用樹脂材料27はクラウン部16の外周面上に広がり、クラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bが溶着される。これにより、クラウン部16と被覆コード部材26Bとの接合強度が向上する。
【0158】
(粗化処理工程)
次に、図示を省略するブラスト装置にて、タイヤケース17の外周面17Sに向け、タイヤケース17側を回転させながら、外周面17Sへ投射材を高速度で射出する。射出された投射材は、外周面17Sに衝突し、この外周面17Sに算術平均粗さRaが0.05mm以上となる微細な粗化凹凸96を形成する。
このようにして、タイヤケース17の外周面17Sに微細な粗化凹凸96が形成されることで、外周面17Sが親水性となり、後述する接合剤の濡れ性が向上する。
【0159】
(積層工程)
次に、粗化処理を行なったタイヤケース17の外周面17Sに接合剤を塗布する。
なお、接合剤としては、トリアジンチオール系接着剤、塩化ゴム系接着剤、フェノール系樹脂接着剤、イソシアネート系接着剤、ハロゲン化ゴム系接着剤、ゴム系接着剤など、特に制限はないが、クッションゴム29が加硫できる温度(90℃〜140℃)で反応することが好ましい。
【0160】
次に、接合剤が塗布された外周面17Sに未加硫状態のクッションゴム29を1周分巻き付け、そのクッションゴム29の上に例えば、ゴムセメント組成物などの接合剤を塗布し、その上に加硫済み又は半加硫状態のトレッドゴム30Aを1周分巻き付けて、生タイヤケース状態とする。
【0161】
(加硫工程)
次に生タイヤケースを加硫缶やモールドに収容して加硫する。このとき、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸96に未加硫のクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸96に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が向上する。
【0162】
そして、タイヤケース17のビード部12に、樹脂材料よりも軟質である軟質材料からなるシール層24を、接着剤等を用いて接着すれば、タイヤ200の完成となる。
【0163】
(作用)
本実施形態のタイヤ200では、タイヤケース17が、損失係数(tanδ)のピーク温度が−41℃であるポリアミド系熱可塑性樹脂を含む樹脂材料によって形成されているため、低温時に脆化することがなく、低温時において優れた耐衝撃性を発揮できる。また、タイヤ200は、衝撃時におけるタイヤ10表面への白化の発生を抑制することができる。また、タイヤ200は従来のゴム製のタイヤに比して構造が簡易であるため重量が軽い。このため、本実施形態のタイヤ200は、耐摩擦性及び耐久性が高い。
【0164】
本実施形態のタイヤの製造方法では、タイヤケース17とクッションゴム29及びトレッドゴム30Aとを一体化するにあたり、タイヤケース17の外周面17Sが粗化処理されていることから、アンカー効果により接合性(接着性)が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料が投射材の衝突により掘り起こされることから、接合剤の濡れ性が向上する。これにより、タイヤケース17の外周面17Sに接合剤が均一な塗布状態で保持され、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
【0165】
特に、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸が構成されていても、凹部(隙間28A)に投射材を衝突させることで凹部周囲(凹壁、凹底)の粗化処理がなされ、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度を確保することができる。
【0166】
一方、クッションゴム29がタイヤケース17の外周面17Sの粗化処理された領域内に積層されることから、タイヤケース17とクッションゴムとの接合強度を効果的に確保することができる。
【0167】
加硫工程において、クッションゴム29を加硫した場合、粗化処理によってタイヤケース17の外周面17Sに形成された粗化凹凸にクッションゴム29が流れ込む。そして、加硫が完了すると、粗化凹凸に流れ込んだクッションゴム29により、アンカー効果が発揮されて、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が向上する。
【0168】
このような、タイヤの製造方法にて製造されたタイヤ200は、タイヤケース17とクッションゴム29との接合強度が確保される、すなわち、クッションゴム29を介してタイヤケース17とトレッド30との接合強度が確保される。これにより、走行時などにおいて、タイヤ200のタイヤケース17の外周面17Sとクッションゴム29との間の剥離が抑制される。
【0169】
また、タイヤケース17の外周部を補強コード層28が構成していることから、外周部を補強コード層28以外のもので構成しているものと比べて、耐パンク性及び耐カット性が向上する。
【0170】
また、被覆コード部材26Bを巻回して補強コード層28が形成されていることから、タイヤ200の周方向剛性が向上する。周方向剛性が向上することで、タイヤケース17のクリープ(一定の応力下でタイヤケース17の塑性変形が時間とともに増加する現象)が抑制され、且つ、タイヤ径方向内側からの空気圧に対する耐圧性が向上する。
【0171】
更に、補強コード層28が、被覆コード部材26Bを含んで構成されていると、補強コード26Aを単にクッションゴム29で固定する場合と比してタイヤケース17と補強コード層28との硬さの差を小さくできるため、更に被覆コード部材26Bをタイヤケース17に密着・固定することができる。これにより、上述のエア入りを効果的に防止することができ、走行時に補強コード部材が動くのを効果的に抑制することができる。
更に、補強コード26Aがスチールコードの場合に、タイヤ処分時に被覆コード部材26Bからコード部材26Aを加熱によって容易に分離・回収が可能であるため、タイヤ200のリサイクル性の点で有利である。また、樹脂材料は加硫ゴムに比して損失係数(tanδ)が低いため、補強コード層28が樹脂材料を多く含んでいると、タイヤの転がり性を向上させることができる。更には、樹脂材料は加硫ゴムに比して、面内せん断剛性が大きく、タイヤ走行時の操安性や耐摩耗性にも優れるといった利点がある。
【0172】
本実施形態では、タイヤケース17の外周面17Sに凹凸を構成したが、本発明はこれに限らず、外周面17Sを平らに形成する構成としてもよい。
また、タイヤケース17は、タイヤケースのクラウン部に巻回され且つ接合された被覆コード部材を被覆用熱可塑性材料で覆うようにして補強コード層を形成してもよい。この場合、溶融又は軟化状態の被覆用熱可塑性材料を補強コード層28の上に吐出して被覆層を形成することができる。また、押出機を用いずに、溶着シートを加熱し溶融又は軟化状態にして、補強コード層28の表面(外周面)に貼り付けて被覆層を形成してもよい。
【0173】
上述の第2実施形態では、ケース分割体(タイヤケース半体17A)を接合してタイヤケース17を形成する構成としたが、本発明はこの構成に限らず、金型などを用いてタイヤケース17を一体的に形成してもよい。
【0174】
第2実施形態のタイヤ200は、ビード部12をリム20に装着することで、タイヤ200とリム20との間で空気室を形成する、所謂チューブレスタイヤであるが、本発明はこの構成に限定されず、タイヤ200は、例えば、完全なチューブ形状であってもよい。
【0175】
第2実施形態では、タイヤケース17とトレッド30との間にクッションゴム29を配置したが、本発明はこれに限らず、クッションゴム29を配置しない構成としてもよい。
【0176】
また、第2実施形態では、被覆コード部材26Bをクラウン部16へ螺旋状に巻回する構成としたが、本発明はこれに限らず、被覆コード部材26Bが幅方向で不連続となるように巻回する構成としてもよい。
【0177】
第2実施形態では、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、この被覆用樹脂材料27を加熱することにより溶融又は軟化状態にしてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bを溶着する構成としているが、本発明はこの構成に限定されず、被覆用樹脂材料27を加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に被覆コード部材26Bを接着する構成としてもよい。
また、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、被覆コード部材26Bを加熱せずに接着剤などを用いてクラウン部16の外周面に接着する構成としてもよい。
さらに、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱硬化性樹脂とし、タイヤケース17を樹脂材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26Bが配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に溶着してもよい。
またさらに、被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27を熱可塑性材料とし、タイヤケース17を樹脂材料で形成する構成としてもよい。この場合には、被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に接着剤などを用いて接着してもよく、タイヤケース17の被覆コード部材26Bが配設される部位を加熱して溶融又は軟化状態としつつ、被覆用樹脂材料27を加熱し溶融又は軟化状態にして被覆コード部材26Bをクラウン部16の外周面に溶着してもよい。なお、タイヤケース17及び被覆コード部材26Bの両者を加熱して溶融又は軟化状態にした場合、両者が良く混ざり合うため接合強度が向上する。また、タイヤケース17を形成する樹脂材料、及び被覆コード部材26Bを形成する被覆用樹脂材料27をともに樹脂材料とする場合には、同種の熱可塑性材料、特に同一の熱可塑性材料とすることが好ましい。
また、さらに粗化処理を行ったタイヤケース17の外周面17Sにコロナ処理やプラズマ処理等を用い、外周面17Sの表面を活性化し、親水性を高めた後に接着剤を塗布してもよい。
【0178】
またさらに、タイヤ200を製造するための順序は、第2実施形態の順序に限らず、適宜変更してもよい。
【0179】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0180】
以下、本発明について実施例を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0181】
(ペレットの作製)
下記表に示す単一又は複数の樹脂材料を東洋精機製作所「LABOPLASTOMILL 50MR」2軸押出し機により樹脂材料を混練(混合温度180〜200℃)し、ペレットを得た。
【0182】
[損失係数(tanδ)のピーク温度の測定]
作製したペレットを用いて、射出成形機(住友重工社製、SE30D)を用い、射出成形を行い、成形温度180℃〜260℃、金型温度50℃〜70℃とし、30mm×130mm、厚さ2.0mmのサンプルを得た。
各サンプルを打ち抜き、JISK6251:1993に規定されるダンベル状試料片(5号形試料片)を作製した。
【0183】
次いで、測定温度範囲:−100℃〜150℃、昇温速度:6℃/min、周波数:20Hz、歪:1%の条件に従って、前記各ダンベル状試料片のtanδを測定し、タイヤ骨格体に用いられる樹脂材料のtanδのピーク温度を求め、更に上述の式(X)からΔtanδを算出した。結果を下記表に示す。
【0184】
[低温時における耐衝撃性及び白化評価]
前記ペレットを用いて、射出成形機(住友重工社製、SE30D)を用い、射出成形を行い、10mm×100mm、厚さ4mmの金型を用いて、試験片(ノッチなし)を作製した。
【0185】
低温時の耐衝撃性の評価は、シャルピー衝撃試験に準じて行った。
【0186】
前記試験片を、表面温度が−40℃になるまで冷却し、シャルピー衝撃試験機(安田精機社製、製品名:141型)を用いて衝撃試験を行った。測定条件は以下の通りである。
【0187】
〔測定条件〕
公称振り子エネルギー(ひょう量);25J、ハンマー持上げ角度;150°とし、測定方法はJIS K7111−1に準拠した。
【0188】
衝撃試験を行った試験片を目視によって観察し、試験片の変形の程度、及び、試験片表面の白化の発生具合を下記の基準に従って判断し、試験片の低温時における耐衝撃性及び白化の発生具合を評価した。当該試験片を用いた結果に基づいて、同樹脂材料を用いたタイヤ骨格体の低温時における耐衝撃性及び白化の評価の指標とした。結果を下記表に示す。
【0189】
−耐衝撃性(変形の程度)−
A:試験片の変形は認められない、又は、試験片の変形が微少であった。
B:試験片の破壊された箇所は認められないが、変形が認められた。
C:試験片に破壊寸前の箇所が認められ、大きな変形が認められた。
D:試験片が完全に破壊された。
【0190】
−白化−
A:試験片表面に白化した箇所は認められなかった。
B:試験片表面に微少な白化が認められた。
C:試験片表面に大きな白化が認められた。
【0191】
【表1】
【0192】
【表2】
【0193】
表中の成分は、次のとおりである。
・PE1:ポリエステル系熱可塑性エラストマー
(東レ・デュポン社製「ハイトレル4767」)
・PE2:ポリエステル系熱可塑性エラストマー
(東レ・デュポン社製「ハイトレル5557」)
・PE3:ポリエステル系熱可塑性エラストマー
(東レ・デュポン社製「ハイトレル7247」)
【0194】
・PA1:ポリアミド系熱可塑性エラストマー
(宇部興産社製「UBESTA XPA9040X1」)
・PA2:ポリアミド系熱可塑性エラストマー
(宇部興産社製「UBESTA XPA9048X1」)
・PA3:ポリアミド系熱可塑性エラストマー
(宇部興産社製「UBESTA XPA9055X1」)
・PA4:ポリアミド系熱可塑性エラストマー
(宇部興産社製「UBESTA XPA9063X1」)
・PTMG:ポリテトラメチレンエーテルグリコール系樹脂
(和光製薬工業製「ポリテトラメチレンオキシド1400」)
【0195】
・PS:ポリスチレン系熱可塑性エラストマー
(旭化成社製「タフテックH1043」)
【0196】
表1から分かるように、損失係数(tanδ)のピーク温度が30℃以下である実施例の樹脂材料は、低温衝撃性に優れており、衝撃後の白化の程度も良好であった。このため、実施例の樹脂材料によって形成されたタイヤ骨格体を用いたタイヤは、低温衝撃性に優れていることが分かった。更に、実施例の樹脂材料を用いたタイヤは、衝撃後の白化も少ないためタイヤ表面の美観に優れることがわかる。また、表1の結果から、損失係数(tanδ)のピーク温度が0℃以下であると更に低温衝撃性が向上しており、前記ピーク温度が−20℃以下であると、低温衝撃性及び白化耐性の両者に優れることがわかる。これに対し、比較例の樹脂材料は、低温衝撃性に劣り、更に、衝撃後の白化の発生も顕著であった。
【0197】
尚、日本特許出願2012−045523の開示は参照により本明細書に取り込まれる。